当社では、取引先との関係で、月の下旬は業務量が多く、従業員も多くが残業をしています。他方で、月の前半から中盤までは、業務量は比較的落ち着いています。1日8時間、1週40時間という労働時間の規制の中ではどうしても月の下旬は残業となってしまうのですが、1ヶ月の中で労働時間を変形できる制度があると聞きました。内容や導入方法を教えてください。
1 変形労働時間制とは?
1.1 労働時間の基本
労働基準法で労働時間は、1日8時間、1週40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えてはならないと定められています(労基法32条)。
この法律規制にあわせて、多くの企業では、次のように労働時間を1日8時間、週5日勤務で1週40時間と定めています。
しかし、この法定労働時間は、業務に繁忙時期と閑散時期の差が大きい場合、融通が利きません。
例えば、月曜日と金曜日は1日10時間の仕事をする必要があるが、火曜日と木曜日は6時間の仕事で足りる場合があるとします(水曜日は8時間)。
1日8時間、週5日勤務の労働時間制の場合、1週40時間は超えませんが、月曜日と金曜日は各2時間分の残業が発生し、その分の残業代を払わなければなりません。また、火曜日と木曜日は各2時間分の暇な待機時間が発生しますが、待機時間分も賃金は発生します。
経営者としては、1週40時間を超えないので、月曜日と金曜日の労働時間を10時間として、火曜日と木曜日の労働時間を6時間にしたいと思うことでしょう。しかし、法定労働時間は1日8時間を超えることはできないと定めていますので、月曜日と金曜日の労働時間を1日10時間とすることは原則としてはできません。
1.2 変形労働時間制とメリット
変形労働時間制は、1日8時間1週40時間という法定労働時間を、1カ月単位、1年単位などの一定期間の総労働時間の規制に置き換えて、労働時間を弾力的に配分させる制度です。
例えば、月曜日と金曜日は1日10時間の仕事をする必要があるが、火曜日と木曜日は6時間の仕事で足りる場合があるとします(水曜日は8時間)。
変形労働時間制を導入した場合、労働時間を、月曜日と金曜日は10時間、水曜日は8時間、火曜日と木曜日は6時間と設定することができるのです。
変形した場合、月曜日と金曜日に10時間勤務させたとしても、各2時間分の残業代は発生しません。閑散期と繁忙期で労働時間を合理的に配分することで、無駄な残業代の発生を抑えることができるのです。
2 1ヶ月単位変形労働時間制
1カ月単位の変形労働時間制(労基法32条の2) とは
期間を1カ月以内とし、一定期間を平均して週40時間の法定労働時間(10人未満の商業・サービス業の週法定労働時間は44時間 以下同じ)以内であれば、1日あるいは1週の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
例えば、次のようなイメージとなります。
1ヶ月単位の変形労働時間制が利用されるシーン
1ヶ月単位変形労働時間制は実際上どのように利用されるのでしょうか?
よくある誤解
1ヶ月単位変形労働時間制を就業規則で定めれば、変形期間内の総労働時間が法定労働時間の総枠内であれば時間外労働は発生しない(しかも、週・日の所定労働時間を特定しない)という考えです。これは違法です。そんなに簡単なものではありません。
1日ごと、1週ごとに規則性なくバラバラに設定することは現実的ではない
1ヶ月単位変形労働時間制は、期間内で週40時間の原則を維持できれば、1日の所定労働時間、1週の労働時間を自由に分配可能です。
例えば、完全週休2日制の事業場で、毎週月曜日と金曜日が、比較的忙しくて、火曜日と水曜日はそうではないという場合、月曜日と金曜日の所定労働時間を10時間にし、火曜日と水曜日の所定労働時間を6時間、木曜日の所定労働時間を8時間とすることは、変形労働時間制を採用すれば可能です。
しかし、実際にはこのようにバラバラに設定することは実務的にはありません。その理由は、実際には業務量は流動的であり、労働時間管理が非常に煩雑になり難しいからです。残業した場合の処理なども、後述のとおり非常に煩雑になるからです。
休日のコントロールにつかう
① 毎週2日の休日を配置できない場合です。1日8時間の所定労働時間の場合、週40時間を遵守する場合、毎週2日の休日を配置する必要があります。しかし、業務の繁閑によってどうしても毎週2日の休日を配置できない場合があります。この場合、1ヶ月単位変形労働時間制を利用して、休日をコントロールします。
具体的には、1日所定労働時間8時間の事業場の場合、lか月のうち、休日は9日(2月は8日)確保できれば、月の平均週所定労働時間は40時間以内に収まります。
ある週は休日が1日しか確保できなかったとしても、他の週で帳尻を合わせれば(つまり1日多く配置する)、平均週所定労働時間は40時間以内に収めることができます。
② 飲食店など、完全週休2日(年間休日104日) を確保するのが難しい事業場の場合です。稼働日数を増やす反面、所定労働時間を短くして、薄く配分し、週40時間の原則を維持する場合です。
所定労働時間は1日7時間、隔週週休2日制をとっている会社の場合です。
1週間の労働時間が第1週と第3週は42時間、第2週と第4週は35時間と反復するときは、2週間(あるいは4週間) を変形期間とする変形労働時間制を採用することにより、2週間の平均所定労働時間は38.5時間で40時間を下回るため、1ヶ月単位変形労働時間制で適法化できます。
長距離運送業、2・3交代制の工場・病院・タクシー会社など労働時間が長時間
交代勤務の関係で1日8時間、1週40時間を超える勤務割りとする必要がある場合、1ヶ月単位変形労働時間制の導入が必要となります。
3 1ヶ月単位変形労働時間制の要件
3.1 就業規則又は労使協定で定めなければならない事項
lか月単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定又は就業規則その他これに準ずるものにより、次の①~⑤の項目を具体的に定める必要があります。
- 対象労働者の範囲
- 変形期間及び起算日
- 1カ月以内の変形期間を平均し1週当たりの労働時間が週法定労働時間(原則40時間)を超えない定め
- 変形期間における労働日ごとの労働時間
- 有効期間(労使協定による場合のみ)
3.2 就業規則
就業規則については、常時10人以上の労働者を使用する使用者に作成義務があります(労基法89条)。
労基法32条の2では、「就業規則その他これに準ずるもの」によって1カ月単位の変形労働時間制をとることを定めるよう求めています。これは、就業規則の作成義務がある使用者は、必ず就業規則で1ヶ月単位の変形労働時間制を定めなければならないという趣旨です。
就業規則で上記①~③の事項を定める必要があります。その上で、事業場の従業員の過半数組合または過半数代表者の意見を聴き、その意見書を添付して、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基法90条)。
「その他これに準ずるもの」とは就業規則に該当するとまではいえないような,変形労働時間制度を個別的に定めた文書・規程等をいいます。この「就業規則に準ずるもの」により定めてよいのは、就業規則の作成義務のない使用者(常時10人未満の労働者を使用する事業で、1カ月単位の変形労働時間制を採用するとき)の場合のみです(昭22.9.13発基17号、茨交大洗タクシー事件 水戸地判昭56.11.5労経速1103.3)。この場合でも、定めをしたときは労働者に周知することが求められています(労基則12条)。
明確な規定は就業規則にはないものの、長年にわたって実質的に1カ月単位の変形労働時間制が実施されている場合があります。このように、ある一定の取り扱いが長年にわたって行われ、労働者もこれに異議を述べていないという場合は、これを「労使慣行」として評価することがあります。しかし、法律に要件が明確に定められている1ヶ月単位変形労働時間制においては、労使慣行による実施は認められません。
3.3 労使協定
労使協定を締結することによって、1カ月単位の変形労働時間制を導入することもできます。
労使協定は事業場ごとに締結します。労働者側は、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその組合、そのような労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者が当事者になります。
労使協定では上記①~③の事項に加えて、④労使協定の有効期間を定めなければなりません。この有効期間については、3年以内が望ましいとされています(平11.3.31 基発169号)。
締結した労使協定は、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基則12条の2の2)。また、締結した労使協定を労働者に周知することも必要です(労基法106条)。
ただし、労使協定を締結しただけでは、使用者が労働者に1カ月単位の変形労働時間制の義務を課すことはできません。労使協定には、労基法の定めに従って協定を締結すれば労基法違反に問われないという効果(免罰的効果)があるだけで、民事上の義務(この場合なら、1カ月単位の変形労働時間制の下で労働する義務) を発生させる効果はないからです。この義務を発生させるためには、就業規則に規定する必要があります。したがって、労使協定の締結する方法で1カ月単位の変形労働時間制を導入する場合であっても、あわせて就業規則にも規定することが必要となります。
3.4 変形期間を平均し1週当たりの労働時間が週法定労働時間(原則40時間)を超えない定め
変形期間における所定労働時間の合計が, 変形期間における法定労働時間の総枠の範囲内とすることが必要とされます。
法定労働時間の総枠
対象期間 | 法定労働時間の総枠 | |
---|---|---|
週40時間 | 週44時間 | |
28日 | 160.0時間 | 176時間 |
29日 | 165.7時間 | 182.2時間 |
30日 | 171.4時間 | 188.5時間 |
31日 | 177.1時間 | 194.8時間8 |
計算式:40時間(特例事業場は44時間)✕ 変形期間の歴日数(1ヶ月以内)/7
3.5 変形期間及び起算日
1ヶ月単位変形労働時間制という名称ですが、変形期間は、1か月以内の期間であれば特に制約はありません。例えば、4週間、2週間、10日といった設定が可能です。
変形期間の起算日は必ず定める必要があります(労基則12条の2)。いつから変形労働時間制を適用するのか,具体的な日を明らかにする必要があります(労基則12条の2第1項)。
3.6 労働日、労働時間の特定
特定の程度
就業規則等において、変形期間における各日・各週の労働時間を具体的に定める必要があります。どの程度特定するべきかというと、各日・各週の労働時間について、始業・終業の時刻も具体的に定め、かつ、これを労働者に周知することが必要です(労基法89条)。かなり厳格な特定が要求されており、違反した場合は一ヶ月単位変形労働時間制は無効となるということを肝に銘じてください。
単に「特定の日に8時間を超え、特定の週に40時間を超えて労働させることがある」という定め方では不十分です。
1箇月単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定による定め又は就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しないものであること。(昭63.1.1基発1号)
○ 1カ月単位の変形労働時間制が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則等において特定する必要がある。原審は、労働協約または就業規則において、業務の都合により4週間ないし1カ月を通じ、1週平均38時間以内の範囲内で就業させることがある旨を定めていることをもって変形労働時間制の適用があったとするが、そのような定めをもって、直ちに変形労働時間制を適用する要件が具備されていたとはいえない(大星ビル管理事件最高裁一小平14.2.28判決)。
シフト制の場合
飲食店やバスの運転業務などの勤務ダイヤやシフトを組んで勤務する場合,変形期間における各日・各週の労働時間を労使協定や就業規則等で具体的に特定して定めることが困難です。
もっとも、業務の実態から, 月ごとに勤務割・シフトを作成する必要がある場合であっても、以下の事項を労使協定や就業規則等で定めておき, それに従って各日ごとの勤務割は変形期間の開始前までに具体的に特定する必要があります(昭63.3.14基発150号)。
- 各直勤務の始業・終業時刻
- 各直勤務の組み合わせの考え方
- 勤務割表の作成手続
- 勤務割表の周知方法等
具体的には、就業規則や労使協定に、シフトごとの始業時刻、終業時刻、休憩時間のパターンを定めて、その組み合わせによりシフトを作成して周知することを定めます。
ここで注意が必要なのは、想定される全パターンを就業規則や労使協定で網羅的に定めなければならないという点です。想定される全シフトを就業規則の別紙として添付して特定をするようにします。
○ 使用者が就業規則に従って勤務割表を作成し、これを事前に従業員に周知させただけでは、労基法32条の2の「特定された週」または「特定された日」の要件を充足するものではない(岩手第一事件 仙台高裁平13.8.29判決、盛岡地判平13.2.16 労判810-15)。
○ 本件店舗における亡労働者の実際の勤務時間はシフト表により定められ,概ね勤務日の2週間前までには各人の勤務時間は判明していたといえるものの,シフト表自体には,亡労働者を含む正社員の遅番・早番に当たる勤務時間は明示されていなかったのであり,また,その勤務時間も,遅番については,そもそも本件就業規則上に該当するシフトの定めがないこと等から,本件店舗のシフト表をもって,単位期間における各日,各週の労働時間が就業規則において特定されていたと評価することはできず、本件会社の変形労働時間制の定めは,労働基準法32条の2の要件を充足しないものとして無効である(国・さいたま労基署長事件・東京地判平31・1・31労経速2384号23頁)
○ 就業規則に定める1か月単位の変形労働時間制について、単位期間の各日、各週の労働時間が特定されていないなど労働基準法32条の2の定める要件を満たしておらず無効とした(新栄不動産ビジネス事件・東京地判令元・7.24 判タ1481号 178頁) 。
○ 本件規則は「配車職員の労働時間は毎月16日を起算日とする1箇月単位の変形労働時間制による」旨記載するのみで,変形労働時間制をとる場合の各直勤務の始業終業時刻及び休憩時間,各直勤務の組み合わせの考え方,勤務割表の作成手続及び周知の方法の記載を全く欠くものであったから,労働基準法32条の2第1項の要件を満たすものとはいえない(イースタンエアポートモータース事件 東京地判令2.6.25)
○ 会社は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻,終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが,かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものであり,そして,現に元従業員が勤務していた店舗においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることに照らすと,会社が就業規則により各日,各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず,同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではないから,会社の定める変形労働時間制は無効である(日本マクドナルド事件 名古屋地判R4.10.26,名古屋高判R5.6.22)。
特定の時期
行政解釈は,変形期間の開始前までに具体的に特定すれば足りるとしています(昭63.3.14基発150号)。「変形期間の開始前」のいつまでに周知するのかということについては明確な定めはありませんが、1週間から10日程度前には遅くとも周知することが常識的には求められると思われますが、厳密には変形期間の開始前日でも足ります。
3.7 対象労働者の範囲
法令上、対象労働者の範囲について制限はありませんが、その範囲は明確に定める必要があります。
3.8 労働時間の変更
1ヶ月単位変形労働時間制において、業務上の都合を理由に一度特定した労働時間を変更することは可能でしょうか。
JR東日本事件(東京地裁平12.4.27判決労判782-6)は、「就業規則上、労働者の生活に対して大きな不利益を及ぼすことのないような内容の変更条項を求めることは、同条が特定を要求した趣旨に反しないものというべきである」としました。しかし、その変更条項には「労働者から見てどのような場合に変更が行われるのかを予測することが可能な程度に変史事由を具体的に定めることが必要」とし、包括的な定め(例: 「業務上の都合により、始業・終業時刻を変更することがある」)では労働者の予測は不可能であると判断しました。そして、労基法32条の2が求める特定の要件を欠き一ヶ月単位変形労働時間制を無効と判断しました(同様の判例として、JR西日本(広島支社)事件広島高判平14.6.25 労判835-43)。
したがって、一度特定した労働時間の変更については、①どのような事情が生じた場合に労働時間の変更があるのかをあらかじめ具体的に定めておくとともに、②労働時間を変更する場合にはあらかじめ労働者に通知することとした上で、③やむを得ない場合に限った連用とすべきことに注意してください。
変更規定がない場合については,労使協定または就業規則等に定められた単位期間内の所定労働時間は労働契約の内容となっており,変更規定等の根拠なく一方的に使用者が変更することはできません(国労静岡地本沼津支部事件_静岡地裁沼津支部昭47.7.15労判159-11は例外的に規定なくして認める判断をしましたが、一般化はできないと考えます。)。
4 1ヶ月単位変形労働時間制の就業規則・労使協定の規程例
労働日・労働時間を特定する場合
第○条(1ヶ月単位変形労働時間制)1 第○条(所定労働時間)にかかわらず、○○業務に従事する従業員の所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、1か月を平均して1週間当たり40時間を超えない範囲内で、特定の週に40時間、特定の日に8時間を超えて勤務させることがある。
2 各日の始業時刻・終業時刻、休憩時間及び所定労働時間は、次のとおりとする。
日 | 始業時刻 | 終業時刻 | 休憩時間 | 実働時間 |
---|---|---|---|---|
1日~20日 | 9時 | 17時 | 1時間(12時~13時) | 1日7時間 |
21日~末日 | 9時 | 18時30分 | 1時間(12時~13時) | 1日8時間30分 |
3 次に定める事由が生じた場合には, 第2項に定める所定労働時間数を変更することがある。変更する場合には当該労働日の1週間前までに,従業員に通知する。
① 突発的な取引先の要請があった場合
② 事故・災害のためにやむを得ない場合
③ 従業員の同意を得た場合
④ その他、これに準ずる場合
シフト制を採用する場合
第○条(1ヶ月単位変形労働時間制)1 第○条(所定労働時間)にかかわらず、○○業務に従事する従業員の所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、1か月を平均して1週間当たり40時間を超えない範囲内で、特定の週に40時間、特定の日に8時間を超えて勤務させることがある。
2 前項の場合の各日の始業時刻・終業時刻、休憩時間及び所定労働時間は、次のパターンの組み合わせによることとし,前月末日までにシフト表を作成して従業員に周知する。なお, 第1項により1カ月単位の変形労働時間制が適用される従業員に対しては 第○条(休憩)及び第○条(休日)は適用せず,休憩及び休日については,本条に
定めるものとする。
パターン | 始業時刻 | 終業時刻 | 休憩時間 | 実働時間 |
---|---|---|---|---|
A勤務 | 9時 | 16時 | 1時間(12時~13時) | 1日6時間 |
B勤務 | 13時 | 20時 | 1時間(16時~17時) | 1日6時間 |
C勤務 | 9時 | 20時 | 1時間(12時~13時) | 1日10時間 |
3 次に定める事由が生じた場合には, 第2項に定める所定労働時間数を変更することがある。変更する場合には当該労働日の1週間前までに,従業員に通知する。
① 突発的な取引先の要請があった場合
② 事故・災害のためにやむを得ない場合
③ 従業員の同意を得た場合
④ その他、これに準ずる場合
4 休日は原則年105日とし、勤務シフトによって特定し、前月末日までに従業員に周知する。
労使協定で定める場合
第○条(1ヶ月単位変形労働時間制)
1 第○条(所定労働時間)にかかわらず、○○業務に従事する従業員の所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、1か月を平均して1週間当たり40時間を超えない範囲内で、特定の週に40時間、特定の日に8時間を超えて勤務させることがある。
2 前項の規定による所定労働日、所定労働日ごとの始業及び終業の時刻は、従業員に対し、事前に文書で通知するものとする。
3 所定労働日、所定労働日ごとの始業及び終業の時刻は、1ヶ月単位変形労働時間制に関する労使協定の定めるところによる。
労使協定の規程例
協定書
一ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定書
1カ月単位の変形労働時間制に関する協定書○△商事株式会社と○○労働組合○△商事支部とは, 1カ月単位の変形労働時間制に関し,以下のとおり協定する。
第1条(所定労働時間等)
1 就業規則第○条(所定労働時間)にかかわらず、○○業務に従事する従業員の所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、1か月を平均して1週間当たり40時間を超えない範囲内で、特定の週に40時間、特定の日に8時間を超えて勤務させることがある。
2 前項の場合の各日の始業時刻・終業時刻、休憩時間及び所定労働時間は、次のパターンの組み合わせによることとし,前月末日までにシフト表を作成して従業員に周知する。なお, 第1項により1カ月単位の変形労働時間制が適用される従業員に対しては 第○条(休憩)及び第○条(休日)は適用せず,休憩及び休日については,本条に
定めるものとする。
パターン | 始業時刻 | 終業時刻 | 休憩時間 | 実働時間 |
---|---|---|---|---|
A勤務 | 9時 | 16時 | 1時間(12時~13時) | 1日6時間 |
B勤務 | 13時 | 20時 | 1時間(16時~17時) | 1日6時間 |
C勤務 | 9時 | 20時 | 1時間(12時~13時) | 1日10時間 |
3 次に定める事由が生じた場合には, 第2項に定める所定労働時間数を変更することがある。変更する場合には当該労働日の1週間前までに,従業員に通知する。
① 突発的な取引先の要請があった場合
② 事故・災害のためにやむを得ない場合
③ 従業員の同意を得た場合
④ その他、これに準ずる場合
第2条(休日)
休日は原則年105日とし、勤務シフトによって特定し、前月末日までに従業員に周知する。
第3条(対象となる従業員の範囲)
本協定による1年単位の変形労働時間制は、次のいずれかに該当する従業員を除き,○○業務に従事する従業員に適用する。
①18歳未満の年少者
②妊娠中又は産後1年を経過しない女性従業員のうち,本制度の適用免除を申し出た者
③育児や介樅を行う従業員, 職業訓練又は教育を受ける従業員その他特別の配慮を要する従業員に該当する者のうち,本制度の適用免除を申し出た者
第4条(有効期間)
本協定の有効期間は,令和○年○月○日より令和○年○月○日までとする。
令和○年○月○日
○△商事株式会社代表取締役 ○野△太郎 印
○○労働組合○△商事支部 執行委員長 甲野太郎 印
協定届
(厚生労働省ホームページ提供資料より)
5 1ヶ月単位変形労働時間制と時間外労働
1ヶ月単位変形労働時間制を適用した場合の時間外労働について、上記事例に基づいて説明します。
水色の時間が1ヶ月単位変形労働時間制により変形・特定された所定労働時間となります。この水色以外の色の部分が所定外労働時間となります。
所定外労働時間のうち、法定時間外労働(割増賃金の支払いが必要)が赤色、それ以外が黄色となります。
法定時間外労働(割増賃金の支払いが必要)に該当するか否かは、以下の3つのチェックをして確認する必要があります。
- 1日単位のチェック
- 1週単位のチェック
- 変形期間単位のチェック
5.1 1日単位のチェック
1日の法定労働時間は8時間ですので, 1日の所定労働時間が8時間を超えている日と, 8時間以下である日に分けて考えます。
- 1日の所定労働時間が8時間を超えている日は,所定労働時間を超えた実労働が法定時間外労働
- 1 日の所定労働時間が8時間を超えない日については, 1日8時間の法定労働時間を超えた実労働が法定労時間外労働
となります。
【事例へのあてはめ】
13日の金曜日は、所定労働時間が8時間の日に9時間の実労働時間となっていますので、上記②により、1時間が法定時間外労働となります。
20日の金曜日は、所定労働時間が10時間の日に11時間の実労働時間となっていますので、上記①により、1時間が法定時間外労働となります。
5.2 1週単位のチェック
1週の法定労働時間は40時間ですので, 1週の所定労働時間が40時間を超えている週と, 40時間以内である週に分けて考えます。
- 所定労働時間が40時間を超えている週については, 1週の実労働時間が週所定労働時間を超えている時間(当該週に属する日においてすでに「 1日単位」の計算で時間外労働としてカウントされた時間は除く)
- 所定労働時間が40時間を超えない週については, 1週の実労働時間が40時間を超えている時間(当該週に属する日においてすでに「 1日単位」の計算で時間外労働としてカウントされた時間は除く)
となります。
【事例へのあてはめ】
第2週は週の所定労働時間は38時間となっていますが、週の実労働時間は42時間となっており、上記②の基準によります。週42時間のうち13日の金曜日は上記「1日単位」によりチェックされていますので除外します。そうすると、週41時間で検討します。すると、14日の土曜日は、実労働時間は7時間となっていますが、6時間までは週40時間の範囲内ですが、残りの1時間は週40時間を超えますので、法定時間外労働となります。
5.3 変形期間単位
最後に、変形期間における実労働時間が、変形期間における法定労働時間の総枠を超えているか否かをチェックします。
なお、上記「1日単位」「1週単位」でチェックされた時間は除外します。
【事例へのあてはめ】
1ヶ月31日の場合、法定労働時間の総枠は171.1時間となります。
28日土曜日の所定外労働2時間のうち0.9時間が法定労働時間の総枠を超えてしまっていますので、法定時間外労働となります。
5.4 残業代の計算
以上を前提に残業代の計算をすると、以下のとおりとなります。
なお、計算の便宜上、残業代の基礎賃金が1時間あたり1000円であると仮定します。
法定時間外割増賃金(赤色部分)
13日の1時間、14日の1時間、20日の1時間、28日の0.9時間が法定時間外労働となります。
1,000円 ✕ 1.25 ✕ 3.9 = 4,875円
法定内所定外労働(法内残業・黄色部分)
14日の2時間、27日の2時間、28日の1.1時間は、所定外労働(法内残業)となります。
1,000円 ✕ 5.1 = 5,100円
6 よくある質問と回答
7 まとめ
1ヶ月単位変形労働時間制は、業務の繁閑に応じた効率的な労働時間管理ができる制度です。
もっとも、法定労働時間制の例外になりますので、上記のとおり厳格で複雑な手続をクリアする必要があります。
事業者様にて独自に変形労働時間制を導入されているケースも多いですが、法的適正な手続ができていないケースが多く見られます。
当事務所では、一ヶ月単位変形労働時間制その他労働時間制の適性な制度設計をサポートしています。
詳細は、社労士顧問契約、弁護士顧問契約をご参照ください。