残業代込みの年俸

ボーナス・諸手当や残業代込みの年俸制の社員を採用できるか

社長
新規分野の開拓のために,専門的能力を持った人材を中途採用することになりました。契約期間を3年,賃金は年俸制とし,年額を16等分してその1を毎月支払い,その4を賞与として年2回に分けて支給するとしたいと考えています。また,一般社員に支給している通勤手当や家族手当等はもちろん,残業手当も年俸に含めたいと考えていますが,いかがでしょうか。
弁護士吉村雄二郎

年俸制とは,年単位で賃金額を決定する制度のことです。多くの場合,各年の年俸額について労使が話し合いをし,前年の当該労働者の業績や目標の達成度により当年度の年俸額を決定するシステムがとられています。年俸制そのものにつき定義や要件を定めた法令はありませんが,毎月1回以上定期払いの原則を遵守する必要があります。
年俸制は,賃金の決定,計算および支払いの方法に関して従前から存する給与規程における扱いと異なる扱いをすることになりますから,新たにこれを導入するには,就業規則の変更(年俸規程の新設)を行う必要があります。このため,従前月給制や日給月給制など年俸制以外の制度が適用されていた労働者につき年俸制を適用する場合には,労働条件の不利益変更に該当することにならないかを吟味し,不利益変更にあたる場合は,当該社員一人一人から同意をもらう必要があります。
通勤手当や家族手当も,一般には労基法上の「賃金」に該当しますが,それらの手当については,その支給が法的に義務づけられているわけではなく,支給する旨および支給要件が給与規程等就業規則に明記されてはじめて支給義務が生じますので,特段問題はありません。
問題となるのは残業手当ですが,年俸制適用者であっても,法定労働時間を超えて労働した者に対しては,労基法37条1項に基づいて時間外割増賃金が支払われなければなりません。しかし,当該年俸制の適用対象者が管理監督者や裁量労働制適用者など,そもそも時間外割増賃金の支給対象者でない場合は,それが支給されないこととしても,労基法違反ではありません。さらに,仮に時間外割増賃金の支給対象者であっても,年俸の中に,一定の時間の時間外労働に対する対価であることが明示されて年俸が取り決められている場合は,その時間に達するまでの時間外労働に対する割増賃金の支払いは不要で,その範囲を超える時間外労働に対する割増賃金は年俸とは別に支払われなければなりません。

 

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