イクヌーザ事件(控訴審・東京高等裁判所平成30年10月4日判決)  

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固定残業代

月80時間の時間外労働に対する基本給組込型の固定残業代について,固定残業代の定めは時間外勤務に対する割増賃金とする旨の定めがあったものと認められるが,月80時間という労働者の健康を損なう危険のあるものであり,公序良俗に違反するものとして無効と判断した例

1 事案の概要

原告は,平成26年1月6日,アクセサリーや貴金属製品等の企画・製造・販売等を営む被告と雇用契約を締結し,平成27年5月31日に退職した。原告は,基本給に組み込まれていた月80時間の時間外労働に対する固定残業代が無効である等と主張し,被告に対し,時間外労働及び深夜労働に係る割増賃金並びにこれに対する遅延損害金,付加金の支払いを求めた。

2 イクヌーザ控訴事件判例のポイント

2.1 結論

月80時間の時間外労働に対する基本給組込型の固定残業代が無効と判断した。

2.2 理由

1 固定残業代の定めの有無について

固定残業代の有効要件(①明確区分性,②対価要件,③差額支払合意)について細かく述べることなく,賃金規程の記載,雇用契約書の記載,差額支払の実態などから,固定残業代の合意自体は存在したことを認定した。

2 固定残業代の定めの効力について

厚生労働省のいわゆる過労死基準(業務上の疾病として取り扱う脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準(平成22年5月7日付け基発0507第3号による改正後の厚生労働省平成13年12月12日付け基発第1063号))を引用し,「1か月当たり80時間程度の時間外労働が継続することは,脳血管疾患及び虚血性心疾患等の疾病を労働者に発症させる恐れがあるものというべきであり,このような長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定して,基本給のうちの一定額をその対価として定めることは,労働者の健康を損なう危険のあるものであって,大きな問題があるといわざるを得ない」と判示した。そして,「実際には,長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき,通常は,基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは,公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当である」と判断した。
本件では,「本件賃金規程は,基本給のうちの一定額(時間外月額)につき,これが所定労働時間を超えて勤務する見込時間に対する賃金である旨を定めているのであり,この規定ぶりからして,本件固定残業代の定めは,原告につき少なくとも月間80時間に近い時間外勤務を恒常的に行わせることを予定したものということができ」,「実際にも,本件雇用契約に係る14か月半の期間中に,原告の時間外労働時間数が80時間を超えた月は5か月,うち100時間を超える月が2か月あり,また,時間外労働時間数が1か月に100時間を超えるか,2か月間ないし6か月間のいずれかの期間にわたって,1か月当たり80時間を超える状況も少なからず生じていた」ことから,「本件固定残業代の定めは,労働者の健康を損なう危険のあるものであり,公序良俗に違反するものとして無効」であると判断した。

3 イクヌーザ控訴事件の関連情報

3.1判決情報

裁判長裁判官:菅野 雅之,裁判官:黒津 英明,裁判官:大澤知子

掲載誌:

3.2 関連裁判例

イクヌーザ事件(第1審・東京地方裁判所平成29年10月16日判決)
高知県観光事件(最高裁二小判平6.6.13 労判653号12頁)
テックジャパン事件(最高裁一昌判平24.3.8 労判1060号5頁)
国際自動車事件(最高裁三小判平29.2.28 労判1152号5頁)
医療法人Y事件(最高裁二小判平29.7.7 労判1168号49頁)
ザ・ウインザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高判平24.10.19 労判1064号37頁)
穂波事件(岐阜地判平27.10.22 労判1127号29頁)

3.3 参考記事

残業代は支払済みの給与に含まれているとの反論

4 イクヌーザ控訴事件の判例の具体的内容

→判決文の詳細はこちら

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