パルシングオー事件(東京地方裁判所平成9年1月28日判決)

管理監督者性が肯定された例

1 事案の概要

被告は写真植字による印字制作,イラストレーション,グラフィックデザインの制作等を目的とする会社である。
原告Aと原告Sは,被告においてMDSS(マネジメント・ディシジョン・サポート・スタッフ)の職位にあり,原告Kはマネージャーの職位にあった。
本件は,原告らが被告に対し,時間外勤務手当・深夜勤務手当等の支払を求めた事案である。

2 判例のポイント

2.1 結論

原告らは管理監督者に該当するとして,時間外割増賃金等の請求を斥けた。

2.2 理由

① 勤務内容・責任・権限

原告らは,経営企画室のMDSS(マネジメント・ディシジョン・サポート・スタッフ=経営・意思決定支援構成員)又は営業部のマネージャー。
経営企画室では,MDSSは取締役に次ぐマネージャーのうち上位の管理職として位置づけられ,営業部では,マネージャーは最高責任者として位置づけられていた。
経営企画室は,被告の重要事項(年間スケジュール,夏期・冬期の各賞与の査定,昇進・昇格等)につき,審議・上申していた。

② 勤務態様

経営企画室MDSS又は営業部マネージャーは,タイムカードによる管理がされ,欠勤や遅刻につき賃金減額がされていた。

③ 賃金等の待遇

MDSSには,経営給が支給され,マネージャーには,管理給が支給され,また,固定残業給として,MDSSには月額1万円,マネージャーには月額2万円がそれぞれ支給されていた(固定残業給は,被告の業務内容を時間の上で厳密に管理することが困難であることに鑑み,残業に対する手当を固定化したものであった。)。

3 判決情報

3.1 裁判官

裁判官:

3.2 掲載誌

労働判例725号89頁

4 判決要旨

1 時間外勤務手当請求について

先ず,原告等がいずれも労働基準法41条2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するか否かについて検討する。
証拠(略)によると,次の事実を認めることができる。
被告は,昭和50年6月17日,株式会社Sデザインの商号で被告の代表者O(以下「O社長」という。)によって設立され,当初はO社長のいわゆる個人企業形態であったが,時代に事業規模が拡大するに伴い株式会社としての組織形態に徐々に整備され・・・O社長の下に各取締役,経営企画室の構成員として,経営・意思決定構成員としてのMD(マネジメント・ディシジョン),経営・意思決定支援構成員としてのMDSSを設け,各営業部の最高責任者としてマネージャーを,これを補佐する職位としてシニア・マネージャーを設けた。・・・経営企画室構成員であるMD,MDSSは,取締役に次ぐマネージャーの上位に位する管理者として位置づけられ,O社長としては,マネージャーは他の中小企業の部長職に相当する職位であり,MD,MDSSは取締役に準ずる地位であるとの認識を有し,取締役会を有効に機能する機関となることを企図していた。
このように経営企画室に期待される役割は被告の重要事項について審議し,具申していたのであり,例えば,年間スケジュールについて審議・具申し,夏期・冬期の各賞与査定,昇進・昇給等の審議・具申をなしてきた。このようなことから,O社長は,従業員をMDSSに任命するに際し,当該従業員に対し,今後被告の経営に参加することとなること,経営企画室は経営方針を確立する機関であること等を説明していた。
以上のような職責に鑑み,被告は,給与体系においてもそれぞれの職位に対応した職務給,すなわち,MDSSの職位にある者は経営に関与しているとして「経営給」を,マネージャーの職位にある者には管理者として「管理給」を各支給しており,この他に,職位と能力とに応じた技能給を支給していた。もっとも,被告は,平成元年4月から給与体系の改訂をなしたことに伴い,固定残業給制度を採用した。この制度は,被告の業務内容を時間の上で厳密に管理することが困難であることに鑑み,残業に対する手当を固定化したものであった。このことによって,MDSSには1万円,マネージャーには2万円,シニアマネージャーには3万円が毎月固定残業手当の名目で支払われていた。もっとも,マネージャー,MDSSの職位にある者に対してもタイムカードによる出退勤管理がなされており,欠勤や遅刻に対してはそれに応じた賃金減額がなされていた。
右認定事実によると,被告にあってのマネージャー及びMD,MDSSの職位にある者は勤務時間についてタイムカードによる管理がなされて,欠勤や遅刻について賃金減額がなされていたとはいえ,労務管理上の指揮監督権を有し,経営者と一体的な立場にあったのであり,賃金についても基本給以外に経営給あるいは管理給なる特別の手当が支給されていたというのである。
そうすると,MDSSの職位にあった原告A,原告S,マネージャーの職位にあった原告Kは,時間外,休日及び深夜の割増賃金の支払い義務を定めている労働基準法27条の適用の除外規定である同法41条2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するということができ,原告等に対する出退勤管理がなされていたことがこの判断を左右することにはならないというべきである。
従って,原告等の本訴時間外手当請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。

2 社内積立金返還請求について

被告は,平成3年5月から同4年2月まで,原告A,原告Sにつき,毎月14万9212円を社内預金として積み立てたこととした経理処理をしていたことは争いがないところ,証拠(略)によると,被告のなした右の経理処理は経営体質の強化,事業資金の蓄積等を企図して税金対策として計上されたに過ぎず,真実は右原告等が積み立てたのではなかったことを認めることができる。

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