代休と休日振り替え

代休と休日振替えで休日割増賃金の発生を防ぐ方法

社長
業務の都合で従業員に休日出勤を命ずることがあります。その場合、休日割増賃金を支払う必要があることは理解しています。ただ、休日出勤をした場合は、別の日に休みを取らせて、休日割増賃金の支払いを抑えたいと思っています。休日振替や代休という方法があると聞きましたが、具体的にはどのように実施すればよいでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
休日の振替とは、あらかじめ休日と定められた日を労働日とし,その代わりに他の労働日を休日とすることです。代休とは、休日出勤をしたことを前提に事後的に代わりの休日を付与することです。法定休日を休日振替することにより休日割増賃金の支払いは回避できます。また、法定休日に勤務した後に代休を取得させた場合も、休日割増賃金賃金(0.35)は支払う義務がありますが、代休日の賃金相当額を賃金から控除できる結果、1.0の部分は支払いを回避できます。もっとも、いずれも労基法上の制度ではありませんので、1週1休(4週4休)の休日ルールや1週40時間の時間外労働ルールに引っかからないように注意が必要であるほか、振替休日や代休を取らせずに累積した結果、休日割増賃金・時間外割増賃金の不払いとならないように注意が必要です。
(1)休日振替や代休によって、休日割増賃金(1.35)や時間外割増賃金(1.25)の支払いを減らすことができる場合がある
(2)休日振替には、① 就業規則に振替休日の規定を置くこと、② 振替休日は事前に特定すること、③ 事前に振替を予告・通知すること、④ 1週1回(4週間4日)の法定休日が確保されること、⑤ 休日振替の結果、1週40時間を超えた場合は時間外割増賃金の支払いが必要という要件があり、また、管理が煩雑な場合もありえる。
(3)代休は、自由に設定可能であるが、代休取得を無給とする場合は就業規則の定めが必要。また、基本的には休日割増賃金・時間外割増賃金の支払いが必要。
(4)休日振替・代休は一長一短であるが、管理のしやすいさという点では代休の方がよい場合も多い。

休日出勤した場合の原則

まずは、休日出勤させた場合の法律の原則から確認します。

休日とは

休日とは,労働者が労働契約において労働義務を負わない日をいいます。

多くの企業で週休2日制が普及しており,就業規則や雇用契約書等の定めにより契約内容となります(なお、「休日に関する事項」は,就業規則の絶対的必要記載事項となっています 労基法89条1号)。

法定休日

労働基準法では「使用者は,労働者に対して,毎週少くとも1回の休日を与えなければならない」と規定し,週休1日制の原則を定めています(35条1項)。また、就業規則において定めることにより4週間において4日の休日を与えれば週休1日制と適用しなくてもよいとされています(35条2項)。要するに、法律では最低でも1週間に1日又は4週間に4日の休日を与えなければならず、これを法定休日と呼びます

法定休日に労働を命じた場合は、休日労働として35%増の割増賃金支払義務を支払う義務が生じます(労働基準法第37条)

法定外休日

実際には、多くの企業では週休2日制が採用されており、法定休日よりも多い休日が労働契約内容となっています。

法定休日を上回る休日は法定休日以外の休日(以下「法定外休日」といいます。)という位置付けになります。

週の2日の休日のうち,1日が法定休日,もう1日が法定外休日なり、いずれが法定休日にあたるかを就業規則等で定めることができます

行政通達でもいずれが法定休日に当たるかを就業規則等で明示することが望ましいとされています(平成6.1.4基発1号)が、法定休日を特定しないことも可能です。

具体例

では、具体的に見ていきましょう。

具体例の条件
例えば、1日の労働時間が8時間、毎週土日が所定休日で、土曜日が法定外休日、日曜日が法定休日と特定されている企業があったとします。
社員Aは、月給24万円、月平均所定労働時間160時間、残業代計算の基礎賃金1500円(=24万円÷160)、賃金締切日は毎月末日であったとします。
また、下記のように3月1日が日曜日であることを前提とします。また、1週間は日曜日から起算することとします。

休日出勤

この場合、3月1日の日曜日に休日出勤を命じた場合、法定休日に労働させていますので、1500円 ✕  1.35 ✕ 8時間 = 16,200円 の休日割増賃金の支払いが必要となります。

35%割増となりますので、企業としては結構な金銭的な負担となりますね。

では、休日出勤をさせた場合に、代わりに休日振替や代休を与えることによって、割増賃金の発生を抑えることはできるでしょうか。以下見ていきますよう。

休日の振替による割増賃金の削減

休日振替とは

休日振替とは、就業規則などの規定に基づき、あらかじめ所定休日と定められた日と他の労働日と振り替えて、所定休日として定められていた日を労働日とし、その代わりに振り替えられた日を休日とする制度です。

振り替えられて労働日となった日(もともとの所定休日)は、振替え後は労働日となりますから、その日に勤務しても休日労働とはなりません。

また、法定休日であった日を労働日に振り替えた後は、元法定休日の日に勤務しても、休日労働のための36協定の締結・届け出や割増賃金の支給は必要ありません(昭23.4.19基収1397、昭63.3.14基発150・婦発47)。

具体的に、先程の例(同じ条件)でみますと、3月1日の日曜日は法定休日となっていましたが、これを3月3日の労働日の振り替えることによって、3月1日の日曜日に勤務しても法定休日に勤務したことにはならないのです。

その結果、16,200円の休日割増賃金も発生しません。これは大きいですね。

休日振替1

休日振替の要件

では、休日振替を行うためには、どのような要件を満たせばよいのでしょうか? 休日振替の有効要件を見ていきましょう。

休日振替の要件
① 就業規則に振替休日の規定を置くこと

② 振替休日は事前に特定すること
③ 事前に振替を予告・通知すること
④ 1週1回(4週間4日)の法定休日が確保されること(★重要)
⑤ 休日振替の結果、1週40時間を超えた場合は時間外割増賃金の支払いが必要

① 就業規則に振替休日の規定を置くこと

法定休日か法定外休日かを問わず,休日振替は,労働契約(就業規則)で特定された休日を労働日に変更(つまり契約を変更)することを意味します。

そのため、契約変更は一方的に行うことはできず,労働契約上の明確な根拠が必要となります。

具体的には,就業規則において,休日振替の根拠と,業務上の必要性等の振替事由・方法が明記されれば,使用者の休日振替権が肯定されます。

なお、就業規則に定めがない場合は労働者の個別同意でも大丈夫です。

就業規則規定例
第●条(休日の振替)

1 会社が業務の都合により必要と認める場合は、あらかじめ第●条の休日を他の労働日と振り替えることがある。
2 前項の場合、会社は従業員に対し、あらかじめ振替日を指定して従業員に通知する。

② 振替休日は事前に特定すること

休日振替は別の日に休日を付与することを条件に当該日に通常の労働日として(つまり休日労働としてではなく)労働させるという措置ですので、いつ振替休日を与えるかを特定しておく必要があります(注釈労働時間法384頁)。

③ 事前に振替を予告・通知すること

遅くとも前日(休日の繰上のときは,振替先の労働日の前日,休日の繰下の場合は休日の前日)までに振替の意思表示をする必要があります。

④ 1週1回(4週間4日)の法定休日が確保されること(★重要)

法定休日については,労基法上(35条)の週休1日(変形週休制の場合は4週当たり4日)を確保しなければなりません。つまり、会社は,振替休日をこの要件を満たすように配置する必要があります。

 

先程からの例で具体的にみてみましょう。

休日振替3

 

例えば、3月1日の日曜日は法定休日でしたが、翌週の3月10日火曜日の労働日と振替を行うとします。また、業務が忙しくて法定外休日(所定休日)であった3月7日土曜日も休日出勤を命じたとします。

この会社が法定休日についての4週4休制を導入しておらず、法定休日が1週1休制であった場合は、この3月1日から始まる週は法定休日を1日も与えていないことになるので、労基法35条に違反し、休日振替は違法となります。3月1日の日曜日に勤務させたことは、原則どおり法定休日労働となり、休日割増賃金16,200円を支払う必要があります。3月10日を休日としたことは後述の代休を与えたのと同じ処理となります。

これに対して、この会社が法定休日について4週4休制を導入し、かつ、法定休日を特定していない場合は、この3月において4週4休が確保されている限り休日振替は有効となります。その場合は、3月1日の日曜日に勤務させたことは休日労働とはならず、休日割増賃金16,200円も支払う必要はありません。

ポイント
4週4休の制度を導入していない場合は、本来の法定休日と同じ週の範囲内で振替休日を指定しなければなりません。

4週4休制を導入していた場合でも、4週4休が確保される範囲で振替休日を指定する必要があります。

⑤ 休日振替の結果、1週40時間を超えた場合は時間外割増賃金の支払いが必要

休日振替は、労働時間規制(特に1週40時間の規制 労基法32条1項)に違反することはできません

休日振替の結果、1週の労働時間が40時間を超える場合は、36協定を締結した上で、40時間を超えた時間について時間外割増賃金(0.25)を支払う必要があります。

振替休日5

例えば、3月1日の日曜日は法定休日でしたが、翌週の3月10日火曜日の労働日と振替を行うとします。また、法定外休日(所定休日)であった3月7日土曜日は予定どおり休日を取得したとします。

この場合、会社が法定休日について4週4休制を導入していないとしても、3月1日から始まる週は3月7日の土曜日に1日休みが確保されていますので、労基法35条1項の1週1休の原則に違反しません。

それゆえ、3月1日の日曜日に勤務させたことについては法定休日労働とはなりませんので、休日割増賃金16,200円を支払う義務はありません。

しかし、3月1日の週については合計48時間を勤務することになりますので、労基法32条1項が定める1週40時間を超過し、超過した8時間について時間外割増賃金(労基法37条)を支払う必要があります

つまり、1500円 ✕  1.25 ✕ 8時間 = 15,000円 の時間外割増賃金の支払いが必要となります。

もっとも、3月10日火曜日に振替休日を取得していますので、1500円 ✕  1.0 ✕ 8時間 = 12,000円 については賃金から差し引かれることになりますので、
15,000円(1.25部分) - 12,000円(1.0部分) = 3,000円(0.25部分) がこの賃金支払期間での支払義務の対象となります

従って、時間外割増賃金の支払いを避けたいのであれば、元々の休日と同じ週の範囲内で休日振替を行って1週40時間を超えないように振替休日を配置する必要があります。

ポイント
休日振替の結果、1週40時間を超える場合は、超えた分について時間外割増賃金の支払いが必要

時間外割増賃金を発生させないためには同じ週に振替休日を配置する等の配慮が必要

実際には、休日振替のメリットはあまりない?

以上、振替休日は法定休日割増賃金の支払いを回避できるというメリットについて説明しましたが、そのためには色々と複雑な要件があることも説明しました。
振替休日を確実に取得させることができるのであれば、代休に比べて、振替休日のほうが労働者に対する負担が少ない制度であると思われます。
しかし、繁忙期には、振替休日を与えることさえできなくなってしまうというような企業では、休日割増貸金を支払ってしまって、事後にまとめて代休を与えるといった運用が管理が楽かもしれません。
特に、未振替えの振替休日をためてしまうと事後の処理が複雑になります。かなりの時間が経ってから是正勧告で指摘を受け、金銭で清算することを求められる場合があります。このような場合、仮に振替休日によって労働させた日について、時間外割増賃金分として1.25の賃金が支払われていたとしても、過去に遡って法定休日の要件を満たしていないと判断された場合、1.35の賃金の支払いを勧告される場合もあり得ます。場合によっては1.0の部分が二重払いとなってしまうケースもあります。この場合、企業のほうで1.0の部分は支払済みである点を立証する必要があります。
また、振替休日制度を採用することで、「割増貸金が不要となるため得だ」とも思えますが、不要になるどころか、場合によっては時間外割増賃金が発生するだけでなく、時間管理がより煩雑なものになります。
また、仮に休日割増貸金を支払わなくてもよいことがメリットであったとしても、時間外割増賃金との差は0.1(=0.35-0.25)に過ぎません。トータルで考えると、代休の方が管理は楽でよいかもしれません。
実際に私が関与してきた事例で、振替休日として運用されている企業でも、実態は代休であることは多々あります。

代休による割増賃金の削減

代休とは

代休とは、事前に振替手続を行わないまま休日に労働させ後にこれに休日労働の代償として以後の特定の労働日の労働義務を免除する措置を意味します。

振替休日と異なり、代休を与えても休日労働させた事実はなくなりません(昭63.3. 15基発150号)

そのため、この休日労働が法定休日労働に該当する場合は1.35分の休日割増貸金を支払わなければならないことになります。

もっとも、代休を取得させた場合は、労働義務が免除された結果、不就労となり、不就労の時間や日に対応する通常の賃金を控除することも可能です(ノーワークノーペイの原則)。

代休

例えば、3月1日の日曜日は法定休日でしたが、休日振替の手続を取らずに休日出勤をし、また、7日土曜日の法定外休日にも休日出勤をしたとします。

その後、会社は当該社員に3月10日に代休を取得させました。

この会社が法定休日についての4週4休制を導入しておらず、法定休日が1週1休制で、かつ、日曜日を法定休日として特定している場合は、3月1日の休日出勤は法定外日労働となり、休日割増賃金16,200円を支払う必要があります。

他方で、3月10日に代休を取得していますので、ノーワークノーペイの原則により1日分の通常賃金(1500円 ✕  1.0 ✕ 8時間 = 12,000円)については賃金から差し引かれます。

その結果、3月1日日曜日の休日出勤に関しては、16,200円(1.35部分) - 12,000円(1.0部分) =4,200円(0.35部分) がこの賃金支払期間での支払義務の対象となります。

代休の要件

① 就業規則上に代休の定めを置くこと(特に、代休日を無給とする定め)

代休は,当初の予定の休日に休日労働をし,労働日に使用者が一方的に就労を免除することになるので、本来代休について就業規則上の定めは要りません。

代休を付与すべきかどうかは労基法上の義務はなく、与えなくてもかまいません。

もっとも、代休日を無給とすることは就業規則上の根拠が必要となります(※注釈労働時間法395頁参照)

また、与える場合は、どのような要件や手続とするかは自由に設計可能です。

就業規則の規定例
第●条(代休)

1 会社は、振替休日の手続によらず休日に出勤させたとき又は所定外労働をさせたとき、その休日出勤の日数分又は所定外労働の時間数分の代休を付与できる。
2 代休を取得した日及び時間は、ノーワーク・ノーペイの原則により無給とし、賃金規程●条●項(不就労控除)に基づいて控除を行う。
3 代休は、従業員の申請に基いて、又は、会社の裁量により、会社が必要と認める場合に、第1項の休日出勤又は所定外労働日から6ヶ月以内に付与する。
4 代休の取得を希望する従業員は、取得希望日の1ヶ月前までに、代休取得申請書を会社に提出しなければならない。

② 休日労働割増賃金・時間外労働割増賃金は、基本的に当該賃金計算期間内に支払う

休日労働や時間外労働を行った場合は、基本的に、当該賃金計算期間内に支払うことを原則としてください。

前記のとおり代休取得により通常賃金(1.0)の部分を控除できますが、実際に生じた休日割増賃金(1.35)や時間外割増賃金(1.25)から控除できるのは、同一賃金期間内に代休を取得した場合に限定されると解されます。

よくある事例として、同一賃金期間内に代休を付与させていないのに、休日割増賃金の0.35分又は時間外割増賃金の0.25部分だけ支払い(又はそれすら支払わず)、別の月でも代休を付与できないまま放置し、結果として、未払賃金が積み上がって、労基署・ユニオン・労働弁護士から責任追及を受けるということがあります。積み残っている代休取得の管理も結構面倒くさいことが多いものです。

であれば、休日労働や時間外労働を行った場合は、基本的に、当該賃金計算期間内に支払ってしまい、あとで、代休を取得させるタイミングがあったら、その時点で代休取得分を控除すれば足ります。この方が管理がしやすいですし、未払い賃金の問題に巻き込まれることもありません。

参考文献

代休の法的効果については労基法はなんら定めていないから, どのような法的効果を生じるかは,代休を付与する使用者の意思表示や就業規則等の規定の内容によって決まってくる。多くの場合は,労働契約上,労働者が負っている当該日に労務を提供すべき義務の免除としての効果を持つことになろう。この場合は,使用者による一方的な債務免除であるので,労働者が使用者に対して有している反対債権(賃金債権)は影響を受けない。代休日についての賃金債権を消滅させるためには,労働契約上の根拠(個別の合意, あるいは就業規則等の規定。ただし,就業規則の場合は,賃金債権の消滅という措置をとることについての合理的理由が必要とされよう)が必要である(注釈労働時間法395頁)

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