インターネット誹謗中傷_懲戒

求人サイトの口コミに誹謗中傷を書き込んだ元社員に損害賠償請求できるか

社長
転職や中途採用の求人サイトの口コミに、「給与が低い」「ブラック企業だ」「上司の好き嫌いで評価される」といった、会社にとっては誹謗中傷ともいえる情報を書き込む元社員がいることが判明しました。当社の中途採用に応募してくる求職者も多くが閲覧する可能性のあるサイトのため、採用に悪影響が出ることを心配しています。こうした書き込みを行う元社員に対し、損害賠償を請求することは可能でしょうか。また、対応策などはあるのでしょうか。
弁護士吉村雄二郎
この投稿は名誉毀損に該当するといえます。情報の主要な部分が真実であるとの立証がなされない限り損害賠償を請求することは可能と考えられます。

1 問題の所在

転職や中途採用の求人サイトの口コミ欄には、実在の会社に関する労働環境に関する投槁がなされており、転職を考えている求職者にとって参考になります。

その反面、「ブラック企業」その他の悪評を記載された場合、優秀な人材を採用したい会社にとって無形の損害を与えることになります。

悪評を記載された会社としては投稿者に対して損害賠償を請求したいと考えることは多くあります。

そこで、どのような場合に損害賠償請求が認められるのかが問題となります。

2 名誉毀損に基づく損害賠償請求の要件

損害賠償請求の成立要件

名誉毀損にいう名誉とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことをいい、法人についてもその名誉権は保護され損害賠償の対象となります(最一小判昭39.1.28)。

そして、以下の6点が成立要件となります(不法行為責任 民法709条・710条)。

① 社会的評価を低下させる事実を流布したこと
② ①により被害者の社会的評価が低下したこと
③ 違法性があること
④ 故意又は過失
⑤ 損害の発生及び額
⑥ 因果関係

①及び②の名誉毀損について

名誉毀損表現行為によって摘示された内容が社会的評価を低下させてはじめて成立します。

社会的評価が低下したか否かは,一般の読者又は視聴者の普通の注意と読み方を基準として判断します(最二小判昭31.7.20、最二小判平24.3.23)。

例1 ブラック企業

「ブラック企業」とは、労働法等の法令に抵触し又はその可能性がある労働条件で従業員を働かせるなどの体質を持ち、入社を進められない企業という意味で用いられ(東京地判平23.7.8)、近年ネット上でよく見かける表現となっています。

転職等を考える人にとって、転職先が「ブラック企業」か否かは重要な参考情報であり、文脈によっては対象企業の社会的評価に相当程度影響があることは否定できません

ただし、「ブラック」との摘示があれば、必ず社会的評価が低下するとは限りません。

判例でも「ブラック專門学校」というツイートによって対象者の社会的評価が低下するとはいえないとした例(東京地判平27.3.17)や「会社、社員もブラック」との掲示板投稿のみでは抽象的すぎて社会的評価を低下させないとした例(東京地判平29.2.10)があります。

具体的な労働条件や労働環境等の記載もあわせなければ社会的評価の低下とは評価されない場合も多いと思われます。

例2 労働条件や労働環境等

名誉毀損が肯定された例として「残業地獄」「パワハラ当たり前」との投稿がなされた例(東京地裁H28.9.2)や「怪我をした場合に労災が一切おりない」「労務中の怪我は全て自己責任で自費で行われる」「社用車で事故を起こした社員が怪我をした際も労災は降りず」との投稿がなされた例(東京地裁H28.9.2)があります。

名誉毀損が否定された例として「サービス残業2~3時間に耐えられる方にはオススメいたします」との投稿がなされた例(東京地裁H29.11.28)があります。

③違法性について

違法性が否定される場合

表現行為が名誉毀損に該当するとしても以下の場合は違法性が否定され、不法行為は成立しません(最一小判昭41.6.23)

名誉毀損の表現の違法性が否定される要件
(a) 事実の摘示が公共の利害に関する事実に係り(公共性)

(b) その目的が専ら公益を図ることにあり(公益性)
(c) 摘示した事実が真実であるか(真実性)、又は、真実と信じるについて相当の理由がある場合(相当性)

私企業の労働環境等に関する情報を転職者が情報を交換する掲示板等に提供することは一般的に(a)公共性及び(b)公益性が認められる可能性が高いといえます。

問題は(c)の真実性・相当性になります。真実性は表現行為をした側が重要部分についての高度の蓋然性をもった立証を行うことが必要とされ、例えば長時間労働や未払残業代といった投稿を裏付ける証拠(タイムカードや給与明細など)をもって立証する必要があります。

相当性は一応真実と思わせるだけの合理的資料又は根拠の有無が問われます。

⑤損害及び損害額について

名誉毀損による損害については、個人の場合は精神的損害に対する慰謝料を、法人の場合は低下した信用を回復する費用等の無形の損害を請求することができます。

損害額は事案毎に判断されますところ、100万円を超えるケースもありますが、実際には30万円~50万円程度となることも多く、企業側のリスクとコストに見合った金額となることは難しいようです。

企業の場合、名誉毀損によって売上が低下したことによる営業損失を賠償請求ができるかが問題となりますが、因果関係の立証が困難なため請求は難しいのが実情です

3 ご質問のケースについて

「給与が低い」「上司の好き嫌いで評価される」「ブラック企業だ」との投稿は、相場より低い賃金で、上長による不公正な人事評価がなされ、労働法等の法令に抵触し又はその可能性がある労働条件で従業員を働かせるなどの体質のある企業であるとの事実が摘示されているといえます。

従って、社会的評価を低下させ名誉権を侵害していると言えます。

よって、投稿者である元社員によって摘示事実に関する真実性の立証がなされない限り、損害賠償を請求することは可能であると考えられます。

弁護士吉村雄二郎
実際に認められる損害額は30万円~50万円になると想定されます。法的手続をとる場合は、弁護士費用等の方が高くついてしまうことも多いと思われます。費用対効果を考えますと、法的手続以外の方法も検討することが通常です。

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