外回りサラリーマン

事業場外みなし労働時間制とは?

社長
当社には営業社員がいるのですが,いわゆる直行直帰を行うことも多く,実際に何時まで仕事をしていたのかわからない状況となっています。また,営業社員に対しては,一定の営業手当は払っていますが,残業代は払っていません。このような運用で後々問題にならないでしょうか?また,業場外みなし労働時間制という制度があると聞きましたが,どういう制度ですか?
弁護士吉村雄二郎
例えば,外回りの営業職など,事業場外で労働した場合で,かつ,労働時間算定が困難なときは,所定労働時間労働したものとみなし,ただし,その業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合は通常必要とされる時間(又は労使協定で定める時間)労働したものとみなす制度です。
①労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事していること,
②労働時間を算定し難いことが導入要件となります。ただ,この制度はあくまでも例外的に認められた制度ですので,要件が厳しく審査されます。要件が否定された場合は,後々で弁護士を通じて残業代請求の労働審判を提起されるケースも増えていますので,注意して下さい。
(要件①)労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事していること
(要件②)労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事していること
※ あくまでも例外的制度なので,慎重に判断する必要がある

1 事業場外労働とは?

労働時間とは,基本的には労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

しかし,業務によっては,使用者の具体的な指揮命令権が及ばないものもあります。

例えば,自動車販売の会社の営業社員が自ら直接顧客を営業訪問し,注文を受注するような場合,どのエリアのどの顧客をどのように回るかなどは各営業社員の判断に任されています。使用者は,労働者が事業場の外で勤務しているため,どのように勤務しているのかなどを具体的に把握することが困難です。このようないわゆる外勤社員の場合は,実労働時間を把担し算定することが困難です。

そこで,このような外勤の労働者について,事業場外労働として労働時間を一定の時間にみなすことにし,使用者に課される労働時間把握義務を免除することとしたのが,事業場外労働のみなし労働時間制になります。つまり,労働時間算定に関する例外の制度といえます。

2 導入要件

①労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事していること

いわゆる外勤の営業社員などがこれに該当します。使用者からの場所的拘束を離れ,具体的な指揮命令の及ばない場所で行う業務を「事業場外での業務」といいます。

②労働時間を算定し難いこと

たとえ全部または一部の業務を事業場外で労働しているとしても,労働時間の算定が可能であれば事業場外労働に該当しません。

行政通達(昭63.1.1基発1号)では,事業場外での労働であっても労働時間が算定可能なケースとして,以下の三つを挙げています。

労働時間が算定可能な場合とは
(1)何人かのグループで事業場外労働に従事し,そのメンバーの中に労働時間管理をする者がいる場合
(2)事業場外で業務に従事する者が,無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
(3)事業場で,訪問先や帰社時刻等の業務の具体的指示を受けた後,事業場外でこの指示どおりに業務に従事し,事業場に戻る場合

※(2)に関して
「随時使用者の指示を受けながら労働する場合」とあるとおり,単なる事務連絡などのために携帯電話を所持・使用している場合を指すのではなく,逐一営業の訪問先やその営業の方法などについて,携帯電話を通して上司から指示を受けて活動する場合などが該当します。単に携帯電話を所持して事務連絡などのために使用している場合は,使用者の支配下にあるとはいえませんので,事業場外労働としてみなし労働時間を適用することは可能と解されます。

3 事業場外労働のみなし労働時間制における労働時間

原則は「所定労働時間」です(労基法38条の2第1項本文)。内勤と事業場外労働とを合わせて所定労働時間内で収まる場合が該当します。就業規則に定める始業時刻から終業時刻までの時間から,休憩時間を除いた時間を労働時間として算定します。

しかし,実際にその業務を行うときに所定労働時間を超えて労働することが必要な場合にまで,超過労働時間を一切認めず,一律に所定労働時間とみなすのでは,労働実態の整合しません。そのため,その業務を行うのに,通常,所定労働時間を超えて労働することが必要な場合には「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」が労働時間としてみなされます(労基法38条の2第1項但書)。この「当該業務」とは事業場外の業務を指すということです。例えば,9時間事業場外の業務に従事する必要のある日もあれば,10時間事業場外の業務に従事する必要がある日もあるものの,平均すれば9.5時間程度であるという場合には,この9.5時間がみなし労働時間となります。そしてこの場合は,別途内勤の時間を把握する必要があります。なお,この場合に,労使協定でみなし労働時間を定めたときには,その定めた時間をみなし労働時間とします(労基法38条の2第2項)。

4 事業場外労働のみなし労働時間制の導入方法

事業場外労働のみなし労働時間制の導入方法は,まず,すべての業務が所定労働時間内で遂行可能かどうかで分かれます。所定労働時間内ですべての業務が遂行できる場合には,就業規則でその旨を定めます。所定労働時間内ですべての業務が遂行できない場合には,次の二つの方法があります。一つは,事業場外の業務を行うのに通常必要とされる時間を設定し,就業規則で事業場外労働を行う旨とみなし労働時間を定めて,上記と同様の就業規則の制定手続きを行う方法です。もう一つは,労使協定を締結する方法です。労使協定では,①対象業務,②みなし労働時間,③有効期間を定めて,その事業場の過半数で組織する労働組合または過半数代表者と労使協定を締結し,所轄の労働基準監督署長に届け出ます(みなし労働時間が法定労働時間を超えない場合には,届け出は不要です)。あわせて,就業規則で事業場外労働の定めを行い,所定の制定手続きを行います。事業場外労働の導入においては,実態に即したみなし労働時間の設定が重要になります。

5 事業場外労働と休憩,休日,深夜労働等

事業場外労働に対してみなし労働時間を適用するというのがこの制度ですが,これはあくまでも労働時間算定についての例外です。したがって,休憩,休日、時間外労働,深夜労働などの労基法の規制は,原則どおり適用となります。みなし労働時間について法定労働時間を超える労働時間を設定した場合には,時間外労働をすることにほかなりません。36協定が必要となり,時間外労働に対しての割増賃金の支払いも必要になります(労基法37条)。休日労働についても同様です。法定休日に労働した場合には,休日割増貸金の支払いが必要です。深夜労働の割増賃金の規定(労基法37条)も,同様に適用があります。労働者が現実に深夜時間帯(午後10時~午前5時)に労働した場合には,その時間に応じた割増賃金の支払いが必要です。

6 チェックポイント

 所定みなしを採用しているのか,通常みなしを採用しているのかが明確か?

 緊急時ではなく,定期的な電話報告や呼出し等を行っていないか?

 所定みなしを採用している場合,始業時刻前,終業時刻後の内勤時間を把握しているか?

 通常みなしで労使協定を締結している場合,内勤時間を把握しているか?

 内勤時間の把握の結果,時間外労働が発生した場合,それに応じた割増賃金を支払っているか?

 営業手当の名目で,実質上,割増賃金の不払いとなっている状況はないか?

 外勤時間の実態がみなし時間と整合性が取れているか,定期的に検証しているか?

 

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