雇止めの理由

どの程度の理由があれば雇止めができるか?

  • 2022年1月19日
  • 2022年6月30日
  • 雇止め
社長
多数回更新した場合や契約更新の管理が杜撰な場合などは,労働契約法19条が適用され,「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は雇止めが出来ない場合があると聞きました。雇止めの場合も解雇の場合と同程度の理由が必要なのでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
雇止めの客観的合理性・社会的相当性の審査について,正社員の解雇の場合と比べて審査は緩和される傾向にあります。もっとも,有期労働契約でも,その就労実態が正社員に近いものである場合は,正社員と同等かこれに近い厳格さをもって審査されることが多いといえます。また,労契法19条1号に該当する場合(実質無期タイプ)の方が,同上2号に該当する場合(期待保護タイプ)に比べて,厳格に審査される傾向にあります。
労契法19条の客観的合理性・社会的相当性の審査について,正社員の解雇の場合と比べて審査は緩和される傾向にある。
ただし,有期労働契約でも,その就労実態が正社員に近いものである場合は,正社員と同等かこれに近い厳格さをもって審査されることが多い

1 雇止めの理由

労働契約法19条は,同条1号又は2号に該当する場合で,なおかつ「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」には雇止めは許されず,契約更新が法律上認められると定めます

労働契約法19条は,解雇権濫用法理の類推適用する判例法理(雇止め法理)を立法化したものですので,客観的合理的理由と社会的相当性の要件は,解雇の場合に準じて理解されます。

2 雇止めの理由の程度

2.1 正社員よりは緩やかな傾向

雇止めの客観的合理性・社会的相当性の要件は解雇の場合に準じて判定されるとして、その審査基準は正社員の解雇の場合と同程度なのでしょうか?

この点について労働契約法第19条の文言からは明らかではありません。もっとも,裁判例の多くは、正社員の解雇の場合と比べてその審査を緩和する傾向にあるといえます。

裁判例は,長期雇用を前提とした正社員の雇用保障と有期雇用社員と雇用保障との間には差がありえるとしています。その上で、その差を考慮して,正社員に対する解雇に関する厳格な正当理由を要求せず,有期雇用社員の雇止めの理由を比較的緩やかに解しています。

2.2 勤務態度不良,健康状態,不正行為,職務不適格等

勤務態度不良,健康状態,不正行為,職務不適格等を理由とする雇止めの理由は緩やかに認められており,正社員の解雇のような手厚い解雇回避努力義務を要求されていません

裁判例
大阪郵便輸送事件・大阪地決平成4・3・31労判611号32頁(勤務態度不良)
丸島アクアシステム事件・大阪高決平成9・12・16労判729号18頁(勤務態度不良)
三陽商会事件・大阪地決平成14・12・13労判844号18頁(勤務態度不良)
太平ビルサービス大阪事件・大阪地判平成11・2・12労判764号86貢(勤務時間中の飲酒)
日本航空事件・東京高判平成24・11・29労判1074号88頁最判
平成25・10・22労経速2194号11貢で確定(反復継続的な職務懈怠)
八重椿本舗事件・東京地判平成25・12・25労判1088号11頁(非違行為)
F杜事件・大阪地堺支判平成26・3・25労経速2209号21頁(私用メール,業務命令違反)
Ⅹ学園事件・さいたま地判平成26・4・22労経速2209号15貢(業務命令違反)
KDDIエポルバ事件・・東京地判平成26・12・18ジャーナル37号29頁(職務僻怠)
日本レストランエンタプライズ事件・東京高判平成27・6・24労経速2255号24頁(健康状態の悪化)
中外臨床研究センター事件・東京地判平成27・9・11労経速2256号25頁(職務傾怠)

2.3 能力不足

有期契約労働者の能力不足を理由とする雇止めの場合は,勤務成績の評価が公正に行われたかが綿密に審査され,能力不足の立証もないまま行われた雇止めは違法と評価されます

裁判例
(雇止めが違法)
チポリ・ジャパン事件・岡山地判平成13・5・16労判821号54頁
恵和会宮の森病院事件・札幌高判平成17・11・30労判904号93貢
エヌ・ティ・ティ・コムチェオ事件・大阪地判平成23・9・29労判1038号27頁
東京医科歯科大学事件・東京地判平成26・7・29労判1105号49貢
(雇止め適法)
スカイマーク事件・東京高判平成22・10・21労経速2089号27頁
※能力・成績評価の相当性を認めて雇止めを適法と判断

また,適切な指導・研修によって労働者の能力・成績・勤務状況の改善が見込まれるにもかかわらず雇止めがなされた場合も違法と評価されます。しかし、そうした指導が奏功せず,能力等の向上が期待できない場合の雇止めは許されます

裁判例
大阪運輸振興事・大阪地判平成20・10・31労判979号55頁
※重大な職務僻怠を理由とする雇止めを適法と判断した例
医療法人橋恵会事件・大阪地判平成24・11・16労判1068号72貢

2.4 理由が乏しい場合

雇止めの理由とされた事実が存在せず,または理由の合理性が乏しいケースにおいて雇止めの適法性が否定されます。

裁判例
ユタカサービス事件・東京地判平成16・8・6労判881号62貢(軽微な非違行為)
東奥学園事件・仙台高判平成22・3・19労判1009号61貢(住所変更届の不提出等)
北海道宅地建物取引業協会事件・札幌地判平成23・12・14労判1046号85頁(雇止めの理由とされた懲戒処分の効力を否定)
福原学園事件・福岡高判平成26・12・12労判1122号75頁(健康状態,育児状況)
東豊商事事件・東京地判平成26・4・16労経速2218号3貢(会社批判の言動),
ニヤクコーポレーション事件・大分地判平成25・12・10労判1090号44貢(会社に対する訴訟提起)
市進事件・東京地判平成27・6・30労判1134号17頁(学習塾講師に対する50歳到達を理由とする一律雇止め)
トミテック事件・東京地判平成27・3・12労判1131号87頁(能力不足・勤務不良)
全日本海員組合事件・東京地判平成28・1・29労判1136号72貢(個人プログにおける使用者批判行為)
一般財団法人滑川市文化・スポーツ振興財団事件・富山地判平成28・6・1ジャーナル54号40頁(法人理事長批判のビラ貼り)。

2.5 理由が不当

妊娠を理由とする雇止めや,労働組合への加入を理由とする雇止めのような差別的雇止めは当然に違法とされます。また、雇用機会均等法6条4号は,性別を理由とする雇止めを禁止し,育児・介護休業法10条・16条は,育児・介護休業の申出または取得を理由とする雇止めを禁止しています。これに反する雇止めも当然に違法となります。

裁判例
(妊娠を理由)
正光会宇和島病院事件・松山地宇和島支判平成13・12・18労判839号68頁
(労働組合加入を理由)
協栄テックス事件・盛岡地判平成10・4・24労判741号36貢
意和会宮の森病院事件・札幌高判平成17・11・30労判904号93貢
リンゲージ事件・東京高判平成23・11・8労判1044号71貢

3 有期雇用でも正社員と就労実態が近似している場合

有期労働契約でも,その就労実態が正社員と近似している場合正社員に対する解雇と同等かこれに近い厳格さで審査される場合も多くあります。

裁判例
ヘルスケアセンター事件・横浜地判平日・9・30労判779号61貢
三洋電機(パート雇止め第1)事件・大阪地判平3・10・22労判595号9貢
安川電機八幡工場(パート解雇・本訴)事件・福岡地小倉支判平16・5・11労判879号71頁

4 労働契約法19条1号と2号で差はあるか?

労働契約法19条1号に該当する場合と同条2号に該当する場合とで、雇止めの理由の程度は異なるのでしょうか?

結論としては、同条1号に該当するケースは同条2号に該当するケースよりも雇止めの合理性・相当性の審査は厳しくなると考えられています。

同条1号の場合に比較して同条2号の場合は要件該当性が比較的緩やかであること,同条1号のケースの方が雇用継続に対する期待は高度であること,同条1号の場合は同条2号の場合より正社員に近い状態にあることに鑑みれば,同条1号に該当するケースは同条2号に該当するケースよりも雇止めの合理性・相当性の審査は厳しくなると考えられます。

雇止めの進め方

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