有期雇用契約更新申込書

労契法第19条柱書の労働者の「更新の申込み」又は「締結の申込み」はどのような場合に認められるか?

  • 2021年7月11日
  • 2022年6月30日
  • 雇止め
社長
労働契約法第19条の適用を受ける要件として,労働者の「更新の申込み」又は「締結の申込み」が必要であると聞きました。当社では雇止めを通告した有期雇用社員がいるのですが,その社員は雇止めに対して異議を申し立てていますが,契約更新の申し込みや契約締結の申し込みを書面で行っておりません。この場合でも労働契約法第19条柱書の適用を受けるのでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
労働者からの「更新の申込み」又は「締結の申込み」があるといえるためには,使用者の雇止めに対して労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わればよく,書面による必要はないとされています。従って,労働者が雇止めに異議があることを表明している場合は,労働契約法第19条柱書の労働者の「更新の申込み」又は「締結の申込み」が認められます。
労働契約法第19条柱書の労働者の「更新の申込み」又は「締結の申込み」は雇止めに対して労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わればよく,書面による必要はない
労契法19条柱書は,期間満了後,「遅滞なく」申込みをすることを要件としているが,正当又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される

1 労契法第19条柱書の労働者の「更新の申込み」又は「締結の申込み」

労契法19条柱書は,その適用要件として,労働者による雇用継続中の「更新の申込み」又は期間満了後の「遅滞なく有期労働契約の締結の申込み」を要求しています。
これだけを見ますと、何らかの書面による申込みが必要であるとも思えます。
しかし、「更新の申込み」又は「締結の申込み」あるといえるためには,使用者の雇止めに対して労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わればよく,書面による必要はないとされています(同施行通達第5の5(2)エ)。例えば、雇止めは納得いかない旨の労働者の発言、労働組合の団体交渉における申入れ、訴訟の提起・労働審判手続の申し立てなどの法的手続、紛争調整期間への申し立てなどで、雇止めには応じない旨の意思が表れていれば、「更新の申込み」又は「締結の申込み」があると認められます。
また,その主張立証については,労働者が雇止めに異議があることが訴訟の提起や紛争処理機関への申立て,団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいとされています(同施行通達第5の5(2)エ)。

2 労働者が従前と異なる労働条件にて雇用継続を求めた場合

労働者が,従前と異なる労働条件を提示して「更新の申込み」又は「締結の申込み」をしていた場合,それが必ずしも契約変更の意思まで表示しているとは限らず,労働条件変更の希望を表明したにとどまる場合もありえます。
そこで,意思表示の解釈が問題となります。
この点,労働者が労働条件を変更したうえで有期労働契約の更新・締結を申し込んだ場合でも,労働条件が変更されない限り期間満了で退職する意思を明確に有しているような場合でない限り,当該申込みには労働条件変更を伴わない有期労働契約の更新・締結の申込みの意思表示も含まれているものとして「申込み」の要件を充足すると考えられます。
弁護士吉村雄二郎
ようするに「賃金アップすることを条件に契約更新をしてください。賃金アップしてくれないなら契約は更新しなくて結構です。」という意思表示を明確にしていない限り、従前と同様の雇用条件での更新の意思表示があると考えて対応する必要があるということです。
共同交通事件(札幌地判H30.10.23 労経速2363-42)
定年後再雇用により1年の有期雇用契約を締結していた労働者が,更新前に就業規則により変更された新賃金規程に反対していたものの,契約更新の為の履歴書を提出せず,雇用期間終了後も就労の要求や契約不更新への異議申立等をせず,かえって健康保険証を返還し,離職票の発行を要求したりしていたこと等から,労契法19条柱書の「更新の申込み」又は「遅滞なく有期労働契約の締結の申込み」が存在しないとして,労契法19条の雇止め法理の適用が認められなかった。

3 「遅滞なく」とは?

労契法19条は,期間満了後,「遅滞なく」申込みをすることを要件としていますが,多少の期間が経過していても,合理的理由があれば「遅滞なく」を満たすと考えられています。施行通達でも,「遅滞なく」については,期間満了後でも,正当又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容されるとしています(平24・8・10基発0810第2号「労働契約法の施行について」第5の5(2)オ)。

4 就業規則で労働者の意思表示の方式や期限を定めることができるか?

労契法19条柱書の「申込み」があるか否か,「遅滞なく」しているかの紛争の発生を回避するため,就業規則により,「申込み」の様式(例えば,特定の書式の書面によるなど)を定め,あるいは「遅滞なく」といえるための申込み期間を定めること(例えば,契約期間満了後10日以内に申し込むことを要するなど)が考えられます。
しかし,同条は強行法規であり同条所定の要件を満たす限り当然適用され,就業規則で「申込み」の様式や申込み期間を定め定めたとしても,労働者の意思表示の方法等を拘束することは出来ないと解されます。すなわち,就業規則で方式や期間を定めたとしても法的拘束力は必ずしも認められないということになります。

5「申込み」に関する参考書式

【雇用継続中の更新の申込み】

○△商事株式会社
代表取締役 ○野△太郎 様

雇用契約更新申込書
私と貴社との雇用契約期間は、○年○月○日までとなっております。同契約につき引き続き契約を更新して頂きたく、本書をもって、労働契約法19条に基づき、上記契約期間満了後の更新を申込みます。
○年○月○日
氏名 甲野 太郎 (印)

【期間満了後の有期労働契約の締結の申込み】

○△商事株式会社
代表取締役 ○野△太郎 様

雇用契約更新申込書
貴社は○年○月○日付契約不更新通知書により、私と貴社との雇用契約につき、契約期間満了日である○年○月○日をもって契約は終了し、その後更新をしない旨の通知を受けました。
しかし、私は、同契約を引き続き更新して頂きたく、不更新の通知には同意できません。
つきましては、雇用契約期間満了後ではありますが、労働契約法19条に基づき、本書をもって、有期雇用契約の締結を申込みます。
○年○月○日
氏名 甲野 太郎 (印)

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