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労働判例INDEX(2022年3月)

2022年3月に公刊された判例雑誌(労判、判タ、労経速、判時、労判ジャーナル)から労働裁判例の目次を整理しました。

労働判例 2022年3月1日号 No.1256

広島精研工業事件

広島地裁(令和3年8月30日)判決

課長に対する降格および手当減額等の有効性(降格は無効,役付手当の減額も無効,能率手当の減額は有効)

人材派遣業A社ほか事件

札幌地裁(令和3年6月23日)判決

支店長に対するセクハラ・パワハラの有無および使用者責任(セクハラ・パワハラあり,使用者責任あり)

大和自動車王子労働組合事件

東京地裁(令和3年5月31日)判決

組合による除名処分および解雇要求の文書掲示等に対する慰謝料等請求(請求一部認容)

医療法人社団悠翔会事件

東京地裁(令和3年3月31日)判決

有期雇用契約に変更のあった医師の雇止めの有効性(雇止めは有効)

清流出版事件

東京地裁(令和3年2月26日)判決

就業規則違反等による解雇の有効性ならびに配転等の不法行為該当性(解雇は無効,配転の不法行為該当性なし)

学校法人河合塾事件

中労委(令和3年2月17日)命令

組合員A1との平成24年度出講契約を非締結とした法人の対応が不当労働行為に当たらないとした初審命令が維持された例

公益社団法人日本空手協会事件

中労委(令和2年11月4日)命令

雇用する本部指導員の組合執行委員長を協会が懲戒解雇したことを不当労働行為とした初審命令が取り消された例

労働判例 2022年3月15日号 No.1257

社会福祉法人希望の丘事件

広島地裁(令和3年11月30日)判決

就業規則記載の要件による昇格・昇級の成否(職務内容から昇格請求権を認め,過去分の給与差額請求を一部認容)

大器キャリアキャスティングほか1社事件

大阪地裁(令和3年10月28日)判決

複数会社就労者の雇止め・長時間労働等の違法性(雇止めは適法,長時間労働等も適法)

ロバート・ウォルターズ・ジャパン事件

東京地裁(令和3年9月28日)判決

コロナ禍で在宅勤務を希望した派遣社員の雇止め(雇止めは有効)

ノキアソリューションズ&ネットワークス事件

東京地裁(平成31年2月27日)判決

能力不足による普通解雇の有効性(解雇は無効)

判例タイムズ 1493号 4月号(2022年3月25日発売)

東京地裁(令和元年12月26日)判決

1 ソフトウェア開発会社におけるプログラマーの会社に対するソースコード提出義務の有無につき判断した事例
2 前記義務の不履行による損害額の認定について民事訴訟法248条を適用した事例
3 前記義務の不履行等を理由とする懲戒解雇が無効とされる一方,雇止めが有効とされた事例

労働経済判例速報(3/10)2471号

大器キャリアキャスティング・ENEOSジェネレーションズ事件

大阪地裁(令和3年10月28日)判決

自発的な兼業による長時間労働等について安全配慮義務違反が否定された例

【事案の概要】

労働者は24時間営業のセルフ形式の給油所で深夜早朝の時間帯で被告A社 との有期雇用契約に基づき就労するほか、被告B社 とも有期労働契約を締結して週1,2日、深夜早朝時間以外の時間帯に兼業をしていました。ところが、兼業による長時間労働(兼業により休日が全くなく、通算した労働時間数は欠勤前4カ月以降、1カ月当たり約270時間になる月が連続していた)が原因で精神障害を発症した。労基署はA社の業務により精神障害が発症したことを認め労災給付を決定した。その後、労働者はA社及びB社は、原告である労働者の連続かつ長時間労働を把握又は把握しえたとして、原告の労働時間を軽減すべき安全配盧義務があるにも関わらず、これを怠り、原告に精神疾患を発症させたとして損害賠償請求等をした。

【結論】

A社及びB社の安全配慮義務・不法行為責任はなし、請求棄却

【理由】

A社に関して

  • A社での対応業務が多くないこと、短時間で済む簡単な業務であり、労働密度は相当薄く負担の大きい就労とはいえないこと
  • 原告は自ら積極的に同僚等に働きかけて自己の労働時間数を増加させ、連続勤務も積極的に希望して休日に就労日を設けて開始・継続しており、連続かつ長時間労働は、原告の積極的な選択の結果生じたこと
  • A社は、B社における原告の労働日数を減少させることができる立場にはないこと
  • A社はB社での兼業を認識した後、原告に連続かつ長時間労働は労基法上問題があること、体調を考慮して休むことを指摘し、さらに運営会社での就労を止める約束を取り付けていること

などからA社の安全配盧義務違反・不法行為責任は認められないとした。

B社に関して

  • 原告の長時間労働が原告の積極的な選択の結果生じたものであること、
  • 原告の他店舗の労働日数及び労働時間を運営会社が認識していたとは認められないこと

などから労働契約上の安全配盧義務違反・不法行為責任は認められないと判示した。

弁護士吉村雄二郎
労働契約法5条は、使用者の安全配慮義務を定めています。副業・兼業の場合には、副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者が安全配盧義務を負います。副業・兼業に関して問題となり得る場合としては、使用者が、労働者全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何らの配盧をしないまま、労働者の健康に支障が生ずるに至った場合等が考えられます。このため、副業・兼業の開始後に、副業・兼業の状況について労働者からの報告等により把握し、労働者の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置(例えば、副業・兼業の抑制、禁止や許可取り消し等)を講じること等が考えられます(厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」6頁、令和2年9月改定)。労働者が自発的に行っていた長時間労働を容易に、知ることができたのに、労働時間を減らす措置をとらなかった使用者には健康配慮義務違反が認められるとした裁判例(オーク建設(ホームテック)事件、広島高裁松江支判平21.6.5労判990.100)もありますので注意が必要です

 

労働経済判例速報(3/20・30)2472号

A学園事件

徳島地裁(令和3年10月25日)判決

1年の有期雇用契約を相当回数更新してきた職員への5年の更新上限規定に基づく雇止めが無効とされた例

平成18年に契約期間1年の時間雇用職員として雇用され、その後合計11回の契約更新をした労働者について、使用者が平成25年4月以降の契約更新は通算5年を超えることができないとする更新上限規定を根拠に平成30年4月以降の契約更新を拒絶(雇止め)した事案です。労働者は原告として使用者を被告として、雇止めの無効等を求めるとともに労働契約法18条1項に基づく無期転換権を行使しました。

【争点1:契約更新に対する合理的期待の発生・継続の有無】

使用者が雇用契約の途中に導入した更新上限規定によって契約更新の合理的期待が消滅したか否かが問題となりました。裁判所は、更新上限規定が設けられた平成25年3月の時点で労契法19条2号所定の更新期待の合理的理由が存在したと認定しました。その上で、被告理事会が平成25年3月に更新上限規定を通算5年と定める決定をし、平成25年度以降の雇入通知書に更新上限規定の適用が示され、同29年度の雇入通知書に不更新条項が付されたとしても、平成30年4月以降の契約更新の合理的期待は消滅していないと判断しました。なお、更新上限規定や不更新条項について原告労働者は同意していませんでした。

【争点2:雇止めの合理性・社会的相当性の有無】

裁判所は「相当回数にわたって契約更新されて今後の更新に対する合理的な期待が既に生じていた時間雇用職員の取扱いに関して具体的に検討された形跡はない」、「平成25年当時、被告との間で長期間にわたり有期労働契約を更新し続けてきた原告との関係では、有期労勵契約から無期労働契約への転換の機会を奪うものであって、労契法18条の趣旨・目的を潜脱する目的があったと評価されてもやむを得ず、このような本件上限規定を根拠とする本件雇止めに、客観的に合理的な理由があるとは認め難く、社会通念上の相当性を欠く」と判断をしました。

弁護士吉村雄二郎
更新上限規定や不更新条項を適用したい場合は、契約当初から設定する必要があります。契約当初にこれらを設けておらず、途中で当該規定を追加する場合は、社内規程や通知書等に規定を追加するこだけではなく、これに加えて、当該規定を設ける理由を労働者側への説明し、同意・承諾の取得をすること等の対応が重要になります。

学校法人河合塾事件

東京地裁(令和3年8月5日)判決

契約更新に際し,次年度の講座担当コマ数減の提示を拒否した予備校講師の雇止めが有効とされた例

契約更新に際して、次年度の講座担当コマ数減(8コマ→6コマ)の提示をし、この提示内容にて契約する場合には、3月10日までに文書に記名捺印して返送するよう依頼するとともに、この提示内容に合意できない場合や上記期限までに返信がない場合は、原告に承諾の意思がないものと扱い、被告は契約締結の申込みを撤回し、3月31日をもって契約関係を終了させる旨通知した。原告は、平成29年3月7日付けで、被告に本件コマ数減の提示には同意できないとし、労働契約法19条に基づき従前と同じ労働条件による契約の更新を申し込む旨の通知を送付したが、被告は承諾せず、出講契約は不成立となった。8コマからコマ数減の提示をされる可能性を前提としつつ、少なくとも講座を複数担当する内容の出講契約を同29年度においても締結し、本件出講契約を更新できると期待する限度で合理的な理由があるというべきであり、労契法19条2号に該当する。

更新に際して使用者が従前とは異なる労働条件を提示し、労働者が同条件に合意しないことを理由として使用者が更新を拒絶する雇止めにおいては、労契法19条柱耆後段の該当性は、使用者が提示した当該労働条件の客観的合理性及び社会的相当性を中心的に検討すべきである。具体的な判断に当たっては、従前の労働条件と同一の労働条件で労働契約が更新されたものとみなされるという法的効果を踏まえ、使用者が従来の労働条件を維持することなく新たに提示した労働条件が合理的であることを基礎付ける理由の有無及び内容、使用者が提示する労働条件の変更が当該労働者に与える不利益の程度、同種の有期契約労働者における更新等の状況、当該労働条件提示に係る具体的な経緯等の諸般の事情を総合考慮し、使用者が提示した当該労働条件の客観的合理性及び社会的相当性を中核として労契法19条柱害後段該当性を判断すべきである。

被告が行った本件コマ数減の提示は、客観的合理性及び社会的相当性があるといえるから、被告が原告の同一労働条件による本件出講契約更新の申込みを拒絶したことは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合に当たらない。したがって、被告による雇止めは有効である。

判例時報 No.2505 2022年3月1日号

東京高裁(令和3年1月21日)判決〈参考原審:横浜地裁(令和2年3月27日)判決〉

会社従業員の過労死について会社の債務不履行責任に加えて一部の取締役の会社法429条1項所定の責任が認められる一方,5割の過失相殺の類推適用が認められた事例

労働判例ジャーナル 120号(2022年・3月)

日本オラクル事件

東京地裁(令和3年11月12日)判決

即戦力社員の試用期間満了後の本採用拒否の有効性(本採用拒否は有効)

NHKサービスセンター事件

横浜地裁川崎支部(令和3年11月30日)判決

退職後の継続雇用拒否無効地位確認等請求(継続雇用拒否は有効)

大器キャリアキャスティングほか1社事件

大阪地裁(令和3年10月28日)判決

雇止め無効地位確認等請求(雇止めは有効)

学校法人梅光学院事件

山口地裁下関支部(令和3年10月26日)判決

就業規則の不利益変更無効未払賃金等支払請求(不利益変更は無効,請求認容)

日本コーキ事件

東京地裁(令和3年10月20日)判決

試用期間中の解雇の有効性(解雇は有効)

Unity事件

大阪地裁(令和3年10月15日)判決

引抜行為等に基づく損害賠償等請求(請求棄却)

国・八王子労基署長事件

東京地裁(令和3年10月14日)判決

自死した亡労働者の精神疾患発症の業務起因性(業務起因性なし)

学校法人順正学園事件

宮崎地裁(令和3年10月13日)判決

セクハラ行為に基づく教授らに対する損害賠償等請求(請求一部認容)

国・藤沢労基署長事件

東京地裁(令和3年10月7日)判決

精神障害発病の業務起因性(業務起因性なし)

神戸市・代表者交通事業管理者事件

神戸地裁(令和3年9月30日)判決

上司のパワハラに基づく損害賠償等請求(請求一部認容)

アボットジャパン事件

東京地裁(令和3年9月29日)判決

配転命令無効と地位確認等請求(配転命令は有効,請求却下)

エヌアイケイ事件

大阪地裁(令和3年9月29日)判決

就労意思喪失と解雇無効地位確認等請求(解雇は無効だが,解雇後個人事業を開始し就労意思の喪失を認定)

ロバート・ウォルターズ・ジャパン事件

東京地裁(令和3年9月28日)判決

違法雇止め等に基づく損害賠償等請求(雇止めは適法,請求棄却)

川崎市・川崎市人事委員会事件

横浜地裁(令和3年9月27日)判決

市事務職員らの給与不均衡是正措置要求棄却判定取消請求(請求認容)

産業と経済・やまびこ投資顧問事件

東京地裁(令和3年9月24日)判決

就業状況不良等を理由とする解雇の有効性(解雇は有効)

東京税務協会事件

東京地裁(令和3年9月16日)判決

退職意思表示撤回に基づく未払賃金等支払請求(退職意思表示撤回は無効,請求棄却)

メイト事件

東京地裁(令和3年9月7日)判決

賃金減額の合意と無効差額賃金等支払請求(賃金減額の合意は無効,請求認容)

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