引き留め

有期雇用契約社員による期間満了前の退職を拒否して引き留めることは可能か?

社長
当社には、雇用契約期間を2年間とする有期雇用契約を締結している契約社員がおります。その社員が入社から1年2ヶ月しかたたないのに退職したいと申し出てきました。当社としては、その社員に割り当ててある業務もありますし、本人の勤務状況も良好であったため、契約期間どおり働いてほしいと考えておりますが、本人に理由を聞いても納得がいく答えがありません。当社としては、契約違反であるとして申し出を拒否しても問題ないでしょうか。
弁護士吉村雄二郎
会社従業員は、契約期間が既に1年経過しておりますので、労基法附則137条により、契約期間の初日から1年経過後は、いつでも自由に辞職できると思われます。従って、会社としては拒否することはできず、当該従業員を説得するしか方法はないでしょう。ただし、一定の場合損害賠償を請求できる余地があります。
2週間の予告期間をおけば、労働者はその理由の如何を問わず辞職することができる(民法627条1項)
有期雇用契約では、「やむを得ない事由」がなければ期間途中に辞職できない(民法628条)。ただし、労基法附則137条(の暫定措置)により、契約期間の初日から1年経過後は、いつでも自由に辞職できるとされている。
辞職が法的に認められる場合はもちろん、法的に認められない場合は、強制的に働かせることはできない。
退職の効力が発生していないのに職務を怠ったことによって損害が発生した場合は損害賠償を請求することも可能

1 ここが問題

労働者の一方的な意思による退職(以下、「辞職」といいます)は自由に認められるのか、会社がとり得る対応は何か、が問題となります。

2 辞職について法律が定めるルール

[1]雇用期間の定めのない場合

2週間の予告期間をおけば、労働者はその理由の如何を問わず辞職することができます(民法627条1項)。この場合、辞職の申し入れの日から2週間が経過すれば雇用契約は終了することになります。

[2]雇用期間の定めのある場合(有期雇用契約)

これに対して、有期雇用契約の場合は、労働者は「やむを得ない事由」がある場合でなければ、期間途中で辞職することはできません。また、やむを得ない事由がある場合でも、それが労働者の失によって生じたもので、使用者に損害が生じた場合には、その損害を賠償する義務を負います(民法628条)。

ただし、契約期間の初日から1年を経過した後は、いつでも自由に辞職することができることが暫定的に認められています(労基法附則137条)。この規定は、従来有期雇用契約の最長期間は1年(例外3年)とされていましたが、2003年の法改正により契約期間の上限が3年(例外5年)に延長されたことを受けて暫定的に定められました。もっとも、この労基法の定めは、一定の事業の完了に必要な期間を定めた場合、専門的知識等を有する労働者および60歳以上の労働者との有期労働契約には適用されません。

辞職に関しては以下の記事をご参照ください。

参考記事

退職届(辞職)の効力はいつ発生するか?

3 辞職が法的に認められる場合

① ご質問の当該従業員は、契約期間3年の契約社員であり、入社より1年が経過しているとのことですので、労基法附則137条により理由の如何を問わず辞職することが可能であると思われます(ただし、この場合でも、民法627条1項により2週間の予告期間が必要です)。

② また、仮に同労基法附則の規定が適用されない場合であっても、やむを得ない事由がある場合は辞職が可能です。

やむを得ない事由とは、期間満了まで労働契約を継続することが不当・不公正と認められるほどに重大な理由が生じたことをいい、例えば使用者が労働者の生命・身体に危険を及ぼす労働を命じたこと、賃金不払い等の重大な債務不履行、労働者自身が負傷・疾病により就労不能に陥ったこと等が挙げられます(土田道夫「労働契約法[第2版]」784頁)。

当該従業員は明確な理由を述べず、就労環境にも問題はなかったとのことですが、事情聴取等により明らかにする必要があります。

③辞職が法的に認められる場合は、会社としては拒否することはできず、当該従業員を説得するしか方法はないでしょう。

ただし、やむを得ない事由が労働者の過失によって生じた場合や退職の効力が発生する前に引き継ぎや業務を怠った場合には、会社が受けた損害につき賠償請求をする余地があります

当該従業員が説得に応ずる場合は、辞職の申し入れを撤回することが可能です。

4 辞職が法的に認められない場合

「やむを得ない事由」がなく辞職が法的に認められない場合でも、現実問題として就労の意思のない労働者に労務の提供を強要することはできません

会社としては、当該従業員と十分に話し合い、説得するしか方法はありません。

そして、労働者が辞職の申し出をし、以降の労務提供を拒否した場合の問題解決は、損害賠償として処理されることになります

辞職した労働者に対して、辞職による損害賠償を請求した裁判例はほとんど見られません(期間の定めのない雇用契約に関し、期間途中での辞職について、労働者に損害賠償を認めた例として、ケイズインターナショナル事件[東京地裁 平4.9.30判決 労働判例616-10]があります)。

ただ、最近では、特定のプロジェクトの遂行のために、高額の費用を費やして、高度の専門的知識を有する労働者をヘッドハント(有期雇用契約)する例が見られます。そこで、例えば特定のプロジェクトを遂行するために不可欠な専門性を有する人材として当該従業員を採用した場合に、辞職によりプロジェクトが頓挫し損害を被ったことを理由に損害賠償請求をすることなどは可能であると思われます。

退職した従業員に対する損害賠償請求については、次の記事を参照してください。

参考記事

退職した社員に対して損害賠償を請求できるか?

対応方法

1 事実の確認

以下の事実を確認してください。
□ 雇用契約の内容(有期雇用契約か、無期雇用契約か、就業規則の退職の定め)
□ 退職の理由(有期雇用契約で期間満了前の場合は「やむを得ない事由」があるか否か)
□ 会社に発生した損害

2 証拠の収集

以下の証拠を確認してください。
□ 雇用契約書・就業規則
□ 退職届
□ 会社に発生した損害に関する資料

3 労働者との交渉

まずは,法的措置に進む前に,労働者と交渉して,会社の望む結果(退職の撤回、損害賠償の支払い等)が得られるようにします。
裁判になる前の交渉の時点で解決できれば,会社にとっても早期解決・コストの低減というメリットがあります。

4 裁判対応

労働者との間で交渉による解決が図れない場合は,会社から又は労働者より法的手続きを取ります。会社からは社員の退職による損害賠償請求、労働者からは損害賠償義務の債務不存在確認等がありえます。会社としては,かかる労働者の法的請求に適切に対応する必要があります。

雇止めについては労務専門の弁護士へご相談を

弁護士に事前に相談することの重要性

雇止めについては、労働者の雇用契約上の地位を失わせるという性質上、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。

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サポート内容及び弁護士費用 の「3 労務専相談」をご参照ください。

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詳しくは

サポート内容及び弁護士費用 の「4 コンサルティング」をご参照ください。

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労務専門弁護士の顧問契約 をご参照ください。

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