持田製薬事件(東京地裁昭和62年8月24日決定)

マーケティング部部長として地位を特定して採用した場合,その職務を遂行する能力と適格性がない場合は,能力不足を理由に,降格・配転等を経ずに解雇することが有効であると判断した裁判例(労働判例503号32頁)

1 判例のポイント

1.1 地位を特定して採用した場合,解雇の前に降格等を検討すべきか

当該社員は「マーケティング部の責任者に就任することで雇用されたのであるから,解雇するに際し,」会社は「下位の職位に配置換えすれば,雇用の継続が可能であるかどうかまでも,検討しなければならないものではない」

1.2地位を特定して採用した場合,無能力を理由に解雇する場合の基準

「期待したマーケティング部の責任者として,雇用の継続を債務者(筆者注:会社)に強いることができない」として解雇事由に該当する

1.3 関連裁判例

  • フォード自動車(日本)事件(東京高裁昭59.3.30労働判例 437号41頁)

1.4 参考記事

2判例の内容

2.1 事案の概要

Yは,昭和50年代後半以降の医薬品業界における競争に打ち勝つため,マーケティング部を新設し,昭和60年5月,人材センターZの紹介によりⅩをマーケティング部長として中途採用した。しかし,Xの勤務状況はその責務に応えるものではなく,Yは昭和61年2月,「雇用を継続されることができないやむ得ない業務上の事情がある場合」との解雇事由にあたるものとして,Ⅹを解雇した。これに対して,Ⅹは貸金仮払い等の仮処分を求めて本件申立てに及んだ。

2.2 判断

※ 債権者=X,債務者=Y

債権者が採用された経緯によると、債権者は、マーケティング部部長という職務上の地位を特定し、その地位に相応した能力を発揮することを期待されて、債務者と雇用契約を締結したこと明らかであるが、債権者が、人材の斡旋を業とする株式会社リクルートの紹介によって採用されていること、及びその待遇に鑑みると、それは、単に、斯待に止まるものではなく、契約の内容となっていたと解せられ、この見地から、前記一の3及び4の債権者の勤務態度を検討すると、債権者は、営業部門に実施させるためのマーケーティング・プランを策定すること、そのなかでも、特に薬粧品の販売方法等に具体的な提言をすることを、期待されていたにも係わらず、執務開始後七ヶ月になっても、そのような提言を全く行っていないし、そのための努力をした形跡もないのは、マーケティング部を設立した債務者の期待に著しく反し、雇用契約の趣旨に従った履行をしていないといえるし、サラリーマン新党からの立候補を考えたことについても、当選すれば、職業政治家に転身することになるのであるから、債務者にとっては、債権者が、途中で職務を放擲することにほかならないのであり、その影響するところは、一社員が市民として、政治に関心をもって、行動したという範躊に止まっていないこと明らかで、これによって、債務者が、債権者の職務遂行の意思について、疑念を抱いたとしても、債権者は、甘受すべきである。

債務者の就業規則第五五条(解雇)が、「社員は次の各号の1に該当しなければ解雇されることはない。」と明記し、解雇理由を「(1)私傷病による精神または身体の故障、障害のため業務に耐えられず、かつ回復の見込みがないと認められるとき。(2)懲戒によるとき。(3)休職期間が満了し復職を命ぜられないとき。(4)組合から除名され除名の理由が会社として妥当と認められたときならびに会社の解雇要件に該当すると認められたとき。(5)その他前各号に準ずる程度の事由があるとき。」と規定していることからすると、債務者は、右の就業規則を制定することによって、自ら解雇権の行使を、就業規則所定の理由がある場合に限定したものと解せられる。しこうして、第五号には、第一号から第四号に準ずる程度の事由の存在を必要とするのであるが、第一号は、「雇用を継続させることができない止むを得ない業務上の事情がある場合」を例示したと考えられるところ、債権者の先に述べた執務態度は、期待したマーケティング部の責任者として、雇用の継続を債務者に強いることができない「業務上の事情がある場合」に該当すると解するのが相当であるから、債権者には、就業規則策五五条第五号による解雇事由が存したというべきである。

(なお、念のために付言すると、債権者は、マーケティング分の責任者に就任することで、雇用されたのであるから、解雇するに際し、債務者は、下位の職位に配置換えすれば、雇用の継続が可能であるかどうかまでも、検討しなければならないものではない。)

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