日本システムワープ事件(東京地方裁判所平成16年9月10日判決)

退職後3年間は, 同業の企業に就職しない等の就業規則に違反しないこと等を記載した退職時誓約書に署名押印し提出したのは,損害賠償請求も考えていると言われ,やむなく行ったものであること,解雇予告手当を請求,受領したのは,労基署に相談したところ,解雇予告手当を請求できるとの助言を受け,当面の生活のために支払を受けたもので,解雇を受け入れる意識はなかったことなどから,合意退職の主張を退けた裁判例

1 事案の概要

被告は,コンピュータに関するソフトウエアの作成およびサービスの提供一般労働者派遣業務等を目的とする株式会社であり,原告は,平成15年4月23日,コンピユータシステムエンジニアとして被告に期限の定めなく雇用された。原告は,同年7月4日まで社内研修を受けた後同年7月7日からA生命保険株式会社(以下「A生命」)の本社システム部に派遣され,同所においてシステムエンジニアとしての業務を行っていたが,派遣先従業員の女性Bを繰り返しお茶に誘った(口頭1回メール2回)行為を,派遣先で不道徳な行為に及んだとして,被告は,原告に対し,平成15年7月17日付け「懲戒免職」と題する書面により,試用期間中でありながら就業規則44条11号に該当する事由があったとして,懲戒解雇する旨の意思表示をした。
原告は,派遣先の女性従業員をお茶に誘った行為が,就業規則の懲戒解雇事由に該当する程度の行為ではなく,被告に対し,解雇が無効であるとして,労働契約上の地位の確認と,解雇後の賃金の支払を求めた。

2 日本システムワープ事件判例のポイント

2.1 結論

原告の懲戒解雇は無効であり,普通解雇としても解雇権濫用で無効,解雇予告手当の受領をもって黙示的に雇用契約解約の申し入れを受け入れたとは認められず,原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有するとし,解雇から本判決確定の日まで,従前の賃金を支払うよう命じた。

2.2 理由

1 本件懲戒解雇の効力について

被告は,原告のBに対する行為がお茶の誘いを逸脱するセクハラ行為であったとして,就業規則44条11号が定める懲戒解雇事由に該当すると主張するが,原告のBに対する誘いは口頭で1回,電子メールで2回の計3回にすぎず,その態様や内容自体も通常いわゆる「お茶に誘う」域を出ないものと認められるのであって,被告が主張するような行為であったことを認めるべき証拠はない。むしろ,A生命は原告の1回目のメールの後,原告に注意するよう被告に申し入れていたが,直ちに被告が原告に注意を行わず,2回目のメールが送信されたことを重視したものであり,この結果,原告の出入り禁止という事態に至ったものと推認される。原告の行為は,自己の立場をわきまえない軽率なものではあるが,むしろ,適切な対応をとらなかった被告の側の責任がより大きいというべきである。
そして,原告の行為は,これをもって,就業規則44条11号の懲戒解雇事由である,「ハレンチ,背信な不正不義の行為をなし,社員としての対面を汚し,会社の名誉及び信用を傷つけたとき」に該当するとみることはできない。
さらに,被告は,原告がA生命のパソコンを使用して私的な電子メールを送信したことも問題とするところ,被告の就業規則36条は,社員が遵守すべき服務規律の一として「原則,仕事中は私用電話,私用メールはしないこと」を挙げており,原告のメール送信行為は,この服務規律に反するものであると同時に,派遣先での行為であるため,対外的に被告の信用を低下させる行為といえるが,この点を併せ考慮しても,原告の行為は軽微であり,前記懲戒解雇事由に該当するとするのは困難である。

2 普通解雇の効力について

原告の問題とされる行為は,7月15日から同月17日まで,3日連続して,口頭で1回,電子メールで2回,派遣先の女性従業員Bをお茶に誘ったというものである。原告の行動は,前記のとおり,自己の立場をわきまえず,かつ,相手女性の心情を忖度する姿勢が希薄であって,いささか独りよがりの感があるといえ,また,派遣先のパソコン端末を使用して私用メールを送信したという点では,被告の就業規則における服務規律に反するのみならず,顧客に対する関係で被告の信用を低下せしめる行為である。
しかし,本件行為の内容及び態様それ自体は,特に強く非難されるべき行為とまではいえず,それが原告のA生命出入り禁止という事態に至ったことには被告の対応の不適切さが介在しており,顧客側からの苦情に対し被告が速やかにかつ適切に対処していれば,このような事態は回避できたと考えられること(A生命には,原告が注意されたにもかかわらず同じ行為を繰り返したとの誤った認識があったと推測される。),顧客のパソコン端末を使用して私用メールを送信した点も,メールの内容・長さ,回数からするとごく軽微なもので,この観点からする顧客側の苦情は,従たるものと推認される。
以上を考慮すると,本件行為により,原告について直ちに社員として不適格とまで認めるには至らず,仮にこれを肯定したとしても,本件解雇は,解雇権を濫用するものというべきである。

3 合意解約の成否について

原告が退職時に被告就業規則49条及び50条に違反しないことを誓約し,仮に違反した場合は就業規則47条に基づき提訴されてもかまわない旨が記載された退社時誓約書に署名押印して被告に提出したこと,原告が本件解雇直後の平成15年8月に被告に対し解雇予告手当の支払を請求し,被告が同年9月4日にその支払をした。原告は,被告から解雇を通告された後は被告には出社せず,一時的に短期の仕事をいくつか請け負うなどしてなにがしかの収入を得,同年7月下旬ころには被告に対し離職票や源泉徴収票の交付を請求した。
被告は,本件解雇の意思表示を本件雇用契約解約の申し入れとし,少なくとも解雇予告手当を受領した平成15年9月5日には,原告がこの申し入れを承諾したと主張する。
しかし,原告が退社時誓約書を作成する際,被告から,本件行為により被った損害について損害賠償請求も考えていると言われ,そのような事態を避けるためやむなくその作成に応じたこと,原告は,本件解雇を通告された直後の7月下旬ころ,本件解雇について労働基準監督署に相談し,その指導により被告に対し離職に伴う書類を請求するとともに,解雇予告手当の請求をすることができるとの助言を受け,当面の生活のため被告にこれを請求してその支払を受けたが,これにより解雇を受け容れるという意識はなかったこと,原告は,同年12月,法律扶助協会を通じて原告代理人に相談し,本件解雇の無効を主張して法的手段を採ることを決め,平成16年1月,当庁に地位保全等の仮処分を申し立てたことからすると,原告が平成15年9月5日被告から解雇予告手当を受領することにより,被告による本件雇用契約解約の申し入れを黙示に承諾したと認めることはできない。

3  日本システムワープ事件の関連情報

3.1判決情報

裁判官:三代川 三千代

掲載誌:労判886号89頁

3.2 関連裁判例

O法律事務所(事務員解雇)事件(名古屋地判平成16.6.15労判909号72頁,名古屋高判平成17.2.23労判909号67頁)

テレマート事件(大阪地方裁判所平成19年4月26日 判決)

3.3 参考記事

4 日本システムワープ事件の判例の具体的内容

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