固定残業代_規定例

【専門弁護士解説】固定残業代を有効に!雇用契約書・就業規則・給与明細の作り方【書式・規定例あり】

「うちは固定残業代(定額残業代)を導入しているから、残業代の支払いは大丈夫」
「給与計算も楽だし、採用もしやすい」

そうお考えの経営者・人事担当者の皆様、その固定残業代制度、本当に法的に「有効」な状態になっていますでしょうか?

固定残業代制度は、適切に運用すればメリットのある制度ですが、その一方で、導入や運用の仕方を少しでも誤ると「無効」と判断され、過去数年分に遡る想定外の未払い残業代請求(場合によっては付加金を含めると請求額の倍額!)という、企業経営にとって致命的なリスクに繋がる大きな「落とし穴」が潜んでいます。

では、その「有効」と「無効」を分ける境界線はどこにあるのでしょうか?裁判例などを分析すると、有効性が認められるためには様々な要件がありますが、その根幹をなすのが「書面による明確化」です。

具体的には、①雇用契約書(労働条件通知書)、②就業規則(賃金規程)、そして③給与明細書という、労務管理の根幹となる書類において、必要な事項が法的に正しく、かつ明確に記載されていることが不可欠なのです。

「制度は導入したけれど、書類の書き方までは自信がない…」
「トラブルを避けるための具体的な書き方を知りたい」

本記事では、そのような経営者・人事担当者の皆様に向けて、労働問題を専門とする弁護士が、固定残業代制度を法的に有効なものとするための雇用契約書・就業規則・給与明細の具体的な「作り方」を、すぐに使える書式・規定例を交えながら、分かりやすく解説します。

この記事を最後までお読みいただければ、固定残業代に関する書類作成上の重要ポイントが理解でき、貴社の制度が抱えるリスクのチェックや、今後の適切な制度運用に必ずお役立ていただけます。ぜひ、ご一読ください。

1. なぜ「書面」で固定残業代の明確化が不可欠なのか?

固定残業代制度は、法律で定められた要件を満たせば有効なものとして認められます。しかし、その有効性の判断は、労働基準監督署や裁判所において非常に厳格に行われる傾向にあり、有効であることの証明責任は、基本的に会社側にあると考えられています。

では、その有効性を担保するために、なぜ「書面」による明確化がこれほどまでに重要なのでしょうか?

その理由は、固定残業代が有効と認められるための法的要件、特に「明確区分性」と「対価要件」を満たしていることを、客観的に証明する必要があるからです。

「明確区分性」とは?

これは、支払われる給与のうち、「通常の労働時間の対価にあたる部分(基本給など)」と「固定残業代(割増賃金)にあたる部分」とが、明確に判別できる状態になっていることを意味します。最高裁判例(高知県観光事件など)でも、この2つの部分が判別できないことを理由に固定残業代を無効としており、極めて重要な要件です。「基本給〇〇万円(固定残業代△万円を含む)」のように、書面上(雇用契約書や就業規則上)で金額的に明確に区分・表示されていることが、この要件を満たすための基本となります。

「対価要件」とは?

これは、固定残業代として支払われる手当が、時間外労働、休日労働、深夜労働といった「割増賃金の対価」として支払われていることが明確であることを意味します。単に「〇〇手当」という名称で支払われているだけでは不十分で、その手当がどのような趣旨・目的で支払われるものなのかが、就業規則の定義や賃金体系全体から客観的に判断されます。この点も、書面でその趣旨を明確に定義しておくことが、有効性を基礎づける上で重要になります。

もし、これらの要件が満たされているか否かについて争いが生じた場合、労働基準監督署や裁判所が最も重視するのは、当事者間の合意内容を示す客観的な証拠です。そして、その最もたるものが、雇用契約書(労働条件通知書)や就業規則(賃金規程)といった「書面」なのです。

口頭での説明や「暗黙の了解」といったものは、後になって「言った・言わない」の水掛け論になりやすく、法的な証明力としては極めて弱いと言わざるを得ません。書面に明確な記載がなければ、会社側が「これは有効な固定残業代のつもりだった」と主張しても、客観的な証拠がないとして認められない可能性が高まります。記載が曖昧だったり、解釈の余地があったりする場合も、多くは労働者保護の観点から、会社側に不利に解釈される傾向にあります。

つまり、固定残業代に関する書類の不備や記載の不明確さは、制度が無効と判断される致命傷となり得るのです。

だからこそ、固定残業代制度を有効に機能させ、無用な労務トラブルを回避するためには、その根幹となる雇用契約書、就業規則、そして日々の運用を示す給与明細書において、法的な要件を踏まえた適切な記載を施すことが不可欠となります。

固定残業代についての関連記事

【専門弁護士解説】固定残業代の正しい知識と導入・運用ガイド(13チェックリスト)

2. 固定残業代【雇用契約書・労働条件通知書】記載例とポイント

固定残業代制度を導入・運用する上で、就業規則(賃金規程)と並んで、あるいはそれ以上に重要となるのが、個々の従業員との間で締結する「雇用契約書」または入社時に交付する「労働条件通知書」です。

これらは、会社と従業員との間の個別の労働条件を具体的に定める、まさに労働契約の根幹となる書類です。

固定残業代に関する取り決めも、ここで明確に合意・通知されていなければ、その有効性が大きく揺らぐことになります。

なぜなら、裁判所等は、固定残業代が有効か否かを判断する際に、会社全体のルールである就業規則はもちろんのこと、個別の従業員に対してどのような条件が提示され、合意されたのかを、雇用契約書や労働条件通知書の記載内容から厳格に確認するからです。

では、具体的にどのような点を記載すればよいのでしょうか。

固定残業代に関し記載すべき項目

雇用契約書や労働条件通知書には、固定残業代について少なくとも以下の項目を明確に記載する必要があります。

  1. 基本給の額(必須): 固定残業代部分とは明確に区別して、通常の労働時間の対価である基本給の月額(または時間給、日給)を記載します。
  2. ①と明確に分けた固定残業手当の金額(必須): ①とは明確に分けて固定残業代の金額を定めます(特に、基本給組み込み型の場合)
  3. 固定残業手当の名称・趣旨(必須): 「固定残業手当」「固定時間外手当」など、割増賃金の対価であることが分かる名称を用いるか、または、その趣旨を明記します。
  4. 固定残業手当の対象となる時間数(推奨): 固定残業代が 何時間分 の時間外労働等に相当するものなのかを具体的に明記します。金額と時間数の両方を記載することが最も望ましいです。
  5. 対象となる割増賃金の種類(推奨): 固定残業手当が、どの種類の割増賃金(例:法定時間外労働のみ、深夜労働も含む、休日労働も含む)の対価として支払われるものなのかを特定して記載することが望ましいです。対象範囲が不明確だと、どの残業に対して充当されるのか争いになる可能性があります。
  6. 差額精算に関する規定(推奨): 固定残業手当の対象となる時間数を超えて時間外労働等を行った場合に、労働基準法に基づき計算した割増賃金から固定残業手当の額を控除した 差額を別途支払う旨を記載します。就業規則の規定を準用する形式でも問題ありません。

 雇用契約書・労働条件通知書の記載例

記載例1

  • 固定時間外・固定深夜・固定休日を分けて、各手当の時間数も規定
  • 備考欄に差額精算に関する定めを規定

労働契約書_固定残業代_基本

ファイルの入手はこちらから

wordファイル雇用契約書兼労働条件通知書(固定残業代_基本パターン)
無料 Wordファイルを入手

■ 作成・締結時の注意点

  1. 丁寧な説明と理解の確認: 契約締結前(または通知書交付時)に、上記の記載内容、特に固定残業代の仕組みや計算方法、差額精算ルールについて従業員に口頭でも丁寧に説明し、内容を十分に理解してもらうことが重要です。
  2. 就業規則との整合性: 雇用契約書・労働条件通知書の内容は、就業規則(賃金規程)の定めと矛盾しないように注意が必要です。
  3. 認識の齟齬を防ぐ: 「固定残業代を払っていれば、いくら残業させても追加の支払いは不要」といった誤解を招かないよう、差額精算があることを明確に伝えることが、後のトラブル防止につながります。
  4. 雇用契約書・労働条件通知書は、従業員との最初の、そして最も基本的な約束事を示す書類です。ここで固定残業代に関する取り決めを明確にしておくことが、有効な制度運用の第一歩となります。

3.固定残業代【就業規則・賃金規程】記載例とポイント

個別の雇用契約書と並び、固定残業代制度を運用する上で根幹となるのが、会社全体の統一的な労働条件を定める「就業規則」、特にその中の「賃金規程」です。常時10人以上の従業員を使用する会社では、就業規則の作成および労働基準監督署への届出が義務付けられています。

就業規則(賃金規程)は、特定の従業員だけでなく、原則としてその会社の全従業員(または特定の対象区分に属する全従業員)に適用されるルールを定めるものです。

したがって、固定残業代に関する基本的なルール(定義、計算方法、支払条件など)は、賃金規程に明確に定めておく必要があります。

また、個別の雇用契約書の内容が、この就業規則(賃金規程)の内容と矛盾している場合、原則として就業規則の基準が優先される(ただし、従業員にとって有利な場合は雇用契約が優先される場合もある)ため、両者の整合性を確保することが極めて重要です。

就業規則・雇用契約で記載すべき項目

就業規則・賃金規程には、固定残業代について少なくとも以下の項目を明確に記載する必要があります。

  1. 基本給の額(必須): 固定残業代部分とは明確に区別して、通常の労働時間の対価である基本給の月額(または時間給、日給)を記載します。
  2. ①と明確に分けた固定残業手当の金額(必須): ①とは明確に分けて固定残業代の金額を定めます(特に、基本給組み込み型の場合)。具体的な金額は各雇用契約書で定める内容でも構いません。
  3. 固定残業手当の名称・趣旨(必須): 「固定残業手当」「固定時間外手当」など、割増賃金の対価であることが分かる名称を用いるか、または、その趣旨を明記します。
  4. 固定残業手当の対象となる時間数(推奨): 固定残業代が 何時間分 の時間外労働等に相当するものなのかを具体的に明記します。金額と時間数の両方を記載することが最も望ましいです。具体的な時間数は各雇用契約書で定める内容でも構いません。
  5. 対象となる割増賃金の種類(推奨): 固定残業手当が、どの種類の割増賃金(例:法定時間外労働のみ、深夜労働も含む、休日労働も含む)の対価として支払われるものなのかを特定して記載することが望ましいです。対象範囲が不明確だと、どの残業に対して充当されるのか争いになる可能性があります。
  6. 差額精算に関する規定(推奨): 固定残業手当の対象となる時間数を超えて時間外労働等を行った場合に、労働基準法に基づき計算した割増賃金から固定残業手当の額を控除した 差額を別途支払う旨を記載します。就業規則の規定を準用する形式でも問題ありません。

 注意事項

  • 雇用契約書の記載との整合性に注意してください(名称、金額、時間数などが矛盾しないように注意)
  • 就業規則・賃金規程で固定残業代に関する事項を詳細に規定し、雇用契約書でそれを引用することも可能です(役割分担)

 記載例1【法内残業あり・固定残業代の金額・時間_詳細バージョン】

記載例1_法内残業あり・固定残業代の金額・時間_詳細バージョン)

ファイル(ボカシなし)の入手はこちらから

wordファイル固定残業代_賃金規程_記載例1~3
無料 Wordファイルを入手

記載例2【法内残業なし(固定残業代の金額だけを定める)バージョン】

記載例2_法内残業あり・固定残業代の金額_詳細バージョン)

ファイル(ボカシなし)の入手はこちらから

wordファイル固定残業代_賃金規程_記載例1~3
無料 Wordファイルを入手

記載例3【シンプル(法内残業あり・固定残業代の金額・時間を定める)バージョン】

記載例3【シンプル(法内残業あり・固定残業代の金額・時間を定める)バージョン】

ファイル(ボカシなし)の入手はこちらから

wordファイル固定残業代_賃金規程_記載例1~3
無料 Wordファイルを入手

記載例4【固定残業手当に時間外・休日・深夜労働を含めるバージョン】

記載例4【固定残業手当に時間外・休日・深夜労働を含めるバージョ】-min

ファイルの入手はこちら

wordファイル固定残業代_賃金規程_記載例4~6
有料(税込1980円) Wordファイルを入手

記載例5【営業手当を固定残業代として支払うバージョン】

記載例5【営業手当を固定残業代として支払うバージョ】-min

ファイルの入手はこちら

wordファイル固定残業代_賃金規程_記載例4~6
有料(税込1980円) Wordファイルを入手

記載例6【役職手当の一部を固定残業代として支払うバージョン】

記載例6【役職手当の一部を固定残業代として支払うバージョ】-min

ファイルの入手はこちら

wordファイル固定残業代_賃金規程_記載例4~6
有料(税込1980円) Wordファイルを入手

作成・周知・届出時の注意点

  • 雇用契約書との整合性: 繰り返しになりますが、就業規則(賃金規程)の内容と、個別の雇用契約書・労働条件通知書の記載内容に矛盾がないように細心の注意を払ってください。
  • 従業員への周知義務: 作成または変更した就業規則は、全ての従業員に周知する義務があります(労働基準法第106条)。見やすい場所への掲示、書面での配布、社内ネットワークへの掲載などの方法で、いつでも従業員が内容を確認できるようにしてください。周知されていない就業規則は、原則として効力が認められません。
  • 労働基準監督署への届出: 常時10人以上の従業員を使用する事業場では、作成または変更した就業規則(賃金規程を含む)を、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります(労働基準法第89条)。
  • 不利益変更の手続き: もし既存の就業規則を変更して固定残業代を導入する場合で、それが従業員にとって不利益な変更にあたる場合(例:基本給減額を伴う場合)は、単に届出・周知するだけでは不十分です。原則として従業員の合意を得るか、変更に合理性があり、かつ変更後の就業規則を周知するといった、より厳格な手続きが必要となります。
  • 就業規則(賃金規程)は、会社の労務管理の根幹をなすルールです。ここに固定残業代に関する規定を明確かつ適切に定めることが、制度の有効性を支える重要な柱となります。

4. 固定残業代【給与明細書】記載例とポイント

雇用契約書や就業規則で固定残業代制度のルールを明確に定めたとしても、それが実際にどのように運用され、計算されているのかを従業員が理解できなければ、不信感や疑問、ひいては紛争の火種となりかねません。

そこで重要になるのが、毎月従業員に交付する「給与明細書」です。給与明細書は、単に支払額を通知するだけでなく、その計算根拠を示し、制度が適切に運用されていることを従業員に伝える重要なコミュニケーションツールであり、労務トラブル発生時には会社の運用実態を示す証拠にもなり得ます。

労働基準法(施行規則)では、給与明細書に賃金の計算基礎や手当の項目・金額などを記載することが義務付けられていますが、固定残業代制度を運用する場合には、さらに以下の点を意識して記載を明確にすることが求められます。

なぜ給与明細での明示も重要なのか?

透明性の確保と従業員の納得感:** どのような計算に基づいて給与が支払われているのか、特に固定残業代部分と、それを超える残業代(差額)がどう扱われているのかを明確に示すことで、従業員の給与に対する納得感を高め、会社への信頼に繋がります。

適正な運用の証明:基本給と固定残業手当が明確に区分され、かつ、実際の労働時間に基づいて差額がきちんと計算・支給されていることを示すことで、「明確区分性」や「差額支払いの履行」といった有効要件を満たしていることの有力な証拠となります。

紛争の予防:計算根拠が不明瞭だと、「正しく残業代が支払われていないのではないか」という疑念を生みやすくなります。明瞭な記載は、このような疑念や無用な紛争を未然に防ぐ効果があります。

記載すべき項目

固定残業代制度を運用している場合の給与明細書には、通常の記載項目に加え、特に以下の項目を明確に表示することが望ましいです。

  1. 基本給: 他の手当と明確に区分して記載します。
  2. 固定残業手当: 雇用契約書や就業規則と整合性のとれた名称(例:「固定残業手当」「時間外手当(固定分)」)で記載します。
    支給額:を明記します。可能であれば、「(〇〇時間分)」のように、対象となる時間数を併記すると、より分かりやすくなります。
  3. 実績に基づく超過分の残業手当(差額精算分):
    固定残業時間を超えた場合に支給される差額の残業代は、固定残業手当とは別項目で記載します。(例:「時間外手当(実績分)」「超過時間外手当」)
    支給額を明記します。
    可能であれば、差額計算の対象となった超過時間数(例:「(〇〇時間分)」)も併記すると、計算根拠が明確になります。
    深夜労働や休日労働に対する割増賃金も、それぞれ別項目で時間数と金額を記載するのが理想です。
  4. 勤怠情報:
    給与計算の基礎となる**勤怠情報(総労働時間、時間外労働時間、深夜労働時間、休日労働時間、出勤日数など)**を正確に記載します。これにより、従業員自身も割増賃金の計算が妥当かを確認しやすくなります。

【記載例】給与明細書の表示例

以下に、給与明細書の支給項目と勤怠項目の表示例を示します。

【支給項目】
基本給 〇〇〇,〇〇〇 円
固定残業手当(△△時間分) □□,□□□ 円
時間外手当(実績分)(〇〇時間) ××,××× 円 ← 超過した場合に表示
深夜手当(実績分)(〇〇時間) 〇〇,〇〇〇 円 ← 該当した場合に表示
休日手当(実績分)(〇〇時間) 〇〇,〇〇〇 円 ← 該当した場合に表示
通勤手当 〇〇,〇〇〇 円
(その他手当…)
————————————————–
総支給額 〇〇〇,〇〇〇 円
————————————————–
【勤怠項目】
出勤日数 〇〇 日
総労働時間 〇〇〇.〇 時間
時間外労働時間 〇〇.〇 時間 (※固定残業時間を含む実績時間)
うち、深夜労働時間 〇〇.〇 時間
うち、休日労働時間 〇〇.〇 時間
(その他、有給休暇取得日数など)

ポイント: 固定残業手当と、実績に基づいて計算された差額分の手当を明確に分けて記載することが重要です。(上記例の「固定残業手当」と「時間外手当(実績分)」など)

作成・交付時の注意点

  1. 記載内容の整合性: 給与明細書の記載(手当の名称、金額の計算根拠など)は、雇用契約書や就業規則の内容と必ず一致させてください。
  2. 計算の正確性:特に差額計算は間違いやすいポイントです。勤怠管理システムと給与計算システムを連携させるなどして、正確な計算を担保する仕組みを構築しましょう。
  3. 交付義務の遵守:賃金を支払う際には、必ず給与明細書を従業員に交付する義務があります(所得税法等)。

毎月の給与明細書は、固定残業代制度が「絵に描いた餅」ではなく、日々適切に運用されていることを示すための重要なツールです。透明性の高い記載を心がけ、従業員との信頼関係の維持・向上に努めましょう。

はい、承知いたしました。最後のセクションとなる新しい目次6(当初の目次7)「まとめ:適切な書類作成でリスクを回避し、健全な労務管理を」の本文を作成します。

はい、承知いたしました。新しい目次5(当初の目次6)「【共通】記載する上での最重要チェックポイント5選」の本文を作成します。これまでの具体的な記載例を踏まえ、特に重要な共通原則をまとめます。

5. 【共通】記載する上での最重要チェックポイント5選

これまで、雇用契約書・就業規則(賃金規程)・給与明細書それぞれにおける具体的な記載例とポイントを解説してきました。固定残業代制度に関する書類を作成・整備する際には、これらの個別の注意点に加えて、全ての書類に共通して貫かれるべき、**特に重要な5つの原則**があります。

これらは、制度の有効性を確保し、将来的な紛争リスクを最小限に抑えるための**「書類作成の鉄則」**とも言えるものです。ぜひ、最終チェックとして以下の5点をご確認ください。

☑ ① 金額と時間数の「両方」を明記する

理由: 固定残業代の有効要件である「明確区分性」を最も確実に満たすためです。「〇万円」という金額と、それが「△時間分」に相当するという時間数の両方を具体的に記載することで、「通常の賃金部分」と「割増賃金部分」が客観的に判別可能になります。どちらか一方だけの記載では、解釈の余地が残り、争いの原因となり得ます。
ポイント: 雇用契約書、就業規則(賃金規程)には必ず両方を明記しましょう。給与明細にも可能な限り両方を表示することが望ましいです。

☑ ② 対象とする割増賃金(時間外・深夜・休日)を特定する

理由: 「対価要件」に関わる重要な点です。固定残業手当が、どの種類の労働に対する割増賃金の支払いとして意図されているのかを明確にする必要があります。「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」のうち、どれを対象とするのかを特定しなければ、どの労働時間に対して手当が充当されるのか不明確になり、有効性が争われる可能性があります。
ポイント: 特に深夜・休日労働も対象に含める場合は、その旨を明確に記載するか、別手当として設計することを検討しましょう。安易に「全ての割増賃金を含む」といった曖昧な記載は避けるべきです。

☑ ③ 差額精算条項は「必ず」入れる

理由: 固定残業代は、あくまで「一定時間分までの割増賃金の前払い」という性質を持つべきものです。そのため、設定時間を超えて労働した場合には、超過分の割増賃金を別途支払うことが法律上の大原則**です。この「差額を支払う」というルールを雇用契約書や就業規則に明確に記載することは、会社が法を遵守する意思があることを示し、固定残業代が「残業代の打ち切り」ではないことを明らかにする上で不可欠です。近時の裁判例でも重要視されています。
ポイント: 「労働基準法に基づき計算した差額を別途支給する」といった趣旨の条項を、定型文として必ず盛り込みましょう。

☑ ④ 基本給とのバランス・時間数の「相当性」を意識する

理由: 固定残業代の時間数や金額が、社会通念から見て「不相当」と判断される場合、制度自体の有効性が否定されるリスクがあります。例えば、基本給より固定残業代の方が高い、月100時間分など現実離れした長時間数が設定されている、といったケースです。これは、実質的に割増賃金の支払いを免れようとする意図があると疑われかねません。
ポイント: 基本給とのバランスを考慮し、固定残業時間数も実態に基づき、過労防止や安全配慮義務の観点からも妥当な範囲(目安として月45時間以内、多くとも65時間を超えない等)に設定することを強く推奨します。

☑ ⑤ 雇用契約書・就業規則・給与明細の記載内容に「整合性」を持たせる

理由: これら3つの書類(個別合意・会社ルール・毎月の通知)の間で、固定残業代に関する名称、金額、時間数、計算方法、差額精算ルールなどの記載内容に**食い違いや矛盾があると、制度全体の信頼性が揺らぎ、トラブルの原因**となります。
ポイント:制度を導入・変更する際には、必ず関連する全ての書類を確認し、記載内容に一貫性・整合性があるように整備しましょう。特に、就業規則を変更した際には、個別の雇用契約書や給与明細のフォーマットも見直す必要があります。

これらの5つのチェックポイントは、固定残業代制度を有効に運用するための基礎となるものです。書類を作成・見直しする際には、常にこれらの視点を持って確認する習慣をつけることが、リスク管理の第一歩となります。

6. まとめ:適切な書類作成でリスクを回避し、健全な労務管理を

本記事では、固定残業代制度を法的に有効なものとするための、雇用契約書、就業規則(賃金規程)、そして給与明細書の具体的な作り方と、その根底にある重要な考え方について解説してきました。

固定残業代制度は、上手く活用すれば給与計算の効率化や採用面でのメリットも期待できる一方で、その設計や運用、特に書面による明確化を怠ると、「無効」と判断され、多額の未払い残業代請求や付加金の支払いといった深刻なリスクを招きかねない、まさに「諸刃の剣」と言える制度です。

これらのリスクを回避し、制度を有効に機能させるための鍵は、繰り返しになりますが、

  1. 雇用契約書(労働条件通知書)
  2. 就業規則(賃金規程)
  3. 給与明細書

という3つの重要な書類において、固定残業代に関するルールを明確に、かつ法的な要件(特に明確区分性、対価要件、差額精算)を満たす形で記載し、それらの内容に一貫性を持たせることです。

本記事で紹介した「5つの最重要チェックポイント」(①金額・時間数の両方明記、②対象割増賃金の特定、③差額精算条項の必須化、④相当性の意識、⑤書類間の整合性確保)は、そのための具体的な指針となります。

もちろん、書類を整備するだけでなく、そのルールに則った「実際の運用」**(正確な労働時間管理、超過差額の確実な支払いなど)が伴わなければ意味がありません。書面と運用が一体となって初めて、固定残業代制度は法的に有効なものとして認められるのです。

固定残業代制度を既に導入されている、あるいはこれから導入を検討されている経営者・人事担当者の皆様におかれましては、ぜひ本記事の内容を参考に、今一度、自社の関連書類や運用体制に不備がないか、客観的な視点で見直し・点検を行ってみてください。

もし、少しでも記載内容や運用方法に不安がある場合、あるいは制度の導入・変更を具体的に進めるにあたっては、**労働問題を専門とする弁護士にご相談**されることを強くお勧めします。専門家のアドバイスに基づき、適切な書類作成と運用体制を構築することが、将来の予期せぬトラブルを回避し、健全な労使関係を築くための最も確実な方法です。

適切な労務管理は、企業の持続的な成長のための重要な基盤です。本記事が、その一助となれば幸いです。

【当事務所の労務顧問サービスのご案内】

本記事をお読みいただき、固定残業代制度の複雑さや、適切な労務管理の重要性を改めて感じられた経営者・人事担当者様も多いのではないでしょうか。

固定残業代だけでなく、日々の労務管理においては、法改正への対応、従業員との個別トラブルの予防・対応、就業規則や各種規定の整備・見直しなど、専門的な知識と継続的な注意が求められる場面が数多く存在します。

  • 「法的なリスクを最小限に抑えたい」
  • 「問題が起こる前に、いつでも気軽に相談できる専門家がほしい」
  • 「最新の法改正や判例動向を踏まえたアドバイスがほしい」

このようなご要望にお応えするのが、当事務所の「労務顧問契約」です。

顧問契約を締結いただくことで、貴社の実情を深く理解した弁護士が、継続的な法的サポートをご提供いたします。日常的な労務相談への迅速な対応、雇用契約書や就業規則等のリーガルチェック、トラブル発生時の初期対応、法改正情報の提供などを通じて、貴社の労務リスクを未然に防ぎ、健全な職場環境の構築と維持を「先手必勝」の観点から強力にバックアップいたします。

固定残業代の問題はもちろん、人事労務に関する様々なお悩みについて、貴社の頼れるパートナーとして伴走いたします。

当事務所の労務顧問契約の詳細につきましては、以下のページをご覧ください。

労務顧問契約

→ 当事務所の「労務顧問契約」サービス詳細はこちら

まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。

参考裁判例

山梨県民信用組合事件

最二小判平成28年2月19日 労判1136号6頁

…不利益変更の同意の要件

ワークフロンティア事件

東京地判平24.9.4 労判1063号65頁 裁判官 早田尚貴

…雇用途中の同意有効

今井建設ほか事件

大阪高判平28.4.15 労働判例1145号82頁

…同意無効

サンフリード事件

長崎地判平29.9.14 労働判例1173号51頁

…同意無効

マーケティングインフォメーションコミュニティ事件

東京高裁平26.11.26労働判例 1110号 46頁

…基本給の減額を伴う固定残業代制度の同意無効

プロポライフ事件

東京地判平成27年3月13日 労判1146号85頁

…基本給の減額を伴う固定残業代制度の同意無効

ビーダッシュ事件

東京地方裁判所平成30年5月30日判決

…基本給の減額を伴う固定残業代制度の同意無効 >>詳細はこちら

 

労働問題に関する相談受付中

営業時間:平日(月曜日~金曜日)10:00~18:00 /土日祝日は休業