日本ヒューレット・パッカード(解雇)事件(東京高裁平成25年3月21日判決)

一般採用された社員が,約5年間にわたり勤務態度不良の状態が続き,会社の再三の指導にも反抗的態度をとり続けたことを理由とした解雇が有効と判断された例

1 判例ポイント

1.1 判断のポイント

① 解雇理由への該当姓

昭和59年に大手PCメーカーYに採用された一般社員Xが,平成16年頃より約5年にわたって勤務態度不良の状態が続いていた(人事評価は直近6年で計5回最低評価となっていた)ところ,上司による日常的な注意や改善プログラムの適用を通じた指導をうけていたにもかかわらず,自己の意見に固執し他者の意見を聞き入れないという態度をとり続け,改善がみられなかったので,就業規則37条8号「勤務態度が著しく不良で,改善の見込みがないと認められるとき」の普通解雇事由に該当する

② 解雇が社会的相当性を有すると認められる事情

Yは平成16年ころから当該社員に対し,約5年間にわたり,改善プログラムを適用し,指導及び複数の上司による日常的な指導を通じて,業務能力,勤務態度上の問題の改善を試みてきた。平成20年3月,Xに対して退職勧奨の前提として職位をエクスパートからインターミディエイトに降格して雇用維持を図った上で,それでも改善がみられなかったので,平成21年6月,本件解雇に至った。このような経過からすれば,本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないということはできず,解雇権を濫用するものということはできない。

③ 精神不調者であったことが解雇に与える影響

Xは精神不調者であったので、相当の配慮をしない解雇は無効であると主張する。しかし、Xの勤務態度不良が問題となっていた時期から解雇に至る時期まで,Yによる労務軽減等の配慮が必要となる程度のうつ症状であったことは証拠上認められない。また,Yは解雇前に(Xの勤務態度を理由に)担当職務をより単純な業務へ変更しており結果的にはXの健康状態にとってプラスとなる措置を行っていた。よって,Xの精神不調の状況は解雇の有効性判断に影響を及ぼさない。
※ 本件は,精神不調者に対する配慮がなされずに行われた諭旨解雇が無効と判断された日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁平成24年4月27日判決)の労働者側代理人弁護士と同一の弁護士がXの代理人弁護士となっている。

1.2 関連裁判例

  • 持田製薬事件(東京地判昭62.8.24労経速1303号3頁)
  • チェ-ス・マンハッタン・バンク事件(東京地判平4.3.27判時1425号131頁)
  • フォード自動車事件(東京高判昭59.3.30労民集35巻2号140頁)
  • ヒロセ電機事件(東京地裁平成14年10月22日判決)
  • プラウドフットジャパン事件(東京地裁平成12年4月26日判決)

1.3 参考記事

1.4 判決情報

  • 裁判官:(1審)三島聖子,(2審)貝阿彌誠,生島弘康,土田昭彦
  • 掲載誌:労働判例1073号11頁(1審),労働判例1079号148頁(2審)

2判例の内容

事案の概要

本件は,Yに雇用されていたXが,Yが平成21年6月30日にした解雇(以下「本件解雇」という。)の効力を争い,Yに対し,労働契約上の地位にあることの確認,解雇された後である平成21年7月から平成22年1月までの7か月分の未払賃金からYが平成21年7月23日に解雇予告手当として支払った46万3100円を差し引いた額である268万6340円及びこれに対する弁済期の後であることが明らかな平成22年1月23日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,平成21年冬期賞与として134万9760円及びこれに対する弁済期の翌日である平成21年12月11日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,平成22年2月から判決確定に至るまで毎月23日限り44万9920円及び各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,平成22年から判決確定に至るまで,夏期賞与及び冬期賞与として,毎年6月10日及び12月10日限り各金134万9760円並びに各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

1 前提事実

(1) 当事者等
ア Yは,昭和38年創立の訴外横河・ヒューレット・パッカード株式会社が平成7年に訴外日本ヒューレット・パッカード株式会社へ社名変更した後,平成11年に同社の会社分割により設立され,平成14年11月に訴外コンパックコンピューター株式会社を合併して現在に至っている会社で,電子計算機・電子計算機用周辺機器等の研究開発及び製造販売その他を目的としている。平成20年11月現在の従業員数は約5800名である。
イ Xは,昭和59年10月に訴外A株式会社(以下「A社」という。)に従業員として採用された後,平成10年10月の同社と訴外コンパックコンピューター株式会社(以下「コンパック」という。)との合併を経て,さらに平成14年11月のコンパックとYとの合併によりYの従業員となり,本件解雇まで,Y会社に勤務していた労働者である。本件解雇当時はBサービス統括本部に所属し,社内ウェブのメンテナンス,サポート業務に従事していた。
Xは,平成14年7月,様々な企業等に勤務する主として管理職層の労働者ら約650名で組織する労働組合である東京管理職ユニオン(以下「組合」という。)に加入した。

(2) Yの就業規則について
Yの就業規則(以下「本件就業規則」という。)には,次のような定めがある。
「(退職および解雇)
第37条社員が次の各号の一に該当するときは,雇用を解く。
(中略)
「勤務態度が著しく不良で,改善の見込みがないと認められるとき。」

(3) Yにおける人事評価,職位等(弁論の全趣旨)
ア Yでは,平成17年から平成21年当時,人事評価制度として,「PPR(Performance Plan&Review)」ないし「FPR(Focal Point Review)」と呼ばれる制度を採用していた。これは,会計年度(「FY」と記す場合があり,例えば,「FY02」は,2001年(平成13年)11月1日から2002年(平成14年)10月30日までの期間を意味する。)ごとに,期首に上司と部下がその期の目標設定をし,その後定期的に上司と部下との間で業務の進捗を確認する面談を行い,年度末に上司が部下を評価し伝えるというものであった。部下が人事評価に不満である場合,上司,人事部の三者で面談を行うこととなる。
イ Y従業員に対する評価(Rating)には,評価の高いものから,
K「Key Performance」(目標を大幅に上回っている,常に期待を超えたPerformance behaviorsを実践している)(以下「K評価」という。),
P「Strong Perfomance」(目標に合致またはしばしば目標を超える,常に目標どおりのPerformance behaviorsを実践している)(以下「P評価」という。),
I「Improvement needed」(期待に沿わない結果そして/あるいは期待に沿わないPerformance behaviors)(以下「I評価」という。)
があり,K評価,P評価,I評価の分布割合は,FY06~FY08を通して,K評価が23~25%程度,P評価が70~72%程度,I評価が3~5%程度である。
ウ また,Yにおける職位には,①Expert(エクスパート)を含む,部下を持たない管理職と,②Manager(マネージャー)を含む,部下を持つ管理職等があり,①の下に,Intermediate(インターミディエイト)を含む,非管理職である一般社員がいる。
Xは,平成20年7月まではエクスパートという,部下のいない社員としては上位の職位にあり,管理職格として扱われていたが,同月,インターミディエイトに降格した。
エクスパートの職位にある者は,与えられた仕事を行うだけではなく,今後を見据えたビジネスプランを自ら考え,そのプランを関係者に説明し,実施をリードするということを求められる。
エ Yでは,一番下のI評価を受けた従業員について,同評価を受けた会計年度が終了し評価が固まった後,約6か月の期間を設けて目標を立て,改善するように取り組む内容となっている。約6か月の期間においては,上司と当該従業員が毎月最低1回は面談を行うこととなっていた。

(4) XのYにおける業務の概要等
ア 平成16年5月以降
Xは,平成16年5月から,C〈市-編注。以下,C市〉にあるYのD統括本部パートナービジネス推進本部に所属しており,サポートヘルプデスク業務を担当していた。当時の上司はE(以下「E」という。)であった。
イ 平成18年8月1日から平成19年5月末日までXは,平成18年8月1日から,Bサービス(以下「Bサービス」という。)ビジネス開発統括本部に異動となり,同年11月1日からは,F〈市-編注〉にあるBサービス統括本部パートナービジネス開発推進本部に異動となった。当時の上司は,G(以下「G」という。),H(以下「H」という。),P(以下「P」という。)等であった。
当時,Xは,YのJ部のFRU(Field Replacement Unit)情報管理担当として,保守部品のプライスリスト(エクセルファイルでできたもの。以下「FRUリスト」という。)について,Yの米国本社の部品プライスデータが修正されるのに応じて,日本の部品プライスデータを修正して更新する業務(廃番となった部品の削除,新商品の追加,価格変更等。以下「FRUリストの更新業務」という。)を担当していた(〈〉)。
ウ 平成19年6月1日以降
Xは,平成19年6月1日からC市にあるBサービス統括本部に異動となり,上司はK(以下「K」という。),同年11月1日からはL(以下「L」という。)であったが,実際には,Lの代行としてM(以下「M」という。)が専属でXを指示,指導した。Mの上司としてN(以下「N」という。)がいた。Mは,Xがコンパックに勤務していた平成12年1月ころから上司であった者である。
平成19年6月20日ころのXの業務は,マーケット分析業務及び競合調査のプラン作成業務であった。
同年11月以降は,同月から同年12月ころまで,Bサービスの組織内で用いるウェブサイト(以下「Bウェブ」という。)のシステム移行を含む,Bウェブの管理業務を,前任者であるO(以下「O」という。)から引き継いで行うこととなり,平成20年1月以降は,主にBウェブのトップページの管理業務(掲載された情報について,トップページとのリンクを貼る等)を行った(弁論の全趣旨)。

(5) YのXに対する人事評価
Xは,PPR制度下で,平成21年6月の解雇前の直近6年間で計5回(FY03,FY05,FY06,FY07,FY08),I評価であり,数回にわたり,Iマネジメントによる改善プログラムを受け,改善のための指導を受けた。Xの上司となった従業員らは,PPR(FPR)やIマネジメント,加えて日常的な業務に際しての面談・指導等を通じて,約5年間にわたり,Xの業務能力やコミュニケーション能力,他者からの指示・指導に対する姿勢等の改善を試みた。

(6) Xの賃金等について
Xの賃金は,基本給44万9920円及び通勤手当等で,毎月末日締め翌月23日払いであった。また,Xは,夏期賞与として,毎年6月10日に,当該年の1月1日~6月30日における基本給総額に0.5を乗じた額,冬期賞与として,12月10日に,当該年の7月1日~12月31日における基本給総額に0.5を乗じた額の支給を受けてきた。
Yは,平成21年7月分以降の月給及び同年冬期以降分の賞与の支払いをしていない。

(7) 本件解雇等
Yは,Xに対し,平成21年6月30日,解雇通知書をもって,Xを同日付で解雇すると告げ,同年7月23日に解雇予告手当名目で46万3100円を支払った。
Yが組合に対して送付した「丙川三郎元社員に対する解雇事由」と題する7月31日付の書面には,本件解雇の理由として以下の記載がある。
「社員就業規則第37条8号
勤務態度が著しく不良で改善の見込みがないと認められるとき」

2 争点
本件の争点は,Xについて,解雇事由「勤務態度が著しく不良で(ママ)改善の見込みがないと認められるとき」が認められるか否かである。

3 争点に対する当事者の主張(省略)

当裁判所の判断

1 各事実についての判断

(1) FRUリストへの不正確情報掲載(平成18年8月~平成19年5月末)について
ア 前記前提事実,証拠(〈〉)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 業務態度
Xは,平成18年8月から平成19年5月末まで,Bサービスビジネス開発統括本部,Bサービス統括本部等に順次所属し,このころのXの上司には,G,H,Pがいた。
(イ) Xの担当業務等
Xは,当時,Yの製品の部品リストであるFRUリストの管理権限をもち,Yの米国本社の部品価格情報が修正されるのに応じて,日本の部品価格情報を修正して更新する業務(廃番となった部品の削除,新商品の追加,価格変更等)を担当していた。FRUリストは,顧客向けに公開しているウェブサイトにアップロードし,顧客は,同リストを参考にYの商品を注文することとなる(弁論の全趣旨)。
(ウ) XによるFRUリストの分割等
Xは,構造が同じ製品ごとに,当時約70のエクセルファイルで構成されていたFRUリストを,平成19年1月ころ,製品ごとにファイルを分割し,その結果,ファイル数は約90に増加した。また,FRUリストの分割や更新の際に,他の情報を削除したり誤った情報が掲載されるという事態が発生し,平成19年2月ころから,更新が遅い,更新にミスがあるといったクレームが寄せられるようになった。このころ,顧客からXに宛てたメールには「回答内容が不正確です」「記述した内容に間違いや不足が無いか,記憶頼りではなく正確な情報の提供をお願いします」(〈〉)「情報誤記があるようです。」「(略)が最新リストで削除されていますが,これは確認していただいた結果によるものでしょうか。」(〈〉)等の文言が認められる。
顧客からの問い合わせに対し,Xは,頑なに譲らない,すぐに対応しないという状況であり,平成19年2月20日,Pは,顧客であるQ社とのミーティングの際,約40分にわたり,Q社からFRUリストについてのクレームを受けた。内容としては,Xについて「趣味の世界に入っている」「Xがこだわり過ぎるため,正しい情報に更新されるまで時間がかかり,説得の労力も要する」と指摘され,Xの担当者交代を含む改善を要求するものであった。P,Gらは,この要求を受け,同年3月23日,事実確認と謝罪のためにQ社を訪問することとなった(以下,かかる訪問を「PらのQ社訪問」という。)。
このような事態を受け,Hは,FRUリストの分割をやめるよう指示したり,またPは,FRUリストの一括修正の方法を提案するなどしたが,XがFRUリストの担当を外れる平成19年6月初めまでの間,上記事態が改善することはなかった。
イ Xの主張について
Xは,クレームの存在自体を否認するが,上記認定の文言を含むメールが複数回Xに寄せられている以上,クレームであると評価するほかない。またFRUリストの分割については,Hの了承を得ているとも主張するが,証拠によれば,平成18年11月や12月にX,HらとFRUリストに関するミーティングを開催したこと等が認められるものの,当時,FRUリストの分割の具体的な内容,方法等について認識が共有されていたことを認めるに足りず,Xの主張は採用できない。
Xは他にも,FRUリストの更新の遅れや誤情報の掲載,対応の遅れは,米国本社とYとの部署間の情報伝達が遅かったこと等によるものである,Q社からのクレームはPに向けられるべきものであった等縷々主張し,Xに責任はないと主張するが,上記認定のとおり,XがFRUリスト管理業務を担当していた時期に誤情報の指摘が複数回なされ,またXの交代を含めたクレームが顧客から上司に寄せられ,上司が顧客を訪問する事態となった事実は動かし難く,X主張の上記事実をもってしても左右されない。
ウ 小括
上記認定のとおり,Xは,FRUリスト管理業務を担当した際,その必要性が明らかではないFRUリストの分割を,他の者には分からない形で行ったり,他の情報の削除,誤情報の掲載をしたり,さらには誤情報の指摘を顧客から受けても適切に対応しなかったのであり,このため,平成19年2月には,顧客から上司に対してXの交替(ママ)も含めたクレームが寄せられる事態となった。そして,Xは,このような事態について,そもそも問題自体を十分に理解,認識せず,Hの指示やPの提案があっても改善することはなかったと認められる。このような状況をみると,当時のXについては,FRUリストの管理にあたり,基本的な事務処理能力に欠けていたといえることに加え,特に,誤りを指摘された後の対応の遅さ,上司からの提案を受け入れないといった,自己の意見と異なる指摘,意見を聞き入れず,問題解決しようとしない態度は顕著であり,当時,Xの勤務態度は著しく不良であったと認められる。

(2) Q社訪問の件(平成19年3月23日)
ア 証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 上記(1)ア記載のPらのQ社訪問を知ったXは,Gによってでっちあげられたクレームだと考え,Pらに対しQ社訪問の中止を求め,平成19年3月20日,Kに対し「でっちあげクレームメールでお客様(Q社殿)訪問の件」との件名で,「すべてGさんの一人芝居なのに部下まで巻き込んで丙川の追放芝居をやっているようですが。」等と記載したメールを送信し,併せて,Y倫理委員会に対して,「顧客要求という架空の理由により配置転換の命令を出したパワーハラスメント」であると申立てを行った。
(イ) Y倫理委員会は,Xの申立てを受け,「XをQ社の担当から外すようにという顧客クレームが存在したか」を調査した結果,同クレームは存在したとの結論に至り,平成19年5月30日,当該結果をメールでXに伝えた。Xはこれに対し「あまりにも稚拙なReport」「きちんと回答いただけないと,HPにおける,倫理委員会そのもののが(原文ママ)社内における存立理由がわからなくなります」等と記載したメールをY倫理委員会担当者に送信した。(〈〉)
(ウ) Xは,さらに,平成19年5月末に,Q社に対し,Y倫理委員会から問い合わせ等入っていないかという,目的の不明確な電話を2回程度かけ,このことでさらにQ社からYにクレームが寄せられることとなった。
イ Xの主張について
Xは,XがFRUリストの管理業務に関して顧客からクレームを受けた事実自体を否認した上で,PらによるQ社訪問中止を求めたのは,Xがクレームを受けるべき立場にはなかったにもかかわらず,GやPが,XをJ部から排除しようと意図してXにクレームが向けられているとでっちあげているのではないかとの疑念を払拭できなかったからであると主張する。
しかしながら,X主張のGやPによるでっちあげの主張についてはこれを認めるに足りる証拠がないし,上記(1)アで認定したとおり,Xの業務に対するクレームは存在したと認められるから,Xの上記疑念は前提を誤った単なる想像というほかなく,Xによる,PらのQ社訪問中止の要請は,不合理な要求であったといわざるを得ない。また,この頃Kや倫理委員会担当者に送信したメールは,上記の単なる想像に基づく独りよがりな内容で,表現も非常識である。Xは,Xが平成17年頃から体調不良と精神的不調を抱えていたことからすれば,Q社訪問中止の要請を非難できないと主張するが,本件全証拠に照らしても,Xを非難すべきではないと言い得る事情は窺われず,同主張は採用できない。
Xはまた,PらのQ社訪問の際の議事録の有無を,Q社に直接確認した点について,業務改善を図るためにFRUリストに関するクレームメールを確認する必要があったと主張するが,既に認定したとおり,X自身がQ社からのクレームと認められるメールを受け取っているし(〈〉),かつ,Xは平成19年3月ころ,GからFRUリストの担当から外れる旨伝えられているから(〈〉),確認の必要はそもそもなく,Xの理由は不合理であり,かつY以外の顧客(Q社)を巻き込んでいるとの評価は免れない。
ウ 評価
Xが,PらによるQ社訪問中止を要請したこと,Kに対する上記ア認定のメール送信,Y倫理委員会への申立及びY倫理委員会の調査結果に対する批判は,いずれも,Xの独りよがりな想像に基づく行動で,態様も攻撃的かつ非常識である。また,Q社への直接の議事録問い合わせも,不合理な動機に基づく行動で,かつY以外の顧客を巻き込んでいる点で深刻であり,当時,勤務態度が著しく不良であったと認められる。

(3) Bウェブ管理に関する事実(平成19年6月以降)
ア 証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) Xは,平成19年6月1日付けでYC事業所のBサービス戦略企画(ママ)に異動となった。Xは当初,同異動に異議を唱えて出社しなかったが,Mは自らXのいるF事業所に出向いて業務命令である旨Xに伝え,6月18日から出社した。B戦略企画(ママ)では,MがLの代行として,専属でXのマネジメントを行う立場にあり,MとOの上司にNがいた。なおMは,Xがコンパックに勤務していた平成12年1月ころから上司であった者である。
(イ) Xは,B戦略企画(ママ)に出社しはじめた平成19年6月下旬ころ,Mからマーケット分析業務と競合調査のプラン作成業務を担当した。その後平成19年11月以降は,同月から同年12月にかけて予定されていたBウェブシステムの移行作業を,前任者にあたるOから引き継ぎ,さらに,移行後はBウェブの管理業務(新たに掲載された情報とトップページとのリンクを貼ったりニュースを入れるというもの)を行った。
(ウ) Bウェブシステムの移行作業については,当初平成19年12月20日が期限であったが,Xは,期限である同年12月20日の前日夕方になっても移行作業に一切手をつけていないという状況であった。
また,平成20年2月中旬,ウェブのトラブルが発生した際にOが対応したことについて,Xは,Oに対して,「このままでは,私に対する業務を妨げていることになります。わたくしも人事等にもエスカレーションしなくてはなりません。」等と記載したメールを送信した。
(エ) またXは,Bウェブのトップページの管理業務(掲載された情報につき,トップページとのリンクを貼る,というもの)を担当していた際,トップページにBサービス統括本部の部署以外の部署の情報を載せ,これについてMから削除を指示される等,本来業務として予定されていないことを行い注意されることがあった。
この頃,Xは人事評価でI評価を受け,このことに関し,上司であるLに対して「(FY07について)意味不明なコメントが多々ございます」等と記載したメールを送信した。
イ Xの主張についての判断及び評価
Xは,Oがウェブ業務をXに引き継ぐ際,Xを大声で叱責し威圧的であった等と主張するが,同主張を認めるに足りる証拠はない。
Xは,平成20年1月以降は担当者がXであったのであるから,Oに対して上記ア(ウ)記載のメールを送信したとも主張するが,そもそも,Oは平成19年11月から12月にかけてXに業務を引き継いでいた前任者であるのだから,それほど期間が経過していない平成20年初頭に,Xの業務を援助することも通常考えられることであるのに,上記ア(ウ)認定の「パワーハラスメント」「業務妨害」等の文言を用いたメールを送信しているのであり,X独自の思い込みに基づき他者に攻撃的な態度をとっていると言わざるを得ず,非常識であって,当時,勤務態度が著しく劣っていたと認められる

(4) 業務削減指示の無視(平成20年7月~12月)
ア 証拠(〈〉)によれば,平成20年8月から平成21年1月にかけて,Mは,Xに対し,平成20年7月~9月,11月,12月にXが残業していることに関して,残業をする場合は事前に申請すること,申請できなかった場合は,後日に理由を報告すること等を記載したメールを何度もXに送信したが,Xは,平成20年8月から平成21年1月にかけて,団体交渉によって解決すべき趣旨の返答をし,平成20年11月に至って初めて事後報告を行い(最初の指摘から約4か月を要している),事前報告を行うようになるまで7か月を要したことの各事実が認められる。
イ Xの主張についての判断及び評価
Xは,残業を必要とする業務であったと主張するが,当時のXの業務は,前任者のOやMと比較するまでもなく,Bウェブのトップページのリンクを管理するという,単純かつ緊急性のない作業であったと認められることや,リンク変更の依頼について,依頼者の希望する対応時間(本日17時から明日10時)を,本日(明日)午前中までに行う旨回答するなど,自身の対応可能な時間に行うことができる状況であったと窺われ,到底,恒常的な残業が発生する状況であったとはいえない。Xは,CPUへの負担過重によるトラブルが相次いだと主張するが,Xの提出する証拠(X自身が作成した当時のメール)だけでは客観的なトラブルの存在を認めるに足りず,Xの主張は採用できない。
また,仮に残業せざるを得ない状況であったとしても,Yによって事前申告(又は事後報告)が指示されている以上,従業員であるXはこれに従う義務があるというべきであり,かつ,Yでは健康面のモニタリングの観点から管理職であるか否かを問わず残業時間を報告させている以上,Xの管理職からの降格措置を争っているために残業の報告ができないという主張は不合理であり,採用できない。
結局,残業の事前申告,事後報告を数か月にわたり行わなかったXの対応も,不合理であるというほかなく,当時,勤務態度が平均に達していなかったと認められる。

(5) Nに対する「パワーハラスメント」発言(平成21年1月22日)
ア 証拠(〈〉)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) Xが他の部署に所属しているRと電話で話していた際,Nは,Xに対して電話を切るよう指導した。これに対し,Xは,Nの行為がパワーハラスメントに該当するとし,人事部に申し立てた。
(イ) Xの申立てを受けた人事(ママ)は,Xの指定する第三者やX以外の当事者に聴取した上で,Nが最初から怒鳴って電話を切らせた事実はなく,結論としてパワーハラスメントには該当しないと判断し,Xにその旨伝えた。Xは,人事(ママ)の同判断に対して,「被害者であります,私の意見,及び体調(うつ症状)が悪いことに対する配慮がまったく反映されておらず,大変残念です。」「加害者の意見のみ,反映されております」「こんご2度と,このような不見識な,出来事が再発しないようご対応お願いします。」「丙川に対する偏見と中傷が感じられます,大変残念です。」などと記載したメールを送信した。
イ Xの主張について
Xは,XがRに電話で問い合わせた際,NがいきなりXを怒鳴りつけ電話を切らせた上,約1時間にもわたる叱責に及んだと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
Xは,人事部による「パワーハラスメントはない」との判断についてXが納得しなかったことを解雇理由の一つとすることは許されない旨主張するが,納得していないことそれ自体を措くとしても,Xが人事部の判断に対して上記認定の人事部を批判する内容のメールを送付したことは,その表現自体非常識であるし,自身の見解と異なる判断に対して,攻撃的な態度で応じるもので,勤務態度が不良であることを示す一事情であると認められる。
また,Xは,このころ,Xがうつ病の診断を受けていたことを指摘し,Xがパワーハラスメントによるうつ病の悪化を訴えていたにもかかわらず,Yが主治医や産業医の意見を求めることをしなかったと主張する。しかしながら,人事部の対応として,パワーハラスメントの有無という事実確認を優先させることはその調査の裁量の範囲内のものとして十分合理性を有するのであり,その調査の結果,事実自体を認めないという結論に達し,調査を終了することも,合理的であり,当時の状況に照らし,人事部がXの訴えを受けて主治医や産業医の意見を求めないことが不合理であるとはいえない。
ウ 判断
上記のとおり,人事部はXの申立を受け,中立の立場から適正な手続を経て判断したと認められるにもかかわらず,Xは上記認定の批判に終始しており,自己の意見と異なる判断に対しては攻撃的であることが顕著であるし,メールの文面も非常識な表現を複数含んでいる。Xの当時の勤務態度は,著しく不良であったと認められる。

(6) Sとの協業拒否(平成21年3月)
ア 証拠によれば,Mが,平成21年3月24日,Xに対して,Sとの協業(具体的には,Xがウェブ管理を行っている際に,Sが,書類のファイリング等の軽作業を行いXをサポートするという内容)を命じる内容の業務命令を口頭で発令したが,Xはこれを聞き入れず,またその旨を関係者多数にメール送信した事実が認められる。
イ Xの主張について
Xは,うつ病にある者同士を協業させること自体,人事権の裁量を超え違法である趣旨の主張をするが,上記ア認定の協業の内容,当時XはBウェブ業務を単独で行うことのできる健康状態であったと窺われること,Yは産業医の判断を参考にSの業務を決定していること(〈〉)等を考慮すれば,上記協業を命じる業務命令自体は,人事権の裁量の範囲内の適法な命令であったと認められる。
ウ 判断
上述のとおり,協業を命じる業務命令は,人事権の裁量の範囲内の命令として適法であると認められ,Xは,合理的な理由がないのにこれを拒否している以上,勤務態度が著しく不良であると言わざるを得ない。

(7) 組織内において勝手な行動をとる
ア Yは,平成17年8月ころ及び平成20年12月ころの事情として,(1)(ママ)キ(ア)①②③⑥,(イ)及び(ウ)①②の事実をそれぞれ主張する。証拠(〈〉)によれば,①平成20年12月ころにMが写真掲載をXに依頼したものの,Xが報告をせず,平成21年1月に初めて写真が掲載されたことをMが知った事実,②平成17年8月上旬に,一旦確定したプレゼンテーションの日程を翌日に一方的に変更依頼した事実,③X自身が冷房病であると診断され,席の移動を申し出た際,電話の移設を独断で行った事実,④Xが発表することになっていたヘルプデスクビジネスプランに関し,上司がXにアドバイスをするがXが聞き入れることはなかったことの各事実が認められ,これらの事実は,上記各時点で,Xに基本的な事務処理能力が欠け,また自己の意見に固執し,これを押し通そうとしていたことが認められ,勤務態度が平均に達していなかったことを示していると認められる。
イ Yは,他にも,(1)(ママ)キ(ア)④⑤の事実も主張するが,証拠(〈〉)によれば,①Xは,平成18年1月ころ,Y内の規則によって要求されているPPRへのコメント付記を,評価に納得していないことを理由に上司からメールで促されたのに行っていないこと,②その際,上司に面談目的を明確にしないままに面談申し込みのメールを送信していることが認められる。これらの事実は,当時の状況が必ずしも明確ではない部分があることを考慮してもなお,Xが自己の意見に固執するあまりY社内の手続に則らない行動をとっていると認めることができ,勤務態度が不良であることの一事情として考慮できるというべきである。
ウ 上司や他の従業員に対する言動について
Xは,以下の表現を含むメールを,それぞれ以下の者等に送信した。
① 平成17年6月29日,T等に対し,「わけのわからない,2日を待たせていただきました。」「現行稼働している,WEBを移行するのみで貴重な時間を費やすのは無駄なことです。今後,このようなことはやめていただきたく願います。」等と記載したメール。
② 平成17年8月25日,健康相談室のUに対し,「『丙川三郎さんは元々低血圧であり冷房に弱いため,』という表現がありますが,私は低血圧症でもなければ,特別冷房に弱いわけでもありません。嫌いですが。」等と記載したメール。
③ 平成18年3月26日,上司であるEに対し,「最後に確認ですが,社内公募時の異動には反対しない妨害しない(中略)とのことは間違いありませんね。」等と記載したメール。
④ 平成19年3月20日,上司であるKに対し,「でっちあげクレームメールでお客様(Q社殿)訪問の件」との件名で,「すべてGさんの一人芝居なのに部下まで巻き込んで,丙川の追放芝居をやっているようですが。」等と記載したメール。
⑤ 平成19年5月15日,かつて上司であった,当時脳梗塞で倒れ半身麻痺の状態であったMに対し,「Mさんも,お体が宜しくないようで,それも今までの行いの結果ではないかと思います,お互い善行を積みましょう。でないと来世はわかりません。」等と記載したメール。
⑥ 平成19年5月31日,Xのパワーハラスメントの申立を受けて調査した倫理委員会の者に対し,「あまりにも稚拙なReport」「きちんと回答いただけないと,HPにおける,倫理委員会そのもののが(原文ママ)社内における存立理由がわからなくなります。」等と記載したメール。
⑦ 平成21年1月26日,上司であるMに対して,「FPRが突然出てきて,通知ですか?Lさんも,うそだろうと言う顔しておりましたが?MさんそれでもManagerですか?」等と記載したメール。
上記各メールは,上司あるいは他の従業員に対するメールとして不適切,非常識な表現を含むものであり,上記認定のとおり,このようなメールの送信が平成17年から平成21年までの間に断続的に見受けられることも考慮すると,勤務態度が著しく悪く,従業員として不適格であることを基礎付ける一事情として考慮できる。

(8) 以上みてきた事実によれば,Xは,平成18年8月ころから平成21年6月の本件解雇に至るまで,当時の担当業務の遂行能力が不十分であることはもとより,他者から何らかの指摘,提案をされても,自己の意見に固執し他者の意見を聞き入れないという態度が顕著であったと認められる。このとおり勤務態度が著しく不良である期間が,平成18年8月からの上記事実だけをみても約3年にわたり認められ,また平成18年8月よりも前の事情も考慮すると約5年にわたり勤務態度が不良であったといえるのであり,この間,上司による日常的な注意や,PPR制度,Iマネジメント制度を通しての注意,指導が行われてきたにもかかわらず,結果的に改善が見られなかったことに鑑みれば,Xについては,Y就業規則37条8号「勤務態度が著しく不良で,改善の見込みがないと認められるとき」に該当すると認められる。

2 本件解雇までの経緯について

証拠によれば,Xに対するYの評価は,本件解雇前の直近6年間(平成16年ころから平成21年まで),マネジメントの職務として不足している,エキ(ママ)スパートとしての資質に欠ける,単純な作業はできるが高度な戦略的思考は説明に大きな時間を要する,与えられた職務及び職務以外の環境に不満が多い,自分の意見に固執する,協調性に欠けるなどと評され,合計5回のⅠ評価を受けているが,Yは,平成16年ころから,Xに対し,約5年間にわたり,Iマネジメントによる改善プログラムを適用し,PPR制度下における指導及び複数の上司による日常的な指導を通じて,業務能力,勤務態度上の問題の改善を試みてきたものと認められる。
そして,平成20年3月,Xに対して退職勧奨の前提となるコレクティブアクションが適用され,同年7月,Xの職位をエクスパートからインターミディエイトに降格し,平成21年6月,本件解雇に至った。

3 解雇権の濫用についての判断

Xについては,上記1(1)~(8)に判断したとおり,平成18年8月ころから平成21年にかけて,職務能力や勤務態度において,著しく劣り,その状態が断続的に認められるところ,Yとしては,上記2記載のとおり,Xに対し,上司による日常的な指導はもとより,IマネジメントやPPR制度を通じての指導,教育も約5年間にわたり施してきたと認められ,そうであるにもかかわらず改善されなかったと認められる。このような経過からすれば,本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないということはできず,解雇権を濫用するものということはできない。
 Xは,平成18年8月ころから平成21年6月の本件解雇に至るまで,それぞれの時期における担当業務の遂行能力が不十分であった上,上司から業務命令を受けたり,上司や同僚らから指摘や提案などを受けて(ママ)たりしても,自らの意見に固執してこれらを聞き入れない態度が顕著であったと認められることは,上記1で引用した原判決説示のとおりである。Xのこのような態度は,FRUリストに係るクレームへの対応のように,取引先からクレームが寄せられた場合であっても異なるところはなく,それが原因で取引先から担当者としてのXの交代を含む改善を求められることとなった上,Q社訪問の件に至っては,そもそも会社内部で対処すべき問題について,取引先をも巻き込んで事態を大きくし,取引先から重ねてクレームが寄せられるに至ったのである。しかも,Xは,上記のような態度をとるばかりでなく,自らの思い込みに基づいて,上司や同僚のみならず,会社内の他の部署に対して攻撃的で非常識な表現や内容を含むメールを多数送信するなどの行為を繰り返してきた。以上のようなXの言動が,Yと取引先との間の信頼関係を毀損したばかりでなく,Yの会社内部の円滑な業務遂行に支障を生じさせたことは明らかである。
Yは,上司による日常的な注意や,PPR制度,Iマネジメント制度における注意や指導を通じて,Xの上記のような態度を改善させようと試みたが,Xは,このような注意や指導に納得せず,最後まで自らの態度を改めることはなかったのであって,Xについては,「勤務態度が著しく不良で,改善の見込みがないと認められるとき」(Y就業規則37条8号)に該当する
というべきである。
これに対し,Xは,Xの精神的不調に対するYの対応が不適切であったとか,YがXを排除する意図を持ってXに対する不当な対応を長年繰り返してきたなどど(ママ)主張するが,Xが労務軽減等の配慮を必要とするほどの精神的不調を抱えていたと認めることはできないし,YがXを排除する意図で不当な対応を繰り返していたと認めることもできないのであって,このようなXの主張を採用することもできない。
以上のとおりで,本件解雇は有効なものというべきである。
Xは,社会的相当性を欠く事情として,①Xを営業職に配置しなかった,②Xの精神的不調に対する対応が不適切であった,③職位降格後の解雇が性急であったなどと主張する。
しかしながら,①XとYとの雇用契約において,職種を限定することを窺わせる事情はなく,Xの配置についてはYの人事権の及ぶ問題であり,本件で,人事権の裁量の範囲を超えるような事情は窺われない。
また,②精神的不調に対する対応については,証拠(〈〉)によれば,Xが,平成19年ころからうつ症状を当時の上司に訴え,またY健康相談室で相談等していることが認められ,平成19年4月12日付診断書(〈〉)や平成21年1月23日付診断書(〈〉)が認められる。しかしながら,平成19年4月12日付診断書には,「今後3カ月の自宅療養を必要とする」との記載がないもの(〈〉)と,記載があるもの(〈〉)の2種類があり,平成19年4月の段階で医師が作成した診断書には,上記記載がなかったが,その後6月ころに病気休暇を取得するために,Xが医師に再度診断書を持っていき医師が追記したことが認められ(〈,X本人〉),平成19年4月の産業医の面談において,産業医は,「長時間労働は× 休む程ではない」と記載していること(〈〉)等を総合して考えると,Xについては,平成19年4月ころから平成21年6月の本件解雇に至るまで,労務軽減等の配慮が必要となる程度のうつ症状であったことを認めるに足りない。確かに,Yとしては,Xのメールによるうつ症状の訴えを受け,産業医の受診をすすめる等の対応を行うことも考えられたところではあるが,本件においては,既に述べたとおり,そもそも,Xのうつ症状について,Yに何らかの義務を負わせる程度に重かったということは困難であり,Yが具体的な行動に出なかったことが,ただちにYの何らかの義務違反を構成するものではない。また,Yにおいては,Xの担当業務を変更したり,平成20年7月には,より単純な業務を指示するなど,結果的には,Xの健康状態の観点からみても適切であると評価できる対応をとっていたのであり,いずれにしても,本件解雇が社会的相当性を欠くものということはできない。
さらに,③平成20年7月にXの職位をエクスパートからインターミディエイトに降格した後も,平成21年6月に本件解雇に至るまで約11か月であることや,この間,PPR制度下における指導や上司による日常的な指導は行われていたと窺われることに照らせば,Xの上記③の主張も採用できない。
4 以上によれば,Xは本件解雇によりYの社員たる地位を喪失したというべきであり,そうすると,同日以降もYの社員たる地位を有することを前提とするXの請求は,その余について判断するまでもなく,いずれも理由がない。

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