海外漁業協力財団事件 東京高裁平成16年10月14日判決 労判885号26頁

海外漁業協力財団事件 東京高裁平成16年10月14日判決 労判885号26頁

財団法人職員が常勤理事を批判する文書を非常勤理事等に送付した行為に対する停職3日間の懲戒処分が有効とされた事案

【要約】
財団法人の職員が、常勤理事らによる違法な尾行行為があったとして、非常勤理事、監事及び評議員に対し常勤理事を非難する文書を送付したことを理由に停職3日間の懲戒処分を受けた事案において、裁判所は、当該行為が「財団の信用を傷つける行為」には該当しないものの、理事長が説明や陳謝を余儀なくされるなど業務に支障が生じたことから職場秩序を乱したものであり、「法令および諸規程に違反したとき」という懲戒事由に該当するとして、懲戒処分を有効と判断した。

【事案】
財団法人の職員が、平成12年1月に興信所による尾行を受け、財団が関与したか否かについて話し合いを求めたが、財団側が十分な対応をしなかったことから、平成14年5月31日付けで、財団の非常勤理事、監事及び評議員に対し、常勤理事らが卑劣で不当かつ違法な行為を行った、財団にはもはや自浄能力がないなどと記載した文書を送付した。財団は、当該行為が財団の名誉と信用を著しく傷つけるものであるとして、同年6月17日付けで停職3日間の懲戒処分を行った事案。

【結論】
懲戒処分(停職3日間) 有効

【理由】

「財団の信用を傷つける行為」該当性について
・労働者は労働契約に基づく誠実義務を負う一方で、市民として表現の自由を有する
・使用者の名誉・信用の毀損行為すべてを懲戒対象とするのは相当ではない
・表現に係る事実の内容が概ね真実であるか、真実であると信じるについて相当な理由がある場合には、表現の主体、相手方、表現の仕方、目的・意図・経緯、結果などの諸事情を総合考慮すべき
・本件では、尾行調査の事実について財団が抽象的ながら認めていること等から、「財団の信用を傷つける行為」には該当しない

「法令および諸規程に違反したとき」該当性について
・就業規則第4条第1項に「職場の秩序維持に努め」る義務が定められている
・文書送付により、非常勤理事等から財団への問い合わせがあり、理事長が理事会・評議員会で説明や陳謝を余儀なくされた
・理事等を自己の目的達成のために利用することは、財団の組織運営上予定されていない
・財団の業務に支障が生じたことは明らかであり、職場秩序を乱した
・財団側の対応が本件行為の主要な原因であったことは被控訴人に有利な事情として斟酌されるが、懲戒事由該当性は失われない

懲戒処分の相当性について
・戒告処分の前歴があること
・停職3日間という比較的軽い処分内容であること
・被控訴人に有利な事情を考慮しても、重きに失するとはいえない
・懲戒権の濫用には当たらない

弁明の機会について
・就業規則上、懲戒手続において弁明の機会を与える規定がない
・本件行為を行ったことは明らかであり、その背景や意図・目的は財団においても容易に知り得た
・弁解として主張したであろう事情は認識されていた
・停職3日間という比較的軽微な処分内容である
・弁明の機会を与えなかったことは懲戒権の濫用に当たらない

【実務上のポイント】

表現行為に対する懲戒処分の判断基準
・従業員の表現行為が使用者の名誉・信用を毀損する場合でも、表現の自由との調整が必要
・表現内容が概ね真実か、真実と信じる相当な理由がある場合は、諸事情を総合考慮して懲戒事由該当性を判断する
・単に「信用毀損行為」として一律に懲戒対象とすることは適切ではない

職場秩序維持義務違反としての構成
・「信用毀損行為」に該当しない場合でも、「職場秩序を乱す行為」として懲戒事由に該当し得る
・就業規則に職場秩序維持義務の規定があれば、これを根拠とすることが可能
・業務への具体的な支障(問い合わせ対応、説明・陳謝の必要性等)を立証することが重要

懲戒処分に至る経緯の重要性
・本件では財団側の不誠実な対応が本件行為の主要な原因とされた
・使用者側の対応が不適切であった場合、処分の相当性判断において従業員に有利に斟酌される
・紛争の予防・拡大防止の観点から、従業員からの申入れには誠実に対応することが重要

弁明の機会の付与
・就業規則上の定めがない場合でも、弁明の機会を与えることが望ましい
・処分内容が軽微で、事実関係が明白であり、弁解内容が推測可能な場合は、弁明機会がなくても懲戒権濫用とならない可能性がある
・ただし、重い処分を行う場合や事実関係に争いがある場合は、弁明の機会を確保すべき

段階的処分の活用
・本件では過去に戒告処分の前歴があったことが、停職処分の相当性判断において考慮された
・軽い処分から段階的に重くしていくことで、処分の相当性を基礎づけやすくなる

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