日本プレジデントクラブ事件

日本プレジデントクラブ事件(東京地方裁判所昭和63年4月27日判決)

管理監督者性が肯定された例

1 事案の概要

被告は旅行を目的とする会員制クラブの運営を業とする株式会社である。
原告は,昭和61年10月23日ころ,被告と試用期間を3ケ月,当面の賃金を月額金33万0400円とする旨の雇用契約を締結し,同年11月6日から就労したが,同年12月22日に被告を退社した。
本件は,原告が被告に対し,時間外割増賃金及び深夜割増賃金等の支払を求めた事案である。

2 判例のポイント

2.1 結論

原告は管理監督者に該当するとして,原告の請求を斥けた。

2.2 理由

① 勤務内容・責任・権限

原告の在職期間は1か月程度であった。
被告の社長は,組織全体の総務全般(人事経理関係)を処理できる者として,原告を面接して採用した。原告は,総務局次長として,経理,人事庶務全般にわたる事務を管掌することを委ねられていた。

② 勤務態様

在職した1か月間における原告の時間外労働は84時間50分,深夜労働は13時間10分であった。

③ 賃金等の待遇

原告は,年齢給15万0800円,職能給7万9600円,役職手当3万円,職務手当5万円,家族手当2万円の月額合計33万0400円を支給されていた。

3 判決情報

3.1 裁判官

裁判官:畔柳正義

3.2 掲載誌

労働判例517号18頁

4 主文

原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。

5 理由

事実

第1 当事者の求める裁判

1 請求の趣旨
⑴ 被告は,原告に対し金29万7619円及びこれに対する昭和61年12月26日から支払い済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
⑵ 訴訟費用は,被告の負担とする。
⑶ 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨

第2 当事者の主張

1 請求の原因

⑴ 被告は,旅行を目的とする会員制クラブの運営を業とする株式会社である。
⑵ 原告は,昭和61年10月23日ころ,被告と試用期間を3ケ月,当面の賃金を月額金33万0400円とする旨の雇用契約(但し,賃金をきめたのは同月8日ころである。)を締結し,同年11月6日から就労したが,同年12月22日に至って被告を退社した。
⑶ 被告においては,昭和61年11月21日から同年12月20日までの賃金を同月25日に支払うことになっていた。
⑷ 原告は,右⑶の期間中に,休日出勤4日,時間外労働84時間50分,深夜労働13時間10分を行ったので,労働基準法第37条,同法施行規則第19条,同法第20条によって,割増賃金の額を計算すると,別紙のとおり合計金29万7619円になる。
⑸ よって,原告は,被告に対し右未払い賃金29万7619円及びこれに対する賃金の支払い期日の翌日である昭和61年12月26日から支払い済みに至るまで商事法定利率の年6分の割合による金員の支払いを求める。

2 請求の原因に対する認否

⑴ 請求原因⑴乃至⑶項の事実を認める。
⑵ 同⑷項の事実を否認する。
⑶ 同⑸項を争う。

3 仮定抗弁

被告は,原告を原告の主張する雇用契約において被告の総務,経理,人事,及び財務各部門の責任者である総務局次長として雇用している。即ち,原告は,被告において労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり,出社退社等について厳格な制限を受けず,その地位に相応した職務手当及び役職手当を受けていたものであって,労働基準法第14条第2号の監督もしくは管理の地位にあったものである。因みに,原告に対する給与33万0400円の内訳は,基本給の内,年令給が金15万0800円,職能給が7万9600円,諸手当の内,役職手当が金3万円,職務手当が金5万円,家族手当が金2万円である。
よって,仮に原告がその主張のとおりの休日出勤及び時間外労働深夜労働をしたとしても,原告は,賃金請求権を有しない。

4 仮定抗弁に対する認否

仮定抗弁事実を総て否認する。原告は被告代表者から賃金の額と当初の3カ月が試用期間になる旨告げられたのみで,役職等は何ら決定していなかったのである。

第3 証拠(略)

理由

1 請求原因⑴乃至⑶項の事実については,当事者間に争いがない。
(証拠略)によると,原告は昭和61年11月21日から同年12月20日までの間に休日出勤4日,時間外労働84時間50分,深夜労働13時間10分を行っていることが認められる。

2 (証拠略)前掲原告本人(但し,後記措信しない部分を除く。)及び被告代表者の各供述によると,被告代表者の臼井は,かねてから被告の人事,経理関係等のいわゆる総務全般を同人に代わって処理できる人物を社員として採用したいと考え,顧問の村上公認会計士に適当な候補者の紹介を依頼していたところ,同人が原告を紹介してきたので面接の上即決して採用したこと,臼井が原告を採用した直後の契機は,当時,緊要であった被告の9月期の決算を早急に完了させるためであり,この点で,昭和28年専修大学経済学部卒業後会社こそ転々としていたけれど,その間一貫して経理事務に従事してきた原告を適任者と見なしたからであるが,原告の職務がそれに尽きるものではなく,即ち,被告には1年間の売上げが約13億円弱あり,組織として,総務局,旅行事業局,出版事業局,管理室を置いているものの,当時の被告の人員は社員が併せて4,5名で,他に常時雇用されている数名のアルバイトがいる程度であるところから,臼井は原告に対して経理のみならず人事,庶務全般に及び事務を管掌することを委ねたこと,そのため,被告は,原告を総務局次長として任用し,基本給として年令給15万0800円,職能給7万9600円を,この他に手当として,役職手当3万円,職務手当5万円,家族手当2万円を支給していたこと,そして,被告の就業規則には,役職手当の受給者に対しては時間外労働手当を支給しない旨の規定があること,以上の事実が認められ,原告本人の供述中には,原告は臼井から面接のときに,試用期間が3カ月で当分の間の給与を33万0400円とすることを告げられたに過ぎず,役職等は決まっていなかったとする部分があるが,前掲各証拠に照らすと措信できない。
右に認定した事実によると,被告において原告は労働基準法41条2号の監督若しくは管理の地位にある者に該当していたというべきであるから,同法37条の時間外,休日及び深夜労働の割増賃金に関する規定が同法14条本文によって原告に対し適用にならないことは明らかである。
しこうして,監督若しくは管理の地位にある者の時間外労働等について割増賃金を支給するか否かは専ら就業規則の定めによると解せられるところ,就業規則によると原告に対しては時間外手当を支給しないことになっているのであるから,原告の割増賃金の請求はその根拠を欠くといわねばならない。

3 以上のとおりとすると,原告の請求はその余について判断するまでもなく理由のないことが明らかであるから,これを棄却することにし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

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