暴力と懲戒

会社内の暴行・傷害でいかなる懲戒ができるか?

会社内での暴行・傷害事件が発生した場合、いかなる懲戒処分ができるか?労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。

社長
当社の社員Yが社内で同僚と口論・もみ合いとなる中で,同僚の肩を押して転倒させ,加療5日の傷害を負わせました。この事案でYをいかなる懲戒処分にできるでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
企業内における暴行・傷害行為は懲戒事由に該当する行為であり,事案によっては懲戒解雇や諭旨解雇等の事由に該当します。当該行為の悪質性,企業秩序に与えた影響の大きさによっては,懲戒解雇も含めた厳しい処分が必要になります。ご相談のケースでは、相手方に傷害を負わせているので懲戒処分の対象となりますが、相手方にも原因があること、傷害の程度も軽微であることなどから、本人が相手方へ謝罪して反省している、相手方と示談しているなどの事情がある場合は、諭旨解雇や懲戒解雇は難しく、減給や降格処分にとどめることが相当であると考えられます。
会社内での暴行・脅迫は懲戒処分の対象となる。
懲戒処分の量刑については、暴行の具体的態様や経緯等を踏まえて決定すること
懲戒処分の進め方

1 暴行・傷害が懲戒処分の対象となるか?

他人に暴行を加えることは,たとえ相手にけがをさせなくとも刑法208条の暴行罪(2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは過料)に,暴行によって怪我をさせた場合には同法204条の傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)に該当します。

会社内で暴行・脅迫等の行為が行われると,従業員が暴力のもとに支配され,その恐怖を感じることとなり,職場秩序を乱すことは明らかです。よって、暴行行為は懲戒事由に該当する行為であり,事案によっては懲戒解雇や諭旨解雇の事由に該当します。

2 懲戒処分の有効要件

懲戒処分を行うためには、一般的要件を満たす必要があります。こちらも確認す

懲戒処分の有効要件については

知っておきたい懲戒処分の有効要件

① 就業規則に懲戒規定明記
懲戒事由と懲戒処分の種類が就業規則に明記され、その就業規則が従業員に周知されていることが必要です。
参考記事
懲戒に関する就業規則の規定例
② 懲戒事由該当性
懲戒事由に該当する非違行為の事実について、関係者の事情聴取、客観的証拠等から事実が認定できることが必要です。
③ 懲戒の社会通念上相当性
懲戒処分が重すぎると無効となります。懲戒処分の種類・量刑が相当であることが必要です。
④ 懲戒処分の適正手続履践
就業規則上、賞罰委員会の開催や弁明の機会の付与が必要とされている場合は、これらの手続を履践する必要があります。
弁護士吉村雄二郎
② 懲戒事由該当性について 暴行事案の事実調査は,当事者や目撃者からの事情聴取が重要となります。暴行に至った経緯・動機(被害者側に挑発行為等の落ち度はあったか,日頃からトラブルがあったのかなど)や,暴行の具体的な態様(どこを、何回殴ったのか,けがをした場合、暴行そのものから生じたのか,はずみで転倒して生じたのかなど)を関係者からヒ
アリングします。

3 暴行・傷害の懲戒処分の量定は?

基本的な懲戒処分の考え方

では、暴行・傷害の事案でいかなる懲戒処分を行うべきでしょうか?その処分量定が問題となります。

懲戒処分の量定を考えるにあたっては,社員の行為が暴行罪にとどまる程度なのか,傷害罪にまで至る程度なのかということが1つの重要な基準となります。

そして,暴行にとどまる範囲である場合には,懲戒解雇など労働契約の解消を前提とする懲戒処分を選択することは難しいといえます。

これに対し、傷害に至る程度である場合には,行為の態様その他の事情にもよりますが,諭旨解雇や懲戒解雇を選択することも検討されます。

もっとも、傷害の程度が軽微で,加害者が謝罪をし,被害者もそれを受け入れているような場合には,懲戒解雇や諭旨解雇といった重い処分を課すことは困難であり,減給や出勤停止などの軽い処分にとどめざるを得ない場合もあります。

裁判例

南海電気鉄道事件(大阪地裁堺支部平成3年7月31日決定(労判595-59頁))
電車運転士Xが,上司から「オマエに指示されんならんことはない」「殴るやったら殴ってみろ」といった挑発的な言葉をかけられて興奮し,上司のシャツの襟首を両手でつかみ2回振り回し,また,その姿勢のままで右膝で上司の左大腿部を蹴り,「1週間の通院加療を要する左大腿部打撲」を負わせたため,Xを「会社内において傷害,暴行等の行為があったとき」という懲戒事由に該当するとして,Y会社より懲戒解雇された事例で,裁判所は懲戒解雇を無効と判断した。
日本周遊観光バス事件(大阪地裁平成8年9月30日判決(労判712号59頁))
社員Xと同僚が口論・もみ合いとなる中で,同僚の肩を押して転倒させ,加療5日の傷害を負わせたことなどから,XはY会社より諭旨解雇された事例で,懲戒解雇を無効と判断した。
豊中市不動産事業協同組合事件(大阪地裁平成19年8月30日判決(労判957号65頁))
日頃から怒鳴りつける・罵倒するなどして,他の事務職員との和を乱すことの度々あった事務局長Xが,事務職員の肩を1回突いた後,「お前なんか二度とくるな。顔も見たくもない」などと大声で怒鳴り続けた上,同事務職員の発言を受けて,同人に向かって走り込んで蹴り,これらの暴行によって約7日間の加療を要する右大腿部および右肩打撲の傷害を与えた。その後も被害者の事務職員に対して特段謝罪をしていない等の事情も踏まえ,会社Yは,Xを懲戒解雇(諭旨免職に対し,退職届を提出しなかったため)とした事例で,裁判所は懲戒解雇を有効と判断した。
新星自動車事件(東京地裁平成11年3月26日判決(労判767号74頁))
タクシー乗務員Xが同僚とのトラブルから,口付近を1回殴打され,これに対し,Xが殴り返して,殴り合いとなり,まずXが主に相手方を押さえつけて殴った後,相手方労働者がヘルメットでXを何度も殴打した(なお,Xは打撲および頚椎捻挫などで,相手方労働者は打撲や頸腰挫傷などの傷害で,それぞれ約2週間の治療を要すると診断されている)ことを理由にXを懲戒解雇した事例で,裁判所は懲戒解雇を有効と判断した。
日通名古屋製鉄作業事件(名古屋地判平3.7.22)
従業員が,企業内での暴力行為を理由に譴責処分(作業長から副組長への降格処分を規定に基づき併科)をされた事案において,譴責・降格処分を有効と判断した。
エス・バイ・エル事件(東京地判平4.9.18)
従業員が,部下から上司に対しての暴行等を理由に懲戒解雇された事案において,懲戒解雇を有効と判断した。

民間データ

社内で私的な理由から同僚に暴力を振るい、全治10日間の傷を負わせた場合

1位 出勤停止(41.5%)
2位 降格・諭旨解雇(31.6%)
3位 懲戒解雇(29.8%)

※「労政時報」第3949号(2018年4月13日発行)P38~「懲戒制度の最新実態」

公務員データ

職場内暴行:停職又は減給

※「懲戒処分の指針について」(人事院)2016年9月30日改正

報道データ

>>追加予定

4 暴行の被害者から会社に対する損害賠償の可否

職場で暴行を受けた被害者は、怪我を負わされるなどして生じた損害(治療費、休業損害、慰謝料など)については、直接の加害者である労働者に対して損害賠償を請求するのが通常です。

しかし、加害者である労働者が資力に乏しい場合などは、被害者の労働者は,会社に対して,損害の賠償を請求してくる場合があります。

会社はこれに応じなければならないのでしょうか?

安全配慮義務違反を理由とした損害賠償義務

使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法第5条)。これを安全配慮義務といいます。

安全配慮義務の具体的内容は,労働者の職種,労務内容,労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なります。

事故・災害性の労働災害については,①物的環境を整備する義務((a)安全施設の整備・点検義務,(b)道具・機器等の安全装備義務,(c)労働者に保安上の装備をさせる義務等),②人的配備を適切に行う義務((d)安全監視員の配置義務,(e)適任者に機器を使用させる義務),③安全教育・適切な業務指示の義務((f)安全教育等の義務,(g)適切な業務指示の義務,(h)事故の予防・予後措置義務),④履行補助者によって適切な整備・運転・操縦等をさせる義務,⑤安全衛生法令を遵守する義務等と類型化されます。

では、使用者が,一般的に「従業員間で暴力が振るわれることのないよう配慮し,生命・身体を危険から保護する義務」を負っているのでしょうか?

従業員が暴力を振るうということは、通常は想定されませんので、基本的には否定されると考えます。肯定されるとすれば「日常的に,社員が暴行を振るっていたのを把握していた」というような事情がある場合に限られますが、認められる可能性は低いと思われます。

不法行為(使用者責任)を理由とした損害賠償義務

使用者責任(民法715条)

加害者である社員に不法行為責任が発生する場合、それが会社の事業の執行について発生した損害の場合は、会社に賠償責任が生ずる場合があります(民法715条 使用者責任)。

民法第715条1項が定める使用者責任の要件は,次のとおりです。

① 被用者による権利侵害行為(不法行為)の存在
② ①についての被用者の故意又は過失
③ 損害の発生及びその金額
④ ①と③の因果関係
⑤ 行為当時,使用関係があったこと
⑥ ①がその「事業の執行ついて」なされたこと

使用者責任が認められる場合,会社は被用者の加害行為から生じた損害全額を賠償する義務を負います。

「事業の執行について」の該当性

「事業の執行につき」当該損害が与えられたかどうかは,当該暴行が「会社の事業の執行を契機とし,これと密接な関連を有すると認められるか否かにより」(最高裁第三小法廷昭和舶年11月18日判決(民集23巻11号2079頁))個別事案に基づいて判断されることになります。

この点,暴行・障害が,業務とは全く無関係に行われ,会社としても暴行・傷害について全く予見出来なかったという場合以外は,企業内で発生した暴行傷害について,会社は使用者責任(民法715条1項)に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

裁判例でも、被害者が加害者に消耗品の発注を依頼したところ,その言い方をめぐり争いとなり,加害者が被害者を殴打した事案(アジア航測事件・大阪高裁平成14年8月29日判決(労判837号47頁))や,希望退職への応募につき,暴行を加えて強要した事案(エール・フランス事件・東京高裁平成8年3月27日判決(労判706号69頁))において、それら暴行と因果関係のある損害について,「事業の執行につき」与えられたものとされ,会社の損害賠償責任が認められています。

5 会社内での暴行事案における会社の対応方法

1 調査(事実及び証拠の確認)

会社内での暴行事案では、以下の事実及び証拠を調査・確認する必要があります。

調査するべき事実関係

□ 被害者のけがの有無,程度
□ 被害者の就労不能期間の有無,程度
□ 暴力行為に至った経緯
□ 被害者側の帰責事由(挑発等)の有無
□ 加害者による謝罪や示談の有無
□ 刑事事件の経過
□ 注意指導や戒告・譴責の有無,回数
□ 注意等の後の社員の態度
□ 通常の勤務状況・成績

調査の際に収集する資料

□ 被害者の診断書
□ 目撃者の証言
□ 注意指導を行った文書,メール
□ 懲戒処分通知書,始末書

量刑・情状酌量事情

□ 暴行の具体的態様・悪質性
□ 被害者の被害の軽重
□ 会社の業務に与えた影響
□ 暴行が行われた場所・時間帯
□ 謝罪・反省の態度の有無
□ 治療費・損壊した物品等の弁償の有無
□ 示談の成否
□ 入社後の勤務態度
□ 他の社員に与える影響の大小
□ 会社における過去の同種事案での処分例との比較
□ 他社及び裁判例における同種事案との処分例との比較

2 懲戒処分の進め方

1 不祥事の発覚
内外からの通報、上司・同僚による発見、本人申告等などにより不祥事が発覚します。
2 事実調査
懲戒処分に該当する可能性のある事案が発生した場合は,懲戒処分の前提として事実の調査を行います。
調査に支障がある場合は本人を自宅待機させます。
参考記事
すぐ分かる! 懲戒処分の調査のやり方
・懲戒に関する事情聴取のポイント
懲戒処分前の自宅待機命令の方法(雛形・書式あり)
社員のメールをモニタリングする場合の注意点【規程例あり】
3 処分の決定
調査により認定された事実に基づいて懲戒処分を行うか否か,行う場合の懲戒処分の種類・程度を決定します。
参考記事
・もう迷わない!分かりやすい懲戒処分の判断基準
・知っておきたい懲戒処分の有効要件
4 懲戒手続
懲戒委貞会の開催、弁明の機会付与等を行います。
参考記事
・知っておきたい懲戒処分の有効要件
5 懲戒処分の実施・公表
決定した懲戒処分を当該社員へ文書により通告します。
実施した懲戒処分について,必要に応じて社内外に公表します。
参考記事
受取拒否にも対応、懲戒処分を通知する方法【書式・ひな形あり】
名誉毀損にならない懲戒処分の公表方法【書式・ひな形あり】
6 再発防止措置
懲戒処分を行っただけでは再度同じ不祥事が生ずる可能性があります。
そこで、会社は再発防止の為に各種施策を講じます。

懲戒処分は労務専門の弁護士へご相談を

弁護士に事前に相談することの重要性

懲戒処分は秩序違反に対する一種の制裁「罰」という性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。

懲戒処分の選択を誤った場合(処分が重すぎる場合)や手続にミスがあった場合などは、事後的に社員(労働者)より懲戒処分無効の訴訟を起こされるリスクがあります。懲戒処分が無効となった場合、会社は、過去に遡って賃金の支払いや慰謝料の支払いを余儀なくされる場合があります。

このようなリスクを回避するために、当サイトでは実践的なコンテンツを提供しています。

しかし、実際には、教科書どおりに解決できる例は希であり、ケースバイケースで法的リスクを把握・判断・対応する必要があります。法的リスクの正確な見立ては専門的経験及び知識が必要であり、企業の自己判断には高いリスク(代償)がつきまといます。また、誤った懲戒処分を行った後では、弁護士に相談しても過去に遡って適正化できないことも多くあります。

リスクを回避して適切な懲戒処分を行うためには労務専門の弁護士事前に相談することとお勧めします

労務専門の吉村労働再生法律事務所が提供するサポート

当事務所は、労務専門の事務所として懲戒処分に関しお困りの企業様へ以下のようなサポートを提供してます。お気軽にお問い合わせください。

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懲戒処分に関して専門弁護士に相談することが出来ます。法的なリスクへの基本的な対処法などを解決することができます。

詳しくは

サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。

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懲戒処分のコンサルティングにより、懲戒処分の準備から実行に至るまで、労務専門弁護士に継続的かつタイムリーに相談しアドバイスを受けながら適正な対応ができます。
また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。

詳しくは

サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。

労務専門顧問契約

懲戒処分のみならず人事労務は企業法務のリスクの大半を占めます。
継続的に労務専門の弁護士の就業規則のチェックや問題社員に対する対応についてのアドバイスを受けながら社内の人事労務体制を強固なものとすることが出来ます。
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また、弁明聴取書、懲戒処分通知書・理由書などの文書作成のサポートを受けることができます。
これにより懲戒処分にかかる企業の負担及びリスクを圧倒的に低減させる効果を得ることができます。

詳しくは

労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。

暴行・傷害による懲戒処分に関する裁判例

南海電気鉄道事件(大阪地裁堺支部平成3年7月31日決定(労判595-59頁))

(事案の概要)
電車運転士Xが,上司から「オマエに指示されんならんことはない」「殴るやったら殴ってみろ」といった挑発的な言葉をかけられて興奮し,上司のシャツの襟首を両手でつかみ2回振り回し,また,その姿勢のままで右膝で上司の左大腿部を蹴り,「1週間の通院加療を要する左大腿部打撲」を負わせたため,Xを「会社内において傷害,暴行等の行為があったとき」という懲戒事由に該当するとして,Y会社より懲戒解雇された。

(裁判所の判断)
このような暴行行為は安易にこれを容認できないものであるが,暴行の態様としては比較的軽い部類に属し,かつ,傷害の結果も日常生活に影響を及ぼさない軽微なものと認められること,また,上司の挑発的な言葉に興奮して思わず手と足が出てしまったという偶発的なものであり,かつ短時間で収拾された結果職場にもさしたる混乱をもたらさなかったなどから,Y会社の懲戒解雇処分は客観的妥当性を欠き,無効と判断された。

日本周遊観光バス事件(大阪地裁平成8年9月30日判決(労判712号59頁))

(事案の概要)
社員Xと同僚が口論・もみ合いとなる中で,同僚の肩を押して転倒させ,加療5日の傷害を負わせたことなどから,XはY会社より諭旨解雇された。

(裁判所の判断)
Xの行為は教戒事由の「会社の風紀を害しまたは秩序を乱したとき」に該当するというべきであるが,相手にも責任があること,また,使用者も円滑な業務確保の観点から関係者の処分を行っていないことなどから,当該社員のみを非難することはできず,他の懲戒事由対象行為を総合考慮しても,諭旨解雇処分としたことは重きに失し,相当性を欠くので無効と判断された。

豊中市不動産事業協同組合事件(大阪地裁平成19年8月30日判決(労判957号65頁))

(事案の概要)
日頃から怒鳴りつける・罵倒するなどして,他の事務職員との和を乱すことの度々あった事務局長Xが,事務職員の肩を1回突いた後,「お前なんか二度とくるな。顔も見たくもない」などと大声で怒鳴り続けた上,同事務職員の発言を受けて,同人に向かって走り込んで蹴り,これらの暴行によって約7日間の加療を要する右大腿部および右肩打撲の傷害を与えた。その後も被害者の事務職員に対して特段謝罪をしていない等の事情も踏まえ,会社Yは,Xを懲戒解雇(諭旨免職に対し,退職届を提出しなかったため)とした。

(裁判所の判断)
本件における言動・被害状況・Xの職責(事務局長として他の職員に対し,その人格を尊重し,誠意をもって指導すべき立場),事件までの問の同僚への言動,事件後の言動などを考慮すると,社会通念上相当性を欠くとはいえないとして,懲戒解雇を有効と判断した。

新星自動車事件(東京地裁平成11年3月26日判決(労判767号74頁))

(事案の概要)
タクシー乗務員Xが同僚とのトラブルから,口付近を1回殴打された殴られ,これに対し,Xが殴り返して,殴り合いとなり,まずXが主に相手方を押さえつけて殴った後,相手方労働者がヘルメットでXを何度も殴打した(なお,Xは打撲および頚椎捻挫などで,相手方労働者は打撲や頸腰挫傷などの傷害で,それぞれ約2週間の治療を要すると診断されている)事案において,Xを懲戒解雇した。

(裁判所の判断)
いわゆる喧嘩であったにもかかわらずXが正当防衛であると執拗に主張し,相手方がそれに基づく損害の支払いに応じなければ刑事事件として処理するよう求めたため,刑事事件として立件され,会社は厳正に処理せざるを得なくなったこと,その間両人をタクシー乗務員として乗車させることができず使用者にとっても大きな損失となったこと,また,警察や救急車を呼んだことから近隣に住む者の耳目をひいたこと等から,この非違行為が企業の存立・事業運営の維持確保に及ぼした影響や企業秩序に生じた混乱は決して小さなものではなく,本件解雇が懲戒権の濫用であると認めることはできない。

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