管理監督者

【徹底解説】残業代のいらない「管理監督者」とは

社長
当社では課長職以上の役職者(課長、次長、部長)を管理職として一律に残業代支給の対象外としています。法律でも管理職については残業代を支払わなくても大丈夫だと聞いたことがあります。ところが、当社を退職した課長が退職直後に弁護士を通じて「名ばかり管理職」だったので残業代を支払えと請求されてしまいました。課長の残業代請求に応じなければならないでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
まず課長や部長という役職をつけたからといって、労働時間規制や残業代の支払いを要する管理監督者(労基法41条2号)に当たるとはいえません。管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、名称にとらわれず、職務内容、責任と権限、勤務態様など実態に即して判断すべきものとされています(昭22.9.13発基17、昭63.3.14基発150・婦発47)。部長であっても、例えば、部下の労務管理権限がない場合、労働時間が一般社員と同じように管理されている場合、管理監督者に見合った待遇を受けていない場合は、管理監督者に該当しないのです。管理監督者にあたるか否かの判断はケースバイケースに行う必要がありますので、以下の記事を参考にチェックしてください。
管理監督者性の判断基準は①勤務内容、責任と権限、②労働時間の裁量、③賃金等の待遇の3点。
管理監督者に該当すれば残業代・休日割増賃金は発生しない。他方で、該当しなかった場合、高額な賃金を前提に残業代が発生する等のリスクがある

1 管理監督者とは?

管理監督者に関する法律の定め

労働基準法41条2号で第4章(労働時間,休憩及び休日)の規定の適用除外を規定しています。

労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章(※第4章)、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
② 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者
この労基法41条2号で規定されている「監督若しくは管理の地位にある者」が「管理監督者」と一般に呼ばれています。

ただし、管理監督者の内容については、法律では明確な定義や要件を定めていませんし、これを定義した最高裁判例もありません

それゆえ、管理監督者の定義や要件が問題となりますが、実務的には、管理監督者に関する、行政通達下級審裁判例から読み解くことが重要となります。

※ 管理監督者に関する行政通達の詳細はこちらの記事をご参照ください。
※ 管理監督者に関する下級審裁判例についてはこちらの記事をご参照ください。

管理監督者に関する定義

行政通達や下級審裁判例を踏まえますと、管理監督者とは,事業主に代わって労務管理を行う地位にあり、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者、と定義できます。

そして、この管理監督者に該当するか否かの判断基準は以下の3つがあげられます。

① 勤務内容、責任と権限

労務管理方針の決定に参画し,あるいは労務管理上の指揮監督権を有し、労働時間規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務と責任を有しているか

② 勤務態様

自己の勤務について自由裁量の余地があり, 出勤・退社について一般労働者と同様の厳格な規制を受けていないこと

③ 賃金等の待遇

管理職手当ないし役職手当等の賃金の待遇面で一般労働者と比べて優遇措置がとられていること

管理監督者か否かは、この3つの判断基準を総合的に考慮して判断されます。

弁護士吉村雄二郎
この3つの判断基準は全て等しい比重という訳ではなく、③と比べますと①と②の方が重要です。③も軽視できませんが、大体の事案は①と②で勝負がついています。

以下、①から③の判断基準の内容について具体的に説明していきます。

① 勤務内容、責任と権限

経営者との一体的な立場で仕事をしていること

まず、「① 勤務内容、責任と権限」に関しては、事業経営の観点、労務管理の観点に照らし、企業全体からみて相当重要な職務内容、責任と権限であることを要し、事業経営又は労務管理において、経営者と一体的な立場にあることが判断要素となります。

経営者と一体的な立場にあるか否かは、(1)経営への参画状況、(2)労務管理上の指揮監督権の有無・内容、(3)実際の職務内容を、総合考慮して規範的に評価・判断されます。

(1) 経営への参画状況

経営者と一体的な立場にあるというためには,企業の事業経営の重要事項を決定する会議などへ参加し、かつ、発言力や影響力があることが必要となります。

このような会議等に参与していないか,会議等に出席・関与はしていても,発言機会がない場合や発言機会があっても発言に影響力がない場合には管理監督者性が否定されやすいです。

確認すべき事実関係・証拠
□ 会社の経営方針に関する決定権限・プロセス(決定権限規程、職務分掌規程)
□ 実際の会議での発言力や影響力(会議議事録)
「会社全体の」経営方針の決定、事業運営に決定がなされている会議に関わる必要があるか
会社全体の重要事項・重要施策の決定プロセスに関与することは必ずしも必要はない。ただし、重要な組織単位における決定プロセスへの関与は必要
学説・通達・判例の比較解説はこちら
下級審裁判例

会社全体に及ぼす権限や関与のないことをもって経営者との一体性を否定する裁判例
日本マクドナルド事件(東京地判平20.1.28労判953-10)
シン・コーポレーション事件(大阪地判平21.6.12労判988-28)
当該労働者が担当する組織部分が,その企業にとって重要な組織単位であれば,その管理を通して経営に参画することも経営者との一体性を肯定する事情となるとする裁判例
レイズ事件(東京地判平22・10・27労判1021号39頁)
技術翻訳事件(東京地判平23.5.17労判1033号42頁)
HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド(賃金等請求)事件(東京地判平23.12.27労判1044号5頁)
ロア・アドバタイジング事件(東京地判平24.7.27労判1059号26頁)
行政通達
基本通達は「労務管理について経営者と一体的な立場」にあることを要素とするが、裁判例のように「企業全体の事業経営に関する重要事項への関与」という点を判断基準として挙げていない。
学説

「裁判例をみると、管理監督者の定義に関する上記の行政解釈のうち、「経営者と一体の立場にある者」、「事業主の経営に関する決定に参画し」については、これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ、それらを連携統合しているのであって、担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが「経営者と一体の立場」であると考えるべきである。そして、当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば、その管理を通して経営に参画することが「経営に関する決定に参画し」にあたるとみるべきである。」(菅野和夫「労働法[12版]」492頁)として、会社全体の決定プロセスに関与する必要はないと指摘する。

(2) 労務管理上の指揮監督権

管理監督者の業務内容・権限としては労務管理上の指揮監督権が重視されます。具体的には、以下の労務管理上の権限や実質的な関与が認められるか否かが問題となります。

採用

部下の採用に関わる権限・責任が与えられているかが問題となります。

採用の「最終決定権」はなくとも、面接等を行い採否決定の具申を行い、それを尊重して本部(本社)が最終的に採否を決定する場合であれば、管理監督者性は否定されません。

これに対して、面接に立ち会うだけで経営者(別の上位職位の者)が採用を決定するような場合は管理監督者性が否定される要素となります。

解雇

部下の解雇に関する事項が職務内容に含まれているかが問題となります。

解雇を決定する権限がなくとも、部下の勤務成績等を勘案し、経営者に解雇や雇用継続に関する意見を具申する権限が与えられ、経営者がそれを踏まえて解雇を決定している場合は、管理監督者性は否定されません。

人事考課

人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう。) の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれているかが問題となります。

部下の人事考課の最終決定権がなくとも、数次の考課者がいるなかで、一次考課者であり実質的に関与している場合は管理監督者性は否定されません。他方で、実質的にも関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となります。

労働時間の管理

部下の労働時間の管理権限があるかが問題となります。

勤務割表の作成権限

勤務割表(シフト表)が作成される職場において、部下の勤務割表の作成権限がない場合は、管理監督者性を否定する要素となります。ただし、実際に自らシフト表を作成する必要はなく、部下が作ったシフト表を最終承認する権限があれば管理監督者性は否定されません。

所定時間外労働の命令権限

管理する事業場の業務遂行の必要性に応じ、自己の責任と判断において時間外労働を命ずる権限を有していない場合は、管理監督者性を否定する要素となります。

(3) 実際の職務内容

当該労働者の実際の職務内容が、管理監督者性としての,管理監督者としてのマネージャー業務のみならず,その部下と同様の現場作業・業務にもかなりの程度従事するような場合、管理監督者性を否定する重要な要素とされやすいです。

プレイング・マネージャーとして、頻繁に部下と同じ仕事に従事している(せざるをえない)場合は、マネージャーとしての仕事をしていない、つまり経営者と一体的な立場で監督又は管理業務を行っていないということになり、管理監督者性を否定する要素となります。

そもそも、労基法第41条2号の「管理監督者」は、「管理」も「監督」も行う者なのか?
「管理」「監督」のいずれか一方の権限責任があれば労基法第41条2号「監督若しくは管理の地位にある者」に該当します。「監督」は労務管理権・業務命令権を指します。「管理」は広く経営方針の決定(事業運営、生産管理、財務管理、人事管理等)を意味します。このいずれかに該当する権限・責任を有していれば足ります。「管理監督者」という字面から「管理」「監督」のいずれも必要であると解するのは誤りです。
部下がいないが重要な権限を与えられている場合は管理監督者と認められますか?
部下がいないが経営上の重要事項に関する企画、立案、調査等の業務を担当する場合は認められる可能性もあります。通達上も認める可能性があることが示唆されています。
管理監督者が会社全体に占める割合、事業場全体に占める割は何%までであればよいですか?
定型的に何%という基準はありませんが、一般的には管理監督者の割合は10%以内に止めた方が無難、10%を超える場合は要注意と言われています。管理監督者の割合ではなく、管理監督者の要件を満たすのかという観点から判断はなされます。

②勤務態様、労働時間管理

労働時間に関する裁量

自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量を有していることが管理監督者性の判断の重要な要素となります。

管理監督者について労基法上の労働時間等の規制の適用が除外される理由の一つは,このような労働者は,経営への参画、部下の労務管理権限等の帰結として,自らの労働時間を自らの裁量で律することができることにあります。したがって、労働時間に関する裁量の有無・程度が管理監督者性を判断するにあたって重要な指標となります。

労働時間についての裁量の有無・程度は、(1)所定労働時間に拘束されていたか、(2)労働時間の管理を受けることにより、所定労働時間に拘束されていたか、(3)時間外労働・休日労働が自己の裁量で行われていたか、(4)遅刻・早退・欠勤の場合の取り扱いなどを総合的に考慮して判断されます。

確認すべき事実関係・証拠
□ 雇用契約書・就業規則(所定労働時間・休日の定め、時間外・休日労働の定め、欠勤控除の定め、代休の定め等)
□ タイムカード、出勤簿(労働時間管理が厳格に行われていたか)
□ 賃金台帳(遅刻・早退・欠勤の控除の有無等)
□ 注意指導の文書・メール(遅刻・早退・欠勤の場合の注意指導等の有無)

(1)所定労働時間に拘束されていたか

所定労働時間に労働時間が拘束される場合は,労働時間に関する自由裁量性が認め難いため、管理監督者性を否定する要素になり得ます。所定労働時間に拘束されているか否かは、下記(2)~(4)の要素も併せて判断することになります。

所定労働時間を定めている場合、管理監督者性は否定されるのですか?

否定されません。管理監督者であっても、所定労働時間や休憩時間を定めていること自体から直ちに管理監督者性が否定されることにはなりません。所定労働時間が定められていても、それに拘束されずに、労働時間に関する裁量が認められているのであれば管理監督者性が否定されることにはなりません。

弁護士吉村雄二郎
私の経験ですが、関与先の企業へ臨検した労働基準監督官が、管理監督者として扱われている管理職の雇用契約書に「所定労働時間・休憩時間」の定めがあることを発見し、ここぞとばかりに「所定労働時間の定めがあるのは問題ではないのか?」と指導票を出した者がいました。しかし、所定労働時間を定めること自体は管理監督者性に影響を与えるものではありません。所定労働時間があっても、職責を全うするために出退勤時間を自由に決めていた実態があり、所定労働時間に拘束されていないことを報告したところ、それ以降は指導等はなされませんでした。労働基準監督官も担当者によっては管理監督者の本質を理解していない場合があるので注意が必要です。

(2)労働時間の管理

労働時間の管理が、タイムカード、出勤簿の記載、出退勤時の点呼・確認等によって行われており、この管理により労働時間が拘束されていた場合は、管理監督者性を否定する要素となります。また、当日の業務予定や結果等の上長への報告(メール、SNS、電話等)が必要である場合、社外業務について上長の許可等が必要な場合で、業務遂行方法や時間配分等に関する裁量の度合が低い場合も、管理監督者性を否定する事情となります。

タイムカードで出退勤時間を記録していた場合、管理監督者性は常に否定されますか?
いいえ、必ずしも管理監督者性が否定される訳ではありません。タイムカードの打刻が義務づけられていたとしても,その趣旨が出退勤時刻を厳格に管理するものではなく,出退勤の有無自体を確認するとか,深夜割増賃金の計算目的や健康管理等の目的であることもあり,タイムカードの打刻が義務づけられているとの事情だけで勤務時間に関する裁量がないと判断される訳ではありません。実態として、出退勤時間に裁量が認められている場合や遅刻・早退・欠勤の場合であっても賃金控除されていない等の場合は管理監督者性は否定されません。
なお、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平29.1.20策定)でも,労基法41条該当者はその適用除外とされているものの「健康確保を図る必要があることから,使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある」としています。また、労安衛法では面接指導実施のため労働時間状況の把握が義務付けられ(労安衛法66条の8の3)労安衛則52条の7の3では,労働時間の状況の把握方法としてタイムカードによる記録等を原則としています。つまり、管理監督者についてもタイムカード等による記録が法令通達上は必要とされており、タイムカード等による記録が直ちに管理監督者性を否定する理由にはならないのです。

(3)時間外労働・休日労働の裁量

時間外労働や休日労働について、上長からの指示命令を受けて行っていた場合や自己の判断で行う場合であっても上長の事前事後の許可が必要である場合は、時間外労働・休日労働の裁量がなく、管理監督者性を否定する要素となります。

建前上は時間外労働・休日労働の裁量が認められている場合であっても、勤務体制上の必要から相当な時間外労働または休日労働が避けられない状況である場合は、時間外労働・休日労働の裁量がないといえ、管理監督者性を否定する要素となります。

(4)遅刻・早退・欠勤の場合の取り扱い

遅刻・早退・欠勤について,人事担当者又は上司等の承諾が必要とされる場合は労働時間の裁量を否定することになりますので管理監督者性を否定する要素となります。

また、遅刻・早退・欠勤をしたこと自体を理由として不利益な人事評価、賃金(賞与)の査定や懲戒処分の対象になる場合は,制裁(ペナルティー)を定めて労働時間の裁量を否定することにつながりますので、管理監督者性を否定する要素になり得ます。もっとも、遅刻・早退・欠勤を繰り返した結果、管理監督者としての職務(部下の労務管理等)を十分に果たさなかった場合は職務懈怠・不履行として、人事評価、賞与の査定や懲戒処分の対象とすることは可能です。

欠勤控除をすることが管理監督者性を否定する要素となるか?
否定要素となりえるので、管理監督者については欠勤控除は避けるべき。
欠勤控除は遅刻・早退・欠勤による「不就労」により、ノーワーク・ノーペイの原則によって、賃金債権が発生しないことを意味します。懲戒処分の減給制裁ではありません。制裁ではない以上、欠勤控除は管理監督者性を否定するとはいえないという考え方もあり得ます。行政通達上も欠勤控除が管理監督者性を否定する事情になるとは言っておりません。
しかし、欠勤控除をするということは、所定労働時間に欠けた時間について賃金を発生させないことを意味しており、所定労働時間の枠を強く意識していることを徴表していると評価できます。所定労働時間への拘束性を意味しているといえるのです。管理監督者は所定労働時間の枠にとらわれずに職務を遂行するということが本質的要素であることからしますと、これと整合しないと言えるのです。裁判例においても、管理監督者性を肯定した裁判例において「遅刻、早退、欠勤によって賃金が控除されたことはなかった」として肯定の理由となっています(京都地裁H24.4.17セントラルスポーツ事件)。よって、欠勤控除は管理監督者性を否定する補強要素にはなりえるのです。そこで、就業規則において管理監督者については欠勤控除の規定を適用排除した方がよいでしょう。

所定休日の出勤及び代休の付与について,企業で管理され,賃金精算の対象にされている場合は,管理監督者性を否定される理由になり得ます。

③賃金等の待遇

その地位にふさわしい待遇を受けていること

管理監督者は,労働時間の枠組みに縛られずに勤務することが要請される一方,そのような業務遂行が求められても保護に欠けることのない待遇面での手当てがされている必要があります。その判断にあたっては,定期に支給される基本給,その他の手当において,その地位にふさわしい待遇を受けているか,賞与等の一時金の支給率やその算定基礎において,一般労働者に比べて優遇されているかなどが重要となります。そして,管理監督者でない一般労働者との間に有意な待遇差が設けられていれば,管理監督者性を肯定する一事情として考慮すべき事情となりますが、他方で,有意な差が認められなかったり,時間外手当等を考慮するとかえって賃金が下がったりしているなどの事情があれば,管理監督者性を否定する要素となります。

確認すべき事実関係・証拠
□ 雇用契約書・就業規則(基本給、役職手当の金額、趣旨を確認)
□ タイムカード、出勤簿(総労働時間を確認)
□ 賃金台帳(賃金支給額の確認、下位の従業員の待遇を確認)

ふさわしい待遇の具体的な判断要素

「その地位にふさわしい待遇」と言われても、どの程度の賃金を払っていればよいのかについて、法律には基準は書いていません。厚労省の通達や裁判例を見渡しますと、「(当該労働者より)下位の労働者と比べて優遇されているか」がポイントとなっています。以下、具体的に見てみましょう。

基本給、役職手当等の優遇措置

基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となります(「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(平成20.9.9基発第0909001号、以下「チェーン店通達」といいます。))。

実際の総労働時間を前提に、その賃金から労働基準法上の時間外労働、休日労働に対応する賃金を差し引いた賃
金、すなわち、所定賃金に相当する部分が、一般労働者と比較して見劣りする場合は、ふさわしい待遇ではないとして管理監督者性を否定する補強要素となります。

よく管理職になって賃金が下がったというケースを聞くことがあります。管理職に昇進して役職手当が貰えるようになった(又は以前より増えた)が、以前と同じ程度またはそれ以上に残業をしているのに、残業代が支払われなくなり、結果的に管理職になって賃金が低下するというような場合です。この場合、優遇措置がなされていない可能性が高まります。

年間賃金総額

1年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の下位の正社員の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する要素となります(チェーン店通達)。

下位の正社員とは異なり、経営者と一体的な地位に基づいて、労働時間の規制から外れて、重要な職務を行っているにもかかわらず、下位の正社員と賃金総額が同程度であるのであれば、それはふさわしい待遇ではないと評価されることもやむを得ないでしょう。

ただし、「勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情」によっては下位の正社員が高い待遇を得ていたとしても、合理的な説明ができるのであれば、直ちに管理監督者性を否定する事情とはなりません。勤続年数によって年功的な賃金が上昇する賃金体系を採用している企業では、非管理職であっても相当高額な賃金を得ている場合もありえます。その場合に非管理職より低い賃金総額となっていても管理監督者性が直ちに否定される訳ではないということです。

時間単価

実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額が、店舗に所属するアルバイト・パート等の時給額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となります。当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は管理監督者性を否定する極めて重要な要素となります(チェーン店通達)。

管理監督者として扱われている店舗の店長の中にはかなりの長時間労働を行っている人がいます。一般の正社員より高い賃金が支払われていたとしても、それを実際の労働時間で割って時間単価を出した場合、その会社のアルバイト・パート等の時給を下回っているような場合は、基本的にアウトです。管理監督者性が否定されます。最低賃金を下回るような状況は論外です。

ただし、時間単価がアルバイト・パート等より高かったらセーフという訳ではないことに注意してください。あくまでもアルバイト・パート等の時給や最低賃金を下回ったらアウトと言っているだけです。上記のとおり下位の正社員と比べて優遇措置が取られているかという点が重要なポイントとなります。

役職手当について

役職手当として,その職務や責任に対応した金員が支払われる場合の他に,割増手当の支給に代わる相当額が支払われる場合があります。割増手当相当額として支給している場合、役職に見合った待遇をしたものではないとして管理監督者性を否定される理由となる場合があります(リゾートトラスト事件 大阪地裁H17.3.25)。

役職手当がそもそも払われていない場合、その分基本給などが高額であっても、役職に見合った金額が支給されていると認められないとして,管理監督者性を否定する要素になる場合があります(光安事件 大阪地裁H13,7.19等)。

 給与,賞与等が高額であっても否定される場合

給与,賞与等が他の従業員等との比較において相当高額である場合であっても,その理由が,役職に見合った支給をするためではなく,他の理由(年功序列的な賃金体系,中途入社等による厚遇等)によるものと認められる場合は,管理監督者性を否定する理由になる場合があります(ジャパンネットワークサービス事件 東京地裁H14.11.11、東建ジオテック事件 H14.3.28など)。

弁護士吉村雄二郎
誤解を恐れずに言えば、非管理監督者の直近下位の部下が少々残業をしてもおいつかないくらいの賃金額を定めることが重要です。

裁判例

管理監督者性が肯定された裁判例

事件名役職(肩書)賃金
徳州会事件
大阪地裁S62.3.31
労判497号65頁病院経営,医療業務を目的とする医療法人
人事第二課長

大阪本部に在籍し,人事第二課長として,看護士募集業務を1人で担当し,新設病院で勤務する看護士を確保するため,西日本一帯において募集活動(求人活動病院見学・アルバイト学生の案内等)を行った。

基本給月額15万円~16万円前後,責任手当月額2万5000円~3万円,特別調整手当月額3万円又は5万円。その他、皆勤手当6,000円、家族手当21,000円、住宅手当10,000円。月給総額は243,800円~288,972円
賞与は、夏冬合計で816,750円~869,600円であった。
年収で、4,161,488円~程度であった。※責任手当に加えて,包括的な時間外手当として,実際の時間外労
働時間の長短にかかわらず,特別調整手当が支給されていたと認定
※判決理由において、上記金額がその地位にふさわしい賃金であるか否かについて詳細な理由は述べられていない。
日本プレジデントクラブ事件
東京地裁S63.4.27
労判517号17頁旅行を目的とする会員制クラブの運営,従業員は社員4,5名,アルバイト数名程度。
総務局次長

原告の在職期間は1か月程度。
社長は,組織全体の総務全般(人事経理関係)を処理できる者として,原告を面接して採用した。原告は,総務局次長として,経理,人事庶務全般にわたる事務を管掌することを委ねられていた。

基本給15万円,職能給7万9600円,役職手当3万円,職務手当5万円,家族手当2万円。月給総額33万円
賞与なし。
年収で396万円。※判決理由において、上記金額がその地位にふさわしい賃金であるか否かについて詳細な理由は述べられていない。
パルシングオー
東京地裁H9.1.28
労判725号89頁(要旨)写真植字による印字制作,イラストレーション,グラフィックデザインの制作等。
経営企画室のMDSS(マネジメント・デシジョン・サポート・スタッフ=経営・意思決定支援構成員)又は営業部のマネージャー

経営企画室では,MDSSは取締役に次ぐマネージャーのうち上位の管理職として位置づけられ,営業部では,マネージャーは最高責任者として位置づけられていた。
経営企画室は,被告の重要事項(年間スケジュール,夏期・冬期の各賞与の査定,昇進・昇格等)につき,審議・上申していた。

MDSSには,経営給が支給され,マネージャーには,管理給が支給され,また,固定残業給として, MDSSには月額1万円,マネージャーには月額2万円がそれぞれ支給されていた(固定残業給は,被告の業務内容を時間の上で厳密に管理することが困難であることに鑑み,残業に対する手当を固定化したものであった。)。

※具体的な月給額・年収額等は公刊なし

センチュリー・オート事件
東京地裁H19.3.22
労判938号85頁自動車の修理及び整備点検損害保険代理業
営業部長

営業部には原告を含めて9名の社員がいた。

基本給37万7500円~38万円,役付手当3万円,資格手当3万円経営幹部として処遇 諸手当込み月給合計46万円程度

年収約552万円程度

裁判所は「給与の額は,代表者,工場長に次ぐ高い金額」と認定

 

姪浜タクシー事件
福岡地裁H19.4.26
労判948号41頁旅客運送業
営業次長

被告における3人の営業次長のうち筆頭次長で,営業部にはそのもとに200名余りのタクシー乗務員が管理される体制

相応の責任ある地位に就いていた。
月額39万4000円(基本給36万4000円役職手当3万円)
年収712万円~726万円で取締役を除く全従業員の中で最高
下位の正社員は、配車係・乗務員は400万円~450万円程度。
日本ファースト証券事件
大阪地裁H20.2.8
労判959号168頁証券会社
支店長

大阪支店の30名以上の部下を統括する地位にあった。
従業員349名中,執行役員3名,部長1号11名,副部長1号2名で, 原告の職責は上位15ないし16番目に当たる。

基本給33万円,職務給8.5万円,役務給8.5万円,職責手当25万円, 営業手当7万円で月給82万円。店長以下のそれより格段に高いと評価
原告の職階は全従業員中上位7ないし9番目。
職責手当は係長以上に支給され,原告が25万円、原告の部下の店長が20万円,次長が10万円,課長が2万円の上限となっている。年収約1000万円
ことぶき事件
最高裁H21.12.18
労判1000号5頁美容室及び理髪店経営
総店長
代表取締役に次ぐナンバー2の地位で、代表取締役を補佐して、理美容5店舗の5名の店長を総括する立場
月給43万4000円(途中で39万0600円に減額)に店長手当3万円の合計42万円~46万円

店長手当は他の店長の3倍の額であり、月給は他の店長の1.5倍程度であった。

→総店長として不十分とはいえない待遇を受けていたと評価

セントラルスポーツ事件
京都地裁H24.4.17
労判1058号69頁東京近郊中心に全国25エリア合計160店舗のスポーツクラブ運営
エリアディレクター

全25エリアでスポーツクラブを運営し,原告はそのエリアの一つを統括する責任者として,営業本部長及び営業部長に次ぐ地位。
原告は,計6スポーツクラブの約40名の正社員(アルバイト142名を加えると約180名の従業員)を東葛する立場。

年俸制で基本年俸額640万0800円(月の基本給は53万3400円)→被告全体でみると執行役員(774万4800円),部長(729万6000円),室長(729万6000円又は684万8400円),次長(684万8400円),エリアディレクター1(684万8400円)に次ぐ高い賃金。
基本年俸額に業績給が加算され、実際の年俸額は886万4256円,795万4000円,767万4000円であった。
管理監督者ではない下位の社員(副店長)の給与は月給28万円であり、これと比べて大幅に高額と評価。
ピュアルネッサンス事件
東京地裁H24.5.16
労判1057号96頁美容サロンの経営,化粧品等の販売
取締役(常務・専務)

小規模のオーナーワンマン会社の役員。従業員は業務委託も含め約30名程度。

 

基本給として月額30万円から35万円,役職手当として5万円から10万円が支払われており,これ以外に特別手当,調整手当の支払を受けており,合計すると40万円~45万円、多いときは月額60万円

オーナー経営者(月額150万円)とその妻(月額100万円)に次いで高額で,取締役副社長と同額であり,5名いた従業員の中で最も高い給与をもらっていた者(26万2500円)の倍以上
→一般従業員の基本給と比べて厚遇されていたことは明らかと認定

VESTA事件
東京地裁H24.8.30
労判1059号91頁
LEX/DB 25482609賃貸契約の保証会社
従業員数約140~240名
本社営業部長

関連会社の代表取締役から転籍。一時期、被告の取締役にも就任。東京本社のみならず,全国の支店の営業全般を統括する立場。

 

報酬又は賃金は,月額54万円~62万円
年収は650万円~750万円程度被告従業員の平均賃金額は,月額33万円から36万円程度。被告の役員及び従業員の報酬又は賃金の最高支給額は,代表取締役の月額58万4000円から100万円→原告の賃金は代表取締役に準ずる水準にあった。

※参考として年収の金額も表示していますが、裁判例では「年収」単位での認定及び評価はほとんどなされていない印象です。

管理監督者に該当する場合について

管理監督者の労働基準法の適用関係

労基法41条は,管理監督者に該当する労働者については,労基法第4章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は適用しないと定めています。法定の手続(36協定の労基署への届出等)がなくとも1日8時間1週40時間を超える労働を命ずることができ、時間外・休日割増賃金を支払う必要はありません。休憩時間を与えなくとも労基法違反にはなりません

しかし、深夜労働についての規定は適用除外とはなっていないので,深夜労働に対する割増賃金の支払は必要であることに注意が必要です(ことぶき事件 最二小判平21.12.18労判1000-5)。

労働基準法の規定適用関係
法定労働時間(32条)適用なし
時間外労働の手続きおよび割増貸金(36条,37条)適用なし
休日労働の手続きおよび割増貸金(36条,37条)適用なし
休憩時間(34条)適用なし
深夜労働割増貸金(37条)適用あり
年次有給休暇(39条)適用あり
年少者,妊産婦の深夜業禁止規定(61条,66条3項)適用あり

管理監督者の労働契約・就業規則上の注意点

以上は管理監督者に該当する労働者に対する労基法の適用関係でしたが、労働契約・就業規則上の注意点についても説明します。

所定労働時間・休憩時間・所定休日の定め

上記のとおり管理監督者には労基法上の労働時間・休憩・時間外休日労働等に関する定めは排除されます。そのことを受けて、就業規則上でも労働時間、休憩、休日の規定を排除する例があります。

第●条(適用除外)
監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者については、労働時間、休憩及び休日の規定は適用しない。

実務的によくある記載例の一つです。

ただ、これでは、管理監督者について、所定労働時間・休憩・所定休日の定めがスッポリなくなってしまいます。

しかし、労基法89条の就業規則の作成届出義務は「監督又は管理の地位にある者」について適用除外とはなっていません。管理監督者についても就業規則の必要的記載事項を定める必要があります。89条1号に定める「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日」を定める必要があるのです。ところが、上記就業規則の規定例のようにバッサリと管理監督者について適用を排除するだけで何もケアしないのであれば、労基法89条1号に違反すると言えます。

そこで管理監督者であっても所定労働時間・休憩・所定休日の定めを行う必要があると考えます(石嵜信憲「就業規則の法律実務(第5版)」P654~ 中央経済社 2020年8月)。ただし、前記のとおり所定労働時間へ拘束されている場合は管理監督者性が否定される要素となりますので、規定の仕方に注意は必要です。

具体的には、所定労働時間・休憩及び所定休日の規定は原則として管理監督者にも適用されることを表明しつつも、労働時間の管理は管理監督者に裁量が与えられており、自己の責任において行うことを明記することが適当です。

遅刻・早退・欠勤をしたこと自体による不利益評価や制裁の排除

管理監督者であるためには、所定労働時間に厳格に拘束されていないことが要素となります。具体的には、遅刻・早退・欠勤をしたとしても、それ自体を理由として懲戒処分の対象や賞与の算定において不利益な査定を受けないことが挙げられます。そこで、その旨を就業規則に明記することが考えられます。これは絶対に必要な記載ではありませんが、管理監督者性をより明確にする見地からは明記した方がよいといえます。なお、遅刻・早退・欠勤を繰り返すなどした結果、肝心の管理監督者としての職務が不十分となった場合に不利益評価の対象としえることは既に説明したとおりです。

遅刻・早退・欠勤をしたことによる欠勤控除の規定の排除

遅刻・早退・欠勤の場合に欠勤控除することは、管理監督者性を否定する補強要素となりえます。そこで、管理監督者については、欠勤控除の規定は排除することを明記する必要があります。

時間外・休日労働命令の適用排除

管理監督者は、労働時間の管理にかかる自由裁量が認められることが要素となっていますので、1日8時間、1週40時間を超える労働や所定休日における労働も、本来自己の裁量によって決められなければなりません。

そこで、管理監督者については、就業規則上の時間外労働・休日労働の命令に関する規定が排除されることを明記する必要があります。

時間外・休日割増賃金に関する規定の適用排除

管理監督者には時間外・休日割増賃金は発生しません。通常は就業規則(賃金規程)において、時間外・休日割増賃金の発生条件や計算式が定められていますが、これらが管理監督者であることと(割増賃金が発生しないこと)と矛盾します。そこで、時間外・休日割増賃金に関する規定の適用が排除されることを明記する必要があります。

代休の規定の適用排除

代休は、就業規則に定められた休日に休日労働をさせた後, 別の労働日における就労義務を免除するものです。そして、代休の定めの中には、割増賃金(法定休日労働の割増賃金、週40時間超の時間外労働の割増賃金)との相殺の規定を置くことが通常です。この規定が適用され相殺処理を行うことは、割増賃金が発生することを前提としており、管理監督者であること(割増賃金が発生しないこと)と矛盾が生じます。そこで、代休の規定が排除されることを明記する必要があります。

タイムカード等による記録の趣旨

管理監督者であっても、深夜割増賃金の算定や健康管理の目的等からタイムカード等による記録が必要とされています。よって、管理監督者についてタイムカード等による記録を行ったことをもって直ちに管理監督者性が否定される要素とはなりません。とはいえ、管理監督者についてはタイムカード等による記録は健康管理の目的であることは明記した方が誤解を回避できます。そこで、就業規則において管理監督者についてタイムカード等による記録をするとしても、それは健康管理の目的等であることを明記することが適当です。

管理監督者に与える権限を明記する

管理監督者は、事業経営の観点、労務管理の観点に照らし、企業全体からみて相当重要な職務内容、責任と権限であることを要し、事業経営又は労務管理において、経営者と一体的な立場にあることが必要とされています。そこで、(1)経営への参画状況、(2)労務管理上の指揮監督権の有無・内容、(3)実際の職務内容について、定めを置くことが適当です。具体的には、職務権限規程や職務分掌規程などによって、管理監督者の権限を定めるとよいでしょう。

具体的に定めるべき権限等
経営に関する重要会議への出席・意見の機会
採用権限(最終的決定権でなくても面接参加や採否の決定を具申できる権限でよい)
解雇に関わる権限(最終的決定権でなくても意見を具申できる権限でよい)
人事評価権(第1次評価を行うなど実質的な権限があたえられていればよい)
時間外・休日労働命令権限
労働時間管理権限
遅刻・早退・欠勤の許可・承認権限
一定額までの支出権限(店長、支店長など自己が管理している店舗に関して)
自己が管理する店舗の財務情報共有権限(損益を知り得る立場にあること。会社全体でなくとも。)

就業規則等の記載例

就業規則の規定例
第●条(監督又は管理の地位にある者等の規律)
1 ①監督若しくは管理の地位にある者又は②機密の事務を取り扱う者については、原則として本章の労働時間、休憩及び休日の規定を適用する。ただし、自己の裁量によって労働時間、休憩及び休日の管理を行うこととし、その職責を果たすために必要がある場合は労働時間、休憩及び休日の規定にかかわらず業務に従事しなければならない。
2 前項本文に該当する者には、本規則第●条(時間外労働命令)、同第●条(休日労働命令)、同第●条(代休)、賃金規程第●条(欠勤等控除)、同第●条(時間外等割増賃金)の規定は適用しない。また、遅刻・早退又は欠勤をしたとしても、それ自体を理由として会社は賞与の査定要素や懲戒処分の対象としない。
3 第1項本文に該当する者は、健康管理の目的のため,出勤時刻及び退勤時刻についてタイムカードにて記録を行うと共に、就労が深夜(午後10時から午前5時)にわたった場合の退勤時刻について任意に報告を行う。

管理監督者に該当しない場合の企業の対応

前記のとおり管理監督者に該当する範囲は非常に狭く判断されるため,管理監督者であると考えて残業代等を支払ってこなかった管理職社員が、改めて検討した結果、管理監督者に該当しない、または、管理監督者性が否定されるリスクが高いと判断される場合もあります。

この場合、大きくは以下の2つの方向性があります。

1 今後は管理監督者とは扱わずに時間外労働、休日労働等に応じ、割増賃金を支払うようにする。
2 今後も管理監督者として扱うことを前提に、権限、労働時間の裁量や待遇を見直して「管理監督者」として取り扱えるようにする。

1 今後は管理監督者として扱わない場合

今後は時間外労働等に応じた割増賃金を支払う

管理監督者性を検討した結果、管理監督者として認められることは難しい又はリスクが高いと判断される場合、今後は非管理監督者として時間外・休日割増賃金を支払うことにします。

その場合、3つのやり方が想定されます。

①管理職(例:店長)を解職し、それに伴い役職手当の支給も停止する。その後の残業代は従前の役職手当を抜いた賃金で計算する。 
②管理職は維持し、従前の役職手当も維持する。そして、基本給に加え役職手当も算定基礎として残業代を支払うこととする。
③管理職は維持し、従前の役職手当も維持する。ただし、役職手当のうち一定額を割増賃金見あいの固定残業代として支給する。残業代は、基本給に加え役職手当(割増賃金部分の除いた残額)を最低基礎として残業代を支払う。

①の方法は、管理職を解職して役職手当も支給対象外とし、残業代の計算も役職手当を算定基礎に入れないで計算できるので、会社としてのはコストアップを回避できる方法といえます。しかし、役職の解職は人事権行為として行われるとしても、完全に自由にできる訳ではなく、濫用は無効となります。管理監督者性が否定されるから解職して役職手当を不支給とすることは、人事権濫用として無効となるリスクが高いといえます。無効となった場合は、②の方法と同じく基本給と役職手当全額を算定基礎に残業代を支払う必要があります。

②の方法は、管理職及び役職手当全額を維持するので、法的には最も安全な方法です。ただし、長時間の残業をしている場合、基本給と役職手当全額を算定基礎に残業代を支払う必要があるので、かなりのコストアップに繋がってしまいます。この方法を取る場合は、管理職に出来るだけ残業をさせないように、管理職の職務を整理し、残業時間の管理も強める必要があります。

③の方法は、①と②の折衷の考え方です。管理職としての役職手当を維持しますが、役職手当の一部を固定残業代に振り分けます。管理職としての役職手当には、その重要な職務に対する対価としての意味はありますが、他方で、残業代が発生しないことに対価としての意味もあるといえます。このような説明には一定の合理性があり、対象者からも一般的には理解は得やすいといえます。ただし、労働者から見ますと、従前は管理職としての職務の対価として役職手当が支払われていたにもかかわらず、その一部を固定残業代に振り分けられることは労働条件の不利益変更に該当すると言えます。よって、対象者に対して、十分な説明を行って理解を得た上で、真意に基づく同意を得て、就業規則(賃金規程)を変更するという慎重な手続が必要となります。また、会社の財務状況にもよりますが、激変緩和措置として一定の調整手当の支給も行うことも検討します。これにより法的リスクを最小化することで、②の方法によるコストアップを緩和させることが可能となります。

弁護士吉村雄二郎
従前残業代として扱っていなかった役職手当の一部を固定残業代として扱うことは不利益変更に該当します。賃金などの重要な雇用条件に関する不利益変更は法的リスクを伴いますので、出来れば回避した方が安全です。私は、基本的には②の方法をお勧めしています。

過去の残業代の支払いはどうするか?

今後は管理監督者として扱わないということは、これまでの管理監督者として扱いが間違いであったので過去の残業代の支払いを行うべきかが問題となります。

法的手続により請求された場合

まず、管理監督者として扱ってきた管理職から法的手続(訴訟や労働審判)で残業代の支払請求を受けている場合は、使用者はその支払いに応ずる必要があります。

その場合,消滅時効(支払期から3年 労基法115条、143条3項)との関係で3年分を遡って支払う必要があります。管理職の場合,一般社員と比べて基本給を高くしていることも多く,残業代見合いで役職手当を高く支給している場合もあります。しかし,管理監督者への該当が否定された場合,これら高い基本給や役職手当を基礎賃金として残業代を支払わなければならず,残業代はかなり高額になります。加えて,退職した社員については退職日の翌日から年14.6%の遅延損害金が発生することになり,紛争が長期化した場合は消費者金融の利息並に高い金利を負担しなければなりません。

また、残業代の不払いに対しては,ペナルティとして最大で未払残業代と同額の付加金の支払いを裁判所から命じられることがあります。よって,最悪の場合,未払い残業代の倍額+遅延損害金の支払いを命じられることになります。

以上の民事上の義務に加え,残業代の支払いがなされない場合は,悪質なケースの場合,労基法37条違反により6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑罰に処せられます(労基法119条1号)。

弁護士吉村雄二郎
管理監督者性が事後的に否定された場合、残業代が発生しない代わりに高額設定していた役職手当が基本給と一緒に残業代計算の基礎賃金となってしまいます。その残業代の額は1000万円を超えることも希ではありません。
法的手続により請求を受けていない場合

これに対して、管理職から特に残業代の請求等を受けていない場合は、企業は自主的に過去3年分の残業代を支払うべきでしょうか?

この場合は、法的な手続によって管理監督者性が否定された訳ではありませんので、いわばグレーな状態です。管理監督者性が肯定される可能性は残されています。よって、会社から自主的に過去3年分の残業代を支払う必要性があるとは明確には言えません。なお、残業代は順次消滅時効にかかります。

もちろん、会社の判断で過去3年分を遡って支払うことは、不要な紛争を回避することになりますので、適正な対応ということができます。過去3年分全額ではなく、管理職の対象者と一部を支払うこと(例えば、3箇月から6箇月分相当額)によって和解して解決をしておくということも一案です。私としては、後者の一部についての和解的解決をお勧めしています。

2 今後も管理監督者として扱う場合の対応

管理監督者性に疑義が生じないようにする

従前は管理監督者性に疑義が生じていたことを受け、管理監督者として扱っていた対象者の職務内容や権限を再定義し、労働時間の裁量を確保し、待遇を見直すなどの対応が考えられます。これにより、管理監督者性が認められるようにケアすることで、少なくともそれ以降は管理監督者としての取扱いに問題は生じなくなります。

具体的には、前記管理監督者性の3要素に照らし、就業規則や賃金規程の定めを見直し、実際の運用上も変更するということになります。

過去の残業代の支払いはどうするか?

管理監督者性に疑義が生じていた過去の時期について、残業代を支払うべきか、については、上記1の記載を参照してください。

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