入社時誓約書の作り方

【5分でわかる!】入社時誓約書の作り方(すぐ使える書式あり)

会社では就業規則その他諸規程などにより様々な職務上のルールを定めて労働契約の内容としています。ところが、労働者が、そのルールを「知らない」「聞いていない」「会社が勝手に定めた」と後になって主張し、ルールが適用されずに会社に数百万円の損害が生ずることがあります。しかし、社員が入社したときに、雇用契約書とともに誓約書でルールの確認を取ることで、トラブルを回避できるばかりか、ルール遵守の意識付けができます。そこで、今回は入社時誓約書の作り方について、5分で分かるように説明します。すぐ使える書式(ダウンロード可能)もありますので、是非最後までお読み下さい。

 
社長
社員が入社するときに、労働条件通知書や雇用契約書のほかに、誓約書も従業員に提出してもらった方がよいと聞きました。でも、必要な労働条件は労働条件通知書や雇用契約書に記載されているのに、重ねて誓約書をとる意味はあるのですか?入社時に取る書面は出来るだけ減らしたいと思っています。
 
弁護士吉村雄二郎
労働条件通知書や雇用契約書を取り交わしているのであれば、入社時に誓約書を取る法的な義務はありません。もっとも、労働者が、就業規則その他諸規程のルールを「知らない」「聞いていない」「会社が勝手に定めた」と後になって主張し、会社に数百万円の損害が生ずることがあります。そこで、誓約書に①就業規則その他諸規程を遵守すること、②秘密保持義務(退職後含む)、③競業避止義務(退職後含む)、④その他特に明確に合意を得ておくことが相当な事項を記載することで、トラブルを回避しつつ、従業員にルール遵守の意識付けができます。それゆえ、労働条件通知書や雇用契約書のほかに、誓約書も従業員に提出してもらいましょう。
入社時誓約書とは、必要な理由は
誓約書に記載するべき事項
誓約書の書式・フォーマット

入社時誓約書とは

入社誓約書とは、労働者が会社との労働契約時に、当該会社が就業規則その他諸規程により定めた規律を遵守することを誓約することを記載した文書をいいます。

労働契約の締結に際しては、労働条件通知書や雇用契約書を取り交わして労働条件の確認をするのが通常です。労働条件通知書や雇用契約書では、契約期間、業務内容・職種、労働時間、賃金、退職などの基本的な労働条件が確認・合意されます。

参考記事

5分でわかる!労働条件通知書の記載事項【すぐ使える書式あり】

このほかにも入社誓約書を取り交わすことは必要なのでしょうか?

就業規則内容に対する包括的同意を得る

会社と従業員間の契約内容は、例えば、契約期間、業務内容・職種、労働時間、賃金、退職などの労働条件のほか、服務規律や懲戒などのルールがあり、その具体的詳細な内容は一般的には就業規則により定められます。

そして、労働契約の締結時に、従業員に就業規則を周知していた場合は、労働者の同意を得なくとも、就業規則の内容がそのまま従業員との間で有効な契約内容となります。

労働契約法 第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。

もっとも、信じられないかもしれませんが、従業員の中には、雇用契約の際に周知していた就業規則を後になって「知らない」「聞いていない」「会社が勝手に定めた」と主張し、就業規則の適用を逃れようとする者がいます。

そして、就業規則に定めたルールを無視して、会社に数百万円から数千万円の損害を及ぼす行為に出ることもあります(例えば、秘密保持義務違反など)。また、配置転換命令や懲戒処分を逃れようとする者もいます。

そこで、こういった就業規則のルールを逃れをさせないために、就業規則の存在を従業員に確認させ、そこに定められたルールを遵守することを約束させる入社時誓約書を提出させることが必要となります。

入社時誓約書において「就業規則の規定内容が労働契約の内容となることを確認のうえ,就業規則を遵守します」といった文言を明記し、署名の上提出させることで、就業規則の内容を労働契約の内容としたことの証明となりますので非常に重要な意味を持ちます。

特に遵守させたい事項を意識付けしてトラブルを防ぐ

就業規則その他諸規程に、労働者に遵守させたい全てのルールが記載されているのであれば、入社時誓約書には「就業規則の規定内容が労働契約の内容となることを確認のうえ,就業規則を遵守します」とだけ記載しておけば本来十分です。

もっとも、たとえ就業規則に全てのルールが記載されていたとしても、労働者が隅々までそれを読んで認識してくれるとは限りません

読まれなくとも周知されていれば法的に効果はありますので問題が起きれば事後的に責任追及は可能です。しかし、事後的に責任追及をするよりは、事前に予防することのほうが遙かに重要です。会社に発生した損害(信用問題も含む)は、事後的には完全には回復できないからです。

そこで、特に遵守させたい・認識させたい事項を入社時誓約書に記載して、それを労働者に意識付けしてトラブルを防止します。

誓約書の記載するべき事項

誓約書に記載するべき事項は、「就業規則の内容の包括的同意」は必須ですが、それ以外の事項は、各社において特に遵守させたい・認識させたい事項を厳選して記載します。

就業ルールには重要なものが多いので、多数の事項を記載したいところですが、一般的にはA4一枚に収まる程度の内容を記載します。

以下では、入社時誓約書に記載されることが多い記載事項を紹介します。

就業規則の内容の包括的同意  必須

○ 就業規則その他諸規程(以下「就業規則等」という。)の規定内容が労働契約の内容となることを確認し、就業規則等を遵守します。

前記のとおり就業規則の内容の包括的同意を得るための必須記載事項です。

経歴等に偽りはないこと

○ 採用選考時又は採用決定時の提出書類や申告事項は事実と相違しません。

入社後に経歴詐称が発覚し、(試用期間中に)解雇する場合があります。その場合に備えた記載となります。

業務命令・配転命令・職種変更・昇降格に従うこと

○ 会社が業務上の必要に応じて業務命令、配置転換、職種変更、職務変更、転勤、出向、昇降格を命じた場合は、これに従います。

業務命令に従うことはもとより、就業規則上の根拠に基づいて行われる配置転換、職種変更、職務変更、転勤、出向、昇降格の命令は拒否せず従うことを定めます。

特に配置転換、職種変更、職務変更、転勤、出向、昇降格の命令は、従業員がこれを拒否して争うケースがあるため誓約書において明記します。

企業外非行(SNS含む)の禁止

○ 会社・業務時間の内外を問わず、会社の名誉、信用その他の社会的評価を害し、企業秩序を乱すことのないように行動します。また、ブログ、Twitter、Facebook、Instagram、LINE等のSNS、Youtube等の動画サイトまたはインターネット上の掲示板を利用する場合には、別途定めるSNSガイドラインに従い、会社の名誉や信用を段損する内容又はそのおそれのある投稿は行いません。
○ 会社の事前の許可なく,会社に関連して、業務以外の目的で,写真撮影,録音又は録画を行いません。

会社・業務時間の外であっても、従業員の非行により会社の社会的評価が害されることがあります。近時はSNSによる不適切な投稿により会社の社会的評価が毀損され、経済的にも損害が生じている事例が多くなっています。

そこで、会社・業務時間の内外を問わず、会社の名誉信用を毀損する行動を禁止し、それを誓約書で遵守させます。

SNSについては、別途ガイドラインに詳細を規定し、誓約書ではそれを遵守することを約束させます。

また、SNSによる拡散を防止するには、そもそも撮影・録音・録画を禁止することが有効です。

SNS炎上防止に関する詳細はこちら

社員のSNSを禁止して炎上被害を防止する方法(ガイドライン・書式あり)

撮影・録音・録画の禁止に関する詳細はこちら

【5分で分かる】職場での録音・撮影を禁止する方法

メール等のモニタリングがあること

○ 会社の情報システム及び情報資産の一切が会社に帰属していることを理解し,会社が情報システム及び情報資産の保護のために必要であると認めた場合には,私の電子メール、貸与パソコンに関するデータ等を私に断りなくモニタリングすることがあることを承知し,これに同意します。

会社は情報漏洩や勤怠管理など調査に合理的な必要がある場合に、社内のメールサーバーに蓄積されたメールデータを調査(モニタリング)することができます。

もっとも、根拠規定なく、社員に無断でモニタリングをすることは、適法であったとしても、紛争に発展する可能性があるため、就業規則において根拠規定を定めるとともに、誓約書にも記載することがベターです。

メールやPCのモニタリングについてはこちら

5分でわかる 社員のメールをモニタリングする場合の注意点【規程例あり】

秘密保持義務

○ 会社の企業秘密、営業秘篭、顧客および間係者等の企業秘密並びに個人情報(個人番号を含む)、その他職務上知り得た秘密は、在職中及び退職後において、第三者へ漏洩し、または、無断で使用しません。

秘密保持に関する誓約です。別途秘密保持誓約書を取り交わす場合もありますが、入社誓約書と一緒に取り交わすこともあります。

在職中の秘密保持義務については、あえて就業規則や誓約書に明記しなくとも、従業員はその義務を負っています。もっとも、従業員に対し、秘密保持の重要性について明確に認識させ、秘密保持に関する自覚を促すという観点からすれば、就業規則において在職中の秘密保
持義務について明記し、かつ、誓約書においても確認させることが適切でしょう。

また、退職後においても秘密保持義務については、就業規則や労働契約においてその根拠が存在しなければ、認められません。そこで、就業規則に「在職中」と「退職後」の両方について秘密保持義務を負う旨を明記し、誓約書においても確認させることが適切です。

なお、退職時に誓約書を取ることが多いですが、従業員が拒否する場合もあるため、入社時誓約書に記載します。

秘密保持義務の参考記事

秘密保持義務に違反した退職社員へ損害賠償請求する方法

競業避止義務

○ 会社の業務に専念し、在職中はもちろん退職後2年間は、会社と同じ営業地域内において、次の行為は行いません。
(1) 貴社の従業員に対し、貴社と競業関係に立つ事業への就職等を勧誘すること。
(2) 貴社と競業関係に立つ事業を自ら開業し、又は設立すること。
(3) 貴社と競業関係に立つ事業又はその提携先企業に就職し、又は役員に就任すること。

従業員が会社を退職後に競業避止義務を課すためには、就業規則や誓約書に定めるなど明確な根拠が必要です。

就業規則に定めると共に、退職時において誓約書を取り交わす場合があります(参考記事参照)。もっとも、退職時の誓約書への署名を拒否する場合がありますので、入社時の誓約書の中で退職時の競業避止義務について定めておきます。

競業避止義務の参考記事

すぐ分かる!競業避止義務に違反した退職社員へ損害賠償請求する方法(書式・ひな形あり)

第三者に対する守秘義務・競業避止務の不存在

○ (1) 私は、前職の会社その他の第三者に対して負う秘密保持義務に反して、営業秘密その他情報を貴社に対して開示せず、また、貴社における業務に使用しません。
⑵ 私は、前職の会社その他の第三者に対して、貴社の業務遂行に支障となる又は支障が生ずる可能性のある競業避止義務を負っていません。
⑶ 前職その他第三者より秘密保持義務や競業避止義務に違反する旨の通知・指摘を受けた場合は、その旨直ちに貴社に報告し、自らの責任及び費用で解決し、貴社に一切の負担・迷惑をかけません。

前職の会社に対して秘密保持義務や競業避止義務を負う可能性のある中途採用社員などに定める規定です。競業他社から中途採用者を採用する場合、前職の会社等から、競業避止義務違反、秘密保持義務違反、不正競争防止法違反といったクレームを転職先である会社が受けることも少なくありません。そこで、上記のような規定をして、トラブル防止を図ることも一案です。

違反の場合の懲戒処分、損害賠償義務等

○ 本誓約書の各条項に違反した場合、人事上の不利益処分や懲戒処分の対象となるほか、法的な責任(民事及び刑事問わない)を負うことを確認し、故意又は重大な過失による違反行為により貴社が被った一切の損害(社会的な信用失墜を含む)を賠償することを約束いたします。

誓約書に違反した場合のペナルティーを明記することで、誓約書の記載事項の遵守をより明確に意識付けます。

誓約書の書式・フォーマット

誓約書(シンプル)

必要最小限の内容のシンプル版です。

株式会社●●
代表取締役 ●●● 様

誓約書

この度、私は、貴社に採用されるにあたり、下記事項を遵守することを誓約いたします。

1 就業規則その他諸規程(以下「就業規則等」という。)の規定内容が労働契約の内容となることを確認し、就業規則等を遵守します。
2 採用選考時又は採用決定時の提出書類や申告事項は事実と相違しません。
3 会社・業務時間の内外を問わず、会社の名誉、信用その他の社会的評価を害し、企業秩序を乱すことのないように行動します。
4 会社の企業秘密、営業秘篭、顧客および間係者等の企業秘密並びに個人情報(個人番号を含む)、その他職務上知り得た秘密は、在職中及び退職後において、第三者へ漏洩し、または、無断で使用しません。
5 本誓約書の各条項に違反した場合、人事上の不利益処分や懲戒処分の対象となるほか、法的な責任(民事及び刑事問わない)を負うことを確認し、故意又は重大な過失による違反行為により貴社が被った一切の損害(社会的な信用失墜を含む)を賠償することを約束いたします。

年  月  日
住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号
署名:               ㊞

誓約書(スタンダード)

秘密保持誓約などを含む一般的な内容のスタンダード版です。

株式会社●●
代表取締役 ●●● 様

誓約書

この度、私は、貴社に採用されるにあたり、下記事項を遵守することを誓約いたします。

1 就業規則その他諸規程(以下「就業規則等」という。)の規定内容が労働契約の内容となることを確認し、就業規則等を遵守します。
2 採用選考時又は採用決定時の提出書類や申告事項は事実と相違しません。
3 会社が業務上の必要に応じて業務命令、配置転換、職種変更、職務変更、転勤、出向、昇降格を命じた場合は、これに従います。
4 会社の事前の許可なく,会社に関連して、業務以外の目的で,写真撮影,録音又は録画を行いません。
5 会社・業務時間の内外を問わず、会社の名誉、信用その他の社会的評価を害し、企業秩序を乱すことのないように行動します。また、ブログ、Twitter、Facebook、Instagram、LINE等のSNS、Youtube等の動画サイトまたはインターネット上の掲示板を利用する場合には、別途定めるSNSガイドラインに従い、会社の名誉や信用を段損する内容又はそのおそれのある投稿は行いません。
6 会社の情報システム及び情報資産の一切が会社に帰属していることを理解し,会社が情報システム及び情報資産の保護のために必要であると認めた場合には,私の電子メール、貸与パソコンに関するデータ等を私に断りなくモニタリングすることがあることを承知し,これに同意します。
7 会社の企業秘密、営業秘篭、顧客および間係者等の企業秘密並びに個人情報(個人番号を含む)、その他職務上知り得た秘密は、在職中及び退職後において、第三者へ漏洩し、または、無断で使用しません。
8 会社の業務に専念し、在職中はもちろん退職後2年間は、会社と同じ営業地域内において、次の行為は行いません。
(1) 貴社の従業員に対し、貴社と競業関係に立つ事業への就職等を勧誘すること。
(2) 貴社と競業関係に立つ事業を自ら開業し、又は設立すること。
(3) 貴社と競業関係に立つ事業又はその提携先企業に就職し、又は役員に就任すること。
9 本誓約書の各条項に違反した場合、人事上の不利益処分や懲戒処分の対象となるほか、法的な責任(民事及び刑事問わない)を負うことを確認し、故意又は重大な過失による違反行為により貴社が被った一切の損害(社会的な信用失墜を含む)を賠償することを約束いたします。

年  月  日
住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号
署名:               ㊞

誓約書(トラック運転手)

シンプル版を前提としつつ、トラック運転手特有の遵守事項を追加したバージョンです。

例えば、運送会社を経営していて、実際に起こったトラブルなどがあった場合、それを踏まえてこのように遵守させたい事項を誓約書に盛り込みます。

これはトラック運転手の例でしたが、他業種・他職種でもこのように適宜盛り込んで、自社にカスタマイズしたオリジナルの誓約書を作成してください。

株式会社●●
代表取締役 ●●● 様

誓約書

この度、私は、貴社に採用されるにあたり、下記事項を遵守することを誓約いたします。

1 就業規則その他諸規程(以下「就業規則等」という。)の規定内容が労働契約の内容となることを確認し、就業規則等を遵守します。
2 採用選考時又は採用決定時の提出書類や申告事項は事実と相違しません。
3 会社・業務時間の内外を問わず、会社の名誉、信用その他の社会的評価を害し、企業秩序を乱すことのないように行動します。
4 会社の企業秘密、営業秘篭、顧客および間係者等の企業秘密並びに個人情報(個人番号を含む)、その他職務上知り得た秘密は、在職中及び退職後において、第三者へ漏洩し、または、無断で使用しません。
5 酒気帯びでの勤務および運転(業務外を含む)を行いません。
6 過労、病気および薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転しません。
7 社内および取引先への暴力・暴言を行いません。
8 無断遅刻・早退・欠勤は行いません。
9 大麻・覚せい剤等の法律で禁止されている薬物は使用しません。
10 刺青またはタトゥーをしていません。また、犯罪歴はありません。
11 上司および運行管理者の指示等に従い、誠実に就業します。
12 免許や資格の取得は業務時間外に自分の費用負担にて行います。貴社より免許や資格の取得費用を借りる場合は退職までに返済します。
13 故意または重大な過失により会社の車両に損害を与えたときは、責任を持って賠償します。
14 故意または重大な過失によって歩行者その他に損害を与えたときは、自己の責任において補償します。
15 道路交通法違反による罰金等は自らが負担します。
16 アルコールチェックの報告内容などに虚偽申告があれば解雇も含め会社の取り決める処遇に不服は申しません。
17 本誓約書の各条項に違反した場合、人事上の不利益処分や懲戒処分の対象となるほか、法的な責任(民事及び刑事問わない)を負うことを確認し、故意又は重大な過失による違反行為により貴社が被った一切の損害(社会的な信用失墜を含む)を賠償することを約束いたします。

年  月  日
住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号
署名:               ㊞

まとめ

以上おわかりいただけましたでしょうか。

今回は入社時の誓約書について説明させて頂きました。

ご参考になれば幸いです。

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