復職時に職場・賃金変更

休職からの復職時に,職場・仕事内容・賃金を変更する方法【書式・規程例あり】

休職からの復職時に,職場・仕事内容・賃金を変更する方法について、労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。

社長
当社において休職社員を復職させることになりました。職場には休職期間中に代替人員を配置したところ、その代替人員が活躍し貴重な戦力となっているため、復職者を別の部署に配置して別の職務を行ってもらいたいと考えています。なお、別部署では仕事内容が変わるので賃金等を変更したいと考えています。進め方を教えてください。
弁護士吉村雄二郎
復職する場合は、現職復帰とするのが原則ではありますが、会社側が人材の適正管理の見地または安全配慮義務の見地から、この復職社員を休職前と異なる職務・勤務場所に配置することは、就業規則や契約書に根拠があれば可能です。また、職務・就業場所の変更に伴い賃金を下げることも就業規則(賃金規程)上の根拠があれば可能です。実務的には、復職前に社員と十分に説明を行い、同意を得た上で変更を行うとよいでしょう。

復職時の職務・勤務場所を変更することは可能

現職復帰が基本

傷病休職は,休職期間中に傷病が治癒すれば復職となり,治癒せずに休職期間が満了すれば自然退職又は解雇となります

復職する場合は、休職直前の職場や職務に復帰させること、原職復帰原則です

厚生労働省「〔改訂〕心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」19頁~20頁によれば「職場復帰に関しては元の職場(休職が始まったときの職場)へ復帰させることが多い。これは、たとえより好
ましい職場への配置転換や異動であったとしても、新しい環境への適応にはやはりある程度の時間と心理的負担を要するためであり、そこで生じた負担が疾患の再燃・再発に結びつく可能性が指摘されているから
である。これらのことから、職場復帰に関しては「まずは元の職場への復帰」を原則とし、今後配置転換や異動が必要と思われる事例においても、まずは元の慣れた職場で、ある程度のペースがつかめるまで業務
負担を軽減しながら経過を観察し、その上で配置転換や異動を考慮した方がよい場合が多いと考えられる」とされています。

別の職場・職務へ変更することも可能

もっとも、就業規則上の根拠に基づき、または、労働者との同意・合意に基づいて、別の職務・勤務場所へ復職させることも可能です。

例えば、次のような場合に別の職場・職務へ変更することがあり得ます。

労働者の健康状態へ配慮するため

復職にあたっては,元の職場・業務に戻すことが原則ですが、病状等によっては,従前と異なる職場や職務に復帰させることや,従前と異なる業務に従事させることが必要(望ましい)場合もあります。

厚生労働省「〔改訂〕心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」によれば「異動等を誘因として発症したケースにおいては、現在の新しい職場にうまく適応できなかった結果である可能性が高いため、適応できていた以前の職場に戻すか、又は他の適応可能と思われる職場への異動を積極的に考慮した方がよい場合がある。その他、職場要因と個人要因の不適合が生じている可能性がある場合、運転業務・高所作業等従事する業務に一定の危険を有する場合、元の職場環境等や同僚が大きく変わっている場合などにおいても、本人や職場、主治医等からも十分に情報を集め、総合的に判断しながら配置転換や異動の必要性を検討す
る必要がある」とされています。

また、使用者には、信義則に基づく配慮として,労働負荷を軽減するなど労働者の健康に配慮することが求められます。

厚生労働省「〔改訂〕心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」によれば,短時間勤務,軽作業や定型業務への従事,残業・深夜業務の禁止、 出張制限,交替勤務制限危険作業・運転業務・高所作業・窓口業務・苦情処理業務などの制限、フレックスタイム制度の制限または適用、転勤についての配慮などが,使用者の配慮の例として挙げられています。

裁判例でも、インクメーカーの開発部長であった社員が休職し、インク製造班へ復職命令を受けた事案において、「本件では、原告は、…製品の製造を巡るD取締役工場長とのトラブルを発端に精神疾患を発症して休職しており主治医…E医師も外部と接触する業務と開発業務は避けた方がいいと指摘していたのであるから、元の職場である開発業務に復職させず、本件復職命令を発したことが違法であるということはできない」として、現職とは異なる部署への復職命令を認めています(ツキネコ事件 東京地判令3・10・27)。

人材の適正配置の観点から

会社側が人材の適正管理の見地から、この復職社員を休職前と異なる職務・勤務場所に配置することもありえます。

例えば、社員が休職している間に、代わりとなる人員を配置・教育し、現にこの代替人員が活躍している場合は、復職者を受け入れるために戦力化した者を別の部署に再配置させることは困難と言わざるを得ません。特に、復職者が病み上がりですぐに100%のパフォーマンスを発揮できない可能性が高い場合はなおさらです。そうであれば、既に現場で活躍している代替人員をそのままにして、復職者は別の部署へ配属することには業務上の必要性が認められます。

復職時に賃金を変更することも可能

役職、職種や職務の変更に伴い賃金額を下げる場合

復職時の役職、職種や職務が変われば、それに伴い賃金額が変動(減額)させることも可能です。

ただし、就業規則及び賃金規程上の根拠が必要です。

具体的には、① 役職、職種、職務に紐付いた賃金が設定されており、② 役職、職種、職務の変更に伴い賃金も変更となることが、就業規則や賃金規程に明記されている必要があります

また、復職後に職務遂行能力の低下に伴い、職能資格制度における資格の引き下げを行うことも可能です。

ただし、職能資格制度における資格の引き下げは,契約内容の変更を意味するので,使用者の一方的降格命令は許されず,労働者の同意または就業規則上の明確な根拠規定が必要となります。根拠を欠く降格は無効となります(アーク証券事件・東京地決平成8・12・11労判711号57頁)。

時短勤務、時間外・深夜労働制減などに伴い賃金額を下げる場合

復職後、短期間(2~3ヶ月程度)、労働者の病状に配慮して勤務時間を制限(時短勤務)する場合があります。

この場合は、短縮された時間に相当する賃金額を減額することが可能です。

労働者に説明の上、同意を得ることが重要

復職の際に、労働者の賃金を下げる場合は、トラブルに発展する可能性があるため、十分に説明の上、同意を得て行うことが重要です。

復職時の職務・勤務場所・賃金を変更する方法

復職時に職務・勤務場所・賃金を変更するには根拠が必要です。

根拠となるのは、①就業規則上の根拠規定、または、②労働者の同意です。

就業規則の根拠規定

労働者の同意なく、復職時に職務・勤務場所・賃金を変更するには、就業規則において、以下のような根拠規定を定めることが必要です。

配置転換に関する一般的な定め

配置転換に関する規定を根拠として復職時の職務・勤務場所を変更することは可能です。

第○条(人事異動)
1 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

休職に関する就業規則の定め

また、休職に関する規定にも、復職時に旧職務とは別の職務への配置転換があることを明記することが適当です。

第○条(復職一般)
1 従業員の休職事由が消滅したと会社が認めた場合は、原則として、休職前の職務への復職を命ずる。ただし、本人の健康状態、業務上の都合等を考慮し、旧職務への復帰が困難又は不適当と会社が認める場合、もしくは、会社の業務上の必要性がある場合は、旧職務とは異なる勤務場所・職務・職種へ転換することができる(労働契約上、勤務場所・職務・職種が限定されている場合を除く。)。その変更に応じて、賃金規程に定める基本給、手当等も変動する。

本人の健康状態、業務上の都合等を考慮し、旧職務への復帰が困難又は不適当と会社が認める場合、もしくは、会社の業務上の必要性がある場合は、旧職務とは異なる勤務場所・職務・職種へ転換することができることを明記します。

ただし、労働契約上、勤務場所・職務・職種が限定されている場合は、本人の同意なくして変更はできませんので、除外します。

勤務場所・職務・職種の変更に応じて、賃金規程に定める基本給、手当等も変動する場合もありますので、その旨も明記します。

労働者の同意

休職願

就業規則で、休職の開始の手続として、休職を希望する労働者が「休職願」を提出し、会社が休職命令を発令する、という手続にします。

その休職願に「旧職務・勤務場所と異なる職務や勤務場所に配置される場合もあること。その変更に応じて、賃金規程に定める基本給、手当等も変動する場合があること」を記載し、労働者の同意を得ます。

 

休職願

復職に関する確認書

また、復職のタイミングでも、復職後の勤務場所・職務内容・労働時間・賃金などを同意する文書を取得します。

復職に関する確認書

復職後の配置等を決める場合の注意点

上記のとおり会社は復職後の配置を決めることができますが、傷病休職から復職する場合には、安全配慮義務の観点から注意が必要です。

傷病休職から復職する際に、別の勤務場所・職務へ変更し、その結果、本人の負担が大きく増え、それが原因で病状が悪化するようなことがあれば、使用者の安全配慮義務(増悪防止義務)違反が問われます。

復職後の配置については、本人の意向、主治医や産業医の専門家の意見を踏まえて、復職後の勤務場所・職務が原因で病状が悪化しないように配慮する必要があります。

もっとも、このような対応は、企業規模に左右されることは当然です。

例えば、全従業員が十数名にとどまるという企業においては、従前の職場以外の職場を用意することは事実上不可能ですから、使用者が、当該復職者を他の職場に配置する措置を怠ったからといって、そのことだけで損害賠償責任を問われることにはならないでしょう。

労働者から申告がない場合も、労働者の病状を踏まえた配置をしなければならないか?
労働者の申告の有無に関係なく、労働者の病状に配慮して配置をしなければならない。

使用者が労働者の健康状態の悪化を知り、あるいは知り得べきである場合には、労働者から、健康状態の申し出の有無にかかわらず、増悪防止のために安全配慮義務(相当程度の注意義務) を課しているといえます。このように、使用者は労働者の病状についての増悪防止義務を負っていますが、これは労働者が、私傷病休職から復職した場合にも当てはまります。

裁判例においては、復職後1年間本校で補助担任として職務に従事していたが、メンタルヘルス不調が再発したため、校長が、職務軽減を図ろうとして分教室への配転を命じたが、分教室は、不良行為をなし、又
はなすおそれのある児童等が入所しており、従前の人間関係を含めた勤務環境を大幅に変更し精神的負担を与えるものであるとし「本件配転を命じるにあたり、本人の意思を十分に確認しないまま、専門家の意見を改めて聴取することもなく、本件配転を命じたものであり、その結果、原告の病状の悪化を招いたものである」として、不法行為の成立を認めたものがあります(鳥取県・米子市事件・鳥取地判平16.3.30労判877.74)。

デンソー(トヨタ自動車)事件(名古屋地裁平20.10.30判決労判978号16頁)は、業務による負荷と個体側の要因とが相まってうつ病を発症し、休職した労働者が復職後、1年以上経過した後に再度うつ病を発症し、休職するに至った事案です。労働者側が、この再度の発症につき、以前業務に起因して第1回うつを発症し、またそのことによりうつ病を再発しやすい状況にあったから、使用者は、当該労働者がうつ病を再発しやすいことを前提に、通常人以上にその安全に配盧するべきであったと主張しました。しかし、裁判所は、当該労働者の復職時に医師からの業務制限等はなかったこと、復職後2カ月半で寛解となり、通院を打ち切るほどであったこと、1年以上の間、問題なく勤務していたこと、業務内容が難易度の高いものに変化して2カ月程度で再度の発症となっているが、かかる事態に至ることを予見することは困難であることなどを指摘して、使用者が、適切な配盧を行うべき義務を怠ったとは認められないとしました。

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