懲戒処分を行う前に知っておきたい法的ポイント(有効要件)

ご質問

当社では,先般,社員が不祥事を起こしたため,懲戒処分を行うこととなりました。しかし,情報世間では懲戒処分が裁判で争われて無効となったという話を聞いたことがあります。ことがあります。ただ,そもそも懲戒処分の概念については,正確には理解していません。懲戒処分とは何かについて,教えてください。懲戒を行うときの注意点を教えてください。

回答

会社が懲戒処分を有効に行う為には,
①懲戒処分の根拠規定の存在,②懲戒事由に該当する事実の存在,③処分の相当性が要件
となります。
①は,懲戒の種類や事由が予め就業規則上明記されていることを意味します。就業規則上の規定なくして懲戒処分は出来ません。②は,就業規則に規定された懲戒事由に該当する事実は存在することを意味します。事実の存否は証拠に基づいて確定する必要があり,証拠も無い場合は争われる可能性があります。さらに,③は発生した懲戒事案と制裁罰である懲戒処分とが釣り合っていることを意味します。懲戒事案に比べ重すぎる懲戒処分は無効となります。
以上①〜③を踏まえて懲戒処分を決定する必要があります。

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POINT

  • 就業規則に規定されている場合のみ,懲戒処分を行うことができる
  • 懲戒事由に該当する事実の存否は証拠に基づいて事実認定する
  • 重すぎる懲戒処分は無効となる。同種事例のデータを参照して量刑を決めるべき

解説

1.懲戒事由と懲戒処分の種類が就業規則に明記されていること

1.1 就業規則に明記

懲戒処分を行うには「使用者が労働者を懲戒することができる場合」(労契法15条)であること、すなわち、あらかじめ就業規則において懲戒の種別および事由を定めておくことが必要です(フジ興産事件 最高裁二小 平15.10.10判決)。
この懲戒処分に関する就業規則上の定めは,そこに記載していない事項は事後的に追加することはできない為,特に懲戒事由に関してはある程度網羅的に定めることが必要です。

1.2 就業規則の周知

就業規則が効力を有するためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きがとられている必要です(労基法106条1項)。
周知させるとは,
① 就業規則を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し又は備え付けること
② 書面を労働者に交付すること
③ 磁気テープ,磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し,かつ,各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

を意味します(労基則52条の2)。

1.3 遡及処罰の禁止

懲戒処分は労働者にとって不利益な処分であるので、その対象となる行為より前に、上記懲戒に関する規程があらかじめ定められていることが必須となります。

事後的に懲戒に関する規程を定めた上で、労働者の行為に対して遡及的に懲戒処分を行うことはできません

2 懲戒事由に該当する事実の存在

2.1 懲戒事由該当性

懲戒処分が有効であるためには、「客観的に合理的な理由」(労契法15条)があること、すなわち、労働者の行為が懲戒規程において定められた懲戒事由に該当することが必要となります。

2.2 懲戒事由の限定解釈

懲戒規程において定められている懲戒事由は、さまざまな非違行為に柔軟に対応するべく、ある程度広範で包括的な文言が用いられている場合が通常です。
しかし、裁判所では、懲戒事由該当性の判断に際して、広範な文言をそのまま受け入れることはせずに、労働者保護の観点から限定解釈する傾向があります。※具体例は下記の参考判例を参照してください。
よって、懲戒事由該当性の判断に際しては、形式的な文言への該当性だけでなく、個別の事案について非違行為の内容やその程度なども含めて検討することが必要となります。

2.3 事実認定

懲戒処分は労働者に対する不利益措置であるため、裁判による紛争リスクがあります。
裁判では懲戒処分の有効要件について、企業側に立証責任があり、労働者が争う場合は、客観的な証拠に基づいた事実認定が特に重要になります。
よって,懲戒処分を行う際は,証拠(特に客観的証拠や被処分者の自白が重要)の存否を慎重に確認する必要があります。

3 処分の相当性

3.1 相当性の判断

「社会通念上相当」(労契法15条)であること、すなわち、処分の相当性も懲戒処分の有効要件となります。
相当性は「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして」判断するとされています。
具体的には、労働者の行為の態様・動機、業務に及ぼした影響、損害の程度のほか、労働者の反省の態度・情状・過去の処分歴などの諸事情を総合考慮して判断されます。

3.2 相当性の意味

相当性については、まず、懲戒事由と懲戒処分の重さのバランスが要求され、重すぎる処分は相当性を欠くとして無効となります。
また、同種事案における過去の処分例との均衡や、賞罰委員会の開催、被処分者への弁明の機会の付与など懲戒処分に至るまでの手続的相当性(適正手続)も求められます。

3.3 懲戒処分の基準

具体的な事案において,いかなる懲戒処分が相当であるかについては,法律上の基準はありません。もっとも,参考にするべきデータは存在します。

>>詳細は「もう迷わない!分かりやすい懲戒処分の判断基準」(当サイトブログ記事)をご参照ください。

参考裁判例

懲戒事由が限定解釈された例

日本鋼管事件

最高裁二小昭49・3・15判決判時733号23頁

就業規則所定の「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」との懲戒事由への該当性が問題となった事案において、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」として、制限的に解釈されている。

スーパーバッグ事件件

東京地裁 昭55・21刑決労判335号23頁

就業規則所定の「経歴を詐りその他の詐術を用いて雇用された場合」との懲戒事由への該当性が問題となった事案において、「労働者が、経歴詐称によって企業と労働契約を締結することによって、労働者の適正な配置、人事管理等の企業秩序に混乱を生じ、使用者との信頼関係が破壊される結果、もはや企業と労働者間の雇用関係を継続し難いと認められるような重要な経歴詐称があった場合には、懲戒解雇もやむを得ない措置として是認されると考えられる。そして、かような重大な経歴詐称いえるためには、企業が労働者の真実の経歴を知っていたのであれば、当該労働者と雇用契約を締結しなかったであろう(少なくとも、同一条件では)と考えられ、また、客観的にも、そのことに合理的な理由があると考えられる場合であることを要する。」と懲戒事由が限定的に解釈されている。

戒告処分無効確認等請求事件

東京地裁 平20・4・18 判例秘書

私立大学の教授である者に関し,同人が被告大学の論文集へ投稿した論文に校正ミスが多い,業務に関する誠実な報告がない,出勤簿の押印が誤っているなどの事実関係について,就業規則所定の「本学の信用を傷つけ」「名誉を汚すような行為をしてはならない。」等の懲戒事由への該当性が問題となった事案において,形式的には懲戒事由に該当すると言い得ても,「今後同様な事態を招くことのないよう注意すれば足りることで,懲戒処分をもって臨むべきほどのものとはいえない」「これだけではたとえ一番軽い戒告といえども,懲戒処分をもって臨むべきものとはいえない」として,懲戒事由への該当性を否定した。すなわち,懲戒事由への形式的な該当性を判断するのではなく,秩序違反としての実質の存否,懲戒処分の対象とする必要性という実質を考慮し,懲戒事由への該当性を判断している。

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