出向_ポイント-

出向についての法的ポイント

社長
当社では、管理職ポスト数の関係で、当社において管理職になれなかった一定の年齢に達した従業員を、関連会社へ出向させる必要があります。出向についての法的なポイントを教えてください。
弁護士吉村雄二郎
出向とは、雇用先企業との労働契約に基づく従業員としての地位を保有したまま、他企業(出向先)の指揮監督の下に労務を提供するものです(在籍出向といわれることもあります)。(在籍)出向命令が有効であるためには、ほぼ配転命令と同様に、①労働契約上、配転命令権の根拠があり、その範囲内で配転命令が出されること,②法令違反等がないこと,③権利濫用でないこと,といった3つの要件を満たす必要があります。
出向は、①労働契約上、配転命令権の根拠があり、その範囲内で配転命令が出されること,②法令違反等がないこと,③権利濫用でないこと,といった3つの要件を満たす必要がある。

1 出向とは?

出向とは、ご相談者のケースのように、雇用先企業との労働契約に基づく従業員としての地位を保有したまま、他企業(出向先)の指揮監督の下に労務を提供するものです(在籍出向といわれることもあります)。

2 出向の有効要件

(在籍)出向命令が有効であるためには、ほぼ配転命令と同様に、次の3つの要件を満たす必要があります。

2.1 労働契約上、出向命令権の根拠があり、その範囲内で出向命令が出されること。

転籍と異なり、労働者の個別的な同意は不要であり、あらかじめ労働者の包括的な同意があれば、原則として、出向命令は有効であると考えられています。ただ、出向の重大な効果に鑑み、就業規則に「出向を命じうる」などという抽象的な規定があるだけでは、根拠として合理性、規範性に欠けるとされています。裁判例には、就業規則に単に「業務の都合により必要がある場合には、出向を命じることがある」と定めるだけで、出向先の労働条件・処遇、出向期間、復帰条件などが定められていない場合は、出向命令の法的根拠を欠き、無効であるとしたもの(日本レストランシステム事件・大阪高判平17.1.25労判890)、出向命令が労働契約上の根拠を有するためには、就業規則、労働協約、労働契約、採用時の説明と同意などによって、ⅰ)出向を命じうること自体が明確になっていること、ⅱ)出向先での基本的労働条件が明瞭になっていることなどが必要であるとしたもの(新日鐵事件・最判平15.4.18労判847)があります。

2.2 法令違反等がないこと。

出向命令は、組合活動の妨害を目的とするような不当労働行為(労組法7条)に当たる場合や、思想信条による差別(労基法3条)に当たる場合などには、無効になります。また、労働協約や就業規則の条項に違反してなされた出向命令も、一般に、無効になります。

2.3 権利濫用でないこと。

権利濫用か否かは、労働契約法14条により、出向の業務上の必要の有無・程度、対象労働者の選定の合理性、出向によって労働者が被る不利益の程度などを総合考慮して判断されます。裁判例には、出向先の作業が腰痛の持病をもつ者にとっては退職に追い込まれる程の過酷なものである場合、腰痛の持病があるためコルセットを常用せざるをえない者らに対する出向命令を、人事権の濫用として無効であるとしたもの(東海旅客鉄道事件・大阪地決平6.8.10労判658)などがあります。

3 出向労働者は、出向元・出向先とどのような労働関係にあるか?

出向労働者と出向元との間の労働契約自体は、基本的に継続します。そのため、出向元の就業規則のうち労務提供を前提としない部分は依然として適用されます。一方、出向労働者に対する労務遂行の指揮命令権は出向先がもち、出向労働者は出向先の服務規律等に従うことになるので、出向労働者と出向先との間には部分的な労働契約関係(労基法の部分的な適用があるということ)が成立していることになります。具体的に問題となるのは、ⅰ)給与・諸手当・賞与、または退職金の支払義務の所在、ⅱ)懲戒解雇・普通解雇の権限の所在、ⅲ)(出向元への)復帰の決定権限、ⅳ)労基法、労安衛法、労災保険法上の責任の所在についてです。

以下、順番にみていきましょう。

ⅰ)給与・諸手当・賞与、または退職金の支払義務の所在

給与・諸手当・賞与の支払いについては、①出向先が支払い、出向元での勤務の場合との差額を出向元が補償する方法、②出向元が支払い、出向先はそのうちの自己分担額を出向元へ支払う方法、のいずれかの方法がとられることが多いといえます。退職金は、2つの企業での勤務期間を通算し、両企業間で内部分担し、いずれかの企業が一括して支払うのが一般的とされています。なお、雇用保険上の事業主は、主たる賃金の支払者です。

ⅱ)懲戒解雇・普通解雇の権限の所在

出向元が解雇の権限を保持し、その他の懲戒の権限は出向先がもつ場合が多いですが、両者が併有することもあります。

ⅲ)(出向元への)復帰の決定権限

通常、出向元の就業規則(出向規程)の定めに従い、出向元が決定します。

ⅳ)労基法、労安衛法、労災保険法上の責任の所在

まず、労基法上の各規定については、例えば、出向先が労働時間管理をしていれば、三六協定は出向先に締結義務が生じるといったように、その内容に応じて当該事項を管理している方が使用者としての責任を負います。そして、前述のように、労安衛法上の事業者責任を負担し、また、労災保険法上の事業主となるのは、原則として現実に労務の給付を受けている出向先の事業者とされています。

対応方法

1 事実確認及び収集するべき証拠

出向に関して確認するべき事実関係は以下のとおりです。

□ 就業規則上に出向命令の根拠があること

就業規則
出向規程
労働協約
雇用契約書

□ 権利の濫用にならないこと

組織再編や前任者の退職など出向命令を行った経緯がわかる資料
過去における出向の実績がわかる資料
人事の基本方針(業務上の必要性以外の事由等を理由としてなされたものではないことを示すため)
人事考課表
人事担当者等の陳述書
出向によって労働者に著しい不利益が生じないこと(配転前後における通勤時間や賃金といった労働条件の対比)
(育児や介護の必要性から通常甘受すべき程度を著しく超える不利益であると主張された場合) 労働者からの意見聴取結果報告書
育児や家族介護に影響を与えることに対する代替案の提示内容がわかる資料(労働条件の大幅な低下が見込まれるなど,企業再建の一環としてなされる出向の場合)
決算書(リストラの一環としてなされた場合)
再建計画案(同上)

2 労働者への説明・説得

一方的に出向命令を下す前に,対象労働者と面談を行い,出向に関する説明・説得を行い,了解を得る努力をします。

3 出向命令

文書で出向命令を出します。

4 本人が異議を唱えた場合

本人が異議を唱えて出向命令に応じない場合でも,まずは説得を行います。説得によっても応じない場合は,解雇を含めた対応を行います。

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