パワハラ行為に対していかなる懲戒処分ができるか?

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ご質問

当社の部長代行Yが複数の部下に対して、「お前、アホか」「お前、クビ」「お前なんかいつでも辞めさせてやる」との暴言、「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなどの行為を行い、ある部下は異動を余儀なくされ、ある部下は精神疾患になり休暇を余儀なくされました。当社としては、Yの言動はパワーハラスメントに該当するものと考えていますが、この事案でYをいかなる懲戒処分にできるでしょうか?

回答

上司からの嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症した場合などは、民法上の不法行為が成立します。懲戒処分としては,いきなり懲戒解雇や諭旨解雇することはできないと考えられますが、何度か注意指導を受けていたにもかかわらずパワハラを繰り返した場合は、解雇も含む厳しい処分も検討するべきです。
ご相談のケースでは、Yの言動は民法の不法行為に該当するパワハラに該当するといえますが、懲戒処分の量定としては、被害者が精神疾患になっていることなど結果の重大性に鑑み、初犯であっても停職・降格程度、すでに注意・指導を受けているにもかかわらず繰り返し行った場合は諭旨解雇・普通解雇もあり得ると考えます。

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POINT

  • パワハラの事実認定は事情聴取などを踏まえ慎重に行う
  • パワハラは懲戒事由に該当するが、懲戒処分の量刑はセクハラの程度に応じて行う

解説


1 パワハラ行為が懲戒処分の対象となるか?

職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)とは職務上の地位や人間関係など職場内の優位性を背景に、業務上の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為を意味します。
そのポイントは
(1)優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
(2)業務の適正な範囲を超えて行われること
(3)身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

ということになります。

【パワハラの概念について】
セクシュアル・ハラスメントは,均等法11条で禁止された行為であり,その行為類型も厚生労働省が指針やパンフレットで示しています。これに対して、パワー・ハラスメントは,これを規定する法律は存在しません。平成24年3月15日,厚生労働省がパワー・ハラスメントの定義等について発表しました(「パワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」)が、何の法的効力を有するものでもありませんでした。もっとも、パワーハラスメントに関するトラブルの増大を受けて、2018年12月7日、厚生労働省は、職場のハラスメント対策を巡り、パワハラは「許されないものである」と法律に明記する方針を公表しました。今後もパワハラに関する立法や行政指導は強化されることは間違いないと考えられます。

パワハラは,被害従業員に対して身体的又は精神的苦痛を与え,職場における具体的職務遂行能力を阻害し,企業秩序を乱す行為であることから,企業としても加害者に対して厳しい処分を行う必要があり,懲戒処分の対象となり得ます

2 パワハラの事実認定の注意点

パワハラ行為は第三者がいないところで行われることが多く,被害者と加害者以外は目撃者・事情を知る者がいない,また,客観的な証拠がない,といったことも多くあります。その為,事実認定においでは,被害者および加害者の事情聴取が大きな意味を持ちます。
しかし,たとえば,そもそも被害者が主張するパワハラ言動の存否について,両者の言い分が異なる場合もあります。
このように被害者と加害者の言い分が異なる場合には,どちらの供述が信用できるかを見極める必要があります。供述の信用性は,客観的な裏付け証拠(メール,SNSのやりとり履歴,画像等)の有無,供述の具体性の有無,自分に都合の悪いところを「記憶にない」などと述べて誤魔化しているか否かなどを総合考慮して判断するしかありません。
懲戒処分の前提としてのパワハラ言動の有無については,最終的には会社側に立証責任(証明出来ない場合は敗訴する)があることも視野に入れて慎重に事実認定を行う必要があります。

3 パワハラ行為の懲戒処分の量定は?

2.1 基本的な懲戒処分の考え方

では、パワハラ行為の事案でいかなる懲戒処分を行うべきでしょうか?その処分量定が問題となります。
懲戒処分の量定を考えるにあたっては,社員のパワハラ行為が①「殴る」「ものを投げつける」などの暴行・傷害など刑法上の犯罪行為に該当するレベルなのか,②嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症するなど民法上の不法行為(損害賠償)が生ずるレベルなのか,③①,②には該当しないが「故意に無視する」「悪口をいう」「嫌みをいう」「からかう」など職場環境を阻害するレベルなのか,ということが1つの重要な基準となります。このようにレベルごとに検討するのは、各レベルで発生する法的責任や懲戒処分の程度も異なるからです。

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レベルごとに検討するとともに、行為の悪質さ,被害者の処罰感情の有無,加害者の謝罪の有無等を総合的に考慮した上で最終的な処分を決定する必要があります。

以下,①犯罪行為レベルのパワハラ,②民法上の不法行為レベルのパワハラ,③職場環境阻害レベルのパワハラに分けて説明します。

2.2 ①犯罪行為レベルのパワハラ

まず,「殴る」「ものを投げつける」などの暴行・傷害,「死ね」「殺すぞ」といった脅迫などに該当する犯罪行為を行った従業員に対する懲戒は,出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの比較的重い処分を検討することになります。被害者に生じた結果や言動の悪質性等を考慮して最終的には処分を決定することになります。

大和交通事件(大阪高判平11.6.29)
タクシー乗務員である従業員が,違法なスト(ピケッテイング)を行い,違法なタクシーパレードを企画,指導,実行し,また,同僚に対して暴言を吐いて脅迫をし,タクシー乗務を断念させて営業を妨害したことを理由に懲戒解雇された事案において,懲戒解雇を有効と判断した。

本電信電話〔大阪淡路支店〕事件(大阪地判平8.7.31)
従業員が,職場内において,上司,同僚に対し,度重なる恐喝,脅迫,強要,いやがらせ電話(因縁をつけて金銭を要求する行為等,懲戒事由として列挙されている行為は10以上に及ぶ)の行為を行ったことを理由に諭旨解雇された事案において,諭旨解雇を有効と判断した

2.3 ②民法上の不法行為レベルのパワハラ

上司からの嫌がらせ目的等による強い叱責に起因して精神障害を発症した場合などは、民法上の不法行為が成立します。懲戒処分としては,いきなり懲戒解雇や諭旨解雇することはできないと考えられ,普通解雇も一般的には難しいと考えられます。そこで,処分としては,降格(職位を外す)や出勤停止等の懲戒処分が相当とされるケースが多いと思われます。もっとも,過去に同様の行為を行い,譴責・戒告等の懲戒処分を受けている場合は,事案によっては普通解雇・諭旨解雇できるケースもあると思われます。

M社事件(東京地裁平27.8.7判決労経速2263号3頁)
不動産会社の営業部長が、複数の部下に対して「12月末に2000万円やらなければ、会社を辞めると一筆書け」「(地元)に戻って別の会社に転職しろ」「お前はまわりの人間に迷惑を掛けている。」「結果が手数料稼いでないんだから、やる気がないんだ」「お前の成績表を子供に見せたらもうわかるだろう、お前がいかに駄目なオヤジか分かるだろう」などの暴言を繰り返して行い、それにより部下に精神的苦痛を与え、ある者は継続的にカウンセリングを受けざるを得ない状態に陥らせたことなどを理由とした降格の懲戒処分について、裁判所は降格処分を有効と判断した。

ディーコープ事件(東京地裁平28.11.16判決 労経速2299号12頁)
部長代行が部下に対して、「お前、アホか」「お前、クビ」「お前なんかいつでも辞めさせてやる」との暴言、「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなどのハラスメント行為を行い、部下らが異動を余儀なくされる、精神疾患になり休暇を余儀なくされたことを理由になされた諭旨解雇の懲戒処分について、裁判所は有効と判断した。

2.4 ③職場環境を阻害するレベルのパワハラ

職場環境を阻害するレベルのパワハラ行為者については,譴責や減給,悪質な態様のものは降格等の懲戒処分とすることになります。管理職などの立場の場合は,職務適性がないとして普通解雇も許容される場合もありえます。
また,それ以下のレベルのパワハラ行為者については,懲戒ではなく,まず注意・指導を与え,是正されない場合には譴責等の懲戒処分とすることが相当であると思われます。

3 民間データ

1位 戒告・譴責・注意処分(46.8%)
2位 降格(42.1%)
3位 減給(38.0%)
※「労政時報」第3949号(2018年4月13日発行)P38~「懲戒制度の最新実態」

4 公務員データ

職場内秩序を乱す暴行:減給又は停職
職場内秩序を乱す暴言:減給又は戒告
※「懲戒処分の指針について」(人事院)2018年9月7日改正

5 報道データ

【参考記事】

パワハラ行為に対する懲戒処分事例【報道】

報道機関が公表する懲戒処分事例のうち"パワハラ行為に対する懲戒処分事例"について情報を整理した。 懲戒処分を検討に際しては,公的機関や民間企業における具体的な実例に過ぎず,必ずしも裁判に耐えうる処分事例とは限らないことを考慮の上,参考にしてもらいたい。 【参考記事】 ...

対応方法

1 調査(事実及び証拠の確認)

まずは,以下の事実及び証拠を調査・確認する必要があります。

調査するべき事実関係

□ 被害者が申告するパワハラ行為の内容・頻度
□ パワハラ行為に至った経緯・被害者と加害者の関係
□ 加害者による謝罪の有無
□ 注意指導や戒告・譴責の有無,回数
□ 注意等の後の社員の態度
□ 通常の勤務状況・成績

調査の際に収集する資料

□ メール・SNS等のやりとり
□ 被害者の診断書
□ 目撃者の証言
□ 注意指導を行った文書,メール
□ 懲戒処分通知書,始末書

量刑・情状酌量事情

□ パワハラ行為の具体的態様・悪質性
□ 被害者の被害の軽重
□ 会社の業務に与えた影響
□ 謝罪・反省の態度の有無
□ 治療費等の弁償の有無
□ 示談の成否
□ 入社後の勤務態度
□ 他の社員に与える影響の大小
□ 会社における過去の同種事案での処分例との比較
□ 他社及び裁判例における同種事案との処分例との比較

2 適正手続の履行

弁明の機会の付与

事情聴取と共に,当該社員に対して弁明の機会を付与します。面談又は弁明書の提出の機会を与えます。

懲戒委員会の開催

就業規則等において懲戒委員会を開催することが必要な場合は,同手続を行います。

3 処分の決定及び通告

決定した処分を当該社員に対して通告します。
明確にするために文書によって通告することが一般です。

4 労働者との交渉

懲戒処分に不服のある労働者は異議を唱えて争う姿勢を示すことがあります。具体的には処分の撤回や賃金の請求を行うことがあります。この場合,まずは,法的措置に進む前に,労働者と交渉して,貴社の望む結果が得られるようにします。裁判に訴えられる前の交渉の時点で解決できれば,貴社にとっても早期解決のメリットがあります。

5 裁判対応

労働者との間で交渉による解決が図れない場合は,労働者は自己の権利の実現を求めて裁判を起こす可能性が高いと言えます。具体的には,仮処分手続,労働審判手続,訴訟手続などがありますが,労働者が事案に応じて手続を選択して,自己の請求の実現を目指すことになります。貴社としては,かかる労働者の法的請求に適切に対応する必要があります。

パワハラ行為による懲戒処分に関する裁判例

犯罪行為レベルのセクハラ

大和交通事件

大阪高判平11.6.29

タクシー乗務員である従業員が,違法なスト(ピケッテイング)を行い,違法なタクシーパレードを企画,指導,実行し,また,同僚に対して暴言を吐いて脅迫をし,タクシー乗務を断念させて営業を妨害したことを理由に懲戒解雇された事案において,懲戒解雇を有効と判断した。

日本電信電話〔大阪淡路支店〕事件

大阪地判平8.7.31

従業員が,職場内において,上司,同僚に対し,度重なる恐喝,脅迫,強要,いやがらせ電話(因縁をつけて金銭を要求する行為等,懲戒事由として列挙されている行為は10以上に及ぶ)の行為を行ったことを理由に諭旨解雇された事案において,諭旨解雇を有効と判断した

民法上の不法行為レベルのパワハラ

M社事件

東京地裁平27.8.7判決労経速2263号3頁

不動産会社の営業部長が、複数の部下に対して「12月末に2000万円やらなければ、会社を辞めると一筆書け」「(地元)に戻って別の会社に転職しろ」「お前はまわりの人間に迷惑を掛けている。」「結果が手数料稼いでないんだから、やる気がないんだ」「お前の成績表を子供に見せたらもうわかるだろう、お前がいかに駄目なオヤジか分かるだろう」などの暴言を繰り返して行い、それにより部下に精神的苦痛を与え、ある者は継続的にカウンセリングを受けざるを得ない状態に陥らせたことなどを理由とした降格の懲戒処分について、裁判所は降格処分を有効と判断した。

ディーコープ事件

東京地裁平28.11.16判決 労経速2299号12頁

部長代行が部下に対して、「お前、アホか」「お前、クビ」「お前なんかいつでも辞めさせてやる」との暴言、「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなどのハラスメント行為を行い、部下らが異動を余儀なくされる、精神疾患になり休暇を余儀なくされたことを理由になされた諭旨解雇の懲戒処分について、裁判所は有効と判断した。

職場環境を阻害するレベルのパワハラ

追加予定

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