採用内々定取消

採用内々定の取り消し

社長
当社は、不動産売買,賃貸,斡旋,仲介及び管理等を行う株式会社です。当社では、平成23年4月頃、平成24年3月大学卒業予定者を対象に採用活動を行い、当時大学4年生のYに対し、平成23年5月30日頃に「採用内定のご連絡」と題する書面および入社承諾書の送付をしたところ、Yは同月31日付で入社承諾書に記名・押印して返送しました。なお、本件内々定通知は,会社の人事事務担当者の名義で作成されており,さらに,「正式な内定通知授与は平成23年10月1日を予定しております」と記載されていました。その後、業績悪化を理由に、当社は、9月29日付でその内々定の取消の通知を行いました。このような採用内々定の取り消しは許されないでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
採用内々定は正式な内定(労働契約に関する確定的な意思の合致)とは明らかにその性質を異にするものであって,正式な内定までの間,企業が新卒者をできるだけ確保しようとする事実上の活動の域を出るものではないというべきであり,Yもそのこと自体は十分に認識していたといえます。従って、本件内々定によって,Y主張のような始期付解約権留保付労働契約が成立したとは認められないと言えます。ただし、内々定から4ヶ月が経過し、内定通知授与の2日前に内々定取り消しを行っており、Yの期待権を侵害したとして一定の損害賠償(慰謝料)の支払義務が生ずる可能性があります。
採用内々定は採用内定と異なり始期付解約権留保付労働契約が成立したとは言えないと回される余地があります。ただ、「内定」「内々定」の表題で区別するのではなく、実質的に判断される。
採用内々定が始期付解約権留保付労働契約ではないとしても、一定の場合期待権を侵害したとして損害賠償義務が発生する場合がある。

1 採用内定のプロセス

企業が新規学卒者の採用をする場合,企業による募集,労働者による応募,企業が面接や採用試験を実施し,それによって採用を決定し,採用内定を通知し,それに対し労働者より誓約書,身元保証書などの必要書類を提出し,企業によっては健康診断を実施するなどの過程を経て,入社日に入社式や辞令交付をするというプロセスを経るのが通常です。

2 採用内定の法的性質

ではこのようなプロセスの中で,いつ,どのような労働契約が締結されているのでしょうか? 裁判例では,以下のように確立されていきました。すなわち,企業による募集は「労働契約申し込みの誘引」であり,それに対する応募(エントリーシートの送付,必要書類の送付等),または採用試験の受験は労働者による「契約の申し込み」です。そして,採用内定(決定)通知の発信は,使用者による「契約の承諾」であり,これによって「労働契約」が成立します。ただし,内定通知の段階では,申込者も学生であり,実際に会社で勤務することはありませんので,通常の労働契約とは異なります。4月1日から勤務開始となるというような「始期」が付いており,また,単位が取得できずに卒業できなかった場合は解消されるといった「解約権」も付いています。ですので,内定通知が出た段階で成立する労働契約は,「始期付解約権留保付労働契約」であると言われています(漢字が続くので難しそうですが,実際には上記のとおり常識的なものなのです。)。

3 どのような場合に内定取消ができるのか?

3.1 内定取消が認められるのは限定的な場合のみ

上記のとおり解約権を留保していれば,自由に解約権を行使して内定取消ができるものではありません。採用内定取消事由については,通常は採用内定通知書や誓約書等に記載されていますが,記載されている事項に該当すれば常に内定取消事由になるものではありません。裁判例によれば,採用内定取消が認められるのは,「採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できない」事実が後に判明し,しかも,それにより採用内定を取り消すことが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる」場合に限られるのです。他方で,内定取消事由として明示されていなかった事由についても,上記裁判例の要件に該当する場合は内定取消が可能とされています。結局は,記載されていた内定取消事由に拘らず,上記判例の合理的理由,社会的相当性という要件をクリアするかが問題となると言えます。そして,この要件は,解雇権濫用法理の合理性判断と共通する部分が多く,「解約権留保」という法律構成を裁判所が取ることに意味はあまりないとも言えます。

3.2 具体的な内定取消事由

典型的には内定者が卒業できなかった場合や就労に耐えられないほど健康状態が悪化した場合などは,一般に合理的な事由と認められています。
また,業績悪化による職務廃止を理由とする内定取消については,整理解雇の判断枠組みが準用され,人員削減の必要性,内定取消回避努力,人選の合理性,手続の妥当性という4要件をクリアする必要があります。

4 内定者研修へ参加しなかったことは、適法な内定取消事由となりますか?

内定者については、入社前に研修が実施されることがあります。ただ、このような研修への参加は、あくまで労働者の任意に委ねられるべきであり、研修に参加しないことを理由として内定を取り消すことは許されません。
裁判例には、新卒採用が内定した大学院生が入社前研修への参加を断ったところ、実質的な内定取消しがなされた事案について、「使用者が、内定者に対し、本来は入社後に業務として行われるべき研修を(入社日前に)業務命令として命ずる根拠はな」く、入社前研修は、「内定者の任意に基づいて実施されるもの」であり、「使用者は、内定者の学業を阻害してはならない」として、内定取消しを違法としたものがあります(宣伝会議事件・東京地判平成17.1.28労判890)。

5 内定取消しに関する裁判例にはどのようなものがありますか?
内定取消しが無効であると判断された裁判例としては、内定者がグルーミー(陰気)な印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないという理由で採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかったから採用内定を取り消したという事案につき、(そのような内定取消しは)社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用にあたり内定取消しは無効であるとしたもの(大日本印刷事件・最二小判昭和54.7.20民集33-5-582)、ヘッドハンティングによりマネージャー職にスカウトした労働者に対し、同職が廃止されたことを理由に内定を取り消したのは、信義則に反し、社会通念上相当な理由もなく、整理解雇の4要件(①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇することの必要性、③被解雇者選定の合理性、④手続の妥当性、という4要素を総合考慮のうえ、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができる場合に限り、解雇を有効と認めるというもの)に照らしても無効であるとしたもの(インフォミックス事件・東京地決平9.10.31労判726-37)などがあります。 これに対し、内定取消しを有効とした裁判例としては、無届けデモにより公安条例違反等の現行犯として逮捕され起訴猶予処分を受けるなどの違法行為をしたことを理由とする内定取消しを有効としたもの(電電公社近畿電通局事件・最二小判昭和55.5.30労判342)があります。

6 採用内々定とは

参考判例として、コーセーアールイー〔第2〕事件(福岡地判平22.6.2労判1008-5)があります。その内容は、次のようなものです。

①  Xが大学4年に在籍していた平成20年5月に,被告Y社から採用の内々定通知を受け,入社承諾書を提出後の同年9月に本件内々定取消しの通知を受けました。その点について、裁判所は、本件内々定は正式な内定(労働契約に関する確定的な意思の合致)とは明らかにその性質を異にするものであって,正式な内定までの間,企業が新卒者をできるだけ囲い込んで,他の企業に流れることを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではないというべきであり,Xらもそのこと自体は十分に認識していたのであるから,本件内々定によって,X主張のような始期付解約権留保付労働契約が成立したとは認められないと判断しました。

②  他方で、Xが,Y社から採用内定を得られること,ひいてはY社に就労できることについて,強い期待を抱いていたことはむしろ当然のことであり,特に,採用内定通知書交付の日程が定まり,そのわずか数日前に至った段階では,Y社とXとの間で労働契約が確実に締結されるであろうとのXの期待は,法的保護に十分に値する程度に高まっていたと判断しました。

③  その上で、Y社による本件内々定取消しは,労働契約締結過程における信義則に反し,Xの期待利益を侵害するものとして不法行為を構成するから,Y社は,XがY社への採用を信頼したために被った損害について賠償すべき責任を負うとして,慰謝料100万円,弁護士費用10万円が認めました。

以上が判例ですが、労働契約の申込み・承諾は口頭でも成立するのであり、「内々定」も、法的には「内定」=労働契約の成立と評価できる場合が多いのが実情です。したがって、「内定」か「内々定」かという用語の違いに惑わされずに、「内々定」についても、通知を受けたときの状況、通知の具体的内容や当事者間の認識など実態を調査し、実質的に始期付解約権留保付労働契約と評価できるかを検討する必要があります。

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