大阪医科薬科大学事件[2審](大阪地方裁判所平成30年1月24日判決)

有期契約労働者(アルバイト職員)と無期契約労働者(正職員)の労働条件の相違のうち,賞与の不支給,夏期特別休暇の不付与,私傷病による欠勤中の賃金及び休職給の不支給が不合理であるとされた事例

1 事案の概要

本件は,期間の定めのある労働契約を締結して被控訴人において勤務していた控訴人が,期間の定めのない労働契約を被控訴人と締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)と控訴人との間で,基本給,賞与,年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給,年休の日数,夏期特別有給休暇,業務外の疾病(私傷病)による欠勤中の賃金,附属病院の医療費補助措置に相違があることは労働契約法(労契法)20条に違反すると主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づき,差額に相当する額等合計1272万1811円の損害賠償金及びこれに対する原審における請求の趣旨変更の申立書送達の日の翌日である平成28年4月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審において,控訴人は,①主位的には,労契法20条違反により無期契約労働者と同様の労働条件が適用されることを前提に労働契約に基づき,予備的には,不法行為に基づき,無期契約労働者との差額賃金等及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の支払,②労契法20条に違反する労働条件の適用という不法行為に基づき,慰謝料等及びこれに対する①同様の遅延損害金の支払を求めていた。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が本件控訴を提起した。

2 大阪医科薬科大学事件[控訴審]判例のポイント

2.1 結論

原告は,被告の正職員とアルバイト職員の賃金の相違,賞与支給の有無,正職員のみ労働基準法を上回る年次有給休暇を与えられている点,正職員のみ下記特別有給休暇が与えられている点,正職員のみ私傷病休職中の賃金が支払われる点,附属病院で医療費補助が受けられるのも正職員のみであった点について,労働契約法20条違反と主張する。
労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当であり,本件において,賞与を支給しないこと,夏期特別有給休暇を付与しないこと,私傷病による欠勤中の賃金及び休職給を支給しないことは,控訴人の労働条件が,被控訴人の正職員全体と比較対照して,その相違が不合理であるというべきであるとして,控訴人の主張を一部認め,被控訴人に損害賠償を命じた。

2.2 理由

1 期間の定めがあることを理由とする相違にあたるか

「賃金,賞与等控訴人が主張する控訴人とA氏を含む正職員との労働条件の相違は,アルバイト職員と正職員とでそれぞれ異なる就業規則等が適用されることにより生じているものであるから,当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって,控訴人とA氏を含む正職員との上記労働条件は,同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができる。」

2 不合理な労働条件の相違にあたるか

賞与の性質について

「正職員に対して支給されていた賞与は,旧来から通年で概ね基本給の4.6か月分(平成26年度は夏期につき2.1か月分+2万3000円,冬期につき2.5か月分+2万4000円)との額であったことが認められる。賞与の支給額は,正職員全員を対象とし,基本給にのみ連動するものであって,当該従業員の年齢や成績に連動するものではなく,被控訴人の業績にも一切連動していない。このような支給額の決定を踏まえると,被控訴人における賞与は,正職員として被控訴人に在籍していたということ,すなわち,賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有するものというほかない。そして,そこには,賞与算定期間における一律の功労の趣旨も含まれるとみるのが相当である。」

これに対し,「被控訴人は,被控訴人には,正職員,嘱託職員,契約職員,アルバイト職員という契約形態があり,行う業務の内容,したがって,人材の代替性の程度が異なり,長期雇用への期待が契約形態に応じて段階的に相違することから,正職員や嘱託職員のほか,契約職員には一定の賞与を支給し,長期雇用の期待が乏しいアルバイト職員には全く賞与を支給していないと主張する。先にみた賞与の支給額の決定方法からは,支給額は正職員の年齢にも在職年数にも何ら連動していないのであるから,賞与の趣旨が長期雇用への期待,労働者の側からみれば,長期就労への誘因となるかは疑問な点がないではない。仮に,被控訴人の賞与にそのような趣旨があるとしても,長期雇用を必ずしも前提としない契約職員に正職員の約80%の賞与を支給していることからは,上記の趣旨は付随的なものというべきである。」

アルバイト社員に賞与を一切支払っていないことの合理性

「被控訴人における賞与が,正職員として賞与算定期間に在籍し,就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する以上,同様に被控訴人に在籍し,就労していたアルバイト職員,とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し,額の多寡はあるにせよ,全く支給しないとすることには,合理的な理由を見出すことが困難であり,不合理というしかない。」

これに対し,「被控訴人は,アルバイト職員以外の有期契約労働者には適用がある労働条件を,期間の定めがあることと労働条件が相違していることの関連性の程度が低いものととらえ,アルバイト職員以外の有期契約労働者には適用があることをもって,アルバイト職員に適用がないことの不合理性を否定する方向の事情と主張する(第2の4(1))。しかし,賞与に関していえば,同じ有期契約労働者の契約職員に一定の支給があることは,アルバイト職員には全く支給がないことの不合理性を際立たせるものというべきである。」

アルバイト社員に正職員と同等の賞与を支払わなければならないか否か

「被控訴人の賞与には,功労,付随的にせよ長期就労への誘因という趣旨が含まれ,先にみたとおり,不合理性の判断において使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。さらに,(2)ウでみたとおり,正職員とアルバイト職員とでは,実際の職務も採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきであるから,アルバイト職員の賞与算定期間における功労も相対的に低いことは否めない。これらのことからすれば,フルタイムのアルバイト職員とはいえ,その職員に対する賞与の額を正職員に対すると同額としなければ不合理であるとまではいうことができない。」

「上記の観点及び被控訴人が契約職員に対し正職員の約80%の賞与を支払っていることからすれば,控訴人に対し,賃金同様,正職員全体のうち平成25年4月1日付けで採用された者と比較対照し,その者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきである。」

3 被控訴人に不法行為法上の故意・過失があるか

4 損害の有無及びその額

3  大阪医科薬科大学事件[控訴審]の関連情報

3 判決情報

3.1 裁判官

江口 とし子,大藪 和男,森鍵 一

3.2 掲載誌

判例タイムズ1460号56頁,労働判例1199号5頁

3.2 関連裁判例

  • ハマキョウレックス事件[1審](大津地裁彦根支部平27.9.16判決)
  • メトロコマース事件[1審](東京地裁平29.3.23判決)
  • ヤマト運輸(賞与)事件(仙台地裁平29.3.30判決)
  • 日本郵便(佐賀)事件[1審](佐賀地裁平29.6.30判決)
  • 日本郵便(東京)事件[1審](東京地裁平29.9.14判決)
  • 日本郵便(大阪)事件[1審](大阪地裁平30.2.21判決)
  • 医療法人A会事件(新潟地裁平30.3.15判決)
  • 井関松山製造所事件(松山地裁平30.4.24判決)
  • 井関松山ファクトリー事件(松山地裁平30.4.24判決)
  • 日本郵便(佐賀)事件[控訴審](福岡高裁平30.5.24判決)
  • 日本郵便(東京)事件[控訴審](東京高裁平30.12.13判決)
  • 日本郵便(大阪)事件[控訴審](大阪高裁平31.1.24判決)
  • 大阪医科薬科大学事件[控訴審] (大阪高裁平31.2.15判決)

3.3 参考

法律の判断枠組

「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パート・有期法」)8条は「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて」,正社員などの「通常の労働者」の待遇との間に,「不合理と認められる相違を設けてはならない」と定めます。そして,不合理か否かの考慮要素として①職務の内容(業務の内容およびその責任の程度)②職務の内容及び配置の変更の範囲③その他の事情の3つを挙げ,これらの要素のうち「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」判断すると定めています。

ガイドライン

不合理か否かの判断の考え方や具体例を示すものとして厚生労働省は指針(「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」平30.12.28厚労告430号 以下「ガイドライン」といいます。)を定めました。ガイドラインの考え方に反した場合は「不合理と認められる等の可能性がある」にとどまり,裁判所の法的判断を拘束するものではありません。しかし,ガイドラインは,平成30年6月の同一労働同一賃金の原則の関する最高裁判決 をも踏まえ,パート・有期法15条に基づいて策定・公表されたものであることから,裁判所はガイドラインを参考にして不合理性の判断を行う可能性は否定できません 。

従って,実務的にはガイドラインの内容を踏まえた上で検討を進める必要があります。

 「短時間・有期雇用労働者法は、行政指導や行政上の紛争解決手続によって担保される行政法規であるとともに、均衡・均等待遇規定等は裁判手続によって担保される民事規範でもある。したがって、上記の指針は行政指導や行政上の紛争解決手続における処理基準となるとともに、裁判手続上も裁判所によって参考とされるべき基準である。」 菅野和夫「労働法[12版]」P374

賞与に関するガイドライン

「賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。」と定め,問題となる例として①「賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じた支給をしているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない」,②「賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。」を挙げています。

主文

1 原判決を次のとおり変更する。

2 被控訴人は,控訴人に対し,109万4737円及びこれに対する平成28年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 控訴人のその余の請求を棄却する。

4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その9を控訴人の,その余を被控訴人の各負担とする。

5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は,控訴人に対し,1272万1811円及びこれに対する平成28年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要(略称は,特記しない限り,原判決の例による。)

1 本件は,期間の定めのある労働契約を締結して被控訴人において勤務していた控訴人が,期間の定めのない労働契約を被控訴人と締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)と控訴人との間で,基本給,賞与,年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給,年休の日数,夏期特別有給休暇,業務外の疾病(私傷病)による欠勤中の賃金,附属病院の医療費補助措置に相違があることは労働契約法(労契法)20条に違反すると主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づき,差額に相当する額等合計1272万1811円の損害賠償金及びこれに対する原審における請求の趣旨変更の申立書送達の日の翌日である平成28年4月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審において,控訴人は,①主位的には,労契法20条違反により無期契約労働者と同様の労働条件が適用されることを前提に労働契約に基づき,予備的には,不法行為に基づき,無期契約労働者との差額賃金等合計1038万1660円及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の支払,②労契法20条に違反する労働条件の適用という不法行為に基づき,慰謝料等合計136万5347円及びこれに対する①同様の遅延損害金の支払を求めていた。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が本件控訴を提起した。控訴人は,当審において,①のうち労働契約に基づく請求を取り下げ,①及び②を併せた不法行為に基づく損害賠償請求を第1の2のとおり拡張した。

2 前提事実,本件の争点及び争点に関する当事者の主張は,次の3及び4において当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2,第3の1及び3,第4の1,2,4及び5に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を以下のとおり訂正する。
(1) 4頁18行目の「賃金」の次に「(基本給)」を加える。
(2) 5頁10行目及び11頁15行目の「別紙」を「別紙賃金比較表」に改める。
(3) 6頁9行目の「には,」の次に「給与規則及び」を加える。
(4) 6頁10行目の「業務外の疾病」の次に「(以下「私傷病」という。)」を加える。
(5) 18頁23行目冒頭から20頁18行目までを次のとおり改める。
「(1) 被控訴人における正職員とアルバイト職員との労働条件の相違は,期間の定めがあることを理由とするものであり,かつ,不合理な労働条件の相違に該当するため,そのような労働条件を控訴人に適用したことは控訴人に対する不法行為に該当する。これにより,控訴人は,下記のとおり,合計1272万1811円の損害を被った。
(2)ア 賃金(基本給)及び賞与
アルバイト職員である控訴人に教室事務員である正職員と同様の労働条件が適用されれば,A氏と同額の賃金及び賞与が支給されていたはずである。別紙賃金比較表の④のとおり,その差額である770万0513円が損害となる。
予備的に,平成25年4月新規採用の正職員の賃金との差額(別紙賃金比較表の⑤)である283万1531円を損害と主張する。
イ 年末年始や創立記念日の休日における賃金支給
アルバイト職員である控訴人は,年末年始と創立記念日については休日であるため勤務せず,無給となるが,正職員は休日であることによって賃金が減額とならないので,その差額が損害となる。
年末年始については,平成25年度(同年12月29日から平成26年1月3日まで)は,日曜日である平成25年12月29日及び祝日である平成26年1月1日を除く4日分,平成26年度(同年12月29日から平成27年1月3日まで)は、祝日である平成27年1月1日及び土曜日(指定休日)である同月3日を除く4日分の各賃金が損害となる。
創立記念日(6月1日)については,平成26年6月1日は日曜日であったため同日分の損害が生じなかったが,平成25年6月1日は第1土曜日であったものの同月29日が指定休であったため1日分の賃金が損害となる。
以上のとおり,平成25年度につき5日分,平成26年度につき4日分の各賃金が損害となるところ,別紙賃金比較表のとおり,A氏の賃金日額は平成25年度につき1万1371円,平成26年度につき1万1620円であるため,損害額は10万3335円(1万1371円×5日+1万1620円×4日)となる。
予備的に,平成25年4月新規採用の正職員と比較した5万7891円(6331円×5日+6559円×4日),更に予備的に,自己の賃金日額を基準とした4万5028円(4904円×5日+5127円×4日)を損害と主張する。
ウ 年休の日数
アルバイト職員である控訴人に正職員と同様の労働条件が適用されれば,平成27年12月末日時点で年休の付与日数が1日増えるはずである。したがって,1日分の賃金が損害となる。
別紙賃金比較表のとおり,A氏の平成26年度の賃金日額である1万1620円を請求し,予備的に,平成25年4月新規採用の正職員の平成26年度の賃金日額6599円,更に予備的に,自己の平成26年度の賃金日額5127円を損害と主張する。
エ 夏期特別有給休暇
正職員には,夏期特別有給休暇が年間5日付与されるが,アルバイト職員である控訴人には付与されない。平成25年度及び平成26年度の各5日分の賃金が損害となる。
A氏の賃金日額によれば,損害額は11万4955円(1万1371円×5日+1万1620円×5日)となる。予備的に,平成25年4月新規採用の正職員と比較した6万4650円(6331円×5日+6599円×5日),更に予備的に,自己の賃金日額を基準とした5万0155円(4904円×5日+5127円×5日)を損害と主張する。
オ 私傷病による欠勤中の賃金及び休職給
控訴人が正職員であれば,当初の6か月(年休を取得した期間を除く,平成27年3月9日から同年4月8日まで及び同年5月16日から同年10月15日まで)は賃金全額,その後の5か月(平成27年10月16日から平成28年3月15日まで)は賃金の2割の休職給が支給されたはずである。アルバイト職員である控訴人にはそのような支給がされなかったため,その額が損害となる。
別紙賃金比較表のとおり,A氏の平成26年度及び平成27年度の賃金によれば,当初の6か月につき215万5750円(35万3450円×1か月+36万0460円×5か月)及びその後の5か月につき36万0460円(36万0460円×0.2×5か月)の合計251万6210円が損害となる。
予備的に,平成25年4月新規採用の正職員の賃金により,123万7220円(20万0720円×1か月+20万7300円×5か月)及び20万7300円(20万7300円×0.2×5か月)の合計である144万4520円を,更に予備的に,控訴人の賃金により,93万4062円(15万5677円×6か月)及び15万5677円(15万5677円×0.2×5か月)の合計である108万9739円を損害と主張する。
カ 私学共済の資格喪失に伴う損害
私学共済は,無職(休職等により給与が平常勤務の際の20%を下回る場合を含む。)のときに資格要件を失う。正職員であれば,休職給(20%)が支給される平成28年3月15日まで私学共済の資格を喪失することはなかったが,アルバイト職員である控訴人は,休職となった平成27年5月16日をもって私学共済の資格を喪失することとなった。
このため,控訴人は,健康保険の短期掛金(月額5677円)と介護保険の介護掛金(月額855円)が任意継続掛金(月額1万3042円)となって6510円増加し,厚生年金の長期掛金(月額1万0635円)が国民年金保険料(月額1万5590円)となって4955円増加した。したがって,これらの合計月額1万1465円の10か月分(平成27年5月16日から平成28年3月15日まで)である11万4650円の損害を被った。
キ 附属病院の医療費補助措置
控訴人は,平成25年4月5日に附属病院に通院し,9360円を支出した。正職員であれば医療費補助措置の対象となり4000円の償還を受けることができるが,アルバイト職員であるため,上記償還を受けることができず,同額の損害を被った。
ク 慰謝料
控訴人は,被控訴人により不合理な取扱いを受け,精神的苦痛を被った。これを慰謝するに必要な金員は100万円を下らない。
ウ,エ,カについては,財産的損害が認められないときは,同額の慰謝料が認められるべきである。
ケ 弁護士費用
控訴人は,本件訴訟のために弁護士に委任することを余儀なくされた。その弁護士費用の相当額は,アからクまでの合計1156万5283円の1割である115万6528円である。」
(6) 20頁20行目末尾に行を改め,次のとおり加える。
「仮に控訴人に正職員と相違する労働条件を適用したことが違法であったとしても,賞与の差額計算については,採用初年度の夏期賞与は欠勤控除されることが考慮されるべきである。
欠勤控除を反映させると,賃金及び賞与の差額は,別紙賃金比較表のとおり,A氏と比較した場合には,720万4279円(夏期賞与分は25万0114円),平成25年4月の新規採用の正職員と比較した場合には,254万9341円(夏期賞与分は14万2207円)となる。」

3 当審における控訴人の主張

(1) 労契法20条の趣旨

労契法20条の立法趣旨は,期間の定めのある労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)については,無期契約労働者に比較して合理的な労働条件決定が行われにくく,両者の労働条件の相違が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止するというものである。その趣旨が公正な処遇の実現にある以上,相違の不合理性はそのような観点から考慮されるべきである。「著しく」などの制限が付されていない以上,不合理性の判断に当たって過度に限定的に解釈することは許されない。
有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違の理由は,使用者側において,個々の労働条件ごとに,両者間の相違の説明として成り立ちうる程度の関連性と具体性を備えた説明をすべきである。「長期雇用のインセンティブ」などといった抽象的な説明では足りないというべきである。

(2) 控訴人との比較対象者

控訴人と比較対象となるのは,基礎系教室に教室事務員として配属されている無期契約労働者であるべきである。
労契法20条の文言からすれば,有期契約労働者の比較対象となる無期契約労働者は同一使用者に雇用されている個別具体的な無期契約労働者をいうことが明らかである。裁判所は,有期契約労働者側が設定した比較対象者との関係で不合理な相違があるかどうかを判断すべきであって,裁判所が勝手に比較対象者を選ぶことはできない。
正職員の配転可能性をもって正職員全員を比較対象とするというのでは,労契法20条が「職務内容と配置の変更の範囲」を労働条件の相違が不合理か否かの判断要素としていることに照らし,論理的に転倒している。また,正職員には業務・責任が異なる者が混在しているから,「職務の内容」を検討することが無意味となる。

(3) 控訴人と基礎系教室の正職員である教室事務員との労働条件の相違及びその不合理性

ア 賃金(基本給)

正職員の教室事務員で最も賃金額が低いA氏(平成27年4月1日現在で勤続19年)の賃金額,平成25年4月に新規採用された正職員の賃金の推計額は,それぞれ別紙賃金比較表のとおりである。控訴人の基本給はA氏の基本給の約43~44%(賞与を併せた年間支給額では,約31~32%)であり,新規採用正職員の初任給と比べても約8割程度である。このような相違は不合理である。
被控訴人は,教室事務員を正職員からアルバイト職員に置き換える過程にあったのであるから,正職員しか行えない特別な業務は存在しない。また,教室事務員は,総務,人事,経理関係など多種多様な幅広い業務に従事しており,定型的で簡便な業務や雑務が大半というわけではなかった。そうであるからこそ,4名もの正職員が教室事務員として配置されていた。
アルバイト職員であっても,業務の都合により他部門への異動を命ずることがある旨の定めがアルバイト職員就業内規(4条5項)に置かれており,実際に,少なくとも3名のアルバイト職員が他の部署に異動した実例がある。教室事務員でみれば,正職員とアルバイト職員とで配置転換の頻度はほとんど変わらない。
仮に,正職員の賃金は職能給,アルバイト職員の賃金は職務給の性質を有したとしても,賃金差の合理性を基礎付ける理由にはならない。
登用試験制度の存在も同様であり,そもそも登用試験は公正に行われていなかった。将来的に労働条件の相違を解消する余地があり得るといった可能性が,現在の労働条件の相違の合理性を基礎付けるものにはなり得ない。

イ 賞与

賞与は,基本的には,支給対象期間の勤務に対応する賃金であり,賃金後払,功労報償,生活補填としての性格を有する。被控訴人においては,個人の査定(人事評価)や個人の貢献度合いを考慮することなく,夏期賞与は一律に基本給の2.1か月分に一定額を加算し,冬期賞与は基本給の2.5か月分に一定額を加算した額を賞与として支給している。したがって,賞与は,賞与算定期間に被控訴人に在籍し就労したこと自体に対する対価又は生活保障としての性質を有する。
このような賞与支給の趣旨からすれば,賞与は「職務の内容」や「職務の内容及び配置の変更の範囲」とは直接関連しない。正職員及び契約職員(昇格や配置転換はない。)に一律に支給される賞与が,少なくともフルタイムのアルバイト職員である控訴人に対し全く支給されないことは,不合理な労働条件の相違である。
「長期雇用のインセンティブ」から労働条件の相違の「合理性」をいうのでは,「長期雇用だから格差は合理的」というに等しい。これは,アルバイト職員に対する賞与の不支給につき,合理性を基礎付けるものではない。アルバイト職員について賞与算定期間を定めることは,技術的に何ら困難ではない。また,賞与を含むと新規採用の正職員の約55%の賃金水準というのは,相違が大きすぎる。

ウ 夏期特別有給休暇

夏期特別有給休暇は,夏期が気温の暑い時期であり,その時期に職務に従事することは体力的に負担が大きいことから体を休めるべき必要性が高いという季節的な事情や,古くから祖先を祀るお盆の行事,子供の夏休みを利用した帰省や家族旅行などといった国民的な習慣や意識などを背景に,職員の夏期における疲労回復や健康の維持,増進,家庭生活の充実などを図るとともに,職員の日常の労働に対する労いのためのものである。したがって,その趣旨は,職務の内容とは関係がない。夏期特別有給休暇の有無について,正職員とアルバイト職員で相違を設けることは不合理である。
アルバイト職員で雇用期間に夏期を含まない場合には,夏期特別有給休暇付与の対象とならないのは当然である。長期にわたる継続雇用か否かや時間外労働時間の長短は,夏期特別有給休暇とは関係がない。

エ 私傷病による欠勤中の賃金及び休職給

上記の制度の趣旨は,私傷病による就労困難という誰にでも起こり得る事態が生じた際の労働者の生活保障という以外にはない。
これらの給付は,業務の内容・責任の度合いに関わらず,配転等の可能性にも関わらず,正職員であれば一律に受け得るものであり,長期間就労した事実を要件とするものでも,長期間就労することを予定していることも要件とされていない。このことは,私傷病による欠勤中の賃金支給及び休職給は,短期雇用が想定されている嘱託職員にも適用があるとされていることから明らかである。
したがって,長期雇用を前提としていないからといってアルバイト職員に適用しないことには合理性がない。私傷病の危険は正社員であろうともアルバイト職員であろうとも生ずるものであるから,このような相違を設けることは不合理である。相違の程度の点からしても,極めて不合理である。

オ 附属病院の医療費補助措置

附属病院の医療費補助措置は,正職員が受けられる福利厚生面での措置であって,詳細な規定も整備されており,雇用契約の内容となっている。これは,労契法20条の適用のある労働条件に含まれるというべきであり,恩恵的措置ということはできない。このような福利厚生面の措置について,正職員のみに制度が存在すること自体不合理である。
まして,同じ有期契約労働者である嘱託職員や契約職員に対しては適用があることを踏まえると,アルバイト職員にのみ適用しないことの不合理性は際立っている。

4 当審における被控訴人の主張

(1) 労契法20条の趣旨

労契法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との職務の内容等の違いに応じた均衡の取れた処遇を図ることを趣旨とするものであり,均等処遇を求めるものではない。
労働条件の相違の不合理性を判断するに当たっては,職務の内容や職務の内容及び配置の変更の範囲のみならず,その他の事情として,使用者の経営判断,賃金体系,人事上の施策,正社員登用制度の存在その他の諸事情を幅広く総合的に考慮すべきである。また,アルバイト職員以外の有期契約労働者には適用がある労働条件のように,期間の定めがあることと労働条件が相違していることの関連性の程度が低いときは,このことは,不合理性の判断において不合理性を否定する方向の事情として考慮する必要がある。

(2) 控訴人との比較対象者

労契法20条は,同一の使用者による均衡処遇を求めるものであるから,法人単位で労働条件の同一性を評価すべきであり,事業場単位で考慮すべきではない。労働条件の比較は,特定の個人を取り出して行うものではなく,当該労働条件の適用のある者の全体と比較すべきである。ましてや,比較対象者の選定は当事者の主張に拘束されるものでもない。
被控訴人の正職員で教室事務員として配属されているのはわずか4名にすぎない。被控訴人の事務系正職員は,「事務組織」のほか,事務業務のある組織,具体的には,基礎系教室や病院看護部,中央診療部門,病院中央部門,大学中央部門等に配属され,各部署において,多岐にわたる業務に携わっている。また,いずれの部署への異動もあり得る。本件において,不合理な労働条件の相違にあたるか否かは,控訴人と法人内の全ての部署における事務系正職員を比較対照して判断すべきである。

(3) 本件における労働条件の各相違及び不合理性の不存在

ア 賃金(基本給)

被控訴人の正職員が携わる可能性がある業務は,大学内,病院内の全ての事務業務であって,業務内容も多岐にわたっている。一方,控訴人が従事している業務は,定型的で簡便な業務である。正職員と控訴人では,職務の内容の同一性はなく,責任の程度も異なる。
また,被控訴人においては,正職員の教室事務員をアルバイト職員に置き換える過程にあるが,現在の4名は,アルバイト職員には担えない業務も担当している。このため,置き換えが進んでいないのである。
控訴人は,教室事務員として,総務,人事,経理関係など多種多様な業務に従事していたと主張するが,いずれも簡便な作業か雑務の域を出るものではない。
被控訴人においては,アルバイト職員が他の部署に異動した例もあるが,極めて例外的な場合に限られている。このことからアルバイト職員が正職員と同程度の異動を行っているということはできない。
被控訴人における登用試験は,部門を問わず成績上位者を合格させるものであり,合格者の所属部署にも偏りがみられないので,不公正という批判は根拠がない。登用試験によって能力の高い有期契約労働者には責任の重い職務と相応の待遇を享受する道が公平に開かれている。
賃金の相違は,能力及びこれに応じた職務の相違に見合ったものである。

イ 賞与

被控訴人においては,長期雇用への期待が正職員の労働条件を構成する要素の1つとなっている。
すなわち,正職員は,法人内のあらゆる事務業務に主体的に従事し,異動の範囲は全法人規模であり,正規の昇格発令を受け,人事評価制度の適用があり,長期間の就労を期待され,代替性にも極めて乏しい。嘱託職員は,本人の能力に応じて専門的な業務に従事するが,所属部署の担当業務には正職員同様に主体的に従事することが求められ,本人の経験の範囲内で異動の対象となり,役職を委嘱する形での昇格発令が行われることもあり,その旨の実例もある。人材の代替性は正職員と同程度に乏しい場合が多い。契約職員は,原則として異動及び昇格発令は行わず,正職員に準ずる業務に従事し,採用された部署の業務に原則として正職員,嘱託職員の指示を受けて従事しており,人材の代替性は比較的乏しい。アルバイト職員は,原則として異動や昇格発令は行われず,定型的で簡便な作業や雑務レベルの業務が過半を占め,求められる能力も限局的であり,採用された部署の業務に正職員,嘱託職員,契約職員の指示を受けて従事し,人材の代替性が高い。
このように,被控訴人においては,長期雇用への期待が契約形態に応じて段階的に相違することから,正職員や嘱託職員のほか,契約職員には賞与を支給し,類型的に長期雇用の期待が乏しいアルバイト職員には賞与を支給しないこととしている。このような相違には相応の合理性を認めることができる。
また,正職員は,被控訴人の業績を左右するような貢献(変動的な貢献)が想定されるので,その貢献によって変動する業績に応じて,変動する賃金の後払としての性格を有する賞与を支給している。定型的な貢献しか想定されていないアルバイト職員には,賞与ではなく,時給額で評価が尽くされる。賃金の後払としての賞与を支給しなくとも不合理ではない。
控訴人の,賞与を含めた賃金水準が新規採用の正職員の約55%というのは,正職員とアルバイト職員との業務の相違を考慮したときは不合理とはいえない。

ウ 夏期特別有給休暇

夏期特別休暇の趣旨についても,イの被控訴人の職種における段階的相違が妥当する。正職員とアルバイト職員では勤務時間も責任も異なり,夏期特別有給休暇を正職員には付与してアルバイト職員に付与しないことが不合理とはいえない。
被控訴人の夏期特別有給休暇は,正職員において,時間外労働が著増する繁忙期に備え,閑散期である7月から9月の間に十分な休息を与えようとするものである。「夏季」休暇ではないから,夏が暑いからなどという単純な理由で定められたものではなく,お盆の行事や子供の夏休みと直接結びつくものでもない。

エ 私傷病による欠勤中の賃金及び休職給

私傷病による欠勤中の賃金保障は,月給者に対して設けられた制度であって,広く労働者の権利として給付されるものではない。
被控訴人においては,契約形態に応じて長期雇用への期待及び代替性が異なる。本給付は,被控訴人の業績を左右するような貢献をなし得る能力を有し、その長期的かつ大いなる発揮が期待される正職員及び嘱託職員の私傷病による欠勤及び休職中の生活保障である。正職員及び嘱託職員のみを対象とし,正職員になることを望まないアルバイト職員や望んでも登用試験に合格できないアルバイト職員を対象としないことは不合理ではない。

オ 附属病院の医療費補助措置
医療費補助措置は恩恵的なもので労働条件ではない。仮に労働条件であったとしても広い裁量が認められるものであるから,アルバイト職員が対象とならないことは不合理ではない。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

本件における認定事実は,原判決「事実及び理由」の第5の1に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。
(1) 23頁2行目末尾に次のとおり加える。
「ただし,平成25年度に採用された大卒の正職員の同年度の夏期賞与は,支給基準日までの勤務期間が短いため欠勤控除により減額され,14万2207円となり,A氏につき同様の欠勤控除があると仮定した場合,A氏の同年度の夏期賞与は25万0114円となる。」
(2) 27頁2行目の「原告の」から4行目の「であった。」までを次のとおり改める。
「控訴人の所定労働日は,原則として月曜日から金曜日までであり,日曜日及び祝日は休日であった。土曜日は,第2土曜日及び第4土曜日は休日であったが,第1土曜日,第3土曜日又は第5土曜日のうちの1日が指定休として休日となり,その余は所定労働日となった。そのほか,創立記念日(6月1日)及び年末年始(12月29日から翌年1月3日まで)も休日と定められていた。」
(3) 27頁7行目末尾に以下のとおり加える。
「なお,平成25年12月29日は日曜日であり,平成26年1月1日は祝日,同年6月1日は日曜日,平成27年1月1日は祝日,同月3日は土曜日(指定休日に該当)であったため,これらの日は,年末年始及び創立記念日であることを度外視したとしても,控訴人の所定休日に該当していた。平成25年6月1日は第1土曜日であったものの,同月29日(第5土曜日)が指定休となったため,控訴人にとっては創立記念日があったために所定休日が増える結果となっていた。」
(4) 27頁11行目の「④,」の次に「9,」を加える。
(5) 32頁15行目の「ものとする。」」の次に「,「職種変更など時給単価要件の変更があった場合には,その都度単価を変更する。」」を,「1項」の次に「,2項」を,末尾に「昇給の定めはなかった。」をそれぞれ加える。
(6) 33頁10行目の「業務外の疾病」を「私傷病」に改める。

2 労契法20条の趣旨について

(1) 労契法20条は,有期契約労働者の労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している無期契約労働者の労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は,有期契約労働者については,無期契約労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。
そして,同条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(職務の内容等)を考慮して,その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。

(2) 労契法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより相違していることを前提としているから,両者の労働条件が相違しているというだけで同条を適用することはできない。一方,期間の定めがあることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は,労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるものということができる。
そうすると,同条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。

(3) 次に,労契法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が,職務の内容等を考慮して「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることに照らせば,同条は飽くまでも労働条件の相違が不合理と評価されるか否かを問題とするものと解することが文理に沿うものといえる。また,同条は,職務の内容等が異なる場合であっても,その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定であるところ,両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては,労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。
したがって,同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。
そして,両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから,当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が,当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が,それぞれ主張立証責任を負うものと解される。(以上につき,最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号88頁参照)

(4) 労働者の賃金に関する労働条件は,労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく,使用者は,雇用及び人事に関する経営判断の観点から,労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して,労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる。また,労働者の賃金に関する労働条件の在り方については,基本的には,団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる。そして,労契法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮する事情として,「その他の事情」を挙げているところ,その内容を職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない。
したがって,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は,労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないというべきである。(最高裁平成30年6月1日判決・民集72巻2号202頁参照)

3 争点1(期間の定めがあることを理由とする相違にあたるか)について

2(2)のとおり,労契法20条の「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。
これを本件についてみると,賃金,賞与等控訴人が主張する控訴人とA氏を含む正職員との労働条件の相違は,アルバイト職員と正職員とでそれぞれ異なる就業規則等が適用されることにより生じているものであるから,当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって,控訴人とA氏を含む正職員との上記労働条件は,同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができる。

4 争点2(不合理な労働条件の相違にあたるか)について

(1) 労働条件の相違を判断するに当たっての比較対象者及び被控訴人の休職規程等の適用範囲について

ア 当裁判所も,控訴人と正職員との労働条件の相違が不合理か否かを判断するために比較対照すべき無期契約労働者は,被控訴人の正職員全体であり,かつ,控訴人の労働条件はアルバイト職員就業内規に定められているところにより,他の規程が適用されるものではないと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」の第5の4(1)ア及びイに記載のとおりであるから,これを引用する。

イ 控訴人は,控訴人と労働条件を比較対照すべきであるのは基礎系教室に教室事務員として配属されている無期契約労働者(その中でもA氏)である旨主張する(第2の3(2))。
しかし,労契法20条は,「同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者」と規定しているのであるから,有期契約労働者の比較対象となる無期契約労働者は,むしろ,同一の使用者と同一の労働条件の下で期間の定めのない労働契約を締結している労働者全体と解すべきである。控訴人は,裁判所は,有期契約労働者側が設定した比較対象者との関係で不合理な相違があるかどうかを判断すべきであるとも主張するが,比較対象者は客観的に定まるものであって,有期契約労働者側が選択できる性質のものではない。
正職員には配転の可能性があること,正職員には業務・責任が異なる者が混在していることは,被控訴人においては,正職員が法人全体のあらゆる部門における事務を担っているからにほかならない。被控訴人の正職員一人一人は,どの部署に配転されても一定の要求水準に見合った労務の提供をすることを期待されており,そのような要求水準に適う労務を提供することができるという合理的な期待があるからこそ,各労働者は正職員として採用され,正職員としての労働条件が適用されていると解することができる。正職員の労働条件が単一の就業規則をもって定められていることからすれば,教室事務員という一部署の正職員を比較対象とすることは適切ではない。正職員には配転可能性があること,正職員には業務・責任の異なる者がいることを理由に正職員全体を比較対象にできないというのは,正職員という無期契約労働者の基本的な就労実態から離れるものとなる。
控訴人の上記主張は採用することができない。
なお,教室事務員のA氏についてみると,認定事実のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第5の1(3)イ),正職員たる教室事務員の中で最も経験が浅いA氏であっても,平成27年4月1日現在で勤続19年と勤続年数が長いことが認められる。被控訴人の正職員には昇給制度があること,勤続年数の長さからは経験における違いも大きいものと推測されることからすれば,これらの点でも,A氏を適切な比較対象者ということはできない。

(2) 賃金(基本給)について

ア (1)のとおり,控訴人と労働条件を比較対照すべきは被控訴人の正職員全体とすべきである。しかし,賃金(基本給)についてみると,その対象者は,控訴人が平成25年1月29日に採用されたことからすると,被控訴人の正職員全体の中でも,これに近接した時期である同年4月1日付けで新規採用された正職員とするのが相当である。
認定事実のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第5の1(1)イ,(2)ア,(4)イ),①アルバイト職員は時給制であるのに対し,正職員は月給制であること,②控訴人の時給は950円(採用当初)であったが,平成25年4月新規採用の正職員の初任給は19万2570円であったことが認められる。
そして,別紙賃金比較表のとおり,控訴人の平成25年4月から平成26年3月までの賃金は,最低が13万9175円,最高が16万2451円であって,平均月額は14万9170円であった。もっとも,1か月に21日又は23日,フルタイム(1日7時間20分)で勤務すると,計算上,控訴人の月額賃金は,約15万円から16万円程度となる。
いずれにせよ,控訴人と平成25年4月新規採用の正職員との間には,2割程度の賃金格差がある。

イ アルバイト職員は時給制,正職員は月給制という労働条件の相違についてみると,どちらも賃金の定め方として一般に受け入れられているものである。
その上,認定事実によれば(引用に係る原判決「事実及び理由」第5の1(1)ア),アルバイト職員は短時間勤務者が約6割を占めていることが認められる。そのことを踏まえると,アルバイト職員に,短時間勤務者に適した時給制を採用していることは不合理とはいえない。

ウ 認定事実のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第5の1(1)イ及びウ,(3)ア),被控訴人の正職員は,法人全体のあらゆる業務に携わっており,その業務内容は総務,学務,病院事務等多岐にわたる上,例えば,法人の事業計画の立案・作成,法人の経営計画の管理・遂行,法人の組織及び職制の改善計画の立案等法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ,業務に伴う責任も大きく,また,あらゆる部署への異動の可能性があったこと,一方,アルバイト職員が行う事務は,教室事務員以外の者でみると,書類のコピーや製本,仕分け,パソコンの登録等の定型的な事務であり,教室事務員においても(これはアルバイト職員に限られないが),多くの教室では,所属する教授等のスケジュール管理・日程調整,各種事務,備品管理等の定型的で簡便な業務や雑務が大半であり,配置転換は例外的であったことを認めることができる。
控訴人は,被控訴人は教室事務員を正職員からアルバイト職員に置き換える過程にあったから,教室事務員に正職員しか行えない特別な業務は存在しなかった,教室事務員は,総務,人事,経理関係など多種多様な幅広い業務に従事しており,定型的で簡便な業務や雑務が大半というわけではなかった,アルバイト職員であっても正職員の教室事務員と異ならない頻度の異動があった旨主張する。
しかし,教室事務員のうち正職員として残っている4名の者が,教室事務員としての業務のほかに定型的かつ簡便とはいえない業務も担当していたことは,認定事実のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第5の1(3)イ)である。
一方,控訴人の担当した業務は,控訴人が後任のために作成した教室事務員としての業務の引継書(甲42)をみると,毎日することは,「各先生方の予定の把握,確認」「ポットの水を替える。」「コーヒーを沸かす。」「朝日教授のコーヒーを朝夕2回入れる。」「1階メールセンターに郵便物を取りに行く(できれば朝夕2回)」に尽き,一週間のうちすることも,「ゴミがいっぱいになっていたら捨てる。」「水曜日午後に声をかけて白衣を集めてクリーニングに出し,木曜日に先週のを取りに行く。」など,締日(毎月5日)までにすることも,「請求書がきたらどの研究費で支払うか確認後,購入伺を作成して研究協力課に提出(詳細は白いファイルに載っている)」「科研費のときは業者の納品書に研究協力課の検収印があるか確認」などといった程度である。これらは、何らの判断も伴わないか単純な判断のみの簡易な事務作業ばかりであると認められる。
また,アルバイト職員の異動は,認定事実のとおり(同第5の1(1)ウ),産休の代替要員として採用した者を産休取得者の復帰に伴い他部署に異動させた例,控訴人の後任として採用した2名のうち1名を人員過剰により他部署に異動させた例があるものの,いずれも個別的かつ具体的な事情によるものであって,例外的な取扱いといえる。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
そして,認定事実のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」の第5の1(1)アからウまで),被控訴人の正職員は,期間を定めず,部署を限定せずに採用し,かつ,多数の応募者の中から選定して採用するものであること,アルバイト職員は,期間を定め,特定の業務に限定し,正職員から業務指示を受けることを前提として募集及び採用をしていたことが認められる。このことからは,正職員は,将来にわたってどの部署にも適応し得る能力を有する者を選抜して採用しているのに対し,アルバイト職員は,定型的かつ簡便な作業を行う能力のある者を採用していたということができる。
このように,正職員とアルバイト職員とでは,実際の職務も,配転の可能性も,採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきである。被控訴人が,アルバイト職員から契約職員,契約職員から正職員へと登用される道を開く登用試験を実施していたことも(引用に係る原判決「事実及び理由」第5の1(1)エ),それぞれの職務及び採用に際し求められる能力が異なっていたことを示すものである。
さらに,認定事実のとおり(引用した原判決「事実及び理由」第5の1(4)イ),正職員には原則として勤務年数により昇給の道が開かれているのに対し,アルバイト職員には原則として職務の変更がない限り時給の変動がないと定められていることを併せ考慮すると,正職員の賃金は勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給的な賃金,アルバイト職員の賃金は特定の簡易な作業に対応した職務給的な賃金としての性格を有していたといえる。
以上のとおり,職務,責任,異動可能性,採用に際し求められる能力に大きな相違があること,賃金の性格も異なることを踏まえると,正職員とアルバイト職員で賃金水準に一定の相違が生ずることも不合理とはいえないというべきである。アでみるとおり,その相違は,約2割にとどまっていることからすると,そのような相違があることが不合理であるとは認めるに足りない。

(3) 賞与について

ア 認定事実のとおり(引用した原判決「事実及び理由」第5の1(4)イ),被控訴人においては,給与規則の中に定めはないものの,正職員に対しては,年2回の賞与が支払われており,一方,アルバイト職員に対しては,アルバイト職員就業内規で賞与は支給しないと定められている。
なお,有期契約労働者のうち契約職員には,正職員に対する賞与の約80%に当たる額の賞与が支払われている(甲12の1・2)。

イ 賞与は,月例賃金とは別に支給される一時金であり,労務の対価の後払い,功労報償,生活費の補助,労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものである。
そこで,被控訴人における賞与がどのような趣旨を有するものかをみるに,認定事実のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第5の1(1)イ(イ)及び(4)イ(イ)),明確な定めはないものの,正職員に対して支給されていた賞与は,旧来から通年で概ね基本給の4.6か月分(平成26年度は夏期につき2.1か月分+2万3000円,冬期につき2.5か月分+2万4000円)との額であったことが認められる。賞与の支給額は,正職員全員を対象とし,基本給にのみ連動するものであって,当該従業員の年齢や成績に連動するものではなく,被控訴人の業績にも一切連動していない。このような支給額の決定を踏まえると,被控訴人における賞与は,正職員として被控訴人に在籍していたということ,すなわち,賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有するものというほかない。そして,そこには,賞与算定期間における一律の功労の趣旨も含まれるとみるのが相当である。
被控訴人は,被控訴人には,正職員,嘱託職員,契約職員,アルバイト職員という契約形態があり,行う業務の内容,したがって,人材の代替性の程度が異なり,長期雇用への期待が契約形態に応じて段階的に相違することから,正職員や嘱託職員のほか,契約職員には一定の賞与を支給し,長期雇用の期待が乏しいアルバイト職員には全く賞与を支給していないと主張する。先にみた賞与の支給額の決定方法からは,支給額は正職員の年齢にも在職年数にも何ら連動していないのであるから,賞与の趣旨が長期雇用への期待,労働者の側からみれば,長期就労への誘因となるかは疑問な点がないではない。仮に,被控訴人の賞与にそのような趣旨があるとしても,長期雇用を必ずしも前提としない契約職員に正職員の約80%の賞与を支給していることからは,上記の趣旨は付随的なものというべきである。
また,被控訴人は,正職員は被控訴人の業績を左右するような貢献が想定されるのでその貢献によって変動する業績に応じて変動する賃金の後払いとして賞与を支給しているとも主張する。しかし,それでは,契約職員に正職員の約80%の賞与を支給していることについて合理的な説明をすることが困難である。賞与の支給額の決定方法からは,上記のような趣旨をうかがうことはできない。なお,被控訴人は,アルバイト職員には賞与でなく時給額で貢献への評価が尽くされるとも主張するが,具体的に時給額にどのように反映されているというのかは全く不明である。
よって,被控訴人の主張は採用することができない。

ウ イでみたとおり,被控訴人における賞与が,正職員として賞与算定期間に在籍し,就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する以上,同様に被控訴人に在籍し,就労していたアルバイト職員,とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し,額の多寡はあるにせよ,全く支給しないとすることには,合理的な理由を見出すことが困難であり,不合理というしかない
被控訴人は,アルバイト職員以外の有期契約労働者には適用がある労働条件を,期間の定めがあることと労働条件が相違していることの関連性の程度が低いものととらえ,アルバイト職員以外の有期契約労働者には適用があることをもって,アルバイト職員に適用がないことの不合理性を否定する方向の事情と主張する(第2の4(1))。しかし,賞与に関していえば,同じ有期契約労働者の契約職員に一定の支給があることは,アルバイト職員には全く支給がないことの不合理性を際立たせるものというべきである。

エ もっとも,被控訴人の賞与には,功労,付随的にせよ長期就労への誘因という趣旨が含まれ,先にみたとおり,不合理性の判断において使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。さらに,(2)ウでみたとおり,正職員とアルバイト職員とでは,実際の職務も採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきであるから,アルバイト職員の賞与算定期間における功労も相対的に低いことは否めない。これらのことからすれば,フルタイムのアルバイト職員とはいえ,その職員に対する賞与の額を正職員に対すると同額としなければ不合理であるとまではいうことができない
上記の観点及び被控訴人が契約職員に対し正職員の約80%の賞与を支払っていることからすれば,控訴人に対し,賃金同様,正職員全体のうち平成25年4月1日付けで採用された者と比較対照し,その者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきである。

(4) 年末年始や創立記念日の休日における賃金支給について

年末年始及び創立記念日の休日については,アルバイト職員は時給制であるため休日が増えればそれだけ賃金が減少するが,正職員は月給制であるため賃金が減額されるわけではないという違いが生ずる。
しかし,これは,賃金について一方は時給制,他方は月給制を採用したことの帰結にすぎず,(2)イのとおり,正職員に月給制,アルバイト職員に時給制を採用すること自体が不合理とはいえないから,このような相違が生ずることをもって不合理とはいえない。

(5) 年休の日数について

当裁判所も,年休の日数に1日の相違が生ずるとしても,これを.労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとはいうことができないと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」の第5の4(4)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(6) 夏期特別有給休暇について

ア 前提事実のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第2の2(4)ウ),被控訴人の正職員には夏期(7月1日から9月30日まで)に5日の夏期特別有給休暇が付与されるのに対し,アルバイト職員には付与されない。

イ わが国の蒸し暑い夏においては,その時期に職務に従事することは体力的に負担が大きく,休暇を付与し,心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められる。また,いわゆる旧盆の時期には,お盆の行事等で多くの国民が帰省し,子供が夏休みであることから家族旅行に出かけることも多いことは,公知の事実といえる。このため,官公署や企業が夏期の特別休暇制度を設けていることも,公知の事実である。
被控訴人における夏期特別有給休暇が,このような一般的な夏期特別休暇とその趣旨を異にするとうかがわせる事情はない。
被控訴人は,被控訴人の夏期特別有給休暇は,正職員において時間外労働が著増する繁忙期に備えて閑散期に十分な休息を与えようとするものであると主張する。しかし,被控訴人が当審で提出した乙40のグラフをみても,事務系正職員の繁忙期は,年末の12月と年度末の3月であると認められ,それも年によって変化があることが分かる。平成25年1月からの2年2か月分のグラフだけで,被控訴人の夏期特別有給休暇が上記のような趣旨であるとは認められない。12月の繁忙期のために7月に休暇を取るというのも不自然,不合理な話である。被控訴人の主張は採用することができない。
また,被控訴人は,正職員とアルバイト職員では勤務時間も責任も異なるから,夏期特別有給休暇を正職員にのみ付与することは不合理ではないとも主張する。
確かに,正職員は,長期にわたり継続してフルタイムで就労することが想定されており,時間外労働も相対的に長いことから(引用に係る原判決「事実及び理由」第5の1(1)イ(ウ)),1年に1度,夏期に5日間のまとまった有給休暇を付与することには意味がある。しかし,アルバイト職員であってもフルタイムで勤務している者は,職務の違いや多少の労働時間(時間外勤務を含む。)の相違はあるにせよ,夏期に相当程度の疲労を感ずるに至ることは想像に難くない。
そうであれば,少なくとも,控訴人のように年間を通してフルタイムで勤務しているアルバイト職員に対し,正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことは不合理であるというほかない。

(7) 私傷病による欠勤中の賃金及び休職給について

ア 前提事実のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第2の2(4)エ),被控訴人の正職員には,給与規則及び休職規程に基づいて,私傷病で欠勤した場合,6か月間は賃金が全額支払われ,6か月経過後は,休職が命ぜられた上で休職給として標準賃金の2割が支払われる。しかし,アルバイト職員には,アルバイト職員就業内規に上記のような補償はなく,(1)アのとおり,休職規程の適用がない。

イ 労働者が私傷病によって労務の提供をすることができない場合,使用者には賃金の支払義務がないのが原則である。被控訴人が私傷病によって労務を提供することができない状態の正職員に対して一定期間の賃金や休職給を支払う旨を定める趣旨は,正職員として長期にわたり継続して就労をしてきたことに対する評価又は将来にわたり継続して就労をすることに対する期待から,正職員の生活に対する保障を図る点にあると解される。
他方,アルバイト職員は,契約期間が最長でも1年間であるから,被控訴人において長期間継続した就労をすることが多いとも,そのような長期間継続した就労をすることに対する期待が高いともいい難い。正職員はその能力に鑑み代替性が乏しい反面,アルバイト職員は定型的かつ簡便な作業を担うため代替性が高いことも,そのような長期間継続した就労に対する評価又は期待に対して一定の影響を及ぼすことは否定し得ない。
しかし,アルバイト職員も契約期間の更新はされるので,その限度では一定期間の継続した就労もし得る。アルバイト職員であってもフルタイムで勤務し,一定の習熟をした者については,被控訴人の職務に対する貢献の度合いもそれなりに存するものといえ,一概に代替性が高いとはいい難い部分もあり得る。そのようなアルバイト職員には生活保障の必要性があることも否定し難いことからすると,アルバイト職員であるというだけで,一律に私傷病による欠勤中の賃金支給や休職給の支給を行わないことには,合理性があるとはいい難い。
被控訴人は,私傷病による欠勤中の賃金及び休職給は,被控訴人の業績を左右するような貢献をなし得る能力を有し,その長期的かつ大いなる発揮が期待される正職員及び嘱託職員の生活保障であると主張する。しかし,給与規則及び休職規程をみても,「被控訴人の業績を左右するような貢献をなし得る能力」「その長期的かつ大いなる発揮が期待される」ことというような要件はなく,正職員であれば,一律に給付がされるものと認められる。被控訴人が主張するところは,欠勤中の賃金及び休職給の支給を正職員のみに行うということを繰り返しているにすぎず,何ら相違があることの不合理性を否定する理由にはなっていない。被控訴人の上記主張は採用することができない。
先にみた事情を考慮すると,フルタイム勤務で契約期間を更新しているアルバイト職員に対して,私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないこと,休職給の支給を一切行わないことは不合理というべきである。

ウ もっとも,正職員とアルバイト職員の,長期間継続した就労を行うことの可能性,それに対する期待についての本来的な相違を考慮すると,被控訴人の正職員とアルバイト職員との間において,私傷病により就労をすることができない期間の賃金の支給や休職給の支給について一定の相違があること自体は,一概に不合理とまではいえない。
アルバイト職員の契約期間は更新があり得るとしても1年であるのが原則であり,当然に長期雇用が前提とされているわけではないことを勘案すると,私傷病による賃金支給につき1か月分,休職給の支給につき2か月分(合計3か月,雇用期間1年の4分の1)を下回る支給しかしないときは,正職員との労働条件の相違が不合理であるというべきである。これと同程度又はこれを上回るときは,不合理であると認めるに足りない。

(8) 附属病院の医療費補助措置について

当裁判所も,附属病院受診の際の医療費補助措置は,恩恵的な措置というべきであって,労働条件に含まれるとはいえず,正職員とアルバイト職員との間の相違は労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違とはいえないと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」の第5の4(7)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決44頁18行目の「同制度の」から20行目の「いるとしても」までを「同制度は,被控訴人との一定の関係を有する者に恩恵的に施されるものであって,労働契約の一部として何らかの対価として支出されるものではないというべきである。そして」に改める。
控訴人は,当審においても,附属病院の医療費補助措置は雇用契約の内容となっていると主張する。しかし,医療費補助措置の対象者が必ずしも労働契約の当事者のみに限られず,被控訴人の学生等広範な者が対象となっていることからすれば,これを労働契約の内容とみるのは困難といわざるを得ない。控訴人の主張は採用することができない。

5 争点4(被控訴人に不法行為法上の故意・過失があるか)について

確かに,労契法20条が施行された当初は,必ずしも解釈が定まっていなかった部分もあるものの,他方で,本件で不合理とされたような労働条件の相違が労契法20条違反ではないと明言している判例があったり,そのような学説が通説的であったわけではない。その中であえて被控訴人が本件で不合理とされたような労働条件の相違が労契法20条に違反しないと判断したことには過失があったというべきである。
被控訴人は,労契法20条が施行されるに際して,被控訴人における人事制度が同条に抵触しないか否か検討を行った上で,無期契約労働者の労働条件と有期契約労働者の労働条件の間に,期間の定めの有無による不合理な相違と評される点はないと判断したところ,その判断は合理的な根拠に基づいているものであるから,被控訴人に故意又は過失が認められないと主張する。
しかし,本件で不合理と判断された労働条件の相違については,被控訴人は合理的根拠を示すには至らなかったのであるから,被控訴人の主張は採用することができない。

6 争点5(損害の有無及びその額)について

(1) 4でみたとおり,本件において,賞与を支給しないこと,夏期特別有給休暇を付与しないこと,私傷病による欠勤中の賃金及び休職給を支給しないことは,控訴人の労働条件が,被控訴人の正職員全体と比較対照して,その相違が不合理であるというべきである。

(2) 前記のとおり(4(3)),被控訴人が控訴人に対し賞与を支給しないことは,正職員全体のうち平成25年4月1日付けで採用された者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない限度で労契法20条に違反する不合理な相違であると解される。
前記のとおり(4(3)),平成25年4月1日付けで採用された正職員の平成25年度及び平成26年度の賞与は,概ね基本給の4.6か月分(夏期2.1か月分,冬期2.5か月分)であり,別紙賃金比較表のとおり,平成25年度の夏期賞与は欠勤控除されて14万2207円(基本給月額19万2570円の約0.7か月分)である。
そうすると,平成25年4月1日付けで採用された正職員の平成25年度及び平成26年度の賞与の支給基準の60%となる基準を控訴人に当てはめると,次のとおりとなる。
すなわち,平成25年度については控訴人の平均月額賃金(時間外手当を除く。)である14万9170円の1.9か月分(0.7か月分+2.5か月分の合計3.2か月分の60%)である28万3423円,平成26年度については控訴人の平均月額賃金(時間外手当を除く。)である15万5677円の2.7か月分(4.6か月分の60%)である42万0327円(円未満切捨て)の合計70万3750円となる。
したがって,被控訴人が控訴人に対し労契法20条に違反する労働条件(賞与を支給しない)を適用したことによって控訴人が賞与相当額を喪失した損害額は,70万3750円となる。

(3) 前記のとおり(4(6)),被控訴人が控訴人に対し平成25年度及び平成26年度に各5日の夏期特別有給休暇を付与しなかったことは,労契法20条に違反する不合理な相違であると解される。
そうすると,控訴人は,平成25年度及び平成26年度に各5日の有給休暇を取得することができなかったことで,平均日額賃金の各5日分(平成25年度につき4904円×5日=2万4520円,平成26年度につき5127円×5日=2万5635円)の合計5万0110円の損害を被ったものと認められる。
したがって,被控訴人が控訴人に対し労契法20条に違反する労働条件(夏期特別有給休暇を付与しない)を適用したことによって控訴人が夏期特別有給休暇を享受することができなかった損害額は,5万0110円となる。

(4) 前記のとおり(4(7)),被控訴人が控訴人に対して私傷病で欠勤中に賃金を支給せず,休職給も支給しないことは,私傷病で欠勤中の賃金1か月分,休職給2か月分を下回る賃金及び休職給しか支給しない限度で労契法20条に違反する不合理な相違であると解される。
そうすると,控訴人は,欠勤直前の賃金(時給制で変動があるため,平成26年度の平均月額賃金(時間外手当を除く。)である15万5677円とする。)の1か月分15万5677円と,その休職給2か月分である6万2270円(15万5677円×0.2×2か月,円未満切捨て)の合計21万7947円の損害を被ったものと認められる。

(5) また,控訴人は,私傷病による欠勤中の賃金及び休職給を支給されていれば,その期間は私学共済の加入資格を保持することができたが,その支給がなかったので加入資格を喪失した旨主張する。
仮に欠勤中の賃金1か月分と休職給2か月分が支給されていたとすれば,欠勤中の賃金については欠勤当初である平成27年3月9日から同年4月8日までの1か月分が支払われていたはずであり,休職給については同年5月16日から同年7月15日までの2か月分が支払われていたはずである(同年4月9日から同年5月15日までは年休取得)。そして,控訴人は,同年5月16日をもって私学共済の資格を喪失したというのであるから,仮に上記のとおり私傷病による欠勤中の賃金と休職給が支給されていたら,同年7月15日までの2か月間は私学共済の資格を喪失せずに済んだものというべきである。
被控訴人は,私学共済の加入資格を失うことは法令等で定めている私学共済の加入資格の定め方によるものであり,労働条件の相違とは関係がないと主張する。
しかし,私学共済の加入資格そのものは労働条件ではないものの,控訴人が私学共済の加入資格を失ったことは,被控訴人が私傷病の期間に賃金を支給せず,休職給も支払わなかったことの帰結であるから,そのことにより追加して支払うことを余儀なくされた金員は,労契法20条違反の労働条件を適用した不法行為と相当因果関係のある損害と評価し得る。被控訴人の主張は採用することができない。
控訴人は,私学共済の資格喪失に伴い,健康保険の短期掛金(月額5677円)と介護保険の介護掛金(月額855円)が任意継続掛金(月額1万3042円)となって6510円増加し,厚生年金の長期掛金(月額1万0635円)が国民年金保険料(月額1万5590円)となって4955円増加した。控訴人は,上記の合計月額1万1465円の2か月分である2万2930円の損害を被ったものと認められる。
(4)と合わせると,被控訴人が控訴人に対し労契法20条違反の労働条件(私傷病による欠勤中に賃金を支給せず,休職給も支給しない)を適用したことによって被った損害額は,合計24万0877円となる。

(6) 控訴人は,被控訴人により不合理な取扱いを受け,精神的苦痛を被ったとして,慰謝料を請求する。
上記のとおり,労契法20条に違反する労働条件の適用によって被った損害は,上記の損害賠償金によって回復されることとなるので,控訴人は相当程度に慰謝されると解される。本件では,それでもなお慰謝されない精神的苦痛が残存するとは認めるに足りない。
したがって,控訴人の慰謝料請求は理由がない。

(7) 控訴人は,本件訴訟のために弁護士に委任することを余儀なくされたと認められるところ,その弁護士費用の相当額は,本件の事案に鑑み,(2),(3)及び(5)の合計額99万4737円の約1割である10万円と認められる。
以上の総合計額は,109万4737円となる。

第4 結論

以上のとおりであるから,控訴人は,被控訴人に対し,不法行為に基づき,損害賠償金109万4737円及びこれに対する平成28年4月29日(原審における請求の趣旨変更の申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。
よって,控訴人の請求は上記の限度で理由があるので,これと異なる原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第3民事部

江口 とし子,大藪 和男,森鍵 一