外国人雇用の注意点

10分で分かる! 外国人雇用の注意点

社長
当社は慢性的な人出不足を解消する為に,今般,外国人を雇用することとなりました。ただ,日本人と異なり何を注意したらよいのか分かりません。そこで,外国人を雇用する際の一般的な注意点を教えてください。
弁護士吉村雄二郎
企業が外国人労働者を雇い入れる際には,まず,その外国人が就労可能な在留資格を得ているか,仕事の内容が在留資格の範囲内の活動か,在留期間が過ぎていないかを確認し,その範囲内で労働契約を締結します。また,日本で働く外国人にも,原則として日本の労働関連法令が適用されますので,日本人と異なることはありません。ただ,日本人以上に雇用契約書や就業規則で具体的な雇用条件を定めること,場合によっては外国人にも理解出来るように配慮することが必要となります。さらに,社会保険・労働保険・税金も基本的に日本人と同じです。
雇入・離職時のハローワークへの届出をすること
採用時に雇用契約書を作成し,外国人が分かるように配慮すること
社会保険・労働保険・税金も基本的に日本人と同じく処理すること

1 在留資格と在留期間の確認

1.1 外国人に必須の在留資格

まず,真っ先に確認しなければならないのが在留資格と在留期間です。

在留資格とは,外国人が日本に在留し,活動することができることを示す出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)上の法的資格です。入管法では,様々な在留資格と資格毎に許される活動や在留期間がこと細かに定められています。

在留資格と在留期間の一覧表(入国管理局サイト)

これらの在留資格を取得しないで仕事をした場合や取得した在留資格で認められない仕事をした場合は,その外国人は刑事罰を受けます(入管法70条1項4号,19条1項 「三年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三百万円以下の罰金に処し又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する」)。

また,就労可能な在留資格を有しない外国人を雇って仕事をさせて場合,使用者も刑事罰を受けます不法就労助長罪 入管法73条の2 3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金。会社の代表者や使用人が当該犯罪を行った場合には、会社自体にも300万円以下の罰金が科せられる(同法76条の2))。

このように,外国人が日本国内で就労するためには,就労可能な在留資格を日本国から取得していることが必須となりますので,雇い入れる場合は必ず確認が必要です。

確認方法としては,在留カードを確認し,その写しを提出させることを義務化するなどの方法があります。

1.2 在留資格の受ける手続

雇用予定の外国人が在留資格を有していない場合には、当該外国人が従事する予定の業務に適合する在留資格の付与を受けるための手続きを行う必要があります。

一般的には、

「在留資格認定証明書」を取得(場所:日本の地方入国管理局)
②在外公館で査証(ビザ)の発給を受け(場所:在外の日本国領事館)
③日本に上陸する際に上陸審査を受け、その際に在留資格および在留期間の決定を受ける(場所:日本の空港・港)

という手続きがとられることが多いといえます。

1.3 既に日本の別の会社に雇用されている外国人を新たに採用する場合

この場合,すでに有している在留資格の範囲内で業務に就かせる場合には、雇用主が代わった場合でも、その時点では特に手続きの必要はありません

しかし,在留資格の範囲外の業務に就かせる場合には、在留資格変更の許可を得る必要がある点,注意が必要です。

1.4 資格外活動の許可

あらかじめ許可された在留資格の範囲を超える業務に外国人を従事させる場合は,資格外活動の許可を得る必要があります。

>>資格外活動許可申請(法務省サイト)

ただし、あらかじめ許可された活動の遂行を阻害しないことが条件となります。

この資格外活動の許可は、留学生や就学生をアルバイトとして採用する際に利用されることが多いといえます。

2 雇入・離職時のハローワークへの届出

また,外国人(特別永住者を除く)の雇入れおよび離職の際に,当該外国人の氏名・在留資格・在留期間・生年月日・性別・国籍等を公共職業安定所に届け出ることが義務化されています(雇用対策法28条)。この届出義務に違反すると,同法38条1項2号により30万円以下の罰金が科されるおそれがありますので注意が必要です。

>>厚生労働省「外国人雇用状況の届出」

なお,雇用対策法上の在留資格の確認・届出は,通常の注意力をもって,その者が外国人であると判断できる場合に行えば足り,その者が一般的に外国人であることが明らかでないケースであれば,確認・届出をしなかったからといって,法違反を問われることはないとされています。

3 労働法関係の適用は日本人と同じ

日本で働く労働者については、その国籍を問わず、原則として日本の労働関連法令が適用されと考えてよいでしょう。したがって、外国人労働者についても、労基法をはじめとする労働関連法令が適用されます。

3.1 日本人以上に契約書等の書類が重要

まず,労働法関係で全般的に言える注意点は,日本人以上に契約書等の書類が重要となります。外国人とは文化・慣習が大きく異なることが多く,雇用関係についても当事者間の考え方に齟齬が生じ,場合によってはトラブルに発展することが多くあります。日本人同士では当たり前と思われたことでも,外国人にとっては違和感のあることも多いのです。

その場合,解決や予防に重要なのは,「契約上」どうなっているか,です。特に,契約内容を雇用契約書や就業規則等の文書で明確にしていることが重要になります。企業と外国人との間で雇用契約の内容についてトラブルが生じた場合でも,予め外国人が確認して署名した契約書や就業規則上に記載された文言を根拠に説明をすることで,外国人労働者の理解を得られることも多いのです。

3.2 採用時の労働条件通知書・雇用契約書上の注意点

外国人労働者の採用に当たって特に注意すべきものとしでは、雇用条件の明示および雇用契約書・就業規則の整備でしょう。

労基法上は、外国人労働者に対して母国語による労働条件通知書等の作成までは明示的に求められていません。しかし,後のトラブルの防止のためにも、当該外国人労働者が理解できる言語で、明確に、労働条件を示しておく必要があるといえます。具体的には,外国語版の雇用契約書を作成することや,給与については総支給だけでなく税金,労働・社会保険料等の控除されるもの,手取り額についても明確にする等の対応が望まれます。

>>厚生労働省:外国人労働者向けモデル労働条件通知書

3.3 均等待遇の注意点

ある労働者が外国人であることだけを理由に日本人労働者と異なる労働条件を適用することは、労基法(第3条)や後述する雇用管理指針が定める「均等待遇の原則」に反することになり、許されません。

ただし,外国人労働者に対して日本人労働者と異なる労働条件が適用されていでも、その理由が、日本国籍を有しないことによるものではなく、当該外国人の能力・技能・勤務状況等によるものであるときは、上記の「均等待遇の原則」に直接反するものではありません。

もっとも,その差異が著しく不合理であるとみなされる場合には、問題が生じる可能性があります。

昨今,同一労働同一賃金の原則が労働者側より強く主張される傾向にあり,今後,外国人労働者についても均等待遇違反を理由に差額賃金の請求などが行われることが想定されるので注意が必要です。

3.4 社宅貸与に関する注意点

外国人の場合、家主が個人を貸借人とする契約に消極的な例がみられることから、いったん会社が貸借主となって、その物件を外国人労働者に社宅として提供するという例が少なくありません。

その場合,生活習慣等の違いによる社宅使用上のトラブルが、外国人労働者の場合には生じる可能性があります。そのような場合、会社が家主に対して、トラブルの責任を負うことになります。また、外国人労働者が退職後も社宅をなかなか明け渡さない場合には、その間の賃料(場合により、明渡しが遅れたことによる損害金)について家主(つまり会社)が負担を求められる事態も生じ得ます。さらに、退去に関連しては、原状回復費用を、外国人労働者と家主のどちらが、どの範囲で負担すべきかという点で紛争が生じることも多くあります。

そこで,社宅の利用方法、明渡しの条件について、その外国人が理解できる言語で、書面により、明確に合意しておくべきです。例えば、明渡し時期については、退職日から何日以内と明確に定め,原状回復費用の負担についても、すべて外国人労働者(あるいは会社)の負担とするのか、あるいは、一定の範囲までを労働者の負担とさせるのであれば、どの範囲までとするのかなど、負担の範囲を明らかにしておくことが重要です。

3.5 外国人も労働組合への加入が可能

外国人労働者も労働組合に加入することができます。それゆえ,日本人が労働組合に加入した場合と同様に団体交渉に応ずるなどの処理が必要となります。

日本国内には,外国人労働者を積極的に加入させる合同労組も多数存在し,労働組合対応という形で企業が外国人とのトラブルに接することも多く存在します。

4 社会保険・労働保険・税金も基本的に日本人と同じ

4.1 社会保険(健康保険・厚生年金保険)

(1) 外国人労働者も被保険者となる

社会保険(健康保険・厚生年金保険)については、これらの適用事業所に雇用されている限り、外国人労働者であっても、日本人労働者と同様に、原則として被保険者となります(なお、臨時雇用者等は、日本人労働者と同様、被保険者とならないことがあります)。

しかし、不法就労者については、被保険者とならない取り扱いがされています。

また、外国人労働者が本国の社会保険制度に加入しており、その本国と日本との間で社会保障協定が締結されている場合には、当該外国人労働者については、日本の社会保険制度の被保険者とならないことがあります。

(2) 加入を拒否する外国人労働者

外国では日本のような強制加入の社会保険制度がない国もあることから,外国人に社会保険,雇用保険に加入したくないと言われることがあります。

① 説得

前記のとおり法律では国籍に関係なく社会保険や雇用保険の加入義務が発生し,外国人であるからという理由で社会保険の加入を免れることはできません。よって,まずは社会保険加入のメリットを説明するなどして説得します。

例えば,2017年から年金加入資格期間が10年以上あれば老齢年金が受けられるようになったため,外国人も日本の老齢年金が受けられる可能性が広がりました。受給資格を得られれば,海外で日本の年金を受給することもできます。また,社会保障協定締結国であれば,国によっては日本の年金加入期間と母国の年金加入期間の通算ができ,両方の年金が受給できることもあります。

老齢年金を受給しない場合であっても,脱退一時金の請求により払った年金保険料の一部が戻ってきます。雇用保険に関しては加入をしておくことで,退職後に失業給付を受給できることになります。外国人には,このようなメリットを具体的に説明する必要があります。

② 社会保険の加入を拒否された場合

外国人から社会保険の加入を拒否された場合は,社会保険料の個人負担分を会社が負担する方法や,社会保険の加入義務が生じない範囲の労働時間に収める方法などがあります。

※注意

年金事務所の調査では,社会保険未加入について指摘される可能性は高いといえます。社会保険の加入義務があるのに加入しない場合に,年金事務所の調査等で指摘を受けると,過去にさかのぼって保険料を徴収されることがあります。

4.2 労働保険(雇用保険・労働者災害補償保険)

雇用保険については、外国人労働者であっても、①外国から日本に派遣されている場合、②外国の雇用保険に加入している場合、③外国公務員である場合を除き、日本人労働者と同様に、原則として被保険者となります(なお、所定労働時間が短い場合等は、日本人労働者の場合と同様、被保険者とならないことがあります。)。

不法就労者については、雇用保険の被保険者とはなりません。

労働者災害補償保険については、外国人労働者であっても、また、不法就労者であっても、適用の対象となります。

4.3 税務上の取り扱い

(1) 所得税

外国人労働者に対して支払われる給与についての日本の所得税法上の取り扱いについては、当該外国人が居住者か否か、また、居住者の場合には永住者か否かによって異なります。

居住者でかつ永住者の場合には、全世界で取得したすべての所得が課税対象となります。

居住者でも非永住者の場合には、①国内で生じた所得、②国外で生じた所得のうち、国内で支払われたものまたは国外から日本に送金されたものが、課税対象となります。

非居住者の場合には、国内で生じた所得のみが課税対象となります。

(2) 住民税

なお、住民税については、1月1日現在において日本に住所がある居住者の場合に、その年の課税対象となります。

確認のポイント

以下の事実及び証拠を確認する必要があります。

在留資格と在留期間

【証拠】
□ 在留カード

雇用契約の内容

【証拠】
□ 雇用契約書
□ 労働条件通知書
□ 就業規則

社宅関係の契約書

【証拠】
□ 社宅管理規程
□ 社宅に関する誓約書

外国人雇用状況の届出

【証拠】
□ 外国人雇用状況届出書

おわりに

以上、おわかりいただけましたでしょうか。

我が国も少子高齢化により現時点で既に深刻な人材不足の状況となっています。この状況は今後さらに深刻化すると思われます。

外国人労働者の採用は避けては通れない現実的なものとなっています。

日本を訪れる外国人労働者は優秀で真面目な人材も多くおります。

上記のとおり外国人雇用のポイントの概要をご理解いただいた上で、是非、積極的に外国人労働者の採用をご検討ください。

 

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