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中途採用者の経歴詐称

ご質問

当社は,小規模ながら大手家電メーカーの下請けとして,液晶パネルの部品を製作販売しております。この度,工場長候補として即戦力となることを期待して,大手コンピューター会社の製造部門で工場長経験のある者を中途採用しました。しかし,採用後,同社員は,工場長としてのマネジメントスキルが全くないばかりか,勤務態度にも問題がありました。調査したところ,前職での工場長の経歴は嘘であり,しかも,前会社で勤務態度不良を理由に解雇されていたことが判明しました。そこで,当社としては,当該従業員を懲戒解雇したいと考えておりますが,可能でしょうか?

回答

 労働者は,雇用契約締結に際し,企業秩序維持に関する事項(当該企業への適応性,貢献意欲,企業の信用保持などの観点から,その者の採否を決定するための資料)についても真実を告知すべき信義則上の義務を負っていると解されています。経歴詐称は,そのような信義則上の義務に反し,企業秩序を侵害するものとして懲戒解雇事由となり得ます。
もっとも,経歴詐称があれば,直ちに懲戒解雇できるわけではありません。経歴詐称を理由とする懲戒解雇が有効とされるのは「重要な経歴」を詐称した場合であることが必要です。
貴社が,当該従業員の採用にあたり,工場長として経験を有する事を最重要視し,その旨採用の際にも確認したことと思われます。「重要な経歴」を詐称したとして,懲戒解雇することも可能であると思われます。

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  • 経歴詐称は,そのような信義則上の義務に反し,企業秩序を侵害するものとして懲戒解雇事由となり得る。
  • 経歴詐称があれば,直ちに懲戒解雇できるわけではない。懲戒解雇が有効とされるのは「重要な経歴」を詐称した場合。

解説

1 経歴詐称が懲戒解雇事由となるか?

経歴詐称とは,労働者が企業に採用される際に提出する履歴書や面接等において,学歴・職歴・犯罪歴・病歴などを詐称し,もしくは真実を秘匿することをいいます。信頼関係を基礎とする雇用契約関係においては,労働者は,雇用契約締結に際し,使用者に対し採否 や採用後の労働条件の決定に必要な事項だけでなく,企業秩序維持に関する事項(当該企業への適応性,貢献意欲,企業の信用保持などの観点から,その者の採否を決定するための資料)についても真実を告知すべき信義則上の義務を負っていると解されています。従って,経歴詐称は,そのような信義則上の義務に反し,企業秩序を侵害するものとして懲戒解雇事由となり得ます。 もっとも,経歴詐称があれば,直ちに懲戒解雇できるわけではありません。経歴詐称を理由とする懲戒解雇が有効とされるのは「重要な経歴」を詐称した場合であることが必要です。なぜなら,些細な経歴の齟齬があったのみでは企業秩序に与える影響も僅かで,懲戒解雇という処分は重過ぎるからです。「重要な経歴」とは,敢えて言えば,その偽られた経歴について,使用者が正しいに認識を有していたならば雇用契約を締結しなかったであろう経歴を意味します。通常は,?学歴,?職歴,?犯罪歴,?病歴などが「重要な経歴」に当たります。

2 懲戒解雇事由となる経歴詐称とは?

? 学歴詐称

最終学歴を高く詐称する場合のほか、低く詐称する場合も含まれます。ただし、採用にあたり学歴不問とされている場合は、学歴について真実を告知する義務はないので、学歴詐称があったとしても、懲戒解雇事由には該当しません。

? 職歴詐称

大学入学の事実がないのを「大学中退」と、警察官の経歴が1年5か月しかないのを「9年勤務」と詐称した場合は、重要な経歴の詐称にあたります。また、タクシー乗務員の経験があるのに未経験者として申告し、従前の勤務先への問合わせを免れることも懲戒解雇事由に該当します。

? 犯罪歴

申告が必要なのは、確定した有罪判決であり、刑の消滅した前科については、原則として告知義務はないとされています。

? 病歴

労働能力に影響するような持病を申告しなかった場合は、懲戒解雇事由には該当します。重機運転手の業務に就くにあたり、視力障害があることを告げないことは、懲戒解雇事由には該当しないとされています。

? 年齢

定年まで2年9か月しかないのを、14年9か月もあると年齢を低く詐称してマッサージ師に採用された場合は、懲戒解雇事由には該当するとされています。

対応方法

1 まずは弁護士に相談!

採用を行うために貴社が採れる手段は,ケースバイケースに存在します。もっとも,従業員にとっても生活の糧となる収入が途絶えることになりますので,安易な措置はトラブルを生み,かえって貴社に混乱とコストの負担をかけることにもなりかねません。
まずは,なるべく早くご相談下さい。相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いものです。
弁護士は,あなたのご事情を伺い,具体的対応策をあなたと一緒に検討し,最善の解決策をアドバイスします。
貴社のケースでは解雇は有効になるのか否か,具体的な対策として打つべき手は何か,証拠として押さえておくべきものは何か等をアドバイスします。

2 証拠の収集

法的措置に対応する場合はもちろん,交渉による解決を目指す場合も,証拠の確保が極めて重要になります。貴社にとって有利な証拠を出来るだけ確保して下さい。

3 労働者との交渉

まずは,法的措置に進む前に,労働者と交渉して,貴社の望む結果(問題社員の退職,解雇,低額の解決金の支払い等より有利な条件での退職等)が得られるようにします。
裁判に訴えられる前の交渉の時点で解決できれば,貴社にとっても次のようなメリットがあります。

①早期に解決できることにより,人的負担が回避できる。

法的手続に進んだ場合,労働者に関係する従業員(同僚・上司)はもちろん,経営者にも時間・労力・精神的負担を割くことを要求されます。この負担が日常業務に加わることで,かなりの負担感となります。交渉で解決することによりかかる人的負担が早期に回避できます。

②労働審判・訴訟等の法的手続に進んだ場合より解決金の水準が低い

一般に法的手続に進む場合に比べ,企業が支払う解決金の金額は低いものとなります。

4 裁判対応

労働者との間で交渉による解決が図れない場合は,労働者は自己の権利の実現を求めて裁判を起こす可能性が高いと言えます。具体的には,賃金仮払い仮処分手続,労働審判手続,訴訟手続などがありますが,労働者が事案に応じて手続を選択して,自己の請求の実現を目指すことになります。貴社としては,かかる労働者の法的請求に適切に対応する必要があります。

労働問題.comの対応

1 経験豊富な弁護士に相談

労働問題は適用される法律が難解で事実関係が極めて複雑であり,また,貴社が採るべき対応策はケースバイケースで決めざるを得ません。貴社独自で調査の上でのご対応が,時に誤った方法であることも多分にございます。
そこで,まず,労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士にご相談下さい。ご相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いのが実際ですので,トラブルが少しでも生じましたら出来るだけ早期にご相談されることをお勧めいたします。
労働問題.COMでは,常に労働問題を専門的に取り扱う経験豊富な弁護士が直接対応させていただいております(原則的に代表弁護士である吉村が対応させて頂きます。)。裁判のリスクを踏まえながら,法律上の問題点を指摘しつつも,抽象的な法律論に終始することなく,貴社が採るべき具体的な対応策を助言いたします。早期のご相談により紛争を未然に防止することが出来た事例が多数ございます。また、その後の交渉・裁判対応においても有利な対応を取ることが出来ます。

2 継続的なご相談・コンサルティング

労使間のトラブルは一時的なものではなく,長期化することがしばしばあります。ケースバイケースに採るべき対応策や確保すべき証拠も異なりますし,時々刻々と状況が変わっていき,その都度適切な対応をとることが必要です。この対応が間違っていた為に,その後の交渉や法的措置の段階で不利な状況に立たされることもままあります。
労働問題.COMでは,経験豊富な弁護士が,継続的なご相談を受けコンサルティングを行います。初期の段階より貴社にとって有利な対応をアドバイスしていきます。それにより,その後の交渉・法的措置にとって有利な証拠を確保でき,適切な対応をとることで,万全の準備が出来ます。また,継続的に相談が出来ることにより安心して他の日常業務に専念していただくことができます。

3 貴社を代理して労働者(弁護士,労働組合)と交渉いたします。

労働者の対応は様々ですが,貴社へ要求を認めさせるために,様々な働きかけをする事が多いのが実情です。労働者が弁護士や労働組合を介して,会社に対し各種の請求を行い,交渉を求めることはよくあることです。弁護士や労働組合はこの種事案の交渉のプロですので,貴社独自で臨むことで,あらぬ言質や証拠をとられ,本来了承する必要のない要求まで認めさせられることもしばしばです。貴社独自でのご対応は,一般的には困難であることが多いといえます。
そこで,労働問題.COMでは,労使間の交渉対応に精通した弁護士が,貴社に代わって交渉の対応を致します。具体的には,貴社担当者から詳細なヒアリングを実施し,証拠の収集等の準備を行った上で,弁護士が法的根拠に基づいた通知書を出し,適切に交渉することで,貴社にとって有利な結論を,裁判を経ずに勝ち取ることも可能となります。

4 裁判対応

労働者が労働審判,仮処分,訴訟などの裁判を起こしてくる場合が近時急増しています。かかる裁判への対応は法律で訴訟代理権を独占する弁護士のみが対応することができます。
但し,労働問題を適切に対応することができるのは労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士に他なりませんが,労働問題は極めて特殊専門領域であるため,経験実績がない又は乏しい弁護士が殆どである実情があります。
労働問題.COMでは,労働事件を専門分野とし,裁判対応の豊富な経験実績を有する弁護士が常時対応させていただいております。貴社に対し,最善の弁護活動をお約束いたします。

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参考裁判例

経歴詐称を理由とする懲戒解雇が無効と判断された事例

サン石油(視力障害者解雇)事件

札幌高判平成18.5.11労働判例938-68

(事案の概要)

Yは,ガソリンスタンドの経営,土砂・火山灰・火山礫の採取及び販売等を目的とする株式会社であるところ,Xは,大型特殊免許を有しており,平成8年6月1日,Yに雇用され,車両系建設機械等(いわゆる重機)を運転して,土砂,火山灰等の採取,運搬の業務に従事していた。
しかし,Yは,平成16年2月21日,Xに対し,同年3月31日をもって解雇するとの解雇通知書を交付して,Xを普通解雇する旨意思表示した。解雇通知書には,解雇理由として,「近年視力の減退等に伴い車両の運転に支障が有り,当社業務に不適格でありますので(以下略)」と記載されていた。

(裁判所の判断)

裁判所は,「被控訴人(筆者注:X)は,控訴人(筆者注:Y)の採用面接を受けた際,健康状態の欄に「良好」と記載された履歴書を提出し,採用面接を担当したYの専務に対して視力障害があることを積極的には告げなかったものと認められるものの,履歴書の健康状態の欄には,総合的な健康状態の善し悪しや労働能力に影響し得る持病がある場合にはこれを記載するのが通常というべきところ,被控訴人の視力障害は,総合的な健康状態の善し悪しには直接には関係せず,また持病とも直ちにはいい難いものである上,後記のとおり,被控訴人の視力障害が具体的に重機運転手としての不適格性をもたらすとは認められないことにも照らすと,被控訴人が視力障害のあることを告げずに控訴人に雇用されたことが就業規則61条(重要な経歴をいつわり,その他不正な方法を用いて任用されたことが判明したとき)の懲戒解雇事由及び同54条4号の普通解雇事由に該当するということまではできない。」と判示して,解雇を無効と判断した。

(コメント)

同事件の一審判決では,本件解雇に至る経緯について,採用面接の際にXが提出した履歴書には,Xの視力について触れられた記載はなく,健康状態の欄には「良好」と記載されていることに関して,重機の運転業務員として採用されることを希望するXが,自身にとって不利益な事情である視力障害につき,自ら進んで開示するまでもないと判断したものと考えるのが自然であるとし,労働者として雇用契約の申込みをするに際しての不誠実な行為であるというべきであり,就業規則の懲戒解雇事由および普通解雇事由に該当するといえなくはないとしました。しかし,Xが実技試験として,Yの作業現場の責任者の面前で重機を運転し,その技能に問題がないと判断されて雇用されたこと,Xの保有する大型特殊免許は,平成16年2月16日に更新されていることが認められるとし,Xに視力障害があることをもって,直ちに,Xが重機の運転業務に不適格であるとまでは認められないとしています。
本判決(控訴審判決)は,一審判決を付加訂正のうえ引用し,その判断を相当としています。

中央タクシー事件

長崎地判平成12.9.20労働判例798-34

(事案の概要)

Yは,一般乗用旅客自動車運送事業等を営むことを目的として設立され,営業車を保有してタクシー営業を行っているが,Xら4名は,いずれも,Yに雇用されて夕クシー乗務員として勤務していた。
しかし,Yは,平成10年2月14日,X1が,入社(昭和58年)前に麻薬取締法違反により3年の禁錮刑を受けていたが,入社の際,この前科の存在を秘匿していたこと(以下,「A事実」という。)等を理由に,諭旨解雇処分とした。

(裁判所の判断)

裁判所は,「A事実があったことは当事者間に争いがない。本件就業規則100条5号は,「雇入れ(の)際,採用条件の要素となるような経歴を偽ったとき」と規定するが,その文言からすると,右規定は,労働者が面接担当者の質問に対して虚偽の事実を応答したことを懲戒事由としたものであって,質問がないのに自発的に申告をしなかったことは含まれないと解する。X1が採用面接にあたって犯罪歴について質問を受けたか否かについては,面接担当者であったYのB課長が作成したとされるメモに,「賞罰なし」との記載があるものの,右メモの作成経緯は不明であって(Y代表者は,右Bだけではなく,複数の者が記載したと供述する。),その趣旨及び記載時期とも確定できず,これだけから,X1が犯罪歴につき質問を受けたものと認定することはできない。そして,他に,これを認めるに足りる証拠はないから,A事実があるからといって,本件就業規則100条5号の懲戒事由に該当するとはいえない。」と判示して,諭旨解雇を無効と判断した。

経歴詐称を理由とする懲戒解雇が有効と判断された事例

日本鋼管事件

横浜地判昭和昭和52.6.14 労働判例283-51

(事案の概要)

Xは,昭和45年4月13日,Yに期間の定めなく雇用され,以来,Yの鶴見造船所艤装工作部機装係において勤務してきた。
しかし,Yは,Xに対し,昭和47年4月14日,Xに就業規則上の懲戒解雇事由たる「重要な経歴をいつわり,その他詐術を用いて雇入れられたとき。」に該当する行為があったとして,諭旨解雇する旨の意思表示をした。

(裁判所の判断)

裁判所は,「・・「重要な経歴をいつわり」とは如何なる場合をいうかを考えるに,それは,経歴のうち,使用者の認識の有無が当該労働者の採否に関して決定的な影響を与えるものについての秘匿又は詐称,提言すれば,労働者が真実の経歴を申告ないし回答したならば社会通念上,使用者において雇用契約を締結しなかつたであろうという因果関係の存在が認められる場合をいうものと解するのが相当である。原告(筆者注:X)は,重要な経歴詐称とは,単に経歴を詐徐したのみでは足りず,経営秩序ひん乱の「具体的結果の発生」が要件とされるべきである旨主張する。しかし,経歴を詐称して雇用された場合には,既にその時点において経営秩序を侵害しているものとみられることは上述のとおりであり,加えて,詐称の内容が重要であれば,それは労働者の不信義的性格の極めて大きな徴憑というべく,懲戒解雇事由としての客観的合理性は有に具備されていると解されるから,原告の右主張もまた採るをえないものというほかはない。進んで,原告の経歴等詐称行為が前記条項に該当するか否かについて検討する。証拠に徴すれば,被告(筆者注:Y)における現場作業員の募集は,職種及び同僚,上司との協調,和合などを配慮して,その学歴を前記のとおり「中卒又は高卒」に限定したものであり,したがつて,原告についてその申告のとおり中学卒と信じたからこそ採用したものであり,もし真実の学歴を知らされ,東京大学にまで入学している者であることを知っていたならば,上記観点から原告を採用しなかつたであろうことが認められる。しかして,かような被告の採用方針は,その職種の内容や職場における同僚,上司との人間関係に重点を置いて定立されたもので,それなりの理由と必要性があるものと解せられるから,その帰結としての叙上のような因果関係は,社会通念に照らして首肯することができる,といわねばならない。してみれば,右学歴秘匿のほかに職歴,家族状況の不実記載等その内容,態様のすべてを考え合わせると,原告の入社志断書の虚,記載は前記条項にいう「重要な経歴をいつわり」に該当するものというべきである。」と判示して,諭旨解雇を有効と判断した。

(コメント)

同事件の控訴審判決(東京高判昭和56.11.25 労働判例377-30)も,本判決と同様に,学歴,職歴,家族状況の詐称を理由とする諭旨解雇の効力を有効と認めて,控訴を棄却しました。

炭研精工事件

東京最判平成3.9.19労働判例615-16

(事案の概要)

Xは,採用にあたり,大学中退であること,成田闘争において2度逮捕,勾留,起訴され,いずれも公判係属中であることをそれぞれ秘匿していたことが,「経歴をいつわり・・雇い入れられたとき」との懲戒解雇事由に該当することを理由に,Y会社より懲戒解雇された。

(裁判所の判断)

裁判所は,旋盤工やプレス工については,職務内容及び他の従業員との学歴の均衡から高校卒業以下に限定して採用している場合,大学中退を秘匿して高卒と申告して採用された行為について,「最終学歴は,・・(本件の)事情の下では,単に労働者の労働力評価に関わるだけではなく,会社の企業秩序維持にも関係する事項であることは明らかであ」るとして,懲戒解雇を有効と判断した。また,(重大な経歴の詐称として懲戒解雇事由に該当する)犯罪歴の詐称について,「罰」とは,確定した有罪判決を指し,公判が係属中の事件は含まれないとしており,さらに,採用後5年4か月経過後の経歴詐称を理由とする懲戒解雇であっても有効としている。

(コメント)

同事件の一審は,これについて懲戒解雇事由該当性を肯定し,右のみによっても本件懲戒解雇は有効となるとしました。本判決(二審)は,右のうち,2件の刑事事件について公判中であることを申告しなかったことも懲戒解雇事由には該当しないとしましたが,他の点については一審判決の判断を維持し,最高裁(最判平成3.9.19労働判例615-16)も,右判断を維持しています。

グラバス事件

東京地判平成16.12.17労働判例889-52

(事案の概要)

Yは,コンピュータソフトウェアの研究開発,制作,販売,輸出入及び保守サービス等を目的とする株式会社である。Yが,平成14年7月ころ,契約社員の募集を行ったところ,Xは,履歴書に技術経歴書(以下「本件経歴書」という。)を添付して,応募した。XとYは,同月30日,次の内容の雇用契約を締結した(以下「本件雇用契約」という)。
ア 職 務 「Mチケットサービス」のシステム開発(以下「本件開発」という)
イ 契約期間 同年8日1日からプロジェクト完成予定日(同年10月31日)まで
ウ 給 与 月額41万円
エ 交通費 実費支給
オ 就業場所 N社(N電気株式会社)Iビル(以下「就業場所」という)
カ 就業時間 午前10時から午後7時30分まで
キ 休憩時間 午後零時から午後1時まで及び午後6時30分から午後7時まで
ク 休 日 土・日・祝
ケ 給与支払 月末締め翌月15日払い
コ その他 毎週水曜日の進捗会議に参加
しかし,Yは,Xに対して,XがJAVA言語のプログラミング能力がないにもかかわらず,それがあるかのような記載をした経歴書を提出して採用されたと判断し,同年8日23日,解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。

(裁判所の判断)

裁判所は,「原告(筆者注:X)は,JAVA言語のプログラミング能力がほとんどなかったにもかかわらず,本件経歴書にはJAVA言語のプログラミング能力があるかのような記載をし,また,採用時の面接においても,同趣旨の説明をしたものであるところ,原告は,本件開発に必要なJAVA言語のプログラマーとして,採用されたのであるから,原告は,「重要な経歴を偽り採用された」というべきであり,就業規則86条3号(懲戒解雇事由)に該当するというべきである。そして,認定事実によれば,被告(筆者注:Y)は,原告がJAVA言語プログラマーとしての能力を偽って被告に採用されたとして,原告を即日解雇したもので,平成14年9日30日に原告に宛てた書面においても,本件解雇は懲戒解雇であるとしているのであるから,本件解雇は,懲戒権の行使としてされたものであるとするのが相当であり,このことは,本件解雇当時「懲戒解雇」という言葉が用いられていないことによって左右されるものではない(懲戒権の行使か否かは,表意者である使用者の当時の意思を合理的に解釈することによって決される問題である)。」と判示して,懲戒解雇を有効と判断した。

(コメント)

Xは,主位的に,契約期間の途中になされた懲戒解雇が無効であるとして,残期間分の賃金の支払いを求め,予備的に,Xに対する解雇は普通解雇の限度でしか効力がないとして,解雇予告手当の支払いを求めました。
本判決は,主位的請求については,Xは,JAVA言語のプログラミング能力がほとんどなかったにもかかわらず,経歴書にJAVA言語のプログラミング能力があるかのような記載をし,また,採用時の面接においても,同趣旨の説明をし,本件開発に必要なJAVA言語のプログラマーとして,採用されたのであるから,就業規則所定の懲戒解雇事由である「重要な経歴を偽り採用されたとき」に該当すると判断し,懲戒権の行使としてなされた本件解雇により,雇用契約は終了し,平成14年8月24日以降の賃金は生じないとしました。また,Yは本件解雇後に経歴書記載の経歴の真偽について調査したものであって,本件解雇時には経歴詐称を認識しておらず,懲戒権行使としての解雇は存立し得ないとするXの主張に対しては,本判決は,使用者は,懲戒権行使に際して,懲戒事由に該当する事実の存在自体を認識していなければならないものの,その裏づけとなる証拠まで収集していなければならない理由はないとし,Xについては,本件解雇前の時点でJAVA言語のプログラミング能力がないことが明らかとなっており,Yはその文脈において経歴書の記載が虚偽であると判断していたものと解され,懲戒権行使の要件に欠けることはないと判断しています。 そして,予備的請求については,本判決は,Xは経歴詐称を理由に解雇されたものであるから,本件解雇は,労働基準法20条1項但書の「労働者の責めに帰すベき事由」に基づく解雇に該当し,解雇予告の除外事由があり,請求は認められないとしました。Xは,Yの就業規則には,労基署長による解雇予告の除外認定を受けたときには,解雇予告手当を支給しない旨定められているとして,Yが本件解雇について解雇予告の除外認定を受けた事実はないことを問題にしましたが,これについて本判決は,労基署長による解雇予告の除外認定は,行政官庁による事実の確認手続にすぎず,解雇予告手当支給の要否は,客観的な解雇予告除外事由の存否によって決せられるから,就業規則の定めを,労基署長の除外認定を受けていないものの客観的に解雇予告の除外事由があると判断された場合においても,被告が解雇予告手当を支払うことを定めたと解するのは不合理であり,就業規則を定めたYの合理的意思に反するというべきであるから,客観的に解雇予告の除外事由がある本件においては,就業規則の定めにかかわらず,被告が原告に対して解雇予告手当を支払う義務はないと判断しています。

都島自動車商会事件

大阪地決昭和62.2.13労働判例497-133

(事案の概要)

Yは,タクシー業を営む者であるが,Xは,昭和59年1月,Yに入社し,以来タクシー乗務員として勤務してきた。
しかし,Xは,重大な経歴を詐称したことを理由に,昭和61年6月18日,Yより懲戒解雇された。

(裁判所の判断)

裁判所は,「タクシー業を経営する被申請人(筆者注:Y)にとっては,面接時に,申請人(筆者注:X)が過去にタクシー乗務員として稼働した事実が明らかにされていれば,その点につき調査を遂げ,申請人の能力・成績等を判断し申請人の採否の決定そのものについての重要な資料とすることが可能であったし,採用後の指導・監督についてもその内容がタクシー乗務員の経験の有無により異なった可能性があったといえるが,申請人は,被申請人に提出した履歴書の職歴の記載は,前記のとおりであって,申請人はその職歴のうち採否の決定に重要な影響を及ぼすものについて,あえて記載されなかったのであって,被申請人が履歴書の提出を求めた趣旨は没却されたに等しく,申請人の経歴詐称を軽視することはできない。そして,被申請人が,本件仮処分の審尋手続中にAタクシー株式会社に申請人の稼働状況等を問合わせたところ,得られた回答は前記のとおり,はかばかしいものではなかったのであって,被申請人が面接時に申請人の経歴が判明していれば,その採否はもちろんのこと,仮に採用された場合でもその指導監督についても重要な差異が生じていたものであって,申請人の経歴詐称を理由とする懲戒解雇は相当で,第二次解雇(本件解雇)は有効である。」として,懲戒解雇を有効と判断した。

山口観光事件

大阪地判平成7.6.28労働判例686-71

(事案の概要)

Yは,ホテル・公衆浴場の経営などを目的とする株式会社であり,Xは,平成3年11月から,Yとの間の契約(以下「本件契約」という。)に基づき,Yの経営する店舗(以下「本件店舖」という。)において,マッサージの業務に従事した。
しかし,Yは,平成6年4月11日,XのYに対する地位保全等仮処分事件の答弁書において,Yの平成5年8月31日付け解雇が無効な場合,Xがその採用の際,提出した履歴書に虚偽の事実を記載したことを理由とする懲戒解雇の意思表示を行い,右意思表示は,同日,Xに到達した。

(裁判所の判断)

裁判所は,「原告(筆者注:X)は,被告(筆者注:Y)への入社に際し,被告が採否の判断の前提とする履歴書に虚偽の事実を記載したものであり,企業秩序の根幹をなす,使用者と従業員との間の信頼関係を著しく損なうものである上,被告の就業規則が従業員の定年を六〇歳とし,定年に達した日の月末をもって,雇用関係が終了する旨定めていたのであるから(28条),原告は,定年までの雇用関係の継続予定期間が,約2年9か月しかなかったにもかかわらず,14年9か月もあると偽ったことになり,また,原告の担当業務内容がマッサージの実施であり,相当程度の体力を要するものであること(現に,本件解雇当時,原告は,マッサージ業務により,疲労を蓄積させ,体調がすぐれない状態に陥っていた。)にかんがみると,原告の右経歴詐称の内容は,原被告間の雇用契約の継続期間の見込みを誤らせ,被告の今後の労働者の雇用計画や原告の労働能力に対する評価を誤らせ,被告が,その従業員の労働力を適切に組織することを妨げるなど被告の経営について支障を生じさせるおそれが少なくなく,原告が真実の年齢を申告したとすれば,被告が原告を採用しない可能性が多分にあり,被告の企業秩序を著しく害するものであって,その企業秩序を回復するには,不正な行為により生じた雇用関係を解消する以外の方法によっては困難であることが認められる。したがって,原告の右行為は,就業規則所定の懲戒事由である「重要な経歴をいつわり,その他不正な手段により入社したとき」に該当し,その情状からしても,懲戒解雇事由に当たるものというべきであり,右解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できないということもできないのであるから,解雇権の濫用に当たるものでもない。」と判示して,懲戒解雇を有効と判断した。

正興産業事件

浦和地裁川越支決平成6.11.10労働経済判例速報1594-13
自動車教習所の指導員の採用に当たり,高卒以上の者から採用することとしていた場合,高校退学の学歴を高校卒業と詐称して採用された行為につき,指導員の学歴はその適格性及び資質等を判断する上で重大な要素の1つであり,使用者は当該労働者が高校中退であることが採用時に判明していたら採用しなかったと認められるとして,懲戒解雇を有効とした。また,採用後6年経過後の経歴詐称を理由とする懲戒解雇であっても有効としている。

相銀住宅ローン事件

東京地決昭和60.10.17労働経済判例速報1239-3
大学入学の事実はなく,また警察官としての経歴も警察学校在籍期間を含めて1年5か月しかなかったにもかかわらず,「大学中退・警察官として9年勤務」と学歴・職歴を詐称した場合は,いずれも重要な経歴の詐称として懲戒解雇を有効とした。

近藤化学工業事件

大阪地決平成6.9.16労働経済判例速報1548-33
採用に当たり,学歴不問としている場合には,学歴について真実を告知する義務はないので,学歴詐称があったとしても,懲戒解雇事由には該当しないとした。

マルヤタクシー事件

仙台地判昭和60.9.19労働経済判例速報1249-14
刑の消滅した前科は,その存在が,労働力の評価に重大な影響を及ぼす特段の事情がない限り,告知すべき信義則上の義務はないとした。

硬化クローム工業事件

東京地判昭和60.5.24労働経済判例速報1227-6
採用後2年6か月経過後の経歴詐称を理由とする懲戒解雇であっても有効としている。

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