会社必見!労働審判の答弁書について知っておきたい5つのこと

社長
会社に裁判所から「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」が届きました。そこには,出頭期日と共に,会社の言い分を記載した「答弁書」という書面を提出するべき期限が記載されています。しかし,答弁書と言われても,一体何を記載したらよいのか分かりません。会社が労働審判手続の答弁書を作成するポイントいて教えてください。

>

1 労働審判手続の答弁書とは?

答弁書とは,労働審判手続において,申立書記載の申立ての趣旨に対する答弁や申立書記載の事実に対する認否や答弁を理由付ける具体的な事実等を記載した書面をいいます(労働審判規則第16条)。

簡単に言えば,社員(労働者)が労働審判手続申立書に記載した内容に対して,会社・社長側の主張や言い分を記載する書面といって良いでしょう。

2 労働審判の答弁書は,誰に対し,何のために提出するのか?

裁判所(労働審判委員会)に対して,会社・社長側の主張を理解し,会社・社長側に有利な労働審判・調停案を出してもらう為に提出します。

労働審判手続においては,第1回期日において集中的に事実の調査又は証拠調べが行われ,裁判所(労働審判委員会)は心証を形成します。

そして,その心証に基づいて,裁判所(労働審判委員会)は調停や労働審判を行います。

第1回期日前においては,裁判所(労働審判委員会)は,社員(労働者)側が提出した申立書と会社側が提出する答弁書に記載された主張や証拠を熟読して準備を進めます。

そして,裁判所(労働審判委員会)によっては,申立書と答弁書及び一部の書証だけで,その案件の概括的な心証を形成した上で,その案件の筋や落としどころまで読み込むことがあります。

つまり,第1回労働審判手続期日までに提出する申立書や答弁書の出来次第によって勝負がほぼ決まることが多いのです。

従って,会社・社長側が勝利するためには,裁判所(労働審判委員会)が会社側の主張を理解し,会社・社長側に有利な結論(労働審判・調停案)を出してくれるように説得するに足る答弁書を提出しなければなりません。

答弁書は,いわば,裁判所(労働審判委員会)に対する,極めて重要なプレゼンテーション資料といっても良いでしょう。

3 提出期限はあるのか?

あります。

労働審判官は,労働審判の申立ての後,相手方の提出する答弁書の提出期限を定め(労働審判規則14条1項),「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」に具体的な答弁書の提出期限が明記されています(労働審判規則15条2項)。

通常は,第1回労働審判手続期日の10日ないし1週間前と定められる場合が多いです。

そして,「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」が会社に届いてから提出期限まで1ヶ月程度であるのが通常です。

その間に,会社・社長側は,裁判所(労働審判委員会)を説得するに足る充実した内容の答弁書を作り上げなければならないのです。

これは,会社・社長側の準備を考えると,提出までの時間が非常にタイトといえます。

4 誰が作成するのか?

答弁書の作成は,法律上は,弁護士に依頼せずに,会社・社長が自分で作成することも可能です。

しかし,先述のとおり答弁書の出来不出来によって,労働審判手続における会社・社長側の勝敗を決めてしまう可能性の高い重要な書類です。

また,裁判所(労働審判委員会)は,原則として法律に則った判断を行いますので,会社側にとって有利な法律効果を得られるような事実を整理して主張する必要があります。

事実であれば何でも主張すればよい訳ではありません。

また,有利だと思って主張した事実が,法的には会社・社長側に不利な法律効果をもたらす可能性もあります。

それゆえ,答弁書の作成には,労働基準法や労働契約法の知識はもちろん,裁判所(労働審判委員会)がどのような認定・判断を行うのかを見越した上で,事実及び証拠を整理して主張を記載する必要があります。

さらには,答弁書を作成・提出は1ヶ月程度の短期間で行う必要があります。

その為には,労働審判手続事件において,ポイントとなる点を適格に把握した上で,効率よく事実関係の調査や証拠の収集をする必要があります。

このような答弁書の作成が出来るのは,①労働法に関する専門知識を有し,②労働審判手続や労働訴訟の経験が豊富な弁護士が最も適していると言えます。

従って,答弁書の作成は,労働審判手続期日の対応も含めて,労働法を専門として,労働裁判の経験が豊富な弁護士に依頼し,作成してもらうことが,会社・社長側にとって必要であると考えます。

5 労働審判の答弁書には何を記載するのか?

労働審判手続の答弁書には以下の事項を記載することが要求されています

【答弁書の記載事項(労働審判規則第16条1項)】

  1. 申立の趣旨に対する答弁
  2. 申立書に記載された事実に対する認否
  3. 答弁を理由付ける具体的事実
  4. 予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
  5. 予想される争点ごとの証拠
  6. 当事者間においてされた交渉等の経緯

5.1 ①申立の趣旨に対する答弁

申立の趣旨

まず,労働審判手続申立書には「申立の趣旨」が記載されています。答弁書には,これに対する会社・社長側の答弁を記載する必要があります。

申立の趣旨とは,申立人が求める審判の内容(解決内容)を端的に記載する部分を意味します。

具体例:解雇された労働者が解雇の無効を申し立てる場合

1 申立人が相手方に対して,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する2 相手方は申立人に対して,平成30年〇月から毎月〇〇日限り金△△万円及びこれに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え

3 申立費用は、相手方の負担とする

との労働審判を求める。

といった記載がなされています。

申立の趣旨に対する答弁

これに対し,会社・社長側が争う場合は,

申立の趣旨に対する答弁

1 本件申立にかかる請求をいずれも棄却する

2 手続費用は申立人の負担とする

との労働審判を求める。

といった記載をします。

5.2 ②申立書に記載された事実に対する認否

【申立の理由】

次に,労働審判手続申立書には「申立の理由」が記載されています。答弁書には,これに対する会社・社長側の認否を記載する必要があります。

「申立の理由」とは,なぜ,申立の趣旨記載の審判を求めるのかを説明する部分を意味します。

具体例:解雇された労働者が解雇の無効を申し立てる場合

第1 当事者

1 相手方

会社(事業主)の形態・業務内容・規模(従業員数)等

2 申立人

労働契約の成立と相手方での経歴(入社年月日、異動の実績など)

労働契約の内容(申立時点での業務の内容、貸金、賞与等)

第2 解雇通告と解雇に至るまでの事情

1 解雇に至る経過

2 解雇通告の事実と相手方が主張する解雇の具体的理由

第3 解雇無効(予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実)

解雇が無効であることの記載(解雇理由に対する反論)

第4 解雇通告後の相手方の対応、交渉の経緯など

といった記載がなされています。

これに対し,会社・社長側は,事実関係の認否を行う必要があります。

【申立の理由に対する認否】

申立の理由に対する認否とは,

  1. 認める
  2. 否認する(事実を争う)※否認する場合は,その理由も記載する必要があります。
  3. 不知(事実は知らない=争うのと同じ効果)
  4. 争う(法的主張や評価に関する主張を争う)

の4つの態度を示すことを意味します。

申立書に記載された事実関係について,項目毎に上記4つのいずれかの態度を明らかにする必要があります。

裁判所(労働審判委員会)は,会社・社長側がどこを認め,どこを否認・争うのか,争点は何かを注目して確認します。

よって,申立書の項目に沿って明確に認否をする必要があります。

また,裁判所(労働審判委員会)は,会社側の言い分(反論)についても確認しますので,認否のほか,会社側の反論もコンパクトに記載した方がよいでしょう。

5.3 ③答弁を理由付ける具体的事実

会社側の主張を裏付ける具体的な事実関係を記載します。なぜ,会社側は,社員(労働者)の申立の棄却を求めるのかを説明する部分になります。

なお、「予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実」を記載することが求められていますが(後述の④)が,これは「答弁を理由付ける具体的事実」の一部を構成しますので,特に独立の項目を設けて記載しなくても問題ありません。要するに,争点とそれに対する会社・社長側の主張が明確になっていればよいのです。

具体例:解雇された労働者が解雇の無効を申し立てた場合

1 解雇の事実

(1) 解雇の意思表示の日(解雇する旨を伝えた日),解雇の効力発生日(何日付けで解雇しているか)

(2) 解雇の種類(普通解雇・整理解雇・懲戒解雇)及び就業規則(解雇当時のもの)の根拠

2 解雇の有効性について

労働契約法16条の解雇の理由及び相当性を裏付ける具体的事実

例:勤務成績・能力・適格性の欠如を裏付ける事実

5.4 ④予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実

労働審判の審理において,争点となるであろう問題点と、それについての相手方(会社・社長側)の主張を記載する部分です。

解雇事案であれば,解雇理由(例えば、勤務成績の不良等)を記載するとともに、社員(労働者)側の反論を見込んで,これに対する再反論も予め記載します。

なお、答弁書の記載内容から、争点やこれについての主張が明確になっていれば、「予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実」という独立の項目を設けなくてもよいことは、前述③のとおりです。

5.5 ⑤予想される争点ごとの証拠

提出する証拠(書証)には、乙第1号証、乙第2号証などの番号を順次ふります。

そして、③答弁を理由付ける具体的事実(もしくは、「④予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実」)のなかに証拠番号を「乙第1号証」、「乙1」などと引用するかたちで記載します。

また、人証で立証する事実については、その肩書、氏名を「③答弁を理由付ける具体的事実」の本文もしくは「証拠方法」の記載欄に記載しておくのが望ましいといえます。

5.6 ⑥当事者間においてされた交渉等の経緯

労働審判申立に先立ち、当事者間でどのような交渉がもたれたかを記載する部分です。

裁判所(労働審判委員会)が,労働審判手続の中で行う調停や労働審判を行うに際して,参考にされる情報となります。

例えば,解雇を争う案件について,労働審判手続前に交渉がもたれ,退職を前提として金銭的解決が模索されているような場合は,労働審判手続においても裁判所(労働審判委員会)は退職を前提とした金銭解決による調停や労働審判を試みることが多いといえます。

6 まとめ

以上から,答弁書とは,会社・社長側が,裁判所(労働審判委員会)に対して,自己に有利な結論(労働審判・調停案)を得る為に,会社・社長側の言い分を記載した書面であり,非常にタイトは期限内に作成・提出しなければならないもの,とまとめることができるでしょう。

いかがでしたでしょうか?

今回の話が会社の労働審判における答弁書について知りたい方のご参考になれば幸いです。

なお,当事務所では労働審判を申し立てられた会社の相談を初回無料で受け付けているので,是非ご利用ください。

労働問題に関する相談受付中

営業時間:平日(月曜日~金曜日)10:00~18:00 /土日祝日は休業