AQソリューションズ・ハンプティ商会事件

AQS・ハンプティ商会事件(東京地裁R2.6.11)

偽装請負関係にあると評価されたが、「法を免れる目的」がないとして、労働契約申込みみなしの適用は否定された例

1 事案の概要

2017年7月7日 CT社は、AQ社へシステム開発の業務委託基本契約書を締結した。契約内容として、再委託禁止、受託業務の従業員選定についてはCTの承諾が必要、被告CT,被告AQ間には労働者派遣法に規定される派遣先と派遣元としてのいかなる関係も存在しない旨の確認,受託業務の履行は現場責任者をそれぞれ定め,要請,指示等の連絡は現場責任者を通じて行うことなどが定められた。

2017年9月20日 CT社の担当者(P4、外部業者への委託権限あり)、AQ社代表者、Xが事前面談。Xのスキル等が確認された。翌21日、CT社からAQ社へXのSEとする前提で本件システム開発業務を発注する旨連絡がある。同日、AQ社代表者はXにもチャットを通じて9月26日からの作業開始、報酬月額60万円、清算不要作業時間を月151~185時間とする旨の連絡をした。

2017年9月21日 AQ社はXとの間で、業務請負の基本契約書を締結した。同月25日付で、AQ社はXに対して、作業内容、作業期間,作業場所、単価等を記載した発注書を発行した。なお、その後も10月、11月、12月の月初から月末まで作業期間を記載された同内容の発注書が発行された。

2017年9月26日~同年12月8日まで、XはCT社の事業所において,本件システム開発業務等に従事した。

2017年12月8日,AQ社はXに対し,同日をもってAQ・X間の本件基本契約書に係る契約及び同契約に基づいて締結した個別契約を解除する旨の意思表示をした。

2018年9月11日 XはCT社に対して、偽装請負による労働契約申込みみなしに対して承諾する旨の意思表示をした。

2 判例のポイント

2.1 主な争点

  1. AQ社とXとの間の契約は雇用か請負か
  2. AQ社とCT社との間の契約は、業務請負か労働者派遣契約か
  3. CT社には派遣法第40条の6第1項5号の「偽装請負等の目的」があったか

2.2 結論

  1. AQ社とXとの間の契約は、雇用契約
  2. AQ社とCT社との間の契約は、労働者派遣契約
  3. CT社には派遣法第40条の6第1項5号の「偽装請負等の目的」は、認められない

2.3 理由

① AQ社とXとの間の契約は雇用か請負か

XはCT社の社員の指示に従って業務を行うことが求められ、実際にもそれに従って業務に従事しており、〔1〕業務の依頼(指示)を断る自由があったとは認められない。また,Xは,平成29年9月26日から同年11月30日まで,CTの求めに応じて,CTの社員に対し,作業スケジュール表や会議において,作業の内容及び進行状況について毎日報告し,確認を受けており,成果物もCTの社員による検査を受けて対応を行う等,〔2〕業務遂行において,CTの社員を通じたAQによる指揮監督を受けていた。作業場所はCTの事業所内と指定され,作業時間も指定され(1箇月あたり151時間から185時間)、Xは,作業時間をAQに報告することを要求されたほか,就労時間についてCTの社員から了承を得ており,休日勤務もCTの社員との会議で確認されるなどしていたことから〔3〕Xは,時間的,場所的拘束を受けていたといえる。AQとCTとの契約ではXがSEとして作業することが前提となっており,Xが第三者に作業を代替させたり,補助者を使ったりすることは想定されておらず〔4〕代替性はなかった。AQは,原告の作業時間を管理・把握しており,報酬は,月額60万円,作業時間が所定を下回る場合には控除し,上回る場合には加算することとなっており〔5〕報酬の支払計算方法は,ほぼ作業時間に応じて決まっていたといえ,作業時間と報酬には強い関連性があったといえる。また,〔6〕原告は開発のためのコンピューター,ソフトウェア等の機械・器具を有する者ではなく,報酬は月60万円であり,著しく高いとはいえず,また,Wの経営に関わっていることを自認しているが,同社の役員ではなく,事業者性が高いとはいえない。〔7〕原告は,被告AQの仕事以外に就くことは禁止されていないが,1日の作業時間によれば事実上専属の状態であった。以上の(1)から(7)を総合考慮すると、原告は,被告AQに使用されて労働し,労働の対償としての賃金を支払われる者といえるから,被告AQと原告との契約は,形式上は業務委託契約の体裁を取っているものの,実質的には,被告AQが原告を月額60万円(月末締め翌月末日払)で雇用する労働契約であった。

② AQ社とCT社との間の契約は、業務請負か労働者派遣契約か

「少なくとも平成29年9月26日から11月30日までは,原告が分担する業務については,被告CTの社員が,スケジュール表(WBC)や会議等で指示することで,その内容を決定し,原告にスケジュール表及び会議で毎日その進捗状況を報告させ,成果物も検査していたこと,前記の期間中,被告AQ代表者は,前記会議に参加したことはなく,被告CTや原告から,原告の作業内容,進捗状況及び成果物の検査結果を伝達されたことはなく,報告された原告の作業内容に関心を払っていなかったことが認められるから(1(5)ウエ),被告AQは,原告の業務の遂行方法に関する指示その他の管理及び業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行っていたとはいえない(区分基準告示の2条1号イ(1)(2))。

また,原告に対し,始業及び終業の時刻を作業実績報告書により報告させてこれを点検し,外出を了承し,作業時間の延長,休日出勤を確認していたのは被告CTの社員であり,被告AQ代表者は,被告CTを介することなく原告の作業時間を把握・管理したことはなかったから(1(5)ウ),被告AQが原告の労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行っていたとはいえない(同2条1号ロ(1)(2))。

また,原告の開発作業に必要なコンピューター,サーバー及び開発ソフトを提供したのは被告CTであって,被告AQは提供しておらず(1(5)イ),被告AQは,自己の責任と負担で準備し,調達した設備等で業務を処理することはなかった(同2条2号ハ(1))。かつ,被告AQ代表者は,平成29年9月26日から11月30日まで,原告の成果物について確認しておらず(丙36には,同年12月1日以降に,原告の成果物を見て,問題があると認識した旨が記載されている。),原告から原告がリーダー役をやっているのか聞き出そうとしたり,作業展開が順調なのか聞き出そうとしたりするなど,原告の業務内容や進行状況を把握していなかったことが認められ(1(5)ウないしエ),被告AQは,自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて業務を処理していたともいえない(同2条2号ハ(2))。

エ そうすると,被告AQは,原告の労働力を自ら直接利用していたともいえず(同2条1号本文),かつ,業務を自己の業務として契約の相手方である被告CTから独立して処理していたということもできない(同2条2号本文)。

したがって,被告AQは,労働者派遣事業を行う事業主といえ,原告は被告CTの指揮命令下に置かれ,被告CTのために労働に従事していたと認めるのが相当である。」

被告AQと原告との契約は,実態としては,被告AQが原告を月額60万円(月末締め翌月末日払)で雇用したものと認められ,その雇用関係の下,被告CTの指揮命令を受けて,被告CTのために原告を労働に従事させるという労働者派遣の労働契約であったと認められる」

③ CT社には派遣法第40条の6第1項5号の「偽装請負等の目的」があったか

「(1)労働者派遣法40条の6第1項5号が,同号の成立に,派遣先(発注者)において労働者派遣法等の規定の適用を「免れる目的」があることを要することとしたのは,同項の違反行為のうち,同項5号の違反に関しては,派遣先において,区分基準告示の解釈が困難である場合があり,客観的に違反行為があるというだけでは,派遣先にその責めを負わせることが公平を欠く場合があるからであると解されるそうすると,労働者派遣の役務提供を受けていること,すなわち,自らの指揮命令により役務の提供を受けていることや,労働者派遣以外の形式で契約をしていることから,派遣先において直ちに同項5号の「免れる目的」があることを推認することはできないと考えられる。また,同項5号の「免れる目的」は,派遣先が法人である場合には法人の代表者,又は,法人から契約締結権限を授権されている者の認識として,これがあると認められることが必要である。

(2)被告CTと被告AQとの契約においては,被告CTの担当者であったP4が,被告AQ等の業務委託先との間で業務委託契約を締結するか否か決定する権限を有していたから(1(3)ア),P4において「免れる目的」があったかを検討すべきである。

(3)P4は,被告AQ代表者を介することなく,原告に対して直接,業務を依頼し報告を求めた理由について,「被告AQ代表者から,原告が被告AQの責任者であるため,原告に直接伝えてほしいと言われたからである。原告は被告AQに雇用されていると思っていた。」旨証言し,週に1~4回会議を開く等して作業の進捗状況の報告を求めた理由については,「納期が切羽詰まった状況下で,1日の遅れも致命的となってしまうため,問題が発生していないかを毎日確認する必要があった。」旨証言するところ,前者は,P4との面接時に被告AQ代表者が原告に同道して原告を紹介したことや(1(3)ア),原告自身が,P7やP12を被告AQの者としてP4に紹介していたこと(1(6)アイ)から不合理ではないし,後者も,作業の進捗状況の確認や成果物の確認がされるようになった時期が,TCC向けカスタマイズ業務の遅延が顕著となり増員が検討された時期と符合することから(1(6)),不合理とはいえない。
また,原告が従事していた業務は,TCC向けカスタマイズ業務のバッチプログラムの詳細設計,開発(実装)及び単体テストであったところ(1(5)オ),システム開発の過程では,これらの業務は細分化して外注できる業務とされていること(1(1)イ),原告は,基本設計に関する業務を一部担当したこともあったが,それは,基本設計が一部未完成であったため,詳細設計の際に要件定義を参照しつつ仮の作業として進めたとか,顧客の要望により要件定義及び基本設計が変更になった際,基本設計のダブルチェックを行ったというにとどまり(1(5)オ),詳細設計に付随する業務といえるものであること,被告CTが顧客であるTCCとの打合せに原告を同席させることはなかったこと(1(5)キ)から,被告CTが,原告に対し,被告AQへの委託業務であるか否かに意を払うことなく,様々な業務を担当させていたとは認め難いそして,作業者に対する指揮命令と業務委託・請負における注文者の指図との区別は困難な場合があること,被告CTは,過去に労働基準監督署ないし労働局から個別の指導を受けたこともなかったこと(1(7))を踏まえると,P4において,「免れる目的」があったと認めるには無理がある

(4)原告は,「CT・AQ間の本件基本契約書には,一切の指揮命令は被告AQ社が行うこと,被告らの間には労働者派遣関係がないことが記載されており,被告CTは,作業者に自らが指揮命令を行えば,労働者派遣関係に立つことを認識していたといえる。」旨主張し,CT・AQ間の基本契約書には原告の主張どおりの記載がある(1(2)イ)。しかし,同記載は,被告CTによる作業者への指揮命令があれば労働者派遣の役務提供となるという一般的な理解を示すものであり,被告CT代表者やP4において,作業者に対する指揮命令と業務委託・請負における注文者の指図との区別を適切に判断できていたことを示すものではないから,この記載をもって「免れる目的」があるとはいえない。
また,被告CT及びP4が,業務を発注する前に,原告ら外部の開発作業者との面接を常々行っていた事実は認められる(1(3)ア,(6)アイ,証人P4)。しかし,被告CT代表者及びP4において,面接した開発作業者により当初から労働者派遣の役務の提供を受ける意図を有していたとは認められないから,これが労働者派遣法の禁止行為に当たるとは必ずしもいえない。また,システム開発には技能が必要であるため,発注に当たり,発注先が当該システム開発のため必要な技能を持っているか判断する一助として,発注先の開発作業者と面接を行う場合もあると考えられるから,面接を行ったという事実をもって,業務委託や請負ではないということはできず,「免れる目的」があるとまではいえない。
また,被告CTが,作業者に対し,本件確認書(機密保持契約書)の作成提出を求めていたことは(乙14),顧客や被告CTの秘密保持のためであり,業務委託や請負であっても,そのような文書の作成を求めることは不合理ではない。作業実績報告書(甲6,10)により原告や他の作業者の作業時間を記録していたことは,作業時間により委託者に支払う報酬が増減する契約であり(1(4)ア),そのような契約であることと業務委託であることとは必ずしも矛盾せず,不合理とはいえない。
したがって,原告の主張するところを検討しても,被告CT代表者ないしP4において,労働者派遣法の規制を免れる目的があったということはできない。

(5)以上から,被告CT代表者やP4において「免れる目的」があったとは認められない。」

3 判決情報

3.1 裁判官

裁判長裁判官:伊藤由紀子
裁判官:裁判官藤倉徹也,裁判官久屋愛理

3.2 掲載誌

労働経済判例速報2431号18頁
労働判例1233号26頁

判決主文

1 被告AQS株式会社は,原告に対し,60万円及びこれに対する平成30年2月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
2 被告AQS株式会社は,原告に対し,8万円及びこれに対する平成29年12月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 原告の被告AQS株式会社に対するその余の請求及び被告株式会社ハンプテイ商会に対する請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告に生じた費用の23分の1と被告AQS株式会社に生じた費用の23分の1を被告AQS株式会社の負担とし,原告及び被告AQS株式会社に生じたその余の費用並びに被告株式会社ハンプテイ商会に生じた費用の全部を原告の負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

判決理由

第1 請求

1 被告らは,原告に対し,連帯して,553万3545円及び540万円に対する平成30年10月30日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告に対し,連帯して,平成30年10月31日から令和元年12月31日まで毎月末日限り60万円(ただし,令和元年12月末日は12万円)及び同各金員に対する支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
3 被告らは,原告に対し,連帯して,200万円及びこれに対する平成29年12月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の概要

本件は,被告AQS株式会社(以下「被告AQ」という。)からソフトウェア開発業務の委託を受ける旨の契約書に基づき,被告株式会社ハンプテイ商会(令和2年3月26日変更前の商号は株式会社クラステクノロジー。以下「被告CT」という。)の事業所で,前記業務に従事していた原告が,被告AQと原告の契約の実態は,被告AQが原告を雇用し,その雇用関係の下に,被告CTの指揮命令を受けて,被告CTのために労働に従事させる労働者派遣契約であり,また,被告らによる契約期間の途中の解除は無効であると主張して,(1)被告AQに対しては,平成29年12月から平成30年8月までの賃金540万円及びこれに対する支払期日の翌日(毎月翌々月1日)から平成30年10月30日までの平成29年法律第45号による改正前の商法による商事法定利率(以下同じ。)年6%の割合による確定遅延損害金13万3545円の支払,並びに,平成30年9月から契約終期である令和元年11月6日までの賃金として平成30年10月から令和元年12月まで毎月末日限り60万円(ただし令和元年12月末日は12万円)及びこれに対する支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による遅延損害金の支払,(2)被告CTに対しては,被告CTは労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)40条の6第1項5号に該当する行為をした労働者派遣の役務の提供を受ける者であるから,被告CTと原告との間で労働契約が成立したと主張して,前記(1)と同額の賃金及び遅延損害金の支払(前記(1)及び(2)は単純併合,不真正連帯債務),(3)被告らに対し,連帯して,違法な解雇による不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料200万円及びこれに対する不法行為日である平成29年12月8日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 前提事実

(1)当事者

ア 原告は,システムエンジニアであり,オラクルマスターゴールド及びJAVAプログラミングの資格を持つ者である(原告本人)。
イ 被告CTは,コンピューターのソフトウェアの開発,労働者派遣業等を業とする株式会社である(ソフトウェア開発を業とする株式会社であることにつき争いがない。その他は乙3)。
ウ 被告AQは,コンピューターのソフトウェアの開発,労働者派遣事業及び有料職業紹介事業等を業とする株式会社である(ソフトウェア開発を業とする株式会社であることにつき争いがない。その他は乙11。なお,被告AQは令和元年12月に労働者派遣事業及び有料職業紹介事業の許可を受けた。)。

(2)被告CTの事業所での原告の業務従事等

ア 被告CTは,主力商品として,「ECObjects」という名称の製造業向けの生産管理システムのパッケージソフト(以下「本件管理ソフト」という。)を販売する事業を行っており,本件管理ソフトの販売に伴い,販売先顧客(ユーザー)から,販売先顧客の業務に適合するように本件管理ソフトをカスタマイズする業務を請負っていた(弁論の全趣旨(被告CT第1準備書面p5,被告CT第2準備書面p1~2))。東芝キャリア株式会社(以下「TCC」という。)は,被告CTから本件管理ソフトを購入した被告CTの顧客であり,被告CTは,TCCから,TCCの要望に沿って本件管理ソフトをカスタマイズする開発業務を請負っていた。
原告は,平成29年9月26日から同年12月8日まで被告CTの事業所において,本件管理ソフトをTCC向けにカスタマイズする開発業務等に従事した。

イ 被告CTは,被告AQとの間で,被告CTが被告AQに対し,被告CTが開発するソフトウェアの開発業務を個別契約により委託すること等を定めた業務委託基本契約書(以下「CT・AQ間の本件基本契約書」という。)を平成29年7月7日付けで作成した。
被告AQは,原告との間で,同年9月21日,両者のソフトウェアに関する業務に関する請負,業務委託等の取引に関して基本的事項を定めること,同取引において,対象業務の内容,納期,数量及び単価等は個別契約の都度,被告AQが指定する様式により別途決定すること等を定めたソフトウェア基本契約書(以下「AQ・原告間の本件基本契約書」という。)を作成した。

(3)被告AQによる原告に対する契約解除の意思表示

被告AQは,平成29年12月8日,原告に対し,同日をもってAQ・原告間の本件基本契約書に係る契約及び同契約に基づいて締結した個別契約を解除する旨の意思表示をした(争いがない。以下「本件解除」という。)。

(4)原告の被告CTに対する承諾の意思表示

原告の代理人弁護士水上理は,被告CTの代理人弁護士らに対し,平成30年9月11日「被告CTは,平成29年9月26日以降,労働者派遣法等の法律の規定の適用を免れる目的で,請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し,労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めずに原告の派遣を受けてその役務の提供を受けているため,同法40条の6第1項5号により,原告に対し労働契約の申込みをしたものとみなされる。また,同年11月1日及び同月7日に,被告AQと原告との間で労働契約の期間が延長された際にも,原告に対し延長後の労働契約の申込みをしたものとみなされる。原告はこれらの申込みを承諾する。」旨の意思表示をした。

(5)労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する厚生労働省告示

厚生労働省の告示である「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号。以下「区分基準告示」という。)は,労働者派遣事業と請負により行われる事業の区分について,別紙1のとおり規定している(顕著な事実)。

3 争点及び当事者の主張

(省略)

第3 争点に対する判断

1 認定事実

前記第2の2の前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

(1)被告CTの事業。ソフトウェアのシステム開発の過程一般

ア 被告CTは,主たる事業として「ECObjects」という名称の製造業向けの生産管理システムのパッケージソフト(本件管理ソフト)を販売する事業を行っており,本件管理ソフトを顧客に販売するとともに,販売先顧客(本件管理ソフトのユーザー)から,その要望に沿って,その業務に適合するように本件管理ソフトをカスタマイズする業務を請負っていた。
TCCは,被告CTから本件管理ソフトを購入した被告CTの顧客であり,被告CTは,TCCから,本件管理ソフトをTCCの要望に沿ってカスタマイズする開発業務を請負い,平成29年4月頃から,TCCとの間で,要件定義,基本設計の作業を進めていた。

イ システム開発は,一般に,〔1〕要件定義,〔2〕基本設計,〔3〕詳細設計,〔4〕開発(実装),〔5〕単体テスト,〔6〕総合テストという各過程をたどる。〔1〕は,実装すべき機能や満たすべき性能などを明確にしていく作業であり,顧客との協議により,顧客からの要望に応えて,どのようなシステムを作るかについて決めていくものである。〔2〕は,要件定義で定められたシステムの具体的な姿について,全体的な観点から具体的な実現方法を探る作業であり,当該システムにおいて作るべき機能を洗い出し,それぞれがどのような機能になるかを明確にするものである。〔3〕は,基本設計で考えられた概要を基に,実際のプログラムが作られるまでに更に具体的な実現方法を探る作業であり,この段階で作業が細分化され,それぞれの作業は分担することができるようになる。〔4〕は,詳細設計の段階までに作成された仕様書を基にしてプログラムを作成する作業であり,〔5〕は,細分化されて開発された個々のユニットが,単体として使用に適しているかどうかをテストする作業をいう。〔6〕は,構築したシステムが全体として予定通りの機能を満たしているかどうかを確認する最終テストである。

(2)CT・AQ間の本件基本契約書の内容

ア 平成29年7月7日,被告CTは,被告AQとの間で,別途締結する個別契約により,被告CTが被告AQに対し被告CTのソフトウェアの開発業務を委託すること(1条)等を定めた業務委託基本契約書(CT・AQ間の本件基本契約書)を作成した。

イ CT・AQ間の本件基本契約書では,被告CTが被告AQに委託する開発業務に関し,その具体的作業内容(範囲,仕様等),作業期間・作業時間,委託料等については,両者間で個別契約を締結する旨定められており(3条1項),個別契約は,被告CTが被告AQに注文書を差入れ,被告AQが被告CTに受託の意思表示をするか,注文書受領後14日以内に何らの意思表示もしないときにその時点で成立することとされていた(3条2項)。
また,被告AQが,受託した業務を再委託することは原則として禁止され(6条1項),受託した業務に従事する被告AQの従業員の選定は被告AQが行うが,被告CTの承認を得ることとされていた(9条1項)。前記従事者に対する指示,労務管理,安全管理等に関する一切の指揮命令は被告AQが行うものとし(9条2項),被告CT,被告AQ間には労働者派遣法に規定される派遣先と派遣元としてのいかなる関係も存在しない旨が相互に確認されていた(9条3項)。また,被告AQと被告CTは,受託業務の履行に関して現場責任者をそれぞれ定め,要請,指示等の連絡は現場責任者を通じて行うこととされていた(10条)。

(3)被告AQと原告との契約書作成の経緯等

ア 被告AQ代表者は,平成29年9月中旬,株式会社天時情報システムの営業担当者から,システムエンジニアとして原告の氏名,技能等を紹介されて原告を知り,被告CTに対し,被告AQの開発作業者として原告を含む3名のシステムエンジニアの氏名,技能,経験年数,単価(原告については月73万円),稼働開始日等を伝えた。
9月20日被告CTの事業所において,被告AQ代表者,原告並びに被告CTの社員であるP4及びP5(以下「P5」という。)が面談した。同日,原告は,被告AQ代表者と初対面であったが,あらかじめ被告AQ代表者と待ち合わせて面談まで同道し,被告AQ代表者が原告をP4らに紹介した。その面談の際,P4は,原告に対し,原告のシステムエンジニアとしての経験や,原告のJAVAやオラクルマスターゴールドといったシステムエンジニアとしての資格等を確認したが,原告が従事する業務の詳細(後記(4)イのバッチプログラムを担当させること等)は説明しなかった。P4は,前記面談の結果を踏まえて,同月21日,被告AQ代表者に対し,原告を開発作業者とする前提で,被告AQとの間で,本件管理システムをTCC向けにカスタマイズする開発業務(以下「TCC向けカスタマイズ業務」という。)を被告AQに発注する契約を取り交わす意向を伝えた。P4は,平成29年当時,被告CTにおいて,本件管理ソフトのカスタマイズ業務に従事させるシステムエンジニア,プログラマーの適格性判断,被告AQ等の委託先への業務委託契約の発注の権限を有していた。

イ 平成29年9月21日,被告AQ代表者は,原告に対し,ウィチャット(メッセージ・アプリケーション)を通じて,原告が被告CTの事業所で従事する業務に関しては,株式会社天時情報システムを介さない直接契約となること,作業開始は同月26日からであることを伝え,原告の要望及び被告CTから提示された条件を踏まえて,報酬月額は60万円,精算不要の作業時間は151~185時間とすること,報酬は月末締め翌月払とすること等を伝えた。

ウ 平成29年9月21日,被告AQと原告は,両者間のソフトウェアに関する業務に関する請負,業務委託等の取引に関して基本的事項を定めるためのAQ・原告間の本件基本契約書を作成した。同書には,請負,業務委託の目的とするシステム開発業務や報酬について具体的な定めはなく対象業務の内容,仕様,数量,単価その他の条件は,個別契約の都度,被告AQの指定する様式により別途決定することとされ(3条1項),対象業務に関する個別契約は被告AQが注文書を発行し,原告がこれに対し承諾の意思表示を行ったときに成立し,注文書発行日から7日以内に何らの意思表示がないときは承諾の意思表示がされたとみなされること(3条2項)が定められていた。

エ 被告AQは,原告に対し,平成29年9月25日付けで,作業内容を「ECObjectsカスタマイズ業務」,作業期間を「平成29年9月26日~同月30日」,作業場所を「当社指定場所」,提出書類を「作業報告書」,精算方法を「精算時間/月「151-185時間」,支払条件を「月末日締め,翌月末日支払」,項目を「P1様(9月26日~9月30日)」,数量・単位を「0.2人月」,単価を「60万円」,精算時間「151-185」超過単価を「3240円」,控除単価を「3980円」,合計金額を「12万円」とする注文書を送信した(丙6の1,丙37,38,40)。
その後,作業期間を同年10月1日~同月31日とする注文書,作業期間を同年11月1日~30日とする注文書,及び,作業期間を同年12月1日~同月31日とする注文書が被告AQから発行され,原告に対し交付された。前記3通の注文書には,作業内容,作業場所,精算方法について当初の注文書と同様の記載がされていた(以下,前記4通の注文書を「本件各注文書」という。)。

(4)被告CT・被告AQ間の個別契約の発注書の内容。原告に従事させる予定の業務。

ア 被告CTは,被告AQに対し,平成29年9月26日付けで,作業名を「ECObjectsカスタマイズ業務 P1様 平成29年9月26日~平成29年11月30日」,数量・単位を「2.21人月」,単価を「73万円」,発注金額を「161万3300円」旨記載した発注書により業務の発注を行った。
また,その後,被告CTは,被告AQに対し,作業名を「ECObjectsカスタマイズ業務 P1様 平成29年12月1日~平成29年12月31日」,数量・単位を「1.0人月」,単価を「73万円」,発注金額を「73万円」旨記載した同年11月22日付け発注書により業務の発注を行った。
原告を被告CTの事業所で作業させるについて,被告CTと被告AQは,労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めたことはなかった(争いがない。)。

イ 被告CTが被告AQに前記アの個別契約で発注して,原告に従事させる予定の業務は,TCC向けカスタマイズ業務のうち,バッチプログラム(あるデータベースから対象のデータを取得し,そのデータのチェックまたはファイルへの書き込みを行う処理を指し,一定期間や一定量ごとにデータを一括して処理できる効果を持つもの。)に関する詳細設計,開発(実装)及び単体テストであった(甲3,乙15,丙36,弁論の全趣旨(被告CT第2準備書面p3・4,原告準備書面(3)p13)。なお,被告CTは,基本設計も,原告が従事すべき業務に含まれていた旨主張するが,前記(1)のとおり,詳細設計の段階で初めて作業が細分化され,それぞれの作業は分担することができるようになるとされていること,被告AQ代表者が詳細設計から単体テストまでを受注した旨供述していること(p8)に照らし,採用できない。)。
本件管理ソフトには,〔1〕SAPリリース(TCCの基幹システムであるSAPからの情報出力),〔2〕夜間バッチ(データを一日の業務終了後の夜間のうちに演算して集計しておく機能等),〔3〕ODチェック,〔4〕メール送信,〔5〕仕分けチェック等の機能があり,それぞれの機能についてバッチプログラムの作成が必要であった。
なお,被告AQは,前記アの個別契約以前に,被告CTから,TCC向けカスタマイズ業務の一部を受注しており,平成29年9月26日より前から,被告AQの従業員であるP6が,被告CTの事業所で開発作業に従事していた。同日頃から同年11月末まで,P6は,マスタ系の画面操作,単位(作業手順)マスタの製造,入力値設計マトリクスの詳細設計及び製造,作業区マスタの製造,ポップアップ画面の製造等の作業に従事した。

(5)原告の作業の状況

ア 原告は,平成29年9月26日から同年12月8日まで,被告CTの事業所において,TCC向けカスタマイズ業務に開発作業者として従事した(争いがない。この項と次項((5)(6))では,平成29年については,年を省略する。)。

イ 原告の作業場所は,被告CTの指示により,TCC及び被告CTの秘密保持のため,被告CTの事業所内のみと指定され,座席も指定された(甲2p3,乙10,証人P4)。原告がソフトウェア開発作業に使うコンピューター,サーバー,開発ソフト等は被告CTが提供し,被告AQは提供していなかった

ウ 前記アの期間,P4は,原告に対し,P4が作成した「作業実績報告書」と題する書式に,原告の毎日の作業開始時刻,終了時刻,作業時間及び作業内容を記入させた。P4は,原告が記入した内容を点検して押印し原告に,当該文書を被告AQに対し送信するよう依頼して送信させた。当該文書は,被告AQが被告CT宛てに原告の1日ごとの作業時間及び作業内容を報告する体裁の文書であったが,被告AQ代表者が,被告CTを介することなく原告の作業時間を把握・管理したことはなく,また,被告AQ代表者が記載された原告の作業内容に関心を払ったことはなかった
原告は,当初(9月26日頃)は,午前9時30分に作業を開始し午後6時15分に終業していたが(作業時間7時間45分/日),10月になると午後7時頃まで作業するようになり,11月には午後9時頃まで(作業時間10時間30分/日)作業することが多くなり,午後10時まで(作業時間11時間/日)作業した日もあった。また,11月半ばからは,休日と予定されていた土曜日も出勤することになった。原告が土曜日に出勤することは,後記エのP4らが参加する会議で確認がされていた。原告の10月の総作業時間は169時間15分,11月は242時間であった。
原告は,P4に対し,原告や被告AQ経由の開発作業者であるP7(以下「P7」という。)が午後5時に作業を終了する場合や,外出する場合等には,その旨報告してP4の了解を得ていた。原告は,P4の許可を受けて,12月4日に1時間30分,12月7日に5時間の外出をし,12月8日は午後5時に退出した

エ P4は,被告AQ経由の開発作業者(P6,原告,後にP7)及び他の下請の開発作業者(P8,後にP9)に対し,TCC向けカスタマイズ業務に従事している被告CTの社員(P4,P5,P10,P11ら)との会議に参加するよう要請しており,会議は当初は1週間に1回であったが,10月半ば以降,週4回の場合があるなど,頻繁に開かれるようになった。
被告CTの社員ら(P4ら)は,前記会議において,被告AQ経由の開発作業者ないし他の下請の開発作業者に対し,被告CTの社員が作成したWBC(作業スケジュール表)で仕事の分担と作業予定を確認するよう求めるとともに,被告CTで従来から使用しているフォーマットの課題管理表の作成を指示し,作業中に発生した課題について報告させ,その内容をTCCに確認する事項と被告CTで回答すべき事項に仕分けして,TCCからの回答等を,原告を始めとする前記開発作業者に伝達する等した。
原告を含む被告AQ経由の開発作業者らは,前記会議やWBCにおいて,10月20日頃から11月30日まで,毎日,作業の進捗状況(どの業務を何パーセント完成したか。いつ完成見込みか等)の報告を求められ,報告を行っていた(甲3の7~32)。また,原告は,前記会議やメールにより,被告CTの社員(P4,P10)から,10月25日から11月30日まで,成果物のレビュー(検査)の状況の伝達を受け、被告CTの社員のレビューで指示された修正を行う等の対応を行った
被告AQ代表者は,月に1回程度,被告CTの事業所を訪問していたが,12月1日に被告CTの事業所でのTCC向けカスタマイズ業務に加わるまで,前記会議に参加したことはなく,被告CTの社員(P4ら)や原告が,前記会議やWBCで報告された原告の作業の進捗状況や,被告CTからの原告の成果物のレビューの状況等について,被告AQ代表者に伝達したことはなかった。12月1日から,被告AQ代表者は,作業の遅れをカバーするためTCC向けカスタマイズ業務に加わり,その頃初めて,原告の作業の内容を把握したり,原告,P7及び自分の業務の分担を表で決めたり,作業の進捗状況を把握するようになった。
被告AQ代表者は,10月上旬,原告から,原告の多忙さを聞き出そうとしたり,P6が担当している画面の製造について,新規開発なのか,流用なのか聞き出そうとしたり,原告がリーダー役をやっているのか聞き出そうとしたり,作業展開が順調なのか聞き出そうとしたりするなどした。

オ 原告が被告CTの事業所で従事した開発業務は,TCC向けカスタマイズ業務のうち,バッチプログラムに関する詳細設計,開発(実装)及び単体テストの作業が主であった。それは例えば,10月24日からSAPリリースの夜間バッチの詳細設計に着手し,10月31日には製造情報の詳細設計書を作成中であり,11月2日にはそのプロシージャー一覧表を完成し,11月8日には製造情報作成の詳細設計書を完成してSAPリリース製造に着手することとなり,11月10日にはそのプロシージャー一覧を完成し,11月28日にはSAPリリース製造が完成し,以後,SAP単体テストの準備等の業務に従事することとなったという具合であった。
他方,原告が従事した作業には,「バッチプログラムの詳細設計,開発(実装),単体テスト」以外の作業もあった。例えば,詳細設計を始める前に本来終了しているはずのバッチプログラムに関する要件定義及び基本設計に関わる作業(「テーブル一覧&定義.xls」及び「バッチ機能定義書_メール送信機能.xls」と題するファイルについての作業)が,基本設計担当の被告CTの社員(P10)が休養に入ったこと等により一部未完成の状態であったため,9月29日,原告は,P4の指示を受けて,詳細設計書の作成に当たり,検討できる範囲で仮の作業を行うこととなり,本件管理ソフトの要件定義のファイル等を取得・閲覧した上,仮の作業を進めてバッチプログラムの要件定義,基本設計の一部を担当して作業した。また,10月24日,顧客であるTCCの要望により要件定義が変更になったため,原告が作業していたバッチプログラムの詳細設計書の変更が必要となった。また,同日,P4は,原告に対し,直近の要件定義の変更を受けて基本設計書も変更となったとして,基本設計書のダブルチェックを依頼し,10月25日までに,原告はダブルチェックを行い,P4に報告した。

カ P4は,原告が開発作業に従事していた当時,原告の開発技能や作業内容について問題があるとは認識していなかった。また,前記エの会議の議事録には,作業の遅れが原告の技能不足にあること等をうかがわせる指摘はなかった。

キ 顧客であるTCCと被告CTとの定例会(月に1回程度)との日程調整,出席は被告CTの社員のみが行っており,被告AQ代表者や被告AQ経由の者は関与していなかった。

(6)TCC向けカスタマイズ業務の遅延

ア TCC向けにカスタマイズした本件管理ソフトの納入期限は,当初は11月末であったところ,前記(5)オのとおり基本設計の開発担当者の休業で基本設計の一部が未完成であったことや,TCCの要望により開発の分量が当初よりも増えたことから,作業が遅延し,10月8日時点では,さらに遅延が顕著となった。10月半ば頃,P4の判断で開発作業者を増やすことになり,P4から原告に対し開発作業者の紹介の依頼があり,原告が,被告CTに対し,被告AQの者としてP7を紹介し,10月24日にP7とP4の面接が行われ,10月30日からP7がTCC向けカスタマイズ業務に加わった。
P7がTCC向けカスタマイズ業務に加わるに当たり,被告AQ代表者は,原告からP7及びその雇用主のWを紹介され,被告AQは,Wとの間で,被告AQがWにソフトウェアの業務委託を行う旨のソフトウェア基本契約書を作成し,個別契約として1人月50万円,清算時間151~185時間,超過単価2700円,控除単価3300円とする注文請書を取り交わした。
イ 11月上旬,TCC向けカスタマイズ業務に従事していた他社の開発作業者であるP8が休みがちとなり,11月17日から業務から外れた。作業の遅れは,同日の時点でも顕著であり,P4は,原告とP7のみでは対応が難しいとして,増員を検討し,原告に対し開発作業者の紹介を依頼した。11月20日,Wは,被告AQ代表者に対しWに雇用されているP12を紹介し,原告は,P4に対し被告AQの者としてP12を紹介し,11月21日,P4とP12との面接が行われた。しかし,P12については,被告CTが示した報酬の条件に対し,Wと被告AQとが折り合えず,契約は実現しなかった。
そこで,12月1日から,開発作業者不足を補うため,被告AQ代表者がTCC向けカスタマイズ業務に加わった。
ウ 被告AQ代表者は,12月8日,原告との契約を解除する旨の意思表示(本件解除)をした。

(7)被告CTの労働局からの指導歴

被告CTは,本店所在地を管轄する労働基準監督署ないし労働局から,個別の指導や是正勧告を受けたことはなかった(新宿労働基準監督署,中央労働基準監督署及び渋谷労働基準監督署に対する調査嘱託)

2 争点1-被告AQと原告との契約は,原告を雇用し,その雇用関係の下,被告CTの指揮命令を受けて,被告CTのために労働に従事させるという労働者派遣の労働契約であったか。

(1)一般論

労働者派遣契約とは,自己の雇用する労働者を,当該雇用関係の下に,かつ,他人の指揮命令を受けて,当該他人のために労働に従事させることをいい,当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものをいう(労働者派遣法2条1号)。労働者派遣の労働契約というには,被告AQと原告との関係が雇用関係といえることが必要であるため,被告AQと原告との契約が,契約書においては業務委託契約の形式をとるものであるが,実質は雇用関係(労働契約関係)であったといえるか,以下,検討する。

(2)被告AQと原告の契約の性質

ア 労働者は,使用者に使用されて労働し,労働の対償としての賃金を支払われる者をいい(労働契約法2条,労働基準法11条),実質的にこのような関係(使用従属関係)にある場合には,契約の形式にかかわらず,労働契約関係すなわち雇用関係にあるといえる。そして,このような関係にあるといえるかは,〔1〕仕事の依頼の諾否の自由,〔2〕業務遂行上の指揮監督,〔3〕時間的,場所的拘束性,〔4〕代替性,〔5〕報酬の算定支払方法を主たる要素として考慮し,〔6〕機械・器具の負担,報酬の額等に現れた事業者性,〔7〕専属性を補助的な要素として考慮するべきである。

イ 被告AQ・原告間の本件基本契約書には,請負ないし業務委託の目的とするシステム開発業務の内容や報酬について具体的な定めはなく,対象業務の内容,単価その他の条件は個別契約で別途決定するとされているところ(1(3)ウ),個別契約の内容を定める注文書には,作業内容が「ECObjectsカスタマイズ業務」との記載しかなく(1(3)エ),また,契約前の被告CTの社員との面談時や契約条件についての被告AQ代表者とのやりとりの時点においても,原告が担当する具体的な業務内容は明確にされておらず(1(3)アイ),注文書発行後,原告は,被告CTの事業所に赴き,平成29年9月26日から11月末までは被告CTの社員が作成した作業スケジュール表(WBC)のとおり仕事の分担を決められ,その後は,被告AQ代表者が示した表のとおり仕事の分担を決められており,被告CTの社員が原告に指示して担当させた業務には,当初予定されたバッチプログラムの詳細設計,開発(実装)及び単体テストの業務のみならず,基本設計に関わる業務もあり(1(5)エオ。ただし,その内容は,基本設計といっても補足的なもので,詳細設計に付随した業務と考えられる。),〔1〕原告には,被告CTの社員を通じた被告AQからの業務の依頼(指示)を断る自由があったとは認められない。また,原告は,平成29年9月26日から同年11月30日まで,被告CTの求めに応じて,被告CTの社員に対し,作業スケジュール表や会議において,作業の内容及び進行状況について毎日報告し,確認を受けており,成果物も被告CTの社員による検査を受けて対応を行う等,〔2〕業務遂行において,被告CTの社員を通じた被告AQによる指揮監督を受けていた。作業場所は被告CTの事業所内と指定され,作業時間は1箇月あたり151時間から185時間までの間とされ,原告は,被告CTの社員から,作業実績報告書により作業時間を被告AQに報告することを要求されたほか,平日の午前9時30分から午後6時15分まで作業し,午後5時に退社するときや,前記時間に外出するときには被告CTの社員にその旨報告して了承を得ており,また,休日とされる土曜日に出勤をすることを被告CTの社員との会議で確認されるなどしていたことから(1(5)イウ),〔3〕原告は,時間的,場所的拘束を受けていたといえる。被告AQとの契約前に,原告は被告CTの社員と面談し,システムエンジニアとしての経験や保有する資格の確認を受けており(1(3)ア),被告CTと被告AQとの個別契約に係る発注書にも原告が作業者であることが明記されており(1(4)),原告が第三者に作業を代替させたり,補助者を使ったりすることは想定されておらず〔4〕代替性はなかった。被告AQは,被告CTを通じて原告の作業時間を管理・把握しており,報酬は,作業時間が1箇月あたり151時間から185時間までの間に収まる場合には月額60万円,151時間を下回る場合には時間単価を3980円として控除し,185時間を上回る場合には時間単価を3240円として加算することとなっており(1(3)エ),〔5〕報酬の支払計算方法は,ほぼ作業時間に応じて決まっていたといえ,作業時間と報酬には強い関連性があったといえる。また,〔6〕原告は開発のためのコンピューター,ソフトウェア等の機械・器具を有する者ではなく(1(5)イ),報酬は月60万円であり,著しく高いとはいえず(1(3)イ),また,Wの経営に関わっていることを自認しているが,同社の役員ではなく,事業者性が高いとはいえない。〔7〕原告は,被告AQの仕事以外に就くことは禁止されていないが,1日の作業時間によれば事実上専属の状態であった(1(5)ウ)。

ウ 以上からすると,原告は,被告AQに使用されて労働し,労働の対償としての賃金を支払われる者といえるから,被告AQと原告との契約は,形式上は業務委託契約の体裁を取っているものの,実質的には,被告AQが原告を月額60万円(月末締め翌月末日払)で雇用する労働契約であったと認められる。被告AQは,具体的な作業内容,作業時間は原告に任せられており,被告らの指揮命令を受けていた事実はない旨主張するが,前記1(5)ウないしエで認定に供した証拠と対比して,採用できない。

(3)被告AQと被告CTの契約の性質

ア 次に,被告AQと被告CTとの関係が,労働者派遣契約といえるか,すなわち,被告AQが,原告との雇用関係の下に,原告を被告CTの指揮命令を受けて,被告CTのために労働に従事させる関係であったといえるか検討する。

イ 別紙1の区分基準告示によれば,請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であっても,当該事業主が当該業務の処理に関し,別紙1の一及び二のいずれにも該当する場合を除き,当該事業者は労働者派遣事業を行う事業者に当たるとされているところ,被告AQと被告CTとの関係を検討するにおいても,この基準を参考とするのが相当である。

ウ 本件についてみると,少なくとも平成29年9月26日から11月30日までは,原告が分担する業務については,被告CTの社員が,スケジュール表(WBC)や会議等で指示することで,その内容を決定し,原告にスケジュール表及び会議で毎日その進捗状況を報告させ,成果物も検査していたこと,前記の期間中,被告AQ代表者は,前記会議に参加したことはなく,被告CTや原告から,原告の作業内容,進捗状況及び成果物の検査結果を伝達されたことはなく,報告された原告の作業内容に関心を払っていなかったことが認められるから(1(5)ウエ),被告AQは,原告の業務の遂行方法に関する指示その他の管理及び業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行っていたとはいえない(区分基準告示の2条1号イ(1)(2))。

また,原告に対し,始業及び終業の時刻を作業実績報告書により報告させてこれを点検し,外出を了承し,作業時間の延長,休日出勤を確認していたのは被告CTの社員であり,被告AQ代表者は,被告CTを介することなく原告の作業時間を把握・管理したことはなかったから(1(5)ウ),被告AQが原告の労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行っていたとはいえない(同2条1号ロ(1)(2))。

また,原告の開発作業に必要なコンピューター,サーバー及び開発ソフトを提供したのは被告CTであって,被告AQは提供しておらず(1(5)イ),被告AQは,自己の責任と負担で準備し,調達した設備等で業務を処理することはなかった(同2条2号ハ(1))。かつ,被告AQ代表者は,平成29年9月26日から11月30日まで,原告の成果物について確認しておらず(丙36には,同年12月1日以降に,原告の成果物を見て,問題があると認識した旨が記載されている。),原告から原告がリーダー役をやっているのか聞き出そうとしたり,作業展開が順調なのか聞き出そうとしたりするなど,原告の業務内容や進行状況を把握していなかったことが認められ(1(5)ウないしエ),被告AQは,自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて業務を処理していたともいえない(同2条2号ハ(2))。

エ そうすると,被告AQは,原告の労働力を自ら直接利用していたともいえず(同2条1号本文),かつ,業務を自己の業務として契約の相手方である被告CTから独立して処理していたということもできない(同2条2号本文)。

したがって,被告AQは,労働者派遣事業を行う事業主といえ,原告は被告CTの指揮命令下に置かれ,被告CTのために労働に従事していたと認めるのが相当である。

(4)小括

以上から,被告AQと原告との契約は,実態としては,被告AQが原告を月額60万円(月末締め翌月末日払)で雇用したものと認められ,その雇用関係の下,被告CTの指揮命令を受けて,被告CTのために原告を労働に従事させるという労働者派遣の労働契約であったと認められる。

3 争点2-被告AQと原告との契約期間の終期

(1)原告は,被告AQと原告との契約の終期について,当初に原告が取りかかったプロジェクトが終了するまでであったと主張し,これに沿う供述をするが,これを裏付ける根拠については何ら具体的な指摘をすることはないから(原告本人p4・5),採用できない。なお,平成29年10月時点での会議の議事録には,平成30年1月から3月までの見積についての記載があるが(甲3の8p2),顧客であるTCCと被告CTとの打合せの議題を示すにすぎず,この記載をもって原告の主張を裏付ける証拠とはいえない。

(2)被告AQ・原告間の本件基本契約書は,被告AQが原告に注文書を発行することによって個別契約が成立する旨が定められ(1(3)ウ),被告AQが原告に対して発行した注文書(本件各注文書)は契約期間を月単位としていたから(1(3)エ),被告AQと原告の契約は,1箇月単位の有期労働契約であったと認められる。そして,原告は,被告AQ代表者から,平成29年11月1日,「来月の延長は確定した。」旨の連絡を受け,作業期間を平成29年12月1日から31日までとする注文書の発行を受けたことからすれば(1(3)エ),同年11月に,同年12月31日まで契約を更新する合意がされたことが認められる。
なお,原告は,「AQ・原告間の本件基本契約書は,偽装請負を糊塗するために作られたものであり,被告AQが原告に注文書を発行した事実はない。」旨主張し,原告本人は「本件各注文書を受領したことはない。」旨述べるが,本件各注文書は,原告が使用していた複数のメールアドレスに送付されており,原告がこれに返信しているものもあることに照らし,採用できない。

(3)原告は,平成29年11月7日,被告AQ代表者から,「原告だけは2年でもこの現場に継続させるつもりである。」旨と伝えられ,原告もこれを了承しているから,契約期間を令和元年11月6日までとする合意が成立した旨主張する。しかし,被告AQ代表者は,平成29年11月1日,原告が,平成30年3月末までの延長の可能性を尋ねたのに対し,期間はまだ明確になっておらず,TCC向けカスタマイズ業務に残すか,別の業務に回すかについても不明である旨の回答をしており,契約の延長については,被告CTの判断に委ねられることを示していた。そうすると,原告の指摘する同月7日の前記伝達は,被告AQ代表者としての希望・意欲を述べたにすぎないと認められるから,前記伝達をもって,令和元年11月6日までの契約延長の申込みがなされたと認めることはできない。したがって,この点についての原告の主張は採用できない。

(4)以上より,被告AQと原告の契約の終期は平成29年12月31日と認められる。

4 争点3-本件解除の有効性

(1)前記2(4)及び3(4)のとおり,被告AQと原告の契約は,平成29年12月31日までの有期労働契約であるところ,本件解除は,有期労働契約の期間途中の使用者による解除ということになるから,「やむを得ない事由」がなければならない(労働契約法17条1項)。

(2)被告AQは,「原告のスキル不足により,コーディングが不完全で,単体テストの開始までに終了すべきコンパイルの作業や動作確認が行われていなかった。また,平成29年12月初旬,原告が外出・退出を繰り返したことで,単体テストのスケジュールが大幅に遅延した。」旨主張し,被告AQ代表者もこれに沿う供述をする。
しかし,コーディングが不完全であった等の事実を裏付けるに足りる的確な証拠はない上,それが原告のスキル不足によることを裏付ける証拠はない。むしろ,被告CTのP4は,原告が作業に従事していた当時,原告の開発技能や作業内容に問題があるとは認識しておらず,会議の議事録にも作業の遅れが原告の技能不足にあることをうかがわせる指摘はなかった(1(5)カ)。また,前記1(5)ウのとおり,原告が平成29年12月初旬に2回外出し,1回午後5時に終業した事実はあるが,同年11月の原告の作業時間は240時間を超えており,外出等により原告が開発作業を懈怠していたとはいえない。TCC向けカスタマイズ業務の作業が遅延していたのは,被告CTの基本設計の担当者が休養に入ったこと等により基本設計が完成していなかったことや,TCCの要望により開発の分量が当初より増えたことによる(1(6)ア)。
したがって,TCC向けカスタマイズ業務の遅延が,原告のスキル不足や,原告の作業離脱によるとは認められない。

(3)被告AQは,「原告は,被告AQの了解を得ることなく,被告CTに対し,原告と関係のあるランビッズの社員を作業要員として提案し,背信行為を行った。」旨主張する。
原告は,被告CTの社員のP4の依頼により,TCC向けカスタマイズ業務に従事する開発作業者としてランビッズのP7及びP12を紹介した事実はあるが(1(6)アイ),P4に対しては,いずれも被告AQの者として紹介したもので,同じ時期に被告AQ代表者にもランビッズ,P7及びP12が紹介されていること,ランビッズと契約して,P7やP12を開発作業者とするかどうかは,被告AQ代表者がランビッズと条件を交渉して決定していることからすれば(1(6)アイ),原告が被告CTにP7及びP12を紹介した行為が被告AQに損害を与える行為とはいえず,背信行為ということはできない。

(4)以上によれば,被告AQが主張する事実は,いずれも「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項)に当たるとはいえない。したがって,本件解除は,同条の要件を欠いてされたものであるから,無効である。

5 争点4-未払賃金額

本件解除は無効であり,原告は,被告AQに対する契約終期である平成29年12月31日までの賃金請求権を失わない。
よって,被告AQは,原告に対し,平成29年12月分の未払賃金として平成30年1月31日限り60万円の支払義務を負う。

6 争点5-本件解除は違法な解雇に当たり,不法行為が成立するか。その損害額。

(1)前記4(4)のとおり,本件解除は労働契約法の要件を満たさず無効である。そればかりか,被告AQが本件解除の理由として主張する原告のスキル不足や懈怠による業務遅延といった事実は,これを認めるに足りる証拠はなく,作業者の紹介は背任行為とはいえないもので,いずれも根拠を欠くものであった。このように,根拠なくなされた本件解除は,違法の評価を免れない。また,根拠がない違法な解雇(本件解除)を行ったことについて,被告AQ代表者には少なくとも過失が認められるから,原告に対する不法行為が成立する。

(2)本件解除を理由とする不法行為の慰謝料額については,本件解除により,原告が,労働者たる地位を失って生活の資を失ったこと,スキル不足や作業遅延に責任があるとされて不本意な思いをしたこと,就労した部分の賃金も含めて賃金の支払を拒絶される等して,本件訴訟で本件解除の効力を争うほかなくなったことを考慮すべきである。他方で,原告と被告AQとの契約期間は3箇月と5日,更新は3回にとどまること,12月分の賃金は別途認容されることも考慮すべきである。
以上を総合し,慰謝料額は8万円とするのが相当である。

7 争点6-被告CTが、原告を,被告AQとの雇用関係の下に,被告CTの指揮命令を受けて,被告CTのために労働に従事させ,労働者派遣の役務提供を受けたか。

(1)前記2(2)ないし(4)のとおり,被告CTは,原告を,被告AQとの雇用関係の下に,被告CTの指揮命令を受けて,被告CTのために労働に従事させ,労働者派遣の役務提供を受けたことが認められる。したがって,被告CTは,請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し,労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めず,労働者派遣の役務の提供を受ける者(同法40条の6第1項本文,5号)に当たる。

(2)被告CTは,「原告に対して作業時間の管理はしていない。原告は被告AQの区画で勤務し,被告CTから独立して作業していた。システムの特性上,単体としての稼働に問題がなかったとしても,システム全体に組み入れた際には正常に作動しないといった事態もあり得るから,全体的な進捗状況を調整,確認する必要があり,被告CTは,委託者として,TCCとの間で調整したシステム要件の確認と作業全体の進捗状況を確認するため,原告との間で打合せ等を行っていたものであり,被告CTから原告に対する業務上の指揮命令には当たらない。」旨主張するが,これらが採用できないことは,前記2(3)ウで判断したとおりである。少なくとも,平成29年9月26日から同年11月30日までの間は,原告の業務内容の決定,業務遂行方法についての管理,成果物の評価,作業時間の管理は,いずれも被告CTの社員が行い,被告AQがこれを独自に行ったことはなかったから,前記期間中の原告の被告CTの事業所における作業は,客観的には労働者派遣の役務の提供と評価されるべきものである。

(3)被告CTは,「原告が本件訴訟で証拠提出している甲2,甲3及び甲7はいずれも機密情報に該当しており,原告がこれらを被告CTに無断で複製し,持ち出して証拠提出したことは,被告CTとの間で,機密情報の複製,持出し,公開をしないことを誓約する本件確認書に違反する行為であり,これらは違法収集証拠であるから証拠能力を否定すべきである。」旨主張する。
原告が本件訴訟で証拠提出している甲2(被告CT関係者と原告とのメール),甲3(被告CTでの会議の議事録)及び甲7(被告CT関係者と原告とのメール)は,非公開の情報であり,原告がこれらを被告CTに無断で複製し,持ち出して証拠提出したことは,本件確認書の2条,4条で禁止された行為に当たる可能性がある。しかし,原告が,これらを複製して持ち出したのは,被告AQから本件解除を受けて,その効力を争う目的であったこと,原告が持ち出したものは被告CTのソフトウェアや成果物ではなく,その作成過程の作業内容や情報交換の記録であり,機密として保護すべき価値が高いとはいえないこと,原告が被告CTの指揮命令下に置かれていた事実等を立証するに当たり,これらの証拠は必要不可欠であって,証拠としての価値は極めて高いことからすれば,これらの証拠を採用することが訴訟法上の信義則に反するとまではいえない。したがって,被告CTの前記主張は採用できず,甲2,3及び7については,その証拠能力を否定排除すべきとはいえない。

8 争点7-被告CTにおいて,原告により労働者派遣の役務提供を受けた行為が,労働者派遣法又は同法44条ないし47条の3の規定により適用される法律の適用を免れる目的でされたか。

(1)労働者派遣法40条の6第1項5号が,同号の成立に,派遣先(発注者)において労働者派遣法等の規定の適用を「免れる目的」があることを要することとしたのは,同項の違反行為のうち,同項5号の違反に関しては,派遣先において,区分基準告示の解釈が困難である場合があり,客観的に違反行為があるというだけでは,派遣先にその責めを負わせることが公平を欠く場合があるからであると解されるそうすると,労働者派遣の役務提供を受けていること,すなわち,自らの指揮命令により役務の提供を受けていることや,労働者派遣以外の形式で契約をしていることから,派遣先において直ちに同項5号の「免れる目的」があることを推認することはできないと考えられる。また,同項5号の「免れる目的」は,派遣先が法人である場合には法人の代表者,又は,法人から契約締結権限を授権されている者の認識として,これがあると認められることが必要である。

(2)被告CTと被告AQとの契約においては,被告CTの担当者であったP4が,被告AQ等の業務委託先との間で業務委託契約を締結するか否か決定する権限を有していたから(1(3)ア),P4において「免れる目的」があったかを検討すべきである。

(3)P4は,被告AQ代表者を介することなく,原告に対して直接,業務を依頼し報告を求めた理由について,「被告AQ代表者から,原告が被告AQの責任者であるため,原告に直接伝えてほしいと言われたからである。原告は被告AQに雇用されていると思っていた。」旨証言し,週に1~4回会議を開く等して作業の進捗状況の報告を求めた理由については,「納期が切羽詰まった状況下で,1日の遅れも致命的となってしまうため,問題が発生していないかを毎日確認する必要があった。」旨証言するところ,前者は,P4との面接時に被告AQ代表者が原告に同道して原告を紹介したことや(1(3)ア),原告自身が,P7やP12を被告AQの者としてP4に紹介していたこと(1(6)アイ)から不合理ではないし,後者も,作業の進捗状況の確認や成果物の確認がされるようになった時期が,TCC向けカスタマイズ業務の遅延が顕著となり増員が検討された時期と符合することから(1(6)),不合理とはいえない。
また,原告が従事していた業務は,TCC向けカスタマイズ業務のバッチプログラムの詳細設計,開発(実装)及び単体テストであったところ(1(5)オ),システム開発の過程では,これらの業務は細分化して外注できる業務とされていること(1(1)イ),原告は,基本設計に関する業務を一部担当したこともあったが,それは,基本設計が一部未完成であったため,詳細設計の際に要件定義を参照しつつ仮の作業として進めたとか,顧客の要望により要件定義及び基本設計が変更になった際,基本設計のダブルチェックを行ったというにとどまり(1(5)オ),詳細設計に付随する業務といえるものであること,被告CTが顧客であるTCCとの打合せに原告を同席させることはなかったこと(1(5)キ)から,被告CTが,原告に対し,被告AQへの委託業務であるか否かに意を払うことなく,様々な業務を担当させていたとは認め難い。そして,作業者に対する指揮命令と業務委託・請負における注文者の指図との区別は困難な場合があること,被告CTは,過去に労働基準監督署ないし労働局から個別の指導を受けたこともなかったこと(1(7))を踏まえると,P4において,「免れる目的」があったと認めるには無理がある

(4)原告は,「CT・AQ間の本件基本契約書には,一切の指揮命令は被告AQ社が行うこと,被告らの間には労働者派遣関係がないことが記載されており,被告CTは,作業者に自らが指揮命令を行えば,労働者派遣関係に立つことを認識していたといえる。」旨主張し,CT・AQ間の基本契約書には原告の主張どおりの記載がある(1(2)イ)。しかし,同記載は,被告CTによる作業者への指揮命令があれば労働者派遣の役務提供となるという一般的な理解を示すものであり,被告CT代表者やP4において,作業者に対する指揮命令と業務委託・請負における注文者の指図との区別を適切に判断できていたことを示すものではないから,この記載をもって「免れる目的」があるとはいえない。
また,被告CT及びP4が,業務を発注する前に,原告ら外部の開発作業者との面接を常々行っていた事実は認められる(1(3)ア,(6)アイ,証人P4)。しかし,被告CT代表者及びP4において,面接した開発作業者により当初から労働者派遣の役務の提供を受ける意図を有していたとは認められないから,これが労働者派遣法の禁止行為に当たるとは必ずしもいえない。また,システム開発には技能が必要であるため,発注に当たり,発注先が当該システム開発のため必要な技能を持っているか判断する一助として,発注先の開発作業者と面接を行う場合もあると考えられるから,面接を行ったという事実をもって,業務委託や請負ではないということはできず,「免れる目的」があるとまではいえない。
また,被告CTが,作業者に対し,本件確認書(機密保持契約書)の作成提出を求めていたことは(乙14),顧客や被告CTの秘密保持のためであり,業務委託や請負であっても,そのような文書の作成を求めることは不合理ではない。作業実績報告書(甲6,10)により原告や他の作業者の作業時間を記録していたことは,作業時間により委託者に支払う報酬が増減する契約であり(1(4)ア),そのような契約であることと業務委託であることとは必ずしも矛盾せず,不合理とはいえない。
したがって,原告の主張するところを検討しても,被告CT代表者ないしP4において,労働者派遣法の規制を免れる目的があったということはできない。

(5)以上から,被告CT代表者やP4において「免れる目的」があったとは認められない。

9 被告CTに対する請求についての小括

前記8のとおり,「免れる目的」がない以上,被告CTにおいて,労働者派遣法40条の6第1項5号が成立する余地はなく,原告と被告CTとの間で労働契約は成立しない。また,原告と被告CTには契約関係がないから,被告CTが原告を解雇することもあり得ない。
したがって,原告の被告CTに対する請求は,その余の点(争点8~11)について判断するまでもなく,理由がない。

第4 結論

以上によれば,原告の被告AQに対する請求は,〔1〕平成29年12月分の賃金60万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成30年2月1日から支払済みまで平成29年法律第45号による改正前の商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払並びに〔2〕違法な解雇による不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料8万円及びこれに対する不法行為日である平成29年12月8日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
原告の被告AQに対するその余の請求及び被告CTに対する請求はいずれも理由がない。
訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用する。
よって,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第33部
裁判長裁判官 伊藤由紀子 裁判官藤倉徹也 裁判官久屋愛理

別紙1 労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(2条)

請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。

一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。

ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
(2) 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。

二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
ハ 次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
(1) 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
(2) 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。

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