人員削減必要性

人員削減の必要性とは?

社長
当社は,東京に本社を置き国内外にグループ事業会社を有する会社です。当社は、平成元年に当時東北地区に唯一有していた建材事業部東北営業所に従業員Yを採用し、同人は同営業所の経理・庶務の仕事に携わってきました。平成12,13年度ともに当社全体では黒字を計上していましたが,建材事業部では赤字が続き,同部東北営業所も例外ではありませんでした。建材事業部では諸経費・退職金の削減に努めましたが,当社は平成13年7月に東北営業所の閉鎖を決定しまた。東北営業所の業務は東京本社や栃木の関連会社に移管されることになり,同営業所に勤務するYを含む5名の仕事がなくなり、余剰人員となりました。当社は,整理解雇の対象となったYと,もう1人の女性従業員について,通勤可能範囲にある関連会社2社に受入れを打診しましたが,各社から労務費の高い従業員の受入れは困難との回答を受けました。さらに当社は,労働組合を通じて,Yらに地域職(勤務地は転居を伴わない範囲の事業所に限定される)から総合職への転換を提案しましたが,Yらはこれを拒否し,東北での継続勤務・職場確保を要求しました。その後も、当社は、Yらに対し、退職金の特別加算(10か月分)及び会社負担での再就職支援等を提案し、退職勧奨を行いましたが、Yらはこれを拒みました。そこで、当社はやむなくYらに対し翌月の10月31日付で解雇する旨の解雇予告通知書を交付しました。
このように不採算部門を閉鎖して,採算性を向上させるために整理解雇を行うことはできるのでしょうか?整理解雇は,会社の業績がどの程度になればできるのですか?
弁護士吉村雄二郎
人員削減の必要性については,当該人員削減の措置(整理解雇)をしなければ企業が倒産してしまうような状況であることを要するという裁判例もあります。しかし,裁判例の多くは,高度の経営上の必要性ないし企業の合理的な運営上の必要性があるという程度で足りるとしています。ご相談の件は,確かに企業全体としては黒字であったのですが,事業部門別に見ると不採算部門が生じていたため,その部門を閉鎖することは,企業の経営判断として不合理なものとは言えません。さらに,部門閉鎖によって余剰人員が生じた場合,人員削減の必要性は認められると言えます。
人員削減の必要性とは、整理解雇の有効性判断の一要素で各企業の規模や実状をもとにケースバイケースに判断される
整理解雇をしなければ企業が倒産してしまうような状況であることが必要とされる訳ではない。会社が黒字であっても経営合理化のために整理解雇の必要性を認めた判例もある。

1 人員削減の必要性

人員削減の必要性とは,企業が有効に整理解雇をなしうるためには,企業の経営状況がどの程度にあることを要するのかに関する判断要素の一つです。この判断は各企業の規模や実状をもとにケースバイケースに判断されますので,一般論として一義的にその程度を定立することは困難です。

この点,人員削減の必要性については,当該人員削減の措置(整理解雇)をしなければ企業が倒産してしまうような状況であることを要するという裁判例もあります。しかし,この様に厳格に必要性を求めていた裁判例の当時と現在とは,産業構造や金融政策の違いなどの相違があることを無視することは出来ません。

今日では,裁判例の多くは,債務超過や赤字累積に示される高度の経営上の困難があるという程度で足りるとしています。つまり,裁判所は,人員削減の必要性に関する経営専門化の判断を実際上は尊重しているとさえ言えるでしょう。

但し,素人目にも明らかに人員削減の必要性が無い場合は,整理解雇は認められません。例えば,整理解雇を決定した後間もなく,大幅な賃上げや,多数の新規採用や,高率の株式配当を行った場合などは,人員削減の必要性は否定されます。

2 企業全体として黒字でも人員削減の必要性が認められるか?

企業全体としてみれば収益があがっている場合に,経営合理化の観点から不採算部門を閉鎖して人員削減をすることは許されるかが問題となります。

この点,鐘淵化学工業(東北営業所A)事件(仙台地決平成14年8月26日 労判837号51頁)では,企業「企業全体として黒字であったとしても事業部門別に見ると不採算部門が生じている場合には,経営の合理化を進めるべく赤字部門について経費削減等の経営改善を図ること自体は」「経営判断として当然の行動というべきである。」「業績の落ち込みは一時的な景気後退による不況というよりも経済構造の変化に伴う不況によるものと考えられることに照らし,これまでの経営合理化をさらに進める必要があったというべきであって」「営業所の廃止を含む経営合理化を行ったことはやむをえないというほかない。そうすると,東北営業所の閉鎖によって剰員が生じる結果となるのは避けられないのであるから,」「人員削減の必要性が認められるといわなければならない。」と判断しました。また,東洋印刷事件(東京地判平成14.9.30 労経速1819.25)は,「印刷業は,受注量の減少とDTP化による受注単位の減少という二つの要因により,構造的に業績不振であった。・・・版下作成までの工程を担当していた電算室は,DTP化という印刷業界の大きな変化の影響を受けていたことは明らかであり・・・旧態依然たる被告の電算室部門が,不採算部門であって,対策を立てる必要があることは明らかである」と判示し,不採算部門を廃止することは経営判断として当然であるとしています。このように,収益が上がっている場合でも,不採算部門を閉鎖して人員削減をすることは許容されていると言えます。

さらに,採算性の向上や利益追求という目的による人員削減も必要性があると認められる傾向にあります。ナショナル・ウエストミンスター銀行(2次仮処分)事件(東京地決平成11.1.29 労判782.35)において,競争力強化のために,投資銀行関連業務に重点を置くとの方針のもとに伝統的なトレードファイナンス業務から撤退し,これに伴い撤退部門に所属したアシスタント・マネージャーを解雇した事案について,「更に将来においても経営危機に陥ることが予測されない企業が単に余剰人員を整理して採算性の向上を図るだけであっても,企業経営上の観点からそのことに合理性があると認められるのであれば,余剰人員の削減の経営上の必要性を肯定できる。」と判示した。同じく,ナショナル・ウエストミンスター銀行(3次仮処分)事件(東京地決平成12.1.21 労判782.23)においては,「リストラクチャリングは限られた人的・物的資源を戦略上重要な事業に集中させ,不採算事業を縮小,廃止し,もって,資本効率の向上,競争力の強化を図ることを目的とするものであり,・・・リストラクチャリングを実施する過程においては,・・・余剰人員の発生が避けられないものであり,この間の労働力の需給関係は必ずしも一致するとは限らないから,企業において余剰人員の削減が俎上に上がることは経営が現に危機的状況に陥っているかどうかにかかわらず,リストラクチャリングの目的からすれば必然ともいえる。」と判示し,採算性の向上を図るためのリストラクチャリングに伴う人員削減も肯定しうるとしています。

ただし,上記の様に人員削減の必要性が広く認められる傾向にあるとしても,直ちに整理解雇が有効になる訳ではありません。人員削減の必要性が相対的に低い場合,企業にはその分余力があると言えますので,使用者による解雇回避努力の水準はその分高くなると言えますし,解雇により労働者が被る不利益を軽減する金銭的補償の有無,再就職斡旋等の配慮の有無,労働者の納得を得るために十分な説明,説得をしたかなどを総合的に考慮して解雇権の濫用の成否が判断されます。

3 解雇前後にパート・アルバイト・派遣社員等を採用している場合

解雇の前後にパート・アルバイト・派遣社員等を採用している場合,人員削減の必要性があったと言えるのでしょうか?

余剰人員が存在するとして整理解雇しているにもかかわらず,その前後にアルバイト等の採用をしている場合,一般的には余剰人員が存在したと言えるのか疑問があり,人員削減の必要性が無いと言えます。

ただ,解雇の前後に非正規従業員の採用があったとしても,その採否が当該人員削減の目的との関係で合理性を有する場合は,人員削減の必要性が肯定されることもあります。

社会福祉法人大阪暁明館事件 大阪地決平成7.10.20 労判685-49
レブロン事件 静岡地裁浜松支部決定平成10年5月20日 労経速1687.3
ナカミチ事件 東京地裁八王子支決平成11.7.23 労判775.71
明治書院事件 東京地決平成12.1.12 労判779.27

参考裁判例

大村野上事件

長崎地方裁判所大村支部判決 昭和50年12月24日 労働判例242号14頁

下着縫製品の製造販売業を営む会社Yは、繊維不況を理由とし,労働者Xら29名を解雇した。Xらを解雇対象者として選んだ理由は①共稼ぎであり解雇により直ちに生活が不可能になるおそれがない②作業能力が著しく劣る③上司や同僚との協調性に欠ける,との理由によるものであった。Xらは,本件解雇の無効を主張し,地位の保全を求めて仮処分を申請した事案である。

本件解雇については、何名の人員整理が必要であったか不明瞭であり,本件解雇後に労働者の新規募集・採用を行っていることから、人員削減の必要性があったとは認められない。加えて,Yは配置転換や一時帰休、希望退職募集等,解雇回避の努力を全くしていない。また、Yは労働者や組合に対し人員整理の必要性等について十分な説明をすることなく、朝礼で人員整理についての簡単な説明をし,Xらにその場で解雇を通告している。以上のことから本件解雇は合理的理由がなく,また社会通念上相当性を欠くものであり,解雇権の濫用とし,解雇無効を認めた。

東洋酸素事件

東京高等裁判所判決 昭和54年10月29日 労働判例330号71頁

各種高圧ガスの製造販売を営むY社は、市況の悪化により4億円余の累積赤字を計上した。その原因は、業者間の競争激化、石油溶断ガスの登場による価格下落、生産性の低さ等の問題を抱えるアセチレンガス製造部門であった。このためY社は同社川崎工場アセチレン部門の閉鎖を決定し、Xら13名を含む同部門の従業員全員を就業規則(やむを得ない事業の都合によるとき)に基づき解雇する旨通告した。そこで、Xらは会社Yを相手に地位保全等の仮処分を申請した事案である。

本件解雇において,他部門への配転や希望退職募集措置などは採られず、また、就業規則や労働協約上にいわゆる人事同意約款は存在しなかった。

しかし,事業部門閉鎖の必要性,人員整理の必要性ないし合理性,被解雇者選定の合理性が認められ,解雇手続が合理的になされなかったことは,解雇権の発生障害事由にとどまるものとし,解雇有効とした。

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