「労働基準法の「労働者」の判断基準について」労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)

労働基準法研究会報告

(昭和60年12月19日)

労働基準法の「労働者」の判断基準について

第1 労働基準法の「労働者」の判断

1 労働基準法第9条は、その適用対象である「労働者」を「使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定している。これによれば、「労働者」であるか否か、すなわち「労働者性」の有無は「使用される=指揮監督下の労働」という労務提供の形態及び「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性、すなわち報酬が提供された労務に対するものであるかどうかということによって判断されることとなる。この二つの基準を総称して、「使用従属性」と呼ぶこととする。

2 しかしながら、現実には、指揮監督の程度及び態様の多様性、報酬の性格の不明確さ等から、具体的事例では、「指揮監督下の労働」であるか、「賃金支払」が行われているかということが明確性を欠き、これらの基準によって「労働者性」の判断をすることが困難な場合がある。

このような限界的事例については、「使用従属性」の有無、すなわち「指揮監督下の労働」であるか、「報酬が賃金として支払われている」かどうかを判断するに当たり、「専属度」、「収入額」等の諸要素をも考慮して、総合判断することによって「労働者性」の有無を判断せざるを得ないものと考える。

3 なお、「労働者性」の有無を法律、制度等の目的、趣旨と相関させて、ケース・バイ・ケースで「労働者」であるか否かを判断する方法も考え得るが、少なくとも、労働基準関係法制については、使用従属の関係にある労働者の保護を共通の目的とするものであり、また、全国画一的な監督行政を運営していく上で、「労働者」となったり、ならなかったりすることは適当でなく、共通の判断によるべきものであろう。

第2 「労働者性」の判断基準

以上のように「労働者性」の判断に当たっては、雇用契約、請負契約といった形式的な契約形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断する必要がある場合があるので、その具体的判断基準を明確にしなければならない。

この点については、現在の複雑な労働関係の実態のなかでは、普遍的な判断基準を明示することは、必ずしも容易ではないが、多数の学説、裁判例等が種々具体的判断基準を示しており、次のように考えるべきであろう。

1 「使用従属性」に関する判断基準

⑴ 「指揮監督下の労働」に関する判断基準

労働が他人に指揮監督下において行われているかどうか、すなわち他人に従属して労務を提供しているかどうかに関する判断基準としては、種々の分類があり得るが、次のように整理することができよう。

イ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

「使用者」の具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して諾否の自由を有していれば、他人に従属して労務を提供するとは言えず、対等な当事者間の関係となり、指揮監督関係を否定する重要な要素となる。

これに対して、具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して拒否する自由を有しない場合は、一応、指揮監督関係を推認させる重要な要素となる。なお、当事者間の契約によっては、一定の包括的な仕事の依頼を受諾した以上、当該包括的な仕事の一部である個々具体的な仕事の依頼については拒否する自由が当然制限される場合があり、また、専属下請のように事実上、仕事の依頼を拒否することができないという場合もあり、このような場合には、直ちに指揮監督関係を肯定することはできず、その事実関係だけでなく、契約内容等も勘案する必要がある。

ロ 業務遂行上の指揮監督の有無

(イ) 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無

業務の内容及び遂行方法について「使用者」の具体的な指揮命令を受けていることは、指揮監督関係の基本的かつ重要な要素である。しかしながら、この点も指揮命令の程度が問題であり、通常注文者が行う程度の指示等に止まる場合には、指揮監督を受けているとは言えない。なお、管弦楽団員、バンドマンの場合のように、業務の性質上放送局等「使用者」の具体的な指揮命令になじまない業務については、それらの者が放送事業等当該事業の遂行上不可欠なものとして事業組織に組み入れられている点をもって、「使用者」の一般的な指揮監督を受けていると判断する裁判例があり、参考にすべきであろう。

(ロ) その他

このほか、「使用者」の命令、依頼等により通常予定されている業務以外の業務に従事することがある場合には、「使用者」の一般的な指揮監督を受けているとの判断を補強する重要な要素となろう。

ハ 拘束性の有無

勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には、指揮監督関係の基本的な要素である。しかしながら、業務の性質上(例えば、演奏)、安全を確保する必要上(例えば、建設)等から必然的に勤務場所及び勤務時間が指定される場合があり、当該指定が業務の性質等によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを見極める必要がある。

ニ 代替性の有無-指揮監督関係の判断を補強する要素-

本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているか否か、また、本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められているか否か等労務提供に代替性が認められているか否かは、指揮監督関係そのものに関する基本的な判断基準ではないが、労務提供の代替性が認められている場合には、指揮監督関係を否定する要素のひとつとなる。

⑵ 報酬の労務対償性に関する判断基準

労働基準法第11条は、「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と規定している。すなわち、使用者が労働者に対して支払うものであって、労働の対償であれば、名称の如何を問わず「賃金」である。この場合の「労働の対償」とは、結局において「労働者が使用者の指揮監督の下で行う労働に対して支払うもの」と言うべきものであるから、報酬が「賃金」であるか否かによって逆に「使用従属性」を判断することはできない。

しかしながら、報酬が時間給を基礎として計算される等労働の結果による較差が少ない、欠勤した場合には応分の報酬が控除され、いわゆる残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給される等報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合には、「使用従属性」を補強することとなる。

2 「労働者性」の判断を補強する要素

前述のとおり、「労働者性」が問題となる限界的事例については、「使用従属性」の判断が困難な場合があり、その場合には、以下の要素をも勘案して、総合判断する必要がある。

⑴ 事業者性の有無

労働者は機械、器具、原材料等の生産手段を有しないのが通例であるが、最近におけるいわゆる傭車運転手のように、相当高価なトラック等を所有して労務を提供する例がある。このような事例については、前記1の基準のみをもって「労働者性」を判断することが適当でなく、その者の「事業者性」の有無を併せて、総合判断することが適当な場合もある。

イ 機械、器具の負担関係

本人が所有する機械、器具が安価な場合には問題はないが、著しく高価な場合には自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」としての性格が強く、「労働者性」を弱める要素となるものと孝えられる。

ロ 報酬の額

報酬の額が当該企業において同様の業務に従事している正規従業員に比して著しく高額である場合には、上記イと関連するが、一般的には、当該報酬は、労務提供に対する賃金ではなく、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」に対する代金の支払と認められ、その結果、「労働者性」を弱める要素となるものと考えられる。

ハ その他

以上のほか、裁判例においては、業務遂行上の損害に対する責任を負う、独自の商号使用が認められている等の点を「事業者」としての性格を補強する要素としているものがある。

(2)専属性の程度

特定の企業に対する専属性の有無は、直接に「使用従属性」の有無を左右するものではなく、特に専属性がないことをもって労働者性を弱めることとはならないが、「労働者性」の有無に関する判断を補強する要素のひとつと考えられる。

イ 他社の業務に従事することが制度上制約され、また、時間的余裕がなく事実上困難である場合には、専属性の程度が高く、いわゆる経済的に当該企業に従属していると考えられ、「労働者性」を補強する要素のひとつと考えて差し支えないであろう。なお、専属下請のような場合については、上記1⑴イと同様留意する必要がある。

ロ 報酬に固定的部分がある、業務の配分等により事実上固定給となっている、その額も生計を維持しうる程度のものである等報酬に生活保障的な要素が強いと認められる場合には、上記イと同様、「労働者性」を補強するものと考えて差し支えないであろう。

⑶ その他

以上のほか、裁判例においては、①採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること、②報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること、③労働保険の適用対象としていること、④服務規律を適用していること、⑤退職金制度、福利厚生を適用していること等「使用者」がその者を自らの労働者と認識していると推認される点を「労働者性」を肯定する判断の補強事由とするものがある。

第3 具体的事案

1 傭車運転手

いわゆる「傭車運転手」とは、自己所有のトラック等により、他人の依頼、命令等に基づいて製品等の運送業務に従事する者であるが、その「労働者性」の判断に当たっては、一般にその所有するトラック等が高価なことから、「使用従属性」の有無の判断とともに、「事業者」としての性格の有無の判断も必要となる。

〔判断基準〕

⑴ 「使用従属性」に関する判断基準

イ 「指揮監督下の労働」に関する判断基準

(イ) 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

当該諾否の自由があることは、指揮監督関係の存在を否定する重要な要素となるが、一方、当該諾否の自由がないことは、契約内容等による場合もあり、指揮監督関係の存在を補強するひとつの要素に過ぎないものと考えられる。

(ロ) 業務遂行上の指揮監督の有無

① 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無

運送物品、運送先及び納入時刻の指定は、運送という業務の性格上当然であり、これらが指定されていることは業務遂行上の指揮監督の有無に関係するものではない。

運送経路、出発時刻の管理、運送方法の指示等がなされ、運送業務の遂行が「使用者」の管理下で行われていると認められる場合には、業務遂行上の指揮命令を受けているものと考えられ、指揮監督関係の存在を肯定する重要な要素となる。

② その他

当該「傭車運転手」が契約による運送という通常の業務のほか、「使用者」の依頼、命令等により他の業務に従事する場合があることは、当該運送業務及び他の業務全体を通じて指揮監督を受けていることを補強する重要な要素となる。

(ハ) 拘束性の有無

勤務場所及び勤務時間が指定、管理されていないことは、指揮監督関係の存在を否定する重要な要素となるが、一方、これらが指定、管理されていても、それはその業務内容から必然的に必要となる場合もあり、指揮監督関係の存在を肯定するひとつの要素となるに過ぎないものと考えられる。

(ニ) 代替性の有無-指揮監督関係の判断を補強する要素-

他の者が代わって労務提供を行う、補助者を使う等労務提供の代替性が認められている場合には、指揮監督関係を否定する要素となるが、一方、代替性が認められていない場合には、指揮監督関係の存在を補強する要素のひとつとなる。

ロ 報酬の労務対償性の有無の判断基準

報酬が、出来高私利ではなく、時間単位、日単位で支払われる場合には、下記(⑵、イ、(ロ))のようにその額が高い場合であっても、報酬の労務対償性が強く、「使用従属性」の存在を補強する重要な要素となる。

⑵ 「労働者性」の判断を補強する要素

イ 事業者性の有無

(イ) 機械、器具の負担関係

「傭車運転手」は高価なトラック等を自ら所有するのであるから、一応、「事業者性」があるものと推認される。

(ロ) 報酬の額

報酬の額が同社の同種の業務に従事する正規従業員に比して著しく高額な場合には、当該報酬は、事業者に対する運送代金の支払と考えられ、「労働者性」を弱める要素となる。ただし、報酬の算定方法によっては、報酬の額が著しく高額なことそのことが「労働者性」を弱める要素とはならない場合もある(上記⑴、ロ参照)。

ロ 専属性の程度

(イ) 他社の業務に従事することが制約され、又は他社の業務に従事する場合であっても、それが「使用者」の紹介、斡旋等によるものであるということは、専属性の程度を高めるという意味であり、「労働者性」を補強する要素のひとつとなる場合もあるものと考えられ

る。

(ロ) 報酬に固定給部分がある等生活保障的要素が強いと認められる場合も、上記(イ)と同様、「労働者性」を補強する要素のひとつになるものと考えられる。

ハ その他

報酬について給与所得としての源泉徴収を行っているか否か、労働保険の適用対象としているか否か、服務規律を適用しているか否か等は、「労働者性」の判断に当たって重要な要素となるものではないが、当事者の認識を推認する要素であり、当該判断を補強するものとして考えて差し支えないであろう。

2 在宅勤務者

いわゆる「在宅勤務者」とは、自宅において就業する労働者をいうが、このような就業形態の者は今後増加していくものと考えられることから、自営業者、家内労働者等と区別し、どのような形態の「在宅勤務者」が労働基準法第9条の「労働者」に該当するか、その判断基準を明確にする必要がある。

〔判断基準〕

⑴ 「使用従属性」に関する判断基準

イ 「指揮監督下の労働」に関する判断基準

(イ) 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

当該諾否の自由があることは、指揮監督関係を否定する重要な要素となるが、一方、当該諾否の自由がないことは、契約内容等による場合もあり、指揮監督関係の存在を補強するひとつの要素に過ぎないものと考えられる。

(ロ) 業務遂行上の指揮監督の有無

会社が業務の具体的内容及び遂行方法を指示し、業務の進捗状況を本人からの報告等により把握、管理している場合には、業務遂行過程で「使用者」の指揮監督を受けていると考えられ、指揮監督関係を肯定する重要な要素となる。

(ハ) 拘束性の有無

勤務時間が定められ、本人の自主管理及び報告により「使用者」が管理している場合には、指揮監督関係を肯定する重要な要素となる。

(ニ) 代替性の有無-指揮監督関係の判断を補強する要素-

当該業務に従事することについて代替性が認められている場合には、指揮監督関係を否定する要素となる。

ロ 報酬の労務対償性の有無

報酬が、時間給、日給、月給等時間を単位として計算される場合には、「使用従属性」を補強する重要な要素となる。

⑵ 「労働者性」の判断を補強する要素

イ 事業者性の有無

(イ) 機械、器具の負担関係

自宅に設置する機械、器具が会社より無償貸与されている場合には、「事業者性」を薄める要素となるものと考えられる。

(ロ) 報酬の額

報酬の額が、同社の同種の業務に従事する正規従業員に比して著しく高額な場合には、「労働者性」を薄める要素となるものと考えられるが、通常そのような例は少ない。

ロ 専属性の程度

(イ) 他社の業務に従事することが制約され、又は事実上困難な場合には、専属性の程度が高く、「労働者性」を補強する要素のひとつとなる。

(ロ) 報酬に固定給部分がある等生活保障的要素が強いと認められる場合も、上記(イ)と同様、「労働者性」を補強する要素のひとつになる。

ハ その他

報酬について給与所得としての源泉徴収を行っているか否か、労働保険の適用対象としているか否か、採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の場合と同様であるか否か等は、当事者の認識を推認する要素に過ぎないものではあるが、上記の各基準によっては「労働者性」の有無が明確とならない場合には、判断基準のひとつとして考えなければならないであろう。

(事例1)傭車運転手A

l 事業等の概要

⑴ 事業の内容

建築用コンクリートブロックの製造及び販売

⑵ 傭車運転手の業務の種類、内容

自己所有のトラック(4トン及び11トン車、1人1車)による製品(コンクリートブロック)の運送

2 当該傭車運転手の契約内容及び就業の実態

⑴ 契約関係

書面契約はなく、口頭により、製品を県外の得意先に運送することを約したもので、その報酬(運賃)は製品の種類、行先及び箇数により定めている。

⑵ 業務従事の諾否の自由

会社は配車表を作成し、配車伝票によって業務を処理しており、一般的にはこれに従って運送していたが、時にこれを拒否するケース(特段の不利益取扱いはない。)もあり、基本的には傭車運転手の自由意思が認められている。

⑶ 指揮命令

運送業務の方法等に関して具体的な指揮命令はなく、業務遂行に当たって補助者を使用すること等も傭車運転手の自由な判断にまかされ、時に上記⑵の配車伝票に納入時刻の指定がされる程度で傭車運転手自身に業務遂行についての裁量が広く認められている。

⑷ 就業時間の拘束性

通常、傭車運転手は午後会社で積荷して自宅に帰り、翌日、自宅から運送先に直行しており、出勤時刻等の定め、日又は週当たりの就業時間等の定めはない。

⑸ 報酬の性格

報酬は運賃のみで、運賃には車両維持費、ガソリン代、保険料等の経費と運転業務の報酬が含まれていたと考えられるが、その区分は明確にされていない。

⑹ 報酬の額

報酬の額は月額約40万円と、社内運転手の17~18万円に比してかなり高い。

⑺ 専属性

契約上他社への就業禁止は定めておらず、現に他の傭車運転手2名程度は他社の運送にも従事している。

⑻ 社会保険、税金等

社会保険、雇用保険等には加入せず(各人は国民健康保険に加入)、また報酬については給与所得としての源泉徴収が行われず、傭車運転手本人が事業所得として申告している。

3 「労働者性」の判断

⑴ 「使用従属性」について

①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由があること、②業務遂行についての裁量が広く認められており、他人から業務遂行上の指揮監督を受けているとは認められないこと、③勤務時間が指定、管理されていないこと、④自らの判断で補助者を使うことが認められており、労務提供の代替性が認められていること、から使用従属性はないものと考えられ、⑤報酬が出来高払いであって、労働対償性が希薄であることは、当該判断を補強する要素である。

⑵ 「労働者性」の判断を補強する要素について

①高価なトラックを自ら所有していること、②報酬の額は同社の社内運転手に比してかなり高いこと、③他社への就業が禁止されておらず、専属性が希薄であること、④社会保険の加入、税金の面で同社の労働者として取り扱われていなかったことは「労働者性」を弱める要素である。

⑶ 結論

本事例の傭車運転手は、労働基準法第9条の「労働者」ではないと考えられる。

(事例2)傭車運転手B

l 事業等の概要

⑴ 事業の内容

主として公共土木工事の設計、施工

⑵ 傭車運転手の業務の種類、内容

会社施工の工事現場において土砂の運搬の業務に従事するいわゆる白ナンバーのダンプ運転手

2 当該傭車運転手の契約内容及び就業の実態

⑴ 傭車運転手は、積載量10トンのダンプカー1台を所有し、会社と契約して会社施工の工事現場で土砂運搬を行っている。契約書は作成しておらず、専属として土砂運搬を行うもので、本人が自己の意思で他社の建設現場へダンプ持ちで働きに行くことは暗黙のうちに会社を退社するに等しいものと考えられている。

⑵ ダンプを稼働した場合の報酬は1日につき35,000円であり、その請求は本人が毎月末に締め切って計算のうえ会社に対し行っている。会社は、この請求に基づいて稼働日数をチェックし、本人の銀行口座へ翌月10日に振り込んでいるが、この報酬については、給与所得としての源泉徴収をせず、傭車運転手本人が事業所得として青色申告をしている。

⑶ 稼働時間は、午前8時から午後5時までとなっているが、ダンプによる土砂運搬がない場合は、現場作業員として就労することもできる。この場合には、賃金として1日につき5,500円が支払われる。したがって、本人は土砂運搬作業の有無にかかわらず、始業時間までに現場に出勤しており、現場では、いずれの場合にも現場責任者の指示を受け、出面表

にはそれぞれの時間数が記録されている。現場作業員として就労した場合の賃金は、一般労働者と同様、月末締切りで翌月5日に現金で支払われ、この分については、給与所得としての源泉徴収がされている。

⑷ ダンプの所有は傭車運転手本人となっており、ローン返済費(月15万円)、燃料費(月20日稼働で15~16万円)、修理費、自動車税等は本人負担となっている。

⑸ 社会保険、雇用保険には加入していない。

3 「労働者性」の判断

⑴ 「使用従属性」について

①業務遂行について現場責任者の指示を受けていること、②土砂運搬がない場合は、現場責任者の指示を受け現場作業員として就労することがあること、③勤務時間は午前8時から午後5時までと指定され、実際の労働時間数が現場において出面表により記録されていること、に加え、④土砂運搬の報酬は下記⑵でみるようにかなり高額ではあるが、出来高ではなく日額で計算されていることから、「使用従属性」があるものと考えられる。

⑵ 「労働者性」の判断を補強する要素について

①高価なトラックを自ら所有していること、②報酬の額は月20日稼働で70万円(ローン返済費及び燃料費を差し引くと約40万円)であって、その他の事情を考慮してもかなり高額であること、③社会保険の加入、税金の面で同社の労働者として取り扱われていないことは「労働者性」を弱める要素であるが、上記⑴による「使用従属性」の判断を覆すものではない。

⑶ 結論

本事例の傭車運転手は、労働基準法第9条の「労働者」であると考えられる。

(事例3)在宅勤務者A

l 事業等の概要

⑴ 事業の内容

ソフトウェアの開発、計算業務の受託、電算室の総括的管理運営

⑵ 在宅勤務者の業務の種類、内容

会社よりミニファックスで伝送される仕様書等に基づき、プログラムの設計、コーディング、机上でのデバッグを行う。

2 在宅勤務者の契約内容及び就業の実態

⑴ 契約関係

期間の定めのない雇用契約により、正社員として採用している。

⑵ 業務の諾否の自由

会社から指示された業務を拒否することは、病気等特別な理由がない限り、認められていない。

⑶ 指揮命令

業務内容は仕様書等に従ってプログラムの設計等を行うことであり、定形化しており、通常、細かな指示等は必要ない。なお、10日に1回出社の義務があり、その際、細かい打合せ等をすることもある。

⑷ 就業時間の拘束性

勤務時間は、一般従業員と同じく午前9時から午後5時(休憩1時間)と決められており、労働時間の管理、計算は本人に委ねている。

⑸ 報酬の性格及び額

報酬は、一般従業員と同じく月給制(固定給)である。

⑹ 専属性

正社員であるので、他社への就業は禁止されている。

⑺ 機械、器具の負担

末端機器及び電話代は、会社が全額負担している。

3 「労働者性」の判断

⑴ 「使用従属性」について

①業務の具体的内容について、仕様書等により業務の性質上必要な指示がなされていること、②労働時間の管理は、本人に委ねられているが、勤務時間が定められていること、③会社から指示された業務を拒否することはできないこと、に加えて、④報酬が固定給の月給であることから、「使用従属性」があるものと考えられる。

⑵ 「労働者性」の判断を補強する要素について

①業務の遂行に必要な末端機器及び電話代が会社負担であること、②報酬の額が他の一般従業員と同様であること、③正社員として他社の業務に従事することが禁止されていること、④採用過程、税金の取扱い、労働保険の適用等についても一般従業員と同じ取扱いであることは、「労働者性」を補強する要素である。

⑶ 結論

本事例の在宅勤務者は、労働基準法第9条の「労働者」であると考えられる。

(事例4)在宅勤務者B

l 事業等の概要

⑴ 事業の内容

速記、文書処理

⑵ 在宅勤務者の業務の種類、内容

元正社員であった速記者が、会議録等を録音したテープを自宅に持ち帰り、ワープロに入力する。

2 在宅勤務者の契約内容及び就業の実態

⑴ 契約関係

「委託契約」により、納期まで1週間~1か月程度の余裕のある仕事を委託しており、納期の迫っているものは正社員にやらせている。

⑵ 業務の諾否の自由

電話により又は出社時に、できるかどうかを確認して委託している。

⑶ 指揮命令

業務の内容が定形化しており、個々具体的に指示することは必要なく、週1回程度の出社時及び電話により進捗状況を確認している。

⑷ 就業時間の拘束性

勤務時間の定めはなく、1日何時間位仕事ができるかを本人に聴き、委託する量を決める。

⑸ 報酬の性格及び額

在宅勤務者個々人についてテープ1時間当たりの単価を決めており、テープの時間数に応じた出来高制としている。

⑹ 機械、器具の負担

会社がワープロを無償で貸与している。

⑺ その他

給与所得としての源泉徴収、労働保険への加入はしていない。

3 「労働者性」の判断

⑴ 「使用従属性」について

①会社からの委託を断ることもあること、②勤務時間の定めはなく、本人の希望により委託する量を決めていること、③報酬は、本人の能力により単価を定める出来高制であること、④業務の具体的内容、その遂行方法等について特段の指示がないことから、「使用従属性」はないものと考えられる。

⑵ 「労働者性」の判断を補強する要素について

業務の遂行に必要なワープロは会社が負担しているが、他に「労働者性」を補強する要素はない。

⑶ 結論

本事例の在宅勤務者は、労働基準法第9条の「労働者」ではないと考えられる。

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