パワハラ防止法_就業規則

これだけで大丈夫! パワハラ防止法直前対策(書式・ひな形あり)

いまや日常的に話題にされることの多いパワーハラスメント(パワハラ)。国はパワハラ撲滅政策を掲げ、2019年5月に企業が取るべき措置等を定めるパワハラ防止法を制定しました。中小企業については2022年3月末までパワハラ防止法の適用が猶予されていましたが、ついに2022年4月1日から中小企業にも適用されることになりました。もっとも、一体何を対策すればよいのかいまいち分からない、できるだけシンプルに対応したい、そんな中小企業も多いでしょう。そこで、中小企業向けにパワハラ防止法のシンプルな対処方を説明します。手っ取り早くご対応されたい場合は、「3 具体的な対応」をご確認ください。

1 パワハラとは何か?

職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③ 労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいいます(労働施策総合推進法第30条の2 令和2年1月 15 日 厚生労働省告示第5号 以下「パワハラ指針」)。

本稿ではパワハラ防止法直前対策を中心テーマとしていますので、パワハラの内容についての詳細は 厚労省HP をご参照ください。相変わらず国民に周知する意欲が全く感じられない「分かりづらい」HPですが、これが我が国の役人のレベルなのでご容赦ください。

2 パワハラ防止法の対策

2.1 パワハラ防止法の制定

パワハラは昔からありそうな言葉ですが、法律によって明文をもって規制されるようになったのは割と最近のことです。

すなわち、令和元年5月29日成立の労働施策総合推進法改正で、パワハラについて、事業主には雇用管理上必要な措置を取ることを義務づけることが定められました。冒頭からパワハラ防止法と呼んでおりますが、正式名称は上記労働施策総合推進法です。

労働施策総合推進法第30条の2
1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

既にセクハラやマタハラについては、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法において事業主の雇用管理上必要な措置義務が定められていましたが、パワハラについては法制化された制度がありませんでした。しかし、パワハラ問題が社会問題化していることを受けて法制化されるに至りました。

2.2 パワハラ防止法が定める措置義務

上記のとおりパワハラ防止法は、パワハラについて、事業主には雇用管理上必要な措置を取ることを義務づけたとのことですが、具体的にいかなる措置を企業に義務づけているのでしょうか。

義務づけられるのは以下の5つの措置です。詳細は厚生労働省のいわゆるパワハラ指針(正式名称「(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)に定めがあります。

① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
④ 相談対応・事後対応にあたっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に周知すること
⑤ 相談したこと、事実関係の確認など事業主の措置に協力したこと、労働教に相談・援助の求め・調停申立等をしたことを理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
※④、⑤は①~③の措置と併せて行う

この①~⑤をさらに分かりやすくまとめるとすると、

1 まずはハラスメントの相談体制を整備すること(②)
2 その上で、会社のハラスメントに対する方針(①)、相談等においてはプライバシーが保護されること(④)、相談したり協力したことで不利益は受けないこと(⑤)を周知・啓発すること
3 ハラスメントが起きた場合は事後対応を迅速かつ適切に行うこと(③)

と整理できます。

以下、1~3について説明していきます。

2.3 相談体制の整備

2.3.1 相談体制の整備することが必要となります。

具体的には、
① 相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」)をあらかじめ定め、労働者に周知すること
② 相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること

が必要となります。

2.2.2 ① 相談窓口を定めていると認められる例

(1) 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
(2) 相談に対応するための制度を設けること
(3) 外部の機関に相談への対応を委託すること
のいずれか一つを満たすこと
弁護士吉村雄二郎
小規模な企業では「(1) 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること」が現実的かと思われます。就業規則等で、ハラスメントの相談部署、担当者を定めておけば足ります。小さな企業ですと人事部長や社長を担当者とする例があります。就業規則の記載例は下に記載しています。

2.3.3 ② 相談に適切に対応できるようにしていると認められる例

(1) 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること。
(2) 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること。
(3) 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと。
のいずれか一つを満たすこと
弁護士吉村雄二郎
小規模な企業では(1)か(2)が現実的かと思われます。
お勧めなのは(2)の簡単なマニュアルを作成(マニュアルひな形を利用することがお勧め)して利用することです。

2.4 周知・啓発

2.4.1 事業主の方針等の周知・啓発

事業主の方針の周知・啓発

職場におけるハラスメントの内容及び職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の事業主の方針等を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが求められています。

具体例(いずれか一つ)
(1) 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を規定し、当該規定と併せて、職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景を労働者に周知・啓発すること
(2) 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景並びに職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を記載し、配布等すること
(3) 職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景並びに職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施すること。
弁護士吉村雄二郎
(1)の就業規則への記載 + 従業員への周知が実務的にはよく取られていると思われます。
パワハラ加害者を厳正に対処することの周知・啓発

また、職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することが必要です。

具体例(いずれか一つ)
(1) 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発すること。
(2) 職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者は、現行の就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、これを労働者に周知・啓発すること。
弁護士吉村雄二郎
(1)の就業規則への記載 + 従業員への周知が実務的にはよく取られていると思われます。

2.4.2相談等においてはプライバシーが保護されることの周知・啓発

職場におけるパワーハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該パワーハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知することが求められます。なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も保護の対象となります。

具体例(いずれか一つ)
(1) 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること。
(2) 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと。
(3) 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること。
弁護士吉村雄二郎
実務的にお勧めなのは(1)の簡単なマニュアルを作成(マニュアルひな形を利用することがお勧め)して利用することです。

2.4.3 相談・協力したことで不利益は受けないことの周知・啓発

労働者が職場におけるパワーハラスメントに関し相談をしたこと若しくは事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと又は調停の出頭の求めに応じたこと(以下「パワーハラスメントの相談等」という。)を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することが求められます。

具体例(いずれか一つ)
(1) 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、パワーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること。
(2) 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に、パワーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること。
弁護士吉村雄二郎
(1)の就業規則への記載 + 従業員への周知が実務的にはよく取られていると思われます。

2.5 事後の迅速かつ適切な対応

事業主は、職場におけるパワーハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければなりません。

2.5.1 事実関係を迅速かつ正確に確認すること

具体例
(1) 相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮すること。また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。
(2) 事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、労働局の調停(法30条の6)の申請を行うことその他中立な第三者機関(裁判所も含む)に紛争処理を委ねることも考えられること
弁護士吉村雄二郎
(1)の事実確認は、当事者双方又は事情を知る職場の同僚などからもヒアリングするなどして行うという当たり前のことを定めています。それでも事実が確認できない場合は、ハラスメントが存在したことを前提とした対処は行わずに、可能な範囲で対処を行えば足ります。労働局の調停などを利用するか否かは任意です。同じやりとりを労働局でやることになりますが、間に労働局が入ることによって解決しそうな場合のみ利用するというのが実態かと思います。ただ、労働局は裁判所のように事実認定や判断(判決等)をする権限かつ責任がありませんので、事実関係の対立が激しい事案では、ほぼ役に立ちません。時間の無駄です。

2.5.2 被害者に対する適正な措置

職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者(以下「被害者」という。)に対する配慮のための措置を適正に行うことが必要となります。

具体例
(1) 事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること。
(2) 労働局の調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずること。

※(2)は労働局の調停などにより解決案が出されている場合の対応です。

2.5.3 加害者に対する適正な措置

職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うことが求められます。

具体例
(1) 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるパワーハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること。
(2) 法第30 条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること。

※(2)は労働局の調停などにより解決案が出されている場合の対応です。

2.5.4 再発防止措置

改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずることが求められます。なお、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずることが求められます。

具体例
(1) 職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること。
(2) 労働者に対して職場におけるパワーハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること。

3 具体的な対応

以上、細かく説明してきましたが、はっきり言って分かりづらいですよね。そこで、法律及び指針が求める措置を盛り込んだシンプルな対応を説明します。

パワハラ防止法の措置義務はパワハラに関するものですが、国は、いわゆるセクハラとマタハラについても同様の措置義務を企業の義務としています。これはパワハラ防止法の施行前からあった義務です。パワハラ・セクハラ・マタハラで別々に対応してもよいのですが、まとめて対応してしまった方が合理的です。そこで、以下では、パワハラ・セクハラ・マタハラを全てカバーした対応を説明します。

3.1 社内のハラスメント対応の担当者を決める

まず、パワハラその他のハラスメントが生じた場合の担当者を決めて下さい。

社内(特に人事部、総務部など)に長年在籍し、社内の事業内容、人員体制を理解し、これまでも社内のもめ事に対応して解決してきた実績のある人物が適任です。出来れば男女1名ずつ決めた方がよいです。

そういった人物がいない場合や小さな企業の場合は社長でも構いません。

3.2 就業規則にハラスメントに関する規定を設ける

次に、就業規則にハラスメントに関する規定を定めて下さい。既に就業規則がある場合は、服務規律、懲戒規定などに加筆することになります。もっとも、加筆するのも面倒な場合が多いので、別規程という形で追加することをお勧めします。

以下、別規程という形で追加する場合の書式・ひな形を説明します。

3.2.1 就業規則本体への加筆

ハラスメントに関する別規程を置くということを就業規則本体へ加筆します。

例えば、就業規則の服務規律を定めている条項に以下の条項(以下のように○条の2という枝番で追加で構いません。こうすれば挿入に伴い条文をずらす必要はありません。)を挿入して、詳細は「ハラスメント防止規程」に定めることを明記します。

第●条の2(職場におけるあらゆるハラスメントの禁止)
パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、第●条(服務規律)及び第●条(懲戒)のほか、詳細は「ハラスメントの防止規程」により別に定める。

3.2.2 ハラスメント防止規程の追加

ハラスメント防止規程を作成し、就業規則に付属する別規程として追加します。

以下は、公開されている書式・ひな形を利用した例になります。

ハラスメントの防止規程

第 1 条(目的)
本規程は、就業規則に付属する別規程として、職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(以下「職場におけるハラスメント」という)を防止するために従業員が遵守するべき事項を定める。
なお、この規定にいう従業員とは、正社員だけではなく、契約社員等の非正規社員及び派遣労働者も含まれるものとする。

第 2 条(ハラスメントの定義)
1 パワーハラスメントとは、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上の必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境を害することをいう。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。
2 セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対する他の従業員の対応等により当該従業員の労働条件に関して不利益を与えること又は性的な言動により他の従業員の就業環境を害することをいう。また、相手の性的指向又は性自認の状況にかかわらないほか、異性に対する言動だけでなく、同性に対する言動も該当する。
3 前項の他の従業員とは直接的に性的な言動の相手方となった被害者に限らず、性的な言動により就業環境を害されたすべての従業員を含むものとする。
4 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、職場において、上司や同僚が、従業員の妊娠・出産及び育児等に関する制度又は措置の利用に関する言動により従業員の就業環境を害すること並びに妊娠・出産等に関する言動により女性従業員の就業環境を害することをいう。なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントには該当しない。
5 第1項、第2項及び第4項の職場とは、勤務部店のみならず、従業員が業務を遂行するすべての場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされる就業時間外の時間を含むものとする。

第 3 条(禁止行為)
1 すべての従業員は、他の従業員を業務遂行上の対等なパートナーとして認め、職場における健全な秩序並びに協力関係を保持する義務を負うとともに、その言動に注意を払い、職場内において次の第2項から第5項に掲げる行為をしてはならない。また、自社の従業員以外の者に対しても、これに類する行為を行ってはならない。
2 パワーハラスメント(第2条第1項の要件を満たした以下のような行為)
①殴打、足蹴りするなどの身体的攻撃
②人格を否定するような言動をするなどの精神的な攻撃
③自身の意に沿わない従業員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離するなどの人間関係からの切り離し
④長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係ない作業を命じるなどの過大な要求
⑤管理職である部下を退職させるため誰でも遂行可能な業務を行わせるなどの過小な要求
⑥他の従業員の性的指向・性自認や病歴などの機微な個人情報について本人の了解を得ずに他の従業員に暴露するなどの個の侵害
3 セクシュアルハラスメント(第2条第2項の要件を満たした以下のような行為)
①性的及び身体上の事柄に関する不必要な質問・発言
②わいせつ図画の閲覧、配付、掲示
③うわさの流布
④不必要な身体への接触
⑤性的な言動により、他の従業員の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為
⑥交際・性的関係の強要
⑦性的な言動への抗議又は拒否等を行った従業員に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換等の不利益を与える行為
⑧その他、相手方及び他の従業員に不快感を与える性的な言動
4 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(第2条第4項の要件を満たした以下のような行為)
①部下の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用等に関し、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動
②部下又は同僚の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用を阻害する言動
③部下又は同僚が妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置を利用したことによる嫌がらせ等
④部下が妊娠・出産等したことにより、解雇その他の不利益な取扱いを示唆する言動
⑤部下又は同僚が妊娠・出産等したことに対する嫌がらせ等
5 部下である従業員が職場におけるハラスメントを受けている事実を認めながら、これを黙認する上司の行為

第 4 条(懲戒)
1 第3条の禁止行為を行った場合は、その情状により、就業規則第○条に定める懲戒処分を行う。
2 前項の懲戒処分の量定基準を以下のとおり定める。ただし、個別の事案の事情・情状によってはこの限りではなく、会社が適切と考える懲戒処分を行う。
①第3条第2項(①を除く。) 、第3条第3項①から⑤及⑧及び第4項の行為を行った場合
けん責、減給、出勤停止又は降格
②前号の行為が再度に及んだ場合、その情状が悪質と認められる場合、第2項①又は第3条第3項⑥、⑦の行為を行った場合
諭旨解雇・懲戒解雇

第 5 条(相談及び苦情への対応)
1 職場におけるハラスメントに関する相談及び苦情処理の相談窓口は人事部とする。人事部長は、担当者に対する対応マニュアルの作成及び対応に必要な研修を行うものとする。
2 職場におけるハラスメントの被害者に限らず、すべての従業員は、パワーハラスメントや性的な言動、妊娠・出産・育児休業等に関する就業環境を害する言動に関する相談及び苦情を相談窓口の担当者に申し出ることができる。
3 対応マニュアルに沿い、人事部長は相談者のプライバシーに配慮した上で、被害者、行為者から事実関係を聴取する。また、必要に応じて当事者の上司、その他の従業員から事情を聴くことができる。
4 前項の聴取を求められた従業員は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。
5 対応マニュアルに沿い、問題解決のための措置として、第4条による懲戒の他、行為者の異動等被害者の労働条件及び就業環境を改善するために必要な措置を講じる。
6 相談及び苦情への対応に当たっては、関係者のプライバシーは保護されるとともに、相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いは行わない。

第 6 条(再発防止の義務)
人事部長は、職場におけるハラスメント事案が生じた時は、周知の再徹底及び研修の実施、事案発生の原因の分析と再発防止等、会社全体の業務体制の整備等、適切な再発防止策を講じなければならない。

第 7 条(業務体制の整備)
1 所属長は妊娠・出産、育児や介護を行う従業員が安心して制度を利用し、仕事との両立ができるようにするため業務配分の見直し等を行う。人事部長は業務体制の整備について、所属長の相談に対応する。
2 従業員は会社が整備する妊娠・出産、育児や介護に関する制度を就業規則等により確認する。制度や措置を利用する場合には、早めに上司や人事部に相談し、制度の円滑な利用のために業務に関わる従業員との円滑なコミュニケーションを図るよう努める。

第8条(その他)
性別役割分担意識に基づく言動は、セクシュアルハラスメントの発生の原因や要因になり得ること、また、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動は、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景となり得ることから、このような言動を行わないよう注意すること。パワーハラスメントの発生の原因や背景には、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題があると考えられますので、職場環境の改善に努めること。

附則 本規定は令和○年○月○日より実施する。

厚生労働省が雛形・書式を公開しています。 厚労省HP からダウンロードして、会社に合わせて修正して使用します。

3.3 文書による社内周知

また、就業規則の定めに加えて、職場におけるパワーハラスメントの内容及びその発生の原因や背景を労働者に周知・啓発する必要があります。

以下は、公開されている「ハラスメント防止文書例」を利用した例になります。必要最小限度の記載にとどめています。

この文書を社内掲示板に張り出したり、社員が閲覧できるWebページなどに掲載して周知します。

2022年4月1日

従業員 各位

○△商事株式会社

ハラスメントの禁止

1 当社ではあらゆるハラスメント行為を禁止しています。

(1) パワーハラスメント
優越的な関係を背景とした言動であって、業務上の必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境を害することをいう。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。
(2) セクシュアルハラスメント
職場における性的な言動に対する他の従業員の対応等により当該従業員の労働条件に関して不利益を与えること又は性的な言動により他の従業員の就業環境を害することをいう。また、相手の性的指向又は性自認の状況にかかわらないほか、異性に対する言動だけでなく、同性に対する言動も該当する。
(3) 妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント
職場において、上司や同僚が、従業員の妊娠・出産及び育児等に関する制度又は措置の利用に関する言動により従業員の就業環境を害すること並びに妊娠・出産等に関する言動により女性従業員の就業環境を害することをいう。なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントには該当しない。

2 相談窓口

職場におけるハラスメントに関する相談(苦情を含む)窓口担当者は次の者です。電話、メールでの相談も受け付けますので、一人で悩まずにご相談ください。
また、実際にハラスメントが起こっている場合だけでなく、その可能性がある場合や放置すれば就業環境が悪化するおそれがある場合、ハラスメントに当たるかどうか微妙な場合も含め、広く相談に対応し事案に対処します。
人事部 人事部長(男性) ○山△太郎
電話 03-○○○○-○○○○、メールアドレス ○○○
人事部 人事課長(女性) ○川△子
電話 03-○○○○-○○○○、メールアドレス ○○○

相談には公平に、相談者だけでなく行為者についても、プライバシーを守って対応しますので安心してご相談ください。

3 ハラスメント防止規程

ハラスメントに関する詳細は就業規則と共に備え置かれているハラスメント防止規程を参照して下さい。

4 その他

当社には、妊娠・出産、育児や介護を行う労働者が利用できる様々な制度があります。派遣社員の方については、派遣元企業においても利用できる制度が整備されています。まずはどのような制度や措置が利用できるのかを就業規則等により確認しましょう。
制度や措置を利用する場合には、必要に応じて業務配分の見直しなどを行うことにより、職場にも何らかの影響を与えることがあります。制度や措置の利用をためらう必要はありませんが、円滑な制度の利用のためにも、早めに上司や総務部総務課に相談してください。また気持ちよく制度を利用するためにも、利用者は日頃から業務に関わる方々とのコミュニケーションを図ることを大切にしましょう。
所属長は妊娠・出産、育児や介護を行う労働者が安心して制度を利用し、仕事との両立ができるようにするため、所属における業務配分の見直し等を行ってください。対応に困ることがあれば、総務部長に相談してください。

以上

厚生労働省が雛形・書式を公開しています。 厚労省HP からダウンロードして、会社に合わせて修正して使用します。

3.4 ハラスメント対応のマニュアルの作成

ハラスメントの相談窓口の適正な運用及び適正な事後措置のためのマニュアルを作成し、運用します。

以下は、公開されている「ハラスメント防止文書例」を利用した例になります。必要最小限度の記載にとどめています。

この文書を社内掲示板に張り出したり、社員が閲覧できるWebページなどに掲載して周知します。

○年○月○日

○△商事株式会社

ハラスメント対応マニュアル

Ⅰ.相談・苦情への対応のために
ハラスメントに関する相談・苦情を受けた場合、本マニュアルに基づき対応することとする。
なお、職場におけるハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、相談・苦情に対応するものとする。

[Ⅰ]相談窓口の設置

1.相談方法
原則面談によるものとするが、電話、手紙、電子メールも可とする。
2.相談窓口担当者
担当者は、複数の男性、女性とし、相談者が相談しやすい構成とする。
担当者に対しては、定期的な研修を行い、資質の向上を図ることとする。
人事部 人事部長(男性) ○山△太郎
電話 03-○○○○-○○○○、メールアドレス ○○○
人事部 人事課長(女性) ○川△子
電話 03-○○○○-○○○○、メールアドレス ○○○
3.適切な対応のために
相談、苦情への対応は、別添フローチャートによる。

[2]相談窓口担当者の心得

1.初めに相談を受けた者の対応によっては問題が大きくなりかねないこと
から、初期対応は非常に重要であり、適切、迅速に対応すること。
2.相談者やその相談内容に関係する者のプライバシーや名誉などを尊重し、
知り得た事実の秘密を厳守すること。
3.相談は公正真摯な態度で、丁寧に聞くこと。
4.相談者が面接による相談を望まない場合は、手紙、電話等の方法による
ことも教示すること。
5.相談者の直面する問題の把握が大切であり、そのために不安感を取り除く
等の配慮をしながら、解決策を考えること。
6.解決のための行動を起こす場合には、その都度事前に相談者にその旨を
伝え、意向を確認しながら行うこと。
7.解決に時間を要するおそれのある場合は、相談者にその旨と所要日数の見込みを伝え、その後も、相談者に不安を与えないため、進捗状況を知らせながら進めること。
8.相談の対象は、ハラスメントにあたるかどうか厳密に判断するのではなく、放置しておけばハラスメントになってしまうものもあるので幅広く対象とすること。

[3]相談・苦情の受け方

1.相談内容の聴取
相談の中で次の事項について確認する。
(1)相談者と行為者の関係(上司・部下・同僚・他部門等)
(2)問題とされる言動がいつ、どこで、どのように行われたか
(3)行為者の言動に対し相談者はどのように感じ、どのような対応をとったか、また、それに対する行為者の反応
(4)行為者の言動について、以前にこのような言動を行ったなど聞いたこ
とがあるか、また、他の人に対しても同様な言動がなされているか
(5)上司等に対する相談は行ったか
(6)現在の相談者と行為者との状況はどうか

2.相談に当たっての留意点
(1)相談者からの話は、本人の了解を得た上で、相談者と担当者の認識のずれをなくすためにきちんと記録しておくこと。
(2)相談者の求める援助が、加害者に言動を止めるよう求めているか、不利益の回復なのか、謝罪を要求するか、職場全体としての対処を望むのか等、的確に把握すること。
(3)相談者の様子をよく観察して、対応に時間的な余裕があるかどうかを見極めること。
(4)相談者の意向を踏まえ、解決方法やこれからの手順を説明するとともに、当面の対処の仕方についてアドバイスすること。

3.相談対応後の対処
事実関係を調査する苦情処理担当との連携を密にすること。担当以外の者にこの件で接触しようとする場合は、必ず相談者に事前に同意を得ること。

Ⅱ.事後の迅速・適切な対応のために

[1]苦情処理担当

職場でハラスメントが発生した場合の対応として、相談窓口のほか苦情処理担当を設けることとする。苦情処理担当は、公正かつ客観的な立場で対処する。
苦情処理担当は、本社においては人事部長(※)、各事業場においては、所属長(※)とする。

[2]迅速な事実確認

1.苦情処理担当は、事実の確認のため迅速に事情聴取を行うこと。
2.把握した事実関係、対応状況等についての記録を作成し、保管しておく
こと。
3. 事実確認の過程であっても、必要に応じて適切な応急措置を講ずること。
4.被害者からの事実確認について
苦情処理担当が、相談記録に基づいて、事実関係を改めて被害者に確認すること。ハラスメントの内容が公になり、職場に居づらくなるようなことがないよう、担当は十分配慮すること。
5.加害者とされた従業員からの事情聴取について
被害者の相談内容を説明した上で、事実関係についての事情聴取を行うと同時に、十分な弁明の機会を与えること。なお、加害者とされる者のプライバシーが十分守られるよう、細心の注意を払い事情聴取すること。
6.当事者双方の言い分が食い違っている場合等には、職場の同僚等からの事実確認も行うこと。
7.事実確認をした者が所属長である場合は、所属長は、人事部長に事実確認した内容を報告すること。

[3]事実に基づく適正な対処

1.相談したこと、又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いは行わない。
2.事案に対しては問題の深刻度や緊急性に応じた措置を講ずること。
(1)加害者に対する注意(問題となっている言動の中止、注意喚起など)や、加害者の監督者に対して状況の観察等を要請する。
(2)加害者を配置転換させる等、当事者を引き離すよう人事上の配慮を行う。
(3)当事者間の関係改善について援助を行う。
(4)被害者に労働条件、就業環境上の不利益が存在している場合には、それを回復する。
(5)被害者の精神的ショックが大きい場合には、メンタルケアに配慮する。
(6)就業規則に基づき、加害者に一定の制裁を行う。
3.事案に関し具体的に講じられた措置について、当事者に説明すること。
4.会社全体で再発防止策を講ずること。

以上

厚生労働省が雛形・書式を公開しています。 厚労省HP からダウンロードして、会社に合わせて修正して使用します。

3.5 ハラスメント対応開始

上記で作成した就業規則、社内文書、マニュアルに基づいて、実際に生じたハラスメント事案に対応していきます。

4 おわりに

以上、お分かり頂けましたでしょうか。

ハラスメント対応は、企業の人材が気持ちよく安心して働いてもらうこと、それにより能力を存分に発揮してもらい、企業の業績にも貢献してもらうという意味で非常に重要です。また、人手不足の昨今では、人材の採用・定着という側面でもハラスメントのない職場環境は競争優位に寄与します。

また、ハラスメント問題は労使紛争の引き金になっていることが多く、ハラスメント対応がリスク低減に寄与するという意味でも重要です。

本記事がお役に立てて頂ければ幸いです。

労働問題に関する相談受付中

営業時間:平日(月曜日~金曜日)10:00~18:00 /土日祝日は休業