O法律事務所(事務員解雇)事件(名古屋地判平成16.6.15,名古屋高判平成17.2.23)

後任の新事務職員の募集等に格別の抗議をせず,退職直前に有給休暇の消化に励んでいたこと,退職金の振込先の銀行口座を記載した書面をファックスし受領したことなどから,地裁判決は合意解約を認定した事例(高裁判決は, 当該労働者が一貫して働き続けたいと述べていたことから,合意解約の成立を否定し,解雇が違法であると判断した事例)

1 事案の概要

被告は,弁護士登録後,勤務弁護士を経験した後,平成4年4月1日に独立して,名古屋市中区〈以下略〉において乙山次郎法律事務所(以下「被告事務所」という。)を開設した。原告は,被告事務所が開設された平成4年4月1日から10年以上,同事務所に勤務した元事務員である。原告は,平成14年11月11日ころ,被告に対し,甲野太郎弁護士と同年12月に結婚する予定であると伝えた。これに対し,被告は,原告の結婚相手が,被告と同じ名古屋弁護士会に所属し,かつ同じ名古屋市内に事務所を置く他の法律事務所の弁護士である以上,被告事務所で取り扱う事件の処理に当たり,秘密保持,依頼者との信頼関係等の観点から問題が多すぎると判断した。そこで,平成14年11月15日ころ,原告に対し,「当事務所を退職していただきたい。その時期としては,年末ということもあるが,それでは突然すぎるし,また,当事務所での後任事務員の引継ぎもしていただきたいので,平成15年3月末をもって退職としてもらえないか。」と提案した。原告は被告から解雇された(以下「本件解雇」という。)と主張して,本件解雇は解雇理由も明示されず,合理的理由もないものであるなど,違法であって不法行為に当たるとして,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,〔1〕逸失利益186万4000円(6か月分賃金相当額139万8000円と賞与相当額46万6000円との合計額)及び〔2〕慰謝料300万円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成15年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 O法律事務所(事務員解雇)事件判例のポイント

2.1 結論

一審:雇用契約の合意解約が成立しており,原告の請求棄却 二審:雇用契約の合意解約は存在せず,違法な解雇による損害賠償を認容

2.2 理由

1 解雇行為の有無

一審では,平成14年12月に新事務員の募集等が行われたが,その点について被告に対して格別の抗議をしていないこと,原告は,平成15年1月28日に,退職することについて異議を唱える発言をしているが,最終的には同年3月31日の退職を前提に残りの有給休暇の日数を確認していること,それまで余り有給休暇を取らなかった原告が,自ら平成15年3月の有給休暇の予定表を作成し,同月は5日出勤するだけで残りは有給休暇の消化に励み,同月20日を最後に出勤しなくなったこと,原告は,被告との雇用契約が終了する同月31日に,被告に対し,退職金の振込先の銀行口座を記載した書面をファクシミリにより送信し,同年5月6日,被告が振り込んだ退職金を受け取っていること,原告は,配偶者が弁護士であって被告との交渉等をすることも比較的容易であるにもかかわらず,退職の話が出た平成14年11月以降本件訴訟が提起された平成15年6月に至るまで,被告に対し,明示的に事務員としての地位を保全する行動に出ていないことなどに照らすと,原告は,平成14年11月に被告との間で雇用契約を合意解約し,被告との雇用契約が平成15年3月31日に終了することを前提として行動していたものと認められるとした。 二審では,原告(控訴人)の元同僚で現在も被告(被控訴人)事務所に勤務する証人Tの証言をもって,原告(控訴人)が退職に合意しておらず,違法無効な解雇が行われたものとして,損害賠償を認めた。 控訴人の同僚であった証人Tによれば,同人は,控訴人から被控訴人事務所を辞める旨の発言は一度も聞いたことがなく,かえって同年11月18日の朝,被控訴人から控訴人が翌年3月いっぱいで退職すると聞かされ意外に思い,控訴人に確認したところ,控訴人はこれを否定し,被控訴人に対して事務所を辞める旨の発言はしていないと述べたというのである。同証言は,控訴人が一貫して主張,供述するところと整合するものである上,同証人が現在も被控訴人事務所に勤務していることに鑑みれば,被控訴人に不利益な上記証言の信用性は高いというべきであって,被控訴人主張の事実は認められない。 そうすると,控訴人は一貫して仕事を継続したい旨の意向を表明していたものというべきであり,被控訴人の主張するように控訴人が雇用契約の解約に合意したような事実を認めることはできない。なお,その後において有給休暇を取得したり,退職金を受領したこと等は,上記と矛盾するものではなく,上記判断を左右しない。 よって,被控訴人は,遅くとも平成15年1月28日までに同年3月末日をもって控訴人を解雇する旨の意思表示をしたものと認められる。

2 解雇の違法性

被控訴人は,業務上依頼者の秘密に接する機会がある被控訴人事務所の事務員が,被控訴人と同じ名古屋弁護士会に所属し,被控訴人と同じ名古屋市内に事務所を置き,訴訟等の相手方となる可能性の高い他の法律事務所の弁護士と結婚した場合,被控訴人の依頼者の秘密が漏洩するおそれが生じるほか,そのような結婚の事実を知った被控訴人の依頼者が,被控訴人に秘密を述べることに不安を覚えることになるなど,被控訴人と依頼者との信頼関係に支障が生じるおそれがある旨主張する。 確かに,法律事務所の職員の配偶者が,当該事務所と相対立する立場に立つ法律事務所の勤務弁護士である場合,抽象的な可能性の問題として考えれば,情報の漏洩等の危険性を完全に否定することはできないであろう。しかし,法律事務所に勤務する事務員は,依頼者の情報等職務上知り得た事実について,弁護士と同等の法律上特別に定められた秘密保持義務ではないとしても,当然に一定の雇用契約上の秘密保持義務を負っているのであり,通常はこの義務が遵守されることを期待することができるというべきである。また,名古屋市内で業務を行っている弁護士は900名を超えるのであるから,実際にそのような利害対立が生じる場面は決して多くはないものと考えられ,被控訴人の指摘する危険等は,いまだ抽象的なものと言わざるを得ない。また仮にそのような利害対立の場面が実際に生じたとしても,何らかの措置を講じることによって,弊害の生じる危険性を回避し,依頼者に不信感を与えることを防止することは十分に可能であると考えられる。夫婦共働きという在り方が既に一般的なものになっている今日,上記のような抽象的な危険をもって,解雇権行使の正当な理由になるとすることは,社会的に見ても相当性を欠くというべきであり,控訴人の主張する本件解雇の理由は,合理的なものということはできない。

3 損害について

逸失利益として,3ヶ月分の賃金相当額を不法行為たる本件解雇と相当因果関係のある損害,慰謝料30万円,弁護士費用10万円を,被控訴人が控訴人に支払うよう命じた。

3 O法律事務所(事務員解雇)事件の関連情報

3.1判決情報

(一審) 裁判官:上村 考由 (控訴審) 裁判長裁判官:青山 邦夫 裁判官:田邊 浩典 裁判官:手嶋あさみ 掲載誌:(一審)労判909号72頁 (控訴審)労判909号67頁

3.2 関連裁判例

日本システムワープ事件(東京地判平成19.9.10労判886号89頁) テレマート事件(大阪地方裁判所平成19年4月26日 判決)

O法律事務所(事務員解雇)事件 第1審

当事者

原告 甲野花子 同訴訟代理人弁護士 甲野太郎 同 萱垣建 被告 乙山次郎 同訴訟代理人弁護士 服部一郎

主文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第1 請求

被告は,原告に対し,486万4000円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,弁護士である被告が開設する法律事務所に事務員として雇用された原告が,被告から解雇された(以下「本件解雇」という。)が,本件解雇は解雇理由も明示されず,合理的理由もないものであるなど,違法であって不法行為に当たるとして,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,〔1〕逸失利益186万4000円(6か月分賃金相当額139万8000円と賞与相当額46万6000円との合計額)及び〔2〕慰謝料300万円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成15年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 これに対し,被告は,原告と被告との雇用契約の終了原因は,解雇ではなく合意解約によるものであると争い,予備的に普通解雇を主張するものである。

1 争いのない事実等

(1)被告は,昭和62年4月2日,名古屋弁護士会に弁護士登録した司法修習第39期の弁護士である。被告は,弁護士登録後,勤務弁護士を経験した後,平成4年4月1日に独立して,名古屋市中区〈以下略〉において乙山次郎法律事務所(以下「被告事務所」という。)を開設した。

(2)原告は,被告事務所が開設された平成4年4月1日から10年以上,同事務所に勤務した元事務員である。

(3)原告は,平成14年11月ころ,被告に対し,名古屋弁護士会所属の甲野太郎弁護士と結婚する予定であると伝えた。

(4)原告と被告との間の労働契約は,平成15年3月31日をもって終了した。

(5)原告は,平成15年6月11日,名古屋地方裁判所に対し,被告に対する本件損害賠償訴訟の訴えを提起した(当裁判所に顕著)。

2 争点及び当事者の主張

(1)解雇行為の有無及びその違法性

(原告の主張)

被告は,原告を解雇した。本件解雇は,実質的には,既婚者を排除する意図によるものであり,解雇権の濫用に当たる。また,本件解雇は,結婚を理由とする解雇であり,男女雇用機会均等法8条3項に反する。さらに,被告は,職場環境を調整すべき義務,すなわち原告が他の法律事務所の弁護士と結婚することにより支障が生じるのであれば,その支障を解消すべき義務を負っているが,被告はそれを怠った。その上,本件解雇は,解雇理由を明示していないし,さらに,原告は,採用時,勤務時にも「他の法律事務所の弁護士と婚姻すれば解雇する」という条件は知らされていない。したがって,本件解雇は違法であり,不法行為に当たる。

(被告の主張)

 原告と被告との雇用契約は,合意解約に基づいて終了したものである。

(2)損害

(原告の主張)

ア 逸失利益

被告の解雇行為により,原告は本来勤務を継続して得られたはずの賃金相当額(6か月分139万8000円)及び賞与相当額(賃金2か月相当分46万6000円)の合計186万4000円の損害を受けた。

イ 慰謝料

被告の解雇行為により,原告は職業安定所に通わざるを得なくなったが,求人もない状態にあり,人生設計が根底から破綻した。原告が被った精神的苦痛を慰謝するには300万円が相当である。

(被告の主張)

仮に,解雇が違法であるなら,雇用関係は継続しているから,雇用契約に基づく賃金支払請求権は発生しても,賃金相当額の逸失利益は発生しない。さらに,原告は,復職を希望しないから賃金支払請求権も発生しない。

(3)普通解雇(予備的抗弁)

(被告の主張)

仮に,合意解約の事実が認められないとしても,被告は,平成14年11月,平成15年3月31日付けで原告を普通解雇した。被告は,弁護士としてその依頼者の秘密を保持すべき高度の義務を負っている。この点,業務上被告の依頼者の秘密に接する機会がある被告事務所の事務員が,被告と同じ名古屋弁護士会に所属し,被告と同じ名古屋市内に事務所を置き,訴訟等の相手方となる可能性の高い他の法律事務所の弁護士と結婚した場合,被告の依頼者の秘密が漏洩するおそれが生じる。さらに,その結婚の事実を知った被告の依頼者は,被告に秘密を述べることに不安を覚えることになるなど,被告とその依頼者との信頼関係にも支障が生じるおそれがある。さらに,その結婚の事実により,弁護士同士が馴れ合っているという誤解を受けるおそれもある。加えて,その結婚の事実により被告が受任する事件も制約を受けるおそれもある。これらの事情により,被告の弁護士としての公正・中立性に,ひいてはその職務遂行に重大な支障が生じるおそれがある。したがって,被告は,上記のような支障を避けるために原告を解雇したものであり,上記解雇には合理的理由がある。

(原告の主張)

被告の解雇は,何ら合理的理由がないものである。

第3 当裁判所の判断

1 争いのない事実

(1)被告は,昭和62年4月2日,名古屋弁護士会に弁護士登録した司法修習第39期の弁護士である。被告は,弁護士登録後,勤務弁護士を経験した後,平成4年4月1日に独立して,名古屋市中区〈以下略〉において被告事務所を開設した。

(2)原告は,知人の知合いの弁護士を通じて,被告事務所を紹介され,平成4年3月ころ,被告の面接を受け,同事務所に勤務することとなり,その後10年以上勤務した。

(3)原告は,甲野太郎弁護士と交際を始めた後,被告に対し,同弁護士と交際中であると伝えた。その後,原告は,被告に対し,一般論として結婚しても仕事は続けられるかと尋ねたところ,被告は続けてもらってかまわないと答えた。

(4)被告事務所では,平成14年当時,平成13年3月から勤務しているT(以下「T」という。)と原告の2名の事務員が勤務していた。 原告は,特に破産事件を中心とする民事事件,刑事事件等の事件処理全般のみならず,経費の支払等の経理事務も担当し,被告事務所の事務局の中核的な立場にあった。

(5)被告は,平成14年8月に事務所の移転をしたが,移転日の連絡の不備のため,原告に多大な負担をかけたことがあった。

(6)Tは,結婚が決まったことから,平成14年9月下旬,被告に対し,平成14年12月14日に結婚すると伝え,その際,結婚式への出席の依頼をした。Tは,「単に名前が変わるだけですから,仕事は続けます。」と述べ,その際,被告は,Tが従前どおりの勤務形態を維持することができるか不安に感じた。なお,Tは,被告事務所に現在も勤務している

(7)原告は,平成14年11月11日ころ,被告に対し,甲野太郎弁護士と同年12月に結婚する予定であると伝えた。原告は,その際,「私としては,結婚後も勤務を続けてもかまいませんし,あるいは退職することになるのか,どちらでもかまいません。」と述べた。

(8)被告は,原告が結婚する相手が,被告と同じ名古屋弁護士に所属し,かつ同じ名古屋市内に事務所を置く他の法律事務所の弁護士である以上,被告事務所で取り扱う事件の処理に当たり,秘密保持,依頼者との信頼関係等の観点から問題が多すぎると判断した。

(9)被告は,平成14年11月15日ころ,原告に対し,「当事務所を退職していただきたい。その時期としては,年末ということもあるが,それでは突然すぎるし,また,当事務所での後任事務員の引継ぎもしていただきたいので,平成15年3月末をもって退職としてもらえないか。」と提案した。 原告は,これに対し,「分かりました。ちょうど破産管財事件もおおむね目処がついてきましたから。」と述べた。ただし,この点について,原告と被告との間で書面が作成されることはなかった。当時,原告が担当していたHという破産者の破産管財事件の処理が終了するころになっていた。

(10)被告は,平成14年11月15日の話合いの後,就職情報誌「とらばーゆ」に新規事務員募集の広告掲載の依頼をし,同情報誌に求人広告が掲載された後,同年12月7日に新事務員採用のための面接をした。被告は,1名の事務員を採用することとし,その者に連絡したところ,現在仕事がないのですぐに働きたいという希望であった。被告は,原告から,新事務員の採用時期は平成15年1月以降にしてほしいという希望を聞いていた。しかし,被告は,新事務員の希望をかなえたいという気持ちと一日でも早く仕事に慣れてもらいたいという気持ちから,新事務員には年内から勤務してもらうこととし,そのことを原告に伝えた。原告は,新事務員が年内から勤務することについて不快感を示し,新事務員が年内から勤務を始めて忘年会に出席するのであれば,原告は忘年会に出席しないと被告に伝えた。

(11)被告は,平成14年12月11日午前,新事務員に事務所に来てもらい,勤務条件の説明をした上で,翌日から出勤してもらうことにし,事務所の受付カウンターのところで,新事務員を原告らに紹介した。このとき,原告が,新事務員がどこに座るのかと被告に尋ねたので,被告は,原告の右隣の空いている机に座ってもらうつもりであり,そのためその机の上に置いてある書類等を整理してもらいたいと原告に述べた。しかし,原告は,その机の上に置いてある書類等は事務に使用する重要な書類なので移動させるのは困ると被告に対して述べた。被告は,その場の雰囲気が険悪なものであると感じ,とにかく整理をするように原告に対して述べた。

(12)被告は,平成14年12月11日夕方,新事務員から,急に別の会社に勤務することが決まったため被告事務所では働けないという内容の断りの電話を受けた。

(13)原告は,平成14年12月22日午前中,住民票を移動する手続を採るため,休暇を取り,午後入籍したことを被告に対して報告した。原告は,同年12月ころは実家と新居との間を行き来していたが,平成15年1月からは,新居で甲野太郎弁護士との同居を開始した。

(14)被告は,平成15年1月7日ころ,入籍のお祝品を原告に渡した。

(15)原告は,平成15年1月28日ころ,被告に対し,「精神的に不安定なんです。私がなぜ辞めなければならないんですか。私に落ち度はないはずです。」と述べた。被告は,このとき,原告に対し,「弁護士の妻になった以上,別の法律事務所である被告の事務所で勤務することは無理であることを理解してもらいたい。」と述べ,退職勧奨の理由を説明した。そのときの会話はおおむね以下のとおりである。 原告「私は,仕事を続けたいという気持ちは今でも変わりがありません。仕事は続けたいです。」 被告「ご理解いただきたいと思います。」 原告「私はこの仕事をとても大切にしてきました。ですから,この事務所に損害を与えるような仕事はしてきていません。私にとってこの仕事はもはや体の一部と思えるほどになっていて,解雇を言われた今,体の一部がなくなってしまったようでとてもつらいです。こんな気持ちのまま,新しい事務員さんに仕事の引継がされることはとてもつらいです。」 被告「あなたの意見を聞く場がなかったですから。」 原告「解雇日と解雇理由を明確にして下さい。」 被告「解雇ととられるとなあ。」 原告「でも私は仕事を続けたいと言っているのですから,これは希望退職ではありませんよね。そしたら,事務所都合の解雇ではありませんか。」 被告「あなたが解雇ととるなら別にそう思ってもらってもいいですよ。」 原告「解雇日と解雇理由を教えて下さい。」 被告「日にちは3月31日。理由は,事務所の秘密保持のためです。」 原告「これを書面にしていただけませんか。」 被告「そんな法律あるの。」 原告「私は法律家ではないのでわかりません。」 被告「お断りします。」 このやりとりの後,原告は,被告に対し,退職手当の支給の有無の確認と休暇の取得方法について確認した。被告は,退職手当は支給すると回答したが,具体的な金額については述べなかった。休暇の取得方法については,被告の事務所には就業規則がなく,有給休暇の日数が不明であったことから,原告が残りの有給休暇の日数を被告に確認したところ,被告は即座に回答できず,調査の後に回答することとなった。 原告は,これに対し,「分かりました。辞めるのは3月31日午後5時ですね。」と述べ,退職の点を確認した。 また,原告は,被告に対し,同年8月の事務所の移転に関する苦情を述べたが,最後は,「こんなことを言ってももういいです。どうせ3月で辞める身ですから。」と述べた。 さらに,原告は,「私の精神状態では新事務員の研修をするつもりはありませんから。」と述べたため,被告は新事務員の研修を原告に依頼することを断念した。

(16)原告は,平成15年2月10日ころ,被告に対し,再度有給休暇の残りの日数について確認を求めた。被告は,原告が新事務員に対する研修をしないことになったので,一日も早く新しい事務員に勤務してもらう必要があるため,原告が出勤するのは同年2月末までとしたいと考えていた。 その際の会話はおおむね以下のとおりである。 原告「先生,私の有給休暇は,結局何日なのでしょうか。」 被告「20日です。20日ありますので,3月は有給休暇を取ってもらって,勤務は2月末ということで・・・。」 原告「私は,有給休暇の日数を確認したいだけなんですが。有給休暇は自分で決めて取れないのですか。」 被告「この間の話で,あなたは,引継が嫌だとおっしゃったので,それで3月は休暇を取ってもらって・・・。」 原告「私は3月31日まで,この事務所に籍はあるのですよね。どうして自分で有給休暇の日にちを決めてはいけないのですか。」 被告「では,今,日にちを言ってもらえないのですね。」 原告「まだ,決めていませんので言えません。そんなに私を追いやらなくてもいいじゃないですか。」 被告「別に追いやっていませんよ。ただ,自己都合ではなく,事務所都合の解雇となると法律的には1か月の解雇予告手当を払って辞めてもらうことになる。どうするか考えます。」 被告は,原告に対し,原告が新事務員の研修をしてもらえないので,一日も早く新しい事務員に勤務して仕事に慣れてもらう必要があるので協力してもらうよう依頼したが,原告は聞き入れる感じではなかった。

(17)原告は,卓上カレンダーの平成15年3月の部分をコピーし,出勤日に丸を付けてそのコピーを被告に交付し,有給休暇の取得の予定を伝えた

(18)原告は,被告に伝えた予定のとおり,有給休暇を取得し,3月は,5日,6日,7日,14日及び20日の5日のみ出勤した。原告は,被告事務所に10年以上勤務したが,有給休暇を取ったことはさほど多くなく,20日近く取ったのはこれが初めてである

(19)被告は,被告事務所の勤務弁護士であるY弁護士を通じて,原告に対して送別会への出欠の有無を確認したが,原告は出席を拒否した。

(20)原告は,給料日である平成15年3月20日,被告事務所に出勤した。被告は,原告に対し,退職後の書類を送付するための住所地の確認をし,退職金を支払うための金融機関の口座を教えるよう伝え,原告は,金融機関の口座については,ファクシミリにより送信すると述べた。 原告が被告事務所に出勤したのはこれが最後であった。

(21)原告は、平成15年3月31日,被告に対し,退職金の振込先の銀行口座を記載した文書をファクシミリにより送信した。原告は,同日から新事務員を雇ったため,被告事務所の事務員はTと合わせて2名となった。

(22)原告は,平成15年4月,社会保険労務士から雇用保険被保険者離職票を郵送により受領した。原告は,離職票の離職理由が「退職勧奨による退職」と記載されていたことに対して異議を述べた

(23)被告は,平成15年5月6日,原告に対し,退職金150万円から所得税等を控除した146万5980円を上記振込先に送金する方法で支払った。

(24)原告は,平成15年3月31日に被告との雇用関係が終了した当初は,被告に対する訴えを提起することは考えていなかったが,同年6月11日,名古屋地方裁判所に対し,被告に対する本件訴訟の訴えを提起した。

2 争点(1)(解雇行為の有無及びその違法性)について

原告は,被告から解雇されたと主張し,証拠(〈証拠略〉)にはこれに沿う部分があり,原告は,被告に対し,平成14年11月11日に「仕事は続けて行きたい。」と述べたとか,同月15日に「働きたいということを言いました。」等の上記主張に沿う供述をする(〈証拠略〉,原告本人)。 この点,前記認定事実のとおり,原告は,被告に対し,新事務員が平成14年年内から勤務することについて強い不快感を示したり,新事務員の研修の依頼を拒否するなど,被告に対して比較的率直に意見を述べる関係にあったことが窺われるところであり,原告の主張のとおり,原告が被告の退職勧奨に反対したのであれば,原告は直ちに被告に抗議し,事務員としての地位を保全する何らかの行動を取るはずであるように思われる。 しかし,前記認定事実のとおり,原告は,平成14年12月に新事務員の募集等が行われたが,その点について被告に対して格別の抗議をしていないこと,原告は,平成15年1月28日に,退職することについて異議を唱える発言をしているが,最終的には同年3月31日の退職を前提に残りの有給休暇の日数を確認していること,それまで余り有給休暇を取らなかった原告が,自ら平成15年3月の有給休暇の予定表を作成し,同月は5日出勤するだけで残りは有給休暇の消化に励み,同月20日を最後に出勤しなくなったこと,原告は,被告との雇用契約が終了する同月31日に,被告に対し,退職金の振込先の銀行口座を記載した書面をファクシミリにより送信し,同年5月6日,被告が振り込んだ退職金を受け取っていること,原告は,配偶者が弁護士であって被告との交渉等をすることも比較的容易であるにもかかわらず,退職の話が出た平成14年11月以降本件訴訟が提起された平成15年6月に至るまで,被告に対し,明示的に事務員としての地位を保全する行動に出ていないことなどに照らすと,原告は,平成14年11月に被告との間で雇用契約を合意解約し,被告との雇用契約が平成15年3月31日に終了することを前提として行動していたものと認められる。なお,上記合意解約に係る書面が作成されていないことは,上記認定を左右するものではない。 以上の事実に照らすと,原告の上記主張に沿う証拠は信用することができず,他に原告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

第4 結論

よって,原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

裁判官 上村 考由

O法律事務所(事務員解雇)事件 第2審

当事者

控訴人(1審原告) 甲野花子 同訴訟代理人弁護士 甲野太郎 同 萱垣建 被控訴人(1審被告) 乙山次郎 同訴訟代理人弁護士 服部一郎

主文

1 原判決を次のとおり変更する。

2 被控訴人は,控訴人に対し,144万2153円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 控訴人のその余の請求(当審で拡張した請求を含む。)を棄却する。

4 訴訟費用は,これを5分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

第1 当事者の求めた裁判

1 控訴人

(1)原判決を取り消す。

(2)被控訴人は,控訴人に対し,766万9771円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

(4)仮執行宣言

2 被控訴人

(1)本件控訴(当審で拡張した請求を含む。)を棄却する。

(2)控訴費用は控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

1 本件は,弁護士である被控訴人が開設する法律事務所(以下「被控訴人事務所」という。)に事務員として雇用されていた控訴人が,被控訴人から解雇された(以下「本件解雇」という。)が,本件解雇は解雇理由も明示されず,合理的理由もないものであるなど違法なものであって,不法行為に該当するとして,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,〔1〕逸失利益186万4000円(6か月分賃金相当額139万8000円及び賞与相当額46万6000円の合計額)及び〔2〕慰謝料300万円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成15年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 これに対し、被控訴人は,控訴人と被控訴人間の雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)は,合意解約に基づき終了したなどとして,これを争った。

2 原審は,本件契約は合意解約により終了したもので,控訴人の主張する本件解雇は認められないとして,控訴人の本件請求を棄却した。 そこで,これを不服とする控訴人が本件控訴に及んだ。

3 控訴人は,当審において,次のとおり請求を拡張した。

(1)逸失利益

ア 拡張前 6か月分139万8000円及び賞与相当額(賃金2か月分) 46万6000円 イ 拡張後 平成14年度実額収入に基づき算定される1年分の賃金 396万9771円 (4,168,614×0.9523(1年間のライプニッツ係数))

(2)慰謝料 300万円(拡張の前後で変わらず。)

(3)弁護士費用

ア 拡張前 なし イ 拡張後 70万円

(4)合計

ア 拡張前 486万4000円 イ 拡張後 766万9771円

4 本件の前提となる事実(争いのない事実等),争点,争点に関する当事者双方の主張は,原判決を以下のとおり付加訂正するほかは,原判決「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)原判決2頁20行目を次のとおり改める。 「被控訴人は,控訴人に対し,遅くとも平成15年1月28日までに,控訴人を同年3月31日付けで解雇する旨(普通解雇)の意思表示をした。」

(2)同2頁25行目冒頭から同3頁1行目末尾までを次のとおり改める。 「被控訴人の主張する本件事務所の秘密保持ないし依頼者の保護といったことは,本件解雇の正当な理由となり得るものではない。被控訴人は,職場環境を調整すべき義務,すなわち,控訴人が他の法律事務所の弁護士と結婚することにより何らかの支障が生じるとすれば,その支障を解消すべき義務を負っているにもかかわらず,それを怠ったものというべきである。」

(3)同3頁7行目冒頭に以下のとおり付加する。 「被控訴人が控訴人を解雇したことは否認する。」

(4)同3頁10行目冒頭から13行目末尾までを次のとおり改める。 「ア 逸失利益 被控訴人が控訴人を解雇したことにより,控訴人は本来勤務を継続して得られたはずの賃金相当額(1年分として平成14年度の実収入416万8614円に1年間のライプニッツ係数0.9523を乗じた金額)396万9771円の損害を受けた。控訴人は結婚直後に解雇されたものであり,結婚直後の女性の再就職は非常に困難であるので,逸失利益の算定期間は1年とするのが相当である。」

(5)同3頁17行目末尾に行を改め,次のとおり付加する。 「ウ 弁護士費用 相当因果関係のある弁護士費用相当額として,70万円の損害を認めるのが相当である。」

(6)同3頁22行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。 「(3)解雇の合理的理由 (被控訴人の主張) 仮に,合意解約の事実が認められないとしても,被控訴人は,控訴人に対し,平成14年11月に予告の上で,平成15年3月31日付けで解雇する旨の意思表示をしたものであり,本件解雇には以下のとおり合理的な理由がある。」

第3 当裁判所の判断

1 理由

当裁判所は,主文記載の限度で,控訴人の請求を認容すべきものと判断するが,その理由は以下のとおりである。

(1)争いのない事実及び証拠(〈証拠略〉,原審控訴人本人,原審被控訴人本人,当審証人T)並びに弁論の全趣旨により認められる事実は,以下のとおり付加訂正するほか,原判決「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決5頁21行目及び22行目を次のとおり改める。 「控訴人は,被控訴人に対し,その際,結婚後も仕事は続けていきたい旨の意向を伝えた。」

イ 同6頁5行目冒頭から7行目末尾までを次のとおり改める。 「控訴人は,結婚後も仕事を継続したい旨の希望を繰り返して述べたが,被控訴人がこれを受入れる気配はなかった。」

(2)争点(1)(解雇行為の有無及びその違法性)及び争点(3)(解雇の合理的理由)について

ア 前記(引用に係る原判決)認定事実について,被控訴人は,〔1〕平成14年11月11日ころ,控訴人から結婚予定の報告を受けた際に,控訴人が「私としては,結婚後も勤務を続けてもかまいませんし,あるいは退職することになるのか,どちらでもかまいません。」と述べた旨,及び〔2〕同月15日ころ,被控訴人が翌年3月末をもっての退職を勧奨した際に,控訴人が「分かりました。ちょうど破産管財事件もおおむね目処がついてきましたから。」と述べた旨主張し,原審被控訴人本人尋問にはこれに沿う部分がある。 しかしながら,上記認定のとおりのその後の控訴人の態度に照らし,上記時点において,退職に異存がない旨の発言がなされていたとは考えがたいと言わざるを得ない。そして,控訴人の同僚であった当審証人Tによれば,同人は,控訴人から被控訴人事務所を辞める旨の発言は一度も聞いたことがなく,かえって同年11月18日(上記〔2〕から週末をはさんだ月曜日)の朝,被控訴人から控訴人が翌年3月いっぱいで退職すると聞かされ意外に思い,控訴人に確認したところ,控訴人はこれを否定し,被控訴人に対して事務所を辞める旨の発言はしていないと述べたというのである。同証言は,控訴人が一貫して主張,供述するところと整合するものである上,同証人が現在も被控訴人事務所に勤務していることに鑑みれば,被控訴人に不利益な上記証言の信用性は高いというべきであって,被控訴人主張の事実は認められない。 そうすると,控訴人は一貫して仕事を継続したい旨の意向を表明していたものというべきであり,被控訴人の主張するように控訴人が雇用契約の解約に合意したような事実を認めることはできない。なお,その後において有給休暇を取得したり,退職金を受領したこと等は,上記と矛盾するものではなく,上記判断を左右しない。

イ 前記認定事実によれば,被控訴人は,遅くとも平成15年1月28日までに同年3月末日をもって控訴人を解雇する旨の意思表示をしたものと認められる。 そこで,上記解雇の意思表示が不法行為に該当する違法なものであるか否かについて,以下判断する。

ウ(ア)控訴人は,本件解雇は,実質的には,結婚を理由とする解雇,若しくは既婚者を排除する意図による解雇であり,男女雇用機会均等法に違反するか,解雇権の濫用に当たるものである旨主張する。 しかし,本件全証拠に照らしても,本件解雇が,単に結婚を理由とするもの,若しくは既婚者を排除する意思でなされたものと認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって,この点に係る控訴人の主張は失当である。

(イ)職場環境を調整すべき義務等として控訴人が主張するところは,必ずしもその位置づけ等が明瞭でない部分があるが,要するに,被控訴人事務所の職員と他の法律事務所の弁護士との婚姻によって何らかの危険や弊害が生じ得るのであれば,被控訴人はそれを回避するために職場環境等を調整すべき義務を有するのであり,同義務を尽くすことなく漫然と行った本件解雇には合理的な理由がなく,解雇権の濫用として,不法行為が成立する旨主張するものと解される。 そこで,被控訴人の主張する理由(本件事務所の秘密保持ないし依頼者の保護)が,本件解雇の合理的な理由となり得るか否かを検討する。

(ウ)被控訴人は,業務上依頼者の秘密に接する機会がある被控訴人事務所の事務員が,被控訴人と同じ名古屋弁護士会に所属し,被控訴人と同じ名古屋市内に事務所を置き,訴訟等の相手方となる可能性の高い他の法律事務所の弁護士と結婚した場合,被控訴人の依頼者の秘密が漏洩するおそれが生じるほか,そのような結婚の事実を知った被控訴人の依頼者が,被控訴人に秘密を述べることに不安を覚えることになるなど,被控訴人と依頼者との信頼関係に支障が生じるおそれがある旨主張する。 確かに,法律事務所の職員の配偶者が,当該事務所と相対立する立場に立つ法律事務所の勤務弁護士である場合,抽象的な可能性の問題として考えれば,情報の漏洩等の危険性を完全に否定することはできないであろう。しかし,法律事務所に勤務する事務員は,依頼者の情報等職務上知り得た事実について,弁護士と同等の法律上特別に定められた秘密保持義務ではないとしても,当然に一定の雇用契約上の秘密保持義務を負っているのであり,通常はこの義務が遵守されることを期待することができるというべきである。また,名古屋市内で業務を行っている弁護士は900名を超えるのであるから(〈証拠略〉),実際にそのような利害対立が生じる場面は決して多くはないものと考えられ,被控訴人の指摘する危険等は,いまだ抽象的なものと言わざるを得ない。また仮にそのような利害対立の場面が実際に生じたとしても,何らかの措置を講じることによって,弊害の生じる危険性を回避し,依頼者に不信感を与えることを防止することは十分に可能であると考えられる。夫婦共働きという在り方が既に一般的なものになっている今日,上記のような抽象的な危険をもって,解雇権行使の正当な理由になるとすることは,社会的に見ても相当性を欠くというべきである。 以上のとおり,控訴人の主張する本件解雇の理由は,合理的なものということはできず,したがって,これを合理的なものと誤信し,漫然と本件解雇を行った被控訴人の行為は,不法行為に該当するというべきである。

(3)争点(2)(損害)について

ア 逸失利益

 本件解雇により失職したことによって,控訴人は,合理的に再就職が可能と考えられる時期までの間,本来勤務を継続していれば得られたはずの賃金相当額の損害を受けたものということができる。本件においては,平成14年11月15日頃(契約終了時期の4か月半前)には既に実質的な解雇予告ともいうべきものがなされていたこと,控訴人は37歳の健康な女子であって,純粋に経済的損失という意味で考えれば,再就職が特別に困難な事情は認められないこと,失業給付を受給しているものと推認されること(〈証拠略〉)等諸般の事情を総合考慮すると,本件解雇後3か月の範囲に限り,不法行為たる本件解雇と相当因果関係のある損害と認めることができ,その額は,平成14年分の給与総額416万8614円(〈証拠略〉)を12分し3を乗じた金額である104万2153円をもって相当というべきである。 なお,控訴人は,同人が結婚直後の女子であることから再就職が困難である事情を考慮すべきである旨主張する。しかし,上記のとおり夫婦共働きが社会に定着しつつあることを考えれば,結婚直後であることが再就職について特別に大きな制約になると考えることはできない。

イ 慰謝料

控訴人は,本件解雇によって自らの意思に反してその職を奪われ,精神的な損害を被ったものと認められ,これを慰謝するには30万円をもって相当と認める。

ウ 弁護士費用

上記損害額を勘案の上,10万円をもって相当と認める。

エ 合計 144万2153円

2 結論

以上のとおりであるから,控訴人の本訴請求は,上記144万2153円及びこれに対する本件解雇の翌日である平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから,これを認容すべきであり,その余の請求(当審で拡張した請求を含む。)は,理由がないから棄却を免れない。 よって,これと結論を異にする原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所

裁判長裁判官 青山 邦夫

裁判官 田邊 浩典

裁判官 手嶋あさみ

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