労働審判残業代

10分で分かる! 残業代請求労働審判事件で会社が行うべき主張5選

社長
先月退職した社員より残業代請求労働審判事件を起こされました。裁判所(労働審判委員会)からは答弁書で会社の言い分を出すように指示されているが,一体何を主張したらよいのか分かりません。会社は残業代を払う必要はないと考えています。残業代請求の労働審判事件で行うべき主張のポイントを教えてください。
こんなことでお悩みの会社・社長もいらっしゃるでしょう。
そこで,今回は,残業代請求労働審判事件で会社が行うべき主張について分かりやすく説明したいと思います。

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1 固定残業代・定額残業代により残業代は支払済みとの主張

時間外・休日・深夜労働の割増貸金については,①割増賃金を基本給の中に含めて支払う方法,②割増貸金の支払いとして定額の手当を支払う方法をとることが可能です。
このような場合,会社・社長側(相手方)は,残業代は支払済みの給与に含まれている(固定残業代・定額残業代)との主張が可能です。
具体的には,以下のような事項について証拠を提出しながら具体的に主張をします。
主張例
● 採用当初に残業代が基本給や手当(固定残業手当)に含まれていることを説明していたこと

● 雇用契約書や就業規則に基本給とは明確に分けて固定残業代・定額残業代についての記載があること
● 給与明細書に固定残業代・定額残業代についての記載があること
● 固定残業代・定額残業代は残業代の趣旨であることが明示されていたこと
● 固定残業代・定額残業代を超過した分については,別途残業代を支払ったこと
ただし,固定残業代・定額残業代は,就業規則や雇用契約書で明示されていない場合や,基本給とは明確に分けて定められていない場合は無効となるので,注意が必要です。

2 そもそも残業をしていないとの反論との主張

社員(労働者・申立人)は,日ごとに始業時間や終業時間を特定した上で残業時間を主張・立証する必要があります。
しかし,労働者による労働時間の主張が事実に反する場合は,その分残業代も発生しません。
このような場合,会社・社長側(相手方)は,残業代をしていないとの主張が可能です。
具体的には,以下のような事項について証拠を提出しながら具体的に主張をします。
主張例
● 社員(労働者・申立人)が主張する労働時間は,他の客観的証拠(警備記録,メールの送受信時間,ETC記録等)と矛盾する
● 社員(労働者・申立人)が提出する証拠(手書の労働時間メモ等)は信用出来ない
● 社員(労働者・申立人)が担当していた業務は残業する程の量は無かった
ただし,社員(労働者・申立人)がタイムカード等の客観的証拠に基づいて労働時間を主張している場合,残業をしていないことについて会社側が客観的証拠に基づいて反証する必要があるので注意が必要です。

3 残業を命じていないとの主張

会社・社長が残業を命じていない場合には,社員は会社の指揮命令下で労働をした訳では無いので,労働時間に該当しません。
このような場合,会社・社長側(相手方)は,残業を命じていないとの主張が可能です。
具体的には,以下のような事項について証拠を提出しながら具体的に主張をします。
主張例
● 残業をしないように残業禁止を命じていたこと
● 残業は上長の許可が必要であったにもかかわらず,無許可で残業をしたこと
ただし,残業を禁止していた場合や残業が許可制であった場合であっても,実際に労働者に与えられた業務量から残業をしなければ処理できない状況にあった場合は,実質的には残業を命じている(指揮監督下にある)として労働時間となると判断されることがあるので注意が必要です。

4 管理監督者であるとの主張

社員(労働者・申立人)が管理監督者(労基法41条2号)に該当する場合は,労働時間,休憩及び休日に関する労基法の規定の適用はなく,残業代は発生しません。
このような場合,会社・社長側(相手方)は,管理監督者であったとの主張が可能です。
具体的には,以下のような事項について証拠を提出しながら具体的に主張をします。
主張例
● 経営者と一体と評価できる重要な業務を行っていたこと
● 出退勤の時間について裁量を有していたこと
● 一般の従業員と比較して,厚遇であったこと
ただし,「部長」などの肩書きが与えられていたとしても,実際の勤務状況が,権限が限定的であり,出退勤に関する裁量もなく,実際の労働時間を時給で換算すると他の平社員の時給を下回っている場合は,管理監督者とは認められないので注意が必要です。

5 消滅時効により残業代請求権が消滅したとの主張

残業代請求権は,権利を行使することができる時から2年間を経過すると,消滅時効が完成するため(民法166条1項,労働基準法115条),このような要件を満たす場合には,消滅時効の援用によって残業代請求権は消滅します。
このような場合,会社・社長側(相手方)は,消滅時効により残業代請求権は消滅したとの主張が可能です。
具体的には,以下のような事項について証拠を提出しながら具体的に主張をします。
主張例
● 賃金の支払い期日から2年が経過したこと(2020年4月1日以降に発生したものは3年)
● 消滅時効を援用する意思表示を行ったこと
ただし,社員(労働者・申立人)から残業代の請求を受けて,残業代請求権の存在を認めたり,支払猶予の申し出を行った場合は,消滅時効の中断等により消滅時効の援用ができなくなりますので注意が必要です。

6 まとめ

いかがでしょうか?
今回は,残業代請求労働審判事件で会社が行うべき主張について説明をしました。
上記は残業代請求事件において会社側がよく行う主張となりますので,少しでも会社に有利な主張を行う場合のヒントになれば幸いです。

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