解説
1 新型コロナ感染の疑いがある社員への対応
社員が,新型コロナに感染したことが医師の診断等によって確定していないが,当該社員が訴えている症状(高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感等)から感染の疑いがある場合,以下のような対応となります。
1.1 医師への受診及び結果の報告を命ずる
⑴ 医師への受診の勧奨
まずは,新型コロナ感染の疑いのある社員について,医師の診療を受けるよう勧奨します。感染したか否かは医師の診断によらざるを得ないからです。
まずは,命令ではなく,社員の自主性に任せて,医師への受診を勧めるという点がポイントです。また,医師への受診した結果も任意に報告するよう求めるようにしましょう。
⑵ 医師の受診及び結果報告命令
しかし,会社の勧めに応じず,社員が医師の診察を受けない場合は,会社は新型コロナの疑いのある社員に対して,医師への受診を命ずることは可能です。
ただし,その為には就業規則上の根拠が必要です。会社が社員の健康状態を把握する為に必要と認める場合に(会社指定の)医師への受診命令及び結果報告義務について,就業規則で定めておくことが必要になります。
“会社は,定期健康診断以外にも,従業員に対し,健康診断の受診ないし会社の指定する医師への受診及びその結果を報告することを命ずることができる。”
医師の受診の結果,新型コロナに感染したことが確認された場合は,上記「社員が既に新型コロナに感染している場合の対応」のとおりです。
2.2 出社せず休養するよう勧奨する
新型コロナの疑いのある社員が会社に出社すると,万が一新型コロナに感染している場合,他の社員へ新型コロナの感染が拡がる可能性が非常に高くなります。そこで,まずは,感染した疑いのある社員に対し,出社しないで自主的に休む(病欠・有給休暇の消化)よう勧奨します。
これは,会社からの「命令」ではなく,あくまでも社員が自主的に休むことを促す点がポイントです。
社員がこれに応じて欠勤する期間は,私傷病による欠勤ですので賃金は原則として発生しません(ノーワークノーペイの原則)。また,社員が自主的に休む場合は,有給休暇を取得する場合が殆どです。なお,休業ではないので休業手当の支払いは不要です。
2.3 自宅待機命令を出す
新型コロナに感染した疑いのある社員の中には「単なる風邪であって新型コロナではない」「仕事を中断したくないので休みたくない」などと言って出社しようとする者もいます。
このように自主的に休みをとらない社員に対して,会社は,新型コロナの疑いが無くなるまでの間,自宅待機を命令することが出来ます。
会社は,新型コロナに感染した疑いがあるに過ぎない場合であっても,高熱等の症状のある不完全な健康状態の社員の労務提供を拒否することができるからです。また,この場合,他の社員の健康・安全に配慮するという観点もあります。そこで,会社は新型コロナの疑いが無くなるまで,または,病状が治るまでの期間,自宅待機を命ずることが出来ます。
2.4 自宅待機期間中,賃金・休業手当を支払う必要があるか?
自宅待機期間中,感染の疑いがあるに過ぎない段階では,会社は出社禁止を命じた社員に対して,休業手当を支払う必要があります。
当該社員が新型コロナに感染した疑いがあるだけの段階において,会社の判断で出社を禁ずることは,いわば会社都合による出勤禁止となります。この場合は「使用者の責に帰すべき事由」(労基法26条)による休業と認められるといえるからです。
なお、「債権者の責めに帰すべき事由」(民法536条2項)により休業させると認められるため,就業規則等により民法536条2項の適用が排除されていない場合は、基本的には賃金全額を支払う必要があります。
なお,社員が任意に有給休暇を取得する場合は有給処理となりますが,無理に有給休暇を取得させることは出来ません。