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解雇回避努力義務と配転・出向・転籍

ご質問

当社は家電品を販売する会社ですが、昨今の景気悪化、他社との価格競争等により業績不振に陥り、不採算部門の撤退をはじめとする経費削減に努め、組織改革も行い、人員整理に着手し、人員を削減する計画を立て、新規雇用の中止、希望退職の募集を決定しました。また,会社は希望退職者の募集に併せ、当社が選定した従業員(余剰人員)に対し、退職勧奨を行っております。余剰人員の一人であるYは、中途採用で営業職につき、支店長などを歴任するなど長年勤務してもらった者ですが、業務実績・給与水準等などから今般の退職勧奨の対象となりました。しかし、Yは、営業職以外の職種も希望する旨申し出るなどして、退職勧奨に応じません。当社としては、現時点で、他支店への異動、関連会社への出向については、検討を行っておりません。整理解雇を実施するに際し、配転・出向・転籍などを検討する必要があるのでしょうか?

回答

整理解雇にあたり,対象労働者について配転や出向・転籍の可能性があれば,これらの措置をとらずになした解雇は権利濫用として無効となる可能性があります。ご相談のケースでは,関連会社への出向の余地があったようですので,解雇回避努力義務を尽くしていないとして,解雇が無効になる可能性が高いと言えます。

解説

1 解雇回避努力義務と配転・出向

(1)整理解雇にあたり,対象労働者について配転や出向・転籍の可能性があれば,これらの措置をとらずになした解雇は権利濫用として無効になります。
ワキタ事件(大阪地判平成12.12.1 労判808.77)では,英文タイピストとして長年,建設機械・船用機械・工作機械及びその他産業機械の製作・修理・賃貸・販売・リース並びに輸出入等を目的とする会社に勤務してきた従業員を「業績不振および業務量の減少」を理由に解雇した事案で,英文タイピストの業務だけではなく,一般補助事務も行ってきており,そのような一般補助事務職への配転が出来たにもかかわらず,そのような配転をせずに解雇されたことについて,解雇回避努力義務を尽くしたとは言えないと判断しています。また,マルマン事件(大阪地判平成12.5.8 労判787.18)では,主として家電品を販売する会社に入社後、営業職に就き、支店長などを歴任するなど長年勤務してきた従業員を,退職勧奨の後に整理解雇した事案で,同従業員が営業職以外の職種もこれを希望する旨会社に申し出ており,関連会社への出向をも含めて検討の余地はあったにもかかわらず,そのような措置をとらずに解雇したことについて,解雇回避努力義務の観点から問題があると判断しました。さらに,印刷会社の電算室に勤務していた従業員を印刷の営業に反転を検討することなく解雇した事案で,「一般的に印刷業務の経験がある者が営業を行うことは可能であり,原告らは異口同音に営業職として活躍できると言明している」事実から見て,営業職への配転を全く検討しなかったことは解雇回避努力を履践したと評価することは困難であるとされています(東洋印刷事件 東京地判平成14.9.30 労経速1819.25)。

(2)しかし,対象労働者について配転や出向・転籍が困難である場合には,そのような配転・出向の措置をとらなくとも解雇回避努力義務が欠けたということにはならないという判断もあります。
「債務者は,ほぼ全部署を対象として希望退職の募集を行っていることや,・・・部門別人員配置計画に照らしても,他部門の余剰人員を受け入れる部署が現実に存した可能性は乏しく,・・・部門への配置について具体的に検討しなかったからといって整理解雇回避の努力に欠けていたものとは認めがたい」と判断され(レブロン事件 静岡地裁浜松支決平成10.5.20 労経速1687.3),また,人間関係上の問題を起こし他部署より当該部署へ配置させたが,当該部署においても上司や同僚との間で人間関係上の問題を生じさせ,その原因が労働者の協調性にあるような場合には,他への配転を行わなかったとしても「他部署へ配転を試みなかったことにも無理からぬ事情があるといえるから,解雇回避努力義務を怠ったとまではいえない」とされています(CFSBセキュリティーズ・ジャパン・リミテッド事件 東京地判平成17.5.26 労判899.61)。

(3)学説も,一般論としては,職種・勤務地を限定せずに雇用される正規従業員に関しては,配転や出向・転籍の回避措置を広く認めるべきであるが,企業規模や労働者の職業能力等から回避措置を企業に期待できないときは,これを画一的に強制すべきではない(ティアール建材・エルゴテック事件 東京地判平成13.7.6 労判814.53)とされています(菅野和夫「労働法」第9版P492)。

2 勤務地・職務内容を限定した労働者の配転可能性

(1)雇用契約上,勤務地あるいは職務内容を限定した労働者について,当該事業場あるいは勤務等が廃止された場合,配転を検討する必要があるのかが問題となります。
この点,このような場合も直ちに配転や出向措置を不要とするものではなく,解雇回避のための努力が求められると解されます(菅野和夫「労働法」第9版P492)。というのも,勤務地限定や職務内容限定の合意は,労働者に意思に反して配転(勤務場所・職務内容)は出来ないことが主な趣旨ですので,労働者が配転を望む場合で,かつ,配転・出向・転籍が可能な場合は,そのような措置を検討しないでなした解雇は解雇回避努力義務に欠けると評価されうるからです。

(2)アメリカン・エキスプレス・インターナショナル事件(那覇地判昭和60.3.20 労経速1244.3),ナショナル・ウエストミンスター銀行(第1次仮処分)事件 東京地決平成10.1.7 労判736.78),シンガポール・デベロップメント銀行(本訴)事件(大阪地判平成12.6.23 労判786.16)廣川書店事件(東京地決平成12.2.29 労判784.50),社会福祉法人仁風会事件(福岡地判平成19.2.28 労判938.27)が参考になります。

3 配転先の業務内容が異なったり,賃金等が低下する場合と配転可能性

配転・出向・転籍により賃金などの処遇が従来より低下したり,職務内容が変更となる場合は,配転可能性があるといえるのでしょうか?このような場合でも,会社は一応配転先・出向先・転籍先における雇用条件を従前と同水準とするよう努力した上で,労働者に提案することは必要であると考えます。なぜなら,労働者にとっては,仮に配置転換・出向・転籍で従前の雇用条件・職種が維持されないとしても,雇用が維持されることを優先してそれを望むことも十分にありうるからです。このような検討を経ずになした整理解雇は解雇回避努力義務に欠けるといえるでしょう。ただし,上記のような措置をとり,従来と雇用条件・職種が異なる(下回る)ために労働者がこれを拒絶した場合は,配転・出向・転籍の可能性は事実上ないと評価され,配転・出向・転籍をなさずに整理解雇した場合でも解雇回避努力義務は尽くされたと評価される可能性があります。
ナショナル・ウエストミンスター銀行(第2次仮処分)事件 東京地決平成11.1.29 労判782.35

4 解雇回避のための配転・出向・転籍拒否者に対する解雇

企業が解雇回避策として関連会社への出向や転籍をさせようとして拒否された場合の整理解雇の正当性も問題となります。
この点,雇用調整の必要性がそれ自体として労働者の出向義務を創設するものではなく,出向義務の存否は,就業規則や労働協約上の根拠規定と出向の諸条件に照らして当該出向が労働契約上受容されたものか否かとして判定されます。このような観点から出向義務が肯定されれば,出向拒否は解雇事由となり,この面から解雇が正当化されるといえます(つまり整理解雇ではなく,業務命令違反を理由とする解雇となります。)。これに対し,出向義務が肯定されない場合は,この者に対する解雇の有効性は整理解雇の諸要件に照らして判断されます。その判断に際しては,出向によって解雇を回避しようと努力しようとしたか否かが考慮されることになります(大阪造船所事件 大阪地決平成元.6.27労判545.15)。転籍についても同様であり,転籍拒否者の解雇の有効性は,他の解雇回避措置の可能性を含めた整理解雇の法理によって判断されます(千代田化工建設事件 東京高判平成5.3.31労判629.19 以上について菅野和夫「労働法」第9版P492参照)。

対応方法

1 まずは弁護士に相談!

人員削減を行うために貴社が採れる手段は,ケースバイケースですが,希望退職者募集,退職勧奨,整理解雇などが挙げられます。もっとも,従業員にとっても生活の糧となる収入が途絶えることになりますので,安易な措置はトラブルを生み,かえって貴社に混乱とコストの負担をかけることにもなりかねません。
まずは,なるべく早くご相談下さい。相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いものです。
弁護士は,あなたのご事情を伺い,具体的対応策をあなたと一緒に検討し,最善の解決策をアドバイスします。
貴社のケースでは解雇は有効になるのか否か,具体的な対策として打つべき手は何か,証拠として押さえておくべきものは何か等をアドバイスします。

2 証拠の収集

法的措置に対応する場合はもちろん,交渉による解決を目指す場合も,証拠の確保が極めて重要になります。貴社にとって有利な証拠を出来るだけ確保して下さい。

3 労働者との交渉

まずは,法的措置に進む前に,労働者と交渉して,貴社の望む結果(問題社員の退職,解雇,低額の解決金の支払い等より有利な条件での退職等)が得られるようにします。 裁判に訴えられる前の交渉の時点で解決できれば,貴社にとっても次のようなメリットがあります。

①早期に解決できることにより,人的負担が回避できる。

法的手続に進んだ場合,労働者に関係する従業員(同僚・上司)はもちろん,経営者にも時間・労力・精神的負担を割くことを要求されます。この負担が日常業務に加わることで,かなりの負担感となります。交渉で解決することによりかかる人的負担が早期に回避できます。

②労働審判・訴訟等の法的手続に進んだ場合より解決金の水準が低い

一般に法的手続に進む場合に比べ,企業が支払う解決金の金額は低いものとなります。

4 裁判対応

労働者との間で交渉による解決が図れない場合は,労働者は自己の権利の実現を求めて裁判を起こす可能性が高いと言えます。具体的には,賃金仮払い仮処分手続,労働審判手続,訴訟手続などがありますが,労働者が事案に応じて手続を選択して,自己の請求の実現を目指すことになります。貴社としては,かかる労働者の法的請求に適切に対応する必要があります。

労働問題.comの対応

1 経験豊富な弁護士に相談

労働問題は適用される法律が難解で事実関係が極めて複雑であり,また,貴社が採るべき対応策はケースバイケースで決めざるを得ません。貴社独自で調査の上でのご対応が,時に誤った方法であることも多分にございます。
そこで,まず,労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士にご相談下さい。ご相談が早ければ早いほどとりうる手段は多いのが実際ですので,トラブルが少しでも生じましたら出来るだけ早期にご相談されることをお勧めいたします。
労働問題.COMでは,常に労働問題を専門的に取り扱う経験豊富な弁護士が直接対応させていただいております(原則的に代表弁護士である吉村が対応させて頂きます。)。裁判のリスクを踏まえながら,法律上の問題点を指摘しつつも,抽象的な法律論に終始することなく,貴社が採るべき具体的な対応策を助言いたします。早期のご相談により紛争を未然に防止することが出来た事例が多数ございます。また、その後の交渉・裁判対応においても有利な対応を取ることが出来ます。

2 継続的なご相談・コンサルティング

労使間のトラブルは一時的なものではなく,長期化することがしばしばあります。ケースバイケースに採るべき対応策や確保すべき証拠も異なりますし,時々刻々と状況が変わっていき,その都度適切な対応をとることが必要です。この対応が間違っていた為に,その後の交渉や法的措置の段階で不利な状況に立たされることもままあります。
労働問題.COMでは,経験豊富な弁護士が,継続的なご相談を受けコンサルティングを行います。初期の段階より貴社にとって有利な対応をアドバイスしていきます。それにより,その後の交渉・法的措置にとって有利な証拠を確保でき,適切な対応をとることで,万全の準備が出来ます。また,継続的に相談が出来ることにより安心して他の日常業務に専念していただくことができます。

3 貴社を代理して労働者(弁護士,労働組合)と交渉いたします。

労働者の対応は様々ですが,貴社へ要求を認めさせるために,様々な働きかけをする事が多いのが実情です。労働者が弁護士や労働組合を介して,会社に対し各種の請求を行い,交渉を求めることはよくあることです。弁護士や労働組合はこの種事案の交渉のプロですので,貴社独自で臨むことで,あらぬ言質や証拠をとられ,本来了承する必要のない要求まで認めさせられることもしばしばです。貴社独自でのご対応は,一般的には困難であることが多いといえます。
そこで,労働問題.COMでは,労使間の交渉対応に精通した弁護士が,貴社に代わって交渉の対応を致します。具体的には,貴社担当者から詳細なヒアリングを実施し,証拠の収集等の準備を行った上で,弁護士が法的根拠に基づいた通知書を出し,適切に交渉することで,貴社にとって有利な結論を,裁判を経ずに勝ち取ることも可能となります。

4 裁判対応

労働者が労働審判,仮処分,訴訟などの裁判を起こしてくる場合が近時急増しています。かかる裁判への対応は法律で訴訟代理権を独占する弁護士のみが対応することができます。 但し,労働問題を適切に対応することができるのは労働問題について豊富な経験実績を有する弁護士に他なりませんが,労働問題は極めて特殊専門領域であるため,経験実績がない又は乏しい弁護士が殆どである実情があります。
労働問題.COMでは,労働事件を専門分野とし,裁判対応の豊富な経験実績を有する弁護士が常時対応させていただいております。貴社に対し,最善の弁護活動をお約束いたします。

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参考裁判例

整理解雇には4要件が必要とする判例

レブロン事件

静岡地裁浜松支部決定平成10年5月20日 労経速1687.3

「整理解雇が有効とされるためには,一般に,①人員削減の必要性,②人員削減の手段として整理解雇を選択する必要性,③整理対象者選定の合理性,④整理手続の妥当性の要件を満たすことが必要と解される」旨判示した。

興和事件

大阪地裁決定平成10年1月5日 労経速1673.3

「整理解雇が有効であるためには,解雇の必要性,解雇回避努力,被解雇者選定の合理性及び被解雇者に対する説明の4要件を充足していることが必要である」旨判示した。

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