懲戒処分裁判例一覧

懲戒処分に関する近年の裁判例一覧

類型事件名事案懲戒処分判断結論
セクハラ
加古川市事件(最高裁第三小法廷 平成30年11月6日 判決 労判1227号21頁)
市職員が、勤務時間中に訪れたコンビニの女性従業員にわいせつな行為等をしたことを理由に、停職6か月の懲戒処分を受けた。停職市職員が、平成26年9月30日に勤務時間中に立ち寄ったコンビニエンスストアにおいて、そこで働く女性従業員の手を握って店内を歩行し、当該従業員の手を自らの下半身に接触させようとする行動をとったことについて、コンビニオーナーから市に申告するメールが届いたことから発覚した。市職員と本件従業員はコンビニエンスストアの客と店員の関係にすぎないから、本件従業員が終始笑顔で行動し、市職員による身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、それは、客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり、身体的接触についての同意があったとして、これを市職員に有利に評価することは相当でない。本件従業員及び本件店舗のオーナーが市職員の処罰を望まないとしても、それは、事情聴取の負担や本件店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される。さらに、身体的接触を伴うかどうかはともかく、市職員が以前から本件店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており、これを理由の一つとして退職した女性従業員もいたことは、本件処分の量定を決定するに当たり軽視することができない事情というべきである。そして、行為が勤務時間中に制服を着用してされたものである上、複数の新聞で報道され、市が記者会見も行ったことからすると、公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたというべきであり、社会に与えた影響は決して小さいものということはできない。本件処分は、懲戒処分の種類としては停職で、最も重い免職に次ぐものであり、停職の期間が本件条例において上限とされる6月であって、市職員が過去に懲戒処分を受けたことがないこと等からすれば、相当に重い処分であることは否定できない。しかし、市職員の行為が、客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた厳しく非難されるべき行為であって、市の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであり、また、市職員が以前から同じ店舗で不適切な言動を行っていたなどの事情に照らせば、本件処分が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず、市長の上記判断が、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。有効
アカハラ
公立大学法人会津大学事件(東京地裁 平成31年4月24日 判決 労経速2399号1月30日)大学教授が、学生に対し、侮辱的、人格や尊厳を傷つけるメールを複数送信したとして、減給処分とされた。減給教授がゼミ生らに送ったメールの内容は、学生を侮辱してその人格や尊厳を傷つけるものであることや、学生に対し不利益な内容を告知しその不安感を煽る威嚇的な表現であり、アカデミック・ハラスメントに該当する。本件メールにおける教授の言動を契機として、女子学生1名が登校することが困難な状態に陥り、ひいては、退学に至ったことからも、懲戒処分が重すぎて相当性を欠くとはいえない。
有効
セクハラ、パワハラ、アカハラ学校法人工学院大学事件(東京地裁 令和元年5月29日判決 労経速2399号1月30日)
大学准教授が、女子学生らに対するハラスメント行為を理由に、減給処分とされた。減給准教授が、女子学生Aについて言及したメールがセクハラに該当し、Aの交友関係に過度に干渉したことがパワハラに該当する。女子学生Bに対し学外での2人きりの食事に誘った行為がセクハラに該当し、その後再試験を特別に認め、再試受験を取り計らった行為がアカハラに該当する。准教授のこれらの行為は、指導の目的という側面が皆無ではないものもあるとはいえ、総じて、不見識であったり、手法として甚だ不適切な行為であったといわざるを得ない。
有効
セクハラ、アカハラY大学事件(東京高裁 令和元年6月26日 判決 判タ1467号54頁)
大学教授が、教え子の女子大学院生の居住するマンションに一晩滞在した行為及びその後女子大学院生に繰り返しメールを送信し食事に誘った行為が、セクハラ、アカハラに該当するとして、降格処分とされた。
降格大学教授が、女子大学院生の居住するマンションに一晩滞在した際、女子大学院生に近づき、身体に触れたりしており、女子大学院生は、教授から著しい性的不快感を与えられた。この出来事の後、1週間余りしか経っていない時期に、教授は、2人きりでの食事に誘うメールを繰り返し送信し、女子大学院生は、性的危険にさらされる状態の継続を危惧するなどの強い性的不快感を受けており、セクシュアル・ハラスメントに該当する。また、担当教授から性的危険にさらされる状態の継続を危惧させ、大学院での修学環境を著しく汚染し、修学を困難にしており、アカデミック・ハラスメントにも該当するとして、本件処分を有効と判断した。
有効
セクハラ、パワハラマルハン事件(東京地裁 令和元年6月26日 判決 労経速2406号4月20日)労働者が、セクハラ、パワハラ、不倫を理由に、懲戒解雇された。懲戒解雇会社が懲戒解雇事由として主張する10の各事由はいずれも、そもそも、そのような事実が認められない(4つ)か、一定の事実が認められるとしても、懲戒解雇事由に当たるとまではいえないもの(6つ)である。さらに、労働者からの異議申立てに対する対応を含めて、会社の懲罰委員会においてどのような審議がされ、どのような判断の下に懲戒解雇処分を行うに至ったのかも明らかではなく、労働者に反論の機会が実質的に保証されていたのか、また、会社において、労働者の反論等を踏まえ、慎重な検討、判断を経て懲戒解雇処分を行うに至ったのか疑問がある。無効
情報漏洩
学校法人南山学園(南山大学)事件(名古屋地裁 令和元年7月30日 判決 労判1213号18頁)大学教授が、ハラスメント調査の際に、ハラスメントに関する情報を明かして調査を行ったことが、重大な秘密を外部に漏らした場合に該当するとして、譴責処分とされた。
譴責大学教授が行ったハラスメント調査は、重大な秘密を外部に漏らした場合に当たらないか、正当な理由が認められ、懲戒事由に該当しないと評価するのが相当であるとして、譴責処分は無効と判断された無効
情報漏洩京都市(児童相談所職員)事件(京都地裁 令和元年8月8日 判決 労判1217号67頁)
児童相談所職員が、児童記録データ等を複写して自宅に持ち出した等を理由に、停職3日の懲戒処分を受けた。停職非公開情報である児童記録データの複写記録の職員による持ち出し行為は、公益通報を目的として行われた内部通報に付随する形で行われたものであって、職員にとっては、重要な証拠を手元に置いておくという証拠保全ないし自己防衛という重要な目的を有していたものであり、このほかに、当該複写記録にかかる個人情報を外部に流出することなどの不当な動機、目的をもって行われた行為であるとまでは認められないのであるから、その原因や動機において、強く非難すべき点は見出しがたいとされ、無効と判断された。
無効
セクハラ、アカハラ愛知県公立大学法人事件(名古屋地裁 令和元年9月30日 判決 ジャーナル94号1月)准教授が、学生らにセクシュアル・ハラスメントを行ったとして、懲戒解雇された。
懲戒解雇准教授は、女子学生Bに自身の作品のモデルとなることを依頼し、Bの写真撮影の多くを夜間に自宅のアトリエで行ったばかりか、複数回にわたり深夜ないし翌日未明まで、Bと准教授の自宅又は自動車内で二人きりでいたのであって、このような環境下でBの手を握るという身体的接触や、「エロいね。」という性的な発言、あるいはBとの関係を教員と学生という立場を超えたものとしたいと受け取られる発言も存在した以上、Bがこれらの言動に不快感を覚えたとするのは当然である。現に、Bは、最後の写真撮影終了後ほどなくして、フェイスブック上で准教授をブロックしている。Bに対する准教授の行為は、教育研究の場に付随する場において行われた言動であり、セクハラ及びアカハラに該当する。一方、卒業間近の女子学生Cと性的接触を持ったことについては、セクハラ及びアカハラには該当しないものの、教員として甚だ不謹慎な行為として大学の信用を失墜させるものであることが明らかであり、かつ、准教授の素行の不良により大学の風紀を乱すものということができるが、懲戒解雇の時点で処分理由書に記載されておらず、懲戒事由として追加することはできない。Bに対する身体的接触は手を握るにとどまっており、Bに心身の危険を感じさせたことはないこと、Bの写真撮影は着衣で行われ、性的なニュアンスに乏しかったこと、准教授が大学から素行について注意や指導を受けたことがなく、指導・改善の機会が与えられていないこと、大学内での他の懲戒処分との均衡等の事情から、懲戒解雇は重きに失するとされた。
無効
窃盗ロピア事件(横浜地裁 令和元年10月10日 判決 労判1216号5頁)スーパーマーケット正社員の労働者が、代金を精算せずに商品を持ち帰ったことを理由に、懲戒解雇された。懲戒解雇スーパーマーケットの精肉事業部において精肉加工・販売業に従事していた労働者が、精肉商品6点を梱包した後、レジで精算することなく店外へ持ち帰った行為を、会社は故意の窃盗行為だと主張するが、労働者は、他の従業員もいる中で人目をはばかることなく本件精肉商品を加工・梱包し、他の従業員に対し、私的に送る予定である旨説明するなどしており、これらの労働者の行為は、故意に窃盗行為に及んだものと考えるには大胆に過ぎ、むしろ精算を失念したという労働者の供述が信用できるとして、故意の犯罪行為を前提とする懲戒事由該当性が認められない。
無効
労働条件不合意JFS事件(大阪地裁 令和元年10月15日 判決 ジャーナル95号2月)
資産運用コンサルティング及び投資コンサルティング等を目的とする合同会社に採用され、平成29年12月1日、月給50万円で労働契約を締結した労働者が、同年12月20日締め25日支払の給与が支払われなかったことを会社に指摘したところ、月給40万円に減額することを伝えられたが、当初の給与を請求し、懲戒解雇された。
懲戒解雇使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要するところ、会社が、労働者に対し、懲戒解雇の意思表示をした当時、会社に就業規則が存在しなかったことについては当事者間に争いがないから、労働者に対する平成29年12月28日付け及び平成30年2月9日付けの懲戒解雇の意思表示は、いずれも懲戒権の根拠を欠き、無効である。
無効
パワハラ、業務命令違反富士吉田市事件(東京高裁 令和元年10月30日 判決 ジャーナル95号2月)市立病院の歯科医師が、パワーハラスメント及び一部歯科医院に対する不当な扱いや差別的診療拒否を行っていたとして、懲戒免職処分とされた。懲戒免職歯科医師のパワーハラスメントを裏付ける証拠はなく認定できない。また、特定の歯科医師の紹介患者の差別的取扱いを行っていたと認められす、紹介状の記載不足を理由に診療を行わなかったことは、一連の対応がいささか柔軟性を欠くきらいはあったとしても、不当であるとはいえないとして、本件処分は重きに失し、懲戒権者である市長の裁量権の範囲を逸脱した違法なものというほかなく、取消しを免れないと判断した。無効
パワハラ
辻・本郷税理士法人事件(東京地裁 令和元年11月7日 判決 労経速2412号6月20日)
労働者が、パワーハラスメントを行ったとして、訓戒の懲戒処分を受けた。訓戒労働者は、部下に対して、国籍に関する差別的言動をしており、部下を自らの席の横に立たせた状態で叱責し、また、部署全体に聞こえるような大きな声で執拗に叱責したことが認められ、労働者の行為後、部下が泣いていたことなどの事情に照らせば、職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて精神的、身体的苦痛を与え、又は職場環境を悪化させる行為をしたものとして、パワーハラスメントに当たるというべきである。また、懲戒手続上の瑕疵も認められないことから、本件懲戒処分が権利の濫用に当たり無効であるということはできない。
有効
服務規律違反
ノーリツ事件(神戸地裁 令和元年11月27日 判決 労判3993号12頁)労働者が、勤務時間中に、会社のパソコンで証券会社サイトを頻繁に閲覧したことを理由に、降格処分とされた。降格労働者が行った私的閲覧は、1日あたり15分から17分程度と、業務への支障が大きいとまではいうことはできず、労働者の等級がS1(係長相当)であったことからすると、会社に与える影響もそれほど大きいわけではなく、職場秩序を乱すものとまではいうことはできず、また、これによってサーバーセキュリティ上の危険が生じたわけではない。本件降格処分前に、労働者が懲戒処分を受けたことや勤務成績が不良であったことはうかがえず、会社による注意喚起等で私的閲覧が禁止されていることを認識していたものの、労働者個人に対する個別の注意や指導等はなく、処分として、降格処分の他に減給処分もなし得たが、この点について会社で十分な検討がされたことはうかがえないことからすると、本件降格処分は、重きに失するものであり、社会通念上の相当性を欠くものというべきである。
無効
注意義務違反中労委(社会福祉法人祐愛会)事件(東京地裁 令和元年11月28日 判決 労経速2418号8月20日)介護施設に勤務する労働者が、労働者の注意義務違反により同施設の入居者を危険な状態に陥らせたとして、減給の懲戒処分とされた。
減給平成27年1月19日、エアコンの使用が禁止されていたにもかかわらず、労働者が同僚の忠告を無視し、27℃に設定した上で入所者P氏の個室のエアコンを付け、同個室のドアを閉め切ったため、同個室内を高温状態にし、P氏を危険な状態に陥らせた点において、労働者に重大な注意義務違反があったなどとして、会社は本件懲戒処分を行ったものであるが、P氏の体調悪化について、労働者に懲戒事由に該当する注意義務違反は認められず、また、労働者の同日の行為とP氏の発熱等の症状の発生との間に相当因果関係を認めることもできず、本件懲戒処分は、客観的に合理的な理由を欠くものである上、本件体調悪化及び従前の他の介護事故における他の職員らに対する処分の有無や内容と比較して、処分の均衡を欠き、社会通念上相当であるということもできないから、本件懲戒処分は無効である。
無効
業務命令違反、情報漏洩本多通信工業事件(東京地裁 令和元年12月5日 判決 ジャーナル100号7月)労働者が、早退が著しく多いため会社が提案した役割トランスファー制度(降格等が必要と考えられる場合に適用される人事上の制度で、概ね6か月間の観察期間の間に対象者に改善活動を実施させ、担当役員がその間の観察結果を経営会議に諮問し、現職継続の可否を判断する制度)の適用を拒否したことに対し譴責の懲戒処分、社内情報を私用USBメモリにダウンロードした行為に対し減給の懲戒処分、会社や役員らを誹謗中傷するメールを繰り返し社内に送信したこと及び前回の情報持ち出しとは別の手法で社内情報を継続的に持ち出していたことを理由に、懲戒解雇された。
業務命令違反 譴責
情報持ち出し 減給
情報漏洩 懲戒解雇
労働者に対し、役割トランスファー制度を適用したことは合理的な理由があり、労働者がこれを拒否したことは懲戒事由に該当する。社内規程類、経営検討会資料等の情報が記載された1万2611件のデータを私用のUSBメモリにダウンロードしたことについて、労働者は、仕事を自宅に持ち帰るためと主張するが、機密情報を含み、分量が多量であることから、労働者の主張は採用できない。私用のUSBメモリに社内パソコンのデータをダウンロードすることが会社規定により禁止されていることは労働者も認識しており、これに違反したことは懲戒事由に該当する。その後、労働者は、約2か月にわたり、計6回、会社役員らを誹謗中傷、挑発するメールを送信したが、送信の都度会社は労働者に注意を行っており、また、ヤフーメールを利用した情報持ち出しも確認され、これらも懲戒事由に該当する。譴責 有効
減給 有効
懲戒解雇 有効
不正受給富士化学工業事件(大阪地裁 令和元年12月12日 判決 ジャーナル96号3月)
医薬品の営業業務に従事していた労働者が、虚偽の訪問報告及び交通費の不正請求を行ったとして、懲戒解雇された。懲戒解雇
労働者が営業先を訪れなかったと認められたのは16項目にとどまること、また、そのうちのほとんどが当該営業先を訪れていないものの、同じ日に当該営業先所在地付近には訪れたり、他の営業先を訪れたりしていること、担当営業先が500以上に上ることも考慮すると、上記不訪問回数が多いとまではいえないこと、それにより労働者が得た旅費等が多額であるとは認められないこと、上司が労働者に対し、一度注意を行っているとしても、日当の二重請求や出張の事前申請を怠ったこと等についてのものであり、営業先を訪れていないこと自体の注意ではなかったこと、その後の会社による確認等は、本件懲戒解雇に至る一連の調査におけるものであって、労働者が営業先を訪問していないことに関する注意を受ける機会は、本件懲戒解雇の際が最初であったと見られること、それまでに同様の行為によって何らかの処分を受けた事実も見当たらないこと、以上の事実が認められ、これらの事実からすれば、懲戒解雇にまで至るのは重きに失し、社会通念上相当であるとは認められない。
無効
横領、医師法違反一般社団法人竹田市医師会事件(大分地裁 令和元年12月19日 判決 ジャーナル96号3月)
病院院長が、業務上横領、医師法違反(診療録の不記載等)、秘密漏示、パワーハラスメント行為を理由として、懲戒解雇とされた。
懲戒解雇院長は、病院業務に支障が出ない範囲で、他院に器具の貸し出しを行ったもので、返却も行われており、権限内の行為で懲戒事由に該当しない。診療録の不記載や処方箋の事前署名等について、犯罪事実が明らかになった場合として、懲戒事由に該当するとまではいえない。災害派遣医療チームのLINEグループにレントゲン写真等患者の個人情報をアップロードした行為は、適切さを欠くものであったといわざるを得ないが、上記個人情報のアップロードにより、病院に損害が発生したことや、被告病院の業務の正常な運営が阻害されたことを認めるに足りる証拠はないから、懲戒事由該当性は認められない。院長によるパワーハラスメントについては、懲戒事由の正当な理由なくしばしば業務上の指示・命令に従わなかったもの、素行不良で、著しく病院の秩序又は風紀を乱したもの、病院内において暴行・監禁・賭博その他職場内の秩序を乱すことをしたものに該当するとまではいえないとして、懲戒事由が認められない以上、本件懲戒解雇処分は無効と判断した。無効
不正受給公立大学法人広島市立大学事件(広島地裁 令和元年12月25日 判決 ジャーナル96号3月)准教授(韓国籍)が、事前に申請した学外研修の滞在先である英国に渡航せず、韓国に滞在したこと、偽造した研修報告をし続けたことなどを理由に、懲戒解雇処分を受けた。
懲戒解雇准教授が、学外長期研修規程に反し、事前の申請なく無断で韓国等に滞在したこと、英国に滞在していたとする虚偽を報告し続けたこと、旅費の精算についてもつじつまを合わせる必要が生じ、虚偽の書類に基づき旅費を申請したことに争いはなく、准教授がパスポートや出入国記録証明書を偽造したのは、英国に滞在していなかったことを秘匿しようとしたと考えるのが自然であるなどとして、本件懲戒解雇を相当と認め、請求を棄却した。有効
規律違反
従業員地位確認等請求事件(東京地裁 令和元年12月26日 判決 判タ1493号176頁)プログラマーが、ソースコードの提出義務を怠ったことなどを理由に普通解雇された後、ソースコード提出と引き換えに金銭の要求を行ったことなどを理由に懲戒解雇された。
普通解雇後、懲戒解雇
普通解雇以前に、本件ソースコード5の不提出によって会社に何らかの損害が生じていたなどの事実はなく、普通解雇は無効である。
プログラマーがソースコードの提出と引換えに賃金4か月分の補填を要求したのは、基本的に会社から提出を要求されたソースコードについて会社に対する提出義務を負っていた立場にあったプログラマーの言動としては、会社に対する背信行為であってこれを軽視することはできないが、普通解雇がされた平成27年11月30日の翌日である同年12月1日に平成28年7月までの賃金の支払を要求し、さらに、平成27年12月2日午前0時12分にソースコードと引換えに4か月分の賃金支払を要求したのに対し、会社は約10時間後の同日午前10時23分にプログラマーに対して保有する全ソースコードの提出を要求し、それから約3時間後の同日午後1時14分及び午後1時18分において、提出期限をその時点から4時間弱後の同日午後5時00分までと設定し,これを2分超過した同日午後5時2分に本件懲戒解雇に及んだ経緯からすると、会社が電話等の他の手段による連絡を試みることなく、直ちに本件懲戒解雇に及んだことは、あまりにも性急に過ぎるといわざるを得ない。よって、懲戒解雇も無効である。
無効
不正受給日本郵便(北海道支社・本訴)事件(札幌地裁 令和2年1月23日 判決 労判1217号32頁)労働者が、100回にわたり、出張の際の交通費、宿泊費、駐車場料金を不正請求し、受給したとして、懲戒解雇された。
懲戒解雇労働者によって、長期間にわたって多数回行われた、多額にわたる旅費の不正請求・受給という本件非違行為は、悪質性が高く、常習性があり、不正受給の額は50万円を超え、看過できない規模に及ぶとして、労働者が詐取額を返納したとしても、悪質性は高く、労働者には懲戒処分歴がなく、営業成績が優秀であったとしても、広域インストラクターとして他の職員やインストラクターを指導する立場で、範を示すべきであるから、処分を軽減することは相当でない。また、会社は、労働者の懲戒解雇と同時期に、旅費の不正請求・受給を行ったインストラクター9名に減給処分、1名に停職3か月の懲戒処分を行ったが、労働者に比べて、その回数、不正受給額に相違があり、労働者にこれらの者と異なる懲戒処分をしたことが、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上の相当性を欠いているとはいえないと、有効と判断した。
有効
情報漏洩学校法人南山学園(南山大学)事件(名古屋高裁 令和2年1月23日 判決 労判1224号98頁)大学教授が、ハラスメント調査の際に、ハラスメントに関する情報を明かして調査を行ったことが、重大な秘密を外部に漏らした場合に該当するとして、譴責処分とされた。
譴責大学教授が行ったハラスメント調査は、重大な秘密を外部に漏らした場合に当たらないか、正当な理由が認められ、懲戒事由に該当しないと評価するのが相当であるとして、譴責処分は無効と判断された。無効
業務命令拒否学校法人関西外語大学事件(大阪地裁 令和2年1月29日 判決 労判1234号52頁)労働者らが、担当教員としての授業数の増加または委員会業務実施を拒否したことを理由に、けん責の懲戒処分を行った。けん責教員について一律に、契約上の義務として担当コマ数を限定していたと認めることができないとし、本件業務命令を違法と解することはできず、また、本件業務命令の拒否をもって懲戒権を行使することが、懲戒権の濫用に当たるとも解されないと、有効と判断した。有効
情報漏洩
A銀行事件(東京地裁 令和2年1月29日 判決 判例時報2483号71頁)
銀行と雇用関係にある労働者が、対外秘である行内通達等を無断で多数持ち出し、出版社等に漏洩したことで、懲戒解雇された。
懲戒解雇労働者は,平成26年5月頃から平成29年11月頃にかけて、情報セキュリティ規程に違反していることを認識しながら、対外秘である情報資産を持ち出し、情報を出版社等へ常習的に漏えいしたものであり、これら本件各違反行為は、就業規則70条1号ないし3号及び17号に定める懲戒事由に該当する。さらに、労働者は平成27年8月頃にけん責の処分を受けており、同月20日付けの顛末書では、反省の弁を述べるとともに、服務規律違反は一切ない旨誓約していたにもかかわらず、同時期頃から既に情報漏えいという服務規律違反行為を繰り返していたのであって、同懲戒処分による反省は何らみられない。労働者と使用者との間の信頼関係の破壊の程度は著しく、将来的に信頼関係の回復を期待することができる状況にもなかったといえ、使用者において、処分の量定として懲戒解雇を選択することはやむを得なかったというべきであるから、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。
有効
職務権限濫用日本郵便事件(大阪地裁 令和2年1月31日 判決 ジャーナル97号4月)郵便局長が、5年間にわたり試験を経て郵便局長に採用された9名の者から紹介料と称して商品券合計210万円分を不正に受け取った行為などを理由に、懲戒解雇された。懲戒解雇5年間にわたり試験を経て郵便局長に採用された9名の者から紹介料と称して商品券合計210万円分を不正に受け取ったなどの郵便局長の行為は、郵便局長の職務ないし職務上の地位に対する信用を著しく毀損し、就業規則81条1項14号(不正受給)に準ずる程度の不適切な行為として同項17号の懲戒事由に当たるといえ、行為の性質及び態様等に照らせば、懲戒解雇は客観的に合理的な理由を欠くとはいえず、社会通念上も相当で、権利濫用として無効になるとはいえない。
有効
指示命令違反日本電産トーソク事件(東京地裁 令和2年2月19日 判決 労判1226号72頁)労働者が、職場でカッターナイフを持ちだして、上司の前で自らの手首を切る動作を行い、警察が出動する事態になったことなど、業務上の指示命令に反し、職場の秩序を混乱させたとして諭旨解雇処分後懲戒解雇された。諭旨解雇後、懲戒解雇労働者は、平成29年4月の人事総務部室内のレイアウト変更において、自席がグループリーダーの横に配置されることに強く反発してこれを拒絶したにとどまらず、同月24日、前日の自己の退社後に席が移動されたことを知るや、部長に対し、座席配置の変更について配慮のない行為をされ精神疾患を誘発した責任を部長にとってもらうなどといったメールを送信し、翌25日も部長に対し同旨の言動をして精神疾患に対する治療費を支払うよう求め、その住所を聞き出そうとしたり、部長の前に立ちはだかったり、行く手を遮ろうとしたもので、被害妄想的な受け止め方に基づき、身勝手かつ常軌を逸した言動を執拗に繰り返したものといわざるを得ないし、その動機においても酌量すべき点はない。そして、労働者は、翌26日も、病院への通院や弁護士の相談に行くための職場離脱を業務扱いにするよう求め、部長にこれを断られるや、カッターの刃を持ち出して部長の面前で自らの手首を切る動作をしたものであって、その動機は身勝手かつ短絡的である上、部長や周囲の職員の対応いかんによっては自傷他害の結果も生じかねない危険な行為であったといえる。また、かかる労働者の行為によって、周囲の職員に与えた衝撃と恐怖感は大きかったものと推察されるし、2度も警察官が臨場する騒ぎとなったことも軽くみることのできない事情であり、懲戒事由該当性は認められるものの、労働者には懲戒処分歴はなかったことなど、1度目の懲戒処分で労働者を直ちに諭旨解雇とすることは、やや重きに失するというべきである。
無効
アカハラ国立大学法人鳥取大学事件(鳥取地裁 令和2年2月21日 判決 ジャーナル98号5月)大学教授で学科長が、アカデミック・ハラスメントに該当する行為を行ったとして、停職1か月の懲戒処分とされた。
停職教授は、ある学生に係る推薦書を合理的な理由もなく書かず、プライバシー情報を本人の同意なく故意に他にもらしたという非違行為が認定でき、それらの行為は、学生の権利を侵害したもので、重大かつ問題性が大きく、就業規則上の懲戒事由になり、懲戒処分が社会通念上の相当性を欠いたものとはいえず、教授が学科長という立場にあったことからも、処分量定が不相当に重いともいえず、処分手続に違法はないので、懲戒権の濫用はなく、懲戒処分は有効とした。有効
成績不良、パワハラ、傷害ビジネクスト事件(東京地裁 令和2年2月26日 判決 労経速2421号9月20日)人材開発部部長として採用された労働者が、営業成績不振を理由に降格処分1を受け、その3か月後、パワハラ等を理由に降格処分2を受け、社内で代表取締役に対し暴力を振るい、加療1か月の傷害を負わせたことを理由に、懲戒解雇された。
成績不良 降格
パワハラ 降格
傷害 懲戒解雇
降格処分1は、労働者を人材開発部部長から同部の一従業員とするという役職・職位の降格であるところ、本件降格処分1の当時、労働者は、人材開発部部長として、社長を補佐するという立場にありながら、その営業成績は、入社から7か月の売上・利益が0であり、契約件数(基本契約)0件、機密保持契約1件の獲得にとどまり、自ら設定した目標に到達できていない状況にあり、かつ、平成28年12月19日には、会社から指導を受けたにもかかわらず、業績の改善が見られなかったこと、同部の一従業員であるAよりも営業成績が低かったこと等からすれば、人材開発部部長の職を解かれる本件降格処分1については、相当な理由があるものということができ、本件降格処分1に伴う賃金減額分が8万円に上り、労働者の不利益が大きいことを考慮しても、会社が人事評価権を濫用したということはできない。降格処分2は、労働者の職責や職務内容に変更をもたらすものではないが、職務等級・グレードが下位に変更され、その結果賃金が当然に減額されるものであるところ、本件降格処分2の当時、労働者には、Aに対するハラスメントを行い、反省文を提出したが、なお同様の行為を繰り返す等の問題があったこと、業務遂行に関して、パートナー会社からのクレームを受けたことに加え、人材開発部部長として営業成績不良等の問題も継続していたこと等の降格を相当とする事情があった旨会社は主張するが、Aとのトラブルの背景には、Aからの労働者に対する暴言と評価しうるような言動も一部あったことがうかがわれ、労働者が一方的にハラスメントを行ったとはにわかに断定しがたい面もあり、これらの事情を総合すると、本件減給処分2について相当かつ十分な理由があったといえるか疑問が残る。本件降格処分2は、8万円もの賃金減額を伴う本件降格処分1からわずか3か月のうちに新たになされたものであり、降格に伴う賃金減額分が5万0050円に上ることを考慮すると、これを正当化するほどの事情があるとまでは言い難い。また、本件降格処分2は労働者の職責や職務内容に変更をもたらすものではないから、通常の労働に対する対価としての賃金を継続的に一定額減給するものであって、「減給の制裁」(労働基準法91条)に当たるというべきであり、かつ、同条の定める「総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超え」るものに該当するから、同条にも抵触することとなる。暴力行為については、代表取締役Bが労働者に対して行った業務指導や営業方針についての打合せを契機として、労働者がBに対して、突如、暴行に及んだものと認められる。Bに生じた傷害結果は、加療1か月を要する重大なものであるから、労働者による本件暴行が、就業規則25条1項,6項1号,2号に違反し、解雇事由に該当する(会社の主張するとおり、懲戒解雇事由(就業規則33条10号、11号)にも該当しうる。)ことは明らかである。降格1 有効
降格2 無効
懲戒解雇 有効
傷害日本ハウズイング事件(東京地裁 令和2年2月27日 判決 ジャーナル102号9月)マンション管理人として勤務していた労働者が、勤務中に第三者に暴行を加えて傷害を負わせたことを理由として、諭旨解雇処分を受けた。
諭旨解雇労働者は、勤務中、マンション前の路上で、本件マンションの居住者Dが運転していた自動車が左折して本件マンションの駐車場に進入しようとした際、Eが運転していた自動車と接触しそうになり、両自動車が停車した後、Eが自動車から降りてDが乗車していた自動車のドアノブを引っ張って開けようとしているのを発見した。Dの自動車のドアは開かず、Eが自車の運転席ドアを開けて自車に戻ろうとしたところ、労働者が、Eの立っていた付近に徒歩で近付いてEの両腕を掴み、両者は両腕を掴み合うような状態で歩道付近に移動した。その後、いったん両者は互いに両腕の掴み合いをやめて数秒間言い争ったが、労働者が左手でEの胸倉付近を掴み、右手拳でEの顔面や上半身付近を十数回殴打した。この間、自動車から降車したDが両手でEの体を掴んで労働者から引き離そうとしたが、労働者は殴打を続け、Eに全治1週間の傷害を負わせた。労働者は傷害で略式起訴され、罰金20万円の略式命令を受けた。Eが労働者及びDの身体に危害を加える素振りはみられず、労働者がEに殴りかかった後も、Eは労働者に対して反撃しなかったのであるから、労働者がEから危害を加えられる危険性が高かったともいえないにもかかわらず、労働者は、一方的にEに対して手拳で十数回殴打する暴行を加えたのであり、本件傷害事件における労働者の行為は悪質で、マンション管理人としての業務から大きく逸脱する行為であり、本件傷害事件の当時、会社名及びロゴマークが入った制服を着用し勤務中であることから、会社の信用が毀損されるおそれの高い行為であり、本件諭旨解雇が、客観的に合理的な理由を欠くとはいえず、社会通念上相当であると認められないということもできない。有効
不適正な職務執行
東備消防組合事件(広島高裁岡山支部 令和2年3月5日 判決 ジャーナル100号7月)消防職員が、119番通報に対して不適切な対応を行ったこと等を理由に、停職6か月の懲戒処分を受けた。停職消防職員は、119番通報者に対し、高圧的な発言を行ったり、電話を一方的に切るなど行っており、通報内容から出動指令を出す必要が明らかであるにもかかわらず、速やかに出動指令を行わなかったなどの不適正な業務執行があった。また、多数の職員に、上司との会話を秘密録音するよう強く勧め、組織全体としての円滑な意思疎通を著しく阻害させ、この点も懲戒事由に該当する。さらに、勤務中、職場コンピュータでアダルトビデオのサンプル動画等を視聴したことが認められ、コンピュータの不適正使用も存在した。本件懲戒処分に手続的違法性はなく、救急通報聴取という指令員の最も基本的な職務上の義務を怠り、救急業務に対する通報者からの信用を損なったものであり、消防職員に119番通報者に対する不適切な職務執行等を理由に戒告を受けた処分歴があることからしても、本件処分が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえない。
有効
アカハラ、情報漏洩国立大学法人岡山大学事件(広島高裁岡山支部 令和2年3月19日 判決 ジャーナル100号7月)
薬学部長が、薬学部教授会において、B准教授を誹謗中傷したこと、論文不正についてフリーライターに情報提供を行ったこと、薬学部副部長が論文不正についてフリーライターに情報提供を行ったことを理由に、停職の懲戒処分を受けた。
停職部長が、薬学部の教授会において、B准教授がハラスメントを行っていると思われる事案があり、調査委員会を設置したい、調査後はハラスメント防止委員会に報告したい旨を発言したことは、B准教授を確たる根拠なく批判するものであるのみならず、誹謗中傷し、その信用を毀損して同人を不快にさせる行為であるといえ、ハラスメントに該当する。また、部長と副部長が告発対象とした31本の研究論文について、学外委員も含む研究活動調査委員会による調査が行われたところ、多数の論文不正が存在するなどといった事実が認められなかったが、学内での正式な調査等が続けられている段階に、未だ不正であるか否かの結論が出ていなかったにもかかわらず、部長と副部長は、不正の隠蔽指示や多数の不正論文の存在を断定する形でフリーライターAに述べており、大学の研究不正を煽情的に報道させることによって、自らに対するハラスメント調査等を妨害することなどを企図していたことが明らかである。そうすると、不正論文が多数あると信じたことについて相当の理由があったともいえないし、公益的な目的があったともいえず、内部告発の手段、態様が相当ともいえないとして、懲戒処分を有効と判断した。
有効
秘密漏洩学校法人追手門学院(懲戒解雇)事件(大阪地裁 令和2年3月25日 判決 労判1232号5頁)労働者らが、各種委員会・理事会における議論の内容等を漏らしたこと等を理由に、学校法人は懲戒解雇を行った。懲戒解雇漏洩行為は就業規則上の懲戒事由に該当するものの、漏洩の対象が学校法人関係者及び守秘義務を負う弁護士に限られること、当該漏洩行為による学校法人への具体的損害が認められないこと等を考慮し、懲戒解雇処分を行うことは重きに失するから、無効であると判断した。
なお、懲戒解雇には普通解雇の意思表示は含まれないと判断し、証人尋問後弁論終結前の普通解雇は時機に遅れた攻撃防御方法には該当しないものの、「教戒、減給等の懲戒処分を課して将来を戒めることもないまま」なされた普通解雇は合理性・相当性を欠き無効と判断した。
無効
無断欠勤
東菱薬品工業事件(東京地裁 令和2年3月25日 判決 労判1247号76頁)労働者が、平成28年8月12日、業務外の交通事故で負傷したとして、同月29日から同年9月13日まで、欠勤理由や復職見通しを含めて一切連絡せず、16日間の無連絡欠勤をし、その後も、平成29年2月17日までの間、長期欠勤に関する会社の指示に違反して、休職等に関する手続を取らず、同年5月7日まで欠勤を続けたことを理由に、降格の懲戒処分を受けた。
降格会社が労働者に対して休職を命じた平成29年2月17日までの間、SMSメッセージの送信履歴や自宅の電話の発信履歴などから、懲戒事由に該当するような無連絡欠勤や指示違反行為があったとまではいうことができず、無効と判断した。
無効
不正受給新潟市事件(新潟地裁 令和2年4月15日 判決 ジャーナル101号8月)市職員が、書類を偽造し時間外勤務手当を詐取したとして、懲戒免職処分とされた。懲戒免職職員は、課長印を冒用した上、故意に、時間外勤務の実体がないにもかかわらず4日にわたりこれをした旨の虚偽の記載をして、担当者に提出したことが認められる。職員は、課長印を無断で使用して、その内容の一部ないし全部が虚偽である4月分時間外勤務命令票及び5月分命令票(提出分)を作成し、これを庶務担当者に提出して、公金から支出される時間外勤務手当を受領し又は受領しようとしたというものであるところ、これが、同担当者をして、職員の上司である課長の命令及び確認を経ていて、時間外勤務の実体があるものと誤信させ、よって時間外勤務手当を支給させ又は支給させようとしたものとして、詐取の例に該当することは明らかである。この点、所属長の印鑑を無断で押印すること自体、手当を不正に受給しようとする行為類型の中でも悪質性が高いとみられるところ、職員が課長補佐の職にあり、時間外勤務命令の有無及びその確認の有無に関しては課長以外にこれを確認する者がおらず、時間外勤務手当の受給に至る過程においては、課長の命令印及び確認印が押印された時間外勤務命令票があれば足り、改めて時間外勤務の有無が確認されることは想定されていないことから、不正が発覚する端緒に乏しかったというべきこと等の事情に照らせば、本件非違行為は、詐取の例に該当するというべき実質を十分に備えたものであったといえ、処分行政庁に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったとは認められない。有効
論文不正
国立大学法人熊本大学事件(熊本地裁 令和2年5月27日 判決 ジャーナル103号10月)大学教授が、不正行為があった論文について、責任著者として適切なチェック等を行わなかったとして、停職1か月の懲戒処分を受けた。停職責任著者は、論文の全てについて内容が正確であることを保証する保証人であるから、論文が発表される前に、その内容をきちんと把握し、それが正確であるか否かを慎重に検討し、捏造や改ざんのない正確な論文であることを確認する義務があるというべきである。しかるに、発表された論文に捏造又は改ざんの不正行為が含まれていることが発覚した場合には、責任著者がそれに関与又は看過したことになり、その論文に対する信頼や価値が失墜するのみならず、責任著者の学者としての力量や管理能力等が問われ、ひいては、責任著者の所属する大学等の職員等に対する管理能力や学術研究に対する信用及び名誉を棄損することになるということができる。そうすると、教授が本件大学の名誉と信用を失墜させるような行為をしたものとして,本件就業規則33条2号に該当するというべきである。教授は、自ら捏造・改ざんに当たる行為をしたほか、論文作成のチェック体制を構築せず、研究室における指導を怠るなど、教授は、責任著者又は研究室の主宰者として負っていた各種の義務を漫然と怠った結果1、平成10年から平成24年までの14年間という長期間にわたって、責任著者として関与した8報の論文において、不正行為を発生させるに至ったものである。他方で、各不正行為は、論文の結論に影響を及ぼさないものであって、しかも、悪意をもって殊更に研究内容をよりよく見せるために画策した様子は認められず、データの管理等がずさんであったり、画像の加工等に対する抵抗感が乏しかったが故に、結果的に画像を加工するに至ったものに過ぎないというべきであり、悪質であるとまではいい難い。以上の諸事情を考慮すると、教授の責任著者としての義務違反の程度は相当程度に重いから停職以上の懲戒処分に処するのが相当であるが、極めて悪質とまではいえないから、停職1か月に留めた本件処分は、相当というべきである。
有効
着服暴行、隠ぺい行為
氷見市・氷見市消防長事件(富山地裁 令和2年5月27日 判決 ジャーナル104号11月)消防職員が、パワハラ行為の暴行を理由に、平成29年2月27日付けで停職2か月(第1処分)、パワハラ行為の関係者らに対して圧力をかけたことを理由に、同年4月27日付けで停職6か月(第2処分)の懲戒処分を受けた。
停職第1処分について行われた調査報告書の内容は信用でき、処分の裁量権の逸脱や濫用も認められず適法である。第2処分について、消防職員が関係者らに行った電話やメールは、自らの非違行為に対する第1処分を軽くするためであり、消防職員が送ったメールの内容からすれば職員自身そのような行為が不当なものであるという認識を有していたといえる。そして、行為の態様も、消防職員に不利益な行動をすることに対する報復を示唆するものであり、そのような隠ぺい工作と評価できる行為が第1処分の停職期間中にされたことを踏まえると、強い非難に値する。また第1処分では非違行為の反省を促せなかったことも踏まえると、第2処分に関する非違行為の問題性の認識と反省を促すには第1処分より相当程度重い処分を検討せざるを得ないものである。そうすると、消防長が6か月間の停職処分を選択したことが、重きに失するとして社会観念上著しく妥当を欠くとまではいえず、これが裁量権の範囲を逸脱濫用したものとして違法であるとはいえない。
有効
着服近畿中央ヤクルト販売事件(大阪地裁 令和2年5月28日 判決 労判1244号136頁)労働者が会社の管理する自動販売機から売上金を回収する際、1年以上にわたり繰り返し自動販売機内の売上金を着服(窃取)していたとして、懲戒解雇された。懲戒解雇労働者が行った行為が売上金の着服(窃取)であること、1年以上にわたり繰り返し行われていたこと、その着服金額が100万円を超えること、その被害弁償も行われていないことを考慮すれば、本件解雇には合理的な理由があり、社会的相当性も認められる。
有効
パワハラアクサ生命保険事件(東京地裁 令和2年6月10日 判決 労判1230号71頁)育成部長の地位にあった労働者が、部下の帰宅後、遅い時間に何度も活動報告を求める電話を行ったことが、パワーハラスメント行為にあたるとして、戒告の懲戒処分を受けた。
戒告本件懲戒処分の対象となった事実関係について、労働者自身も認めているところ、部下は、育児を理由として、午後4時までの短時間勤務を認められていた者であったが、その在職中、帰宅後の午後7時や午後8時を過ぎてから、遅いときには午後11時頃になってから、労働者から電話等により業務報告を求められることが頻繁にあった。その態様や頻度に照らしても、このような行為は、業務の適正な範囲を超えたものであると言わざるを得ず、また、育成部長の立場にあった労働者が、育成社員であった部下に対し、その職務上の地位の優位性を背景に精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる言動を行ったと評価できるものであって、パワーハラスメントに該当する。会社が、労働者が自認する部下に対する時間外の業務連絡があったとの事実のみを懲戒の対象とし、戒告処分を選択したことが重きに過ぎるともいえず、本件懲戒処分に至る経緯等に、会社が懲戒権を濫用したことを裏付けるような客観的な事情は見当たらない。
有効
就業規則違反学校法人静岡理工科大学事件(静岡地裁 令和2年6月11日 判決 ジャーナル103号10月)大学准教授が、科学研究費助成事業取扱規程で定められた書類を、3回催促を受けても、提出しなかったことを理由に、譴責処分とされた。譴責准教授の書類不提出に対する本件懲戒処分は、服務規程の定める懲戒の基準に該当し、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であるというべきであり、人事権の濫用に当たるとは認められないから、適法かつ有効である。
有効
情報漏洩京都市(児童相談所職員)事件(大阪高裁 令和2年6月19日 判決 労判1230号56頁)
児童相談所職員が、児童記録データ等を複写して自宅に持ち出した等を理由に、停職3日の懲戒処分を受けた。停職児童相談所職員による非公開情報である児童記録データの複写記録の持ち出し行為は、いわゆる公益通報を目的として行われた内部通報に付随する形で行われたものであって、少なくとも職員にとっては、重要な証拠を手元に置いておくという証拠保全ないし自己防衛という重要な目的を有していたものであり、このほかに、当該複写記録にかかる個人情報を外部に流出することなどの不当な動機、目的をもって行われた行為であるとまでは認められないのであるから、その原因や動機において、強く非難すべき点は見出しがたいとされ、無効と判断された。
無効
不正受給まるやま事件(東京地裁 令和2年6月25日 判決 ジャーナル105号12月)
労働者が、不正に金員を受領したことなどを理由に、懲戒解雇された。
懲戒解雇労働者は、卸業者Cに何ら根拠のないインストラクター代等を支払わせて、少なくともその一部の金銭を収受しており、極めて悪質な行為であるといわざるを得ないし、Cをして会社の子会社であるAやBに対して商品代金にインストラクター代等相当額を上乗せして請求させて総額7000万円を超える重大な損害を与えたものであって、企業秩序違反の程度は重大なものというべきである。そして、会社は労働者に対する事情聴取をして弁明の機会を付与し、懲罰委員会による決定を経て本件懲戒処分を行っており、手続に不相当な点は見当たらない。したがって、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠くとはいえないし、社会通念上相当であると認められないということもできず、懲戒権を濫用するものということはできないから、有効である。有効
詐欺行為
守口市門間市消防組合事件(大阪地裁 令和2年6月29日 判決 ジャーナル105号12月)消防職員が、整骨院による詐欺行為について共謀したことを理由に、懲戒免職された。懲戒免職消防職員は、健康保険から金員の詐取等の犯罪行為に関与するものであることを認識しながら、整骨院院長及び友人ら本件詐欺行為の共犯者らと連絡を取り合って、本件整骨院に自らの保険証を提出して通院したのみならず、通院可能日を通知するなどして辻褄合わせに協力しており、本件詐欺行為において重要な役割を果たしたものというべきであり、消防職員の行為は、詐欺罪に該当する刑法上の犯罪行為である。消防職員は、本件詐欺行為において、首謀者たる地位にあるとはいえないものの、自らの保険証を提供し、自らが通院したとの事実を仮装することが可能な日を伝えるなどして、本件整骨院へ通院した事実を仮装し、柔道整復施術療養費の詐取を可能ならしめるにあたり、重要な役割を果たしている上、かかる犯罪行為への関与につき、月額5000円という比較的少額のものとはいえ、多数回にわたり報酬を受領している。消防職員の行為は、公務に対する信頼を著しく損なう悪質なものであり、厳しい非難に値するものというべきであって、懲戒処分として免職処分を選択したことは、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したものということはできない。
有効
職務専念義務違反、情報漏洩
学校法人目白学園事件(東京地裁 令和2年7月16日 判決 労判1248号82頁)労働者1が、学校法人の理事ら個人について侮辱的表現を繰り返すなどしたメールを複数回、他の労働者に対して送信したこと、労働者2は労働者1に対して職務上知り得た個人情報を漏洩したことを理由に、停職5日の懲戒処分を受けた。
停職労働者1は、理事らに侮蔑的なあだ名を付けて一方的に批判、揶揄する内容のメールを、学校法人内部の1名から18名に対し、約1か月の短期間に11回にわたり送信したものであり、その内容、回数等のほか、送信を受けた他の職員が業務とは無関係の内容の上記各メールを作成、閲読させるなどして学校法人の業務に与えた影響も考慮すると、就業規則等に定める義務違反の程度を軽視することはできない。そして、労働者1が以前に同様の行為を行ったことにより口頭厳重注意を受けたことがあるにもかかわらず、再度、理事等を批判、揶揄する内容の本件メール2ないし12を送信したことからすると、労働者1の上記義務違反の責任は軽いものとはいい難いとして、有効と判断した。
一方、労働者2が労働者1に対して情報を提供したことは、職務上知り得た個人情報を漏えいし、又は自ら不当な目的で使用したものであり、加えて、収集した個人情報について定められた目的以外の目的への利用及びあらかじめ情報主体の同意を得ない第三者への提供にも当たるというべきであり、これらの点で懲戒事由に該当すると認められるが、情報の内容が内部において必ずしも秘匿性が高い情報であるとまではいい難いこと、情報が漏えいし、これにより学校法人に何らかの損害が生じたとも認められないことなどを考慮すると、懲戒処分が重い方から懲戒解雇、降職、出勤停止、減給、戒告とある中において、労働者2に対する懲戒処分として、出勤停止という重い方から3番目の懲戒処分とすることは重きに失し、相当性を欠くというべきであるとして無効と判断した。
労働者1は有効
労働者2は無効
引抜行為、就業規則違反福屋不動産販売事件(大阪地裁 令和2年8月6日 判決 労判1234号5頁)労働者2名が、本部長及び店長という重要な地位にありながら、同業他社への転職の勧誘を繰り返したこと、労働者1名が宅地・居宅を居住用に購入する旨虚偽の届出を行い、会社に損害を与えたことを理由に、それぞれ懲戒解雇を行った。懲戒解雇労働者2名の引抜行為は、単なる転職の勧誘にとどまるものではなく、社会的相当性を欠く態様で行われたもので、解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められると、有効と判断した。
一方、労働者1名の就業規則違反については、会社が具体的に被った損害としては仲介手数料を得られなかったというにとどまり、その額も大きな額であったとまでいえない。加えて、結果的に、労働者1名が本件宅地・居宅に現在に至るまで居住し続けていることを考慮すると、懲戒事由に該当するとしても、解雇が社会通念上相当とまでは認められないとして、無効と判断した。
2名は有効
1名は無効 
職務怠慢北海道協同組合通信社労働組合事件(札幌地裁 令和2年8月6日 判決 労判1232号5頁)労働者が、大会における理由がない欠席、職場集会に対する態度、被告の組合活動を軽視する発言等を理由に、労働組合が、除名処分を行った。除名処分裁判所は、除名処分の理由とした,欠席,態度,発言は,いずれも統制事由に該当しないか,該当するとしても,除名処分とするのは著しく均衡を失したものと認められ,統制事由に当たり得る事実を総合考慮しても,これまでに制裁を受けた事実は認められないこと,定期大会に欠席した形跡はないこと,職場集会にも短時間とはいえ参加していたこと,一般の組合員であって責任が重かったとはいえないこと,新規約には除名処分の他にも戒告及び権利停止というより緩やかな制裁の定めもあり,除名以外の制裁も検討し得たにもかかわらず,それらが検討された形跡は見当たらないこと等から,除名処分とするのは均衡を失したものといわざるを得ず,統制権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるものといえ,無効と判断した。無効
不正受給
津市事件(津地裁 令和2年8月20日 判決 ジャーナル105号12月)市職員が、公用車の自動車燃料給油伝票を用いて、職員の自家用車に不正に給油したことを理由に、懲戒免職処分とされた。
懲戒免職市職員は、平成26年8月頃から、自家用自動車の公務への使用に関する規則等に反していることを認識しながら、企業誘致室に保管されていた給油伝票を持ち出し、自家用車に給油するようになった。さらに、平成27年5月9日には、本件伝票を持ち出し、自家用車に給油を行った後、これを返還せずにそのまま保持し、以後、本件伝票を用いて、自家用車に給油を行った。平成28年4月にスポーツ振興部へ異動した後は、外出回数自体は減ったものの、週末のイベントや、企業誘致室の後任の引継ぎなどの事務のために自家用車を使用していたため、主として本件伝票を用いつつ、スポーツ振興部に備えられた給油伝票も利用して、自家用車に給油を行っていた。平成26年8月から平成28年11月までの間に63回にわたって、自家用車を使用していたにもかかわらず、給油伝票に公用車の車両番号等の虚偽の記載をして、給油業者及び市の担当職員を欺罔し、自家用車に不正に給油を受け、市に27万0831円の損害を与えたことが認められる。市職員は、市の参事として、部下を管理・指導する管理職の地位にあり、特に出張の多い企業誘致室においては、市の手続にのっとった適正な出張を率先して行うとともに、これを指導・監督すべき地位にあるというべきである。このような立場にある市職員が、上記のような不正給油を行ったことは、市の職員に対する管理職への信用を損なうものである。これに加え、市職員の非違行為については、全国紙でも報道され、市の公務員に対する信用をも損なうものというべきであり、市職員の非違行為が職務に与える影響は大きいものといわざるを得ない。市職員が非違行為の後には反省の態度を示し、市のために勤務をしていること、市職員は全額の被害弁償をしていることなどの市職員に有利な事情を勘案した上で、免職処分を選択するに当たっては特に慎重な配慮を要することを踏まえても、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることはできない。有効
職務怠慢メディアスウィッチ事件(東京地裁 令和2年9月25日 判決 ジャーナル106号1月)労働者が、職務怠慢、無断欠勤、横領を理由に会社は、出勤停止処分を行った上、懲戒解雇を行った。懲戒解雇裁判所は、被告の主張する処分理由について前提事実が存在せず、客観的に合理的な理由はなく、社会通念上相当であるとも認め難いから,労働契約法15条に鑑み,無効と判断した。無効
学校の信用毀損、不正受給、パワハラ
学校法人國士舘ほか(懲戒解雇等)事件(東京地裁 令和2年10月15日 判決 労判1252号56頁)
教授1は、学外研修の学生補助費及び引率旅費の余剰金を精算返金しなかったこと、学生に対し、人格を否定し指導の範囲を逸脱した発言を行ったとして、教授から専任講師または准教授への懲戒降等級処分を受けた。
教授2は、学生らの前で学長への批判を複数回行ったことを理由に、懲戒解雇された。
降等級
懲戒解雇
教授1が、学外研修の費用に、学生補助金、引率旅費及び学生負担金を充てて、生じた余剰を学生に返還していたことが窺われるから、法人に返還すべき金員を着服したなどの事実があるとは認め難い。教授1の特定の学生に対する発言は、人格を否定し、指導の範囲を逸脱しているもので、教員規則2条3号に違反し、20条の懲戒事由に該当するが、留年した特定の学生に対する指導において不適切な発言があったということはいえるが、そのことから直ちに、教授1の指導全般に問題があったとまでは認められす、教授の地位を剥奪して専任講師又は准教授とするのは、重きに失するというべきである。
教授2の発言は、学生に不信感・不安感を与える内容であったものの、研修に参加した28名の学生の面前という限定された場面での発言であり、伝播性は低く、法人の一般的な信用を毀損するおそれは小さく、また、被告法人の業務に支障をきたしていない。規律違反は重大であるとまではいえず、懲戒解雇の処分は重きに失し、社会的相当性を欠くものと言わざるを得ない。
無効
情報漏洩 熊本県・熊本県教委事件(熊本地裁 令和2年11月11日 判決 ジャーナル108号3月) 小学校教諭であった労働者が、同僚教諭が児童の通知表や連絡網等の児童の個人情報に関わる重要なデータを保存していたUSBメモリを窃取し、そのUSBメモリを外部の報道機関に送付したことを理由に、懲戒免職処分とした。
懲戒免職 労働者が窃取したUSBメモリには児童の通知表や連絡網等の児童の個人情報に関わる重要なデータが保存されていたことから、本件小学校の職員はUSBメモリを探し出すための校内の捜索のほか、児童や保護者への説明、警察や報道機関への対応等を余儀なくされており、本件非違行為の結果、本件小学校の公務の運営に重大な支障を生じたことも明らかであり、外部の報道機関に児童の成績や連絡網等の重要な個人情報を漏えいし、更にそのことが全国紙を含む複数の新聞においても報道されたことで、職員に対する児童・保護者を始めとした地域社会の本件小学校の職員に対する信用も大きく傷つけられたとして、本件懲戒免職処分を社会的に相当だとした。
 有効
就業規則違反
学校法人國士舘ほか(戒告処分等)事件(東京地裁 令和2年11月12日 判決 労判1238号30頁)教授2名が、他教員及び法人に損害を加える目的並びに他教員に対する誹謗中傷の目的で虚偽の公益通報を行ったとして、公益通報規程5条及び大学教員規則2条1号から3号までに反し、戒告処分とされた。戒告教授2名に懲戒事由があるとした判断は、調査不十分というにとどまらず、中立性、公平性にも疑問があり、本件各処分は違法であると認められる。無効
詐欺行為
国・陸上自衛隊第11旅団長(懲戒免職等)事件(札幌地裁 令和2年11月16日 判決 労判1244号73頁)
自衛官が、詐欺罪に当たる行為をしたとして、懲戒免職処分とされた。懲戒免職自衛官が、自衛隊内の自動車教習所の養成教官として勤務していた際に、私的練習費用として他の自衛官に支払わせた金員を、教習所内のテレビ買替費用に流用した行為は詐欺罪に該当するが、個人的に経済的な利益を得ようとしたものではなく、詐取された金額は合計6万3660円であり、それ自体高額とまではいい難い。しかも、私的練習費用は、仮に、自衛官が本件行為をしなかったとしても、本来、個人として負担すべき車両及びコースの借上費用であって、現実にも、支払った金額に対応する練習ができていることからすれば、本件行為によって、実質的な経済的損害は発生していないともいえることから、本件懲戒免職処分は、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法な処分である。さらに、本件懲戒処分の手続きに重大な瑕疵があることからも、取り消されるべきである。無効
就業規則違反(同僚への恫喝行為) 長崎自動車事件(福岡高裁 令和2年11月19日 判決 労判1238号5頁) 労働者が、異なる労働組合に加入する同僚に対する恫喝行為等を行ったことを理由に、出勤停止の懲戒処分を行った。 出勤停止 本件懲戒処分は、労働者が所属する少数組合差別を目的とした故意行為であり、強度の違法性を有するとして、無効と判断された。 無効
セクハラ
東京都・都教委事件(東京地裁 令和2年12月11日 判決 ジャーナル110号5月)
公立高校教諭が生徒との私的なメール・SNSのやりとりを行い、校内及び校外でキス行為に及んでいたことを理由に、懲戒免職処分とした。
懲戒免職公法51条の2、49条1項は、懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分であって人事委員会に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事委員会の裁決を経た後でなければ、提起することができない旨定めているが、原告は、被告の人事委員会に対して本件懲戒免職処分を不服とした審査請求をせずに同委員会の裁決を経ないまま、本件懲戒免職処分の取消しの訴えを提起している。また、本件全証拠によっても、原告が本件懲戒免職処分の不服申立期間内に審査請求をすることが客観的に見て極めて困難であるなど審査請求前置主義を緩和すべ具体的事情を認めるに足りる証拠はない。よって、本件懲戒免職処分の取消しの訴えは、訴訟要件(審査請求前置)を欠く不適法なものであるから、却下すべきこととなる。却下(有効のまま)
職務命令違反大阪市事件(大阪地裁 令和2年12月23日 判決 ジャーナル109号4月)地方公共団体の職員が、地方公共団体が実施した入れ墨の有無等に関する調査に回答するよう職務命令を受けたが回答しなかったところ,これが職務上の義務に違反するとともに、職員としての信用を著しく傷つけ、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があったとして、戒告処分とされた。
戒告地方公共団体が,別の職員について児童福祉施設に入所中の児童に対して入れ墨を見せて恫喝したり,同僚女性に対するセクハラを行っているなどという通報を受けたことから,同通報に係る事実調査を行った経緯があり,市民に応対する職員が入れ墨を入れていることが市民の目に触れれば,多くの市民が不安感や威圧感を覚えることも容易に想定できるところ、本件調査はその目的・手段において合理的かつ相当ということができる。職員は、適法かつ有効な本件職務命令を受け、上司らから、繰り返し本件調査に回答するよう説得を受けるなどしたにもかかわらず、結局、調査票を提出せず,本件調査に回答しないで本件職務命令に違背した。
有効
酒気帯び運転鳥取県事件(鳥取地裁 令和3年1月22日 判決 ジャーナル109号4月)
公務員が酒気帯び運転を行ったことを理由に、懲戒免職処分とした。懲戒免職公務において飲酒運転をしており、かつ、飲酒運転をして出動することがやむを得なかったというべき事情はなく、必要性、緊急性に関する誤った独自の判断で飲酒運転に至ったものといわざるを得ず、本件酒気帯び運転の動機が悪質でなかったことを考慮しても、飲酒運転の経緯についても相応の非難が妥当する。本件酒気帯び運転により公務の遂行及び公務に対する信頼に一定の悪影響が及んでおり、懲戒免職処分を選択するのが相当な事案であるというほかない。
有効
業務命令拒否
学校法人甲大学事件(大阪高裁 令和3年1月22日 判決  ジュリスト1565号127頁)
労働者らが、担当教員としての授業数の増加または委員会業務実施を拒否したことを理由に、けん責の懲戒処分を行った。
けん責一審判決を相当であるとし、けん責処分を有効とした。有効
就業規則違反 医療法人社団和栄会事件(さいたま地裁 令和3年1月28日 判決 労経速2448号7月10日) 新たに雇い入れた医師が防塵マスクと青色のゴム手袋を着用して病院内であいさつ回りを行ったことを理由に懲戒解雇した。
懲戒解雇 病院の主張する損害や不都合は、医師の姿が奇異であったことから、数名の来訪者から職員に対して新型コロナウイルス感染者が出たのかといった問い合わせがあったというようなものであるが、このような問い合わせがあったことを客観的に裏付ける証拠はないばかりか、仮にかかる問い合わせがあったとしても、病院に重大な損害が生じたというには足りないし、本件装備の着用自体が患者に対する不都合な行為に当たるということもできない。その他、本件全証拠をもっても、医師の行為によって、病院に具体的な損害が生じたこと、患者に対して何らかの不自由、不都合が生じたことを認めるに足りる証拠はないとして、無効と判断した。 無効
暴行シナジー・コンサルティング事件(東京地裁 令和3年2月15日 判決 ジャーナル111号6月)無断欠勤・遅刻を繰り返していた労働者が、注意した上司とつかみ合いになり、肋骨骨折の傷害を負わせたことから、懲戒解雇された。懲戒解雇本件暴行について、上司と労働者のいずれの供述が信用できるか認定するに足りる証拠は双方ともに提出できていないことから、本件暴行の事実を認めるに足りる証拠は存しないというほかなく、少なくとも労働者と上司が口論の末にお互い掴みあってもみあいになって他の従業員数名らが労働者と上司の間に入るなどして,その機会(相手の有形力行使が直接の原因であるかは認定できない。)にお互い負傷した事実までしか認定できないというべきである。また、労働者の無断欠勤・遅刻については、会社が勤怠の記録や都度の指導、賃金への反映などを行っておらず、無断欠勤・遅刻・早退の具体的日時すら明らかにできていないから、会社が労働者の勤務状況を容認していたと評価するほかない。したがって、懲戒事由があるとは認められず、懲戒解雇は無効と判断された。
無効
暴言、配転命令拒否F-LINE事件(東京地裁 令和3年2月17日 判決 労経速2454号9月10日職場での暴言を理由に平成29年4月に譴責処分を受けた労働者が、処分後も言動の改善がなく、配転命令を拒否し、平成31年1月9日から出勤しなくなったことを理由に平成31年3月1日付けで懲戒解雇された。懲戒解雇労働者は、本件譴責処分後、配車担当者に対して配車に関して複数回不満を伝えていたにとどまるから、このような言動が、懲戒解雇事由に該当するとは認められない。労働者が本件譴責処分以後、G氏に対する嫌がらせをしていたと認めるに足りる証拠はなく、当該事実を認めることはできないから、G氏が労働者を原因とするストレスを抱え、業務に支障が生じていたとしても、労働者の非違行為があるとは認められない。一方、本件配転命令には別事業所の欠員補充など業務上の必要性があると認められる。本件配転命令によって、労働者に著しい不利益が生じるとは認められず、また、労働者を退職に追い込むなどの不当な動機・目的を有していたとは認められない。労働者は、本件配転命令後、別事業所における初出勤日である平成31年1月9日に出勤することなく、同営業所のQマネージャーが電話で出勤を求めたのに対し、納得できないので業務命令には従わない旨回答し、同日以降、同年2月27日までは電話に出ることもなく、ショートメールによる連絡に対しても反応しなかった。また、会社による同年1月15日、同月25日、同月29日及び同年2月1日付けの文書による出勤指示に対しても反応せず、同年3月1日付けで本件解雇されるまでの間、被告に対して何らの連絡をすることなく欠勤を継続した。この無断欠勤は、懲戒事由に該当するため、懲戒解雇は有効である。有効
暴行、隠ぺい工作氷見市・氷見市消防長事件(名古屋高裁金沢支部 令和3年2月24日 判決 ジャーナル111号6月)消防職員が、パワハラ行為の暴行を理由に、平成29年2月27日付けで停職2か月(第1処分)、パワハラ行為の関係者らに対して圧力をかけたことを理由に、同年4月27日付けで停職6か月(第2処分)の懲戒処分をうけた。
停職第1処分について行われた調査報告書の内容は信用でき、処分の裁量権の逸脱や濫用も認められず、適法である。一方、第2処分については、非違行為があったものの、最長の期間である停職6か月としたのは重きに失するものであって社会通念上著しく妥当性を欠いており,消防長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであると認めざるを得ない。
第1処分は有効
第2処分は無効
情報漏洩みずほ銀行事件(東京高裁 令和3年2月24日 判決 労判1254号57頁)
労働者が、多数の非公表情報を持ち出し、情報漏洩したことを理由に、懲戒解雇された。懲戒解雇労働者は、多数の非公表情報を反復・継続的に持ち出し、漏洩した。持ち出し、又は漏洩した情報の中には、複数のMBランクの情報(漏洩が生じた場合、顧客等や銀行グループの経営や業務に対して重大な影響をおよぼすおそれがあるため厳格な管理を要するもの)が含まれている。さらに、労働者が漏洩したMBランクの情報が雑誌やSNSに掲載され、非公表情報が一般の公衆に知られるという現実的な被害も発生している。銀行の信用を大きく毀損する行為であり、反復継続して情報を持ち出し。漏洩行為が実行されたことも併せて考慮すると、悪質性の程度は高い。有効
異動拒否長崎市・長崎市選挙管理委員会事件(長崎地裁 令和3年3月9日 判決 ジャーナル111号6月)地方公共団体の職員が、平成28年3月23日に異動の予告を告げられ、不満を述べていたが、翌日、上司立ち会いで退職願を作成・提出し、依願免職処分とされた。依願免職処分職員は、遅くとも平成4年10月には統合失調症を発症し、平成27年12月以降、悪化し続け、平成28年3月24日時点で相当程度悪化しており、その直後の30日異常行動に及んで同日のうちに医療保護入院に至っているうえ、職員の入院当初の心身の状態は、精神科の医師によって成年被後見人相当と診断されるほどであった。これらからすれば、本件退職願を提出した平成28年3月24日時点において、職員の判断能力は、統合失調症のため、自身の置かれた状況を正確に把握したり、自身の言動がどのような影響をもたらすか、特にどのような法的効果をもたらすかについて判断したりすることができない程度であったと認めるのが相当であるとして、退職願は無効、無効な本件退職願を前提としてされた本件処分は、その基礎を欠く違法なものであって、取り消されなければならない。無効
情報漏洩遊楽事件(東京地裁 令和3年3月10日 判決 ジャーナル113号8月)
パチンコ店店長が、スロットの設定に関する情報を外部に漏洩し、特定の人物らに不正に出玉を獲得させ、会社に損害を与えたことを理由に、懲戒解雇された。
懲戒解雇パチンコ店店長が本件店舗の設定情報を漏洩したことが認められ、本件処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとは認められないとして、有効と判断された。
有効
職務遂行不能
神戸市事件(神戸地裁 令和3年3月11日 判決 労経速2453号8月30日)市役所職員が、双極性感情障害及び境界性(情緒不安定性)パーソナリティ障害に罹患したことを理由に、平成27年8月21日から療養を開始し、平成28年3月31日付けで分限免職処分とされた。
分限免職処分職員は、上記傷病について治療を受けた結果、平成27年12月時点で改善傾向が見られ、職場における問題行動の再発を回避できる可能性があるとされており、職員が治療を継続し、かつ、より精神的負担の少ない職務に従事すれば、今後、職員が職場で問題行動に及ぶ可能性を抑えることができる見込みが十分にあったということができる。職員の職場での問題行動は、直ちに簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因するものではなく、職員が安定して職務に従事していた時期が認められることからすれば、精神的負担の少ない職に配置するなどの対応が可能であるとして、無効と判断した。
無効
情報漏洩
神社本庁事件(東京地裁 令和3年3月18日 判決 ジャーナル113号8月)宗教法人において、役員が背任行為を行ったという虚偽の内容の文書を配布したとして、労働者1が懲戒解雇、労働者2が降格及び減給の懲戒処分を受けた。労働者1 懲戒解雇
労働者2 降格及び減給
役員による背任行為はなかったのであるが、労働者1・2が、背任行為などの一部の事実につき、真実であると信じるに足りる相当の理由があったとして、情報漏洩が不正な目的ではなく、懲戒すべき行為に当たらないとして、無効と判断された。
無効
不正受給学校法人帝京大学事件(東京地裁 令和3年3月18日 判決 労経速2454号9月10日)
大学教員が、虚偽の経路を記載した通勤届を提出して通勤手当を不正受給したこと、不正な研究費請求を行ったこと、教員紹介に虚偽の記載を行い修正しなかったことを理由に、懲戒解雇された。
懲戒解雇教員は、採用当初から、帰省等の費用を取得する目的で、支給される通勤手当と実際に通勤に係る費用との間に差額を生じさせるため、実際のバイク通勤と異なる通勤手段及び通勤経路を届け出たことを自認しており、実際にも採用後一度も通勤定期券を購入したことがなく、6年間の長期間にわたり、通勤手当合計200万4067円を不正に受給した。また、バイク通勤の事実を大学に秘匿するため、あえて大学の構内の職員用無料駐車場ではなく、近隣店舗に駐輪していた。悪質な詐欺と評価すべき行為により重大な結果を生じさせた上、その他の違反行為からも、全体的に規範意識の欠如が顕著であるだけでなく、自己の行為を隠蔽する行動に出るとともに、自己の責任を自覚せず、他者に責任を転嫁するような言動を繰り返すなどしたものであり、大学の教員として、学生を指導育成するとともに、その研究を指導する職責を担うにふさわしいとは到底いえないと評価せざるを得ない。
有効
不正請求
仙台市事件(仙台地裁 令和3年3月25日 判決 ジャーナル112号7月)市役所職員が、事前申請していない時間外勤務等を、実際に勤務をしていない他の日時に勤務をしたことにして時間外勤務等を申請する処理(付替処理)を行い、合計57万4908円相当額を不正に受給したとして。懲戒免職処分となった。懲戒免職職員は、別の日時に就労した分の給与を受給する目的で付替処理を行うことが許されていないことを認識しながら本件非違行為に及んでおり、本件非違行為によって職員が不正に受給した金額は57万4908円と少額ではなく、地方公共団体職員の給与が市民の納める税金等によって賄われていることに照らせば、本件非違行為は職員全体に対する市民の信頼を失わせる行為に当たることが明らかである。
有効
遅刻
不二タクシー事件(東京地裁 令和3年3月26日 判決 労判1254号75頁)
タクシー運転手が、特段の理由もなく出庫時間、帰庫時間を守らないで勤務することを長期間継続し、夜勤の乗務員の中でも時間に遅れることが一番多く、複数回にわたって出庫時間、帰庫時間の不遵守を理由として出勤停止14日間の懲戒処分を受けた。出勤停止タクシー運転手の出庫時間、帰庫時間を遵守しない勤務状況が常態化していたにもかかわらず、本件懲戒処分まで、同人に対する懲戒処分がされたことはなく、平成27年3月以降、始末書の提出も求められておらず、平成29年2月以降、個別の指導がされた形跡もない。本件懲戒処分は、会社の懲戒処分の体系上、懲戒解雇、降職に次ぐ重さの懲戒処分である出勤停止が選択され、その期間も上限である14日間とされており、決して軽微なものではなく、このような処分をする上では、少なくとも事前の警告が必要であったというべきであるが、処分内容を記載した書面を会社事務所に貼り出す方法によってタクシー運転手に一方的に告知されており、これに先立って、懲戒事由をタクシー運転手に告げた上で、その言い分を聴く手続はとられておらず、会社就業規則の定める、上長が始末書を提出させた上で、実情を調査した上、処分に対する意見を社長に具申するという手続も履践されていない。本件懲戒処分は手続の相当性を欠くものであったといわざるを得ない。
無効
情報漏洩 堺市事件(大阪地裁 令和3年3月29日 判決 労判1247号33頁) 職員が、選挙事務等の業務に関して取り扱っていた選挙有権者データを無断で持ち帰り利用したこと、同データや他の個人情報を含む業務関連データを私的に保有した上、自身の契約する民間のレンタルサーバーに保存した結果、約2か月の間、これらのデータがインターネット上で閲覧可能な状態となり、個人情報の流出が判明したこと等を処分事由として、懲戒免職処分とされた。
懲戒免職 職員は、個人情報等を無断で自宅に持ち帰って長期間にわたって保有し続け、有権者情報を私的に行っていた自作システムの開発のために利用した上、自作システムの販売等のために、少なくとも重大な過失により、有権者データや参加者らデータ等の極めて高度かつ多量の個人情報を第三者から閲覧可能な状態にあったレンタルサーバー上に保管した結果、これらがインターネット上に流出する事態を招いたものであり、職員の責任は重大であり、懲戒免職処分は違法であるといえないとした。
 有効
架空発注
医療法人偕行会事件(東京地裁 令和3年3月30日 判決 ジャーナル114号9月)従業員兼理事が、医療法人のクリニック増築工事を受注した業者に対し、法的根拠のない金銭を支払うよう強要して金銭を支払わせたこと、電気配線更新等工事に関する架空発注を主導し、医療法人に損害を与えたことを理由に、懲戒解雇された。
懲戒解雇工事業者に対し、理事への金銭の支払を要求したものではないが、医療法人から工事を受注した取引先に対して威圧的言動を用いて法的根拠のない金銭の支払を要求するものであって、その態様に照らすと規律違反の程度は軽いとはいえない。架空注文については、内容虚偽の請求書を作成して医療法人の関連法人を欺いて4200万円を超える損害を与えたというものであり、その態様は極めて悪質で関連法人に与えた損害も重大であって、これを主導した理事の規律違反の程度は著しいというべきであるとして、有効と判断した。
有効
不正受給JTB事件(東京地裁 令和3年4月13日 判決 労経速2457号10月10日)統括部長の立場にある労働者が、出張旅費や会議打合費、交際費を不正受給したことを理由に懲戒解雇された。懲戒解雇労働者の不正受給は、就業規則111条の諭旨退職事由に該当する行為であり、労働者は諭旨退職処分を受けた後、会社が指定する期限までに退職届を提出しておらず、諭旨解雇処分としての退職勧告に応じなかった場合に懲戒解雇とする旨を定めた就業規則110条所定の場合に当たることも明らかである。さらに、プロジェクトを統括し、事業部やプロジェクトに属する部下を管理・監督する責任と権限を与えられるなど、重大な職責を担う立場にありながら、不正受給行為に手を染めていたもので、企業組織秩序に与えた悪影響の程度は大きく、解雇権の濫用にも当たらず、有効と判断した。
有効
横領、不正受給小市モータース事件(東京地裁 令和3年4月13日 判決 ジャーナル114号9月)労働者が、取引先から振り込まれた業務委託料を横領し、クラブ等で私的に費やした飲食代等を会社の経費として申請し、これらを不正受給したとして懲戒解雇された。
懲戒解雇横領の事実を認めるに足る証拠はなく、また、労働者は営業担当者として、取引先等の接待交際を行っていたことが認められ、接待交際費として支出した可能性を否定できない上、これらの支出が会社において経費として認められないものであったと認めることもできず、解雇は、客観的に合理的な理由を欠いており、権利濫用で無効と判断した。
無効
窃盗
大阪府・府教委事件(大阪地裁 令和3年6月30日 判決 ジャーナル115号10月)小学校教諭が、八尾市内のパチンコ店において、他店で入手したスロットの1枚5円のメダルを1枚20円のメダルにすり替えるなどにより、当該メダルを窃取したところを店員に見つかり、通報により駆け付けた警察官に窃盗の容疑で現行犯逮捕されたことを理由に、懲戒免職された。
懲戒免職小学校教諭は、平成25年8月4日及び同年8月11日に布施店から持ち出した5円メダル合計約1100枚に関し、約1050枚について、窃盗罪又は窃盗未遂罪が成立する。一連の行為は、複数店舗にまたがり、複数の日にわたって多数のメダルを用いて敢行するもので、一定の計画性があるほか、模倣性もあり、店舗を変えることで発覚を免れようとする意図もうかがえる点で悪質である。安易で自己中心的な動機に基づく行為というべきであって、不正に持ち出して遊戯した約1050枚について支払を免れた額は、1枚当たり15円として計算した場合で約1万5750円となり、被害額は高額ではないものの、軽微なものともいえない。加えて、本件非違行為により、現職の教諭が現行犯逮捕されるに至ったことがマスコミによって報道されたことにより、本件学校や大阪府の公立学校のみならず、公教育全体への信頼を低下させたという面があることから、有効と判断した。有効
窃盗、暴行国(在日米軍基地・出勤停止)事件(那覇地裁 令和3年7月7日 判決 労判1251号24頁)労働者1~11が中古エアコンの部品を民間業者に売却したことを理由に、7日間の出勤停止処分が行われた。
労働者12が部下の米国人に対して暴行を働いたことを理由に、3日間の出勤停止処分が行われた。
出勤停止労働者1~11は、平成29年10月、T飛行場の冷暖房機械工らの一部(18名)が、集団的かつ常習的に業務上回収した同飛行場のエアコン部品を解体して基地外のリサイクルショップに売却し、売却益を分配する行為に及んでいたこと(本件窃盗行為)が発覚したところ、共犯者である同僚らの供述により、労働者1~11が窃盗行為に関与していたとして処分を受けたものであるが、同僚の供述以外に窃盗行為に関与したと認めるに足りる的確な証拠はなく、窃盗への関与を認めた同僚は労働者1~11が関与していたと供述していないことからも、制裁措置の対象となった本件窃盗行為の事実を認定することはできない。
労働者12は、部下の従業員Aの遅刻に関して同人と口論となった末、早退したいと言った同人に対し、「待ってください」と言ってその腕をつかみ、さらに、体に触れないよう言って手を振りほどいた同人の腕を再度つかみ、その後、同人が自車に乗り込もうとした際,自らの体で同車のドアを閉められないようブロックし、従業員Aの肩に手を当てて職場に戻るよう要請したもので、店長としての職責に基づく部下の管理・監督のためにされたものとして、業務上の必要性が認められ、身体的接触についても、社会通念上必要やむを得ない範囲であったといえる。
無効
セクハラPwCあらた有限責任監査法人事件(東京高裁 令和3年7月14日 判決 労判1250号58頁)
労働者が女性労働者に対し、帰宅時つきまとうなどのストーカー行為を複数回行ったことを理由に、諭旨免職の懲戒処分を受けた。諭旨免職労働者が行ったストーカー行為の態様は、平成29年9月頃から同年11月末までの約3か月間にかけて、職場で被害女性に視線を送ったり、被害女性の利用する座席のそばの座席を使用したり、被害女性が退社して駅に向かうとその後を付けたり、被害女性が退社して駅に来るのを待ち伏せ、ホームで被害女性を見失うと、被害女性が利用する乗換駅に行って被害女性を探したりしたというものであって、これらにより、労働者に対して警視庁丸の内警察署長により警告がされた。このようなストーカー行為が、被害女性の意に反する言動であって、ハラスメント行為に該当することは明らかというべきであるが、法人においても、警察の捜査官が労働者に対して事情聴取を行うのに応対し、また、法人もその担当者によって労働者に対して事情聴取を行う必要に迫られたほか、その後も、被害女性の身の安全等に関する警察からの照会に応ずるなどの対応をとることを余儀なくさせられたのであるから、労働者の本件ストーカー行為及びそれにより生じた事情は、就業規則123条20号の「ハラスメントにあたる言動により、法人秩序を乱し、またはそのおそれがあったとき」に該当するものと認められる。
さらに、労働者は本件ストーカー行為について反省の弁を述べるものの、被害女性は入院したりPTSDになったりしておらず、普通に出勤しているから問題はないのではないかなど、被害女性への配慮を欠く発言をしていたのであって、被害女性が受けた精神的苦痛を十分に理解し、本件ストーカー行為について真摯に反省していたとはいい難い状況にあったことからも、本件諭旨免職処分が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上同等であるとは認められない場合に当たるとはいえない。
 
有効
就業規則違反学校法人國士舘(戒告処分)事件(東京高裁 令和3年7月28日 判決 ジャーナル118号1月)
教授2名が、他教員及び法人に損害を加える目的並びに他教員に対する誹謗中傷の目的で虚偽の公益通報を行ったとして、戒告処分とされた。戒告教授1は、法人を退職し、労働契約が既に終了しているから、本件処分を前提とした新たな不利益を受ける危険、不安はもはや存在せず、本件処分の無効確認を求める法律上の利益があるとは認められないため、無効確認についての訴えは却下するが、違法無効な戒告処分により被った損害賠償は認める。
教授2は、現在も法人に雇用されており、本件処分を前提とした新たな不利益を受ける危険、不安があり、本件処分の無効確認を求める法律上の利益があると認められる。教授2に懲戒事由があるとした法人の判断は、調査不十分で、中立性、公平性にも疑問があり、違法な処分である。
教授1 却下(実質的には無効)
教授2 無効
業務命令違反テトラ・コミュニケーションズ事件(東京地裁 令和3年9月7日 判決 労経速2464号12月20日30日)労働者が、業務と関連なく、会社のグループウェアに会社及び代表者を批判する書込みをしたことを理由にけん責処分を受けた。
けん責必要書類の提出を拒むなどした労働者の態度が、懲戒処分を相当とする程度に業務に非協力的で協調性を欠くものといえるかについては、経緯や背景を含め、本件メッセージの送信についての労働者の言い分を聴いた上で判断すべきものといえる。そうすると、労働者に弁明の機会を付与しなかったことは些細な手続的瑕疵にとどまるものともいい難いから、本件けん責処分は手続的相当性を欠くものというべきである。
無効
監督不行届みよし広域連合事件(徳島地裁 令和3年9月15日 判決 労経速2470号2月28日)飲酒運転によるひき逃げ死亡事故を起こした自動車に消防署職員が同乗していたことに関し、消防本部の長として監督不行届があったとして、消防長が戒告の懲戒処分を受けた。
戒告本件事故発生時、消防長は、病気休暇取得中であり、部下職員に対する指導監督を行うことは期待できず、病気休暇期間中について、部下職員らに対する管理監督義務の懈怠があったと認めることはできず、病気休暇取得前の時期においても、毎月の署長・課長会議等において、所属長らに対し、公務員倫理意識の涵養や社会人としての自覚の徹底、飲酒運転防止についての部下職員への指導を指示したり、年末には、職員らに対し、飲酒運転や飲酒運転車両への同乗の禁止について注意喚起を行うなどしていたと認められ、消防長に求められる部下職員に対する管理監督義務の懈怠があったとまではいえず、懲戒事由該当性があるとはいえない。
無効
情報漏洩神社本庁事件(東京高裁 令和3年9月16日 判決 ジャーナル119号2月)宗教法人において、役員が背任行為を行ったという虚偽の内容の文書を配布したとして、労働者1が懲戒解雇、労働者2が降格及び減給の懲戒処分を受けた。労働者1 懲戒解雇
労働者2 降格及び減給
背任行為はなかったのであるが、労働者1・2が、背任行為などの一部の事実につき、真実であると信じるに足りる相当の理由があったとして、不正な目的ではなく、懲戒すべき行為に当たらないとして、無効と判断された。無効
パワハラ長門市・長門市消防長事件(広島高裁 令和3年9月20日 判決 ジャーナル119号2月)
消防署員が、部下への暴行、暴言、卑猥な言動及びその家族への誹謗中傷を繰り返し、職場の人間関係及び秩序を乱したとして、分限免職処分とされた。
分限免職署員のパワハラ行為は冗談や悪ふざけの域をはるかに超えた悪質なものであり、そのうちの一部の行為について刑事処分を受けていることも併せ考えると、消防吏員としての適格性には問題があるといわざるを得ないから、相応の重い分限処分を受けるのは避けられないというべきであるが、署員が一応は反省の情を示し、上司からの指導に従っている。加えて、パワハラ行為が露見していたか否かにかかわらず、市においてパワハラ行為等の防止のために、その職員に対し、研修等を実施すべきことは今日の社会的要請であるのに、パワハラ行為の防止の動機付けをさせるような教育指導や研修等を、市が具体的に行った事実はうかがわれないことから、署員に対して更生の機会を与えることなく、分限処分のうち最も重い分限免職の措置をとることが重きに失するというべきである。
無効

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