利用急増中!?退職代行への会社の対応方法

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退職代行の画像

近時,会社を辞める際に「退職代行」なる新たなサービスを利用する労働者が急増している。労働者側としては,「退職することを言いにくい」「うしろめたい」という気持ちや,勤務先が「退職をさせてくれない」「強硬な引き留めを行う」などという事情もあるようだ。
ただ,会社の側からすれば,いきなり退職代行業者を名乗る第三者を通じて退職を申し出られた場合,どのように対応するべきか迷うことも多いであろう。また,ネット上では,退職代行を業者が行うことが弁護士法に違反する違法行為であるという話も出ている。
そこで,会社側に立ち,退職代行への対応について説明したい。

1 退職代行とは?

1.1 退職代行とは?

退職代行とは,会社を辞めたい労働者に代わり,退職の手続を代行することを意味する

そもそも退職の手続は,労働者本人が直接勤務先の会社に申し出て行うことが原則。わざわざ第三者に頼まずとも退職届を普通郵便で会社に送ればそれで退職の効力は生ずる。FAXやメールで送ってもよい。とにかく自分で退職の意思表示を会社に到達させればよいのだ。

しかし,労働者側の「退職することを言いにくい」「うしろめたい気持ちがある」「育ててくれたのに申し訳ない」という気持ちのみならず,特に中小零細企業における人材不足を背景に「退職をさせてくれない」「強硬な引き留めにあう」などという事情から,退職手続を退職代行業者などの第三者を介して行うことが急増するようになったようである。

1.2 退職代行サービスの内容

このように様々な事情により労働者が第三者の業者を利用して退職手続を代行させるようになったのであるが,具体的にはどのようなサービスなのか?

退職代行サービスの内容は対応する業者によって様々であるが,実際の退職代行業者のwebサイトなどから読み取れるサービスは概要以下のようなものだ。

●電話・メール(問合わせフォーム)・SNSで相談や依頼が可能※一度も直接会わずに完結することも可能

●費用は3万円~5万円

●労働者に代わって勤務先会社へ退職の連絡をする。退職の連絡方法は電話,郵送などが多い。

●退職の連絡と併せて,有給休暇の消化,離職票や雇用保険被保険者証の本人への送付,社宅の退去日の連絡,その後の連絡は本人ではなく退職代行業者とすることの連絡などをする。

●退職代行業者は弁護士資格を有しない民間会社が多いが,法律事務所(弁護士)が行う例もある

2 退職代行業者の法的な有効性

このようなサービスを行う退職代行業者であるが,法的に有効なのだろうか?

2.1 民間の退職代行業者は使者に過ぎない

まず,大多数である退職代行業者が弁護士資格を有しない民間会社の場合,退職代行業者の法的な位置付けは「使者」に過ぎない。すなわち,単なるメッセンジャーボーイ(ガール)ひいては伝書鳩のようなものであり,労働者の意思表示や事務連絡を伝達するに過ぎない。この点は弁護士が「代理人」となって退職手続を出来ることとは異なる。

ただ,「使者」に過ぎない,「代理人」ではない,と聞いただけでは,具体的にピンとはこないかもしれない。ここで,使者と代理人との最大の違いは,意思決定や交渉が出来るか否かということになる。

例えば,退職の連絡をした場合,会社によっては,退職を認めない,有休消化を認めない,離職票等を発行しない,退職したことにより損害賠償を請求するなどの対応をすることがある。

その場合,代理人(弁護士)は,本人に代わって,弁護士の判断で,会社に対して退職,有休消化,離職票の発行や損害賠償請求の不存在を交渉することが出来る。

これに対し,使者(民間会社)の場合は,本人に代わって交渉をすることが出来ない。よって,例えば,会社の社長が「ふざけんな,退職なんぞ認めねーぞ!」が争った場合,無資格の退職代行業者は黙るほかなく,会社が言っていることを依頼者である労働者に「え~っと,会社は退職を認めないと言ってますけど,どうしまひょか・・・」と伝達することしか出来ない。

なぜ,無資格の民間会社は代理人として交渉できないのか?

それは,弁護士法という法律で,法的な交渉業務は国家資格である弁護士の独占業務であり,無資格の業者はやってはならないと定めているからだ(弁護士法第72条)。これに反して代理業務を行った場合は,弁護士法違反の犯罪となり二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金の刑を受けることになる(弁護士法77条3号)。結構強烈な参入規制が定められているのだ。
それゆえ,無資格の民間会社はこの弁護士法72条に違反しないスレスレのところでメッセンジャー(使者)として退職代行を行うほかないのだ。

※なお,近時では司法書士事務所も退職代行を行うようだが,代理人として行うことは出来ないと解される(退職関係の事件の訴額は算定困難により160万円とみなされる為)。

2.2 意外と使えない?無資格の退職代行業者

このように無資格の退職代行業者は法的には「使者」にしかなれないことから,以下のような限界が存在する。

退職の意思表示

 労働者本人が退職の意向を有していることを電話や郵送で伝えることはOK

× 会社が退職の効力を争ってきた場合は,本人に代わって交渉することはNG

有休消化の意思表示

○ 労働者本人が退職日までの有休消化を行う意向を有していることを電話や郵送で伝えることはOK

× 会社が時季変更等を主張して有休消化の効力を争ってきた場合は,本人に代わって交渉することはNG

離職票や雇用保険被保険者証の本人への送付

 労働者本人へ離職票等の送付希望を電話や郵送で伝えることはOK

× 会社が拒否した場合,本人に代わって交渉することはNG

本人(や親族)への連絡の禁止

 労働者本人が以後の連絡を直接せずに,退職代行業者へ連絡することを希望していることを伝えること OK

× 会社が労働者本人の希望を無視して,直接労働者本人や身元保証人である親族へ電話,メール,SNSで連絡することは可能。

いかがであろうか?
無資格の退職代行業者は単なる「使者」に過ぎないことから結構限界が多いと思われる。
会社が争った(ゴネた)場合などは退職代行業者は殆ど役に立たないとも言えるのではないか。

2.3 それでも無資格の退職代行業者が増加している背景

では,こんなに限界が低い無資格の退職代行業者ですが,なぜ利用が広がっているのだろうか?

筆者の推測では以下のとおりだ。

推測① 殆どの会社が退職を認めている

殆どの会社が,無資格の退職代行業者を通じての退職について異議を唱えることなく承認しているというのが実情だと思われる。

適法な退職の意思表示であれば,本人が直接申し出ようが,無資格の退職代行業者を使おうが,退職の効力は生ずる。殆どの会社は,無駄な争いをしている暇などない,去る者は追わずということで,退職を承認しているのだと思われる。

推測② 費用が安い

また,退職代行については,殆どの無資格の退職代行業者は費用を3万円~5万円と設定している。一般に弁護士に依頼する場合の費用イメージは安くても数十万円ということからすると,労働者からすれば手頃に感じられると思われる。

※もっとも,最近では弁護士も3万円~5万円で請け負っているようだ(筆者の感覚では弁護士の費用としてはちょっと安すぎると思われる。まあ,通知書一本郵送するだけと考えればギリギリペイするのかもしれないが,会社が争ってきて交渉することを考えるとどうかと。)。

推測③ そもそも弁護士は取り扱っていない(いなかった)

さらには,退職代行など業務を弁護士が代理して行うことはこれまで殆どなかったと思われる。

というのも,退職の意思表示は,退職代行業者を使わずとも,労働者本人が自ら簡単に行うことが可能だ。仮に会社と直接やりとりをしたくないのであれば,退職届を郵送・FAX・メール等により会社に送ればよい。これほど簡単なことなので,わざわざ弁護士に退職代行を依頼する必要性は本来ない。

確かに,これまでも解雇や残業代等の法的紛争に付随して退職の意思表示を弁護士が代理人として通知することはあったが,退職代行だけを受任するということはなかったように思われる。

ただ,最近では前記のとおり無資格の退職代行業者の難点を逆手にとって弁護士の代理人としての優位性を強調して集客をしている法律事務所もあるようだ。

3 会社の退職代行業者への対応

以上を踏まえて,無資格の会社による退職代行業者への対応についてまとめる。

3.1 本人が作成した退職届の会社へ提出を求める

退職代行業者によっては電話連絡だけで退職の意向を伝えてくる会社もあるようだ。

しかし,電話連絡だけでは労働者本人の意思に基づいているとの確証はない。また、後で労働者から「退職したつもりはない!」などと言われた場合、退職届のような証拠が無いと退職したことを証明することができない。

そこで,電話連絡を受けた後,本人作成の退職届の提出を求めるべきだ

具体的には,会社から本人へ直接電話・メール・SNS等により連絡をとって,退職届を提出するよう求める。なお,退職代行業者は直接労働者本人への連絡をしないよう求めるケースも多いが,そのような要請に法的拘束力は無い。会社から直接本人に連絡を取っても問題はない。

退職届の書式については,会社から本人の自宅へ郵送してもよい。ただし,会社が用意した退職届によることにこだわる必要なない。本人が任意の書式で作成したものであっても,それが退職の意思であると分かればよいだろう。

また,退職届の署名・捺印は,本人の自筆による署名,実印による捺印がなされていることが望ましいが,自筆・実印にこだわる必要はないだろう。例えば,本人が普段会社で使用していた印鑑が押印されていれば,本人の印鑑であることが確認できる。それが確認できない場合は,退職届を受け取った後,念のため本人に電話・メール・SNSなどで退職届を提出したことの確認をしておけば良いだろう。

どうしても労働者本人が退職届を書面で提出しない場合は、本人へ直接連絡して証拠にのこせる形で退職意思を確認するべきだ。具体的には、電話の通話を録音する、メールやSNSのやりとりで確認するなどの方法がある。

3.2 直接本人に意思確認をする

退職の意思表示は,使者である退職代行業者を経由して行われたとしても,本人の意思に基づく限り有効だ。

そこで,会社としては,まずは退職代行業者からの退職の連絡が本人の意思に基づいて行われたか否かを確認する必要がある。

退職届が労働者名義で提出されたとしても,退職代行業者経由であった場合には,念のため本人に直接電話・メール・SNSなどで退職届を提出したことの確認をしておけた方がよいだろう。

3.3 退職届の承認をする

退職届が提出されたとしても,一般的には,雇用契約の合意解約の申込であると解されるのが一般的である。

つまり,労働者が退職届を出したとしても,会社が承認の意思表示をしないと退職の効力が発生しないと考えられているのだ。退職という重大な効力が生ずる局面では,できるだけ慎重に考えるべきという発想のもと,単に退職届を出しただけでは退職の効力は発生しないと考えられているのだ。

そこで,会社としては退職届を受け取ったら,速やかに承認する旨を労働者へ伝える必要がある。

具体的には,「●●年●月●日に貴殿から提出された退職届を受理し,本日,右退職の申出を承認いたしました。」との内容で,労働者に対して通知した方がよいだろう。

具体的には,内容証明郵便(配達証明付)で送るのがベストだが,メール,SNS,電話(要録音)などでもOKだ。

3.4 退職代行業者と交渉のやりとりをする必要はない

先述のとおり弁護士法との関係で,無資格の退職代行業者は「使者」に過ぎず,交渉をすることは法的に刑事罰を伴う違法だ。

よって,退職代行業者から連絡があっても,その内容を聞くことはよいが,交渉をすることはNGだ。

また,本人への連絡についても,仮に「本人に直接連絡せずに退職代行業者へ連絡することを求める」と伝えられても,それに応ずる法的義務はない。よって,連絡事項や交渉事項がある場合,直接本人とやりとりして全く問題はない

何度も言うが,退職代行業者は単なる使者・メッセンジャーに過ぎない。そのメッセージの受け取りを拒否することも可能だ。つまり,退職代行業者と名乗る者から電話がかかってきたら,何も聞かずに「法的に代理権限のない者とのやりとりはしない」といって電話を切ることだって可能だろう。そのような対応をしたとしても,本人は直接会社へ退職届を郵送するだけでよいのであるから問題ないはずだ。

3.5 弁護士が退職代行をする場合は代理人として対応する

ただ,弁護士が本人を代理して退職の連絡をしてきた場合は,対応するべきだ。弁護士は法的に正当な代理権限を有するので,退職の効力や有給休暇の取得等について交渉権限を有する。弁護士の主張は,それが法的に正当な主張であれば無視出来ないからだ。

4 まとめ

以上,退職代行業者に対する会社の対応方法を説明した。

いかがであろうか?ポイントをまとめれば,

  • 退職代行業者といっても使者に過ぎず,代理権・交渉権限はない
  • 退職代行業者が介入したとしても,本人と直接連絡とってよい
  • 退職代行業者の伝える内容については,本人の意思を確認する必要がある
  • それ以外は退職一般の話として処理すればよい

ということになる。

退職一般の話は下記の記事も参考にしてもらいたい。

以上,会社の皆様の参考になれば幸いである。

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