労働審判期日_出席者

会社は第1回労働審判手続期日に誰が出席するべきか?

社長
会社に第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状が届きました。そこには,第1回労働審判期日が約1ヶ月後に指定されています。しかし,一体会社側では誰が出席すればよいのでしょうか。また,出席した場合,一体何を聞かれどう答えればよいのでしょうか。不安で仕方ありません。教えてください。
弁護士吉村雄二郎

①問題となる事実関係をよく知る人物(上司・同僚・目撃者など)、②事件の解決に必要な決裁権限を持つ人物(社長、人事部長など)が出席することが通常です。事実に争いがあるにもかかわらず,全く会社側の人物が出席しないのは得策ではありません。アドリブで切り抜けられるほど甘くはありませんので、事前の準備や予行演習が重要です。労働審判期日では、裁判所(労働審判委員会)や代理人弁護士の指示に従って必要な範囲で発言することが重要です。

1 第1回労働審判手続期日では何が行われるのか?

第1回労働審判期日に会社側は誰が出席するべきかについて考えるに際しては,そもそも第1回労働審判期日では何が行われるのかを考えると分かりやすいでしょう。

なぜならば,第1回労働審判期日に行われる事項に関して,会社側に有利な形で乗り切るために,必要な人物こそ,出席するべきといえるからです。

「会社必読!10分で分かる労働審判手続の流れ」において説明しましたとおり,第1回労働審判期日の前に,社員(労働者・申立人)側は申立書及び証拠書類を提出し,会社・社長側(相手方)も答弁書及び証拠書類を提出します。

そして,裁判所(労働審判委員会)は,それら書類を精査した上で,第1回労働審判期日では,

① 争点となる事実関係や法律関係に関する審尋(証人尋問みたいなもの)
調停(話し合いによる解決)の試み

が行われます。

この①審尋と②調停に会社側で必要な人物こそ,会社側で出席させる必要があるといえるでしょう。

2 誰を出席させるべきか?

2.1 代理人の弁護士

まずは,会社側の立場で主張及び立証を繰り広げる代理人である弁護士は当然のことながら出席することになります。

事実関係に関する審尋においては,会社内において,事実に直接関与していた会社側の人物が発言を求められることが多いといえます。代理人である弁護士よりも,直接事実を体験している会社側の人物が発言する方がリアリティ・信憑性が高いといえることも多くあります。

しかし,弁護士は,審尋において,会社側の人物が上手く受け答えできない場合などに,適切なタイミングで「助け船」を出して正しい回答を引き出す等のサポートを行うことが出来ます。また、実際には裁判所や相手方弁護士からの質問に対して弁護士が回答できる場面も相当多くあります。

また,法律関係についての議論については,弁護士こそが会社側に有利な法律的主張を展開することが期待されています。

よって,まずは,会社側の代理人弁護士の出席が必要となります。

参考記事

会社必見!労働審判を依頼する弁護士の選び方

社会保険労務士は労働審判手続に関与できるか?

2.2 ①争点となる事実関係に密接に関わる人物

次に,争点となる過去の事実関係に直接関与している人物の出席が必要となります。従って,ケースバイケースで必要な人物を検討する必要があります。

具体例:社員(労働者)が残業代を請求する紛争の場合

A 「直属の上司」、「人事担当者」、「目撃者」

社員(労働者)の残業命令や労働時間の管理を行っていた「直属の上司」や「人事担当者」が社員(労働者)の労働条件や残業の実績に関する具体的事実を知り得る立場にあることが多いといえます。また、ハラスメント事案などにおいて、ハラスメントを目撃していた人物も重要です。

その場合は,「直属の上司」「人事担当者」「目撃者」に出席して頂くことになります。

ただ,本来は直接関与していたのが「直属の上司」の場合であったが,同人が期日当日は業務の関係で出席できない場合には,間接的に労働時間等に関与していた「人事担当者」に代わりに出席して頂くこともあります。間接的であるものの関与はしているので,具体的な事実関係を語ることが出来るからです。ただ,直接関与していなかった分,証人としての価値は「直属の上司」よりは劣ると評価されることがあります。

B 社長(代表者)・役員

また,中小企業で,社長(代表者)や役員(取締役)が社員(労働者)の労働時間管理等を行っている場合があります。その場合は,社長(代表者)や役員に出席して頂くこくことになります。

C 顧問社会保険労務士

さらに,就業規則変更や労働条件の変更に関して顧問である社会保険労務士の先生が関与していた場合には,その条件変更の経緯等が争点となる場合には,出席して頂くことがあります。もっとも、労働審判期日への出席は裁判所の許可が必要となりますし、基本的には会社外の専門家になるので参加が許可されるのが限定的な場面だけになります。

2.3 ②調停に必要な人物

次に,調停(話し合いによる解決)に必要な決済権限を有する人物の出席が必要となります。調停では,最終的に会社・社長側に一定の金銭的負担(解決金)を支払うことによる解決がなされることが多くなります。

その場合,調停するか否かは,会社の予算的な裏付けが必要となるため,会社の決済権限を有する方の判断が必要となります。

A 社長(代表者)

従業員が10名~30名程度の中小企業では,社長(代表者)に決済権限がありますので,社長に出席して頂くことが多くあります。

B 役員・人事担当者

また,社長より決済権限を委ねられた役員(取締役)や人事担当者に,社長の代わりとして出席して頂くこともあります。

C 出席しない

さらに,調停(話し合いによる解決)の観点からは,代理人である弁護士が社長(代表者)より直接決済権限を委ねられることも多くあります。その場合は,調停ためだけに社長(代表者)や人事担当者に出席して頂く必要はありません。

また,実務上は,社長(代表者)が出席しない場合でも,労働審判期日の時間帯に,社長(代表者)に電話に出られるように待機をお願いすることがあります。そして,労働審判期日で裁判所(労働審判委員会)より条件が提示された際に,代理人弁護士にて労働審判廷から席を外した上で社長(代表者)に電話をかけ,最終的な決済を仰ぐこともあります。電話にて最終的な決済を得た上で,労働審判期日で調停を成立させるのです。

このように,調停の観点からは,会社・社長側の人物の出席は必ずしも要しないといえます。

3 会社・社長側の人物が誰も出席しないことも出来るか?

では,会社の代理人弁護士だけが出席し,その他会社側の人物を出席させずに乗り切ることはできるでしょうか?

この点,法律的には,会社の代理人である弁護士が出席している以上,「欠席」したことにはならず,答弁書や証拠書類を提出することでも立証は可能です。

また,代理人弁護士が,事前に会社側の人物から詳細に事情を聴取し,それら人物の話した内容を具体的に記載した陳述書に署名捺印を得て裁判所(労働審判委員会)に提出することもできます。それらに基づいて,代理に弁護士が審尋で回答することもできます。

しかし,争いのある事実関係について,事前に提出する証拠書類だけで確実に証明できない場合もあります。

そのような場合,社員(労働者)は本人や証人が裁判所(労働審判委員会)の前で具体的詳細に事実関係を話しているのに,会社側は誰も証人として出席しないときは,会社側は立証を尽くしていないと評価され,裁判所(労働審判委員会)は社員(労働者)に有利に事実を認定することも大いにありえます

直接体験した事実を話すのと,代理人が伝聞で話すのとでは,前者の方がより証拠の価値が高いといえるからです。

よって,会社の代理人弁護士が出席する場合であっても,争いのある事実関係に関係する会社側の人物を出席させるべきです。

4 労働審判期日の出席する際の注意点

4.1 服装

服装については,法律上,特に決まりはありません。

また,当然のことながら服装は事実認定や法的判断に影響はありません。

ただ,一般的には,会社側の出席者はスーツを着用することが多いです。

また,労働審判期日に出席している労働審判官,労働審判員,社員(労働者・申立人)及びその代理人もスーツを着用していることが殆どです。

4.2 事前準備が重要

また,労働審判期日では,裁判所(労働審判委員会)より,争点となる事実関係について,出席した会社側の人物に対して質問がなされます。

回答は,代理人弁護士が回答することも出来ますが、出席した会社担当者が回答することを求められる場合もよくあります。その場合、記憶にあることを発言することになりますが,裁判所(労働審判委員会)の誤解を招くような発言や,敢えて会社に不利になる発言をしないように注意する必要があります。

何が有利で何が不利なのか,その判断を会社側の人物で行うのは困難でしょう。

そこで,一般的には,労働審判期日前に,弁護士と十分な打ち合わせを行います。

例えば、当事務所では、弁護士にて「想定問答集」を作成し,それを参考にしながらリハーサルを行います。

弁護士が作成した回答集をそのまま棒読みしては信憑性が無くなりますので,想定問答集の趣旨を理解した上で,自分の言葉で発言できるように準備して頂きます。

また,弁護士が提出した答弁書や証拠書類にも目を通し,それらと矛盾しないように配慮することも必要です。

4.3 裁判所(労働審判委員会)や代理人弁護士の指示に従う

労働審判期日では,裁判所(労働審判委員会)が進行を指揮します。

質問についても,基本的には裁判所(労働審判委員会)が主体となって行います。

会社側で出席した場合に,自由な発言を許される訳ではありません

それゆえ,まずは裁判所(労働審判委員会)の指示や質問を良く確認して,必要な範囲で回答するよう注意が必要です。

また,質問によっては,代理人の弁護士がひとまず回答した後に,会社側の出席者が回答する場合もあります。回答の概略を弁護士が簡単に示した後,それを具体的に説明するために会社側の出席者が発言をするのです。こうすることで,裁判所(労働審判委員会)に伝わりやすくなることもあるからです。

それゆえ,代理人弁護士の発言にも注意が必要です。

つまるところ,会社側の出席者は自発的に発言せずに,裁判所(労働審判委員会)や代理人弁護士に発言を促されたタイミングで求められた話しをすればよいのです。

5 まとめ

いかがだったでしょうか?

今回は第1回労働審判手続期日に会社側では誰が出席するべきか?について説明をしました。

  • ①争点となる事実関係や法律関係に関する審尋,②調停(話し合いによる解決)に必要な人物を選別する。
  • ケースバイケースで社長(代表者),直属の上司,人事担当者などを選別する。
  • 調停との関係では,必ずしも決裁権者の出席は必要ない。
  • 事実に争いがあるにもかかわらず,全く会社側の人物が出席しないのは得策ではない
  • 事前の準備や予行演習が重要
  • 裁判所(労働審判委員会)や代理人弁護士の指示に従って必要な範囲で発言する。

などがポイントとなります。

いかがでしょうか。ご参考にされば幸いです。

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