解雇有効要件

【経営者必見】普通解雇の4つの有効要件

  • 2021年5月5日
  • 2022年5月23日
  • 解雇

普通解雇が有効になるためには、①法律が定める解雇禁止に該当しないこと、②客観的に合理的理由があること③解雇が社会通念上の相当性があること④就業規則及び労働協約の手続を経ていることが必要となります。各要件のポイントについて労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。

解雇には,懲戒解雇と普通解雇がありますところ、普通解雇が民法627条1項に基づく解約の申入れであるのに対し,懲戒解雇は,企業秩序の違反に対する制裁罰として懲戒権の発動により行われるという点で異なります。また、このように懲戒解雇と普通解雇で性質が異なることから、有効要件も異なっています。

本稿では普通解雇の一般的有効要件について説明します。懲戒解雇の有効要件については、下記記事をご参照ください。

懲戒解雇の有効要件については

知っておきたい懲戒処分の有効要件

1 普通解雇の一般的有効要件

会社が普通解雇を有効に行う為には,

解雇の有効要件

  1. 法律が定める解雇禁止に該当しないこと
  2. 客観的に合理的理由があること
  3. 解雇が社会通念上の相当性があること
  4. 就業規則及び労働協約の手続を経ていること

が必要となります。

以下、具体的に見ていきましょう

2 ① 法律が定める解雇禁止に該当しないこと

法律で以下の場合に解雇をすることが禁止されており、これに違反する場合は解雇は当然に無効となります。

そこで、解雇する前にこれに解雇禁止の場合に該当するか否かをチェックする必要があります。

解雇禁止期間

  1. 業務上の傷病による休業期間およびその後の30日間の解雇禁止
  2. 産前産後の女性が労基法65条によって休業する期間およびその後30日間の解雇禁止

解雇理由による解雇禁止

  1. 女性労働者が婚姻したことを理由とする解雇禁止(男女雇用機会均等法9条2項)
  2. 女性労働者が妊娠、出産、労基法65条の産前産後の休業を請求・取得したこと等を理由とした解雇禁止(男女雇用機会均等法9条3項、同法施行規則2条の2)
  3. 性別を理由とする解雇禁止(男女雇用機会均等法6条4号)
  4. 育児・介護休業の申し出をしたこと、育児・介護休業をしたことを理由とする解雇禁止(育児・介護休業法10条、16条)。
  5. 労働者が労基法違反や労働安全衛生法違反の事実を労働基準監督署や労働基準監督官に申告したことを理由とする解雇禁止(労基法104条2項、安衛法97条2項)
  6. 労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、またはあっせんを申請したことことを理由とする解雇禁止(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律4条3項、5条2項)
  7. 労働者(男女を問わない)が性差別の禁止規定をめぐる紛争について都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、調停を申請したことことを理由とする解雇禁止(男女雇用機会均等法17条2項、18条2項)
  8. 労働者が、育児・介護休業法に係る個別労働紛争に関し、都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、又は調停を申請したことを理由とする解雇禁止(育児・介護休業法52条の4第2項、52条の5第2項)
  9. 短時間労働者が短時間労働者に対する差別的取り扱いの禁止の規制をめぐる紛争について都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、調停を申請したことことを理由とする解雇禁止(パートタイム・有期雇用労働法24条2
    項、25条2項)
  10. 労働者が公益通報保護法に基づいて公益通報をしたことを理由とした解雇禁止(公益通報者保護法3条)
  11. 労働者が労働委員会に対し、不当労働行為の救済を申し立てたことなどを理由とする解雇禁止(労働組合法7条4号)
  12. 年次有給休暇取得を理由とする解雇の禁止(労基法136条)
  13. 労働組合の組合員であること、労働組合に加入した、または結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇の禁止(労働組合法7条1号)
  14. 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇の禁止(労基法3条)
  15. 裁判員休暇を取得したこと等を理由とする解雇(裁判員法100条)

法律による解雇禁止については

必ず事前チェック!法律で解雇が禁止される場合

3 ② 客観的に合理的な理由の存在

3.1 解雇権濫用法理とは

解雇は労働者に大きな打撃を与えるので、労働契約法16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。

つまり、解雇が有効となるためには、

  1. 客観的に合理的理由があること
  2. 解雇が社会通念上の相当性があること

が必要であると法律が定めているのです。

この考え方は解雇権濫用法理と呼ばれます。

解雇権濫用法理は、もともとは法律で定められておらず、裁判例で認められてきた解雇制限の考え方でした。しかし、労働基準法(旧18条の2 ) で明文化され、その後平成20年3 月に施行された労働契約法16条に移行されました。

解雇権濫用法理は、解雇について大変厳しい規制であり、実質的には解雇に正当理由が必要であるということと同様の意味をもっています。

実務において解雇が争われる場合、解雇権濫用法理により解雇が濫用になるかどうかが主な争点になる場合が多いので、解雇をする場合には、あらかじめ解雇権濫用法理による解雇制限の問題は必ず検討
する必要があります。

3.2 客観的に合理的な理由とは

客観的に合理的な理由とは、普通解雇を正当化するだけの合理性を有する理由を意味しますが、大きくは以下のとおり3つに類型化されます。

  • タイプA 労務提供の不能・不完全履行や労働能力または適格性の欠如・喪失(債務不履行)
  • タイプB 職場規律(企業秩序)の違反行為
  • タイプC 経営上の必要性に基づく理由(整理解雇)

以下、①~③について、具体的に説明します。

3.3 A 労務提供の不能・不完全履行や労働能力または適格性の欠如・喪失(債務不履行)

労働者にその帰責事由に基づく債務不履行があり,かつ,それが労働契約の継続を期待し難い程度に達している場合を意味します。

具体的には、以下のような解雇事由として具体化されます。

(1) 病気・健康状態の悪化により業務に耐えられない場合

従業員が傷病によって雇用契約で予定された業務をできなくなった場合は,雇用契約上の債務不履行となります。

ただし、客観的に合理的な理由といえるためには、病気・健康状態の悪化によって長期間にわたり会社の業務を行えない場合に限られます。

また、会社に私傷病休職制度がある場合は、そちらの制度の適用をすることが必要となります。

参考記事

病気で休んでいることを理由に解雇できるか?

(2) 職務遂行能力がない場合(能力不足)又は勤務成績不良で就業に適さない場合

労働者は労働契約に基づき、賃金に見合った適正な労働を提供する義務を負っています。

それゆえ、能力不足や勤務成績不良は労働義務の不完全履行とされ、解雇理由となり得ます。

もっとも、客観的に合理的な理由といえるためには、当該労働契約において求められる職務遂行能力の内容・程度を検討した上で、職務達成度が著しく低く職務遂行上の支障または使用者の業務遂行上の支障を発生させるなど、「雇用の継続を期待し難いほど重大な程度」に達していることを要します。

参考記事

能力不足を理由に解雇をする際の注意点

(3) 協調性がなく、他の従業員と円滑に仕事をすることができない

労働者が他の労働者と協調して業務を行わない場合には、他と協調して円滑に労務を提供するという債務を履行していないこと(不完全履行=債務不履行=解雇理由)になり、解雇理由となり得ます。

もっとも、客観的に合理的な理由といえるためには、同僚とのトラブルが絶えず円滑に業務を遂行できなかったり、上司に反抗したり、あるいは唯我独尊的な言動により会社の信用を傷つけた場合で、注意指導にも従わないような場合に限られます。

参考記事

協調性が無いと解雇できる?

(4) 遅刻、早退、無断欠勤が多いなど出勤不良であること(職務懈怠)

欠勤はもとより,就業規則等で定められた始業時間から終業時間までの一部について労務を提供しないことになる遅刻・早退・私用外出は,雇用契約上の義務違反(債務不履行)であり,普通解雇事由となりえます。

もっとも、客観的に合理的な理由といえるためには、欠勤・遅刻・私用外出を頻繁に繰り返し,合理的な理由を述べないばかりか,反省の態度がなく,上司が是正するように注意しても,これを改めないような場合に限られます。

参考記事

勤怠不良で解雇できるか?

3.4 B 職場規律(企業秩序)の違反行為

懲戒事由と普通解雇事由

職場規律(企業秩序)の違反行為とは、職場や職務に関するルール違反(職場規律違反)、例えば、暴行・脅迫,業務妨害行為,業務命令違反,横領・収賄等の不正行為などです。

これらは,労働義務違反または付随義務(企業秩序遵守義務・誠実義務)違反を構成し,懲戒事由に該当するとともに、普通解雇事由にも該当しえます

懲戒解雇は普通解雇以上に有効性の要件が厳格に審査され、紛争リスクが高まります。

そのため、懲戒解雇とした場合の紛争リスクを軽減し、または情状を考慮して、懲戒解雇や諭旨解雇(諭旨退職)ではなく、普通解雇とすることもあります。

就業規則において、懲戒(解雇)事由と、普通解雇事由が別々に規定されている場合に、労働者の非違行為が、懲戒解雇事由にも、普通解雇事由にも該当する場合には、普通解雇とすることは何ら問題ありません。

これに対して、懲戒解雇事由に該当するけれども普通解雇事由に該当事由がない場合には、普通解雇できるか問題となります。

この点、最高裁判例では「懲戒解雇事由に当たる事実がある場合、被告会社においてこれを懲戒解雇とすることなく普通解雇とすることは必ずしも許されないわけではなく、この場合、普通解雇として解雇するには、普通解雇の要件を備えていれば足り、懲戒解雇の要件まで要求されるものではないと解すべきである」(高知放送事件 最二小判昭52 ・1 ・31労判268 ・17) とされました。

上記最高裁の事案は、就業規則の普通解雇事由に包括条項の定められていた事案でしたので、包括条項がない場合について普通解雇をなし得るかは明確になっていません。しかし、下級審裁判例には、これを肯定するものが複数あり(千葉県レクリエーション都市開発事件 千葉地判平3 ・l ・23労判582 .67 、関西トナミ運輸事件 大阪地判平9 ・11 ・14労判742 ・97、群英学園(解雇)事件 東京高判平14 ・4 ・17労判831.65等)、懲戒解雇の該当事由が普通解雇事由とされていない場合であっても普通解雇とすることは可能であると考えられます。

もっとも、このような問題を回避するために、就業規則の普通解雇事由として「第○○条の懲戒事由に該当するとき」等の明確な条項を設けておき、懲戒事由がある場合も
普通解雇事由となることを定めておくことが望ましいです。

痴漢等で逮捕された場合

社員が痴漢等で逮捕された場合であっても必ずしも全ての事案で懲戒解雇・普通解雇をできるわけではありません

例えば,痴漢であっても,迷惑防止条例違反にとどまる場合は比較的軽い刑事処分(罰金など)になる場合が多く,初犯で反省もしており,勤務態度自体は真面目である場合などは,懲戒解雇・普通解雇をすることが無効となる可能性があります。

この場合は,出勤停止や降格などに留まる場合もあります。

これに対して,痴漢であっても強制わいせつ罪に該当する場合は,重い刑事罰が予定されており,懲戒解雇・普通解雇も許容される場合が有ります。

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痴漢で逮捕された社員に対しいかなる懲戒処分ができるか?

社員が逮捕された!10分で分かる会社が知るべき7つの対応

セクハラをした場合

セクハラは,被害従業員に対して身体的又は精神的苦痛を与え,職場における具体的職務遂行能力を阻害し,企業秩序を乱す行為であることから,企業としても加害者に対して厳しい処分を行う必要があり,懲戒処分・普通解雇の対象となり得ます。

懲戒処分の量定を考えるにあたっては,社員のセクハラ行為が①刑法上の強制わいせつ等犯罪行為に該当するレベルなのか,②着衣の上からお尻を触るという民法上の不法行為(損害賠償)が生ずるレベルなのか,③①,②には該当しないが被害者の職務遂行能力や職場環境を阻害するレベルなのか,ということが1つの重要な基準となります。

①の犯罪行為レベルの場合強姦や強制わいせつに該当する犯罪行為を行った従業員に対する懲戒は,懲戒解雇・普通解雇を含む労働契約の解消しかありません。

②の不法行為レベルの場合,着衣の上から胸やでん部を触るといった行為は,初犯の場合には懲戒解雇や諭旨解雇することはできないと考えられ,普通解雇も一般的には難しいと考えられます。処分としては,降格(職位を外す)や出勤停止等の懲戒処分が相当といえます。もっとも,過去に同様の行為を行い,譴責・戒告等の懲戒処分を受けている場合は,事案によっては普通解雇できる可能性が高いと思われます。

③職場環境を阻害するレベルの場合は,譴責や減給,悪質な態様のものは降格等の懲戒処分とすることになります。管理職などの立場の場合は,職務適性がないとして普通解雇も許容される場合もありえます。また,それ以下のレベルのセクハラ行為者については,懲戒ではなく,まず注意・指導を与え,是正されない場合には譴責等の懲戒処分とすることが相当であると思われます。

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セクハラ行為に対していかなる懲戒処分ができるか?

パワハラをした場合

パワハラは,被害従業員に対して身体的又は精神的苦痛を与え,職場における具体的職務遂行能力を阻害し,企業秩序を乱す行為であることから,企業としても加害者に対して厳しい処分を行う必要があり,懲戒処分・普通解雇の対象となり得ます。

懲戒処分の量定を考えるにあたっては,社員のパワハラ行為が①「殴る」「ものを投げつける」などの暴行・傷害など刑法上の犯罪行為に該当するレベルなのか,②嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症するなど民法上の不法行為(損害賠償)が生ずるレベルなのか,③①,②には該当しないが「故意に無視する」「悪口をいう」「嫌みをいう」「からかう」など職場環境を阻害するレベルなのか,ということが1つの重要な基準となります。

①「殴る」「ものを投げつける」などの暴行・傷害,「死ね」「殺すぞ」といった脅迫などに該当する犯罪行為を行った場合は,出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇・普通解雇などの比較的重い処分を検討することになります。被害者に生じた結果や言動の悪質性等を考慮して最終的には処分を決定することになります。

②上司からの嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症するなど民法上の不法行為が成立する場合は,懲戒処分としては,いきなり懲戒解雇や諭旨解雇することはできないと考えられ,普通解雇も一般的には難しいと考えられます。そこで,処分としては,降格(職位を外す)や出勤停止等の懲戒処分が相当とされるケースが多いと思われます。もっとも,過去に同様の行為を行い,譴責・戒告等の懲戒処分を受けている場合は,事案によっては普通解雇・諭旨解雇できるケースもあると思われます。

職場環境を阻害するレベルのパワハラの場合は,譴責や減給,悪質な態様のものは降格等の懲戒処分とすることになります。管理職などの立場の場合は,職務適性がないとして普通解雇も許容される場合もありえます。
また,それ以下のレベルのパワハラ行為者については,懲戒ではなく,まず注意・指導を与え,是正されない場合には譴責等の懲戒処分とすることが相当であると思われます。

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パワハラ行為に対していかなる懲戒処分ができるか?

他の社員を暴力・障害した場合

他人に暴行を加えることは,たとえ相手にけがをさせなくとも刑法208条の暴行罪(2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは過料)に,暴行によって怪我をさせた場合には同法204条の傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)に該当します。会社内で暴行・脅迫等の行為が行われると,従業員が暴力のもとに支配され,その恐怖を感じることとなり,職場秩序を乱すことは明らかです。

よって、暴行行為は懲戒事由・普通解雇事由に該当する行為であり,事案によっては懲戒解雇や諭旨解雇の事由・普通解雇事由に該当します。

懲戒処分の量定を考えるにあたっては,社員の行為が暴行罪にとどまる程度なのか,傷害罪にまで至る程度なのかということが1つの重要な基準となります。そして,暴行にとどまる範囲である場合には,懲戒解雇・普通解雇など労働契約の解消を前提とする懲戒処分を選択することは難しいといえます。これに対し、傷害に至る程度である場合には,行為の態様その他の事情にもよりますが,諭旨解雇や懲戒解雇・普通解雇を選択することも検討されます。

もっとも、傷害の程度が軽微で,加害者が謝罪をし,被害者もそれを受け入れているような場合には,懲戒解雇や諭旨解雇・普通解雇といった重い処分を課すことは困難であり,より軽い処分にとどめざるを得ない場合もあります。

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会社内の暴行・傷害でいかなる懲戒ができるか?

経歴詐称をしていた場合

職歴や学歴、資格取得などを偽る経歴詐称は、労働者の適正配置や人事管理等に多大な支障を来す行為です。

また、労働契約の基盤である信頼関係を破壊するものでもあります。

そのため、経歴詐称については、懲戒解雇事由として規定されていることが一般的です。また、普通解雇事由にも該当しえます。

もっとも、いかなる経歴詐称もすべて懲戒解雇・普通解雇相当ということではなく、経歴詐称による解雇が有効とされるためには、「重要な経歴の詐称」に該当することが必要とされます。

「重要な経歴詐称」とは何かというと、一般論としては、(1)その経歴が当該労働者の採否に決定的な影響を与えること、すなわち、真実の経歴が申告されていれば、その労働者を採用することはなかった場合であって、しかも、(2)そのような事実があれば採用しないということに社会的な相当性があること(つまり,他の会社でも採用しなかったといえる場合)が要件だとされています。具体的には,採用面接時の着目度合い,その詐称の内容や本人の職務,入社後の状況などを踏まえて検討をすることになります。

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経歴詐称でいかなる懲戒処分ができるか?

遅刻・無断欠勤を繰り返す場合

労働契約関係において,所定労働日に所定労働時間に過不足なく労務提供を提供することは,労働者の基本的な義務です。

それゆえ,所定労働日に無断で出勤せずに労務を提供しないこと(無断欠勤)や,所定労働時間に満たない労務提供しかしないこと(遅刻や早退)は,労働者としての基本的義務を怠ることに外ならず,重大な債務不履行になります。

そして,重大な債務不履行は普通解雇の対象となります。

のみならず,無断欠勤や遅刻等は,会社の人員配置にも影響を与え,企業秩序を乱す場合は懲戒処分の対象にもなり得ます。

もっとも,無断欠勤や遅刻があったとしても,懲戒解雇や諭旨解雇・普通解雇などの重い処分を行う場合は慎重な検討が必要です。

裁判例では,事前に注意・指導や戒告・譴責等の懲戒処分による警告を行った上でなければ,無断欠勤や遅刻があったとしても懲戒解雇や諭旨解雇・普通解雇を認めないとするものもあります。

そこで,無断欠勤や遅刻などの勤怠不良の場合は,懲戒解雇や諭旨解雇を行う前に,普通解雇を行う又は懲戒解雇や諭旨解雇より軽い懲戒処分に留めるという選択肢も検討した方がよいでしょう。懲戒解雇や諭旨解雇を選択する場合は,同時に,予備的普通解雇を行うこともお勧めします。

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無断欠勤,遅刻を理由にいかなる懲戒処分ができるか?

勤務時間外に私生活で飲酒運転をした場合

飲酒運転は,道路交通法上の酒気帯び運転または酒酔い運転の罪に問われ,懲役または罰金刑が科されることがあります。

また,人を死傷させた場合には,その程度に応じて,危険運転致死傷罪,自動車運転過失致死傷罪,業務上過失致死傷罪などの刑法上の罪に問われることになります。

ただし,勤務時間外の私生活上の飲酒運転は,マスコミ報道などにより会社の名誉・信用が失墜したとか,逮捕勾留等により長期間の欠勤により労務提供が出来なくなった場合以外には懲戒解雇・普通解雇等の重い処分を行うのは難しいと思われます。

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私生活で飲酒運転をした従業員に対していかなる懲戒処分(懲戒解雇)ができるか?

業務命令・指示に従わない場合

会社は業務全般について労働者に対して必要な指示命令を行う権限を有しています。

指示命令が有効である限り,それを正当な理由無く拒否する行為は懲戒事由・普通解雇事由に該当します。

懲戒処分の量定は,業務命令違反の頻度,業務上の支障・被害の程度,改善の見込みの有無などに応じて決定しますが,懲戒解雇・普通解雇などの重い処分をいきなり行うことは一般的には困難です。

懲戒解雇や諭旨解雇を行う前に,注意指導警告を繰り返し行った上で、普通解雇を行う又は懲戒解雇や諭旨解雇より軽い懲戒処分に留めるという選択肢も検討した方がよいでしょう。懲戒解雇や諭旨解雇を選択する場合は,同時に,予備的普通解雇を行うこともお勧めします。

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業務命令に違反した場合、いかなる懲戒処分ができるか?

残業や休日出勤を拒否する場合

会社は労働契約上,適正な手続(36協定など)を前提に,時間外労働・休日労働を命ずることが出来る場合,それを正当な理由無く拒否する労働者の行為は懲戒事由・普通解雇事由に該当します。

懲戒処分の量定は,残業・休日出勤命令違反の頻度,業務上の支障・被害の程度,改善の見込みの有無などに応じて決定しますが,懲戒解雇・普通解雇などの重い処分をいきなり行うことは一般的には困難です。

懲戒解雇や諭旨解雇を行う前に,注意指導警告を繰り返し行った上で、普通解雇を行う又は懲戒解雇や諭旨解雇より軽い懲戒処分に留めるという選択肢も検討した方がよいでしょう。懲戒解雇や諭旨解雇を選択する場合は,同時に,予備的普通解雇を行うこともお勧めします。

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残業や休日出勤を拒否した場合,いかなる懲戒処分ができるか?

異動・転勤命令に従わない場合

会社は労働契約上,異動・転勤・職種変更を命ずることが出来る場合,それを正当な理由無く拒否する労働者の行為は懲戒事由・普通解雇事由に該当します。

懲戒処分の量定は,異動・転勤・職種変更の拒否による業務上の支障の程度,改善の見込みの有無などに応じて決定しますが,懲戒解雇などの重い処分をいきなり行うことは一般的には困難です。

ただし,正当な理由なく拒否を続ける場合は,最終的には懲戒解雇・普通解雇を含む重い処分も可能です。

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転勤命令を拒否した場合、いかなる懲戒処分ができるか?

医師への受診命令を拒否する場合

就業規則等の根拠に基づいて受診を命ずる権限がある場合、その命令を正当な理由なく拒否することは,懲戒処分の対象となります。

懲戒処分としては,基本的には軽い処分(戒告、譴責、減給など)が相当となります。

まずは,口頭または書面による注意・指導を行い,それでも改善されなければ,譴責・戒告等の軽い懲戒処分を選択します。

それでも改善がなされず業務に支障が生じているという場合には,二度目の懲戒として減給処分を行い,それでも改善しなければ,出勤停止・降格などを経て,最終的には懲戒解雇ではなく、普通解雇を検討するべきでしょう。

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医師への受診命令を拒否したことを理由に懲戒処分ができるか?

情報漏洩を理由にいかなる懲戒処分

情報漏洩は秘密保持義務違反に該当する場合、懲戒処分の対象となります。

懲戒処分の量定は、故意・過失の有無、企業秘密の重要性,開示の目的,漏洩による会社の損害の有無・程度,企業運営への影響等を総合的に考慮して決定します。

故意で、企業にとって重要な情報を漏洩し、背信性が高いと認められる場合には,懲戒解雇も可能です。また、退職金の不支給も認められる場合もあります。情状により諭旨解雇又は普通解雇とすることもありえます。

他方で、過失の場合は、故意の情報漏洩と同様の懲戒処分(懲戒解雇・諭旨解雇等)を行うのは難しく、企業機密の内容、過失の程度、漏洩の有無、事後対応等によって戒告、減給、出勤停止、降格程度が相当な場合も多いと考えます。

それでも改善がなされず業務に支障が生じているという場合には,出勤停止・降格などを経て,最終的には懲戒解雇ではなく、普通解雇を検討するべきでしょう。

もっとくわしく

情報漏洩を理由にいかなる懲戒処分ができるか

ブログ・SNSで会社の誹謗中傷・批判を行う場合

従業員が業務とは関係なくプライベートに行う表現行為であっても、会社の名誉や信用を毀損したり、損害を与えるものは懲戒処分の対象となります。

もっとも、公益を図る目的で、記載されていることが真実又は真実であると信ずるについて相当の理由がある場合は懲戒処分を行えない場合があります。

懲戒処分を行える場合の処分の量定は、①批判の内容(真実もしくは真実相当性),②批判の目的,③手段・態様の相当性などを考慮して決めますが、戒告・譴責、減給、出勤停止などにとどまる場合も多いのが実情です。

それでも改善がなされず業務に支障が生じているという場合には,出勤停止・降格などを経て,最終的には懲戒解雇ではなく、普通解雇を検討するべきでしょう。

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ブログやSNSによる会社批判・誹謗中傷を理由にいかなる懲戒処分ができるか

勤務時間中の私用メール、Webサイト閲覧した場合

就業時間中に,私用メールを送信したり,業務と関係のないウェブサイトを閲覧したりすることは,職務専念義務に違反し、懲戒処分・普通解雇の対象となります。

また、会社の施設や資産を私的に利用する施設・資産管理権侵害という意味でも懲戒処分・普通解雇の対象となります。

懲戒処分の量定は、① 頻度・回数・所要時間・勤務時間の内外、② 業務に与えた影響(特に不就労時間の範囲)、③ 私用メールや閲覧したサイトの内容、動機、④ 社内のける私用メール・サイト閲覧に対する禁止や周知の有無、⑤ これまでの注意・指導履歴などを考慮して決定しますが、常識の範囲内の短時間のメールやWEBサイトの閲覧であれば懲戒処分にはできません。あっても、軽度の懲戒処分(けん責や減給)とする場合が多いでしょう。

改善がなされず業務に支障が生じているという場合には,出勤停止・降格などを経て,最終的には懲戒解雇ではなく、普通解雇を検討するべきでしょう。

もっとくわしく

私用メール、Webサイト閲覧を理由にいかなる懲戒処分ができるか?

内部告発をした場合

内部告発とは、企業外の第三者に対して,公益保護を目的に,企業内の不正行為を開示することをいいます。

内部告発は企業機密を漏洩し、又は、会社に対する誹謗中傷・批判を行うものですので、原則として懲戒処分・普通解雇の対象となります。

しかし、表現行為が公益通報者保護法の保護を受ける場合や表現活動が内部告発として正当な行為と認められる場合は懲戒処分・普通解雇はできません。

他方で、保護されない場合は、重要な企業秘密を漏洩するような場合は、懲戒解雇・普通解雇も可能だと考えます。

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内部告発を理由にいかなる懲戒処分ができるか

社内で窃盗をした場合

社員による窃盗罪(刑法235条)などの刑法上の犯罪行為は,会社の秩序を害する重大な行為であり,当然のことながら懲戒事由・普通解雇に該当します。

懲戒処分の量定は,金額が少ない場合であっても,懲戒解雇・普通解雇を含む重い処分が許容される場合が多いでしょう。

被害金額の回収も同時に問題になりますのでその点の配慮も必要となります。

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会社内の窃盗に対していかなる懲戒処分ができるか?

会社内で着服・横領に対した場合

横領行為は刑事犯罪に該当するほか、会社の秩序を直接侵害する極めて悪質な非違行為として懲戒処分・普通解雇の対象となります。

懲戒処分の量定は① 被害金額の大小、②犯行の悪質性(回数、期間、隠蔽工作)、③職務内容(社内資産・金銭の取り扱いの有無)などを要素により決定しますが、基本的に懲戒解雇を検討することがが基本となります。情状により普通解雇を選択することも可能です。

もっとも、横領が疑われるXが犯行を否認することもありますので、横領の有無について関係証拠から慎重に事実認定を行う必要があります。

懲戒解雇を争う裁判では、横領について確実に立証できない場合、懲戒解雇は無効とされる可能性があります。

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会社内の着服・横領に対していかなる懲戒処分ができるか?

通勤手当等の不正受給(詐取)をした場合

通勤手当の不正受給は、詐欺行為にほかならず、刑事犯罪に該当するほか、会社の秩序を直接侵害する極めて悪質な非違行為として懲戒処分・普通解雇の対象となります。

懲戒処分の量定は、① 被害金額の大小、②犯行の悪質性(回数、期間、隠蔽工作)、③故意・過失、④通勤手当に関する手続の周知、⑤会社のチェック体制、などを要素により決定します。

故意により、多数回かつ長期間にわたり手当を不正受給し、被害金額が高額な場合は、懲戒解雇・普通解雇の選択もありえます。

これに対し、過失で、被害金額も少ない場合は、懲戒解雇・普通解雇を選択することは難しく、情状により戒告・減給・出勤停止あたりの処分となることが多いと思います。

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通勤手当等の不正受給(詐取)に対していかなる懲戒処分ができるか?

経費の不正請求(詐取)をした場合

領収書の改ざんや水増し請求書などによる業務上の経費の不正請求は、詐欺行為にほかならず、刑事犯罪に該当するほか、会社の秩序を直接侵害する極めて悪質な非違行為として懲戒処分・普通解雇の対象となります。

そして、懲戒処分の量定は、① 被害金額の大小、②犯行の悪質性(回数、期間、隠蔽工作)、③故意・過失、④会社のチェック体制、などを要素により決定します。

故意により、経費を不正請求した場合は、被害金額が高額な場合は、懲戒解雇・普通解雇の選択もありえます。

これに対し、過失で、被害金額も少ない場合は、懲戒解雇を選択することは難しく、情状により戒告・減給・出勤停止あたりの処分となることが多いと思います。

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宿泊費など経費の不正請求(詐取)に対していかなる懲戒処分ができるか?

業務中の交通事故を起こした場合

業務中に交通事故を起こした場合、道路交通法などの刑事処分に処せられる場合があります。

また、事故の相手方の損害を生じさせた場合は、会社も使用者責任により損害賠償義務を負わされる場合があります。

従って、業務中の交通事故は懲戒事由・普通解雇事由に該当します。

懲戒処分の量定については、会社が旅客運送業や運送業務を中心とする事業を行っている場合は厳しくなる傾向があります。事故原因に、飲酒運転や重大な過失がある場合、事故の相手方を死亡させたり重大な傷害を負わせた場合などは、懲戒解雇・普通解雇を含む厳しい処分を検討することになります。他方で、過重労働の結果事故を起こしたような場合には、重い処分が認められない場合もあります。飲酒運転などなく、軽微な過失による物損事故の場合などは、戒告・減給・出勤停止などの処分にとどめる場合もあります。

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業務中の社有車での交通事故を起こした場合、いかなる懲戒処分ができるか?

社有車であおり運転をした場合

あおり運転の危険性・悪質性から、降格や出勤停止処分も相当な懲戒処分となり得ます。

懲戒処分の量定については、① 当該社員(労働者)が勤務する会社の業種(特にバス,タクシー等の旅客運送事業を営む会社であるか否か)、② 当該社員(労働者)が運転業務に従事する者か否か、③ 運転・事故の態様,過失の程度、④ 事故後の対応(措置義務を尽くしたか)、被害者がいる場合は示談の成否、⑤ 当該運転により生じた結果の重大性(物損や人身事故となった場合は被害の程度等)、⑥ 事案がテレビ・新開等のメディアで報道されたか、⑦ 安全運転に関する教育・指導は徹底されていたか、⑧ 反省の有無や程度などを考慮して決めます。

旅客運送業のドライバーの場合は、物損人損の有無を問わずに懲戒解雇・諭旨解雇・普通解雇も可能な場合もあります。

それ以外の業種でも、重い人身事故で結果が重大(死亡・重傷)の場合は、懲戒解雇・諭旨解雇も可能です。物損にとどまった場合もで出勤停止以上が相当でしょう。

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社有車であおり運転をした従業員に対していかなる懲戒処分(解雇)ができるか?

社員が不倫をした場合

不倫は,基本的には業務とは無関係の私生活上の行為です。

従って,職場環境の特殊性により,男女関係を厳しく律する必要性があるなどの特別な事情がない限り懲戒処分・普通解雇の対象とすることは難しいです。

注意しても態度を改めず、職場環境が悪化して業務上の支障を生じさせている場合には懲戒処分の対象とすることもありますが、戒告・けん責といった軽い処分で済ますケースが多いと考えます。普通解雇も一般的には難しいと考えられます。

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不倫をした社員に対しいかなる懲戒処分ができるか?

借金・給与差押・自己破産(個人再生)

借金は,基本的には業務とは無関係の私生活上の行為です。従って,借金をしたこと、借金の取り立ての電話が会社に来たこと、給与が差し押さえられたこと、自己破産をしたことなどを理由に懲戒処分を行うことはできません。普通解雇も通常はできません。

借金苦に派生して別の問題(仕事が疎かになる、会社備品を着服するなど)を起こすことがありますので、別の原因で懲戒処分の対象とすることもありますので、周辺事情も調査してみてください。

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借金・給与差押・自己破産(個人再生)をした社員に対しいかなる懲戒処分ができるか?

無許可で兼業・兼職をしていた場合

勤務時間外かつ企業外の時間は、労働者のプライベートの範囲内ですので、その時間帯に副業・兼業をすることは本来自由です。

そゆゆえ、勤務時間外かつ企業外の時間も含めて全面的に副業・兼業を禁止して懲戒処分の対象とすることはできません。

もっとも、① 競業、情報漏洩のリスクがある場合② 本業の社会的信用を害するリスクがある場合③ 本業への支障や労働者の健康に問題を生じるリスクがある場合については、副業・兼業を禁止することも合理性があるとして認められます。

禁止に違反した場合の懲戒処分の量定は、会社に与えた業務上の支障に応じて決めますが、支障が小さい場合は戒告・けん責程度に、支障が多少あっても減給程度にとどまります。懲戒解雇や普通解雇は、情報漏洩を伴い場合や勤務時間中の競業など悪質な場合以外は難しいです。

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無許可の副業・兼職を理由にいかなる懲戒処分ができるか

監督責任を果たさなかった上司

上司が部下に対する監督義務を怠った場合は懲戒処分の対象となります。

ただし、監督義務違反がなかった場合に部下の非違行為に対する結果責任を負わせることはできません。

懲戒処分の量定については、上司が部下の不正を知っていたにもかかわらずこれを黙認したり、隠ぺい工作に加担したような場合は、上司についても懲戒解雇・普通解雇などの厳しい処分を行うことが可能です。

このような関与がない場合は、不正の内容・程度、監督義務違反の有無・程度、会社の損害、他の者に対する処分との比較等に照らして、処分内容を検討することになります。

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監督責任を果たさなかった上司に対していかなる懲戒処分ができるか

3.5 C 経営上の必要性に基づく理由(整理解雇)

以上の①及び②の解雇理由は、労働者側の事情(能力不足、勤怠不良、職場規律(企業秩序)違反など)を理由としたものでした。

これに対して、経営上の必要性に基づく理由による解雇は使用者側の事情による解雇になります。

それゆえ、労働者側の落ち度とは関係なく、会社の都合による解雇ですので、解雇権濫用法理の適用においてより厳しく判断すべきものと考えられています。

整理解雇は,次の4つの要素から判断がなされます。

  1. 人員削減の必要性が存在すること(人員削減の必要性)
  2. 解雇を回避するための努力が尽くされたこと(解雇回避努力)
  3. 解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること(被解雇者選定の合理性)
  4. 事前に,説明・協力義務を尽くしたこと(解雇手続の妥当性)

本稿では整理解雇を除く普通解雇の有効性を中心に説明をいたしますので、詳細は以下の記事をご参照ください。

参考記事

整理解雇とは?

3.6 就業規則上の普通解雇事由の定め

絶対的必要記載事項

労働基準法は「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」を就業規則の必要的記載事項としていますので(89条3号)、就業規則には解雇事由を明記しなければなりません。

そして、普通解雇には客観的合理的理由が求められますので、就業規則では、上記 ① ~ ③ で述べた客観的合理的理由とされる事由に即した内容で普通解雇事由を定めることになります。

解雇の効力を争う裁判では、「客観的に合理的な理由」の有無は、就業規則上の解雇事由に該当する事由が存在することの主張立証として中心争点となります。

就業規則に普通解雇事由を定める際の注意点

就業規則に普通解雇事由を列挙して定めている場合、列挙されていない解雇事由によって普通解雇することはできるのかが時折問題となります。

専門用語的には例示列挙(列挙は例を示したに過ぎないので、就業規則に記載されていない事由で普通解雇をすることも可能)なのか、限定列挙(列挙した解雇事由に限定したので、就業規則に記載されていない事由で普通解雇することはできない)なのかが問題となります。

結論的には、例示列挙(列挙は例を示したに過ぎないので、就業規則に記載されていない事由で普通解雇をすることも可能)と解するのが原則です。

全国の下級審裁判所のリードオフマンである東京地方裁判所労働専門部も同様に考えています(佐々木宗啓「類型別労働関係訴訟の実務[改訂版]」392頁 青林書院2021年6月)。

もっとも、現実的には例示列挙か限定列挙かという無駄な議論に巻き込まれる可能性があります。

そこで、就業規則の普通解雇事由には、かならず「その他前各号に準ずる事由があるとき」といった包括条項を入れるようにしてください。

就業規則規程例
第〇条(普通解雇事由)
従業員が次の各号の一に該当するときは、解雇することができる。

  1. 試用期間満了までに従業員として不適格であると認められたとき
  2. 精神または身体の障害、疾病などにより、業務に耐えられないと認められたとき
  3. 勤務成績または業務能率が不良で就業に適さないと認められたとき
  4. 勤務状況が不良で従業員としての職責を果たせないと認められたとき
  5. 協調性を欠き、他の従業員の業務遂行を妨げているとき
  6. 第〇条に定める懲戒事由に該当し、解雇が相当と認められたとき
  7. 事業の廃止、縮小、転換その他事業運営上のやむを得ない事由のあるとき
  8. その他前各号に準ずる事由があるとき

3.7 普通解雇事由を後で追加できるか

解雇をする理由が1つだけではなく、就業規則の解雇事由の複数に該当するケースは少なくありません。

そのような場合において、解雇を通知する際に、全ての解雇事由を列挙せずに、主要な解雇事由のみを挙げるケースも多いと思われます。

また、解雇を通知した後に、別の解雇事由が発覚する場合もあります。

このような場合、後になって、解雇の効力を争われたときに、解雇通知書に記載しなかった他の事由も追加して主張することはできるかが問題となります。

結論的には、解雇通知書に記載しなかった解雇事由を、後になって追加主張することは可能です。

普通解雇は解雇権の行使であり,使用者の主張する解雇の理由は、解雇権濫用法理の適用を判断する一事情(専門用語としては権利濫用の評価障害事実)に過ぎません。

それゆえ、解雇の意思表示の時点で、労働者に表明していなかったとしても、その時点までに客観的に存在した事由であれば,後になって解雇の有効性を根拠づける事実として主張することができるのです。

したがって,解雇時に,解雇通知書に記載しておらず、後になって発覚した事由でも,解雇時に客観的に存在している事由であれば,解雇の有効性を根拠づける事由として主張することは可能です。

弁護士吉村雄二郎
とはいえ、使用者が, 当初主張していなかった事象を後になって解雇理由として主張する場合, 「当初主張していなかったのは, その事象を使用者が重要視していなかったためである」と裁判所は心証を頂く傾向があります。また,解雇の意思表示の相当前の別件の問題行為・非違行為を、本件解雇理由に抱き合わせて主張する場合もありますが、「別件の問題行為・非違行為をこれまで不問に付していたのは, これを重要視していなかったため」という心証を抱く傾向があります。その点に留意して、解雇通知書や解雇理由証明書の記載内容を決める必要があります。

以上は普通解雇事由についての話であり、懲戒解雇の場合は別です。

懲戒解雇の場合は、懲戒解雇時に使用者が認識していなかった非違行為を事後的に懲戒解雇事由として追加主張することは、特段の事情のない限り許されません(山口観光事件最高裁判決 最判平成8・9・26労判708号31頁)。

3.8 解雇事由の主張・立証責任

解雇は労働者に対する不利益措置であるため、裁判による紛争リスクがあります。

裁判では解雇が濫用ではないことについて、実質的には企業側に主張立証責任があります。

専門用語的に言えば、労働者から何ら落ち度なく勤務してきた等の概括的主張があれば,権利濫用の評価根拠事実としての具体的事実の主張がされたものとし,使用者において,再々抗弁としての権利濫用の評価障害事実(解雇理由となる具体的事実)の主張立証をする責任が生ずるとするのが一般的とされているのです(佐々木宗啓「類型別労働関係訴訟の実務[改訂版]」392頁 青林書院2021年6月 菅野和夫「労働法(12版)」786頁 2020年2月 有斐閣)。

つまり、企業が①客観的に合理的な理由(解雇事由)及び②社会的相当性を立証できない場合は敗訴します

労働者が争うことが想定される場合は、客観的な証拠に基づいて解雇事由や社会的相当性を裏付ける事実を証明できることが特に重要になります。

よって,解雇を行う際は,証拠(特に客観的証拠や被解雇者の自白が重要)の存否を慎重に確認する必要があります。

証拠が不十分な場合はリスク回避のために解雇を回避して、退職勧奨などの方法に切り替えることも検討しなければなりません。

4 ③解雇の社会通念上の相当性

4.1 解雇が社会の相当性があるとは

解雇権濫用規定(労働契約法16条)によれば、解雇につき「客観的に合理的な理由」が認められる場合であっても、当該解雇が「社会通念上相当として是認することができない場合」には、解雇権を濫用したものとして無効となります。

この「社会通念上相当」は、次のような場合に認められるとされています。

  1. 労働者の解雇事由が重大で労働契約の履行に支障を生じさせ,または反復・継続的で是正の余地に乏しいこと
  2. 使用者が事前の注意・警告・指導等によって是正に努めていること
  3. 使用者が職種転換・配転・出向・休職等の軽度の措置によって解雇回避の努力をしていること(②③を解雇回避努力義務ともいいます)
  4. 労働者の能力・適性,職務内容,企業規模その他の事情を勘案して,使用者に解雇回避措置を期待することが客観的に見て困難な場合

つまり、就業規則の解雇事由に該当する場合であっても、「社会通念上の相当性」の要件によってさらに解雇できる場合が限定され、上記①~④のように解雇以外に選択肢がないという状況にならなければ解雇は有効とならないのです。

4.2 社会通念上の相当性の判断基準

具体的な事案において,いかなる場合に社会通念上の相当性が認められるかは、法律上の明確な基準はありません

社会通念上の相当性については、最終的には、裁判官がケースバイケースで判断するため、一般的には予測することが非常に困難です。

もっとも、参考にするべきデータは存在します。それは過去の裁判例です。

普通解雇については裁判例が多数の集積されていますので、いわば裁判所の判断アルゴリズムを読み解いて、実際の事例に適用することで、解雇を有効に導くべく可能性を収束させていくことは可能なのです。

ケース別の相当性の判断基準については、解雇事由ごとにまとめた記事において記載しておりますので、そちらをご参照ください。

5 ④解雇の手続

解雇の有効要件として、解雇に至るまでの手続的相当性(適正手続)も求められます。

5.1 弁明の機会

事情聴取と共に,当該社員に対して弁明の機会を付与することがあります。

つまり、問題を起こした従業員に対し、解雇を行う前に言い分を述べるチャンスを与えるということです。

この点について、就業規則で定めている場合とそうでない場合に分けて説明します。

就業規則等で弁明の機会の付与手続が規定されている場合

この場合は、弁明の機会を与えずに解雇をすれば、些細なミスを除いて無効となります。

就業規則等で規定されていない場合

就業規則等に規定がない場合には,弁明の機会を与えることなく解雇をしたとしても、手続違反により直ちに無効になることはありません。

もっとも、解雇前に弁明を聴いておくことは,手続面において丁寧に対応したことを示すプラス事情であり,裁判において解雇の有効性を補強する事情となります。

また,従業員の弁明から得られた情報や証拠を踏まえることにより、より確実に有効な解雇を行うことができますし、無効な解雇を回避することもできます。

弁明を聴かずに解雇をした後になって、解雇の有効性を揺るがしかねない重要な事実を知ることになっては、後の祭りです。

従って、就業規則等に定めがないとしても、原則として、解雇に弁明の機会を与えるようにしてください。

弁護士吉村雄二郎
弁明の機会を与えることは、一手間かかります。しかし、期間を定めて弁明をするように指示できますし、弁明の機会を与えても弁明しないのであれば、弁明の機会を放棄したものとして手続を進めてよいです。また、弁明の内容に対して会社が何らかのレスポンスをする必要はありません。やりようによってはスピーディに手続を進めることができるのです。

弁明の機会を与える方法

面談による方法でも、文書で提出する方法でもかまいません。両方求めてもかまいませんが、客観的記録(録音など)は行う様にしてください。

 

○年○月○日

甲野 太郎 殿

○△商事株式会社
代表取締役 ○山△次郎

弁明聴取書

当社では貴殿の別紙「解雇事由」記載の事実(以下「本件事実」といいます。)について、解雇を検討しています。つきましては、本件事実に関し、貴殿に弁明の機会を与えます。下記の要領に従い弁明してください。

1 貴殿が本件事実について、弁明すべき事項があれば、「弁明書」を作成のうえ、以下の要領でメール、FAXまたは郵便にて送付してください(書式は問いません)。なお、口頭による弁明聴取は実施しませんので、必ず書面で弁明を行ってください。

提出期限:○○○○年○月○日 必着
送付先:当社 総務部長 〇〇 〇〇 宛
住  所:東京都○○区○○町〇一〇一〇
電  話:〇〇〇〇一〇〇〇〇
ファックス:〇〇〇〇一〇〇〇〇
メールアドレス:〇〇〇

2 上記提出期限までに弁明書の送付がない場合は、弁明すべき事項がないものと判断し、解雇等を決定します。
3 不明点があれば、上記①記載の連絡先に問い合わせてください。ただし、期日までに必ず弁明書を提出してください。

以上


(別紙)

解雇事由

1 ○年○月○日○時頃、当社会議室において、同僚女性従業員○○に対して「○○」と発言し、○○に対して不快感を与え、もって職場環境を悪化させた(就業規則○条○項)。
2 ○年○月○日○時頃、当社事務室において、部下である従業員○○に対して「○○」と発言し、○○に対して不快感を与え、もって職場環境を悪化させた(就業規則○条○項)。
3 ・・・・・・・

以上

5.2 労働組合や労働者代表との協議

就業規則や労働協約で、解雇を行う場合は、労働組合と協議を経て、あるいは組合の同意を得て、行う旨が定められている場合があります。

「組合員の解雇については労働組合と協議する(または労働組合の同意を要する)」旨の「解雇協議条項」または「解雇同意条項」が労働協約に定められている場合です。

このような解雇協議条項・同意条項がある場合は、それに従い協議した上で解雇を合意するか、または合意しない場合でも、誠意を尽して協議した結果でないと解雇はできません。これに違反した場合は解雇は無効となります。

ただし、労働組合の同意がなければ絶対に解雇できないものではなく、誠意を尽くし交渉しても話がまとまらない場合であれば、最終的に解雇が可能であることには留意する必要がある(池貝鉄工事件 最高裁一小 昭29.1.21判決)。

これに対して、上記のような就業規則や労働協約の定めがない場合は、仮に社員が加入する労働組合は存在したとしても、労働組合と協議をしたり,その同意を得たりする手続きをとる必要はありません。

労働組合の側から,「組合員の懲戒処分を実施する場合には,事前に組合と協議する」とか,「組合三役につき懲戒処分を実施しようとするときは,あらかじめ組合と協議し,その同意を得て行う」といった内容の労働協約の締結を要求されることがありますが,それに応ずる義務はありません(むしろ手続が加重されるので応ずるべきではありません)。

5.3 解雇予告手続

使用者は、労働者を解雇しようとする場合、原則として、少なくとも30日前にその予告をしなければならなりません(労基法20条1項)。

30日前に予告をしない場合は、原則として30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりませんが、この予告日数は平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができます(同条2項)。

使用者が労基法20条に違反して解雇予告しなかった場合、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、①解雇通知後30日を経過するか、②解雇予告手当を支払うかのいずれか早い時点から解雇の効力が生じまする(細谷服装事件 最高裁二小 昭35.3.11判決)。

ただし、予告手当を支払わずに解雇した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条1号)ので注意が必要です。

解雇予告についての詳細はこちら

経営者必見!解雇予告・解雇予告手当のポイント

10分でわかる!解雇予告除外認定のやり方【書式・ひな形あり】

まとめ

以上、普通解雇の有効要件についてご説明しました。

解雇の有効要件

  1. 法律が定める解雇禁止に該当しないこと
  2. 客観的に合理的理由があること
  3. 解雇が社会通念上の相当性があること
  4. 就業規則及び労働協約の手続を経ていること

解雇の判断や進め方を誤った場合や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より解雇無効の訴訟(労働審判)を起こされるリスクがあります。解雇が無効となった場合、会社は、過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。

このようなリスクを回避するために、会社の経営者の方は是非参考にしてください。

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