SNSガイドライン

社員のSNSを禁止して炎上被害を防止する方法(ガイドライン・書式あり)

  • 2022年7月4日
  • 2024年11月11日
  • 懲戒

近年、社員がSNSの不適切な投稿が炎上し、会社が対応に追われるケースが絶えません。このような炎上被害を防止するためには、会社が就業規則やガイドラインにより社員のSNSを禁止することが有効です。本稿では、社員のSNSを禁止して炎上被害を防止する規程例・ガイドライン・書式について説明します。

社長
ちょっと前にベンチャー企業の採用担当者が個人SNSで会社名を出して「給与で会社を選ぶ人とは働きくない」などと投稿して炎上しているケースを目にしました。人手不足の昨今、批判必至のSNS投稿を採用担当者がするなんて信じられません。そこで、個人のSNSを制限・禁止し、違反したい場合に懲戒処分を科したいと考えているのですが、可能でしょうか。
弁護士吉村雄二郎
社員が個人のSNS投稿を制限し、違反した場合に懲戒処分を科すことは可能です。そのためには、就業規則の規定整備、SNS投稿にかかるガイドラインの策定が有効です。その他、SNSに関する社員教育も行うこともご検討ください。
社員の個人SNSを制限・禁止する方法
就業規則の規程例
社員のSNSガイドラインの作成例
SNSで炎上させた社員の懲戒処分

1 SNSの活用状況

現在Twitter、Facebook、Instagram、LINE、Youtube、TikTokなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が広く社会に普及しています。個人が私的に利用するのみならず、企業活動にも利用され場面が増大しています。

SNSは、誰でもアカウントを作成することができ、書き込みや投稿も簡単にできます。

その反面、投稿内容が第三者の目に触れる機会も多く、拡散の危険性があります。

すなわち、いったん行われた投稿は、ツイッターのリツイート機能やフェイスブックのシェア機能などにより、簡単に他のユーザーの投稿を再投稿することが可能であり、それが繰り返されることにより瞬く間に情報が拡散されることがあります。

この拡散性がSNSの最大の特徴かつリスクといっても過言ではありません。

投稿内容が不適切な場合は、いわゆる「炎上」事案に発展します。

社員個人がSNSで会社の事業に関連する投稿を行い炎上した場合は、会社の社会的評価が低下する、ひいては業務上の支障や損害の発生といった事態にもなることがあります。

2 社員個人のSNSを制限・禁止できるか

では、社員個人のSNS利用を会社が制限または禁止することはできるのでしょうか。

2.1 SNSの私的利用は原則自由

社員が、業務とは無関係にプライベートな場面でSNSを使って何を投稿しようが本来は自由です。

表現の自由が憲法21条で保障されていますし、業務外のプライベートな場面には会社の規制を及ぼすことができないのが原則です。

しかし、前記のとおり社員個人のSNSであっても、会社に関連し、かつ、会社に不利益な情報が拡散された場合は、会社の信用が損なわれ、さらには業務に影響がでることがあります。

2.2 SNSの私的利用を制限できる場合

労働者は,労働契約に付随する義務として使用者に不当に損害を与えないようにするべき誠実義務・忠実義務を負っています

それゆえ、労働者は、勤務時間の内外や職場内外を問わず使用者の名誉や信用を毀損し、または、不当に損害を与えるような行為をしてはならない法的義務を負っています

裁判例においても「企業秩序は,通常,労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうるのであるが,職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても,企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから,使用者は,企業秩序の維持確保のために,そのような行為をも規制の対象とし,これを理由として労働者に懲戒を課することも許される」(関西電力事件 最一小判昭58.9.8判時1094号121頁)と判示しています。

社員によるSNSの私的利用に関しても、その投稿等によって、会社の信用を毀損しまたは会社に損害等を与えることを禁止し、これに違反した場合は懲戒処分の対象とすることは可能です。

2.3 SNSの私的利用の制限方法

以上については、就業規則、ガイドライン、誓約書をもって定めることがよいでしょう。

就業規則には 重要ポイント ①会社の内外を問わず、会社の信用を毀損しまたは会社に損害等を与えることを禁止し、②これに違反した場合は懲戒処分の対象とすることを定めます。

もっとも、SNSの私的利用に関する細かなルールについて、基本規程である就業規則に定めることは適当ではありません。

そこで、SNSの私的利用に関する詳細なルールについては、SNSガイドラインで定めます。就業規則にも詳細はガイドラインに委ねることを記載します。

さらに、従業員の自覚を促すためにSNSの私的利用に関する誓約書も取るとなおよいでしょう。

3 SNSに関する就業規則規程例

就業規則には、従業員の就業等に関するルール(服務規律)を定めている部分が必ずあります。

就業規則には 重要ポイント ①会社の内外を問わず、会社の信用を毀損しまたは会社に損害等を与えることを禁止し、②これに違反した場合は懲戒処分の対象とすることを定めます。

服務規律に以下のような規定を追加します。

第〇条(服務規律)
従業員は次の各号の事項を遵守しなければならない。
…(中略)…
○ 会社の内外を問わず、ブログ、X、Facebook、Instagram、LINE等のSNS、Youtube等の動画サイトまたはインターネット上の掲示板を利用する場合には、別途定めるSNSガイドラインに従い、会社の名誉や信用を段損する内容又はそのおそれのある投稿を行ってはならない。

懲戒処分を行う場合は懲戒事由を定める必要があります。

一般的には、以下のように服務規律に違反したことを包括的に懲戒事由として定めます。

第○条(懲戒の事由)
1 従業員が、服務規律(第○条)の各規定その他この規則及び諸規程に違反したときは、前条に定めるところにより、懲戒処分を行う。
2 前項にかかわらず、従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。
…(中略)…
○ 第○条第○号(SNS等による名誉・信用段損行為の禁止)に違反し,会社の名誉又は信用を著しく段損する行為をし,又は会社に重大な損害を与えた場合

4 SNSに関するガイドラインの定め方

SNSの利用に関する詳細なルールはガイドラインにまとめて規定します。

ガイドラインに定めることにより、労働契約の内容の一部として、社員に

規定するべき事項は一般的には以下のようなものになります。

適用対象者

SNSガイドラインの適用対象者を定めます。通常は、会社で勤務する正社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員、業務委託社員など幅広く対象とします。

SNSの定義

規制対象となるSNSを定義します。

ブログ、Twitter、Facebook、Instagram、LINE等のSNS、Youtube等の動画サイトになりますが、昨今のテクノロジーの進化から、様々なSNSが新たに登場していますので、特定することはできません。

そこで、よくある典型的なSNSを例示で列挙した上で、その他インターネット上の掲示板等で不特定多数のユーザーに情報を発信できるサービスという形で定めます。

SNSの特徴についての留意点

SNSについてルールを定めるにあたり、SNSの特徴を理解させる必要があります。

そこで、以下のような点について留意点として列挙して、社員の自覚を促します。

  • SNSの投稿は、自分の意図とは関係なく、拡散される可能性が高いこと
  • 一度投稿した内容が拡散されると、完全に削除することは困難であること
  • 匿名での投稿でも、個人や所属会社を特定される可能性があること
  • 不適切な投稿が拡散された場合、会社の名誉又は信用を著しく段損し,重大な損害を与える可能性があること

SNSの投稿に際しての注意点

従業員は、SNSを利用・投稿するに際に以下の点に注意して慎重に行わなければならないことを定めます。

  • プロフィール欄、投稿欄その他において、会社名、会社のロゴなど会社が特定される可能性がある情報を記載することの禁止
  • 所属する会社とは無関係の個人の意見であることを明記すること
  • 会社の営業秘密など業務上知り得る会社情報はSNSへの投稿を行わないこと
  • 誹諺中傷や名誉毀損、会社批判等を行わないこと
  • 人種・国籍への誹諺中傷、特定の個人・団体への誹誘中傷、差別的表現、侮辱的表現、わいせつ的表現、違法行為を助長する表現の禁止
  • プライバシー権・肖像権・著作権などの権利を侵害するような投稿の禁止
  • 思想信条、政治、宗教に関わる投稿などは慎重に投稿すること。
  • 自社製品に関して投稿する場合、さくら行為・やらせ行為のステルスマーケテイングと誤解されないように注意すること
  • その他、良識を持ってSNSを利用すること

トラブル発生時の義務

万が一、社員が発信してSNSが原因でトラブルに発展した場合、以下のような対応を義務づけます。

トラブルが発生した場合は直ちに会社に相談するべきこと

SNSによるトラブルが発生した際、初動対応が最も重要です。初動対応を誤ったが故に、甚大な風評被害が発生し、損害を及ぼしてしまった事例は枚挙に暇がありません。

そこで、トラブルが発生した場合は直ちに会社に報告するべきことを義務として定めます。

これにより初動対応から会社がコントロールすることができるようになります。

問題のあるSNSの投稿は会社の指示に従って削除・修正すること

また、トラブルを把握した後、SNSの投稿の修正、削除など適切な対応が必要です。

基本的に社員のSNSアカウントなので会社が一方的に削除や変更をすることはできません。

そこで、会社の指示に従って削除・修正する義務があることを明記します。

違反者の懲戒、損害賠償義務

ガイドラインに違反した場合のペナルティを定め、ルールを遵守させる実効性を持たせます。

違反者は懲戒処分、解雇、不利益な人事処分の対象になるほか、会社に損害が発生した場合の損害賠償義務を負うことを明記します。

相談窓口

SNSガイドラインに関連した相談窓口も明記して周知します。

こうすることによりトラブル発生時の相談や情報共有がしやすくなり、会社による適切な対応が可能となります。

SNSガイドラインのフォーマット

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※ 就業規則の別規程として、就業規則に準じて従業員に周知してください。

5 SNSに関する誓約書

就業規則の定めやガイドラインだけですと「就業規則やガイドラインの存在は知らない」「知らない間に会社が一方的に定めた」などと弁解する社員もいます。

そこで、社員に自覚させ、SNSに関する遵守事項を明確に労働契約上の義務に落とし込むため、誓約書も取り交わすことが有効です。

規定事項

  • 勤務時間中のSNS利用の禁止
  • 貸与PCの私的利用の禁止
  • SNS投稿上の注意点
  • トラブル発生時の報告・削除義務
  • 違反した場合のペナルティ(懲戒、損害賠償など)
  • 就業規則、SNSガイドラインの遵守

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メールやPCのモニタリングについてはこちら

5分でわかる 社員のメールをモニタリングする場合の注意点【規程例あり】

6 SNSに関する社員教育

SNSで不適切な投稿を行い炎上した場合、会社の名誉信用を毀損し、事業活動にも影響を及ぼす可能性があります。その予防のためには、前記社内規定や誓約書を取ることはもちろんですが、従業員の理解を高めるべくSNSに関する教育を行うことが重要です。

懲戒処分を行う場合も、会社がSNSに関する教育を実施していたか否かは重要なポイントとなります。

前掲のガイドラインを用いつつも、適宜実例を紹介しながら理解を促進し、定期的な研修の内容にも組み込んでフォローアップすることが重要です。

7 懲戒処分

就業規則・ガイドライン・誓約書でSNSの使用についてルールを定めたにも限らず、これに違反してSNSを投稿し炎上させた場合、いかなる懲戒処分ができるのでしょうか?

懲戒事由該当性

企業秩序に違反する行為があった場合には、違反者に対し制裁として懲戒処分を行うことができます。具体的には、服務規律または服務に関する具体的指示・命令(前記のとおりガイドラインを定めた場合は同ガイドライン)に違反する場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し就業規則の定めるとこ従い制裁として懲戒処分を行うことができます。

懲戒処分の量定

SNSの私的利用による懲戒処分は、

①表現行為の内容(真実性・社会的な妥当性など)
②会社の社会的評価に与える影響の大小
③悪質性(真実か事実無根か、回数、期間、隠蔽工作)
④ 会社へ発生した損害・寄せられたクレームの件数
⑤削除要求への対応
⑥動機
⑦会社批判がなされる会社側の落ち度

などの諸要素を総合的に考慮して懲戒処分を決定します。

SNSの私的利用については、基本的に業務外の行為であることから、戒告・譴責、減給、出勤停止程度の処分が相当である場合が多いと思われます。

もっとも、会社が注意指導を繰り返していたにもかかわらず、会社又は他の従業員の名誉又は信用を著しく段損する行為をし,又は会社に重大な損害を与えた場合は、懲戒解雇・諭旨解雇・普通解雇も可能であると考えます。

参考記事

懲戒処分は労務専門の弁護士へご相談を

弁護士に事前に相談することの重要性

懲戒処分は秩序違反に対する一種の制裁「罰」という性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。

懲戒処分の選択を誤った場合(処分が重すぎる場合)や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より懲戒処分無効の訴訟を起こされるリスクがあります。懲戒処分が無効となった場合、会社は、過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。

このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。

しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。

リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには労務専門の弁護士事前に相談することとお勧めします

労務専門の吉村労働再生法律事務所が提供するサポート

当事務所は、労務専門の事務所として懲戒処分に関しお困りの企業様へ以下のようなサポートを提供してます。お気軽にお問い合わせください。

労務専門法律相談

懲戒処分に関して専門弁護士に相談することが出来ます。法的なリスクへの基本的な対処法などを解決することができます。

詳しくは

サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。

懲戒処分のコンサルティング

懲戒処分は限られた時間の中で適正に行う必要があります。進めていくなかで生じた問題に対して適時適切な対応が要求されますので単発の法律相談では十分な解決ができないこともあります。
懲戒処分のコンサルティングにより、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。

詳しくは

サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。

労務専門顧問契約

懲戒処分のみならず人事労務は企業法務のリスクの大半を占めます。
継続的に労務専門の弁護士の就業規則のチェックや問題社員に対する対応についてのアドバイスを受けながら社内の人事労務体制を強固なものとすることが出来ます。
発生した懲戒処分についても、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。

詳しくは

労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。

まとめ

以上お分かり頂けましたでしょうか。

社員の私的なSNS投稿が炎上し、会社に飛び火した場合、会社の名誉信用が大きく損なわれ、その回復のために多大な負担・コストを強いられることになります。加害者である社員に対して、懲戒処分や損害賠償請求ができますが、会社が受けた損害は到底回復するとはできません。

予防こそが最大の解決策となります。

就業規則の規定、ガイドラインの策定、誓約書の取得、社員教育という4点セットでご対応を行われることを強くお勧めします。

 

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