派遣社員を長く雇う方法-min

派遣社員を長く雇うときに想定すべき問題と対策

平成27年9月施行の改正派遣法により,派遣期間等のルールが改定されました。派遣先企業は,雇用人員・コストの調整ができる派遣社員を必要に応じて長く勤めさせたいと考えることもあります。ただし,派遣期間違反には労働契約申込みなし制度などの重いペナルティが課されます。そこで,派遣先企業が派遣社員を長く雇いたい場合に是非とも押さえておくべきポイントについて整理します。

1 法改正による派遣期間の制限を理解する

改正前の派遣法は,派遣先の業務内容によって派遣労働者の受け入れ可能期間が制限されていました。

すなわち,いわゆる専門26業務は期間制限にかからず,その他の業務(自由化業務)には原則1年,最長3年の期間制限が設定されていました。

平成27年9月30日施行の改正派遣法では,上記期間制限の取り扱いを廃止し,派遣元に無期雇用されている派遣労働者と60歳以上の者を新たに期間制限の対象外とした上で,全ての業務に関し①事業所単位の期間制限,②個人単位の期間制限という2つの期間制限に再構成しました。

そこで,まずは上記改正派遣法による①事業所単位の期間制限,②個人単位の期間制限を理解することが重要です。なお,以下,派遣元にて,有期で雇用されている派遣労働者を「有期雇用派遣労働者」と,無期で雇用されている派遣労働者を「無期雇用派遣労働者」と呼びます。

2 事業所単位の期間制限

(1) 期間制限の概要

派遣先は,同一の事業所において,派遣元事業主から3年を超える継続した有期雇用派遣労働者の受け入れはできません。

【事業所単位とは?】
単位となっている『事業所』とは,①工場、事業所、店舗等、場所的に他の事業所その他の場所から独立していること,②経営の単位として人事、経理、指導監督、労働の態様等においてある程度の独立性を有すること,③一定期間継続し、施設としての持続性を有すること等の観点から実態に即して判断することとされています。

(2) 意見聴取により延長ができる

但し,派遣先が、事業所における派遣労働者の受入開始から,上限期間を過ぎた最初の日(以下、「事業所の抵触日」という)の1カ月前の日までに,事業所の過半数労働組合(又は労働者過半数代表、以下「過半数労働組合等」)から意見聴取した場合には,更に最長3年間延長して労働者派遣を受け入れることができます(その後さらに3年経過した場合も同様)。

なお,過半数労働組合等が、異議を述べたときは、派遣先は、当初の3年の期間が経過することとなる日の前日までに、派遣可能期間を延長する理由等を、当該組合等に対し、説明しなければなりません。以上から,事業所単位の期間制限をクリアする為には,延長の為の意見聴取手続を確実に行うことが重要です。

【事業所単位の期間制限】

事業所単位の期間制限

【派遣期間の延長手続】

派遣期間の延長手続

3 個人単位の期間制限

(1) 期間制限の概要

派遣先の同一の組織単位において3年を超える継続した同一の有期派遣労働者の受け入れはできません。

【組織単位とは?】
課,グループ等の業務としての類似性や関連性がある組織であり,かつ,その組織の長が業務の配分や労務管理上の指揮監督権限を有するものであって,派遣先における組織の最小単位よりも一般に大きな単位を想定していますが,名称にとらわれることなく実態により判断すべきものとされています(なお,小規模の事業所等においては,組織単位と組織の最小単位が一致する場合もあります。)

(2) 期間制限をクリアする方法

① 組織単位を変える

組織単位を変えれば,同一の事業所に,引き続き同一の有期派遣労働者の派遣を(3年を限度として)受けることが出来ます。

例えば,有期派遣労働者Aさんを,派遣先の事業所の「総務課」に受け入れて3年を超える前に,次は「経理課」に受け入れることは可能です。ただし,派遣先は同一の派遣労働者Aさんを指命するなどの特定目的行為を行うことはできませんので,注意が必要です。

② クーリング期間を利用する

個人単位の期間制限の上限に達した有期派遣労働者についても,受け入れ終了後,3ヶ月を超える期間(具体的には3カ月+1日)を空けた場合は,同一の組織単位で同一の派遣労働者を再度新たに3年間受け入れることが可能になります。この通算期間がリセットされる空白期間が「クーリング期間」です。

ただし、例えば,3年間同一組織単位で同一派遣労働者を受け入れた後,当該労働者を有期で直接雇用し,3ヶ月と1日を経過した以降に雇止めし,再度当該労働者を派遣労働者として受け入れた場合などは,個人単位の期間制限から逃れ,法の趣旨に反する取り扱いであるとしてクーリング期間として認められないとされていますので注意が必要です。

【個人単位の期間制限】

個人単位の期間制限

4 無期雇用派遣労働者の活用

(1) 無期雇用派遣労働者と期間制限

上記の改正派遣法による期間制限は,有期雇用派遣労働者を対象としていますが,派遣元において無期で雇用されている派遣労働者は対象とはなりません(派遣法40条の2第1項1号)。

そのため,同一の組織単位の業務に3年間従事した派遣労働者であっても,派遣元との間で無期雇用されることとなった場合には期間制限の対象とはならず,継続して(クーリング期間を置かずに),同一の組織単位で受け入れることは可能です。

【期間制限の例外】
①派遣労働者が派遣元に無期雇用されている場合
②派遣労働者が60歳以上である場合
③終期が明確な有期プロジェクト業務(事業の開始、転換、拡大、縮小または廃止のための業務で、一定期間内に完了することが予定されているもの)である場合
④日数限定業務(1か月の所定労働日数が、派遣先の正社員の半分以下かつ10日以下であるもの)である場合
例:書店の棚卸し業務、土日のみに行なわれる住宅展示場のコンパニオンの業務など
⑤産前産後休業、育児休業を取得する労働者の業務である場合
⑥介護休業を取得する労働者の業務である場合

(2) 無期雇用派遣労働者の派遣を求めることも可能

このように無期雇用派遣労働者については,期間制限の対象とならないことから,派遣先企業としては,派遣元に対して,無期雇用派遣労働者のみを派遣することを求めるのも一案です。

但し,派遣先が,同一の組織単位に継続して3年間受け入れている派遣労働者がいる場合に,派遣元に対して,当該派遣労働者を無期雇用して,継続して派遣するように求めることは,禁止されている派遣労働者を特定する行為になるおそれがありますので,慎重な対応が必要です。

5 労働契約申込みみなし制度

最後に期間制限に違反した場合のペナルティを説明します。事業所単位の期間制限,個人単位の期間制限に違反した場合は,派遣法違反として労働契約申込みみなし制度が適用されることになります。

すなわち,事業所単位の期間制限を超えて労働者派遣の役務の提供を受けている場合、および個人単位の期間制限を超えて同一の組織単位において同一の派遣労働者から労働者派遣の役務の提供を受けている場合には,派遣先から派遣労働者に対し,その派遣労働者の労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます。

そして,派遣労働者がみなし制度に基づく申込みについて承諾の意思表示をした時点で労働契約が成立します。

つまり,期間制限違反により,派遣社員が望む場合は,直接雇用しなければならなくなるのです。

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