社内不倫_解雇

社内恋愛(不倫)を理由に解雇できる?

  • 2022年1月3日
  • 2022年2月28日
  • 解雇
社長
当社のある女性従業員は,同僚の男性従業員(妻子あり,子持ち)との間で,いわゆる不倫関係を続けていることが,他の従業員からの報告により判明しました。男性従業員の妻にもその関係が発覚したようで,同妻より会社に問い合わせの電話が入りました。当社としては,社内風紀を維持するために,両従業員に対し関係を清算するよう話したところ,両名は私的な事に会社が口を挟んでほしくない,などと言い,なおも関係を継続しています。当社としては,懲戒解雇等の処分を行うことはできますでしょうか?
弁護士吉村雄二郎
社内恋愛(不倫)は,純然たる私生活上の行為です。従って,職場環境の特殊性により,男女関係を厳しく律する必要性があるなどの特別な事情がない限り,懲戒解雇その他の処分を行うことは難しいと考えられます。

解説

多くの会社の就業規則には,「会社の名誉・信用を毀損したとき」,「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」などといった懲戒解雇事由が定められています。素朴な一般論としては、社内不倫などはこれに該当するとも思えます。

しかし、労働者が私生活上の非行を行ったからといって,一概に懲戒解雇ができるとは限りません。懲戒(解雇)は,企業秩序違反に対する制裁ですから,私生活上の非行は職場の企業秩序とは関係なく,懲戒(解雇)はできないとする考えもあります。

もっとも、私生活であれば何をしてもよいという訳ではありません。労働者には,雇用契約締結とともに,雇用契約上の付随義務として誠実義務が生じ,その中には使用者の名誉・信用を毀損しない義務があります。従って,労働者の就業時間外の私生活上の非行であっても,それが企業秩序と関係があるものについては懲戒(解雇)の対象となるといえます。

例えば,私生活上の非行であっても,労働者が刑罰法令違反で逮捕されたような場合は,会社の業種・規模・違反行為が破廉恥犯か否か,当該労働者の社内での地位などを勘案した上で,会社の社会的評価に重大な悪影響を及ぼすと判断されるならば,懲戒解雇とすることも可能と考えられます。

今回ご相談の社内不倫は、会社の業務とは全く無関係の私生活上の行為であり,原則として懲戒(解雇)の対象となりません。

裁判例でも繁機工設備事件(旭川地裁平成元年12月27日判決・労働経済判例速報1387号)は、社内不倫を理由とする懲戒解雇が無効とされた例です。裁判所は、就業規則所定の懲戒事由である「職場の風紀・秩序を乱した」というのは企業運営に具体的な影響を与えるものに限るべきであるとしました。もちろん使用者としては企業運営に影響があると主張し、得意先からも苦情があったなどのさまざまな事情もあげましたが、裁判所は、二人の交際が懲戒事由に該当するということはできないとしています。

例外的に社内不倫を理由に懲戒解雇ができるケースはないのでしょうか?
先述のとおり私生活上の行為であっても、会社の社会的評価に重大な悪影響を与える場合には,企業秩序違反として懲戒解雇の対象となることもあり得ます。

裁判例でも、バスの運転手が未成年の女子バスガイドと情交関係を持ち,妊娠させたことを認定した上で,「Xは,本件非行によってYの体面を汚し,かつ,損害を与えたものであることが明らかであるというべきである」と判示して,普通解雇を有効と判断した例があります(長野電鉄事件 長野地判昭和45.3.24判例時報600-111)。

もっとも,一夫一婦制が実質的に崩れつつある現代日本においては,一層恋愛自由の考えが広がると思われますので,慎重な対応が必要です。上記裁判例も昭和45年の例であり、その頃とは夫婦関係・男女関係についての考え方は大きく変わってきています。この裁判例をあまり参考にすることは適当ではないと思います。

ただ、実際問題として、社内不倫関係によって、社内の人間関係が悪化し、業務に支障ができることもあるでしょう。周囲の従業員が一緒に仕事をしたくないと訴える場合も想定されます。そのような場合は、問題となる従業員を異動させて人間関係を整理することや、小さな会社でそれができない場合は退職勧奨をして退職を促すというのも一案です。

参考裁判例

繁機工設備事件

旭川地判平成元.12.27労働判例554-17

(事案の概要)

Yは,管工事の施工等を業とする有限会社であり,Xは,昭和61年11月,Yに経理事務担当として採用された。
しかし,Xは,妻子のある同僚男性と恋愛(不倫)関係を続け,会社全体の風紀・秩序を乱し,企業の運営に支障を来したことを理由に,昭和63年5月31日,Yより懲戒解雇された。

(裁判所の判断)

裁判所は,「Xが妻子ある同僚である訴外Aと男女関係を含む恋愛関係を継続することは,特段の事情のない限り,その妻に対する不法行為となる上,社会的に非難される余地のある行為であるから,Yの就業規則に定める懲戒事由である「素行不良」に該当しうることは一応否定できないところである。しかしながら,右規則中の「職場の風紀・秩序を乱した」とは,これが従業員の懲戒事由とされていることなどからして,Yの企業運営に具体的な影響を与えるものに限ると解すべきところ,X及び訴外Aの地位,職務内容,交際の態様,会社の規模,業態等に照らしても,Xと訴外Aとの交際がYの職場の風紀・秩序を乱し,その企業運営に具体的な影響を与えたと一応認めるに足りる疎明はない。Yは,Xが訴外Aと共に一つのどんぶりからラーメンを食べるなど常軌を逸した行為に及んだため,Yの従業員が右の行為等を見るに見兼ねて事務所に立ち入らなくなったし,訴外Aが必要な仕事をせずに事務所でXと一緒にいるようになった旨主張し,〈証拠〉にはこれに沿う部分があるが,これらはいずれも〈証拠〉に照らし措信できず,他にYの右主張事実を一応認めるに足りる疎明はない。本件解雇は,懲戒事由に該当する事実があるとはいえない」と判示して,懲戒解雇を無効と判断した。

(コメント)

本件はマスコミに比較的多くとり上げられ,注目をよんでいた事件ですが,判決の判断枠組みとしてはオーソドックスであり,また,結論もごく妥当なものといえます。通常の場合,個人生活レベルの問題である従業員同士の「恋愛関係」というものによって「職場秩序」を乱し,「企業運営に具体的な影響を与えた」と評価される場合はほとんど考えられないので,本判決の判断枠組みによる限り,この種の問題についての懲戒解雇は否定されることになると言ってよいでしょう。

長野電鉄事件

長野地判昭和45.3.24判例時報600-111

(事案の概要)

Yは,地方鉄道事業,自動車運送業,旅館等の観光事業,索道事業等を営む株式会社であり,Xは,昭和33年3月7日,Yに自動車運転士として雇用され,昭和34年4月1日以降Yの自動車部営業課に所属して,バスの運転士として勤務していた。しかし,Xは,Yの風紀を乱し職場秩序を破ったことを理由に,昭和40年5月31日,Yより普通解雇された。

(裁判所の判断)

裁判所は,Xが,未成年の女子バスガイドと情交関係を持ち,妊娠させたことを認定した上で,「Xは,本件非行によってYの体面を汚し,かつ,損害を与えたものであることが明らかであるというべきである」と判示して,普通解雇を有効と判断した。

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