パワハラ懲戒事例

パワハラ行為に対していかなる懲戒処分ができるか?

パワハラは,被害従業員に対して身体的又は精神的苦痛を与え,職場における職場環境を阻害し,企業秩序を乱す行為であることから,会社による懲戒処分の対象となります。いかなる処分が可能かについて、労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。

社長
当社の部長代行Yが複数の部下に対して、「お前、アホか」「お前、クビ」「お前なんかいつでも辞めさせてやる」との暴言、「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなどの行為を行い、ある部下は異動を余儀なくされ、ある部下は精神疾患になり休暇を余儀なくされました。当社としては、Yの言動はパワーハラスメントに該当するものと考えていますが、この事案でYをいかなる懲戒処分にできるでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
上司からの嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症した場合などは、民法上の不法行為が成立します。懲戒処分としては,いきなり懲戒解雇や諭旨解雇することはできないと考えられますが、何度か注意指導を受けていたにもかかわらずパワハラを繰り返した場合は、解雇も含む厳しい処分も検討するべきです。
ご相談のケースでは、Yの言動は民法の不法行為に該当するパワハラに該当するといえますが、懲戒処分の量定としては、被害者が精神疾患になっていることなど結果の重大性に鑑み、初犯であっても停職・降格程度、すでに注意・指導を受けているにもかかわらず繰り返し行った場合は諭旨解雇・普通解雇もあり得ると考えます。
パワハラが懲戒処分の対象となるか否か
パワハラの事実認定について注意するポイント
パワハラ行為に対する懲戒の量定・参考データ
懲戒の進め方のポイント

1 パワハラ行為が懲戒処分の対象となるか?

職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)とは、職務上の地位や人間関係など職場内の優位性を背景に、業務上の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為を意味します。

職場のパワーハラスメントの定義
職場におけるパワーハラスメントとは、以下の三つの要素を全て満たすもの
(1)優越的な関係を背景とした

(2)業務上の必要かつ相当な範囲を超えた言動により
(3)就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)
※適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラには当たらない
弁護士吉村雄二郎
【パワハラの概念について】
パワハラについては,令和元年改正により,労働施策総合推進法第30条の2第1項(雇用管理上の措置等)にその防止措置義務の定めが新設されました。それによれば,対象となる行為は「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義されます。
この定義の解釈,具体例等については, 指針である「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)に示されています。

パワハラは,被害従業員に対して身体的又は精神的苦痛を与え,職場における具体的職務遂行能力を阻害し,企業秩序を乱す行為であることから,企業としても加害者に対して厳しい処分を行う必要があり,懲戒処分の対象となり得ます

2 パワハラの事実認定の注意点

パワハラ行為は第三者がいないところで行われることが多く,被害者と加害者以外は目撃者・事情を知る者がいない,また,客観的な証拠がない,といったことも多くあります。その為,事実認定においでは,被害者および加害者の事情聴取が大きな意味を持ちます。

しかし,たとえば,そもそも被害者が主張するパワハラ言動の存否について,両者の言い分が異なる場合もあります。

このように被害者と加害者の言い分が異なる場合には,どちらの供述が信用できるかを見極める必要があります

供述の信用性は,客観的な裏付け証拠(メール,SNSのやりとり履歴,画像等)の有無,供述の具体性の有無,自分に都合の悪いところを「記憶にない」などと述べて誤魔化しているか否かなどを総合考慮して判断するしかありません。

懲戒処分の前提としてのパワハラ言動の有無については,最終的には会社側に立証責任(証明出来ない場合は敗訴する)があることも視野に入れて慎重に事実認定を行う必要があります。

懲戒のヒアリングについては

懲戒に関する事情聴取のポイント

3 懲戒処分の有効要件

懲戒処分を行うためには、一般的要件を満たす必要があります。こちらも確認す

懲戒処分の有効要件については

知っておきたい懲戒処分の有効要件

① 就業規則に懲戒規定明記
懲戒事由と懲戒処分の種類が就業規則に明記され、その就業規則が従業員に周知されていることが必要です。
参考記事
懲戒に関する就業規則の規定例
② 懲戒事由該当性
懲戒事由に該当する非違行為の事実について、関係者の事情聴取、客観的証拠等から事実が認定できることが必要です。
③ 懲戒の社会通念上相当性
懲戒処分が重すぎると無効となります。懲戒処分の種類・量刑が相当であることが必要です。
④ 懲戒処分の適正手続履践
就業規則上、賞罰委員会の開催や弁明の機会の付与が必要とされている場合は、これらの手続を履践する必要があります。 

4 パワハラ行為の懲戒処分の量定は?

基本的な懲戒処分の考え方

では、パワハラ行為の事案でいかなる懲戒処分を行うべきでしょうか?その処分量定が問題となります。

パワハラは一応の定義はありますが、抽象的な概念ゆえに、様々な態様の言動が該当します。パワハラといってもピンからキリまであるのです。

それゆえ、パワハラに対して一律に懲戒処分の程度を決めることはできません

もっとも、パワハラ行為には一定の「レベル」に分けることは可能です。

① 「殴る」「ものを投げつける」などの暴行・傷害など刑法上の犯罪行為に該当するレベル
② 嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症するなど民法上の不法行為(損害賠償)が生ずるレベル
③ ①,②には該当しないが「故意に無視する」「悪口をいう」「嫌みをいう」「からかう」など職場環境を阻害するレベル

懲戒処分の量定を考えるにあたっては,社員のパワハラ行為がどのレベルなのか,ということが1つの重要な基準となります。

このようにレベルごとに検討するのは、各レベルで発生する法的責任や懲戒処分の程度も異なるからです。

レベル具体例処分・責任
① 犯罪行為レベル(刑法)「殴る」「ものを投げつける」などの暴行・傷害,「死ね」「殺すぞ」といった脅迫,侮辱,名誉毀損など懲戒処分(諭旨解雇、懲戒解雇)
刑事責任(暴行罪・傷害罪・脅迫罪等)
民事上の損害賠償責任(加害者、会社(使用者責任))
② 不法行為レベル(民法)上司からの嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症するなど懲戒処分対象(出勤停止、降格、諭旨解雇、普通解雇)
民事上の損害賠償責任(加害者、会社(使用者責任))
③ 職場環境レベル1 「故意に無視する」「悪口をいう」「嫌みをいう」「からかう」など,職務遂行を阻害する行為全般懲戒処分対象(戒告・譴責、減給、出勤停止、降格)
現場レベルでの注意・指導対象
2 適正な範囲の指導処分なし

 

レベルごとに検討するとともに、行為の悪質さ,被害者の処罰感情の有無,加害者の謝罪の有無等を総合的に考慮した上で最終的な処分を決定する必要があります。

以下,①犯罪行為レベルのパワハラ,②民法上の不法行為レベルのパワハラ,③職場環境阻害レベルのパワハラに分けて説明します。

①犯罪行為レベルのパワハラ

まず,「殴る」「ものを投げつける」などの暴行・傷害,「死ね」「殺すぞ」といった脅迫などに該当する犯罪行為を行った従業員に対する懲戒は,出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの比較的重い処分を検討することになります。被害者に生じた結果や言動の悪質性等を考慮して最終的には処分を決定することになります。

大和交通事件(大阪高判平11.6.29)
タクシー乗務員である従業員が,違法なスト(ピケッテイング)を行い,違法なタクシーパレードを企画,指導,実行し,また,同僚に対して暴言を吐いて脅迫をし,タクシー乗務を断念させて営業を妨害したことを理由に懲戒解雇された事案において,懲戒解雇を有効と判断した。
本電信電話〔大阪淡路支店〕事件(大阪地判平8.7.31)
従業員が,職場内において,上司,同僚に対し,度重なる恐喝,脅迫,強要,いやがらせ電話(因縁をつけて金銭を要求する行為等,懲戒事由として列挙されている行為は10以上に及ぶ)の行為を行ったことを理由に諭旨解雇された事案において,諭旨解雇を有効と判断した

②民法上の不法行為レベルのパワハラ

上司からの嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症した場合などは、民法上の不法行為が成立します。懲戒処分としては,いきなり懲戒解雇や諭旨解雇することはできないと考えられ,普通解雇も一般的には難しいと考えられます。そこで,処分としては,降格(職位を外す)や出勤停止等の懲戒処分が相当とされるケースが多いと思われます。もっとも,過去に同様の行為を行い,譴責・戒告等の懲戒処分を受けている場合は,事案によっては普通解雇・諭旨解雇できるケースもあると思われます。

M社事件(東京地裁平27.8.7判決労経速2263号3頁)
不動産会社の営業部長が、複数の部下に対して「12月末に2000万円やらなければ、会社を辞めると一筆書け」「(地元)に戻って別の会社に転職しろ」「お前はまわりの人間に迷惑を掛けている。」「結果が手数料稼いでないんだから、やる気がないんだ」「お前の成績表を子供に見せたらもうわかるだろう、お前がいかに駄目なオヤジか分かるだろう」などの暴言を繰り返して行い、それにより部下に精神的苦痛を与え、ある者は継続的にカウンセリングを受けざるを得ない状態に陥らせたことなどを理由とした降格の懲戒処分について、裁判所は降格処分を有効と判断した。
ディーコープ事件(東京地裁平28.11.16判決 労経速2299号12頁)
部長代行が部下に対して、「お前、アホか」「お前、クビ」「お前なんかいつでも辞めさせてやる」との暴言、「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなどのハラスメント行為を行い、部下らが異動を余儀なくされる、精神疾患になり休暇を余儀なくされたことを理由になされた諭旨解雇の懲戒処分について、裁判所は諭旨解雇を有効と判断した。

③職場環境を阻害するレベルのパワハラ

職場環境を阻害するレベルのパワハラ行為者については,譴責や減給,悪質な態様のものは降格等の懲戒処分とすることになります。管理職などの立場の場合や役職者でなくとも軽い懲戒処分を受けてもパワハラを繰り返す場合は,職務適性がないとして普通解雇も許容される場合もありえます。
また,それ以下のレベルのパワハラ行為者については,懲戒ではなく,まず注意・指導を与え,是正されない場合には譴責等の懲戒処分とすることが相当であると思われます。

5 懲戒処分の量定の参考データ

民間データ

部下に対してたびたび暴言を吐くなどパワハラ行為を続けていたことが発覚した

  • 1位 戒告・譴責・注意処分(46.8%)
  • 2位 降格(42.1%)
  • 3位 減給(38.0%)

※「労政時報」第3949号(2018年4月13日発行)P38~「懲戒制度の最新実態」

公務員データ

パワー・ハラスメント

  • パワー・ハラスメント(人事院規則10―16(パワー・ハラスメントの防止等)第2条に規定するパワー・ハラスメントをいう。以下同じ。)を行ったことにより、相手に著しい精神的又は身体的な苦痛を与えた職員は、停職、減給又は戒告とする。
  • パワー・ハラスメントを行ったことについて指導、注意等を受けたにもかかわらず、パワー・ハラスメントを繰り返した職員は、停職又は減給とする。
  • パワー・ハラスメントを行ったことにより、相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹(り)患させた職員は、免職、停職又は減給とする。

パワー・ハラスメントに関する事案について処分を行うに際しては、具体的な行為の態様、悪質性等も情状として考慮の上判断するものとする

※「懲戒処分の指針について」(人事院)2020年4月1日改正

報道データ

2022.2.4 後輩に「寝ないで訓練しろ」パワハラ、横浜市消防士に停職6か月の懲戒処分
2022.2.7 山形大女性職員が複数の部下にパワハラ、停職3か月の懲戒処分
2022.2.8 学生にパワハラ言動 県立大准教授を停職3日の懲戒処分
2022.2.8 部下に正座、冊子で頭数十回 陸自3曹と曹長を減給の懲戒処分
2022.2.10 消防職員が部下にパワハラ 志摩市が3人を減給や停職の懲戒処分
2022.2.14 後輩の尻蹴った2等陸曹に停職1か月の懲戒処分
2022.2.15 部下らに「学習しないな、おまえ」と発言 空自入間基地、2等空佐を停職10日の懲戒処分
2022.2.15 児童に体罰 教諭に減給の懲戒処分
2022.2.16 新任講師を授業中に怒鳴り減給の懲戒処分
2022.2.16 同僚に舌打ち・あいさつ無視4年間、歴代校長らが注意していた女性教諭を戒告の懲戒処分
2022.2.18 消防司令補、後輩にパワハラ 減給の懲戒処分
2022.2.22 パワハラ、コロナ感染部下に差別発言 戒告の懲戒処分
2022.2.22 内部通報者に「つぶす」 脅した郵便局幹部ら7人に懲戒処分
2022.2.22 「マスク不適切着用」の部下に蹴り 消防司令を停職の懲戒処分
2022.2.22 研修後の感想を提出させ、「バカ」「アホ」と書き込んで返却 消防司令補に減給の懲戒処分
2022.2.25 複数の部下にパワハラ 消防署長に停職1か月の懲戒処分
2022.2.28 部下に身代わりで検便提出させる 海自の3佐を停職の懲戒処分
2022.3.1 後輩を蹴った先輩を減給の懲戒処分
2022.3.4 神戸大准教授2人、学生に暴言で停職の懲戒処分
2022.3.7 生徒の肩を殴打 陸自高等工科学校の教官を停職の懲戒処分
2022.3.7 部下5人に暴言 陸佐を停職の懲戒処分
2022.3.8 児童4人に背中が赤くなるほど平手打ち 再任用教諭ら計2人を停職等の懲戒処分
2022.3.9 部下にパワハラ、50代1等陸佐を減給の懲戒処分
2022.3.11 副検事が「ボケ」「アホ」発言 パワハラで戒告の懲戒処分
2022.3.12 部下に暴行の3佐を停職の懲戒処分
2022.3.12 部下に反省文読ませている様子を撮影、LINEで動画拡散させた消防士長を減給の懲戒処分
2022.3.13 3等陸曹、後輩の顔を踏みつけ・平手打ち4回 停職の懲戒処分
2022.3.14 後輩に10回以上の平手打ち、戒告の懲戒処分
2022.3.16 部下を指導中、小銃で頭部をヘルメット上から突く 2等陸曹を停職5日の懲戒処分に
2022.3.18 女子の耳さわり体くすぐる 正座させ1時間叱責 2人の40代男性教諭を停職の懲戒処分
2022.3.18 夜間に電話、威圧的な言葉で1時間指導 消防指令に戒告の懲戒処分
2022.3.22 「超勤もらいこの仕事か」パワハラで課長級職員を減給の懲戒処分、京都市
2022.3.23 福祉施設長をパワハラで減給の懲戒処分
2022.3.24 無視や担当業務外し 部下へのパワハラで男性課長を減給の懲戒処分
2022.3.25 部下に業務外メールを頻繁に送信、校長を停職の懲戒処分
2022.3.25 部下へのパワハラ、理由を偽って欠勤 職員2人を減給の懲戒処分
2022.3.26 複数部下にパワハラ 宮崎市、消防局課長級職員を減給の懲戒処分
2022.3.28 「バカ野郎」「覚えておけ」部下へのパワハラで消防署長を戒告の懲戒処分、下呂市
2022.3.29 江差高看、パワハラで副学院長ら10人を懲戒処分
2022.3.29 「たらたらするな」海保学校で部下にパワハラ、40代職員を減給の懲戒処分
2022.3.30 部下に暴言、首つかむ 関東運輸局職員を減給の懲戒処分
2022.3.30 部下や後輩暴行 陸曹長と3等陸曹を減給の懲戒処分
2022.3.30 学生4人に人前で「人間のクズ」、「卒業させない」メールも日常的に 准教授に停職の懲戒処分
2022.3.31 中3女子に「体がマヒするくらいどついたろか」 教諭を停職の懲戒処分
2022.4.2 ミスした後輩に「罰金払え」 120万円受け取った市職員を停職の懲戒処分
2022.4.8 横浜市大教授、複数教職員にパワハラで停職の懲戒処分
2022.4.11 海自隊員がパワハラ、後輩の指の毛燃やす 停職の懲戒処分
2022.4.13 「生意気なんだよ」「表に出ろ」 部下にパワハラで減給の懲戒処分
2022.4.13 手術助手に執刀医が暴言や叱責、パワハラで停職の懲戒処分
2022.4.16 パワハラで東京学芸大准教授を停職の懲戒処分
2022.4.19 難病職員に「どうせ死ぬ」と暴言 神戸市水道局、5人に停職の懲戒処分
2022.4.22 部下に暴行、2等陸尉を減給の懲戒処分
2022.4.22 福井の中2自殺、元担任を停職の懲戒処分

報道データの詳細は

パワハラ行為に対する懲戒処分事例【報道】

対応方法

全体の流れ

全体の流れの概要は次のフローチャートのとおりです。

フローチャート_パワハラ懲戒処分

パワハラ事案でポイントとなる事実・証拠・事情

パワハラ事案については、以下の事実及び証拠を調査・確認する必要があります。

調査するべき事実関係

□ 被害者が申告するパワハラ行為の内容・頻度
□ パワハラ行為に至った経緯・被害者と加害者の関係
□ 加害者による謝罪の有無
□ 注意指導や戒告・譴責の有無,回数
□ 注意等の後の社員の態度
□ 通常の勤務状況・成績

調査の際に収集する資料

□ メール・SNS等のやりとり
□ 被害者の診断書
□ 目撃者の証言
□ 注意指導を行った文書,メール
□ 懲戒処分通知書,始末書

量刑・情状酌量事情

□ パワハラ行為の具体的態様・悪質性
□ 被害者の被害の軽重
□ 会社の業務に与えた影響
□ 謝罪・反省の態度の有無
□ 治療費等の弁償の有無
□ 示談の成否
□ 入社後の勤務態度
□ 他の社員に与える影響の大小
□ 会社における過去の同種事案での処分例との比較
□ 他社及び裁判例における同種事案との処分例との比較

懲戒処分の進め方

1 不祥事の発覚
内外からの通報、上司・同僚による発見、本人申告等などにより不祥事が発覚します。
2 事実調査
懲戒処分に該当する可能性のある事案が発生した場合は,懲戒処分の前提として事実の調査を行います。
調査に支障がある場合は本人を自宅待機させます。
参考記事
すぐ分かる! 懲戒処分の調査のやり方
・懲戒に関する事情聴取のポイント
懲戒処分前の自宅待機命令の方法(雛形・書式あり)
社員のメールをモニタリングする場合の注意点【規程例あり】
3 処分の決定
調査により認定された事実に基づいて懲戒処分を行うか否か,行う場合の懲戒処分の種類・程度を決定します。
参考記事
・もう迷わない!分かりやすい懲戒処分の判断基準
・知っておきたい懲戒処分の有効要件
4 懲戒手続
懲戒委貞会の開催、弁明の機会付与等を行います。
参考記事
・知っておきたい懲戒処分の有効要件
5 懲戒処分の実施・公表
決定した懲戒処分を当該社員へ文書により通告します。
実施した懲戒処分について,必要に応じて社内外に公表します。
参考記事
受取拒否にも対応、懲戒処分を通知する方法【書式・ひな形あり】
名誉毀損にならない懲戒処分の公表方法【書式・ひな形あり】
6 再発防止措置
懲戒処分を行っただけでは再度同じ不祥事が生ずる可能性があります。
そこで、会社は再発防止の為に各種施策を講じます。 

各種書式

厳重注意書

令和4年3月15日

甲野 太郎 殿

○△商事株式会社
代表取締役 ○野 △太郎

厳重注意書

 貴殿の業務中の言動について、以下のとおりの問題点を指摘するとともに、注意します。注意を真摯に受け止め改善に努めてください。

貴殿は、○年○月○日、本社営業部内で、同じ部署のメンバーである△△氏に対し、「いいかげんにしろ」「何度も言わせるな」等と怒鳴りつける暴言をしました。

このような貴殿の言動は、組織の和を乱し職場環境を悪化させるのみならず、就業規則第○条○号(ハラスメントの禁止)に違反します。

今後こういった言動が繰り返されるときは、会社は、就業規則に則った人事上の処分(降格、懲戒処分等)をすることとなるので、その旨厳重に注意します。


注意確認書

株式会社 ○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿

上記注意内容を確認し、真摯に改善に取り組むことを誓約します。

   年   月   日

氏名                印

以上

※ 注意内容はできるだけ具体的な事実関係を記載します。
※ 注意を受けたことの証拠として、注意確認書を一体化させ、署名捺印を得ます。
※ 面談(録音する)の上、内容を読み上げて交付するのがベターです。本人が受取拒否した場合でも読み上げていることが録音されていれば告知したことを証明可能です。その他、受取拒否の場合には、自宅へ普通郵便で送付する、メールに添付して本人に送信する、SNSに添付して送信するなどの方法もあり得ます。

示談書

示 談 書

 ○○(以下、「甲」という。)と○○(以下、「乙」という。)は、株式会社○△商事株式会社(以下「丙」という。なお、立会人は人事部長○○)立ち会いの下、甲が乙に行った下記対象行為(以下「本件行為」という。)について、以下のように示談が成立したので、以下のとおり合意する。

【対象行為】

甲が、○年○月○日○時頃、本社営業部内で、同じ部署の部下である乙に対し、「いいかげんにしろ」「何度も言わせるな」等と怒鳴りつける暴言を吐いた上、手拳で乙の肩を数回殴打する暴行をし、もって乙に加療2週間の打撲の傷害を負わせた件

【示談条項】

  1. 甲は、乙に対し、本件行為に関し、深く謝罪し、甲はこれを受け入れる。
  2. 丙は、甲に対し、本件行為に関して、所定の手続により懲戒処分を行うとともに、甲に対してハラスメント研修の受講を命ずる。甲は、丙の懲戒処分を受け入れ、指定されたハラスメント研修を必ず受講し、再発防止に努める。
  3. 甲は、乙に対し、本件の示談金(本件による損害の賠償金、精神的損害に対する慰謝料、迷惑料の趣旨を含む)として、金10万円の支払い義務があることを認める。
  4. 甲は、乙に対し、前条の10万円を、本日、支払い、乙は、これを受領した。
  5. 甲と乙は、本件行為につき、示談金額を含めた全ての事項について第三者に公表しない。
  6. 甲と乙は、甲と乙との間で、本示談書に定めるものの他、何らの債権債務のないことを相互に確認する。乙と丙は、甲乙間の円満解決によって、本件行為については、何ら債権債務のないことを確認する。

示談成立の証として、本書面3通を作成し、甲乙丙各1通ずつ保管する。

○年○月○日

甲 住所
氏名            印
乙 住所
氏名            印
丙 東京都千代田区神田・・・・
○△商事株式会社 人事部長 ○○  印

※ 職場でのパワハラについて、被害者は加害者(上司)を相手に損害賠償を請求することができます。のみならず、使用者責任により会社に対しても損害賠償請求が可能です。そこで、紛争に発展する可能性が高い事案(怪我をさせた場合、病気を発症させた場合等)については、会社が仲介して加害者と被害者を示談させ、かつ会社との関係でも解決する形をとることが最善です。もっとも、軽微な事案については示談を仲介する必要はありません。

※ 会社の加害者に対する懲戒処分やハラスメント研修受講について記載することで、被害者の納得度が高まります。

※ 会社との関係でも債権債務がないことを確認させます。※これが一番重要

懲戒処分通知書

令和4年3月15日

甲野 太郎 殿

○△商事株式会社
代表取締役 ○野 △太郎

懲戒処分通知書

貴殿に対して、下記のとおり懲戒処分を通知する。

1 懲戒処分内容

減給(就業規則第○条第○項)

○○年○月分の給与について、基本給から○○円を減額する。

2 懲戒理由

部下であるY(被害者)に対し、〇年〇月〇日、同人が業務上の些細なミスを行ったことに対して、職場内で他の職員が大勢いる中、大声で「何度も同じミスをして、お前は穀潰しだ」などと怒鳴った。また、○年○月〇日には、Yが些細なミスを行ったことに対して、同人の座っている椅子を蹴りあげ、机に書類を何度も叩きつけ、大声で怒鳴り散らした。これらの言動は就業規則第○条○項で禁止されたパワーハラスメントに該当し、就業規則第○条第○項第○号の懲戒事由に該当する。

以上

弁護士吉村雄二郎

減給については、労働基準法91条により、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払い期の総額の10分の1を超えてはならないとされていることに注意が必要です。詳細は下記の記事をご参照下さい。

参考記事

5分で理解! 減給の懲戒処分の限界

その他、懲戒処分通知書のひな形は

受取拒否にも対応、懲戒処分を通知する方法【書式・ひな形あり】

懲戒処分は労務専門の弁護士へご相談を

弁護士に事前に相談することの重要性

懲戒処分は秩序違反に対する一種の制裁「罰」という性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。

懲戒処分の選択を誤った場合(処分が重すぎる場合)や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より懲戒処分無効の訴訟を起こされるリスクがあります。懲戒処分が無効となった場合、会社は、過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。

このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。

しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。

リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには労務専門の弁護士事前に相談することとお勧めします

労務専門の吉村労働再生法律事務所が提供するサポート

当事務所は、労務専門の事務所として懲戒処分に関しお困りの企業様へ以下のようなサポートを提供してます。お気軽にお問い合わせください。

労務専門法律相談

懲戒処分に関して専門弁護士に相談することが出来ます。法的なリスクへの基本的な対処法などを解決することができます。

詳しくは

サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。

懲戒処分のコンサルティング

懲戒処分は限られた時間の中で適正に行う必要があります。進めていくなかで生じた問題に対して適時適切な対応が要求されますので単発の法律相談では十分な解決ができないこともあります。
懲戒処分のコンサルティングにより、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。

詳しくは

サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。

労務専門顧問契約

懲戒処分のみならず人事労務は企業法務のリスクの大半を占めます。
継続的に労務専門の弁護士の就業規則のチェックや問題社員に対する対応についてのアドバイスを受けながら社内の人事労務体制を強固なものとすることが出来ます。
発生した懲戒処分についても、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。

詳しくは

労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。

パワハラ行為による懲戒処分に関する裁判例

犯罪行為レベルのセクハラ

大和交通事件

大阪高判平11.6.29

タクシー乗務員である従業員が,違法なスト(ピケッテイング)を行い,違法なタクシーパレードを企画,指導,実行し,また,同僚に対して暴言を吐いて脅迫をし,タクシー乗務を断念させて営業を妨害したことを理由に懲戒解雇された事案において,懲戒解雇を有効と判断した。

日本電信電話〔大阪淡路支店〕事件

大阪地判平8.7.31

従業員が,職場内において,上司,同僚に対し,度重なる恐喝,脅迫,強要,いやがらせ電話(因縁をつけて金銭を要求する行為等,懲戒事由として列挙されている行為は10以上に及ぶ)の行為を行ったことを理由に諭旨解雇された事案において,諭旨解雇を有効と判断した

民法上の不法行為レベルのパワハラ

M社事件

東京地裁平27.8.7判決労経速2263号3頁

不動産会社の営業部長が、複数の部下に対して「12月末に2000万円やらなければ、会社を辞めると一筆書け」「(地元)に戻って別の会社に転職しろ」「お前はまわりの人間に迷惑を掛けている。」「結果が手数料稼いでないんだから、やる気がないんだ」「お前の成績表を子供に見せたらもうわかるだろう、お前がいかに駄目なオヤジか分かるだろう」などの暴言を繰り返して行い、それにより部下に精神的苦痛を与え、ある者は継続的にカウンセリングを受けざるを得ない状態に陥らせたことなどを理由とした降格の懲戒処分について、裁判所は降格処分を有効と判断した。

ディーコープ事件

東京地裁平28.11.16判決 労経速2299号12頁

部長代行が部下に対して、「お前、アホか」「お前、クビ」「お前なんかいつでも辞めさせてやる」との暴言、「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなどのハラスメント行為を行い、部下らが異動を余儀なくされる、精神疾患になり休暇を余儀なくされたことを理由になされた諭旨解雇の懲戒処分について、裁判所は有効と判断した。

職場環境を阻害するレベルのパワハラ

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