解雇理由証明書の作成上の注意点【書式・ひな形あり】

  • 2022年3月20日
  • 2022年6月14日
  • 解雇

解雇理由証明書は、その後の紛争に備えて作成する必要があります。解雇理由証明書の作成上の注意点について労働問題専門の弁護士が分かりやすく解説します。

社長

先日解雇を言い渡した当社の従業員から、解雇理由証明書の発行を求められました。解雇の理由は、解雇を言い渡す際に口頭で説明したのですが、これに応じなければならないでしょうか。応ずる場合、解雇理由証明書の作成の注意点について教えてください。

弁護士吉村雄二郎
解雇に際して、労働者の求めに応じて使用者が発行する解雇の理由を記載した証明書が「解雇理由証明書」です。解雇理由証明書は、労働者がその理由を確認し、解雇の有効性を争うか否かを判断できるようにすることに趣旨があります。つまり、「解雇理由証明書」の発行を労働者が請求してきた場合は、解雇を争ってくる可能性が高いことを意味します。そのため、使用者としては、紛争(裁判)に発展することも念頭に置いて、網羅的かつ詳細な解雇理由証明書を作成・交付するよう注意が必要です。
解雇理由証明書とは何か
解雇理由証明書の記載内容
解雇理由証明書を発行する期限

1 解雇理由証明書とは

労働者が退職に際し、在職中の契約内容等について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません(労基法22条1項)。

また、解雇予告がなされた日から退職の日までの間において、労働者が解雇理由の証明書を請求した場合も同様です(同条2項)。

このように、解雇に際して、労働者の求めに応じて使用者が発行する解雇の理由を記載した証明書が「解雇理由証明書」です。

図表1 解雇理由証明書

資料出所:秋田労働局ホームページ

解雇理由証明書の発行が義務づけられる趣旨は、①解雇に際し、解雇理由を明示すべきものとすることによって、解雇が恣意的になされることを防止するとともに、②労働者がその理由を確認し、解雇の有効性を争うか否かを迅速に判断できるようにし、解雇に関して労使の自主的解決を促進することにあります。

解雇理由証明書をメールで送信することはできるか?
できない。解雇理由証明書を定めた労基法22条1項は、「使用者は・・・交付しなければならない」と定めており、特則がない以上、書面そのものを交付することを予定していると解されます。パート労働法6条1項のような「文書の交付その他厚生労働省令で定める方法」といった定めがない以上、電子メールにより解雇理由証明書を送信することは出来ないと考えられます。

2 記載事項について

上記の解雇理由証明書の趣旨から、解雇理由証明書における「解雇理由」は、当該解雇の根拠規定および事実関係を具体的に記載する必要があり、就業規則上の解雇事由該当性を理由に解雇する場合は、就業規則の当該条項および当該条項に該当するに至った事実関係を記載しなければならないとされています(平11.1.29 基発45、平15.12.26 基発1226002)。

また、解雇された労働者が解雇の事実のみについて使用者に証明書を請求した場合、使用者は、解雇の理由を証明書に記載してはならず、解雇の事実のみを証明書に記載する義務があります(労基法22条3項)。

3 解雇理由証明書の効果

使用者が解雇理由証明書により解雇理由を明示した場合、解雇をめぐる労使間の法的紛争において、労働者が「解雇理由証明書に記載のなかった他の解雇理由を事後的に追加主張することはできない(あるいは、解雇理由証明書に記載のなかった事実は存在しなかった)」と主張することがあります。

しかし、解雇理由証明書にそのような拘束力はないため、そこに記載されていない解雇理由についても、解雇の意思表示をした時点までに客観的に存在した事由であれば、解雇の有効性を根拠づける事実として主張することはできます。

ただし、解雇をめぐる労使間の法的紛争では、使用者が発行した解雇理由証明書が証拠として提出されることが多くあります。

そして、使用者が、解雇理由証明書に記載のない事実を解雇理由として主張した場合、「使用者が解雇時には当該事由を重視していなかった」と評価される場合もあり得ます。

それゆえ、解雇理由証明書の交付を求められた場合、使用者としては、それが裁判所などの紛争解決機関に持ち込まれ、当該解雇の有効性が、その証明書に書かれた解雇理由に基づき判断される可能性があることを念頭に置き、できる限り網羅的かつ詳細な証明書を作成・交付するように注意する必要があります。

解雇理由証明書の書式・ひな形

解雇理由証明書

令和4年●月●日

甲野 太郎 殿

株式会社 ●▲工業
代表取締役社長  ●山 ●夫 ㊞

解雇理由証明書

当社が、貴殿に対して令和4年●月●日に通知した普通解雇については、以下の理由によるものであることを証明します。

1 職務命令に対する違反行為(就業規則第●条●号)

ア 当社における就業時間中に・・・業務を行っていた。

イ ・・・業務に関し,杜撰な業務により・・・(業務上の支障)・・が度々生じた。

ウ 当社は,令和●年●月頃,・・(具体的業務命令)・・を命じたが,貴殿は全く行わなかった。

エ ・・・・・・・・・

2 業務について不正な行為(就業規則第●条●号)

令和●年●月頃,集金業務の際に客先より受領した当社の金銭を保管中,ほしいままに自己の用途に費消する目的で着服して横領した。

3 勤務態度又は勤務成績が不良であること(就業規則第●条●号)

ア ・・・・・を行い,社内の秩序を乱した。

イ 勤務時間中に・・・・・・・行っていた。

ウ 勤務時間中に私用の電話対応を度々行った。

エ 職場の上司に対し不適切な言動を度々行った。

4 その他、当社社員としての適性がないこと(就業規則第●条●号)

5 その他

以上の解雇理由該当行為について,当社は貴殿に対し,令和●年●月●日,同年●月●日など度々注意指導を行って改善を求めたが,貴殿は反抗的な態度に終始してこれに従わず,かえって不適正な行為を繰り返し行ったため,もはや貴殿に改善の見込みはない。また,貴殿の行った行為によって当社に生じた業務上の支障は著しい。

よって,貴殿は,当社従業員として相応しくないと判断した。

以上

弁護士吉村雄二郎
上記のとおり解雇理由について、出来るだけ網羅的な記載をすることが望ましいと考えます。想定できる限りの解雇理由を記載した上で「その他、当社社員としての適性がないこと」といった包括条項も最後に付け加えておくとよいでしょう。

厚生労働省ひな形

解雇理由証明書については厚生労働省もHPでひな形を公表しています。 こちら

この書式を利用して頂いてもよいですが、記載できる範囲が狭いので、上記のような独自の書式でも構いません。

 

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