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労働判例INDEX(2021年10月)

2021年10月に公刊された判例雑誌(労判、判タ、労経速、判時、労判ジャーナル)から労働裁判例の目次を整理しました。

労働判例 2021年10月1日号 No.1247

大阪府・府教委(府立岸和田支援学校)事件 大阪地裁(令和3年3月29日)判決

特別非常勤講師としての不再任用の適法性等(不再任用は適法)

堺市(懲戒免職)事件 大阪地裁(令和3年3月29日)判決

業務関連データの無断持ち帰り・流出を理由とした懲戒免職処分の有効性等(懲戒免職処分は有効)

製麺会社A事件 旭川地裁(令和2年8月31日)判決

製麺機での受傷と安全配慮義務違反の有無ならびに過失相殺等(安全配慮義務違反あり,労働者に3割の過失あり)

安全配慮義務
「本件製麺機は、常時刃が露出している危険性を有するものであり、また、A社においては、麺に縮れを付けるために、左手で製麺機から出てくる麺を押さえる作業が日常作業として予定されており、その作業は、露出して上下する刃の真下に手を伸ばすという、高い危険性を有する作業であったというほかなく、そうすると、A社は、労働者にそのような危険性を有する作業をさせるに当たって、刃に覆いを付けるなどの物的な対策や、それに代えて労働者を十分に教育するなどして、上記作業から生じる危険性を防止する義務を負っていたというべきであるが、A社は、本件製麺機の刃を常時露出させたまま、特段の物的対策を取ることなく従業員を作業に従事させたのであり、また、本件証拠上、本件製麺機の刃の部分が危険であることを注意喚起するような表示等をしていたとは認められないし、A社が労働者に対して、本件製麺機の危険性を十分に教育したと認めるに足りる証拠はないから、本件事故については、A社に安全配慮義務違反があると認められ、不法行為が成立する。」
過失相殺
「 従業員は、本件事故当時、麺に縮れをつける作業に当たり、視線を正面に向けたまま左手を本件製麺機の方に伸ばしたのであり、危険性を有する作業であるのに、自らの手元を注視しなかったのであるから、注意を欠いていたといわざるを得ないし、その不注意が本件事故に寄与していることは明らかといわざるを得ず、また、本件製麺機は刃が常時むき出しになっており、従業員としても、その危険性を容易に認識することができたといえるが、他方、特に、常時露出した刃の真下に手を伸ばすことが日常作業として予定されていたことからすれば、A社において、危険性を有する機械から労働者の安全を守るべき要請は高かったといえるし、その方策をとることが特段困難であったとはうかがわれず、また、刃の真下に手を伸ばすことが予定されていたことからすれば、従業員が左手を刃の近くに持って行ったこと自体は、格段に突飛なものとはいえないから、従業員の不注意を、過失相殺に当たって殊更に重視することは相当とはいえず、また、本件事故当日は、製麺作業を終えたら週1回程度行われる特別な清掃作業をすることが予定されていたこと等が認められ、従業員にとっては製麺作業を急かされる要因があったといえる状況が認められるから、本件事故に対する従業員の過失割合は、3割を相当と認める。」

東菱薬品工業事件 東京地裁(令和2年3月25日)判決

業務外の事由による長期欠勤を理由とした懲戒処分の適法性等(懲戒処分は無効)

労働判例 2021年10月15日号 No.1248

千鳥ほか事件〈付 原審〉 広島高裁(令和3年3月26日)判決,広島地裁(令和2年9月23日)判決

技能実習生らの資格外活動・逮捕による損害と会社・監理団体の責任原因等(会社・監理団体の責任を認め,請求一部認容)

三井住友トラスト・アセットマネジメント事件 東京地裁(令和3年2月17日)判決

スタッフ職の管理監督者該当性(管理監督者に該当せず,未払賃金請求一部認容)

結論勤務内容・責任・権限勤務態様賃金等の待遇
否定原告の担当する業務は,ファンドマネージャー等が示した見解を前提とした月次レポート等の内容に誤りがないかを確認したり,当該見解を踏まえてレポートを作成する業務であって,専門的かつ重要な業務ではあるものの,企画立案等の業務に当たるとはいえず,また,これらの業務が部長決裁で足りるとされていることからすれば,経営上の重要事項に関する業務であるともいえない。また,原告は,所属する部署の管理者ミーティング等に参加しておらず,月報関連業務以外に当該部署の業務を担当していたことは認められないほか,部下もおらず,人事労務管理業務に従事していたとは認められない。
業務のために時間的にも拘束されているものの,これらの業務の閑散期においては,比較的自由に時間を使うことが許容され,遅刻・早退があっても賃金から控除されることはなく,早朝及び深夜の業務についても,健康管理の観点から複数回の指摘はあったものの,自己の裁量で労働時間を決定できる環境にはあったといえることからすれば,労働時間について一定の裁量はあったといえる。原告の年俸は約1270万円(基本給部分が1140万円)であり,部長に次ぐ待遇であるといえ,被告の社員の上位約6%に入ることからすると,待遇面では,一応,管理監督者に相応しいものであったと認められる
弁護士のコメント
前提として、原告は有期雇用の専門職であり、部下を持たないスタッフ職でした。被告は行政解釈(旧労働省の昭和63年3月14日基発第150号)を根拠にスタッフ管理職はライン管理職とは別の要件によるべきとの主張をしましたが、裁判所はこれを退けて、通常の管理監督者性の要件で検討することを判示しました。事案を見る限り、管理監督者性の主張はかなり無理筋な主張であると思います。

旭川公証人合同役場事件 旭川地裁(令和3年3月30日)判決

セクハラ・退職勧奨の有無と地位確認請求等(セクハラを認定,退職勧奨は不存在,退職届は有効)

KAZ事件 大阪地裁(令和2年11月27日)判決

調整手当の時間外割増賃金該当性等(該当しない)

争点:調整手当及び休日手当は残業代としての支払か
①調整手当については、それが固定残業代である旨について、就業規則・賃金規程、雇用契約書の定めがなく、採用時においても説明して合意を得た証拠がないので、固定残業代とは認められない。
②休日手当は、「休日手当は,その名称自体から,これが休日労働に対する割増賃金の支払であると理解することが容易であり,1か月に6日の所定休日を前提に休日に就労した日数に応じて金額が増減されていることも給与明細(甲3)上明らかであって,原告からかかる費目や金額について異議が述べられることもなかったことを併せてみれば,休日手当は休日労働に対する対価としての支払とみるのが相当である。」

学校法人目白学園事件 東京地裁(令和2年7月16日)判決

メールでの上司批判の職務専念義務違反該当性等(懲戒処分1は有効,懲戒処分2は無効)

判例タイムズ 1488号 11月号 (2021年10月25日発売)

最高裁第一小法廷(令和3年3月25日)判決

民法上の配偶者が中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない場合

東京地裁(令和元年5月23日)判決

大学の学部廃止に伴う解雇の有効性につき,原告らの所属学部及び職種が廃止学部の大学教員に限定されていたか否かは解雇の効力を判断する際の一要素にすぎないとした上,人員削減の必要性,解雇回避努力,再就職の便宜を図るための措置,解雇手続の相当性等を総合考慮して,解雇を無効とした事例

労働経済判例速報(10/10)2457号

安藤運輸事件 名古屋高裁(令和3年1月20日)判決

職種限定合意の成立を否定しつつも,配転命令を権利濫用にあたり無効とした原審判断が維持された例

運行管理業務や配車業務に従事していた労働者が、控訴人から本社倉庫部門において倉庫業務に従事するよう配置転換命令(本件配転命令)を受けたことに関し、本件配転命令は職種限定の合意に反し又は権利の濫用に当たり無効であると主張して、使用者に対し、本社倉庫部門に勤務する雇用契約上の義務のないことの確認を求めた事案です。判決は1審・2審とも、職種限定合意の成立を否定しつつも,配転命令を権利濫用にあたり無効としました。
弁護士のコメント
この判決の特徴は「運行管理者の資格を活かし、運行管理業務や配車業務に当たっていくことができるとする期待」を法的保護に値するとしました。その上で、倉庫業務・運行管理業務に従事する必要性・適正をこと細かに事実認定し、当該労働者が倉庫業務に従事する必要性や適正はなく、運行管理業務から排除するまでの必要性はない(適正に欠ける事情はあるものの)と認定しました。なお、使用者の不当な動機・目的を否定し、配転による労働者の経済的・生活上の不利益を否定しました。その上で、本件配転命令が上記の労働者の期待に大きく反するなどとして、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるとして、配転命令を権利濫用により無効としました。つまり、特定の職種で勤務する期待利益を重視して、配転命令を権利濫用としたのです。我が国の労働法は、解雇に関して厳しい規制をしながら、配転命令権については使用者に広く裁量を認め、労働者には特定の職種での就労請求権は認められていません。このような我が国の労働法体系からすると、本判決は強い違和感を覚えます。原審の裁判官(佐藤久貴)は労働者寄りの判例を頻発している裁判官であり、控訴審左陪席裁判官(日置朋弘)も労働事件の経験が乏しいことなどにも鑑みますと、この件限りの事例判決に過ぎず先例としての価値は乏しいと考えるべきでしょう。

JTB事件 東京地裁(令和3年4月13日)判決

諭旨解雇(懲戒解雇)を有効としつつ,解雇前の出勤停止期間につき賃金支払義務が認められた例

私的なゴルフや家族旅行に関する費用、私的な飲食代を経費と偽って不正受給したことを理由とした諭旨解雇事案です。
不正受給の期間は6年以上と長期にわたり、その回数は合計34回、受給額は合計46万2456円となり、常習的かつ悪質で、部長職にあったことも加味されて、諭旨退職処分としたが、本人が退職届を提出しなかったので最終的に懲戒解雇とされました。
解雇前の出勤停止期間については、就業規則で賃金の6割を支給する旨の定めがありましたが、本判決は民法536条2項により100%の賃金支払を命じました。
弁護士のコメント
解雇前の出勤停止期間について、就業規則において民法536条2項の適用を明確に排除する定めを置いていなかったものと思われます。

学校法人中央学院事件 最高裁第二小法廷(令和3年1月22日)決定

本俸,賞与,住宅手当,家族手当等に係る労働条件の相違を不合理ではないとした原審判断が維持された例

労働経済判例速報(10/20)2458号

国・和歌山労働基準監督署長事件 和歌山地裁(令和3年4月23日)判決

単独では心理的負荷「強」の出来事は認められないが,総合的には「強」として業務起因性が肯定された例

弁護士のコメント
幼稚園教諭の事案。上司や年配の部下との幼稚園内の軋轢が現院で精神障害発症したケース。個々の事案は心理的負荷が高いとまでは評価できないが、個々のエピソードを連続した流れの中で評価し、合わせ一本的に「強」と評価した事案。裁判官ガチャのきらいがあるので、上訴した場合は逆転も大いにありえると思われます。もっとも、大きな事案ではなくとも、合わせ一本で精神的負荷「強」と判断されるリスクがあることを経営者は念頭に置く必要があるでしょう。

地方公務員災害補償基金愛知県支部長事件 名古屋地裁(令和3年4月19日)判決

長時間労働に加え時間外勤務を月80時間以内に修正する業務が大きな心理的負荷を与えたとして公務起因性が肯定された例

労働経済判例速報(10/30)2459号

学校法人Y事件 東京地裁(令和3年5月17日)判決

ハラスメント行為を理由とした大学構内への立入禁止命令等の違法性が否定された例

社会福祉法人ファミーユ高知事件 高知地裁(令和3年5月21日)判決

第三者委員会が認定したパワーハラスメントを理由とする懲戒解雇が無効とされた例

判例時報 No.2490 2021年10月1日号

メトロコマース事件 最高裁第三小法廷(令和2年10月13日)判決

無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例

大阪医科薬科大学事件 最高裁第三小法廷(令和2年10月13日)判決

無期契約労働者に対して賞与を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例

宇都宮地裁(令和2年10月21日)判決

退職願を書け,他の会社に行け等の言辞を含む長時間繰り返しの退職勧奨が不法行為に当たるとされた事例

判例時報 No.2491 2021年10月11日号

横浜地裁(令和2年6月25日)判決

1 制服の着用が義務付けられていた引越作業員について,その着替えの時間及び朝礼の時間以降は,被告会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができるとされた事例

2 被告会社における正社員とアルバイトの間における通勤手当に係る労働条件の相違は,労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たると判断された事例

3 原告らには被告組合に加入する黙示の意思表示があったものと認められた事例

4 被告会社の採用するいわゆるチェック・オフ制度が有効であると判断された事例

労働判例ジャーナル 115号(2021年・10月)

ドコモ・サポート事件 東京地裁(令和3年6月16日)判決

有期労働契約と更新の合理的期待の存否の有効性(雇止めは有効)

せとうち周桑バス事件 松山地裁(令和3年7月15日)判決

労基法19条に反する解雇無効地位確認等請求(解雇は無効)

国・法務大臣事件 那覇地裁(令和3年7月7日)判決

国の法制裁措置無効確認等請求(制裁措置は無効)

宮城県・宮城県教委事件 仙台地裁(令和3年7月5日)判決

飲酒運転を理由とする懲戒免職処分等取消請求(懲戒免職処分は適法)

大阪府・府教委事件 大阪地裁(令和3年6月30日)判決

元教諭の窃盗行為に基づく懲戒免職処分等取消請求(懲戒免職処分は適法)

ジグス事件 大阪地裁(令和3年6月28日)判決

労働条件変更と未払割増賃金等支払請求(不利益変更は無効,請求一部認容)

善光寺大勧進事件 東京高裁(令和3年6月24日)判決

住職の辞任願の有効性と地位確認等請求(辞任願は有効,請求棄却)

大和自動車王子労働組合事件 東京地裁(令和3年5月31日)判決

除名及び文書掲示等に基づく組合に対する慰謝料等請求(組合の不法行為を認定,請求一部認容)

ウィンアイコ・ジャパン事件 東京地裁(令和3年5月28日)判決

休職中の不就労等についての未払賃金等支払請求(休職中については請求棄却,休職前の日割賃金請求は認容)

FIME JAPAN事件 東京地裁(令和3年5月27日)判決

適応障害発症の業務起因性(業務起因性なし)

ティアラクリエイト事件 東京地裁(令和3年5月27日)判決

未払賃金等支払請求と慰謝料等請求(請求一部認容)

社会福祉法人佐賀春光園事件 福岡高裁(令和3年5月27日)判決

組合員に対する雇止めの有効性(雇止めは無効)

社会福祉事業団事件 東京地裁(令和3年5月26日)判決

違法雇止めに基づく慰謝料等請求(請求一部認容)

学校法人中央学院事件 東京地裁(令和3年5月17日)判決

ハラスメントを理由とする業務命令に対する慰謝料等請求(請求棄却)

青山リアルホーム事件 東京地裁(令和3年5月14日)判決

小規模事業体の管理監督者該当性(管理監督者に該当せず,未払賃金請求一部認容)

海外需要開拓支援機構ほか1社事件 東京高裁(令和3年5月13日)判決

身体的接触及びくじ引き行為に基づく慰謝料等請求(身体的接触は不認定,くじ引き行為に基づく慰謝料請求一部認容)

巴機械サービス事件 横浜地裁(令和3年3月23日)判決

一般職の女性従業員らの総合職の地位確認等請求(総合職の地位確認請求は棄却,慰謝料等請求認容)

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