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労働判例INDEX(2020年5月)

2020年5月に公刊された判例雑誌(労判、判タ、労経速、判時、労判ジャーナル)から労働裁判例の目次を整理しました。

労働判例 2020年5月1日号 No.1218

カキウチ商事事件(神戸地裁令元.12.18判決)

試用期間中における求人票との労働条件相違と差額賃金請求

雇用契約書の締結や労働条件通知書の交付がなされていなかったことから,労働条件内容が争われた事案。
労働者は採用時に口頭で説明を受けた賃金額や試用期間を主張したが,裁判所は「被告が1月にハローワークに申し込んだ求人票には「基本給13万円~15万円,基本給+精務給+各種手当で35万円~」と記載されており,入社前の面接の際,次郎及び月子が,基本給のみで35万円との説明をすることはにわかには考え難いこと,原告らは,被告入社前,被告と同業の訴外会社に勤務し,運送会社の賃金体系を把握しており,原告太郎も,基本給が月額35万円ではなく,手取りで月額35万円と認識していた旨を供述し(原告太郎本人調書),時間外手当等を含めないと月額35万円に届かないことを認識していたことからすると,原告らが基本給月額35万円であると認識していたものと認めることはできない(仮に,基本給が35万円で月平均所定労働時間を173.80時間とすると,1時間当たりの単価は2013円(350,000÷173.80=約2,013.8)となり,運送業界の水準よりも極めて高額になる。)。」と判示し,労働者側の主張を退けた。

豊榮建設従業員事件(大津地裁彦根支部令元.11.29判決)

解雇撤回から原職復帰までの賃金請求権の存否と立替金請求等

2015年4月14日に解雇を通告した後、同年7月17日に解雇を撤回した。しかし、労働者は復職しなかった。この点について、労働者は、解雇撤回後も復職できなかったのは、会社代表者のパワハラや解雇によって鬱病に罹患したことが原因であり(医師の診断書あり)、使用者の責めに帰すべき事由があったので、民法536条2項により賃金請求件は失われないとして、賃金全額の請求をした。
これについて、裁判所は、「平成27年7月17日の本件解雇撤回通知以後,被告乙山が復職しないことについては,うつ病等を原因とするものとは認められず,その他原告会社ないし反訴原告甲野の行為を原因として復職が妨げられていることも認められない。すなわち,被告乙山が復職しないのは,被告乙山自身の都合によるものであると認められる。とすると,被告乙山が同月18日から原職復帰して稼働するまでの間,賃金請求権は認められない」として、労働者側の主張を退けた。
弁護士のコメント
解雇後に労働者より解雇を争われた場合、(解雇の有効性を維持することが困難であるために),使用者が解雇撤回を通告する場合があります。しかし、解雇撤回に対して、本音では復職したくない労働者が、パワハラの存在、解雇後の職場復帰への不安などを主張して、会社側の原因によって復職に支障があると主張することがよくあります。このような労働者側の主張を無効化できるよう、解雇撤回通知の際に工夫をする必要があります。上記裁判例では単に解雇撤回を通告しただけで、工夫や配慮に欠けていたため,トラブルに発展しました。結果的に労働者側の主張は斥けられ事なきを得ましたが、慎重な配慮や実務上の工夫が必要であったといえるでしょう。

北海道・道労委(社会福祉法人札幌明啓院〔配転〕)事件(札幌地裁令元.10.11判決)

組合書記長に対する配転の不当労働行為該当性

コーダ・ジャパン事件〈付 原審〉(東京高裁平31. 3.14判決,横浜地裁平28. 9.29判決)

完全歩合給制トラック運転手の割増賃金の算定と解雇の有効性

問題の所在
運送会社がトラック運転手を採用する際,「賃金は,売上げから高速道路代を除いた残額の30パーセントで,27万円は最低保障の完全歩合制」であるとの説明を受け,了承して雇用契約をした(なお,雇用契約書は締結していない。)。しかし,就業規則には,「歩合給」制(出来高払制)に関する定めはなされておらず,通常の月給制の規定のみがなされていた。労働者は,歩合給制(出来高払制)は,就業規則が定める月給制より不利な労働条件であるから,就業規則の最低基準効(労契法12条)により無効となり,歩合給として支払われた賃金額を前提に割増賃金を請求した。これに対し,会社側は,歩合給制(出来高払制)で合意した以上有効であり,割増賃金も出来高払制を前提に労基則19条1項6号の計算で算出するべきと主張した。
第1審
裁判所は,「原告は,基本給の支払われる月給制が,出来高払制と比較して,時間外割増手当の計算において有利であることを根拠に,出来高払制は被告の就業規則の労働条件を下回ると主張するが,たとえ時間外割増賃金の計算において不利だとしても,出来高払制は,総合して月給制を上回る可能性のある制度であって,原告の指摘する上記の点のみから,出来高払制の方が不利であるとは到底いえない」と判示して,歩合給制(出来高払制)は就業規則の最低基準効に反さず,合意として有効であるとした。
第2審
裁判所は「本件歩合制合意のもとでの割増賃金は,本件就業規則による割増賃金よりも不利なものである」と判示しつつ,それが合意が有効になるか否かは,合意による労働条件変更に関する裁判例(山梨県民信用組合事件 最高裁28.2.19)を引用して,「当該変更を受入れる旨の労働者の行為の有無だけではなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきであると解するのが相当である」とした。その上で,「本件入社経緯において,一審原告(筆者注 労働者)は,給与条件については本件歩合制合意によるとの説明を受け,以前勤務していた会社におけるよりも有利な条件であると判断して,一審被告(筆者注 会社)との間で労働契約を締結したものではあるものの,割増賃金の支給の有無及びその計算方法についての説明がされず,本件就業規則に従って賃金が支給される場合との比較についての説明もなく,本件就業規則に対する変更に当たる本件歩合制合意を受け入れることによりもたらされる不利益の内容及び程度について十分な情報提供や説明を受けたものともいえないのであり,本件入社経緯において,一審原告がその自由な意思に基づいて本件歩合制合意を受け入れたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものとはいえない。したがって,前記エにおいて説示したところに照らし,一審原告と一審被告との間で締結された労働契約において,本件就業規則に定められた労働条件を変更する内容の本件歩合制合意が成立したものとは認められない」と判断した。そして,残業代の計算は,「就労期間における各月の月間総給与支給額をもって,労基則19条1項4号における月額賃金」として計算されるとした。
弁護士のコメント
運送会社がトラック運転手との間で,「残業代込みの完全歩合給制」(売上げから高速道路代を除いた残額の30パーセントで,27万円は最低保障)の趣旨で雇用契約をしたのですが,就業規則に歩合給制に関する定めがなかったばっかりに,歩合給制が否定され,月給制であることを前提に,支払った賃金総額をベースに残業代が発生すると判断されてしまいました。歩合給制か月給制かで,どれくらい結果が違うのか?それは,歩合給制であることを前提に計算された第一審判決の残業代額が元金294万円であったのに対し,月給制であることを前提に計算された第二審判決の残業代額が元金1520万円と5倍以上になっていることでお分かり頂けるでしょう。凄まじい結果の違いです。完全歩合給制をとっている運送会社の経営者の方は,就業規則に適切な規定がなされているか否かをご確認ください。
なお,第二審は理論的に興味深い判断をしています。つまり,就業規則の最低基準を下回る労働条件であっても,就業規則の変更によらずして,合意による不利益変更に関する最高裁判例(山梨県民信用組合事件)の基準を満たせば,有効になり得るかのような判断をしている点です。就業規則の最低基準効(労契法12条)を,就業規則変更をせずとも,合意ですり抜ける可能性を示唆しているのです。就業規則に最低基準効を与えた労契法12条の趣旨からすると,労働者が真意に基づく同意をしたとしても有効とすることができるというのは疑問が残るところです。

イヤシス事件(大阪地裁令元.10.24判決)

業務委託とされたマッサージ店員の労働者性等

労働判例 2020年5月15日号 No.1219

大阪府・府労委(サンプラザ〔再雇用〕)事件(大阪地裁令元.10.30判決)

定年後再雇用条件・残業禁止指示等の不当労働行為該当性

東芝総合人材開発事件〈付 原審〉(東京高裁令元.10. 2判決,横浜地裁平31. 3.19判決)

業務命令違反による解雇の有効性等

住友ゴム工業(旧オーツタイヤ・石綿ばく露)事件(神戸地裁平30. 2.14判決)

タイヤ製造業作業員の石綿ばく露の有無と損害賠償請求

判例タイムズ 1471号 6月号 (2020年5月25日発売)

名古屋地裁令元.7.30判決

私立大学の大学教授の65歳定年後の再雇用に関して,再雇用による雇用継続を期待することに合理性が認められ,大学の再雇用拒否は許されず,定年後も再雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものと判断した事例

労働経済判例速報(5/10)2408号

学校法人甲大学事件 東京地裁(令和元年6月28日)判決

争議行為を伴う業務命令違反を理由とする懲戒処分が適法とされた例

※学校法人関西外国語大学
争議行為の正当性に関する判断枠組み
「争議権の保障は,労務不提供などの業務の正常な運営を阻害する行為であっても、かかる行為の刑事責任及び民事責任を特別に免責し,あるいはかかる行為を理由とする不利益取扱いを特別に禁止することによって,団体交渉における労働者の立場を強化し,あるいは団体交渉における交渉の行き詰まりを打開するなど,団体交渉を機能させる趣旨のものと解される。
そして,団体交渉は,労使が対等な立場で,合意により,労働条件の決定を始めとする労使間のルールを形成する機能を有していることに鑑みると,争議行為は,団体交渉を通じた労使間の合意形成を促進する目的あるいは態様で行われなければならないものと解される。
そして,争議行為の態様が,団体交渉において業務命令によって命じられた義務が不存在であることの確認を協議事項としつつ,争議行為として当該義務の履行そのものを拒否するものである場合,当該争議行為は,当該義務の不存在確認に関する団体交渉を促進する手段としての性質を有することは否定できないものの,他方で,当該義務の不存在確認という目的自体は,争議行為によって,団体交渉を経ずして達成されることになるから,当該争議行為は,労使間の合意形成を促進するという目的を離れ,労働組合による使用者の人事権行使となる側面がある。そのため,上記態様の争議行為は,常に正当なものということはできず,団体交渉の実施状況や争議行為の実施状況に照らし,当該争議行為が,業務命令の拒否自体を目的としているとみることができるなど,団体交渉を通じた労使間の合意形成を促進する目的が失われたものと評価できる場合には,当該時点から正当性を有しないものというべきである。」と判示し,授業や委員会業務を拒否したことは,それ自体を目的としてるとして,正当性がなく,これに対する懲戒処分は有効と判断された。

フエイス・トウ・フエイス事件東京地裁(令和元年8月21日) 判決

深夜の時間帯を前提とした配達業務について、深夜割増賃金は基本給に含まれるとした例

新聞配達員である原告の月給は午前2時から午前5時までの配達業務に対するものであるので,深夜割増賃金は基本給に含まれる,と判示した。
※原告本人訴訟で,固定残業代の明確区分性等の検討はなされていない。特殊な事例といえる。担当,民事19部 裁判官 鈴木 麻奈美

労働経済判例速報(5/20)2409号

大作商事事件 東京地裁(令和元年9月4日)判決

残業を月30時間以内とする指導の事実を考慮し,PCログ記録を根拠に労働時間が認定された例

実労働時間の認定に関して,会社側が提出した「出勤簿」と労働者側が提出したPCの「ログ記録」の信用性が争われた。
裁判所はPCの「ログ記録」に基づいて労働時間を認定すべしと判断した。
「ログ記録」の信用性
・原告の業務はPCを多く利用する業務であり,PCは各従業員に1台割り当てがなされていた。
・PCのログインログアウトを人為的に作出した形跡はない。
・出勤簿記載の時間以上に残業していたのでログ記録を保存した労働者の動機は不自然ではない
・他の証拠(グループウエアのタイムレコード,ファイルの更新時間等)や争いのない事実(朝礼の時間)と矛盾しない
「ログ記録を手掛かりとして原告の労働時間を推知することに相応の合理的根拠はあるといえこれを基礎に、出勤簿記載の労働時間を超えて業務に従事していた旨述べる原告本人の供述にも相応の信用性を認めることができるところであって、他に的確な反証のない限りは、ログ記録を手掛かりとして原告の労働時間を推知するのが相当である。」
出勤簿の信用性
・月30時間以上は残業をしないよう指導がなされていた(争い無し)
・出勤簿上,寸分違わず30時間と記載された月が多かった(それより少ない月もあるにはあったが)
・原告が上記指導故に出勤簿上の労働時間記載を多くても30時間にとどめていたと推認することが合理的といえる。
→よって,出勤簿による労働時間を認定するべきとの会社側の主張は採用出来ない。

 

弁護士のコメント
会社側が提出した出勤簿という自己申告の記録よりも,労働者側が提出したログ記録という客観的記録の信用性が認められた事案です。最近では労働時間を記録するアプリなども出回っており,これに対して手書きの出勤簿では対抗できません。会社側でも労働時間管理ツールとして,客観的記録を採用し,かつ,不必要なダラダラ残業をさせない管理が重要です。

インタアクト事件 東京地裁(令和元年9月27日)判決

業務引継の懈怠等を理由とした退職金不支給について,勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為とはいえないとされた例

学校法人Y学園事件 名古屋高裁(令和2年1月23日)判決

懲戒処分歴を理由とした定年後再雇用拒否を無効とした原審判決が維持された例

労働経済判例速報(5/30)2410号

経済産業省事件 東京地裁(令和元年12月12日)判決

身体的に男性であるトランスジェンダーに対して,職場の女性トイレを自由に使用させることを命じた事例

判例時報 No.2436 2020年5月1日号

岐阜地裁(平成31年4月19日)判決

病院の事務職員が自殺した事案において,病院での長時間労働によりうつ病エピソードを発病した結果自殺に至ったものと認定し,病院管理者である被告に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を認めた上,被告の主張する前記事務職員の業務の進め方,超過勤務申請書の不提出,医療機関の不受診等の事情による過失相殺等がいずれも否定された事例

労働判例ジャーナル 98号(2020年・5月)

国際自動車(差戻し)事件 最高裁第一小法廷(令和2年3月30日)判決

歩合給から割増賃金額を差し引く賃金制度の違法性

池一菜果園事件 高知地裁(令和2年2月28日)判決

安全配慮義務違反に基づく損害賠償等

学校法人信愛学園事件 横浜地裁(令和2年2月27日)判決

幼稚園園長の労働者性

ニチイ学館事件 大阪地裁(令和2年2月27日)判決

異動後の降格・減給無効未払賃金等支払請求

国立大学法人山梨大学事件 甲府地裁(令和2年2月25日)判決

大学職員の勤務不良等に基づく解雇の有効性

国立大学法人鳥取大学事件 鳥取地裁(令和2年2月21日)判決

アカハラを理由とする懲戒処分取消請求

地方独立行政法人山口県立病院機構事件 山口地裁(令和2年2月19日)判決

雇止め無効地位確認等請求

名古屋市交通局長事件 名古屋地裁(令和2年2月17日)判決

うつ病自殺に基づく損害賠償等請求

国・敦賀労基署長(適応障害)事件 福井地裁(令和2年2月12日)判決

適応障害発症及びその後の自殺の業務起因性

地方公務員災害補償基金熊本県支部長事件 熊本地裁(令和2年1月27日)判決

小学校教諭の脳幹部出血発症の公務起因性

国立大学法人琉球大学事件 那覇地裁(令和元年12月24日)判決

教授らのパワハラ行為に基づく損害賠償等請求

マイラン製薬事件 東京高裁(令和元年12月18日)判決

解雇無効地位確認等請求と社宅明渡等請求

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