【専門弁護士解説】固定残業代の正しい知識と導入・運用ガイド(13チェックリスト)

会社経営者や人事担当者の皆様は、日々の労働時間管理や残業代計算、そして予期せぬ労務トラブルの発生に頭を悩ませることも多いのではないでしょうか?特に、従業員の働く時間に応じたコスト管理や給与計算の効率化は、企業にとって避けられない課題です。

このような背景から、多くの企業が給与制度の一つとして「固定残業代」制度の導入を検討、あるいは既に運用されています。

しかし、この固定残業代こそが、正しく理解・運用されていない場合に、後々の大きな労務トラブル、特に多額の未払い残業代請求に発展しやすい、非常にリスクの高い制度でもあるのです。インターネット上でも「固定残業代はやめとけ」といった声を見かけることがありますが、それはまさに、その潜在的なリスクを反映しています。

では、固定残業代制度を安全に、そして法的に問題なく導入・運用するには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?そして、既に導入している場合は、何を確認し、どう改善すればリスクを回避できるのでしょうか?

この記事では、企業側労働法専門の弁護士である筆者が、固定残業代に関する正しい知識と、貴社を労務トラブルから守るための導入・運用ガイドを徹底解説します。固定残業代の仕組みはもちろん、潜むリスクと違法となる典型的なケース、そしてそれらを回避するための具体的な対応策まで、経営者・人事担当者として知っておくべき全ての情報を網羅的に得ることができます。

貴社の労務リスクを最小限に抑え、安心して事業に専念するために、ぜひ最後までお読みください。

目次

固定残業代(みなし残業代)とは?基本を分かりやすく解説

固定残業代の定義

「固定残業代」とは、毎月、従業員の実際の残業時間(時間外労働、深夜労働、休日労働)にかかわらず、一定の金額により残業代、具体的には時間外労働割増賃金、休日労働割増賃金、深夜労働割増賃金を支払うことをいいます 。

一般的には「みなし残業代」と呼ばれることも多いですが、これは法律上の正式な用語ではなく、実務上の通称として使われています。

この制度の重要なポイントは、残業代を「あらかじめ定めた金額」で支払い、その金額を実際に発生した残業代が超えた場合は、別途、超過分の残業代を支払う義務が会社には発生する、という点です。

いわゆるサブスクのサービスように固定残業代を払えばよいのではありません。

【重要】固定残業代と「みなし労働時間制」は違う!

固定残業代制度について考える上で、最も間違えやすいのが「みなし労働時間制」との混同です。

専門家でもない限り、この二つを同じようなものだと思っている方も少なくありませんが、両者は目的も仕組みも全く異なる制度です。

固定残業代 みなし労働時間制
目的 残業代を定額で支払う方法 外回りの営業など、業務の性質上、労働時間を正確に算定することが困難な場合に、労使協定等で定めた特定の時間を働いたと「みなす」制度
労働時間管理 従業員の実際の労働時間(出退勤時刻)を正確に把握・記録することが、法的に必須です。固定時間を超えた残業代計算のために必要です。 実際の労働時間が協定等で定めた時間を超えていても、原則として協定等の時間働いたものとみなされます(ただし、健康確保などの観点から上限規制あり)

お分かりいただけたでしょうか。固定残業代は「賃金の支払い方」であり、みなし労働時間制は「労働時間の計算方法」です。

「みなし残業だからタイムカードはいらない」と考えている会社がありますが、これは「固定残業代」と「みなし労働時間制」を混同している典型的な例であり、違法な状態となります。

固定残業代の「構成要素」と「明確区分性」

固定残業代制度を有効にするためには、賃金規程や雇用契約書において、支払われる賃金のうち

「通常の労働時間に対応する賃金(基本給など)」

「固定残業代として支払われる部分」とを

明確に区分して定めることが、裁判例でも繰り返し示されている非常に重要な要件です(これを「明確区分性」といいます)。

固定残業代を支払う方法には、主に以下の二つのパターンがあります。

  • 組み込み型: 基本給の中に、固定残業代相当額を含めてしまう形式(例:「基本給〇〇万円(ただし、固定残業代として△時間分□万円を含む)」)。
  • 手当型: 基本給とは別に、「時間外勤務手当」「固定残業手当」などの名称で、特定の固定金額を手当として支給する形式。

どちらの形式であっても、単に「残業代含む」「みなし残業代込み」と曖昧にするのではなく、最低限「固定残業代としていくら支払われるのか」を金額で明確に示さなければなりません

この明確な区分がないと、支払っている金額が法的に残業代として認められず、制度全体が無効と判断される大きなリスクとなります。

固定残業時間の考え方(時間数の設定と上限)

固定残業代は、「月〇時間分の残業代」というように、特定の「時間数」と紐づけて設定されることがあります。

この時間数は、固定残業代の金額を計算する際の根拠となります(例:1時間あたりの賃金 × 固定時間数 × 割増率)。

この「固定残業時間」について、「何時間までに設定しなければならない」という一律の法的な上限が明確に定められているわけではありません。しかし、あまりに長時間(例えば、月80時間や100時間など)を固定残業時間として設定すると、無効となるリスクを引き起こす可能性が高くなります。

特に、労働基準法には時間外労働に関する上限規制(36協定に基づき、原則として月45時間・年360時間など)があり、企業はこの上限を遵守する義務があります。固定残業時間の設定が、この法定上限を恒常的に超えるような長時間労働を前提としているとみなされる場合、固定残業代制度自体が無効と判断されたり、別途、労働時間法違反として罰則の対象となったりするリスクが生じます。

したがって、固定残業時間数は、法的な上限規制との関係を考慮し、かつ、従業員の実際の働き方の実態を踏まえて、無理のない範囲で設定することが望ましいと言えます。そして、繰り返しますが、設定した固定時間を超えて実際に残業した場合は、その分の賃金を別途支払う義務が発生します。

会社(企業)が固定残業代を導入するメリット

人件費の予測が立てやすい・管理がしやすい

固定残業代を導入することで期待できるメリットの一つは、人件費の予測がある程度立てやすくなることです。

固定残業代として支払う金額は、実際の残業時間が固定時間内に収まる限り、毎月一定です。これにより、特に残業の発生が避けられない、あるいは予測しにくい部署や職種において、人件費のうち残業代に充てられる部分の月々の変動を抑制し、予算管理や資金繰りの見通しを立てやすくすることができます。

【専門弁護士からの視点】ただし、これはあくまで「固定残業時間分のコストが固定化される」という側面です。もし従業員の実際の残業時間が恒常的に固定時間を超える場合、超過分の残業代は別途支払う必要があるため、総額の人件費は変動し、当初の予測を超える可能性がある点は理解しておく必要があります。このメリットは、適切な労働時間管理とセットで初めて活かされます。

給与計算業務の一部簡略化(ただし注意点あり)

固定残業代制度は、給与計算業務の負担を軽減できる可能性もメリットとして挙げられます。

従業員の実際の残業時間が、固定残業代として設定された時間数に満たない、あるいはちょうどその時間数だった場合、その都度、分単位・時間単位で残業時間を集計し、賃金単価と掛け合わせて残業代を計算する手間が、その部分については不要になります。特に、短時間の残業が日々細かく発生するような職場においては、この点が計算業務の負担軽減につながることがあります。

【専門弁護士からの視点】 しかし、これはあくまで給与計算の「一部」が簡略化される可能性があるという限定的なメリットです。固定残業代制度を導入しても、企業には全ての従業員の実際の労働時間(出退勤時刻)を正確に記録・把握する法的義務が厳として存在します。また、固定時間を超えて残業が発生した場合は、超過分の残業代を計算して支払う義務も発生するため、全ての残業代計算業務がなくなるわけでは決してありません。「固定残業代だからタイムカードは不要」といった誤った運用は、法的なリスクを招く最たる例です。

従業員の効率的な働き方を促す可能性

固定残業代制度は、従業員の働き方に対する意識に影響を与え、効率的な業務遂行を促す可能性が指摘されることもあります。

設定された固定残業時間分の賃金は、実際の残業時間がその時間数に満たなくても支払われます。このため、従業員によっては「固定時間内に仕事を終わらせよう」という意識が働き、時間内でより集中して効率的に業務をこなそうとするインセンティブが働く可能性があります。結果として、組織全体の生産性向上につながることも期待されます。

【専門弁護士からの視点】 ただし、これは制度導入による「副次的」または「運用上の期待」として語られるメリットであり、制度の主たる目的(賃金支払い)とは異なります。また、実際に効率が向上するかどうかは、制度設計だけでなく、企業の文化、業務内容、適切な目標設定、そして経営層や管理職によるマネジメントに大きく左右されます。単に制度を導入しただけで、必ずしも効率が上がるわけではない点、そして、固定時間を超えれば別途賃金が発生するため、超過部分についてはまた異なるインセンティブが働く点も理解が必要です。

採用上の訴求力を高める

求人票などに記載される給与額について、定額残業代(手当)を加えることで、見かけ上の月給総額を高く見せることができます。

同業他社と比較された際に、月給総額が高い方が求職者にとって魅力的に映り、応募を集めやすくなる可能性があります。特に、基本給の水準を上げることが難しい場合に、手取り額を増やす方法として用いられることがあります。

【専門弁護士からの視点】ただし、記事では注意点として、この目的での利用は慎重であるべきだと示唆しています。ハローワークの求人票では、固定残業代である旨、対象時間数、超過分の支払いについて明記することが求められており、単に見かけの総額を高く見せるためだけの安易な導入は、誤解を招いたり、後々トラブルになったりする可能性があるためです。

参考記事

サイバーエージェントの初任給42万・固定残業代(月80時間)は違法・ブラックか?

会社(企業)が固定残業代を導入するデメリット・リスク

実際の残業が少ない場合でも支払いが発生するコスト・リスク

メリットの裏返しとなりますが、固定残業代制度を導入した場合、たとえ従業員の実際の残業時間が、固定残業代として設定した時間数よりも大幅に少なかったとしても、会社は固定された金額を支払う義務があります。

例えば、月20時間分の固定残業代を設定している従業員が、特定の月に5時間しか残業しなかったとしても、会社は20時間分の固定残業代を支払わなければなりません。これは、実際の労働時間に応じて残業代を支払う従来の方式と比べると、実態以上の人件費を支払うことになる可能性を意味します。特に、残業がほとんど発生しない、あるいは大幅に削減できた部署や職種では、固定残業代が「コスト増」の要因となるリスクがあります。

【最大のリスク】制度の無効化による多額の未払い残業代発生リスク

固定残業代制度に潜む、最も重大かつ回避すべきリスクが、制度の「無効化」です。

前セクションで触れた「基本給との明確区分性がない」「固定時間を超えた残業代を支払わない」「労働条件通知書や就業規則に記載がない、不明確」といった法的な要件を満たしていない場合、その固定残業代の定めは無効であると判断される可能性が極めて高くなります。

弁護士視点から強調します。制度が無効と判断された場合、企業には以下のような壊滅的な結果を招くリスクがあります。

  • 過去に固定残業代として支払った金額が、無効となり、残業代を一切払っていないことになる
  • その金額は、基本給など、通常の労働時間に対する賃金(残業代計算の単価)に算入され、残業代の単価が著しく上がる
  • 過去(時効にかかっていない最大3年分)に遡り、全ての実際の残業時間に対して、この上昇した時間単価で計算し直した残業代を支払う義務が生じる
  • 裁判では未払い額と同額までの 付加金の支払い を命じられる
  • 結果として、既に支払った固定残業代をはるかに超える、数百万~数千万円規模の多額の未払い残業代が一括で発生し、従業員や元従業員から請求や訴訟を起こされるリスクに直面します。

これは、企業の財務基盤を揺るがし、最悪の場合、事業継続が困難になるほどのダメージとなり得ます。これが、「固定残業代は安易に導入・運用してはならない」と言われる最大の理由です。

ここで、具体的なモデルケースで比較してみましょう。

<モデルケース>

  • 基本給: 20万円
  • 固定残業代: 10万円
  • 毎月の実際の残業時間: 45時間
  • 1ヶ月の平均所定労働時間: 173.8時間

ケース1:固定残業代が「有効」な場合

仮に、契約で対象時間が明確に定められていないものの、制度自体は「有効」だと特殊な解釈をした場合を考えます。この場合、10万円が何時間分の残業代に相当するかを金額から逆算して推定します。

  • 計算上の割増単価: 約1,438円/時間
  • 10万円でカバーされると推定される時間: 10万円 ÷ 1,438円/時間 ≒ 約69.5時間
  • 実際の残業は45時間なので、カバーされる時間内に収まります。

→ この解釈では、未払い残業代(3年分)は 0円

ケース2:固定残業代が「無効」な場合

もし、この固定残業代制度が「無効」と判断されたらどうなるでしょうか?

  • 計算ルール: 無効な固定残業代(10万円)は、割増賃金の計算基礎となる賃金に 加算 されます。
    • 基礎賃金: 20万円 + 10万円 = 30万円
  • 新しい時間単価: 30万円 ÷ 173.8時間 ≒ 1,726円/時間
  • 新しい割増単価: 1,726円 × 1.25 ≒ 2,158円/時間
  • 月間の未払い額: 2,158円/時間 × 45時間 ≒ 97,110円/月

→ この場合、未払い残業代(3年分)は 約9.7万円/月 × 36ヶ月 = 約349万5千円(裁判されれば付加金込みで699万円)

まとめ:有効か無効かで天国と地獄

同じ労働実態でも、固定残業代制度が有効か無効かで、未払い残業代の額は「0円」と「約350万円」(付加金込みで約700万円)という、とてつもない差が生じます

長時間労働を助長・隠蔽しているとみなされる法的リスク

固定残業代制度は、法定の労働時間管理義務や、36協定に基づく残業時間の上限規制を免除するものでは一切ありません。

固定残業代を導入しているにもかかわらず、企業が従業員の実際の労働時間管理を怠っている場合や、設定した固定残業時間が労働基準法が定める残業時間の上限(原則月45時間・年360時間等)を恒常的に超えているような場合、固定残業代制度が「長時間労働を助長・隠蔽するための手段」であるとみなされるリスクが生じます。

これは、単に未払い残業代の問題に留まらず、労働基準法違反(労働時間関連)として、労働基準監督署からの是正勧告・指導の対象となり、企業名の公表や、悪質な場合は書類送検といった刑事罰に発展する可能性もあります。また、過重労働による従業員の健康障害リスクにも繋がり、安全配慮義務違反を問われる可能性も生じます。

従業員の不満や誤解によるモチベーション低下・労務トラブル

固定残業代制度は、その仕組みが従業員に正しく理解されていない場合、あるいは会社からの説明が不十分な場合に、従業員の間に不満や不信感を生みやすい側面があります。

例えば、「固定残業代を払われているのだから、いくら残業しても追加が出ない=サービス残業だ」「基本給が低く抑えられているのではないか」「固定時間分は必ず残業しなければならない雰囲気だ」といった誤解や不満です。

特に、固定時間を超えて働いたのに超過分の残業代が支払われない(違法な運用)といった事態が発生すると、従業員の会社に対する信頼は決定的に損なわれ、士気の低下、離職率の増加、そして個別の従業員または集団(労働組合など)による会社への追求(相談窓口への通報、弁護士への相談、団体交渉など)といった労務トラブルに発展する可能性が非常に高くなります。

採用活動への悪影響・企業イメージの低下

残念ながら、固定残業代制度は、一部で「ブラック企業」の賃金制度としてネガティブなイメージを持たれることがあります。

求人票や募集要項における固定残業代の表示が不明確だったり、固定残業時間数があまりに長時間であったりする場合、求職者から「長時間労働が常態化しているのではないか」「残業代を払いたくない会社なのではないか」といった疑念を持たれ、優秀な人材の応募が減るなど、採用活動に悪影響が出るリスクがあります。

また、従業員との間で労務トラブルが発生し、インターネット上の口コミサイトやSNSなどで情報が拡散されると、企業のイメージが著しく低下し、その後の採用活動や事業運営全般に長期的な悪影響を及ぼす可能性もあります。

固定残業代で「違法」となるのはどんなケース?回避策も解説

固定残業代制度には多額の未払い残業代発生や法的リスクといった深刻な問題が潜んでいます。では、具体的にどのような運用をしていると「違法」と判断されてしまうのでしょうか。そして、それを回避するために会社は何をすれば良いのでしょうか。

ここでは、専門弁護士として多くのケースを見てきた経験から、固定残業代が法的に問題となる典型的なケースと、それぞれの回避策を具体的に解説します。これらのポイントは、リスク回避のために確実に押さえる必要があります。

ケース1:基本給と固定残業代が明確に区別されていない

【違法(無効)となるケース】

これは固定残業代に関する労務トラブルで最も多く見られるケースであり、最高裁判例(高知県観光事件など)が厳しく指摘している点です。

「月給30万円(固定残業代含む)」や「基本給に〇時間分の時間外手当を含む」といった形式で、給与のうちいくらが通常の労働時間の対価(基本給など)で、いくらが固定残業代なのか、金額ベースで明確に判別できない 場合、固定残業代の定め自体が無効と判断されるリスクが極めて高くなります。

特に基本給に組み込むタイプ(【組込型】)は注意が必要です。

無効となれば、支払ってきた固定残業代は残業代として認められず、結果として多額の未払い残業代請求リスクに直結します。

【回避策】明確区分性の徹底!

  • 支払い方法: 基本給とは別に「時間外手当」などの名称で支給する【手当型】にするのが無難です。
  • 書面での明示: 雇用契約書や就業規則(賃金規程)、労働条件通知書などで、基本給(通常の労働時間に対応する賃金)と固定残業代の 金額 を明確に分けて記載します。
  • 時間数も明示: 固定残業代が、具体的に 何時間分 の時間外労働等に相当するのかも明記することが望ましいです(※mustではない)。計算式が複雑にならないよう、金額と時間数をセットで明確に定めましょう。
    • 例:「基本給:〇〇万円、固定残業手当(時間外労働 月△時間相当分):□万円」
  • 給与明細: 給与明細でも、基本給と固定残業代の項目を分けて表示します。

ケース2:割増賃金の対価として支払われていない

【違法(無効)となるケース】

支払われている手当が、そもそも「割増賃金の対価」としての実質を持っていないと判断されるケースです。

例えば、「営業手当」や「役職手当」、「〇〇手当」といった名称の手当が固定残業代のつもりで支払われていても、その手当が どのような性質(何の対価)で支払われているのか不明確 な場合は、「割増賃金の対価」とは認められず、無効とされる可能性があります。

名称だけでなく、その手当が導入された経緯や会社の賃金体系全体から見て、実質的に時間外労働等に対する対価と言えるかどうかが問われます。

【回避策】対価性を明確に!

  • 名称: 手当の名称を「時間外手当」「定額残業手当」など、一見して時間外労働等の対価であることが分かるものにします。
  • 定義: 就業規則等で、その手当が「時間外労働(〇時間分)に対する対価として支払う」ものであることを明確に定義します。
  • 対象の明確化: 通常の時間外労働だけでなく、深夜労働や休日労働の割増賃金も固定化したい場合は、一つの手当に時間外労働・深夜労働・休日労働の割増賃金を一緒にに含めず、「時間外手当」「深夜手当」「休日労働手当」のように 別々に手当項目を設ける 方が、対価関係が明確になり安全です(※mustではない)。

ケース3:超過分の差額が支払われていない(合意がない・実績がない)

【違法(無効)となるケース】

固定残業代で定められた時間を超えて残業した場合、その 超過時間分の割増賃金(差額)を支払うことは、法律上当然の義務 です。

しかし近年の裁判例(特にテックジャパン事件最高裁判決の補足意見以降)の中には、

  • 「超過分は別途支払う」という 明確な合意 が雇用契約書や就業規則にない
  • 実際に超過分の 差額が支払われた実績がない ことを理由に、固定残業代制度自体の有効性を否定するものが現れています。

差額を支払うことは法的に当然であるため、これを独立した有効要件とすることには議論がありますが、現実の裁判例として差額不払いが無効判断につながるケースが出ている以上、無視できないリスク要因です。

【回避策】差額支払いの合意明記と実行!

  • 合意の明記: 就業規則や雇用契約書に、「固定残業時間を超える時間外労働等があった場合は、その超過分について別途割増賃金を支払う」旨を 明確に記載 します(※mustではない)。
  • 実績の確保: 実際に固定残業時間を超えた従業員がいる場合は、必ず 差額を計算し、給与支払日に支払う 運用を徹底します。勤怠管理を正確に行うことが大前提です。
  • 給与明細: 給与明細で、固定残業代部分と、もしあれば差額支払い分(実績分)を分けて記載すると、より丁寧です。例:「時間外手当(定額分)」「超過時間外手当」など

ケース4:固定残業代の時間数や金額が不相当

【違法(無効)となるケース】

設定されている固定残業代の時間数や金額が、実態や基本給とのバランスから見て「不相当」と判断されるケースです。

  • 極端な長時間設定: 例えば「月90時間分」や「月100時間分」といった、36協定の限度時間(原則月45時間)を大幅に超えるような異常な時間数 が設定されている場合、実質的に「残業代を定額で打ち止めにする」意図があるとみなされ、公序良俗違反等で無効とされる可能性があります(ザ・ウィンザー・ホテルズ事件など)。
  • 基本給とのバランス: 基本給よりも固定残業代の方が高いなど、通常の賃金部分と固定残業代部分のバランスを著しく欠く 場合も、固定残業代部分が実質的には基本給の一部であり、割増賃金の対価とは言えないとして無効とされるリスクがあります(トレーダー愛事件)。
  • 安全配慮義務: あまりに長時間の固定残業を設定することは、会社が長時間労働を前提・容認していると見なされ、安全配慮義務違反 の観点からも問題視される可能性があります(大庄事件など)。

【回避策】妥当な時間・金額設定と根拠!

  • 時間数の目安: 36協定の限度時間である 月45時間以内 に設定するのが無難です。これを超える場合は、業務の実態調査などを行い、その必要性や合理的な根拠を明確にしておくべきです。また、過労死ラインなども考慮し、安全配慮の観点から65時間なども超えないようにすべきでしょう。
  • 基本給とのバランス: 固定残業代の金額が基本給と比較して、社会通念上、不相当に高額にならないようバランスを考慮します。少なくとも基本給を上回るような設定は避けるべきです。
  • 実態調査: 制度導入や時間数設定にあたり、実際の残業時間の実態調査を行い、その結果に基づいて時間数を決定した等の 客観的な根拠 を残しておくことが望ましいです。

ケース5:固定残業代を除いた基本給が最低賃金を下回る

【違法となるケース】

最低賃金法は、労働者に対して保障されるべき最低限の賃金水準を定めています。最低賃金が守られているかのチェックをする際、固定残業代や通勤手当など、一部の手当は計算に含められません

支払っている給与総額から、固定残業代など算定対象とならない手当を除いた「通常の労働時間に対応する賃金」を、月平均所定労働時間で割った時間単価が、その地域の最低賃金時間額を下回っている場合、最低賃金法違反となります。最低賃金法に違反する場合、固定残業代制度自体が全て無効となる場合もあります(ジャパンプロテクション事件 東京地判令6・5・17)。

【回避策】最低賃金のチェックと基本給の見直し

  • 固定残業代や最低賃金の計算に含まれない手当を除いた賃金部分のみで、時間当たりの賃金を計算します。 (例:(基本給+役職手当など)÷ 月平均所定労働時間)
  • 計算した時間単価が、都道府県が定める最新の地域別最低賃金時間額以上になっているかを定期的に(最低でも年1回、または最低賃金改定時)確認します。
  • もし下回っている場合は、基本給など、最低賃金の計算に含められる賃金部分を引き上げて対応します。

ケース6:既存社員に途中から固定残業代を導入する(特に基本給減額を伴う場合)

【違法(無効)となるケース】

すでに雇用している従業員に対して、途中から固定残業代制度を導入すること自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし、多くの場合、導入にあたって 既存の基本給や諸手当を見直し、実質的に基本給を引き下げて固定残業代の原資とする ケースが見られます。このような進め方には、特に注意が必要です。

  • 不利益変更とみなされるリスク: 固定残業代を導入する代わりに基本給を減額することは、多くの場合、労働者にとって「不利益変更」と判断されます 。なぜなら、割増賃金の算定基礎となる時間単価が下がってしまったり、実際の残業時間が少ない場合には総支給額が減ってしまう可能性があるためです 。
  • 形式的な同意の無効: たとえ従業員から同意書にサインをもらっていたとしても、変更による不利益(特に時間単価の低下や総支給額が減る可能性)について十分な説明がなく、従業員が内容を正確に理解しないまま同意していた場合、その同意は「自由な意思に基づかない」として無効とされる可能性があります 。プロポライフ事件の裁判例では、賃金総額が変わらないように見えても、基本給を減らして固定残業代を導入した変更について、従業員の有効な同意があったとは認められませんでした 。
  • 賃金構成の変更による無効: 以前は基本給や住宅手当など別の名目で支払われていた賃金の一部を、単純に「営業手当」(固定残業代)などに振り替えただけの場合、その手当が純粋な割増賃金の対価とは認められず、無効と判断されたケースもあります(マーケティングインフォメーションコミュニティ事件)。

このように、安易に基本給を減額して固定残業代を導入すると、制度自体が無効とされ、結局は減額前の基本給を元に未払い残業代を請求されるリスクがあります。

【回避策】丁寧な説明と真摯な同意の取得!

既存社員に対して基本給の減額を伴う形で固定残業代を導入する場合、それは労働条件の「不利益変更」にあたる可能性が高いため、以下の点が極めて重要になります。

  • 原則は個別同意: 就業規則の変更だけで一方的に導入するのではなく、原則として 従業員一人ひとりから、自由な意思に基づく明確な同意 を得ることが必要です 。
  • 徹底した事前説明: 同意を得る前に、以下の事項について、誤解が生じないよう 書面を交付するなどして、具体的に分かりやすく説明 する必要があります 。
    • 固定残業代制度の具体的な内容(対象時間、金額、超過分別途支給のルール)
    • 基本給がいくら減額されるのか
    • 基本給減額に伴い、時間外・休日・深夜労働の 割増賃金計算の基礎となる時間単価が下がる こと
    • 固定残業時間を超えなければ、それ以上の残業代は(別途)支給されなくなること
    • 実際の残業時間によっては、 制度導入前よりも月給(あるいは年収)の総支給額が減る可能性がある こと
  • 書面による同意確認: 十分な説明を行い、従業員が内容を理解・納得した上で、同意書(説明を受けたことの確認を含む)に署名・捺印 をもらう形で、同意の意思を明確に残します 。
  • 同意が得られない場合: 十分説明しても同意が得られない従業員に対して、無理に変更を強いることはできません 。その場合は、当該従業員については従来の賃金体系を維持するか、あるいは基本給を減額しない形での固定残業代導入(会社にとっては人件費増)を検討する必要があります。

固定残業代を導入・運用する際の重要な注意点(チェックリスト)

これまでの解説で、固定残業代制度が持つメリットと、運用を誤った際に生じる深刻なリスクについてご理解いただけたかと思います。多額の未払い残業代請求や法的なペナルティを回避し、従業員との信頼関係を維持しながら制度を適切に活用するためには、導入時だけでなく、その後の運用においても、いくつかの重要な注意点を遵守する必要があります。

専門弁護士として、経営者・人事担当者の皆様が確実に押さえるべきポイントを、チェックリスト形式で分かりやすく解説します。

 1. 導入目的は明確で適切か?

  • 目的の再確認: なぜ固定残業代を導入するのか、その目的を明確にしましょう。一般的なメリットには「①給与計算事務の軽減」「②長時間労働の抑制(ディスインセンティブとして)」「③採用時の訴求力向上」がありますが、それぞれの目的には注意点も伴います。
  • リスクのある目的: 特に「残業代をこれ以上払いたくない」「人件費を固定化したい」といった、コスト削減のみが目的の場合、制度設計や運用に無理が生じ、最終的に無効と判断されるリスクが高まります。
  • 採用目的の注意点: 「見かけ上の給与総額を高く見せたい」という採用目的の場合、ハローワークの求人票などでは、固定残業代である旨、対象時間数、超過分別途支給の明記が厳しく求められています。安易な利用は避けましょう。

☑ 2. 支払い方法は「手当型」か?

  • 手当型の推奨理由: 基本給に含める「組込型」(例:「基本給〇円には△時間分の固定残業代を含む」)は、「どこまでが基本給でどこからが固定残業代か」という明確区分性の要件で争いになりやすい形式です。
  • 明確性の確保: これに対し、基本給とは別に「〇〇手当」として支給する「手当型」は、形式上、基本給部分との区別がつきやすいため、このリスクを低減できます。導入するなら手当型が無難です。

☑ 3. 手当の名称と対象(対価性)は明確か?

  • 名称の重要性: 手当の名称は「時間外手当」「定額残業手当」「固定残業手当」など、割増賃金の対価であることが一義的に分かるものにしましょう。「営業手当」「業務手当」「調整手当」「精勤手当」といった名称では、本当に残業代の趣旨なのか(対価要件)が争点となりやすいです。
  • 対象範囲の特定: その手当がカバーする割増賃金の範囲を特定しましょう。「時間外手当」という名称であれば、通常は法定時間外労働(1.25倍)を指しますが、深夜労働(1.5倍以上)や法定休日労働(1.35倍以上)も含むのか否かを就業規則等で明確にします。
  • 複数種別を対象とする場合: もし深夜・休日分も固定化したい場合は、「深夜手当」「休日労働手当」のように別々の手当項目として設ける方が、それぞれの対価関係が明確になり、管理もしやすいため推奨されます。一つの手当に複数種別を含めると、充当計算や差額計算が複雑になり、有効性が争われるリスクが高まります。

☑ 4. 金額と対応する時間数は明示されているか?

  • 金額明示の優先: 「明確区分性」の観点からは、「固定残業手当は月〇万円」という 金額 を明確に規定することが最も重要です。これにより、基本給部分との区別が明確になります。
  • 時間数併記の推奨: 加えて、その金額が「月△時間分の時間外労働に相当する」という 時間数 も併記することが、従業員の理解促進や運用管理の観点から強く推奨されます。
  • 時間数のみ記載の場合の注意: 時間数のみ(例:「基本給には月20時間分の固定残業代を含む」)を記載する場合、固定残業代の「金額」を計算式(連立方程式など)で導き出す必要があり、従業員にとって分かりにくく、明確区分性が不十分とされるリスクがあります。もしこの方式を採るなら、計算式や計算結果を雇用契約書や給与明細で個別に明示する等の工夫が必要です。
  • 両方明示がベスト: 結局のところ、「月△時間相当分として、□万円を支給」 のように、金額と時間数の両方を就業規則や雇用契約書に明記するのが最も安全で分かりやすい方法です。

☑ 5. 時間数・金額は社会通念上、相当か?

  • 時間数の目安(45時間以内): 設定する固定残業時間は、36協定の特別条項なしの限度時間である 月45時間以内が一つの目安 となります。これを大幅に超える時間設定(例:裁判例で見られる95時間など)は、残業代逃れの意図を疑われたり、公序良俗違反とされたりするリスクが高まります。
  • 45時間超の場合の留意点: 45時間を超える設定が絶対に無効というわけではありませんが、その必要性や合理性を実態調査等に基づき説明できるようにしておくべきです。また、過労死ライン(月80時間や100時間)はもちろん、月65時間程度の残業でも労災認定された事例もあるため、安全配慮義務 の観点からも、65時間を超える設定は極力避けるべきでしょう。
  • 基本給とのバランス: 固定残業代の金額が基本給部分と比較して著しく高額(例:基本給15万円、固定残業代20万円など)だと、実質的に基本給の一部とみなされ、割増賃金の対価性が否定される可能性があります(トレーダー愛事件参照)。少なくとも固定残業代が基本給を上回るような設計は避け、目安としては基本給の〇割程度(例:2割前後)に留めるのが無難でしょう。
  • 客観的根拠の確保: 時間数を設定する際には、可能であれば従業員の実際の残業時間についてサンプリング調査を行ったり、衛生委員会等で検討したりするなど、設定根拠となる客観的なデータや議事録を残しておくことが、相当性を主張する上で有効です。

☑ 6. 「差額は別途支払う」旨の合意が明記されているか?

  • 合意明記の重要性: 固定残業時間を超えた分の割増賃金を支払うことは法律上の義務ですが、近時の裁判例では、「超過した場合は差額を支払う」という合意が明確に書面化されているか、また実際に支払われているかが、制度の有効性を判断する上で重視される傾向にあります(テックジャパン事件補足意見の影響)。
  • 紛争予防: 理論上の当否は別として、紛争予防の観点からは、就業規則や雇用契約書に「固定残業手当の対象時間を超える時間外労働等があった場合は、その超過分について、別途労働基準法に基づき算出した割増賃金を支払う」といった差額精算条項を明確に記載しておくことが、現在の実務では極めて重要です。

☑ 7. 従業員への説明は十分か?(特に導入・変更時)

  • 説明義務: 制度を導入・変更する際には、その内容、計算方法、メリットだけでなく、デメリットも含めて従業員が正確に理解できるよう、個別にかつ丁寧に説明する必要があります。
  • 不利益変更時の説明: 特に既存社員に導入し、基本給減額などの不利益変更を伴う場合は、なぜ変更が必要なのか、変更によって具体的に何がどう変わるのか(特に時間単価の低下、総支給額が減る可能性)を書面等も用いて、誤解のないように説明することが不可欠です。

☑ 8. 不利益変更を伴う場合、個別の真摯な同意を得ているか?

  • 個別同意の原則: 基本給減額など、労働者にとって不利益な条件変更を伴う固定残業代の導入は、原則として労働者一人ひとりの自由な意思に基づく、明確な個別同意が必要です。
  • 同意の有効性: 単に同意書にサインをもらうだけでなく、十分な情報提供と理解に基づいた同意でなければ、後から無効とされるリスクがあります(プロポライフ事件参照)。説明不足や誤解に基づく同意は「真意の表明」とは認められません。
  • 同意書の内容: 同意書には、変更内容だけでなく、説明を受けた重要事項(特にデメリット)を確認するチェック欄などを設けることも有効です。

☑ 9. 労働時間は正確に管理されているか?

  • 時間管理の義務: 固定残業代を導入しても、労働安全衛生法に基づく労働時間の客観的な把握義務は免除されません。タイムカード、ICカード、PCログなど客観的な方法で、全従業員の始業・終業時刻を正確に記録・管理する必要があります。
  • 差額計算の基礎: この正確な労働時間記録が、固定残業時間を超えた場合の差額計算の基礎データとなります。どんぶり勘定は許されません。

☑ 10. 超過分の差額は、毎月確実に支払われているか?

  • 運用面の最重要ポイント: ルールを定めても、実際に運用されていなければ意味がありません。毎月、各従業員の実際の時間外労働時間等を正確に集計し、固定残業時間を超えていれば、定められた計算方法に基づき差額を計算し、給与支払日に確実に支払うことが極めて重要です。差額不払いが常態化していると、制度全体の有効性が否定される大きな要因となります。

☑11.最低賃金との関係を常に確認する

  • 固定残業代は、最低賃金の計算対象となる賃金には含まれません。支払っている賃金のうち、最低賃金の計算に含まれる部分のみ(主に基本給)を取り出し、月平均所定労働時間で割った時間単価を計算します。
  • その時間単価が、最新の地域別最低賃金時間額以上になっているかを定期的に確認します(最低でも年1回、または最低賃金改定時)。
  • もし下回っている場合は、基本給など、最低賃金の算定対象となる賃金を引き上げて対応する必要があります。

弁護士視点: 最低賃金は毎年改定されます。知らずに最低賃金法違反とならないよう、定期的なチェックは必須です。

☑ 12. 給与明細の記載は適切か?

  • 明確な区分表示: 給与明細書には、基本給、固定残業代(「時間外手当(固定分)」など)、および差額支払い分(「時間外手当(実績分)」など)を明確に区別して記載しましょう。
  • 時間数の表示: 可能であれば、固定残業代が何時間分に相当するのか、また差額支払い分が何時間分なのかも併記すると、より透明性が高まります。

☑ 13. 定期的に制度を見直しているか?

  • 見直しの必要性: 一度導入したら終わりではなく、法改正や最新の裁判例の動向従業員の実際の残業時間の変動事業内容の変化などを踏まえ、固定残業代の時間数、金額、運用ルールが現状に適合しているか、定期的に見直しを行いましょう。形骸化した制度はリスクの温床です。

まとめ

この記事では、会社経営者・人事担当者の皆様が適切な労務管理を行う上で重要なテーマとなる「固定残業代(みなし残業代)」について、専門弁護士の視点から詳しく解説しました。

固定残業代制度は、人件費の予測や給与計算の管理を効率化できる可能性がある一方で、その仕組みを正しく理解し、法律に則って厳密に運用しなければ、多額の未払い残業代請求や法的なペナルティといった極めて大きなリスクを招く制度であることをご理解いただけたかと思います。特に「みなし労働時間制」との混同は、違法状態に陥る典型的なパターンです。

固定残業代制度を法的に有効かつリスクなく運用するためには、以下のポイントが不可欠です。

  • 基本給と固定残業代(対象時間数・種類)を明確に区分して定めること
  • 従業員の実際の労働時間を正確に把握・記録し、固定時間を超えた残業に対する追加賃金を必ず支払うこと
  • 固定残業代を除いた賃金部分で最低賃金をクリアしているか定期的に確認すること
  • 労働基準法の労働時間上限規制や36協定を遵守すること
  • 労働条件通知書、雇用契約書、就業規則に適切に規定し、従業員に周知すること
  • 法改正や自社の実態に合わせて、制度を定期的に見直すこと

これらのポイントが一つでも欠けると、せっかく導入した固定残業代制度が無効と判断されたり、未払い残業代が積み重なったりして、経営にとって大きな打撃となりかねません。これは、皆様が最も避けたいと願う「労務トラブル」そのものです。

しかし、この記事を通じて、固定残業代に関する正しい知識と、リスク回避のために具体的に何をすべきかをお伝えできたはずです。この知識は、適切な労務管理を行い、安心して事業を継続していくための強力な武器となります。ぜひ、この記事で得た情報を基に、自社の固定残業代制度が適正に運用されているかをご確認ください。

固定残業代制度の導入・運用は、法的な要件が複雑であり、個別の会社の状況によって最適な方法は異なります。また、一度導入すれば終わりではなく、継続的な管理と法改正への対応が必要です。

もし、自社の固定残業代制度の適法性にご不安がある場合、あるいはこれから導入や見直しを万全に進め、将来の労務トラブルのリスクを最小限に抑えたいとお考えの会社経営者・人事担当者の皆様は、ぜひ一度、労働法専門の弁護士にご相談いただくことを強く推奨します

専門家であれば、貴社の状況を正確に診断し、法的なリスクがないか詳細にチェックし、最適な制度設計や就業規則の整備、導入・運用に関する具体的なアドバイスを提供することが可能です。適切な労務管理は、従業員との信頼関係を築き、企業の持続的な成長を支える基盤となります。

貴社にとって最適な、リスクのない労務管理体制構築をサポートするため、いつでもお気軽にご相談ください。

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この記事では、固定残業代制度の正しい知識と、労務トラブルを防ぐための重要な注意点について解説しました。固定残業代を含む労働法務は複雑であり、 裁判例は常に改正されます。この記事で基本的な知識は得られても、「自社の賃金規程はこれで大丈夫?」「新しい従業員への説明はどうすれば?」「法改正に対応できているか?」といった個別具体的な判断や継続的な管理には、専門的な視点が不可欠です。

「トラブルが起こってから」対応するのではなく、「先手必勝」労務管理こそが、これからの企業経営には不可欠です。

弊所(または当事務所)では、固定残業代を含む給与制度、労働時間管理、就業規則の作成・変更、問題社員への対応、ハラスメント対策など、企業経営に関わるあらゆる労働問題について、専門弁護士及び社労士が継続的にサポートする『労務顧問契約』を提供しています。

労務顧問契約をご利用いただくことで、

  • 固定残業代に関する個別の不安や疑問を、いつでも気軽に相談できる
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