解雇は出来る限り回避し,説得の上で退職・合意解約を行うか,期間満了による契約終了を行う方が穏当
1 民法、労働契約法の規定
有期雇用契約の期間途中の解雇については、民法628条は、有期雇用契約であっても「やむを得ない事由」がある場合は中途解約をなし得るとし、さらに、労働契約法17条1項は「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と規定しています。
つまり、使用者の解雇は「やむを得ない事由」がなければできないことを強行規定として定めました。
民法628条
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
労働契約法17条1項
使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 「やむを得ない事由」
問題は、どのような場合が「やむを得ない事由」に該当するのかです。
この点については、「契約期間は労働者及び使用者が合意により決定したものであり、遵守されるべきものであることから、『やむを得ない事由』があると認められる場合は、解雇権濫用法理における『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合』以外の場合よりも狭いと解される」(平24.8.10 基発0810第2、平24.10.26 基発1026第1)とされています。
つまり、有期契約の契約期間途中での解雇の有効性は、期間の定めのない労働契約(正社員)の解雇に比べて、より厳しく判断されるといえます。
具体的には、使用者の都合による解雇の場合は、天災事変や経済的事情により事業の継続が困難となったことが必要であると解されています。
裁判例では、雇用期間を3ヶ月とし、所得金額に上限を設けること無く正社員以上に残業が可能であり、労使双方とも雇用契約の継続を当然のこととし、約14年間ないし17年間雇用を継続してきたパート労働者を受注減を理由に、就業規則の中途解雇事由に基づき契約期間の途中に解雇した事案について、「このような期間の定めのある労働契約は、やむを得ない事由がある場合に限って期間内解除(ただし労働基準法20条、21条による予告が必要)が許されるのであるから(民628条)、就業規則の解釈に当たっても、本件解雇が3ヶ月の雇用期間の途中でなされなければならないほどのやむを得ない事由のあることが必要というべきである」とし、本件において「雇用期間満了を待たずに本件整理解雇をしなければならないほどのやむを得ない事由があったものとは認められない」とし整理解雇を無効としたもの(安川電機八幡工場[パート解雇・本訴]事件 福岡地裁小倉支部平16.5.11労判879.71)が参考になります。
3 対応方法
解雇の進め方についてはこちらをご参照ください。
雇止めの進め方は下記の記事をご参照ください。
社長当社は中小の電子部品メーカーですが、製造工員としてYを期間半年間と定めて嘱託社員として雇用し、以降4回の契約更新を経ました。しかし、Yは最初こそはまじめに勤務していたのですが、徐々にミスが多くなり、しばしば遅刻欠勤を繰り[…]
4 参考裁判例
期間途中の解雇が無効とされた事例
安川電機八幡工場事件
福岡地方裁判所小倉支部判決平成16年5月11日労判879号71頁
(事案及び判断)
雇用期間を3カ月とし,所得金額に上限を設けることなく正社員以上に残業が可能であり,労使双方とも雇用契約の継続を当然のこととし,約14年ないし17年間雇用を継続してきたパート労働者を受注減を理由に,就業規則の中途解雇事由に基づき契約期間の途中に解雇した事案について,「このような期間の定めのある労働契約は,やむを得ない事由がある場合に限って期間内解除(ただし労働基準法20条,21条による予告が必要)が許されるのであるから(民628条),就業規則の解釈に当たっても,本件解雇が3ケ月の雇用期間の中途でなされなければならないほどのやむを得ない事由のあることが必要というべきである」とし,本件において,「雇用期間の満了を待たずに本件整理解雇をしなければならないほどのやむを得ない事由があったものとは認められない」とし整理解雇は無効とした。
プレミアライン[仮処分]事件
宇都宮地裁栃木支決平21.4.28・労判982.5頁
(事案及び判断)
派遣会社との間で有期の派遣労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結し,平成20年10月1日に,期間を平成21年3月31日までとして契約を更新して雇用されており,A株式会社(以下「A」という。)の栃木工場に派遣されていた労働者が,派遣会社に対し,派遣会社がAから派遣会社との間の労働者派遣契約を解除されたとして平成20年11月17日付け書面(以下「本件解雇予告通知書」という。)を派遣労働者に対して交付し,解雇日を同年12月26日とする解雇予告を通知して解雇されたが(以下「本件解雇」という。),本件解雇は無効であるとして,平均賃金月額26万5763円による平成21年1月から同年3月までの3か月分合計金79万7289円の賃金の仮払いを求める事案である。
この点,有期雇用契約の期間内解約について通達と同様に「期間内解雇(解約)の有効要件は,期間の定めのない労働契約の解雇が権利の濫用として無効となる要件である『客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合』(労契法16条)よりも厳格なものであり,このことを逆にいえば,その無効の要件を充足するような期間内解除は,明らかに無効である』ということができる」と判示した。
雇い止めが有効と判断された事例
ネスレコンフェクショナリー関西支店事件
大阪地判平17.3.30 労判892-5
(事案及び判断)
菓子類の販売を業とする会社に契約期間を1年として雇用され,1回ないし11回の更新を行い,菓子類をスーパーマーケット等の店舗で販売促進する業務(MD業務)を行っていたところ,会社は,MD業務を他の会社に業務委託することを決定し,説明会で,(期間途中の解雇条項により)原告らを期間途中で解雇(予備的にそれぞれの契約期間満了日において本件各契約の更新をしない旨を通知)した事案について,「民法628条は,(期間の定めがある場合)においても『巳ムコトヲ得サル事由』がある場合は,解除することができる旨を定めている。そうすると,民法628条は,一定の期間解約申し入れを排除する旨の定めのある雇用契約においても,前記事由がある場合に当事者の解除権を保障したものといえるから,解除事由をより厳格にする当事者間の合意は同条の趣旨に反し無効というべきであり,その点において同条は強行規定というべきであるが,同条は当事者において,より前記解除事由を緩やかにする合意をすることまで禁じる趣旨とは解しがたい。」とし,期間途中に解約しうる合意を有効とした。